秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

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12月9日は秘封倶楽部の日!


遠野物語

 

 ゆっくりと意識が覚醒した。

 

 ぼんやりとした視界に映る、見慣れない天井。一瞬、まだ夢の中にいるのかと錯覚したが、身に刺さる無視できない程度の寒さによりぼーっとしていた頭が徐々に働いてくる。

 上半身を起こして、大きく背伸びをする。大学に入ってからはベッド生活になり一度も使っていなかった布団。自分の部屋とは似ても似つかぬ落ち着いた雰囲気の和室。窓から差し込む太陽の光が部屋を照らすが、残念ながらこんな時間では暖かさまで届けてはくれないようだ、と掛け時計を見ながら感じた。

 仄かに感じる畳の匂いを思い切り吸い込む。フローリングの床とはまったく違う、どことなく安心できる不思議な香り。板と比べると製造にかかる手間が比較にならないほどかかると聞いているが、それでもこのご時勢で一定の需要がある理由が分かった気がした。

 

 布団から体を出して立ち上がると同時に、先ほど感じた以上の寒さが体を包み込む。一瞬、蓮子に抱きついて暖をとろうとも考えたが、今抱きしめたら最低でも昼過ぎまでは離れられなくなると思い大人しくストーブの前に陣取ることにした。

 両手を翳すと、じんわりと手の平に暖かさが伝わってくる。エアコンとはまったく違う、直接的な暖かさに思わずほぅ・・・と息が漏れた。このままストーブを体で抱え込みたいと思ったが、それをしたら本日の目的地がもれなく病院に変更されるため、大人しく近づきすぎない位置でその恩恵を受け取ることにした。

 

 これで炬燵があれば完璧なんだけどなあと思い、苦笑して首を振る。今の状態でも十分暖かいのに、これ以上を求める自分はかなり欲深い人間だろう。より楽に、より快適に。人類が進化を止めない限り続くであろう終わりの無い欲望。終着点となるのは、人類が歩みを、進化を止めたときだろうか?それとも・・・・・・

 

 

 

 逸れていた思考を強引に引き戻す。テーブルの上に広げていた資料やスマホを手に取りながら今晩の、正確には明日の深夜に行うメインイベントに思いを馳せた。

 

 「デンデラ野での結界暴き・・・やるとするならやっぱり深夜2時30分ね。蓮台寺の時可能な限り条件を合わせたほうがいいわ。」

 

 それまでは蓮子とのデートに充てて、と一人で妄想を膨らませる。

 

 1週間前にこの身に起きた、夢のように朧げな現の出来事。それは文字通り儚い夢だったのか、翌日、その次の日にも夜中に訪れたが、再び体験することは出来なかった。

 

ひどく浮世離れした場所。 

この世のものとは思えない舞い散る桜。

そしてその桜のように、いや、桜以上に儚げに舞い散ってしまった女性。

 

 全てはわずかな時間の邂逅。数瞬のみでしか瞳の奥に焼き付けられなかった光景だが、時間が経った今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 あの女性は桜の下に横たわっていた。私たちとそんなに変わらない年齢だろうか?そんな彼女が、静かに事切れていた。胸に刺さっていた短刀から溢れ出た血は、その純白の衣装を紅く彩っていた。

 

 こんな感想を抱くのは間違っているし、不謹慎とかそういうレベルではないが、それでも思ってしまった。

 その最期はどうしようもないくらいに美しかった。優雅に咲き散った桜のように。

 

 もう一度会いたい。死人に会いたいと感じるのもおかしな話だが、純粋にそう思った。活動開始以来、初めての大当たりといえる結界暴き成功の場所をもっと詳細に調べたい、という全うな理由と同列に語りたいほどに。

 

 そして先ほども言ったとおり、もう一度夢のような出来事に浸ることは叶わなかった。二日間の緊急追加調査で得たものは、寒さによる軽い微熱(私限定)と、寝不足から来る授業中の爆睡により教授から頂いた愛の拳骨(蓮子限定)くらいだった。授業後蓮子は「あの鬼じじい教授絶対許さん」とか言っていたが、どこをどう考えても蓮子を擁護できる要素が無かったため適当に相槌をうっておいた。

