秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

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 これにて卯酉東海道編完結です。長かった・・・。

 当初は200話かかると書きましたが、書き進めていく内に展開がどんどん固まっていき、現在は100話~150話ほどで完結見込みとの予測を立てております。それでも長いorz





その目で見たもの

 

 代わり映えしない地獄の関所。そこでの門番、見張り役を務められるのは『ド』が付くくらいの真面目な者か目を覆うほどのサボり魔くらいしかいないだろう。

 

 自分は一体どちらに当てはまるのか。変化のない景色を見ながら私、庭渡久侘歌は考える。

 

 同僚や友人からは、久侘歌ほど真面目な人物はそうそういない、四季様に匹敵するほどの几帳面、なんて言われたこともあるがとんでもない。普段の仕事をそこそこ真面目に行っているだけであり、息抜きする時はとことんぐーたら人間、いや神様に成り果てる。

 

 妖怪の山にある住処は派手に散らかっていて人を呼べるレベルではないし、休日は用事がない場合、その家の中で一日を終えることとなる。掃除をしようにも20分もしない内に他のことをやってるという有様だ。

 

 件の仕事中も、人前では真面目に取り組んでいるのだが、他人の目がない時は要領よくサボっている。現に今も関所の監視を行いつつ、人間の食料として定着してしまったニワトリの地位向上について、脳内で真剣な議論を繰り広げている。

 

 こんな存在が是非曲直庁でも、上から数えて何番目というしっかり者の部類に入るというのだから、この職場の人選が若干心配になる。サボり魔の代名詞を持つ赤髪の死神は極端な例であるが、他の者も仕事に障害をもたらすレベルでの怠けは避けてほしい。割と切実に。いやボーナスに関係するから。連帯責任なっちゃうから。

 

 この世の地獄、生き地獄なんて言葉もあるが、生者の住む世界とは一線を画す極悪下劣な環境であるからこそ、それを取り締まる者は無法者であってはならない。地獄といえど一つの大きな組織。成り立つ上では秩序が必要である。一人一人の小さな綻びがいつか、大きな裂け目となるかもしれない。

 

 一つ、大きく欠伸をする。相も変わらず殺風景な場所だ。関所以外の建物などなく、どこまでも続く色素のない地面。その所々に赤く花咲く彼岸花が点在しているだけの場所。妖怪の山のような豊かな景観も、人里のような娯楽もない。

 

 顔を上に向けてみるが、退屈しのぎには繋がらない。鳥一匹飛んでない空を見て何が楽しいのか。灰一色の上空に比べれば、二色のコントラストが在る地上がまだマシかもしれない。そんな思いで再び地上に目を戻す。

 

 「・・・退屈だなー」

 

 目を細めて、そんな言葉を漏らしてしまう。

 

 現在の仕事が、ではない。内心ちょっとだけ思ってたりもするが、今考えているのは違うことである。

 

 彼岸の向こう側、幻想郷。かつては毎年のように起こっていた異変が無くなり、穏やかな日々が流れている土地。今では異変を知らないまま成人となった人間がいるまでになったと聞いている。

 

 昔の方が良かった、とは言わない。自身も巻き込まれた鬼形獣異変の事はしっかりと脳に染み付いている。勁牙組が人間界に押し寄せようとしてきた時は死を覚悟で防衛戦を行ったし、実際に全治1年ほどの重症も負った。止めに来たはずの巫女からついでとばかりに攻撃を受けた時は割と真面目に殺意を覚えた。

 

 あの頃に戻りたいか、と言われれば首を横に振るだろう。平和になった今を何故拒む必要があろうか。

 

 それでも心では、無意識の内にあの時の情景を思い描いている。

 

 

 何もかもが輝いていた、あの時代を。

 

 

 「・・・とはいっても、この場所以上にありがたい土地はないんですけどね~」

 

 長時間に渡る、一人での監視。続けている内に癖になってしまった独り言を紡いでいく。

 

 『外の世界』の情報は、断続的ながら私の耳にも入ってきている。発展に次ぐ発展、カガクという分野が成熟しきった世の中。そこに曖昧な概念が入る余地は無く、人間本位の世界となっているという。

 

 恐怖から生まれた一部の妖怪、信仰を糧とする神様には非常に生きにくい世の中だ。最近、外から幻想郷に流れ着いてくる神が多いのはそれが原因かもしれない。とてもではないが、行きたいとは思えない。

 

 非科学的な事象が当たり前の場所。だからこそ私のようなあまり有名ではない神様でも不自由なく暮らすことが出来る。

 

 人間も、妖怪も、神様も、幽霊も受け入れる最果ての土地、幻想郷。恐らく私はこの先もここで過ごすのだろう。何百万年後、何千万年後、それ以上かは分からないが、生涯を終えるその日まで。

 

 

 

 

 

 (それにしても・・・)

 

 遥か未来まで飛んでいた思考を引き寄せる。

 

 幻想郷について考え始めると必ず頭に浮かぶ人物がいる。

 

 

 八雲紫

 

 

 幻想郷を創生した中心人物であり、今も賢者としてこの土地を守り続けている妖怪。

 

