Masked Rider BAGX-AID   作:ドラーグEX

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第1話 出会うgirls!

 私立清都大学付属高校。

 二年C組の教室の窓際の席で、自らの腕を枕にして穏やかな寝息を立てる少女がいる。

 

「んぅ……もう食べられない……」

 

 周囲から注がれる視線など微塵も感じないまま、寝言まで口にしている。

 そこへスーツ姿の青年が近づき、手に持っていた教科書を筒状に丸めた。

 

「起きろ、櫻井」

 

「あたっ!」

 

 頭に降ってきた衝撃に少女はびくりと肩を上げた。

 

「いったーい……!」

 

 叩かれた頭をさすりながら少女——櫻井(さくらい)(エミ)が体を起こした。

 

「俺の授業で爆睡するなど、言語道断。これは当然の報いだ」

 

 丸めた教科書を元々開いていたページに戻したグレーのスーツを着た青年、世界史教師の福戸(ふくと)真悟(シンゴ)がため息混じりに告げる。

 

「ひどいよ福戸先生! タイバツだ! タイバツ!」

 

 エミが荒ぶると、後ろで束ねた肩までかかる黒髪が、彼女の動きに合わせて揺れた。

 

「やかましい。角でやられなかっただけありがたく思え。さっさと教科書を開け。涎もふいておくんだぞ」

 

 クラスメイトたちの笑い声を浴びながら、エミは手の甲で涎をぐしぐしと涎を拭った。

 

 ◆

 

「もー、エミったら。福戸先生の授業で寝るなんて命知らず過ぎるって」

 

 放課後の帰り道。

 エミのクラスメイトで友人の鳶岱(とびたか)未来(ミライ)が明るい声で笑い飛ばした。

 勝気な切れ長の目が、見る者に活発な印象を抱かせる。

 

「だって、福戸先生の授業退屈なんだもん」

 

 口を尖らせるエミの隣には、もう一人の女生徒がいた。

 

「こんな様子で成績がそこそこ良いんだから、解せないわよね」

 

 同じく友人の霧城(きりしろ)弥子(ヤコ)が、通学に使っている自転車を押して歩いている。

 縁なしの丸眼鏡をくいと上げる彼女は文武両道を地でいく、クラスでも指折りの才女だった。

 

「いや、逆にこんなだからじゃない?」

 

「ああ、かもね。そして他人に教えるのは壊滅的に下手なんだからタチが悪いわ」

 

「やめてよー。そんなに褒めたってなんにも出ないよ?」

 

「ミライはともかく、私は褒めたつもりないんだけど……」

 

 いつもと変わらない下校風景。

 しかし、それに水を差すように拡声器の音声が響いた。

 

「みなさん! 目を覚ましてください! このままでいいわけがありません!」

 

 思わずエミは足を止め、ミライとヤコも立ち止まった。

 エミたちの視線の先にある街の大通りで、スーツを着た中年男性が、数人の男女がビラを配っている中央で演説している。

 

「バグスターによる犯罪は年々増えています! これはバグスターたちが創造主への感謝を忘れ、自分たちの立場を忘れたからに他なりません! バグスターによって、我々の世界は穢されたのです! 我々はバグスターを根絶することで、我々の住む世界を清く正常なものにする必要がある!」

 

 演説する男の足元には、バグスターウイルスを模した薄汚れたぬいぐるみが転がっている。

 男は時折それを踏みつけていた。

 

「やだね、あれ……」

 

 エミの中に生まれた嫌悪感が、たまらず口から言葉になって溢れる。

 

「人間至上主義の前時代的な人間よ。気にすることないわ」

 

「そうそう。あんな事言ってるの、ちゃんとバグスターを理解してない人達だけだって」

 

 ヤコとミライは気にしているそぶりもない。往来を行く人々も、男の話など無視してその前を素通りしている。

 

