秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

35 / 35

FGO二部6章前半、及びウマ娘ジェミニ杯を無事に乗り越えたので投稿。

FGOは奈須さん執筆とのことで期待値が半端なく上がってましたが、それを超えるストーリーを堪能できました。やっぱ奈須さんすげえ・・・。


葛藤と覚悟

 

 「・・・・・・よし」

 

 一言、自分に言い聞かせるようにして小さくつぶやく。生憎の曇り空ではあるが、降水確率はほぼ0%の本日。上空微かに垣間見える青色を見ながら、私は知らない間に力を込めていた右手を緩めた。ギュッと握り拳を作っていたせいだろうか、開いてみるとじんわりと汗が滲んでいる。

 

 手だけではない。秋どころかもう冬の影が見えている時期だというのに、心臓が落ち着かず額から汗が落ちた。

 

 喉が乾いたためコップに麦茶を入れ、一気に飲み干す。この行為だけでもう3度目だ。おかげで用意していたアクリルポットの中身が4分の3ほどまで減っている。最悪もう一つ冷蔵庫に入っているし、コーヒーや紅茶、緑茶の準備も済ませているので飲み物が無くなる心配は皆無ではあるのだが。

 

 時間を確認すると、あと数分で午後2時になる頃合いだった。約束の時間まではあと30分ほどあるが、メリーは決められた時間より早めに来る事が多いため、私も既に部屋の掃除、飲み物の用意などを終わらせていた。

 

 いつもなら自分が時間に遅れて迷惑をかけてしまう、というパターンが多い、というより日常となっているのだが今回ばかりはそんな真似を出来るはずがない。

 

 そう、先程ちらっと触れたが、私はメリーを待っている。あの日を境に生まれた、小さくて大きな溝。自分も、おそらくはメリーも相手を想うが余り一歩が踏み出せないでいた。踏み出した結果、今まで培ってきた関係までもが壊れてしまいそうなのが怖かった。

 

 後ろ向きで、私らしくない思考。それを助けてくれたのが北白河教授だった。助言をもらい、覚悟を決めた私がメリーに連絡したのが今週半ば。

 

 『本音で話し合いましょう』

 

 と伝えた時、メリーが微かに息を飲んだのがスマホ越しに聞こえてきた。数十秒の沈黙後、時間と場所を指定してきて、急ぐように電話が切られた。

 

 カレンダーに目を移す。今日は土曜日、お互い講義も予定もない日である。

 

 これから私は、メリーと話し合う。それを意識した瞬間、落ち着いていた心臓がまたざわつき始めた。彼女がわざわざ土曜日を指定してきたということは、この話し合いが一日で終わらないと考えている節がある。

 

 ・・・・・・私もその可能性を考慮している。秘封倶楽部が結成して、いや、出会って以降初めての、本音を本気でぶつけ合う話し合い。日が暮れる前につつがなく終わるだなんてそれこそ幻想だ。

 

 私は今日、メリーを傷つけてしまうだろう。もしかすれば、メリーの言葉が私を傷つけるかもしれない。それでも私は前に進みたい。今みたいな、遠慮しあって冒険が出来ずに日常生活でのメリーの会話すら楽しめない関係を続けたいとは思えない。 

 

 

 『ピンポーン』

 

 

 チャイムが鳴った。相変わらず来るのが早い。 

 

 「はーい。今開けるよ」

 

 なるべく平常心を保ちつつ、私は玄関に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どんよりとした空を見上げつつ、私はいつもより小さな歩幅で道を歩く。

 

 歩調に合わせて、トン、トン、と傘の先が地面に当たる。今日は降らないとの予報だけど、明日になったら幾分怪しくなるため念には念を入れての用心である。

 

 手に持ったバックには、1泊分の着替えが入っている。秘封倶楽部活動の計画を練る際は毎回蓮子の部屋にお邪魔しているのだけど、盛り上がったり熱が入ったときなんかは気づいたら日付が変わっている事がザラにあったので、長引きそうな際は予め泊まる準備をするようになった。

 

 それに、上品蓮台寺の時のように深夜の時間帯をターゲットにした冒険もあるため、備えは無いよりあったほうがいい。

 

 ・・・・・・逆を言えば、秘封倶楽部の活動以外で泊りがけという経験は無かった。

 

 駄弁るだけならいつもの喫茶店を利用すればいいし、オカルト以外ではかぶった趣味がないためである。

 