 「八雲さんは、何で幻想郷を作り上げたんだろう・・・?」

 

 その問は、長年思っているもの。自分みたいな一介の存在が八雲さんと関わりを持てるはずもないため、ずっと懐で温めていた疑問が再び浮かび上がる。

 

 幻想郷の役割は、言ってしまえば力を失った妖怪、神の保護だと思っている。実際、外の世界で生きていくことは困難だ。

 

 しかし、それは今の話である。元々は、人里離れた辺境の地。そこに一枚目の結界を張った時代は、まだまだ妖怪の力が健在だったはずなのに。

 

 安息の地を与えてもらっている立場で相手の心理を追求するというのも失礼な話だが、気になってしまった以上は仕方ない。

 

 うーん、と頭を捻って考えてみるも、この鳥頭では天才的な推理など出来るはずもなく。結局はいつもと同じ、袋小路に迷い込んでしまう。 

 

 違う目的があったのか?隠された事実があるのか?

 

 「分かんないなー・・・・・・ん?」

 

 首をひねらせ考えていると、視界に変化が起こった。

 

 遥か彼方、地平線から小さな点が徐々に近づいてくる。地獄の関所に向かって飛んで近づいてこれるものは、規約上数えられるくらいしかいない。

 

 思考を止め、姿勢を正して到来を待つ。小さかった点は大きくなり、人の形へと見方を変える。

 

 やがて色を識別出来るようになり、そこでやって来た人物を認識した。 

 

 「四季映姫様!」

 

 いつもと変わらぬ仕事服を着た私の上司。少しの期間、休暇をとって外の世界に行ってたが、今日から復帰するようだ。

 

 私に気づいたのか、十分に近づいてから高度を下げ、すぐ近くに降り立った。

 

 閻魔を表す冠に、罪状を書き込む悔悟の棒。その道具以上に、彼女という存在感が閻魔という立場を表している。

 

 一糸の綻びもない表情を見て、直立不動の姿勢に更に力がこもるのを感じた。

 

 「お久しぶりです、庭渡。長い間空けてしまい申し訳ありません。本日からまた職務を執り行いますが、私のいない間に何か変化はありましたか?」

 

 「お久しぶりです。私の職場に関しましては、トラブルは一つも発生しておりません」

 

 四季映姫様からの質問に、淡々と返答をする。実際、悪意を持つものでもよほどの力がなければ関所までたどり着けないので、ここが一大事となる事はまずない。一つ前の有事が件の鬼形獣異変だから、実に100年ほどは目立ったトラブルは起きてない計算となる。

 

 人の一生分の期間。ふと、先に旅立った人間達・・・巫女や魔法使いのことが頭に浮かぶ。

 

 と、いけない。今は四季映姫様と対面しているんだと他の思考を打ち切る。会話中に他のことに気を取られていたら、手に持っておられる棒が火を吹く結果となる。

 

 「確かにこの場所でのトラブルは滅多なことでは起きないでしょう。しかし裏を返せば、もし起こった場合は非常に深刻な可能性が高いです。大変かとは思いますが、異変を感じたらすぐに知らせてください」

 

 「かしこまりました」

 

 姿勢を変えぬまま、目を見て返事をする。その答えに満足したのか一つ頷いた四季様が、ではこれで、との言葉を残して再び舞い上がった。 

 

 その行動を見て、おや?っと感じた。いつもなら四季様との会話が10分以上は続くというのに、今回は会って1分もしない内に切り上げられたのだ。最低限の事務連絡をしただけであっという間に飛び上がってしまった。

 

 長い対話を覚悟していただけに、少し拍子抜けしてしまった。こちらに近づいてきたときと同じように、ものすごい速さで遠ざかっていく。何度か瞬きする内に人形が点となり、その点が徐々に小さくなっていく。妖怪の山の河童が言っていた、『ぎゃくさいせい』みたいだと思った。

 

 再び戻ってきた、静寂の時。音もなければ風もない。退屈さを凝縮したような世界が戻ってきた。

 

 もう少し四季様と話かったな、という感情は出てくるのは今だから言える感想だろう。長々と話が続いていたら、早く終わらないかな~と考えてたはずだ。

 

 それに、いつもと違いすぐに行ってしまった事を鑑みるに、急ぎの用事があったと見るべきか。休暇明け初日ということもあり、いつもより早めに職場に到着したかったのかも知れない。真面目な四季様であれば十分に有り得る話だ。 

 

 対面する緊張が抜けたせいだろうか、はぁ~、とため息が出た。この先、交代相手が来るまでの勤務時間をどうやって過ごそうか。遥か彼方の地平線を見ながら私の思考は、一時中断していた幻想郷の考察に戻るのだった。

 

 

 

 地獄の夕暮れは、まだまだ先だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・なるべく早く会う必要がありそうですね」

 

 浄瑠璃の鏡を見つめながら、私は呟いた。

 

 手鏡の形をした、閻魔のみが持つことを許される道具。その鏡面には、私の姿ではなく二人の人物が映し出されていた。

 

