Masked Rider BAGX-AID 作:ドラーグEX
「ハア……ハア……ッ」
スーツケースを抱えて夜道を走るショウ。
その思考は、ただ『逃げる』ということだけを考えていた。
だが、行くあてはない。
せっかく見つけた拠点候補も、すぐに引き払ってしまった。
とにかく身を隠さなければ。
そう考えるも、ショウのいる場所は開発途中の清都商店街の外れで、隠れられる場所は見当たらない。
「見つけたぞ。コード・H」
聞こえた声に、ショウは足を止める。
ぬう、と前方の闇の中から現れたのは、福戸だった。
街灯に照らされる顔に、濃い影が浮いている。
「お前がこの街に潜んでいることは調べがついていた」
その背後から、重たい足音とともに異形が現れる。
黒いマネキンの全身に地図が張り巡らされたようなその姿に、ショウは危険を察知した。
「上手く隠れおおせていたようだが、不用意に動いたのが運の尽きだな。大人しく持っているものを渡せば命は助けてやる」
「これは……渡せない!」
「そうか。なら仕方ない。——やれ」
怪人が獣のような唸り声をあげ、右手を闇色に揺らめかせる。
「……ッ!」
即座に反対方向に走り出すショウ。
「逃すかっ!」
だが福戸の声に合わせて動いた怪人が放ったエネルギーの塊に襲われ、地面に転がった。
「くっ……うう……!」
じりじりと迫る怪人。ショウは胸の奥からひやりと冷たいものが上ってくるのを感じた。
「貴様の生死は瑣末な問題だ。というより、死んでくれた方が助かる」
福戸の明確な殺意。だが、ショウはそれと別の気配に顔を上げた。
「ショウちゃーん? どこー?」
「!?」
懐中電灯を持ったエミが、曲がり角から出てきたのだ。
「どうして……」
思わず漏れた声が聞こえたのか、エミがショウに気づいて駆け寄ってきた。
「あ、いた! ショウちゃん!」
ショウを抱き起こしたエミはショウの服に付いた砂埃を払う。
「転んじゃったの? 怪我はない?」
「どうしてここに……! 忘れてと言ったはず!」
ショウの剣幕にエミは戸惑う。
「え、だ、だって、あんなこと言われて、放ってなんておけないし……ん? わあ!?」
だが、暗がりに蠢く怪人に気づき、エミは尻餅をついた。
「な、なんなのあれ……!」
「櫻井か。今日はよく会うな」
福戸が怪人の横に並ぶ。
「先生!? ま、まさかそっちの人、先生の知り合いなの?」
「気にするな。すぐに終わる」
怪人が一歩前に出て、エミは地面にへたり込んだまま後ずさる。まだ、眼前に広がる状況を飲み込めていなかった。
「………………」
ショウはわずかな逡巡のあと、迷いを取り払うように首を横に振り、真剣な光をその目に宿してエミの横に跪いた。
「あなたにも、時は来た」
「な、なに?」
「——神様を目指す気、あなたにはある?」
「え?」
ショウがスーツケースを開く。
そこには明るい緑色の、何かの装置が安置されていた。その横には、透明基盤が接続された灰色の小型機械も添えられている。
装置は傷ひとつない綺麗なものであったが、小型機械は劣化が激しく、内部構造がむき出しだ。
「ゲーマドライバーにガシャット……! やはり隠し持っていたか!」
それを見た福戸がうめく。
「ゲーマドライバー……? ガシャット?」
エミは福戸の口にした言葉を復唱し、それが自分の知識の中に無いものであることを認識した。
「櫻井! それをこちらに渡せ!」
聞いたことのないほど鋭い声が、エミの耳をつんざく。
「先生……?」
「それさえあれば、俺は全能の存在となることが出来る! さあ、早く!」
血走った福戸の目に、エミは目の前にいる男が自分の通う学校の教師だとは思えなかった。
「ダメ。彼にこれを渡したら、あなたはきっと殺される」
「殺す? 先生が、私を……!?」
