秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

33 / 35

・・・・・・失踪申し訳ございませんでした(土下座)

とりあえず1話分の文章量になったものを投稿します。何時にも増して整合性とかがあれですが、今回はメリー視点。




些細な、大きな違い

人に言えない秘密というものは、誰しもが抱えているものだろう。

 

 それは内に秘めた性癖だったり、隠している仕事のミスだったり、あるいはもっとドロドロしたものだったりと千差万別だ。

 

 私の場合は、「人と違う体質を持つ」という言葉にすれば単純なものだった。枕詞に唯一無二の、という単語がつくことを除けばの話であるが。絶対音感、アルビノといった何千人何万人に一人の割合ではなく、文字通り私だけの体質であり異能だった。

 

 境界を把握できる瞳を持って生まれた私は、人とは違う景色を見てきた。いや違う。この瞳を持たない人と違う景色しか見れなくなった。

 

 多感な中学生時代はそのせいで鬱になりかけていた。私だけが違う景色を見ているとすれば、境界はおろかそれ以外のモノも違う形で見えてしまっているのではないか。人も、動物も、植物も、地も、海も、空も、全て私だけはこのように見えているだけなのではないか。

 

 夕日が綺麗だね。自然に囲まれていると落ち着くね。海の色が好きだなあ。 

 

 何気ない会話でさえ、他人と『同じもの』を共有できているのか分からない。

 

 

 

 結果として、情緒不安定なときに様々なものに縋ったことでオカルト関連と巡り会えたので無駄ではなかった。

 

 新しい発見の連続という未知、神秘に包まれた領域。それが偶然にも他人と同じかどうかを意識する私を救った。オカルトであるなら既存の物、現象では駄目なのだ。同じであってはいけない、違うものでなければ発見じゃない。

 今までずっと後ろ向きに捉えていた異能と向き合い始めた高校時代、その頃にはすっかりオカルトマニアになっていた。相変わらず自身の眼については他人に打ち明ける事が無かったが、それは

 

 「人に気味悪がられるかもしれない」

 「人に避けられるかもしれない」

 

 という内心的な理由は消え失せ、

 

 「私の能力が広く認知されることで騒動が起きてしまうかもしれない」

 

 という周囲への影響を鑑みた考えとなっていた。

 高校時代の思い出はほとんどがオカルト関連だったように思える。帰宅部所属とはいえ、平日学校が終わってからでは少女の足で行動できる範囲はたかが知れているため、活動は主に休日に割り当てられた。

 

 ・・・・・・こうして振り返ると、秘封倶楽部を蓮子と一緒に立ち上げるまでは一人でいることが多かった。

 

 「・・・・・・はぁ」

 

 大学の図書館で何度目になるか分からない、小さいため息をつく。昨日課題として出されたレポートを完成させるため訪れたのだが、肝心のパソコン画面はほとんど進展のないまま時間だけが過ぎていった。

 

 いつもなら休みなく文字を入力するために動く指が、鉛のように重い。考えをまとめようとしても、気づけば上の空となってしまい遅々として進まない。 

 

 どんなに集中しようとしても、どんなに振り払おうとしても、頭に浮かぶのは同じ人・・・・・いや、人達だ。 

 

 

 

 

 八雲紫。私と同じ・・・いや違う。私の異能が進化したという表現がしっくりと来る、境界を操作する力を持つ女性。 

 

 四季映姫。私と対極にあるかのような人。八雲さんと正反対で、それでいて近い雰囲気を纏っていた人。

 

 共通していることは、二人共想像もできない力を持っていること、そしてどちらも人間ではないということだ。

 

 四季映姫さんははっきりと断言したわけではないが、あれだけの出で立ちで普通の人間だなんて言われたら私は人間という定義を書き換える事となる。

 

 そして、人は自身の知らないもの、自身とは違うものに恐怖を抱く。かつて蓮子が言っていたとおりのことだ。夜の闇を、説明の付かない怪奇を、自らの理解の範囲を超える災害を神の怒り、妖怪の仕業と表したのは無理矢理にでも理由をつけたかったから。

 

 パソコン画面から目線を上げる。見慣れた図書館の風景と、近くの窓から差し込む陽の光。

 

