大変、大変遅くなりまして申し訳ございません。
紅魔郷リメイクを見て、こちらの作品の執筆意欲が戻ってまいりました。
今回はリハビリのため1000文字程度と少ないです。次回からは1話3000文字前後で投稿していきたい…。
今後も不定期になりますが、何とか完成までは漕ぎ着けられるよう頑張ります。
チャイムの音が、静かな廊下へ小さく響いた。
間を置かず、玄関の向こうから足音が聞こえてくる。
ガチャリと鍵の外れる音。ゆっくりと扉が開いた。
「いらっしゃい、メリー」
出迎えた蓮子は、いつも通りの笑顔を浮かべていた。
見慣れた顔。何年も隣で見続けてきた顔。それなのに、今日は妙に視線の置き場に困ってしまう。
「……お邪魔します」
と一言返事をするけど、どこかぎこちない。
自分でも分かるくらい、声が硬かった。
当然、蓮子も気付いたはずだ。でも、何も言わない。
ただ少しだけ目を細めて、私を部屋へ招き入れる。
中へ入ると、いつも通りの光景が広がっていた。
机の上には資料の山。
本棚には中途半端に飛び出した本。
コスメ品も一応まとめられているけれど、整理整頓というには少々苦しい有様である。
私を呼んだのは蓮子のはずなのに、結局片付けに追われていたのだろう。
一応努力の跡ははっきりと見えるが、綺麗とは程遠い。
その様子が容易に想像できて、思わず笑みが零れた。
本当に、蓮子らしい。
「お茶飲む?」
「いただくわ」
短いやり取りの後、蓮子は冷蔵庫へ向かう。
静かに座った後、その背中を眺めていた。
細身の身体。肩まで伸びた髪。
慣れた動作で冷蔵庫を開ける姿。
今まで何度も見てきた光景だった。それこそ、数え切れないほどに。
秘封倶楽部の活動を始めてから、一体何回この部屋へ来ただろう。
何度話し合い、笑い合い、議論を重ねただろう。
両手では数え切れないほどの回数。正確な数字なんてもう分からない。分からないほど当たり前になっている。
だからこそ。その当たり前が妙に愛おしく感じられてしまう自分がいた。
蓮子は棚からコップを二つ取り出した。
氷を入れるか迷っている動作を見せたけど、少し考えてから結局そのまま麦茶を注ぎ始める。
やがて蓮子がこちらへ戻ってくる来て、向かいへ腰を下ろした。
「どうも」
「どういたしまして」
お互いに一口ずつ麦茶を口にする。
そこで会話は止まった。
静かだった。静かすぎるほどに。
普段なら違う。大学であった出来事や教授の愚痴。新しいオカルト雑誌。結界の噂。
口を開けば会話が弾み時間泥棒が訪れて、ふと気づけば窓の外は満点の星空……そんな日だって珍しくなかった。
たった数ヶ月前まではそれが日常だったのに。今では酷く遠くの記憶に感じてしまう。
どちらも口を開こうとしない。ただただ、時計の針の音だけが場を支配する。
……本来なら、私から口火を切るべきだと分かっている。自覚している。
でも、何かを言えば今まで通りでいられなくなる気がした。
そんな予感だけが、部屋の中へ重く沈んでいた。