秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

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大空魔術編も何とかまとまりそうです。
鳥船移籍編のストーリーも思い浮かんだので、このまま書き進めていきたい所。


二人でなら

 

 日常と非日常の境目は、あってないようなものだ。

 

 何気ないくしゃみ一つで、パチンと鳴らした指が原因で、何もかもが変わってしまうことだってある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「メリーはさ、決定論って信じる?」

 

 バスに揺られながら交わす取り留めのない会話。夕日は既に地平線の先に隠れ、朱に染まった空からは徐々にその色彩が失われていく。日が沈んでからでも天照の加護は私達に届くのだろうか?影法師が風景と同化していく過程を見ながら、メリーに尋ねる。

 

 家庭のある家は丁度夕食の時間帯。こんな時に出かけようとする人はそう多くなく、現状バスに乗る乗客は私達二人しかいない。停留所にも止まらないバスは、ただ一直線に終点に向かって轍を刻んでいく。

 

 一口サイズのチョコを摘みながら20分ほど経っただろうか。どんどんと街から離れていき、次第に大規模な食物栽培ハウスが見えてくる。土、気候、季節に左右されずに作物を大量に作れることで一斉を風靡したシステムは、合成食品の登場によって活躍の場を大幅に縮小することとなった。

 

 天然物より味で劣り、合成食品には値段の面で劣るという中途半端な立ち位置となってしまったが、それでも買う人は買っている辺り愛好家は多いのだろう。

 

 まあ私としては、活動に資金を回したいのでお腹に収めるものはもっぱら合成食品だが。今食べているお菓子だって、合成食品かそうでないかで倍以上の開きがある。それ以前に、手に入れるのすら一苦労だ。コンビニでは合成食品しか置いておらず、専門店で無ければそうそう見つけられない。

 

 値段と手間を考えた場合、活動中はまだしもありふれた日常においては手軽な方に手を伸ばしたくなる。成分的な意味でも太りにくいし。

 

 偽物が本物を駆逐する世。利便性の前では、真偽など些細な問題なのかもしれない。

 

 「決定論?何、蓮子。クオリアは諦めてラプラスの悪魔を題材にする気かしら?」

 「いや、まあ・・・・・・」

 

 一定のペースでチョコを口に放り込みながら返ってきたメリーの返答に、少し言葉に詰まる。

 

 先週に私からのお願いでレポートに協力してもらったのに、メリーから受け取った提案を蹴ってしまった罪悪感がある。いやしょうがないではないか。軽い気持ちで取り組める題材ではない。

 

 メリーも本気で言っている訳ではなく、どこ吹く風といった表情でチョコを味わっている。私との会話よりお菓子へ向けている意識の割合が大きいのではないかと思うほどに、一口一口おいしそうに食べていた。私も一緒に摘んでいるのだが、あちらの消費速度の方が遥かに早い。

 

 夕食を食べていないとはいえ、よくお腹に入るものだと感心を抱きながらも会話を続ける。

 

 「結局レポートは超ひも理論で進めてるわ。専攻分野を生かしたほうが無難にまとまりそうだからね」

 

 「それが良いと思うわ。下手に畑違いの分野に挑戦して、間に合いませんでしたでは笑えないからね。・・・・・・それより」

 

 咀嚼を終え、お茶を飲んで一息ついたメリーがこちらを向いた。じっと見つめてくる視線に、早い段階で目を逸らしてしまう。

 

 ・・・・・・言葉が来ない。いつもならこちらを向いた彼女はすぐに何かを話すはずなのに。

 

 沈黙が落ちる。10秒か、20秒か。ただただ、バスのエンジン音だけが支配する状況に耐えきれなくなり、ちらっとメリーに目を向ける。

 

 変わらぬ表情の彼女とバッチリ目があった。バツが悪くなって再び目を逸らしたが、どこに向ければ良いか悩んでしまい、飛んでいるハエを追うように宙をフラフラと舞った。

 

 (さり気なく聞いたつもりだったのに・・・・・・)

 

 メリーがこんな行動に出ることは記憶にない。そんなに私の質問や動作がおかしかったのか、焦る本心を押し留めながら自分から言葉をかけるべきか、待つべきか迷う。

 

 ああ、もう。私らしくない。

 

 こちらの心の揺らぎを感じ取ったのかは分からないが、メリーの表情に変化が生まれた。じっと見つめている目を伏せ、ため息をついたのだ。はぁ~、とこちらにはっきりと聞こえるくらいの大きさで。

 

 そして再度重なる視線。彼女の表情は先程と違い、若干呆れたような色が見て取れた。

 