 空に目を向けると1つだけ、遙か向こうに微かな結界の入り口が見える。とはいってもいくら手を伸ばしても届かない高所、しかも空く気配すら皆無では、ないのとほぼ同じではあるが。 

 

 人気がないのを確認してから結界に向け、静かに右手を伸ばす。脳裏に浮かぶのは、あの夜の出来事。星に埋め尽くされた夜空を引き裂いた、私の異能。

 

 何気なしにかざしたあのときとは違い、今日は自らの持つ力を意識し、結界をはっきりと視界に収めて睨みつける。

 

 (ひらけ・・・・・・)

 

 心の中で小さくつぶやき10秒、20秒、30秒・・・・・・。

 しかし、いくら待っても変化は起きなかった。そのことに対して、私は歓喜も、落胆も、安堵もしなかった。あれから2ヶ月時間があったのだ。両手で収まりきらないほど、繰り返し同じことを試している。

 

 それこそ、結界のある場所ない場所ゴチャ混ぜにして、時間帯などの条件も変えて行ってきた。

 

 結果はご覧の通りではあったが。どんなシチュエーションでも、あの夜のような『見えなかった結界をこじ開ける』事象は起こらなかった。

 

 現状として分かることは、今の私には結界に干渉する力も、操作する力も確認できなかったという事だけ。何故あの時は開けたのか、それすらも解明できていない。

 

 そう、分からないのだ。

 

 現在の自分に宿る異能。一時のみの覚醒で既に失われてしまったのか、まだ干渉する力があるのか。

 

 挙げていた手を下げ、窓から視線を戻す。ペットボトルの蓋を開け、乾いた喉を緑茶で潤すが気分はスッキリとしないままだ。 

 

 異能が失われて、従来の境界把握だけしか残っていないのであれば問題はない。いつも通りの日常が戻ってくるだけだ。 

 

 ただ万が一、干渉する力が残っていたら?まだ試していない条件があるだけで、トリガーを引いていないだけだったら?

 

 そう、あの夜の条件を羅列していった時、確実にまだ一つ該当していないものがある。 

 

 

  

 「・・・・・・蓮子」

 

 小さく、大好きな人の、大切なパートナーの名前を呼ぶ。

 

 私の曖昧な異能と、蓮子の絶対的な異能、なんか両極端でバランスがいいわねと笑い合っていたことを思い出す。蓮子の異能だけが進化して、自分の異能には変化がなかった理由について考察していた風景が頭をよぎる。

 

 結界を超えること。言葉で言うのは簡単だが、実際には危険を伴う行為であることは明白だ。どこに繋がっているのか分からない向こう側へ踏み込むのだ。文字通り、一歩先は死地の可能性もある。安全な場所しかないのであれば上品蓮台寺の時だって、デンデラ野の時だって、あんなに緊張も興奮もしない。

 

 いつだって、隣に蓮子がいた。そう、天体観測の夜も。蓮子が傍にいる状態では、まだ一度も試していない。

 

 あの日以降、蓮子と顔を合わせていないわけではない。喫茶店で取り留めのない会話もした。課題に追われる蓮子のサポートもした。いつも通りの日常と言える。・・・・・・秘封倶楽部の活動はおろか、関連する会話すら一言も話していないことを除けば。

 

 当然蓮子だって気づいている。元々会話の半分ほどは秘封倶楽部関連だったのだ。それなのに、一度も触れてこない。

 

 2ヶ月もの間、彼女に気を遣わせてもいることが情けない。触れてこないことを感謝するのと同時に、前に進めない自身に嫌気が差す。

 

 だけど、どうしても踏ん切れないのだ。それはどうしようもないほどのエゴ。今まで散々、私が見つけた綻びから危険な結界越えをしてきたというのに、細かな、それでいて大きな違いに対する葛藤。

 

 

 

 今までは開いていた結界を私が視つけていた。だけど、もしだ。もし『私が切り開いた結界』で蓮子の身に何かあったら?

 

 自身が被害を受けるのはいい。私が原因なのだから自業自得だ。でも、蓮子に危害が加わるのは耐えられない。

 

 今まで私の異能で結界越えをしてきたくせに何をいうのだ、と別の自分がささやきかける。それはその通りだ。開いている結界を見つけるのも、結界を開くのも結局は結界を越える行為につながる。

 

 

 

 それでも、一歩が踏み出せない。





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。