一日一回限定!好きなアニメ作品のモブになれる店   作:スピンポット

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初めての来店。オタ仲間が場所しか教えてくれない「知る人ぞ知る」名店とは?


のんのんびより

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

その店は

 

人通りの絶えない、駅前の大通り沿い。

 

雑居ビルにひっそりと存在した。

 

その名も、「ドリーム」。

 

 

「知る人ぞ知る名店」 とオタ仲間から教わったが

 

どんな店なのか、どこが名店なのか聞いても

 

 

「とりあえず諭吉さん握りしめて行ってみればわかる」

 

「夕方に行って朝帰りな」

 

 

としか教えてくれないので

 

気になるし、行ってみることにした。

 

 

 

時刻は夕刻17時過ぎ。

 

オタ仲間から店の場所だけ聞かされていたので

 

Googleマップにそれを入力

 

地図を頼りに

 

店を目指す。

 

駅前の大通り沿いなのですぐ店の前に着いた。

 

 

ん?

 

 

(あれ?これ、アニメ○ト、だよな…)

 

どう見ても目の前にあるは、アニメ○ト。

 

住所打ち間違えたかな…と3分くらいうろうろ迷っていたが

 

目の前をよく見ると、アニメ○トは3階までのようで

 

目の前のビルは4階建て。

 

4階に何があるか、看板もなければ案内も見当たらないのが実に怪しいが

 

(多分この4階に目指す店があるんだろう…)

 

そう期待して、ビルの階段をのぼる。

 

途中、3階から上にのぼろうとしたら、目の前に

 

「これより先、関係者以外立ち入り禁止」

 

の看板が行く手を阻む。

 

 

「俺は関係者だ」と訳の分からない理屈を心の中で呟きつつ、のぼる。

 

いや、今回は、オタ仲間を信じて、その先に店があると思って強行突破するだけなので

 

許してください。看板を立てた人。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

案の定、4階にその店はあった。

 

木彫りの看板で「ドリーム」と書かれている。

 

店の中に入ると、黒服のジェントルマンが

 

「いらっしゃいませ」

 

とイケボボイスで一言。

 

 

店内はめちゃくちゃ高級な雰囲気。

 

ホテルのロビーかな?

 

黒服にフロントに案内され、初めての来店であることを伝えると

 

誰からの紹介か尋ねられた。

 

あ、これが一見さんお断り、てやつか。

 

知る人ぞ知るわけである。

 

そして一通り説明を受けたので、要点だけ大雑把に。

 

 

・一日一回利用でき、一回当たり最大約12時間かかる。

 

・一回一万円。

 

・一回で一作品、自分の見たことのあるアニメ作品に、モブとして出演できる夢を見る

 

・夢の中では、命に係わるレベルの痛みや苦しみは感じないが、作品中で楽しめるレベルの感覚は存在する

 

・夢の中で体力ゲージが0になる、12時間を経過する、モブとは言えない程作品の進行に関与する、その他罰則行

為にあたると判断された場合、夢から覚めてサービス終了となる

 

・夢の中でゲットしたものは持ち帰れないが、夢の記憶は鮮明に持ち帰り可能

 

とのこと。

 

 

何これ。

 

アニオタとして夢のようで期待しかないんですけど。

 

いや、でも、夢の再現クオリティーが残念な場合もありそうだし…

 

まあ、とりあえず一見に如かず。

 

黒服に諭吉さんを渡して、いざ夢の世界へ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

と、案内されるは、ベッド1つに机1つだけのシンプルなお部屋。

 

机の上には一杯の水と錠剤が一つ。

 

これを飲むと30秒ほどで眠りに落ちるらしいのだが

 

その30秒で頭の中をひたすらアニメ作品の題名やら場面やらで一杯にする。

 

雑念が入り過ぎると、下手すればただの睡眠で終わってしまうこともあるらしい。

 

この30秒が勝負なのである。

 

心を決めて、錠剤を口に含み水で流し込む。

 

心の中で作品名を唱えつつ、次第に意識が遠のいていく…

 

 

 

ふと、気づく。

 

目の前に広がるは緑。

 

流れゆく小川。道を走っていくイタチ。

 

のんびり流れゆくような、時間。

 

来てしまった。

 

本当に、来てしまった。

 

(!!!!!!!!!!!!)

 

心の中を大興奮が支配する。

 

お気づきだろうか。

 

私が望んだのは「のんのんびより」の世界である。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

とりあえず探検したいんだけど、その前に。

 

目の前に「体力ゲージ」と「残り時間」の表示がある。

 

ゲームやる人ならわかると思うけど、ゲーム画面風な感じ。

 

体力ゲージは%表示なんだけど、何をどれだけすればどれくらい減るのかわからない。

 

それに休憩すれば回復するものなのか?

 

試しておく必要がありそうだ。

 

 

というわけで、300メートルほど全力疾走してみた。

 

息も切れてかなり疲れたのだが

 

表示は残り75%。

 

意外と無理しても大丈夫な様子。

 

休憩すると、じわじわだが回復するようだ。

 

ふと、手近なところに甘柿がなっていたので、もいで食べてみる。

 

甘い。実にうまい。

 

感覚も申し分ない再現度のようだ。

 

体力ゲージも回復してるし。

 

その後いろいろ試してみたが

 

体力や感覚については、現実世界基準で考えておけば問題ないだろう。

 

よし、前座は終わりだ。

 

おもいっっっっっっきり、この夢を堪能してやる!!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

と、この「のんのんびより」の世界に来て、やることといえば…

 

「緑の中でごろ寝」

 

しかなくないですか?