「あなただけじゃない。あなたの大切な人も」
「そんな……」
「だから、選んで。守るために戦うのか、生きるために逃げるのか」
透き通った瞳で見つめながら、ショウはエミに告げる。
エミは福戸とゲーマドライバーとショウを順に見て、混沌に渦巻く思考を纏め上げた。
「よくわからないけど、私にできることなら……!」
エミの手がゲーマドライバーとガシャットを掴む。
福戸はほくそ笑み、手を伸ばした。
「いい子だ。さあ、こっちに渡せ!」
「……お断りします!!」
高らかに叫び、エミはゲーマドライバーを装着する。
「なにっ!?」
愕然とする福戸。
「選んだね。神様への道を」
ショウはエミの手首を掴んで、ゲーマドライバーを腰にあてがわせた。
「え? う……っ!?」
エミは頭の奥で弾けた情報に、軽いめまいを起こした。
「私、これ、知ってる……」
ふらつくもすぐに脚に力を入れ直したエミは、握っていたガシャットの
透明基盤が白く光り、
『マイ……ション……ックス!』
掠れた音声が鳴り響き、ノイズ混じりの映像が空中に浮かび上がる。
吸い込んだ冷たい夜の空気を、熱と決意に満ちた声に変え、エミは今一度高らかに叫んだ。
「変身!」
スロットにガシャットが挿入された。
次の瞬間、エミの周囲をセレクト画面が回り出し、たった一つだけ浮かぶセレクト画面が突き出されたエミの右手と触れる。
『……ッゲ……ツゲーム! ゴッ……ム! ワッ……ネーム!? ……アイムアカメンライダー!』
「……ん? えっ? ええっ!?」
激変した自分の姿に、エミは驚きを隠せない。
視点の高さが下がり、手足もずんぐりと丸みを帯びた。
本人からは見えないが、エミの身体は四頭身の戦士になっていた。
「これが、私? なんか、丸っこい……」
「おのれええええっ!」
福戸の激昂に連動するように、怪人がエミに襲いかかる。
「きゃっ!」
頭を手で守りながらしゃがんだエミは、そのまま通路を転がりだした。
「わ、わ、わあああっ!?」
地面や壁でボールのようにバウンドし、エミは偶然的に怪人に体当たりを決めた。
激突の瞬間、『HIT!』という文字が浮かび上がり怪人が吹っ飛ぶ。
「おお……私、すごい!」
壁にめり込んだ怪人はすぐにその身体を起こし、エミに襲いかかる。
「グアアッ!」
「ひゃあっ!?」
一撃目は避けられた。しかし、返す二撃目がエミの胴を捉える。
「うわっ!」
ジンジンと熱を持つ痛みに、エミは苦悶する。
と、胸のゲージが三分の一ほど減少した。
「え、な、なんか減った?」
「ライダーゲージ。それは、あなたの残りHPを示してる」
エミの背後で助言したショウは、空になったケースを抱きしめている。
「これ、もし無くなったらどうなるの?」
「……ゲームオーバー。あなたは死ぬ」
「ええっ!? ど、どうすればいいの!?」
「あいつを倒すしかない」
「倒すって言われても——うわっ!?」
二人の会話を遮るように、肉薄した怪人が腕を振り下ろしてくる。
両手を交差させて受け止めたエミは力任せに怪人を突き飛ばした。
「レバーを引いて、レベルアップして!」
「レバー? レベルアップ? こ、これ!?」
エミはドライバーの横に付いていたレバーに手をかけ、勢いよく引いた。
『レ……アッ! マ……テ、ァ……ック! マ……シ……X!』
ほとんどノイズとしか聞き取れない音声の後、エミは自分の身に起きた変化を認識する。
「わあ、普通の手足だ!」
現れたのは等身大の銀色の戦士。
「ついに見つけた。世界を、バグスターを救う伝説の戦士……! 仮面ライダーバグゼイド!」
「バグゼイド……」
仮面ライダー。
バグゼイド。
エミはショウの口にした言葉がこの姿の名前だと直感する。
「このままで済むと思うな……!」
