《リメイク》とある科学の確率操作   作:々々

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 長くなったので二分割。
 一週間後投稿。






閑話2-1

 case.1 過不足

 

「寝すぎた」

 

 真っ白な壁に囲まれた一室の中央に置かれた酸素カプセルのような機械の中で、木原は長い眠りから目を醒ました。頭で念じると機械が脳波を読み取り、装置が開く。長期に渡る睡眠による筋肉の衰えを防ぐ振動が停止する。

 装置から出る、久しぶりの床の感触だが、その間一切目覚める事も無く意識が無かった木原には数時間ぶりに立ったのと何も変わりはなかった。

 

「結構用件溜まってるな」

 

 タブレットで木原宛に届いた依頼書を確認する。9割近い依頼書を削除しながら、消されずに残った1割のメールを精読していく。

 削除されたものは全て木原の『確率操作(フェイズセキュリティ)』の前身である、『確率観測(オブザーバ)』の能力を目当てにしたものだ。

 『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が地上からの謎の攻撃で交信が出来なくなった現状、平凡以下の科学者たちは自らの実験の成功率を木原に求めたがる。だがそんなのは科学に対する侮辱であり、一切応える気がないのが木原のスタンスだ。

 

「となると……」

 

 性急に行わなくてはならない事、時間を掛けても良いものを頭の中で振り分け各々にメールでの返信をする。殆どが定型句での返信となるためあまり時間は掛からなかった。外の廊下へとつかながる扉を開けるため、静脈認証のパネルに掌を当てる。扉は開き、一歩踏み出す。

 すると木原の脳で自動的に演算が行われる。

 

 内容は【窒素爆撃(ボンバーランス)の回避方向】。自らの命の危機となった場合のみに発動するように組まれた『確率観測』の自動執行プログラムが働いた。寝る前にこの施設の研究員に付けてもらった物のため、計画書では何度も見ても実際に体験するのは初めてだった。

 周りと自分の時の流れの差異に違和感を覚えながらも演算結果を元に体を移動させる。木原の元いた場所を発射された窒素の槍が通過する。

 

「自動演算のタイミングが悪いな。後で改良させなきゃいけないか」

 

「無視すんなこの腐れ外道」

 

「誰が外道だ」

 

 『窒素爆撃』を行った黒夜海鳥が廊下の先からやって来た。着ているものは木原と同じ患者衣なのだが、黒夜のものは腹や脇などに幾つもの小さな円形の穴が空いている。

 不健康そうな隈が残る鋭い目を木原に向ける。

 

「もっとフランクに行こうぜ」

 

「人を攫っといて数日放置する様な奴とフランクに接する事のできるアホが居るなら、是非とも会わせて欲しいね」

 

「残念ながら今は無理だね。時間遡行が可能なタイムマシンが開発されるとも思わないし。数週間後で良いなら鏡を見れば会えるさ」

 

 能力を放たんとする黒夜の掌に木原も同様に掌を合せる。『窒素爆撃』の射出口である掌に触れる事は危険な行為だ、しかし彼女の演算思考を自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を完全に理解している木原にとって痛くも痒くもない。

 掌を起点とし、空気の7割を占める窒素を槍状に固定し発射する能力。その肝心要のポイントは起点が決まってる、ということだ。人間の性質上起点は2つしかなく、能力を知っているものからすればどこからやって来て軌道はどうなるかは簡単に考えられる。

 普通は斜線上から外れるのが回避方法となるのだが、掌を合せるだけで窒素を固定する空間が無くなり能力が発動できなくなる。

 最もそんなアホな真似をするのは木原以外にはいない。

 

「冗談はここまでにして。ここにいる奴らは全部俺が他の所から引っこ抜いて来た奴らだ。当然お前みたいに反抗的な奴もいたが、今はそんなのいないだろ?」

 

 離れようとする黒夜の手を恋人繋ぎで繋ぎ直す。予想外の行動に黒夜はビクリと体を震わせ、生まれて初めて感じる手の暖かさに心が揺らされる。

 

「なにすンだ」

 

「黒夜が会いたいって言うから会いに行こうかなって。食堂なら誰かいるだろ」

 

 ほれ行くぞ、と言われて連れて行かれる黒夜は愚痴を言いながらも頬を染めながらついて行った。

 

 

 

 case.2 出会い

 

 

「どうして私なんだ?」

 

「はぁ?」

 

 先程見ていたメールの中から今日訪問する先を決めて、何となく隣をついてくる黒夜と一緒にそこへ向かっていた。

 多分この質問はこの時のことを言ってるのではなく、どうして黒夜のみを研究室から連れ去らったかという意味であるのは分かる。

 

「木原の研究所に乗り込むなんて頭イカれてる」

 

「あんなのを木原って呼んでいいのか俺は疑問に思うけどな。発想が陳腐で面白みがない」

 

「ふぅん」

 

 敵地に攻め込む事に対して何一つも思う所がないような口ぶりだ。実際、木原にとって相手が格下だったことは事実だった。たかが無意識で科学を悪用出来る位で、木原を名乗ろうなんて図々しい。

