来週ウマ娘のイベントが終わると同時にFGO二部6章が来るので今のうちに執筆&投稿。
ベリル待ってろ
「宇佐見さん、悩み事があるの?」
会話の途中で、急にその単語が相手から発せられた。目の前の人物・・・昨年大学で知り合った紺野さんの一言に、軽やかな私の口調が止まる。
何故?と問いかける前に相手の顔を見ると、いつもの穏やかな雰囲気を引っ込めこちらを伺うような、それでいて確信を抱いているような表情をしていた。男女問わず学内に友達、知り合いが多いというのは私の数少ない取り柄の一つだが、その弊害というべきか個人個人とはとはあまり多くの時間を共有しているとはいえない。
紺野さんとは同じ学部ということで比較的よく会う間柄ではあるが、それでも毎日というほどではない。
「なんだろう・・・いつもと違うというか、無理して笑っている気がして・・・気の所為だったらごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる彼女。4限目が終わって本日はどちらも今後、授業がない日であるため近くの喫茶店を訪れた私達。
せめて悟られないようにしようという私の『空元気』は、席について注文した飲み物が来る前の時点で見破られた。
ああ、と思う。『まただ』と思ってしまう。
そんなに私の顔に出ているのか、という返答はしなかった。どこかしら、予感があったからだ。
オフ会の日、私の作り笑顔を初めて見破られてからは仮面をかぶることが更に下手になったみたいだ。紺野さん以外にも色んな人と行動を共にし、他愛のない会話をした。その過程で、同じような質問をたくさん受けた。新戸さん、山城くん、三根さん・・・挙げだしたらキリがないほどに。
「気のせいじゃないかな~」
なけなしの平静とボロボロの仮面を保ちつつ、意識しすぎない口調で返す。飲み物が届いてからは最近のファッションや流行曲についてどんどん話題を展開していったが、紺野さんは相槌を打ちながらも時折こちらを心配するような視線を向けてきた。
分からない。普段の私が、どんな感じだったのか。どんな風に笑っていたのかが思い出せない。
結局、紺野さんとの久々の駄弁りは微妙な空気のまま終わってしまった。最後まで何でもないと否定したが、彼女の疑念を払拭することは出来なかった。別れ際の
「今日はごめんなさい・・・いつでも連絡してね」
という言葉が胸に刺さる。紺野さんの誘いで喫茶店に来たことに対する謝罪だろうか。謝らなければならないのは、私の方だというのに。
紺野さんと別れ、一人帰路につく。体調は問題なし、健康体のはずなのに足取りが重い。空を見上げると私の心情を再現したような、どんよりとした曇り空が広がっていた。今日の天気は雨も降ると言っていた気がする。気持ち早足で歩を進めるが、気持ちが全くついてこない。
目線を落とし、街並みに目を移す。首都ながら落ち着きのある京都という土地。大通りの脇を見れば、進むだけで冒険が始まりそうな裏通りへと続く道。それを見ても、私の心にときめきは起こらなかった。
(世界って、こんなに色褪せていたっけ?)
いつもと同じはずの景色を見ながら、自問するも答えは出ない。
大学の講義や懐具合などの関係で、2ヶ月間冒険に行かない時期は過去にもあった。そもそも、高校時代以前は半年間冒険できないことなんてザラだ。それなのに、こんな気持になったことはなかった。
・・・・・・理由なんて明白だ。
家に着き、着の身着のままの状態でベットに倒れる。思い浮かぶは大学に入学してからの記憶。他愛ない日常、数々の冒険、そして常に私の隣りにいた人物。
「・・・・・・メリー」
誰もいないのに、誰にも聞こえないような小声で彼女の名を呼ぶ。枕を抱きしめながら、親友にして相棒である彼女の姿形を脳内に蘇らせようとした。
でも、昨日も会ったはずなのにその姿がひどくぼやけて見えた。
「・・・・・・・で、私に相談に来たってわけね」
コト、と眼の前にカップが置かれる。お世辞にもこまめに洗われているとは思えない汚、いや趣のあるそれには湯気を立てたコーヒーが注がれていた。
ありがとうございます、と言って静かに一口飲んだ。自分が淹れるより気持ち濃い目の液体が喉を通り過ぎる。研究室の学生からは不評らしいのだが、私は結構気に入っている。
カップを置いて顔を上げると、不敵な笑みを浮かべている女性がいた。