闇の中に沈むようにして、福戸はこの場から離脱する。
「あ、せ、先生!」
「ダメ! 今はこいつを優先して!」
「う、あ……わかった!」
戦う意思を固めたエミは地面を蹴り、とてつもない跳躍力で怪人と距離を詰めた。
「は! やっ! ええいっ!!」
圧倒的なスピードで叩き込まれたパンチとキックが怪人の体力を削る。
怪人は反撃とばかりにアンダースローで右腕を振るう。
すると地面が異様に隆起し、エミはと襲いかかった。
「ああっ!」
仰け反ったエミは態勢を立て直し、強化された視力で自分を攻撃したものの正体を見た。
「なに? ……ビル?」
それは高層ビルのミニチュアだった。
ミニチュアといってもエミの胴体を優に越す大きさなので、直撃すればダメージは必至だ。
怪人は両腕を振り小さなビルを立て続けに作り出し、エミを攻撃する。
「ショウちゃん! どうしよう!?」
「相手も体力は少ない。ガシャットを横のスロットに入れて!」
「横? あ、これか」
エミはガシャットを抜き、ベルトの左横に装着されたキメワザスロットに差し込んだ。
『キメ……ザ!』
圧縮されたエネルギーが光となり、エミの右足に集約していく。
「ボタンを押して! それでキメワザ!」
「キメワザ……ああ! 必殺技ってこと! よーし!」
スロットの起動ボタンが押されることで、爆発的に増幅したエネルギーがエミの脚力を強化する。
『………………。クリティカ……ス……ライク!』
「はあああーっ!!」
迫り来るビル群を躱して空高く跳躍したエミは、夜闇を切り裂く光を纏った強烈なキック怪物の胴に叩き込んだ。
「グギャアアアア!!」
絶叫とともに爆発する怪人。爆炎の上に『GREAT』の文字が浮かび、そして消えた。
『か……し、ん……ぱつ!』
なにやらまた音声が聞こえたが、エミにはなんと言ったか聞き取れなかった。
「ふう。……ん?」
着地して短く息を吐くエミ。
その一秒後に足元に転がったものに気づいた。
「これ、私が使ったのと同じ……?」
エミが手に取った濃緑色のそれは、間違いなくガシャットだった。
「クミタテアーバン……」
『KUMITATE URBAN』と銘打たれたタイトルを読み上げたエミは、背後でドサリと人が倒れる音を聞いた。
「え、デルムさん!?」
地に伏していたのは、町内会長のデルム。
「デルムさん、大丈夫ですか?」
抱え上げて声をかけるが、気を失っているようで反応はない。
そしてエミはハッと気づいた。
「まさか、あの怪人が、デルムさんだったの?」
「そうだけど、そうじゃない」
歩み寄ったショウが、デルムに手を当てる。
「この人は、あの男に駒にされてしまっただけ。多分、その時からの記憶もない」
「あの男……先生のこと? ショウちゃんは、福戸先生のなにを知ってるの?」
「それは——」
ショウの言葉を遮って低く轟くエンジン音。
「こ、今度はなに?」
身体の奥に響いてくるその音に、エミとショウは振り返る。
「デ・バグスターの気配がするから来てみたんだけど」
「まさか、新人さんが増えてるなんてね」
奇妙だった。
そこにいたのは、黄色の大型バイクに跨った赤い甲冑の戦士。
時代の交錯ぶりもそうだが、エミが奇妙に感じたのはその声だった。
一人しかいないはずなのに、声は二人分。
「バイクが喋った?」
そうとしか結論を出さなかったエミに、またも二人分の声が聞こえる。
「ふふふ。勘もいいみたい」
「まあ、そんなことどうだっていいけど——ね!」
甲冑の戦士がバイクを操り、エミに突進した。
「危なっ!?」
咄嗟に交わしたエミに、赤い甲冑の戦士は握った剣の切っ先を向ける。
「会って早々で悪いけど……。あんたのガシャット、いただくよ!」
その声と共に、二度目の突進がエミに迫った。