秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

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物語の前日譚回です。1話に収めるつもりだったのに、無事2話構成となりましたorz




A Secret Adventure(上)

 

 

真夜中二時を過ぎ 誰もが眠りにつく宵に 二人は連れ立って 今町を抜け出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 11月初頭。赤、黄色に色を変えた舞い散る木の葉が、もうすぐ訪れる季節の変わり目を感じさせる。夏なら一日中薄手の半袖で事足りた気象も、今同じことをすれば『風邪引きたいの?』と聞きたくなる程度には寒風吹きすさぶ時期となった。ましてや、今のような時間帯であれば尚更である。

 ふぅ、と吐いた息が微かに白く曇った気がした。天高くから見下ろす月明かりの光がありがたく思える程度には人工的な光源がない場所を歩いていく。遷都してからさらに発展を遂げた京都の中では珍しい場所といえる。

 

 科学世紀という『答えがない事柄がない』時代。良く言えば便利で、発展した世の中。逆を言うなら、夢の無い世界。一見完成された世の中において不完全を求める私たちは正常なのか、異端なのか。

 

 そこまで考えて首を振る。

 

 異端だっていいじゃないか。おかしくたっていいじゃないか。

 自分たち、秘封倶楽部以外にも世界の不思議を求めるオカルトサークルじみたものはそれこそ数え切れないほどある。私たちが活動する前から怪奇を、神秘を求めてきた人がたくさんいた。

 

 男性も、女性もいた。私より若い少女も、私より遥かに年配の好々爺もいた。

 

 何より、この気持ちには嘘をつけない。活動という冒険を通じて芽生えた感情。未知を追求する際に感じる想い。苦しいほどに胸を締め付けられる興奮・・・・・・。しがらみが多くなってきた大学生活だからこそ、より一層追い求めたくなる非日常。

 

 遠慮も、躊躇いもいらない。今この瞬間だけは自由に生きれる。だから思ったままの行動を取ろう。思ったままの言葉を口にしよう。

 

 真夜中2時過ぎ、私は確かな足取りと共に顔を上げたまま・・・・・・目の前の黒髪の少女に目を向けた。

 

 「ああああああ!何でこんなに寒いのよおおおお!」

 

 「風邪引きたいの蓮子?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切欠は些細なものだった。いつも通り部室(蓮子の部屋とも言う)で次の活動打ち合わせのため、二人で過去の資料を調査していた時のことだった。

 

 「メリー」

 

 パソコンの画面を見ながらぼんやりとしていた時、不意に蓮子が尋ねてきた。見ると、彼女は私には視線を向けず、手に持った二枚の写真をじっと見つめていた。

 

 身を乗り出し、写真を覗き込む。それは何というか、不気味な写真だった。

 

 1枚目の写真は、古ぼけた寺院が写っていた。一目で夜に撮影されたものだと分かる、見切れ気味に写る月。場所が場所だけに、得体の知れない雰囲気が伝わってくる。

 

 もう1枚は一見するとただの草原の写真だが、明らかにおかしな部分があった。長い草が生い茂る中にぽつんと一つだけ墓石が立っているのだ。おまけに、墓石の周りに奇妙なもやがかかっている。このもやは・・・・・・

 

 「メリー、このもやに見覚えない?」

 

 楽しそうな、わくわくとした声に思考を遮られた。再び彼女に目を向けると、今度はしっかりと目があった。先ほどの声にも増して期待するような、興奮した表情。好きなケーキを食べる時より何倍も輝いている顔を見て、思わず微笑んでしまった。

  

 「当たりよ、蓮子」

 

 「よしっ!!!メリー、休日空けておいてね!久しぶりの冒険よ!」

 

 

 思い立ったが吉日、とばかりに蓮子が計画を即効で組み立てたのが3日前。行き先が府内だったということもあり、準備が完了したのも3日前。冒険を今か今かと待ちわびすぎ、講義中も舞い上がっていた彼女の頭に教授の拳骨が落ちたのが2日前。昨日なんかは既に心が一足早く冒険に旅立っていたようで、どんな言葉をかけても「そうねー」「うんうん」という言葉しか返ってこなかった。

 試しに「蓮子、私のこと愛している?」とそれなりに大きな声で聞いてみた。そんな質問にも彼女は「そうねー」と返答してくれた。大学のキャンパス内で。結構周りに人がいる状況で。

 数瞬固まった空気の間を抜けるように私と蓮子は通り過ぎていった。大学卒業までには仕留めることができそうだ。何がとは言わないが。

 