金色の髪を腰まで伸ばしており、今では珍しくなったメガネを掛けている。歳は30代中盤だと聞いているが、正直20代前半といわれても納得しそうな程に若く見える。現在は白衣を着ている彼女だが、もし私服を着て学生の中に紛れ込んだら、知らない人は絶対に見破れないだろう。
親しみやすい、明るい雰囲気を纏っていることも実年齢より若く見える要因かもしれない。
雰囲気だけではなく、実際に気さくな方だ。来年から配属予定だとはいえ、まだ研究室の生徒ではない自分の質問、相談にも時間の許す限り乗って頂いている。学問は勿論、時には日常生活に関する些細な事も聞いてくれる。話している最中に、話の主導権が奪われてしまうことも多々あるため、会話が好きなのかもしれない。
「普段はハーンちゃんも一緒だからどうしたのかと思ってたら、成程ね」
「・・・・・・はい、北白河教授」
指を組み、こちらを覗き込むように見てくる彼女・・・北白河教授の言葉に、私は返事を返す。
この人が、あの岡崎名誉教授の一番弟子と知った時はそりゃあもう驚いた。岡崎夢美という人物はそれほどの、今後人類という歴史が続く限りは教科書を始めありとあらゆる媒体で語り継がれていくだろう方なのだ。
そんな偉人(予定)から全てを受け継いだ人物が私みたいな一学生の話を真剣に聞いてくれて、時には他愛ない話で盛り上がっている。発覚当初は真面目に腰を抜かしたのも、今となってはいい思い出である。
「うーん、やっぱいつもより元気がないわね。相当大きな物を抱えているみたい」
「教授にもそう見えましたか?」
「ええ、それこそ部屋に入ってきた瞬間からね」
砂糖をたっぷりと入れたコーヒーを美味しそうに飲む教授。彼女にも一瞬で見破られていた。岡崎教授の弟子、という肩書だけで一生食っていけるのに自身の実力で30代のうちに教授まで登りつめたその頭脳は伊達ではないということか・・・・・・いや、それは関係ないか。
お互いコーヒーを半分ほど飲み、一息ついたタイミングで再び教授が口を開いた。
「よし、じゃあ宇佐見ちゃんの悩みを聞かせてもらおうかな?」
その言葉にはい、と返事をして私も抱えている思いを紡ぎ始めた。
メリーとよく冒険に行っていること。
そしてある時期を境にメリーが冒険を避けるようになったこと。
悩んでいるメリーに対して、自身が何も出来ないこと。
私は出来る限りぼかして、かつ分かりやすいように話した。当然ながら教授はメリーと私の異能については知らない。教授自身がオカルトに関して理解のある方のため冒険の内容に関しては今までもある程度話しているが、結界を幾度も超えていることや八雲さん、四季さんとの邂逅については隠している。
もしかすれば隠し事をしている事についてはとっくにバレているかもしれないが、『隠している内容は何か』までは流石に突き止められないだろう。もし分かったらエスパーか何かだ。
教授は黙って私の話を聞いてくれている。特に相談事の時は滅多に話を遮ることはせず、話し終わるまで耳を傾けてくれる。
・・・・・・ここ数ヶ月の間、メリー以外の人にここまで話したことはあったかな?と感じるほどに思いの丈を紡ぐ。
大学に入って、メリーと出会って、いろいろな場所を冒険して、二人で秘密を共有しあって。その一つ一つが私にとっての大切な思い出。
(・・・・・・寂しいな)
気づいたら、私の口は閉じていた。あの日、私が天体観測に誘わなければメリーの異能は進化していなかったのではないか。そうすればメリーは辛い思いをすることもなく、今この瞬間も2人で次の冒険計画を立てていたのだろうか。
気持ちが落ち込んでいる時は、思考もマイナス方向へと傾いていく。
もしかすれば、このまま秘封倶楽部の活動自体が中断する可能性もある。その場合、高校時代までのように私一人で神秘を追い求めるのか、いや、追い求めることが出来るのか。
・・・・・・そんなの、答えは決まっている。
「出来るはずないよっ・・・」
声が震える。この二ヶ月ちょっとの間、行こうと思えば私一人でオカルト巡り、結界調査に行くことも出来た。そのための予算も、時間も、情報もあった。
でも、一度たりともそんな気持ちは起きなかった。選択肢にすら入らなかった。だってメリーが一緒じゃないから。彼女と共に歩まない冒険にどんな価値があるんだろう?