 電車、と呼ばれるものに乗っている少女たち。先日、外の世界で偶然巡り合った彼女らの現状を見るに、彼岸参りは終わって帰省先から大学という場所に戻る途中のようだ。

 

 楽しそうに会話を交わす和やかな光景。音までは聞こえてこないが、双方の笑顔を見るに、明るく弾んだ内容であることが伝わってくる。

 

 そんな二人を、じっと見つめる。

 

 見つめて見つめて・・・・・・手鏡を握る手にギュッと力が籠もった。

 

 (やはり、見間違いではなかった)

 

 力が籠もった目元を抑え、瞳を閉じる。

 

 待つこと数十秒。凝視によって固まった目周辺の筋肉をほぐすように指で軽く揉む。その後目をこすって手鏡を再度見るも、結果は変わらなかった。 

 

 

 『四季映姫・ヤマザナドゥ』

 

 

 名は体を表すという言葉がある。私ほど、この格言が当てはまる人物もそうそういないだろう。

 

 ヤマザナドゥは私の役職名だ。幻想郷の閻魔を示す言葉であり、私の役職名である。地獄の中心に近ければ近いほど力を増す身体となったのは、この名を頂戴した時からだ。

 

 

 なら、四季映姫は?

 

 

 瞳から手を離す。外の世界に存在する、海と同じ色をした目。この目に映るものは、景色だけではない。

 

 四季を映す姫。私の瞳は見た相手の四季、つまり『過去と未来』を朧気ながら見ることが出来る。 

 

 自分が姫など、おこがましいにも程があると感じる。それでもこの能力は生まれつき宿っている、私だけの力であることに変わりはない。

 

 過去を見るなら、今手に持っている浄瑠璃の鏡を使用すれば遥かに高い精度で観測することが出来るので、閻魔になって以来使用していない。

 

 しかし、未来を見る力は頻繁に使用している。先に述べたように非常に朧気では在るが、悪しき方向に進んでいこうと者をするものを咎め、説教によって留めることが出来るのもこの目のおかげだ。

 

 話を戻そう。今も鏡の中で笑い合っている二人の少女。外の世界で会った時は、菫子の墓参りが目的だったこともあって閻魔としての立場をとっていなかった。二人と会話をしているときも、自然体で接していたため彼女らの四季を捉えていなかった。 

 

 会話が終わり、八雲紫への連絡を約束した後の帰り際。手を振ってもらった彼女らに合わせるよう振り返し、そこで初めて、何の気なしに力を使用して彼女らを見つめた。

 

 

 目を疑った。

 

 

 その後は急いで地獄へ戻ってきた。力が増す地獄内で、もう一度二人の未来を見るために。霞がかった先に見えた、その結末が嘘であってほしいと祈りを込めて。

 

 

 結果は変わらなかった。

 

 

 鮮明になったその未来は、最初に記した光景をよりはっきりと映しているだけだった。

 

 鏡を持つ手に力がこもる。こんな・・・こんな結末があっていいのか。

 

 違う管轄の赤の他人だと切り捨てられればどんなに楽か。だが、そんなこと出来るはずがない。知ってしまった以上、見て見ぬ振りをするなんてことをした日には、私が私を許せなくなる。

 

 強く手鏡を握りしめていた手を緩める。手鏡を左手に渡して、力を込めていた拳を開くと、汗が僅かに滲んでいた。

 

 「会わなければいけません・・・八雲紫に」

 

 頭に浮かぶは、幻想郷の賢者の姿。二人との会話から八雲紫の存在が出てきた以上、詳しく話を聞く必要がある。

 

 もしかすれば彼女も、少女たちの行く先について何か知っているのか?

 

 特に気になるのは金髪の少女、マエリベリー・ハーンさんだ。その目に宿す異能が、八雲紫と似通っていることが無関係だとは考えにくい。

 

 妖怪の賢者は、自分より先に彼女らと接触を果たしていた。もし何か考えがあった場合、私が迂闊に行動すると事態をややこしくする可能性がある。

 

 まずは八雲紫と接触して、話を通す必要がある。

 

 (・・・仕事が終わりましたら、訪れましょう)

 

 考えをまとめ、力を抜いた。外の世界を映し出していた鏡面が徐々に薄れていき、数秒後には本来の鏡としての機能を取り戻した。

 

 仏教面といえる私の顔を見つめ、鏡を上着のポケットに戻した。

 

 顔を上げる。今の私は四季映姫・ヤマザナドゥ。楽園の名を司る、幻の国の閻魔だ。個人の感情を胸に留め、自分の受け持つ仕事を全うする。

 

 悔悟の棒をしっかりと握り、私は再び空を駆った。

 

   





こちらの小説でもモデルにしました、囲碁AIと5番勝負を行った韓国のプロ棋士が11月下旬、引退を表明されました。
 
 「AIに追いつけないと悟ったから」
 
 という理由とのことです。
 
 昨今、彼の国とは厳しい政治情勢であり、私自身良い感情を持っておりませんが、それを加味しても本当に尊敬できる棋士でした。偉大な棋士に、深い敬意を示します。
 


 PS.ポケモンネット対戦勝てなすぎワロタ



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