 

 

 さて、普段からちょっとおかしな言動や行動が目立つ蓮子(そこがまた愛おしいのだが)がいつにも増して奇行に走っているのは、件の写真が原因である。

 

 草原の中に佇む墓石とそれを覆う奇妙なもや。一見すると心霊写真の類なのではないかと判断する人が多いのだが、これは心霊現象でもなければ、人の手が加えられたものでもない。この写真は、ありのままの世界を映し出している。

 

 『結界』

 

 世界の至る所にあるとされる、謎の障壁。この世とあの世との境目とも、パラレルワールドへの入り口とも言われている。人類がいつその存在を認識したのかは詳しく記録されていないが、だいたい100年前程から一般人も結界についての知識を持つようになったといわれる。

 まあ知識といっても普通の人は、何か世界を覆っているものくらいにしか思っていない。昔、政府が『結界に干渉を与える行為全般を禁止する』と大々的に報道したことで当初は話題となったが、時間の経過と共に人々の関心も薄れていった。

 

 理由は様々なれど一番大きな原因は、人の目で見る事ができないためだ。「自分の目で見たものしか信用できない」という頑固な人間は結構いるが、実際結界は人間の目には映らない。単純に人の可視領域外にあるのか、はたまた他の要因があるのか・・・・・・真偽の程はともかく、自分で確認の仕様が無いものに関心を持ち続けられるほど人は根気強くない。

 とはいえ、非科学的ともいえる結界を追い求めるオカルトサークルは多い。その人たちがどうやって結界の場所を知るのか?そこで登場するのが映像記録や写真である。レンズ越しに撮られた景色。そこに、ごくごく稀にではあるが結界のもやが映し出されることがあるのだ。

 現状、結界を見つける方法はそれしかないということもあり、オカルト界隈では件の写真がそれなりの値段で取引されているとのことである。写真加工が容易になったご時世、悪意を持った人間がお金儲けの手段として贋作を売却しているとも聞くが、それに関しては個人で対処していくしかない。

 

 当の蓮子も裏ルートで結界に関する写真を数枚購入しているが、今の所は偽物を掴まされたことはない。オカルト関連では謎の運の良さを発揮する蓮子ではあるが、先ほども言ったとおりこの手の写真は1枚購入するだけでも大学生の懐に響いてくるため、事前に相談してから買ってほしいものだ。

 やはり将来は私が彼女の手綱をしっかり握らなければいけない、などと思いつつも今は今夜の冒険のため、最終チェックをする必要がある。

 スマホと携帯バッテリー、お金と万が一の時のために数点の防犯グッズを確認する。なんせ今回は深夜が活動時間となる。幸いなことに今まで防犯グッズを使う機会は無かったが、用心に越したことは無い。

 

 そして行き先の資料。数日前蓮子から渡された紙には、オブラートに包んだ表現をするなら年季が入った寺院が写真つきで掲載されていた。

 

 「上品蓮台寺。宗派は真言宗系統。かの聖徳太子が母の菩提寺として建立したお寺。応仁の乱が起こったことで焼失したけれど、戦国時代末期に豊臣秀吉の計らいで再建されたみたいね。」

 

 声に出して資料の内容を反芻する。場所は京都府内にあり、住んでいる場所からあまり離れていない。行こうと思えばいつでもいけた所だ。それにも関わらず私たちの活動場所になったことは今まで無かったし、オカルト仲間との雑談で話題に上がったこともない。そもそも、この寺の存在自体、今まで知らなかったくらいだ。

 

 

 完全にまっさら、穴場どころのレベルではなく、まだ誰もこの場所に秘密があることを知らない。

 

 

 そう考えるだけで、歓喜が胸の奥からこみ上げてくる。私たち二人が、秘封倶楽部が誰よりも先に、世界に隠された秘密を暴く。こんなに心躍ることがあるだろうか。

 無意識に胸を押さえ、苦笑した。自分も蓮子のことを言えた口ではないが仕方がない。彼女ほどではないが、私も同類だ。まだ見ぬ神秘を考えるだけで、こんなにときめいてしまうのだから。

 

 「何にせよ、行けば分かるわ。結界の先にどんな秘密があるのか・・・・・・ね」

 

 待ってなさい、という言葉を飲み込み、静かに資料をめくった。




サブタイと出だしは、某音楽サークルの秘封vocal曲より。
秘封音楽サークルといえば、サブタイのサークル、猫爪のサークル、輪を手に入れたサークルの3本柱だと勝手に想像している今日この頃です。

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