「なーんだ、答え出てるじゃない」
「え?」
気がついたら、目の前に新たに注がれたコーヒーが置かれていた。
「宇佐見ちゃん。私があなたとハーンちゃんを見てどう感じていたか分かるかしら?」
頬杖をつきながら笑顔で教授が訪ねてきた。私とメリーの事を?もしかして・・・
「えーと、もしかしてうるさかったとか、研究の邪魔だったとかでしょうか?」
「違う違う。それだったらとっくに直接言ってるわよ。そうじゃなくてね、『2人の距離がかなり近い、いや近すぎるなあ』って気持ちだったの。」
「距離が?・・・・・・!!いや違いますよ私はノーマルです!」
「あら、だったらハーンちゃんのこと好きではないのかしら?」
「好きではっ・・・・・・あるけどいやそれは親友というか相棒としての好きであって恋とかの意味では、ってからかってますよね教授!?」
慌てて弁明したが、教授が途中から笑いを堪えるように口を押さえ始めたのを見てつい大声を挙げてしまった。そうだった、この人結構いい性格してたんだ。
「真面目な話、2人はお似合いだとは感じているけど・・・。言葉が足りなかったわね。距離っていうのは物理的な意味じゃなくて精神的な方よ。最初にあなた達を見た時点でそう思っちゃたわ。」
コーヒーを飲み干した教授がじっとこちらを見つめる。眼鏡の奥の瞳は、こちらの考えよ読むような動きをしていた。
前半部分はともかくとして、後半部分に首を傾げる。精神的な距離が近いと言われたが、それは当たり前のことだと思っていたからだ。
メリーと知り合って二年弱。普段は親友として、冒険時は相棒として接し続けていれば自然と心の距離だって近くなる。時間をかければ自ずと精神的に寄り添うのは不思議でもなんでもない。
そう考えたが、次の言葉で目を見開いた。
「言ったでしょ、最初見た時って。時間を掛けてじゃない、初めから距離が近いなんて余程のことがないとありえないの。仮に両一目惚れがあったとしてもそこまではならないわ。それこそ、『お互いが抱えている秘密を共有し合えた時』とかね」
自然口調で話す教授の言葉に、私は無意識のうちに目を、異能を持つ瞳を押さえていた。
納得した。図星だった。
生まれ持った異能。家族にも信じてくれなかった能力。もう理解してもらえないだろうと半ば諦めていたときに出会えたのがメリーだった。
・・・・・・そうか、あの瞬間から私はメリーに依存してたのかもしれない。
秘封倶楽部を結成してからは、1人での活動はなくなった。メリーと駆け抜けるにつれて、知らないうちに依存の糸はより太く、多くなっていた。
「教授、私の秘密を知って・・・・・」
「うん?本当に持っていたのね。でも内容は知らないわ。それに無理に言う必要はない。ただ、原因があるとすればやることは一つよ。とことん、彼女と話し合いなさい」
バシバシ!と多少強めに背中を叩かれる。突然の衝撃にむせてしまい、咳が出てしまう。
教授はそんな私を見てゴメンゴメンと笑いながら謝り、言葉をつなげる。
「宇佐見ちゃん。私ね、今回はあなたとハーンちゃんの距離がちょっと離れてしまっただけのことだと思うの。お互いがお互いを嫌いになったわけじゃない。拒絶しようとしたわけでもない。相手を想うからこそ、踏み出せない。宇佐見ちゃんはまた距離を縮めたいのよね?」
「・・・・・・はい」
「ふふっ、ならハーンちゃんと話し合うことよ。相手の気持ちを鑑みたり推測したりはできても、知ることは1人では出来ないの。相手と話して、直接聞くこと。2人の関係なら、きっと出来るはずよ」
そう言ってウインクをしてくる教授に、胸が熱くなった。
全部、お見通しだった訳だ。私がメリーに尋ねられなかったのは、彼女が心配であるのと同時に、無理に聞き出そうとすることで今の親友という関係も崩れてしまうのを恐れていたから。自分でも気づかなかった、いや、目を逸していた事実を差し出してくれた。
私に足りないものは勇気だった。メリーとの日常がこれ以上崩れないように踏み出すことを躊躇っていた。
・・・・・・随分と遠回りしたけど、教授のおかげでようやくやらなければいけない事が見えた。
「北白河教授、ありがとうございました。今から行ってきます」
「礼なんていらないわよ。行ってらっしゃい」
頭を下げ、教授の声を受けて部屋から退出する。階段を駆け下り、その勢いで建物から外に出る。
広い中庭に辿り着いたところで、ポケットからスマホを取り出した。待ち受け画面に表示されているのは、デンデラ野旅行での2ショット。
まだ1年も経っていないというのに、随分と昔のことに感じてしまった。
「・・・・・・よし」
一呼吸を入れ、私はメリーに電話をかけた。