秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

36 / 36


大変、大変遅くなりまして申し訳ございません。
紅魔郷リメイクを見て、こちらの作品の執筆意欲が戻ってまいりました。

今回はリハビリのため1000文字程度と少ないです。次回からは1話3000文字前後で投稿していきたい…。

今後も不定期になりますが、何とか完成までは漕ぎ着けられるよう頑張ります。


空白の沈黙

 

 

 チャイムの音が、静かな廊下へ小さく響いた。

 間を置かず、玄関の向こうから足音が聞こえてくる。

 

 ガチャリと鍵の外れる音。ゆっくりと扉が開いた。

 

 「いらっしゃい、メリー」

 

 出迎えた蓮子は、いつも通りの笑顔を浮かべていた。

 見慣れた顔。何年も隣で見続けてきた顔。それなのに、今日は妙に視線の置き場に困ってしまう。

 

 「……お邪魔します」

 

 と一言返事をするけど、どこかぎこちない。

 自分でも分かるくらい、声が硬かった。

 当然、蓮子も気付いたはずだ。でも、何も言わない。

 ただ少しだけ目を細めて、私を部屋へ招き入れる。

 

 中へ入ると、いつも通りの光景が広がっていた。

 

 机の上には資料の山。

 本棚には中途半端に飛び出した本。

 

 コスメ品も一応まとめられているけれど、整理整頓というには少々苦しい有様である。

 私を呼んだのは蓮子のはずなのに、結局片付けに追われていたのだろう。

 一応努力の跡ははっきりと見えるが、綺麗とは程遠い。

 

 その様子が容易に想像できて、思わず笑みが零れた。

 本当に、蓮子らしい。

 

 「お茶飲む?」

 「いただくわ」

 

 短いやり取りの後、蓮子は冷蔵庫へ向かう。

 静かに座った後、その背中を眺めていた。

 

 細身の身体。肩まで伸びた髪。

 慣れた動作で冷蔵庫を開ける姿。

 

 今まで何度も見てきた光景だった。それこそ、数え切れないほどに。

 秘封倶楽部の活動を始めてから、一体何回この部屋へ来ただろう。

 何度話し合い、笑い合い、議論を重ねただろう。

 両手では数え切れないほどの回数。正確な数字なんてもう分からない。分からないほど当たり前になっている。

 

 だからこそ。その当たり前が妙に愛おしく感じられてしまう自分がいた。

 

 蓮子は棚からコップを二つ取り出した。

 氷を入れるか迷っている動作を見せたけど、少し考えてから結局そのまま麦茶を注ぎ始める。

 やがて蓮子がこちらへ戻ってくる来て、向かいへ腰を下ろした。

 

 「どうも」

 「どういたしまして」

 

 お互いに一口ずつ麦茶を口にする。

 そこで会話は止まった。

 

 静かだった。静かすぎるほどに。

 

 普段なら違う。大学であった出来事や教授の愚痴。新しいオカルト雑誌。結界の噂。

 

 口を開けば会話が弾み時間泥棒が訪れて、ふと気づけば窓の外は満点の星空……そんな日だって珍しくなかった。

 

 たった数ヶ月前まではそれが日常だったのに。今では酷く遠くの記憶に感じてしまう。

 

 どちらも口を開こうとしない。ただただ、時計の針の音だけが場を支配する。

 

 ……本来なら、私から口火を切るべきだと分かっている。自覚している。

 

 でも、何かを言えば今まで通りでいられなくなる気がした。

 

 そんな予感だけが、部屋の中へ重く沈んでいた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。