 

 このまま続けても埒が明かないと考え始めた数日前、上品蓮台寺と関わりがありそうな土地を突き止めた。そこが今私たちがいる場所、岩手県遠野市だ。

 手がかりと言っても「両土地とも『デンデラ野』という言葉と深い関わりがある」というこじつけにちかい物ではあるが、藁にもすがる思いで急遽遠征を取り決めたのだ。

 決して安くは無い旅行費や貴重な連休を潰してでも行くべきかどうか。私たち二人の答えは、即決でのYESだった。

 私だけじゃない、蓮子もあの光景を見て、それで終わらせるはずが無い。一夜の幻想と片付けて日常生活に戻るなど秘封倶楽部ではない。

 

 「あの日の夢を、もう一度現の出来事にしてみせるわ」

 

 知らないうちに口端が上がっているのを意識しながら、資料をテーブルに戻した。

 

 「・・・ま、それはそれとして夜まではデートと洒落込みましょう、蓮子♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「遠野物語発祥の地ねえ」

 

 ぐるっと辺りを見回しながら呟く。のどかな田園風景の先に広がる森林地帯や遥か遠くに見える山々。電車での移動中はもちろん、到着後は既に夕方だったこともありじっくり見れなかった景色を視野一杯に納める。 

 微かに聞こえてくる川のせせらぎや、複数の種類が混じった鳥の鳴き声。ゆったりと流れる時間は、無駄の無い都会での生活と対極にあることを伺わせる。懐古主義でも第一次産業就職希望者でもないが、このような場所で静かに暮らしてみるのもいいかもしれない。

 私の場合はしがらみからの解放によるメリットよりも、都会の利便性を失うデメリットの方が大きすぎるように感じるため今の所は却下だが。

 

 「ということは、ここから数多くの逸話が生まれたのね」

 

 「そうよメリー。元々遠野地方に古くから伝わる、百を超える伝承をかの偉大なる柳田先生が纏め上げた物語。佐々木先生との共同作業の末生まれた、日本に誇る民謡学作品と言っても過言ではないわ」

 

 へえ~、と私と同じように辺りを見るメリー。輝いているその目からは、純粋に今この時を楽しんでいることが伺える。

 遠野物語が世に出たことで有名になった伝承は数知れず。座敷童、河童、神隠し、ハヤリ神などは、この本がでなければマイナーのままだったかもしれないと考えれば、その影響力の大きさを知ることが出来るだろう。                   

 そんな中、一番有名になったといえる伝承がある。

 

 

 『迷い家(マヨヒガ)』

 

 

 山奥に存在すると噂される、大きな屋敷。訪れたものに富貴を授ける摩訶不思議というべき家であり、オカルト仲間の話題にも上がりやすい、メジャーな怪奇だ。 当然のことながら、そのような屋敷はあるはずもない。よって、結界の綻びによりごく稀に具現化するのではないかと考えたオカルトマニアが遠野の地を訪れると聞いているが、その成果が上がった話は未だ耳に入ってこない。

 いつかは訪れたいと思っていたが、こんな形でその機会が巡ってくるのは予想外であった。

 

 もちろんメインはデンデラ野だが、今日か明日の空いた時間にでも、迷い家について調べてみるのもいいかもしれない。

 

 「蓮子、デートは遠野の町探索でいいかしら?」

 

 「デートじゃないからねメリー。・・・でも、遠野探索は賛成!」

 

 おそよデートには向いていない場所だといいそうになったが、私たち二人の場合、仕方ないかもしれない。

 

 昨日メリーに迷惑をかけた件もあるし、今日く一日はメリーの提案を聞いてみるのもいいかもしれない。

 

 執拗に腕を絡めてこようとするメリーをなんとか避けながら、そんなことを考えた。





年末までにもう1~2話投稿したい・・・・・・文才をくれ~!
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