日野浦のとある商店街に衝撃の事件が発生した
近くに大型のショッピングモールが出来てから1店舗1店舗とシャッターを下ろして閑散とし閑古鳥が鳴り止まない、悲しみを背負った商店街の元パン屋の店舗で其れは起こった。
「外人さんですね」
「間違いねーな、然もこんな顔、この街で見た事ねーな」
「しかし、惨たらしい仏さんですねぇ」
「後ろから数十カ所の刺し傷、明らかな殺人事件って感じだが」
「こんな田舎でまさかの殺人…」
なんの気ない朝に散歩中に商店街を歩いていた老人は、元パン屋のシャターの下から赤いモノが流れ出ているのを発見する
その色とその生々しい匂いで其れが血液だと分かってしまう
腰を抜かした老人に更に学校に向かう途中の女子中学生が声をかけ、絶叫した後に警察に通報された
来たのは近くの交番に勤める警官2人で分かりやすく、ベテランと新米といった感じの風体だった
明らかに壊された裏手口から入った2人は元店舗の真ん中でうつ伏せで倒れている外国人らしき男性の死骸を発見する
明らかな殺人事件、平和な街に突然発生した異端の事件に困惑する
「大事件っスね…」
「取り敢えず本庁に連絡だーな」
「はい…すんません、ちょっと気分がぁ」
「まぁ、わかるがな」
死体は今まで見た事はあっても殺人事件程の無残な死体を見たのは2人とも初めてだった
2人が環境保存を優先しつつ県の警察署に報告を行おうとした時
「それは、ご勘弁して頂きたい」
「なんだ、あんた?ここには入っちゃならんぞ」
上から下まで全身黒い服を着た男らしき人物が突然現れた
目の前にいるのにまるでぼやけて男なのかすら曖昧に感じた
「全く、困ったものだ」
黒ずくめの男は何かを言っている、明らかに日本語では無い
「外人さんだね、あんたこの人と知り合いか何かかい?」
ベテラン警官が男に話しかけるが男は無視して死骸に近づく
「ちっと…」
黒ずくめの男を呼び止めようとしたベテラン警官は突然意識が遠くなるのを感じた、気付けば、新人警官は既に意識を失って倒れていた
「レイバン=ラムダ=ムスミテルで間違いなさそうだな、Dr.聞こえるか?」
『あー聞こえてるよ、そこで死んでるのは間違いな《アサシンのマスター》である筈のレイバンなんだね』
「えー、その様で」
『アサシンのサーヴァントが召喚されたデータは残っているが、マスターは死亡と、戦闘した形跡は?』
「見た限り魔術的戦闘が行われた様子はなさそうだ」
『こちらでも戦闘データは摘出されてないからなぁ』
「どうする、まだ今回の《実験聖杯戦争》のサーヴァントは全騎召喚されてる訳では無いのだろ?」
『あぁ、問題無ければ、今夜最後のサーヴァント・バーサーカーの召喚が実行される筈なのだが…』
黒ずくめの男はDr.と呼んだ男と会話をしながらも倒れた2人の警官にある術式を施していく
【記憶の改竄】
男が得意とする《魔術》は、人間の脳に干渉し意識や認識、記憶を操作する類のものだ
2人の警官に魔術をかける、脳に直接干渉し1時間前後の記憶を曖昧にし[特に何もなかった]と記憶を改竄する
その後2人の意識を覚醒させる、ぼんやりと立ち上がった2人はふらふらと店外へ出ていった
「Dr.これであの2人の問題は解決だ、目撃者達も記憶は改竄済み、そっちの方で警察署には?」
『大丈夫、圧力はかけて貰ってる、この後の処理は、お願いできるね』
「ああ、其れが仕事だからな」
『しかし、召喚されたアサシンのサーヴァントは何処に消えた…』
「さぁな、それは管轄外だ」
『だよね、全く…今回は遂にサーヴァント7騎を揃えるところまで来たんだ、やっとだよ!やっと!!過去27回の失敗から学び、培い、築き上げてきた結果なのですよ!更にこれか』
うるさいと通信を一方的に切り、認識阻害の術式を施して元パン屋を後にする
次はこの街の警察署で今回の件に関わった者の記憶を改竄しに行く
残った死骸は更に別の魔術使いが処理しに来るだろう、認識阻害の結界を張っておいたので一般人に再度発見される事も無いだろう
時間にして現在14時を超えた辺りで人通り増えてきた、警察署に向かう途中で結構な人とすれ違った、高校生の男子や母親と子供の2人、小学生の女の子など黒ずくめの男が歩いてきた方向に向かって行く、先にはシャッター街と化した商店街に向かっていく
そこに死骸がある事も気づかず
「和正君、怖いおじさんは向こうに行っちゃったよ」
黒ずくめの男と今し方すれ違った親子は男に聞こえない程度の声で話し始めた
「みたいだな、堂々とすれ違ったんだけどな、気付かないもんだな」
「楽しそうね和正君」
「まぁね、自分の魔術に自身があるんだろうが、この状況だけで言えば間抜けだろ、存在を曖昧にしてカモフラージュしてんだろうが俺らにバレバレな上に真横素通りなんだから、お笑い草だね」
「もー和正君、一所懸命頑張ってる人を笑う何て失礼よ、そう言う事は言わないの」
「うるせーな、聖杯戦争関係者のくせにサーヴァント見過ごして歩いて行っちまうんだから、まぁ分からせない様にはしてる訳だが」
「もー反抗的ねー」
「あと何度も言うが俺は《和正》じゃねー」
見ている限り母親が子供にお小言を言い、息子が反抗的に返している様に見える
しかし、実際は違う
子供に見える男の子は生きた人間では無い
聖杯戦争の為に日野浦で召喚されたアサシンのサーヴァントである
「ったく、何でこんな奴と一緒に行かなきゃならんのか」
「和正君はまだ子供何だから、お母さんと一緒にいるのは当然でしょ。ほーら今日の晩御飯のお買い物済ましちゃいましょ」
母親の様な女性は子供の様なサーヴァントの手を引いて進んでいく、さも当たり前の様にまるで本当の家族の様に
アサシンの本来の召喚者はこの女性に殺されている
召喚者は一般人では無い、こと戦闘であるなら魔術を使用し人を殺す事など容易い戦闘力を有している
それに対してこの女性は完全なる一般人であり、魔術の知識はおろか喧嘩だって今までまともにした事の無いような女性だった
そんな女性の凶行に召喚者は反応出来なかった
気付いた時には背後から刺されていた、反応しようとするが恐ろしい程の力で何度も何度も刺された。何度も何度も
召喚者は何一つ理解出来ずに意識を閉ざす事になった
薄暗い元パン屋の店舗の中でぼんやりと浮かび上がる様に佇む小柄なアサシンに向かって言った
「もう、大丈夫よ。お母さんが守ってあげる、今度こそ守ってあげるから」
アサシンのサーヴァントですら何が起きたのか理解に苦しむ状態だったが、召喚された以上は聖杯戦争に挑まなければならない、挑み勝たねば【願い】は叶わない
「守るだ何だはどうでも良いが、責任は取ってもらうぞ、お前がマスターを殺っちまったんだからな」
女性は泣きながら、慈しみながらアサシンに抱きついてくる
「もう離さない、ずっと一緒よ、和正君」
「おい、聞いてんのか?和正って何だ?」
こうして子供の様に見えるアサシンとその母親の様に見える田中部 陽子の