秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

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東方新作体験版配布。とりあえず一言。

小傘ちゃんかわいいヤッター


ささぐうた

 

 

 彼岸花。別名曼殊沙華。

 

 花言葉は『悲しい思い出』『転生』『追想』

 

 

 

 『また会う日を楽しみに』

 

 

 

 

 

 

 

 年に何度もない、ご先祖様とのご対面。その肝心な時に私の足腰は限界を迎えていた。

 

 わざわざ墓参りに来たものを拒絶するかのような長い坂道。ぱっと見50m以上はありそうなその急勾配が、寺へ行く唯一絶対の道のりである。長い間歩いてきて棒になった足を地獄に突き落とす悪魔の仕掛けである。

 

 一つ言い訳をさせてもらえるならば、普通ならこんなことにはならないのだ。伊達に秘封倶楽部の一員ではない。サークル活動でそこそこ鍛えられた身体を持ってすれば、片道1時間もしない寺くらい余裕で踏破できるのだ。

 

 そう、このくそ重い荷物さえなければ今頃とっくに墓参りを終えていただろう。彼岸参り一式セットが腕だけでなく足にもダメージを与え始めて数十分。休憩を挟んでも文字通り気休めにしかならず、件の坂道手前で私の気力は見事に砕け散った。

 

 息絶え絶え、早く鼓動を打つ心臓を落ち着かせるように何度目かの深呼吸を行う。俯いたの体制のまま膝に手を当て、息を吐く。母は毎年この苦行を平然とこなしていたのかと思うと尊敬の念を感じずにはいられない。いやそれをかよわい娘にやらせるとかやっぱ悪魔だわあの人。

 

 「れーんこ!ほら、早く登ってきてよー!」

 

 そしてそんな満身創痍の私に発破をかける、もう一人の悪魔がいた。

 

 坂道の上という遥かな高みからこちらを見下ろすメリーさん。空の水桶を持ちながら元気な声で私を励ましてくれる。その態度からは、手伝おうとする気持ちが微塵も読み取れない。ものの数分前、疲労困憊の私の横を軽やかに駆け上がっていった光景はしっかりと目に焼き付いている。客人待遇なんざ知ったこっちゃねえともっと渡しておくべきだったか。

 

 「メリー・・・メリー!出来れば」

 

 「疲れたからむーりー!」

 

 悩んだゆえの懇願は、まぶしい笑顔で却下された。どこをどう見ても疲れている者の表情には見えない。

 

 所詮人間は孤独。この世の理を身をもって実感した瞬間だった。

 後で覚えていろよ、と決意を胸に秘め、パンッ!っと右手で自分の頬を叩いた。その手を籠の取っ手に据える。

 

 私は何でこんなことをしているんだろう。そんな考えを打ち消すように一歩、足を進める。アスファルトで敷き詰められた坂に立ち向かうには足りない体力を、気力で補うように自身に活を入れる。

 

 春と呼ぶには少し暑い天候の中でひたすらに歩を進める。そんな私を応援するように、桜の花が両脇を囲む。

 

 例年より少しだけ早い開花となった、日ノ本を象徴する花。見るだけで心が安らぐそれが、延々と坂の頂上まで続く光景はいつまでも見ていたくなるものだ。

 

 風に吹かれた木が揺れ、花びらが舞う。桜色に染まる景色に目を奪われそうになりながら、少しずつ歩を進める。ふわり、と花片が手に被さるのを見てくすっと笑みが漏れる。

 

 

 こんな場所もあったんだな。

 

 

 時代に取りに残された都市、東京都。周りを見ず、耳を貸さず、愚直に発展を求めた末の成れの果て。そこにはまだ、僅かながら昔の原風景が残っていたようだ。何のことはない、特異な目を持っていながら、十数年過ごした故郷のことすら碌に見えていなかった。これじゃあ秘封倶楽部失格だな、と呆れながら顔を上げる。

 

 今年に入って初めての桜を見て、不意に以前見た幻想が頭をよぎる。結局、あの人には逢えず仕舞だったなとため息が出る。

 

 何気ない日常のことはすぐに忘れても、ずっと忘れられない非日常もある。あの日見た季節外れの桜は、幻想の中に取り込まれて消えてしまったのかもしれない。そう、現実を生きる私たちとは二度と交わらない彼方へと。

 

 半分ほどまで登ったところで、一度後ろを振り返る。遠くに見える整備された住宅街が、私たちが歩いてきた道のりをまざまざと感じさせる。

 

 「れんこー!早くしないと日が暮れちゃうわよー!」

 

 と、人が感傷的な気分に浸っている時にその空気をぶち壊してくる人物もいた。

 

 登りきったら覚えていろ・・・いや、その時は体力がないだろうから帰ったら覚えていろ。

 

 人間、希望や夢より、怒りや悲しみを背負った方が力が湧くものなのだ。暗い炎を燃やし、あと半分ほどの坂道を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 登りきって道なりを進み、墓地に入った私達。そこで、二人の足が止まった。

 

 「何、これ・・・」

 

 疲れて息が疎らな口から自然と漏れたのは、純粋な疑問だった。辺り一面に広がる、紅の花。見るものの視覚に直接的な刺激をもたらすその色が、決して狭くはない墓地を埋め尽くしていた。

 

 黒色に近い土も、春の訪れとともに目覚めた青い若葉も、至る所に転がっているであろう小石も、何もかもが地を覆う朱色に覆われていた。

 

 呆然となった状態から口に出た、困惑の声。それは何もかもが分からないから出たのではない。この花の名前が分かるからこそ漏れたものだった。

 

 

 

 『彼岸花』

 