 

「一番の理由は『暗闇の五月計画』の被害者だから。数少ない被験者を手元に欲しいなと思って」

 

「へェ」

 

「こわいな。欲しいと思ったのは他者の『自分だけの現実』を埋め込まれた場合の変化だけだよ。それが偶々『暗闇の五月計画』だっただけさ」

 

「それくらいならオマエでも出来るだろ。なンなら能力を使えば一発だ」

 

 空になったペットボトルで黒夜の頭を叩く。ポンと軽い音がする。

 

「科学者が自分の実験の結果だけを先読みするなんてナンセンスだろ。それに被験者を増やすっていうのも俺のやり方に合わない」

 

 通りかかった公園に設置されている自販機のゴミ箱にペットボトルを投げ捨てる。その公園にいる人はいないのでその行為に不感を持つものはいなかった。

 

「それに俺はお前を必要だと思った。俺は必要な駒を誰かに盗られるのは嫌だし、手元に置いて置きたいんだよ」

 

「嘘だな。私の承認欲求を埋め手篭めにしようとしてるのが丸わかりだ」

 

「一生勘違いしてろバカ」

 

 優しさには触れず、人の醜いところのみに触れ合ってきた。そんな黒夜には木原の優しさが裏のある汚い物にしか見えなかった。ある側面ではそれは事実であり、その点には木原も仕方ないと諦めるしかなかった。

 だからこそ、自分ではなく他者にその役割を任せることにした。

 

「あれ? ぶそくだ!」

 

「本当だ木原せんぱーい」

 

 学園都市では珍しい白色修道服の少女と掃除ロボットに乗ったメイド服の少女。木原には出来ないことが出来る二人だ。

 

「ぶそくもとうまみたいに色んな女の子連れてる!? どうして!?」

 

「人をそんな節操がないみたいに言わないでよ」

 

「たしかに上条みたいに木原先輩もいろんな女性と一緒に居ることが多いなー」

 

「舞夏もそんな事言わないでよ」

 

「だって事実だろ?」

 

 言われて考えてみるとたしかに色んな女性をとっかえひっかえしていた。風紀委員(ジャッジメント)の後輩やアイテムの面々、それと最近良く絡んでくる木原円周。

 

「たしかに」

 

「言ったとおりなんだよ!」

 

「まぁそんな話はもう良くて、そのパンクな服装の子は誰だー?」

 

 アイコンタクトで舞夏に上手く話を逸らすように頼むと、自然な流れで話題が黒夜へと移る。あとで何か奢ってと伝えてくるマッチポンプなメイドに感謝しなくてはならない。

 そして話題の矛先になった黒夜はあたふたしている。研究所での生活が長く、人とのコミュニケーションというものが無かったが故に急に話題を振られると慌てる。

 木原との会話は被害者加害者という関係によって、研究室で数多く触れた恨み辛みの感情で会話が成り立っていた。しかし、二人から向けられた純粋な興味。それは初めて味わうもので、上手く思考が纏まらない。

 

「こいつずっと研究所に閉じ篭ってたから話すのが苦手なんだ。あんまりグイグイ行くと、コミュ障出るから優しくな」

 

「コミュ障じゃねェ!」

 

「ほれ、その調子で自己紹介」

 

 背中を軽く押して二人の方へ行かせる。

 

「私はインデックスって言うんだよ! あなたの名前を教えて欲しいな」

 

「黒夜海鳥」

 

「よろしくね! うみどり!」

 

 純真無垢なインデックスの笑顔を真正面で受け止めてしまった黒夜は更に顔を赤くして俯く。

 

「よ、よろしく」

 

「よろしくなー! 私は土御門舞夏だぞー!」

 

 うんうん、と黒夜が年相応の反応を示したことに木原は内心ほっとする。二人でいる時は一方通行の攻撃性を前面に出していたため、インデックスと舞夏にも出さないか一応心配していた。

 それに、これで駄目だったらこれから行く所ではもっと大変なことになっていただろう。

 

「二人ともこの後暇か?」

 

「うん! とうまが学校行ってるから、まいかとお散歩してただけだから」

 

「私もシスターの面倒を見るだけだから何もないぞー」

 

「なら、これから俺たちが行くところに付いてくるか? インデックスと同じ位の年齢の子も居るから楽しいと思うが」

 

「行く!」

 

「おいっ」

 

 黒夜が首根っこを掴んで少し後ろの方へと引っ張っていく。木原は特に抵抗することなく、なすがままにされる。

 

「なに?」

 

「アイツらと一緒に行くつもりか?」

 

「そうだけど。嫌?」

 

「私たちみたいな暗部の人間とは出来るだけ居ないほうがいいだろ」

 

 人付き合いが得意じゃない割には、周りの事をちゃんと見てるし考えていた。

 

「それに関しては大丈夫だ。あの二人には凄い後ろ盾があるから、俺たちといるって事は瑣末な問題でしかないさ」

 

「はぁ?」

 

「つまりは、お前は同年代の子と仲良くするって事だけを頑張れば良いってこと」

 

 

 




これからもよろしくお願いします。

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