秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

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次話あたりで蓮メリの話し合い終了予定です。

今後ですが、げんましんと秋季東方例大祭で頒布予定の新刊も並行して執筆しているため、10月までは月1〜2話くらいの投稿ペースになりそうです。

今月、できればあと1話投稿できるよう頑張ります。


一つの約束

 

 今でも鮮明に覚えている。蓮子と初めて二人だけで冒険へ出た日のことを。

 

 真夜中の京都。人通りもほとんど絶えた街を歩きながら、私たちは地図と資料を片手に、噂だけが残る場所を探していた。

 結局その日は期待していたような超常現象など何一つ起こらず、収穫らしい収穫も無いまま夜明けを迎えてしまった。

 

 今振り返れば、失敗と言ってしまってもいい一日だったのだろう。それなのに、不思議と落胆はなかった。

 

 むしろ胸の中は、今まで感じたことがないほど満たされていた。

 

 誰かと一緒に未知を追いかけることが、こんなにも楽しいなんて知らなかった。目の前の謎に目を輝かせ、危険だと分かっていても躊躇なく飛び込んでいく蓮子。

 

 その背中を追いかけているだけで、世界は昨日までとはまるで違って見えた。

 

 思えば、あの日だったのだろう。私にとって『秘封倶楽部』が、ただのサークル活動ではなくなったのは。

 

 次はどこへ行こう。

 次は何を見つけよう。

 

 そんな未来を語る蓮子の隣にいることが、いつしか私にとって当たり前になっていた。

 

 

 

 だからこそ。

 

 その当たり前が失われるかもしれないという想像だけは、どうしても受け入れられなかった。胸の奥で、小さな焦燥感が消えてくれなかった。

 

 「……ねえ、蓮子」

 

 気付けば口を開いていた。考えに考えた末、ではない。沈黙に耐えきれず、ふと漏らしてしまったような言葉。

 

 一度呼びかけてしまえば、もう後戻りは出来ない。

 

 今ならまだ「何でもない」で済ませられる。そう思う自分がいる一方で、それでは何も変わらないことも分かっていた。

 

 あの日からずっと、私は逃げ続けている。

 

 日常生活でも胸が締め付けられ、結界の話題を殊更に避ける。結果、蓮子との会話は不自然で歪な形状にしかならなかった。

 

 蓮子は何も聞かなかった。

 

 理由を問い詰めることも、「行こう」と私の手を引くこともなく、ただ私の歩幅に合わせてくれた。

 

 その優しさが、どうしようもなく申し訳なかった。蓮子はコップを机へ置き、こちらへ顔を向ける。

 

 「どうしたの、そんな改まって」

 

 普段と変わらない声。その何気ない一言だけで、胸の奥が少しだけ痛む。

 彼女なら、強引に聞き出してくることもできたはずだ。サークル活動を一方的に休止してるのは私の方なのだから。非を挙げて問い詰める事にも、当然の正当性がある。

 

 それなのに数ヶ月間、今の今まで待っていてくれた。これ以上は、待たせるわけにはいかない。でも……

 

 私は一度視線を落とし、小さく息を吐いた。

 

 「……蓮子ってさ。」

 

 言葉を探す。本当はもっと聞きたいことがある。真っ先に口にしなければいけないことがある。でも、それをいきなり口にする勇気はなかった。

 だからこそ、ぽつりと質問を出す。

 

 「怖いことって、ある?」

 

 一瞬、部屋が静まり返る。

 

 蓮子はすぐには返事をしなかった。再びコップに手をかけながら、そのまま視線だけを私へ向ける。

 

 驚いた様子はない。幾許か、私たちの間へ静かな時間が流れる。

 

 唐突すぎる質問に適当に答えるのではなく、私の問いへ真剣に向き合ってくれている。

 

 やがて、小さく息を吐く。困ったように笑いながら、前髪を指先で軽く掻き上げた。

 

 「急に難しいこと聞くわね」

 