 バグスターウイルス——人体に感染するように進化を遂げたコンピューターウイルス。

 感染した人間のストレスが限界を超えるとその人間が消滅してしまうため、バグスターは根絶の対象だった。

 

 けれど、それは五十年も前の話。

 今ではバグスターと人は共存して、生活を送っている。

 エミたちの通う清都大学付属学校も、生徒や教師を含め半数近くがバグスターだ。

 

「ミライの彼氏だって、バグスターだもんね」

 

「そうだった! あんなにカッコいい彼氏いるなんて、羨ましいぞー」

 

「ちょ、や、やめてよ二人とも……!」

 

 三人の中で唯一彼氏がいるミライを、ヤコと一緒に冷やかす。

 友人のゴシップなんてものがあるから、彼女たちの話題は尽きない。

 

「最近どうなの? どこまで行ったの?」

 

「手は握った? キスはした? もしかして、それ以上!?」

 

「え、エミたちには関係ないでしょ! 踏み込みすぎ!」

 

「あら、エミさん、この子照れてますよ」

 

「本当ですねヤコさん、これは怪しいですよ」

 

「だーかーらーっ!」

 

 カバンを振り回し始めたミライから逃げる。演説の声はいつのまにか聞こえなくなっていた。

 

 ◆

 

 ヤコとミライと別れたエミは、いつもと同じ時間に我が家に着いた。

 

「ただいまー」

 

「あら、エミちゃん。おかえり」

 

 この家の一階は、『ラ・ジェルム』というカフェになっている。

 幼い頃に両親を亡くして叔母のレイコに引き取られたエミは、高校に上がってからこの店の手伝いをしていた。

 

「レジの方お願いね」

 

「はーい」

 

「おお、エミちゃん」

 

「あ、デルムさん。来てたんですね!」

 

 町内会の会長をしているデルム。この男もバグスターだ。

 けれど、見た目は人当たりのいい老人そのもので、言われなければまず気づけない。

 

「すっかりこの店の看板娘だねぇ。うちの商店街が華やかになって助かるよ」

 

「ありがとうございます! 追加注文してくれたら、お話相手になりますよ〜?」

 

「はは、ちゃっかりしてるねぇ。けどごめんよ。これから商店街の会合なんだ」

 

「残念。お会計は420円になります」

 

 ちょうどの金額の小銭をレシートと交換する。エミの手のひらで小銭が跳ね、澄んだ音が鳴った。

 

「それじゃあね。ごちそうそま」

 

 ハンチング帽を軽く上げて挨拶して、デルムは店を出る。

 

「ありがとうございましたー!」

 

 その姿を見送ったエミは扉横の窓の向こうに、少女がいるのを見つけた。

 隠れるようにして、エミのことを見ている。

 

「あの子……」

 

 小学校低学年くらいの子だ。それが一人で店の前にいるのでは、見過ごすわけにもいかない。

 

「おばさん、ちょっとごめん」

 

「あ、ちょ、エミちゃんっ?」

 

 お店を出たエミは、その女の子に声をかけた。

 

「どうしたの? お店の中にお母さんかお父さんがいるの?」

 

「………………」

 

 エミの顔をじっと見つめる少女の瞳は、星のような銀色をしていた。

 腰のあたりまで伸びた髪もきらきらと銀色に輝き、神秘的な雰囲気を少女に纏わせる。

 だが、エミの目を引いたのはその雰囲気の中で明らかに異質な黒いスーツケースだった。

 

「え、えっと……大丈夫だよ? 怖いことなんてしないからね?」

 

 警戒されていると考えたエミがしゃがんで目線を合わせてほほえみかけると、

 

「……きゅう」

 

 少女はエミの胸に飛び込むように前のめりに倒れた。

 

「わ!? どうしたの!?」

 

「……た……」

 

 言葉になり損ねた声が少女の口からこぼれ、エミは少女に耳を寄せる。

 

「お腹……すいた……」

 

 少女を抱えたエミが、空いていた奥のテーブルに駆け込むまで、一分とかからなかった。

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