 「決定論を信じるならビックバンの時点で私達の未来も決定されてしまったのかしらね。神様だってサイコロ遊びくらいはしたいんじゃないかしら?」

 

 「それは・・・・・・」

 

 「今夜、天体観測に誘ってくれたのも心の迷いが原因?」

 

 ニコッと笑うメリーの言葉にドキッとし、足元においていたケースに意識を向ける。

 

 「蓮子とはよく会うし出来れば毎日会いたいしサークル活動も頻繁にしてるけど、お互いの趣味に関しては基本ノータッチでしょ。例外は囲碁くらいで、一緒に映画を観る機会は無かったし・・・。そんな中で押し気味に誘われたのだもの。蓮子と会う前から『あ、何かあったわね』って何となく察していたわ」

 あっけらかんと口にするメリー相手に返せる言葉が見当たらず、スカートをギュッと握り下を向く。

 

 現状への不満、不透明な将来への不安。何が正解なのか、間違っているのか。何の道を歩いていけば良いのか。分からないことだらけのまま終わった天体観測は、私の心を癒やすに至らなかった。

 

 大学にいる時は講義に没頭すれば良かった。友人と駄弁っていればよかった。メリーと一緒にいればよかった。余計なことを考えずに済むから。

 

 しかし、家に帰れば一人だけの時間となる。一人暮らし相応の間取りを持つ学生向け賃貸アパート。自由になった思考は、考えまいとしている心の闇を捉えて引っ張り上げようとする。無視しようとしても、隠しておこうとしても無理矢理顕在意識の領域までせり上がってくる。

 

 振り払えればどんなに楽か。目を逸らせればどんなに楽か。

 

 一度火がついたこのくすぶりは、容易なことでは消えない。自身の不安を火種にして長い期間燃え続けるこの炎は、未だに弱まる気配を見せない。水では消せない精神の燃焼に気を取られるあまり、メリー相手に普段どおりの接し方が出来なかった。勘のいい彼女が気づかない道理はない。

 

 

 「いつものあなたはどこに行ったのかしら・・・なんて軽口は言えないわね、その顔を見れば。・・・・・・そうね」

 

 少し思案顔になるメリー。それもつかの間、笑顔になった彼女ははにかみながら口を開いた。

 

 

 「まずは一緒に天体観測を楽しみましょう、蓮子」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「へえ、こんな場所があったのね」

 

 つまんでいたお菓子が無くなったタイミングで丁度良く目的地に着き、ケースを抱えてバスから降りる。

 

 私にとっては見慣れた光景もメリーには未知の景色だったらしく、興味深げにあたりを見渡していた。確かにこの辺りは学生にとって、意識しなければ通ることすらない区域だ。

 

 一年掛けて京都を中心に様々な場所を冒険したが、それでもまだまだ知らない場所がある。むしろ仮に一生を掛けたとしても宇宙はおろか地球の、もっと言えば日本の大半を知らないまま生を終えるだろう。

 

 訪れるだけなら可能かもしれない。しかし、その土地での生活、風土、伝記を深い部分まで理解するには3~4日の旅行では到底無理だ。定住して、長い年月を掛けて肌に染み込ませる必要がある。

 

 科学がすべてを解明した?人の知がどんなに進もうと、私の周りには分からないことだらけだ。

 

 この世の中は、未知のものだらけだ。

 

 (・・・そうだ、だから私は)

 

 空を見上げる。そこには満天の星が広がっていた。無数の輝き、その一つたりともこの手には届かない。だからこそ、追い求めたい。

 

 特別な能力を活かせるから未知を追い求めた。確かにその一面もある。だがそれ以上に、未知そのものへの探究心があったから私はここまで来たのではないか。

 

 不安を消すためではない。もっと純粋な、もっとわがままな理由のために、私は秘封倶楽部を名乗っていたはずだ。そんなことすら、一人のときは忘れていたみたいだ。

 

 息をつく。別段、何かが解決したわけではない。メリーと一緒にいるから、という理由かもしれない。それでも今、私の中にくすぶっていた不安はひとまず鳴りを潜めた。

 

 ケースを握る手に力がこもる。突然の誘いに応じてくれたメリーのため、今は精一杯彼女を楽しませよう。

 

 明日の夜まで晴れ模様。天体観測にはうってつけの日だ。

 

 「蓮子、夏にはどのような星座が見えるのかしら?」

 

 「ああ、それわね・・・」

 

 キャンプ場の芝生を踏みしめながら、二人で星空に思いを馳せる。見慣れたはずのその光が、いつもと違った輝きに見えた。

 




東方ロスワ全裸待機
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