 どこか照れ隠しのような笑み。その表情を見ているだけで、少しだけ肩の力が抜ける。どんな話題でも真正面から受け止めようとしてしまう。そんなところまで変わらない。

 

 だからこそ、胸が痛む。

 

 (……何よりも、この力のせいで蓮子を失うことが怖い)

 

 私はこの笑顔を失いたくない。私の能力のせいで、この人が傷つく未来だけは見たくない。

 

 裂け目を見るたびに頭を過ぎる最悪の想像。それが現実になってしまうくらいなら。

 

 いっそ、もう……

 

 「ま、もちろんあるわよ。」

 「……へ?」

 

 不意に響いた明るい声。不思議なくらい迷いのない声に、思わず顔を上げた。

 私の顔を見たのか、ぷっ、と吹き出した蓮子が頬杖をついてさらに言葉を紡ぐ。

 

 「意外?」

 

 私が小さく頷くと、蓮子は苦笑する。

 

 「私って怖いもの知らずに見えるのかもしれないけど、そんなことないわよ。むしろ結構あるわ。高い所。未だに注射も怖いわ。後は遅刻した日に待っているメリーとかね」

 

 「……最後は自業自得じゃないかしら」

 

 ジト目で見つめると、ごめんごめんと謝るポーズをしてきた。その仕草に思わず口元が緩む。

 

 そんな私を見て、蓮子も少しだけ安心したように笑った。けれど、その笑みは長くは続かない。

 

 空になったコップへ視線を落とし、小さく息を吐く。その横顔を見た瞬間、私は無意識に姿勢を正していた。

 

 「……でもね、一番怖いのがある」

 

 たった一言。それだけで、部屋の空気が静かに張り詰めていく。蓮子はゆっくりと顔を上げ、真っ直ぐ私を見つめた。

 

 感情をぶつけるでもなく、格好つけるでもなく。ただ、自分の中にある答えを確かめるような声。ほんの少しだけ微笑みながらその言葉が放たれた。

 

 「メリーを失うことが、一番怖い。」

 

 ……トンッ、と胸に刺さった。その一言が。

 胸の鼓動だけが、やけに大きく耳へ響いていた。

 

 蓮子は視線を逸らさない。その真っ直ぐな瞳が、全てを語っていた。これは彼女が、何度も自分の中で確かめてきた、本心なのだと。

 

 胸の奥が熱くなる。苦しくて、切なくて、それなのにどうしようもなく嬉しい。

 

 こんな時だというのに、こんな状況だというのに、彼女のその言葉がたまらなく嬉しかった。

 

 何か言わなければ。そう思うのに、喉の奥で言葉が絡まり、上手く声にならない。

 

 視界が少しだけ滲む。

 

 どうして。どうして、蓮子はいつもこうなのだろう。

 

 無鉄砲で、わがままで、自分勝手で、私が一番欲しい言葉を何でもないような顔で口にしてしまう。

 

 「……蓮子。」

 

 やっとの思いで名前を呼ぶ。それだけで精一杯だった。蓮子は私を、私の瞳をじっと見る。何かを決意したような表情だった。

 

 「ずっと一人で悩んでること、結界や裂け目を避けるようになった理由。私と距離を置くようになった理由。……勝手だけど分かってるつもり」

 

 何かを諦めた顔でも、何かを受け入れた顔でもない。

 覚悟を決めた人だけが浮かべる、ただただ静かな表情だった。

 

 その眼差しに吸い寄せられるように、私も視線を逸らせなくなる。

 

 胸の奥で、小さく何かが音を立てた気がした。

 

 

 

 

「……一つだけ、約束しましょう」

 

 





今年も東方人気投票が近づいてきました。

キャラ部門(7枠)ですが、暫定では

【確定】
カナ・アナベラル(一推し)
紅美鈴

【候補】
道神馴子
比那名居天子
水橋パルスィ
蓬莱山輝夜
宇佐見蓮子
マエリベリー・ハーン
リリーホワイト
スターサファイア
封獣ぬえ

となっております。
……毎度のことながら蓮メリが枠ギリギリです。
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