まずはじめに投稿期間が空いてしまい、本当に申し訳ございませんでした。
リアルが一段落ついたので、投稿を再開します。
第一部最終章(予定)『鳥船遺跡』編スタートです。
『現実とはただのまやかしだ。とてもしつこいがね』
------アルバート・アインシュタイン
「・・・・・・これが、私達が考える結界の役割です。結界は現実と幻想、夢と現を隔てているのではないか?この考察をもって、発表を終わります。」
10分程度の発表を締め、私は静かに礼をした。まばらに聞こえる拍手を聞きながら、ほっと一息をつく。短い時間とはいえ、話しっぱなしというのは思っている以上に疲れるものだ。体力はそこまででもないが、精神面が。
そばに置いてあったグレープフルーツジュースを一口含む。苦さを強調した独特の味をしっかりと味わいながら飲み込み、喉を潤す。
「宇佐見さんは結界に関して表裏を分けるような表現を使っていたけど、これって隔てられた2つの世界には関連性があるってことなのか?俺は結界に関して、現実世界と異世界を分けるようなものだと思っていたけど・・・」
「そうですね・・・・・・。細かいところになるけど、明確に違う考えを持っています。結界の先は異世界、という考察は両者の繋がりが全く無い別の事象だと捉えています。そうではなく、2つの世界は何かしらの関係があるのでは、と」
例えばパラレルワールドのような、と説明しながらどこか冷めた目で自分を見る。
数ヶ月に一度のオカルト関連の集会。わざわざ県外から足を運ぶ人も存在する、中々深い所まで神秘に取り憑かれた者ばかりだ。
自身の体験談や考察を持ち込み和気藹々と、たまには真剣な議論や発表会を行うオフ会のようなものである。場所はいつも決まって、日本の中心地である京都。遠い所では本州以外から訪れる人もいる。
形態を変えながらも昔から受け継がれてきたオカルトへの興味、関心。妖怪から、幽霊から、結界へ。人の探究心とともに合ったそれらは、今の時代も決して消え去ることがない。
まあ、人数は決して多くないけれど。実際に会う所までは中々行かないのが現状である。議論をするだけならネットで事足りるし、そちらの方がお金もかからない。社会人だけでなく私みたいな大学生、それよりも年若い学生となると、移動費、宿泊費を捻出するだけでも一苦労だ。
一番若い人がいる地区に集まろうという提案も出したのだけれど、等の学生ら本人が京都に強い憧れを持っており、過去全てのオフ会はこの地で行われている。
各自の都合もあり、メンバーが全員揃ったことは一度もないが、それでも熱気が減ることはない。本日も高校生から定年間近の老人まで、10数人が集まった。
発表を終えた私に質問をしてきたのは、同年代の青年と年上の女性だった。青年は結界の考察に関して、女性は幻想世界の捉え方についてだ。
今まで何度か二人の発表も聞いたことがある。どちらも、私と同じ考えに至る部分もあれば正反対の解釈をしている部分もあった。
二人だけではない。皆が違う考え、解釈を持っている。同じものを見ていても、それをどう見るか、どう感じるかは十人十色。ましてや私達は違う人間だ。違う場所、違う年代で生まれ、違う景色を見て育ってきた。
そんな人達が、好きなテーマについて本気で考察して議論をする。本気で追い求めた事象を、自らの経験に照らし合わせて自分なりの『答え』を出す。
何ヶ月も、何年もかけて育て上げたその答えは、どれもが宝石のように輝いていて美しい。その人の想いに触れる瞬間はワクワクが抑えられない。
「・・・他の質問はないみたいね。では、私の番を終わります。」
・・・・・・そう、抑えられないはずなのだ。
自分のグラスを持って、発表席から降りる。私の発表順は真ん中あたり。次の人のために場所を空けなければならない。
発表をし終えたあと、必ず感じる高揚感。質疑応答の最中に感じる眩しさ。それが今回、全く湧いてこなかった。
自分の席に戻る足取りが、心なしか重い。頭に靄がかかったように、思考がまとまらない。
顔を上げて、自身の席に座る。
「おう、おつかれ宇佐見さん。今日もすごい発表だったな」
一息つくまもなく、隣りに座っている青年、田原さんが話しかけてきた。奈良県出身の会社員で、私より4つ年上である。
この会の中では比較的年が近く、気さくで明るい性格ということもあって顔を合わせるたびに会話が弾んでいる。内容は9割9分オカルト関連ではあるが。
先程質問してきたのも田原さんだ。オカルトに対する考察に関して、微妙に私と彼のアプローチは違うところがあるため発表会の時はお互い大抵1度ずつは質問をしている。
例に漏れず、今回も質問をして、返答をした。そしていつもどおりに接してくれる。その田原さんに対して・・・
「うん、ありがとうございます」
にっこりと笑みを浮かべ、会釈をした。・・・・・・大丈夫、普段と変わりないはずだ。いつもと同じように会話ができているはずだ、と暗示をかけながら口を開く。
年に何回もない貴重な集会なのだ。わざわざ他県から足を運んでくれた皆に、不快な思いはさせたくない。自分の問題で迷惑をかけたくない。
そんな私の笑顔を見て、彼は不意に真顔になった。
「・・・・・・宇佐見さん?」
「ん、どうしました田原さん?急に真顔になって・・・・」
「ああいや、何だろう。ちょっと疲れてるのかなって」
言葉を選びながらの質問に、ひゅっ、と息が詰まる。
一言目の会話で、見抜かれた。その事実に心が冷えた。
いつも通りの態度を取れていたはずだ。皆からよく言われる、無鉄砲で、元気で、誰とでも笑顔で会話をできる、普段どおりの『私』だったはずだ。
そんなに・・・ひと目で分かるほど、今の私は変なのだろうか?
「それでは、次の発表です。飯山君お願いします」
司会の声が響き、次の発表者の番になった。発表中は私語厳禁のため、誰もが口をつぐむ。
会話の途中だった田原さんも、それを聞いて中断した。少し気遣うような目線を向けられ、萎縮をしてしまう。
理由は分かっている。
今まで、私は集会に皆勤賞で来ていた。いや違う。『私達』はずっと参加し続けてきた。
数ヶ月溜め続けた溢れんばかりの体験談、考察、そして情熱。それを『私達』は話せる範囲でぶつけ続けてきた。
私の相棒。秘封倶楽部の片割れ。マエリベリー・ハーン。彼女が初めて、集会を休んだ。
真夏の天体観測から2ヶ月、私達はいつもどおりに顔を合わせている。変わることなく授業で顔を合わせ、喫茶店でおしゃべりに花を咲かせている。普段どおりの生活だ。
・・・・・・あの日から一度も、秘封倶楽部としての活動をしていないことを除けば。
深い意味はありませんが、東方音楽サークルの中では凋叶棕さんが一番好きです。凋叶棕さんの秘封、最高ですよね・・・・・・。
いえ、深い意味はありませんが。