 

とばかりに緑の斜面でごろ寝を始めてみた。

 

ちなみに、時期は、晴れてて花粉を気にしなくていい、5月中旬を指定してます。寝る前に。

 

 

 

目の前に広がる

 

緑あふれた、人がいない人里。

 

春風吹き抜ける

 

日差しがあたたかい、心地よい五月晴れ。

 

向こうの方の

 

小川の流れる音。

 

例の何時間かに一本しかない

 

バスの走る音。

 

ここは、時間がゆっくり流れている。

 

 

(まさに、至高…)

 

 

そんな雰囲気に包まれつつ、またもや意識が遠のいていく…

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

と、思わず眠ってしまったようだ…

 

残り時間は5時間と49分。

 

5時間も寝てしまったようだ…もったいない。

 

ふと、横を振り返ると

 

2,3メートル横で、紫髪の少女が絵を描いていた。

 

このツインテール…間違いない。

 

この話の主人公様である。

 

・・・・・・・。

 

って、冷静でいられるわけもなく

 

 

(れ、れんげちゃんじ、じゃぁないかぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!??)

 

 

と、突然舞い降りたイベントに心がぴょんぴょんせざるを得ない。

 

是非とも一言、話をしてみたいところであるが、

 

そこで頭をよぎるは

 

「モブとは言えない程作品の進行に関与する」と夢が強制終了するルール。

 

モブとは言えない程、がどの程度の接触でアウトなのか?

 

一つ間違うと、このココロオドルイベントが強制終了、涙の撤退なのである。

 

メインキャラに話しかけるだけでアウトなのか?それくらいならセーフなのか?

 

ここはよく考えないといけない。

 

よく、考えないと…

 

 

 

「あ、おきたのん」

 

 

 

あああぁぁぁぁ!!!!

 

イベントが強制的に始まってしまった…!!!

 

これは、後に引けない…

 

と、とっさに出た言葉がこれだった。

 

 

「あっ、宮内、れんげちゃん、だよね?」

 

 

あっ。まずい気がする。

 

 

「なぬっ!?なんで名前しってるん!?」

 

 

や、やばいぃぃぃぃいいいい!!! 俺ノバカヤロォォォオオオオオ!!!!

 

見知らぬ男がなぜか自分の名前知ってるとか、不審者案件じゃぁないかぁぁぁあああああ!!!

 

 

「さ、さてはアナタ…」

 

 

あぁ…夢、強制終了、かな…

 

 

「組織から派遣されたスパイさんですのん!!??」

 

 

夢…まだ続いているようだ。

 

そして話の流れはというと、れんげ殿の超個性的な切り返しのおかげで

 

何とかごまかせそうである。

 

結局、役所の人間でここの様子を見に来た、と言っておいたら、

 

 

「そうなんか…でも、サボりはダメなのん」

 

 

と、この先30分ほど、小学一年生に説教を食らうこととなった。

 

もちろん、私にとってはこの上ないイベントである。(Mじゃないよ)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

れんげ殿の説教がひと段落し

 

「おっ、オニヤンマなのーん!!!」とトンボを追いかけれんげ殿が撤退したので

 

残り5時間弱は周辺をぶらつくことにする。

 

現実世界では最近になって「聖地巡礼」なるものが流行り

 

決して安くはない交通費をかけて日本各地、ひいては海外まで足を延ばす巡礼者があとをたたないが

 

今私がやっている行動は聖地巡礼なんてちっぽけなものでなく

 

その作品世界そのものを自分の足で歩いている。

 

しかもその歩いた記憶、見た景色は起きた後にも鮮明に残っているという。

 

アニオタ聖地巡礼好きの私にとってこれ以上の幸せがあるだろうか。

 

有形物は持ち帰れない為、カメラに写して保存できないのが残念極まりないところだけど。

 

 

ほたるんが飛び降りるのに苦労した橋を見に行った。

 

駄菓子屋に行って、駄菓子買ってみた。

 

駄菓子屋にも世間話ついでに素性を聞かれたので、役所の人間とごまかしておいた。

 

芝生に座って食べる駄菓子はうまかった。

 

トンネルはマジで暗かった。

 

途中、ほたるんとこまちゃんと出会った。

 

「こんにちは~」とあいさつされたので、モブらしく無難に返しておく。

 

こまちゃんはほんと小さかった。ほたるんはほんと、見た目人妻だった。

 

宮内家と富士宮家の横も通った。

 

富士宮家から楽器の音がした。そういえば吹奏楽部だっけ。

 

 

そして、残り1時間。日は沈んでしまった。

 

おなかが空いたので、例の甘柿をもいで食べる。うまい。

 

そして、はじめごろ寝してた芝生にまたごろ寝する。

 

 

目の前に見えるは、家の点々とした灯り

 

聞こえてくるは、田んぼでにぎやかになくカエルの声

 

ほのかに匂うは、草と土のにおい

 

ごろ寝して、駄菓子食べながらうろついて、またごろ寝。

 

12時間でやったことはこれだけ

 

でも、これこそこの世界で私がやりたかったことであり

 

残り3分となった私の心の内は

 

半分が満足、もう半分は「帰りたくない」であった。

 

そして、意識がまた、遠のいていく…

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

気が付くと、私はベッドの上。

 

時計を見ると、日をまたいで朝の5時になっていた。

 

夢の記憶はしっかりと残っているようだ。

 

今日も仕事なんだけど、心と体が信じられない程軽くなっており、

 

やる気がいつもの10倍増しである。

 

黒服殿に聞いてみると、モーニングと朝シャワーが無料で利用できるらしく、

 

ほんと、ここは天国だろうか…と真面目に考えてしまった。

 

会社行ったら真っ先に、オタ仲間に礼を言わねばなるまい。

 

 

次は、いつ来れるだろうか…

 

 

END

 


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