《リメイク》とある科学の確率操作   作:々々

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大覇星祭の前振り





単なる気まぐれⅠ ―It's a lie.―

「これで開会式は何とかなりそうだ」

 

 先程の電話で開会式への参加を承諾したレベル5がいるとの連絡によって、運営委員はまた一つの大きな仕事をやり終えた。

 今年は前年までの前優勝校の選手宣誓ではなく、レベル5にやらせろという指示が上層部から伝えられた。その場で大いに反対意見が挙がったが、上層部の意見には断れない。

 

 しかし実行可能かと言われたらそれも怪しい。何故ならあのレベル5だ、そう簡単に承諾してくれるとは考えられない。それに、そもそもコンタクトを取れるのかという問題がある。

 そんな時だった、運営員会と風紀委員の合同会議で愚痴をこぼしていると、鶴の声があった。「全員に連絡取れるから聞いとく」そんな軽いノリで風紀委員本部所属の木原分数が手伝うと言ったのだった。

 

 

 Case#1

 

 交渉役を引き受けた木原はせっかく全員に会うんだから順位を上から制覇しようと、まずはカエル顔の医者のいる病院へやって来た。

 

「一方通行ってどこ?」

 

「そこの突き当りを左に曲がって3つ目の病室です。とミカサは丁寧に教えます」

 

「ありがと。これは皆で食べて」

 

「なっ! 予約で一杯の数年は食べられないと噂のシュークリーム! とミサカは顔には出ませんがとても驚いています」

 

 それじゃーね、と別れを告げて教えてもらった部屋へ向かう。しかし随分と感情が表に出るようになったなぁと、御坂妹の成長に少し驚いた。

 

 コンコンコン、ノックを3回したが返事はなかった。だが部屋の中に人が居るのは気配でわかり、木原の目には熱源が一つ映っている。

 

「邪魔するぜ」

 

 横引きの扉を開けると真っ白い男がいる。独特のセンスの服を身につけ、白髪はしばらく切られて無いであろうと予想できる。来訪した木原に目を向けることなく、男―――一方通行は手元の本を読んでいる。

 そんな態度を取られることは分かっていた為、木原は手に持っている先程自販機で買ったばかりの飲料水の入ったペットボトルを一口飲んでから、一方通行へ投げつける。

 

 投げられたペットボトルは一方通行に当たる、というギリギリのところで軌道を変える。まるで巻き戻しの様に木原の元へ戻る。

 

「いきなり何しやがンだ」

 

「術後経過観察」

 

 一方通行は悪態をつき、面倒くさそうに顔を歪めて首元のチョーカー(電極)を弄る。また面倒くさいやつが来たなとため息を吐き、缶コーヒーを呷る。

 木原は戻ってきたペットボトルを観察し、また一方通行の周りの様子も観察している。

 

「術後の様子を見るのに、頭目掛けて投げる奴がいるか」

 

「俺だけど?」

 

「うぜェ」

 

「わざと当たりどころが悪くなるように回転を掛けて投げてやったんだ、感謝しろよ」

 

「さらにうぜェ」

 

「お前もこっちの脳天目掛けたろ? それで相子だ」

 

 一方通行のまわりに水滴がこぼれていない。結露でペットボトルに付着していた水滴は全てペットボトル共に木原の方へとベクトル操作されていた。それにわざと面倒くさい回転を掛けたペットボトルも寸分の狂い無く頭にやって来たので、能力に関してはもう心配ないのかもしれない。

 

「それで、なンの用だ?」

 

「ほれ、これを見て」

 

「ンだァ? 大覇星祭へのお誘いだァ?」

 

「そ、上層部がせっかくだからレベル5を選手宣誓に呼んで全世界にアピールしようぜ、って企画らしい。参加する?」

 

「ふざけてンのかァ? 俺の今の状況でそンなとこ出られるわけねェだろ」

 

「だから確認取りに来たわけ。おけおけ、第一位には断られたってことで次行くわじゃ。打ち止めによろしく言っといて」

 

 

 Case#2

 

「どうして俺が、未来が輝かしいものだとしか考えられない夢とか希望とかを信じてる青二才達の為に、こんな事をやらなきゃいけないんだ」

 