 くっきりとした鮮やかな赤色の花びらを持ち、葉を持たないという特徴がある。根、茎茎、花弁の全てに毒を持っていることで有名であり、昔の農民、百姓は害虫除けとして好んで彼岸花を田や畑の周辺に植えていたという。

 

 人間には大して効果のない毒でも、ネズミやモグラといった小動物には絶大な効果があり、人から人へ、土地から土地へと渡った花はいつしか、日本各地で見られるようになった。

 

 広まった理由から分かる通り、元々は観賞用の植物ではない。農民が人口の大半を占めていた昔の人々にとって極めて実用的な役割があり、非常時には球根を潰して患部に塗る民間療法としても重宝されていた。

 

 特徴的な名前、見た目からそこそこの知名度がある彼岸花。この花の咲く時期は9月、秋の彼岸頃に咲く。

 

 

 そう、彼岸花は9月に咲く花だ。

 

 

 「メリー、今ってまだ秋だったかしら?」

 

 「秋に桜が咲くと思っているの?」

 私のとんちんかんな質問に、いつもなら呆れ要素を満遍なく含んだ声を返してくるメリーも、心なしか言葉に余裕がない。

 

 そう、彼岸花は言う花は、春風が靡く3月に咲くものではない。少しでも植物、花の整体をかじっているものであれば、当然知識として知っていること。だからこそ、目の前の現実が理解できなかった。

 

 私は夢を見ているのか。知らないうちにタイムスリップしたのかと空を見上げるが、浮かび上がった数字がその淡い考えを否定する。

 

 進化した私の目が読み取った場所と時間は、確かに今この瞬間を示していた。摩訶不思議な状況を肯定する、事象を捉える瞳。

 

 静かに屈み、彼岸花に手を伸ばす。まさかとは思うが、こんな場所でも人を集めようと画策した寺が、トチ狂って広範囲のVRを備え付けたのかと邪推したが、そんなことはなかった。私の手は確かに、彼岸花の感触を受け取った。風に揺れる紅が、静かに揺れる一つの生命が、この花が現実に存在するのだと教えてくれる。

 

 仮にもオカルトサークルを名乗って活動してきたのだ。常識外の物事に遭遇したことは一度や二度ではない。それでも、この異変は何かが違う気がした。

 

 顔を振って正面に向ける。紅色に惑わされて辺りを意識できなかったが、少し遠く、私の祖先の墓がある付近に人が見えた。それ以外の人物は見当たらなかった。

 

 彼岸参りという、人が集う時期にも関わらず、お寺にいるのは私達を除いて件の人が一人だけ。

 

 「・・・メリー」

 

 「・・・うん」

 

 万が一を考えて、しっかり彼女と手を握る。強く、強く、痛いくらいの力で。ただの偶然か、彼の者が原因か。非日常を見据えて、私は一歩、疲れを忘れた足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに来たのはいつ以来だろうか。

 

 青い空の下で、遥か遠い思い出を手繰り寄せる。

 

 彼女は、たった一人で幻想の地に足を踏み入れた。人間としてみても若い、到底大人とは呼べない身体に夢と超能力を詰め込み、幻想郷の住人と邂逅を果たした彼女。

 

 ぶつかりながら、時には命の危険にさらされながらも、彼女はひたすら前に進み続けた。応援していた者、敵対していた者全てを巻き込み、最終的にその全員と心を通わせた。

 

 無鉄砲、周りを見ないという言葉が相応しいだろう。後ろを振り返らず、後悔せず、顔を上げ続けた少女がいた。

 

 私は、外の世界に来ていた。幻の国とよばれた地と比べて、科学の発展を極めた世界。生活水準など比べ物にならない土地の一角、お寺と言われる場所を訪れた。

 

 

 

 ここに来たのはいつ以来だろうか。

 

 もう一度同じことを考え、記憶の波に身を委ねる。

 

 目の前に建ててある『宇佐見家ノ墓』という文字が、私の思考に染み入ってくる。

 

 時が経ち、精神が成熟してからも、年老いてからも、幻想に住む私達との交流を続けてくれた彼女。どんなときでも明るく、挫けなかったあの姿は今でも私の記憶に残っている。

 

 そう、それこそ今は亡き、何者にも囚われなかった巫女や、星を追い続けた魔法使いと共に焼き付いている。

 

 妖怪や、私のような者と違って人間は寿命が短い。その短い命を、彼女たちは輝かせた。力も、精神も、経験も豊富な私達が羨むほどに彼女等は眩しく生き、最後まで周囲を照らし続けながら生を終えた。

 

 「・・・騒がしい時代も、ありましたね」

 

 目を閉じ、誰へとも分からぬ言葉を吐く。全てを受け入れる幻想の地は、一昔前と比べると随分静かとなった。吸血鬼も、亡霊も、蓬莱人も、鬼も、天狗も、あまり目立った動きを見せずに、淡々と日々を過ごしている。

 

 博麗大結界が張られて、初めて訪れたと言っていい長期の安定期。閻魔としては喜ぶべきことなのだが、どこか、心に隙間風が吹いているような感覚がある。

 

 静かに手を合わせ、顔を下げようとして、目を開いた。私以外の足音が、この場に響いた。

 

 聞こえてきた方向に身体を向ける。そこには二人の少女が立っていた。

 

 片方を見て、僅かに目を見張った。その少女はどこか、記憶の中の『彼女』に似ている気がした。

 




キャノンボールに埋没中。

今月下旬に実装される美鈴のため、人間性を捧げてガチャ石をかき集めています。

今冬に配信されるロスワでは初期から美鈴がいるとの事。我、修羅となる。



・・・カナちゃん実装してもいいのよ?

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