 一歩一歩、少しずつではあるが確実に目的地への距離が縮まっていく。それに比例するように、私の気持ちはどんどんと重くなっていく。

 

 蓮子の家へと向かうのに、こんなに沈んだ感情になるのは始めてかもしれない。踏み出す足に泥が絡まっているかのように私を押し留めようとする。

 

 蓮子から電話を受けたのは、数日前のことだった。

 

 話し合いをしよう、という何気ない、それでいてはっきりとした口調での一言を聞いた時、私の心臓が跳ね上がった。

 

 鼓動が早くなるのをなるべく意識せず、詳細な日時を取り決めて電話を切る。その瞬間、ふっ・・・と力が抜けてその場にへたり込んでしまった。いきなりそんな行動をとったせいで、その時一緒にいた友人を驚かせてしまったのは今でも本当に申し訳なく思っている。

 

 電話を受けてから今日に至るまで、心には大波が立っていた。授業中も、食事中も考えるのは蓮子のこと。いやそれは割といつも通りなのだが、彼女を思い浮かべながらも心が踊らないのは今までになかった。

 

 きっと蓮子は踏み込んでくる気だ。あの日の出来事について。私の異能について。そして、秘封倶楽部について。

 

 止めてほしい、とは思わない。むしろこの数カ月間、よく触れないでいてくれたと感謝しているくらいだ。私達を繋ぐ最も深く、太い絆。それを私の方から数カ月間、勝手に切っていた。

 授業の合間に偶然会って会話をしている時も、休日にいつもの喫茶店で駄弁っているときも、蓮子の表情にははっきりと気遣いの模様が浮かんでいた。

 聞こうと思えばいつでも聞ける。でも、そうすればヒビが入ってしまうかもしれない。傷つけてしまうかもしれない。そんな感情が言葉にせずとも私に伝わってきた。

 

 ごめんなさいと謝りながら、私はその優しさに甘えた。2週間が経ち、1ヶ月が経ち、どんどんと冒険の空白期間が伸びていく。そんな折、私の心に飛来したのは恐怖だった。

 

 

 冒険にもオカルト巡りにも行かない、『秘封倶楽部活動をしない』私達は果たして親友と呼べるのか?

 

 

 蓮子と居る時、私達を繋いでいたものは間違いなく秘封倶楽部活動だった。オカルト巡り、結界超え・・・・・・思い浮かぶのは手を取り合い、2人で駆け抜けた冒険の日々。その一つ一つがあまりにも刺激的で、何一つ色褪せない思い出として残っている。

 

 でも、それ以外は?

 

 お茶会、勉強会、食事。天体観測に関してはあの一度きり。そしてその殆どに秘封倶楽部活動が絡んでいる。お茶をしながら、食事を摂りながらの計画立ては何度行った数え切れない。

 

 そんな私達を繋ぐその糸が切れたままの場合、どうなってしまうのか。

 

 そこまで考えに至って、ギュッと心臓を掴まれたような錯覚を覚えた。

 

 今はまだ顔を頻繁に合わせている。しかしこれから数ヶ月、半年、1年と時が過ぎれば過ぎるほど、切り離された2人の距離は遠くなっていく。

 

 他に共通の趣味があるわけでもない。それに蓮子は非常に明るい性格だ。私と違っていつも友人に囲まれて、輪の中心に居る。彼女の太陽のような明るさに集まっていく人は多いだろう。

 

 私とのつながりが切れても、蓮子は・・・・・・

 

 そこまで考える度、私は思考を止めていた。私の能力が原因で蓮子を傷つけたくない。今の状態から踏み込む勇気がない。でも、今のままでは近い未来、彼女との繋がりが無くなってしまう恐れがある。

 

 堂々巡りとなって動けなくなった私。そこから動かしてくれたのが今回の蓮子からの電話だった。

 

 いつも、いつも蓮子に助けられてばかりだ。蓮子無しでは生きていけないのではと考え、それこそ今更かと苦笑する。

 

 今回の話し合いで、私達の関係がどう変わってしまうのかは分からない。それでも避けては通れない、必要なことだと頭の片隅では理解していた。

 

 心が重い。今が壊れてしまうのが嫌だ。それでも、この想いをぶつけるしかない。

 

 覚悟は・・・・・・決めてきたつもりだ。

 

 

 

 蓮子のアパートへ辿り着き、いつものように彼女の部屋の前まで来た。約束の時間より30分ほど早い。

 

 挙げた人差し指が、微かに震えている。その震えが止まらないまま、私はチャイムを鳴らした。





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。