「いいじゃん別に」

 

「良くねぇよ」

 

 大覇星祭へのお誘いの紙を見せたものの、やはり反応が悪い。確かに暗部所属、もしくはそれに近しい場所の者は難色を示すことは想像できている。

 しかしだ、ここまで強く拒否するのは第四位、麦野沈利くらいなものだと思っていた。

 

「なあ心理定規ちゃん、なんでこいつこんなに機嫌悪いわけ?」

 

 ソファーに背中を預け、隣の心理定規に尋ねる。

 

「私にだって分からないわよ。ここ最近ずっとこんな調子だし、私達まで能力に潰されるんじゃないかって気が気じゃないないわ」

 

「えーこわ、自分の気持ちを制御出来ないガキじゃん。えーこわ」

 

 垣根の目を読み解くと、明らかに自分に悪感情を持っていることがわかる。はて自分は垣根に何かしただろうか。

 あの御天堕しの事件から垣根とは会っていない。なのでもし何かあったらその時なのだが、いくら考えても答えは出ない。

 

 天使との戦闘の後に正体を尋ねられた際、「天使だけど、お前も同じ感じに羽生えてるから天使じゃん、ガハハ」と返答したのが悪かったのだろうか。

 それはその場で頭を叩かれて終わりになった筈。事件は解決したので次の日は海に入ったり、砂浜で遊んだりと童心に帰って遊んだ。

 

「あっ! なるほどなー」

 

「凄いニヤニヤしてるけど、何があったか分かったのね」

 

()()()()はあれだ、夏休み一緒に遊んだ友達からその後の連絡が無くていじけてるのかなぁ? だってあんな風に遊んだのって久々、いや初めてだろ」

 

「なにそれ、可愛いとこあるじゃない」

 

 垣根からの返答はない。図星だろう。

 

「ごめんな、うちの研究室に新しい被験者入れたから余裕なくてさ。あと木原のあのストーカーにちょっかい出されたせいでイライラしてて忘れてた。寂しかったよな、すまん。なんならこれから遊びに行く?」

 

「さっきから黙って聞いてれば、勝手にあること無いこと言いやがってふざけんな!」

 

 顔だけで人を殺せそうである。

 背中には三対六翼が生えている。

 

「そんなに怒ることないって」

 

「あなた、その煽りは無意識でやってるの? だとしたら才能よ」

 

「垣根にだったらここまでやっていいのかなって、意識的にやってるが」

 

「そう。あなたのせいで私も被害受けそうなんだけど」

 

「まぁまぁ」

 

 目の前の脅威(垣根)も何のその、無視をし続ける二人にその羽根を振るう。未元物質でできたその翼は、ただの人であれば一撃の内に葬る程の力を宿している。

 だからこそ、今こうして木原分数なんかの()()()で停止させられるはずはありえない事である。

 

「そうやって照れ隠しに能力を使うのは駄目だろ? 俺じゃなきゃ二人とも死んでたよ」

 

「確率操作をしたわけじゃなさそうだな。アレにこんな事が出来るはずがねぇ。もっとちゃちなもんだろ」

 

「たしかに確率操作はしてない、だけど能力は使った。この違いは分かるよな?」

 

 残りの五枚の翼で追撃を仕掛けようとして気づく、自ら生えているこの翼がもう自分の意志では動かせない事を。

 

「確率操作は副産物。正体はこれって訳か」

 

「正解。では更に問題だ。その正体とは何でしょうか」

 

 木原が麦野との戦闘を避けているのは知らされている。それを昔ながらの仲だから、と片付けるのは簡単だ。

 しかし、仮に他の理由があるとしたら。

 

 垣根帝督の能力には干渉できて、麦野沈利の能力には干渉できない理由が。それ故に戦闘を避けているという事実が存在するならば。

 

「そのイタズラに成功したような顔はやめろ。性格の悪さが出てるぞ」

 

「それはマズイ。こういうのは過去に捨ててきたんだった。どうだ、答えは出た?」

 

「これから見つけてやるよ!」

 

 




次回Case#3~Case#?


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