Masked Rider BAGX-AID   作:ドラーグEX

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第6話 夕闇のteacher!

 

端的にいうと、学校での時間は普段通りに過ぎていった。

いつも通りに授業を受け、いつも通りに昼休みに友達と弁当を食べ、午後の授業もこなした。

 

「ぜ、全然気が休まらなかった……」

 

放課後すぐ。エミはぐったりと机に突っ伏している。

 

「エミ、今日どうしたの?」

 

「なんだか変よ? 今日のあなた」

 

エミの席にやってきたミライとヤコが、心配するようにエミの顔を覗き込む。

 

「授業中も忙しないし、昼休みも弁当食べながらキョロキョロしてたし」

 

「そうそう。リスみたいになってたわよ」

 

「り、リス……」

 

自分的にはバッチリ隠していたつもりだったのだが、そんなにあからさまだったのでは、隠密行動は向いていないなと心の中で思う。

気を取り直したエミは咳払いをしてから二人に向き合った。

 

「ところで二人とも、今日は空いてる? よかったらうちの店に来ない?」

 

すると、ミライとヤコは二人とも同様に表情を強張らせた。

 

「ご……ごめん。実は用事できちゃってさ。先に帰らせてもらうわ」

 

「私も。前から予定が入ってて」

 

「あ、そうなんだ」

 

「お店にはまた今度行かせてもらうから」

 

「私も。エミの奢りね?」

 

「いや、今朝売り上げに貢献してくれるって言ってたじゃん!」

 

笑いあって、教室を出ていくミライとヤコを見送ったエミは、肺に詰まった空気と共に、少しばかり神経質になっていた自分を吐き出した。

 

「なんだか拍子抜け。変に気張って疲れちゃった。私も帰ろ」

 

カバンを掴んだエミは廊下に出る。

春先とはいえまだ肌寒く、廊下もオレンジ色に染まっていた。

 

「ショウちゃん、何してるかなぁ」

 

あの収まりのいい身体を抱いて、頭を撫でてあげたい。

そんな平和な考えをしたとき。

 

「——櫻井」

 

背後から聞こえた声に、心臓がどきりと跳ねる。

その声の持ち主が、一瞬で理解できたからだ。

ゆっくりと振り返る。

そこには、昨日の夜に会ったきりだった世界史教師がいた。

 

「福戸先生……。今日は、お休みじゃあ?」

 

出方を伺うように、言葉をかける。

だが、福戸はエミを見つめたまま人形のように動かない。

怖いくらいの沈黙。

誰かの話し声が、遠く、とても遠くに聞こえる。

耐えきれなくなって、エミはまとまりきらないうちに声を発した。

 

「あ、あのっ」

 

「話がある。来い」

 

有無を言わさない声音。

返事を聞く前に踵を返した福戸を追い、エミは昇降口とは反対の方向へ歩き出した。

 

 

校舎の屋上は普段は封鎖されているが、今日この日は開放されていた。

福戸が手を回したのだろうかと、エミはなんとはなしに考える。

 

「それで、話ってなんですか?」

 

放課後の屋上で、若い男性教師と二人きり。桃色の展開が容易に想像できるはずだが、それはエミが福戸の昨夜の所業を知っていなければの話だった。

 

「不用心だな」

 

口を開いた福戸は、嘆息とも取れる言葉を吐いた。

 

「昨日の俺を見ておきながら、ほいほい付いてくるとは」

 

その目は、昨夜に見た闇に溶けていくものと同じだった。憎悪と怒りがこめられている。

ここで怖気付いてはいけない。エミは手に力を入れて、敢然と福戸と向き合った。

 

「どうしてショウちゃんを狙ったんですか。あんな小さな子を襲って、恥ずかしくないんですか」

 

「あの娘に興味はない。興味があるのは持っていたものの方だ」

 

「ドライバーと、ガシャット……」

 

「櫻井、これは最後のチャンスだ」

 

西日を背に、福戸はエミに手を伸ばした。

 

「ドライバーとガシャットを渡せ。そうすれば、二度とお前の前に現れないことを約束しよう。生徒と教師のよしみというわけではないが、俺はお前を評価している。傷つけるのは本意ではない」

 

「……ドライバーとガシャットを使って、何をするつもりなんですか」

 

「お前が、それを知る必要はない」

 

その言葉が、エミに決断させる全てだった。

カラカラに乾いた喉に唾を流し、エミは首を横に振った。

 

「渡せません。あれは、ショウちゃんが守り抜いて、私に託してくれたものです!」

 

「そう、か……」

 

ガシャットの入ったカバンを守るように抱いたエミへ静かに頷いて、肩を落とす福戸。

 

「ならば、今ここでお前を消し、奪い取るしかあるまい!」

 

次の瞬間、福戸の右手がエミの首に伸びた。

 

「きゃあっ!」

 

とっさに防御行動をとったエミの腕をそのまま掴み、押し倒そうと福戸が体重をかけてくる。

 

「バカな小娘だ。大人しく渡していれば無事に済んだものを!」

 

「や、やめて、ください……っ!」

 

変身できなければ一介の女子高生に過ぎないエミに、大の男を物理的に支えられるはずもなく、あっという間に組み伏せられそうになった。

 

「お前からドライバーとガシャットを奪ったあかつきには、お前を駒にして使い潰してやる!」

 

「くっ、う、うう……!」

 

身体を左右に振って、どうにか振り払おうとするが、福戸の力は想像以上に強い。

ここまでか。

そう思った時だった。

 

「——待ちなさい!」

 

どこからか聞こえてきた声に続いて、大気を震わせるエンジンの唸りが轟く。

開け放たれたままだった扉から飛び出したそれが、福戸をエミから引き剥がした。

 

「くっ……!」

 

転がった福戸は、右肩をおさえる。

エミにはその救援者に見覚えがあった。

というよりも、忘れられるはずもなかった。

 

「バイクさん!? なんで!?」

 

昨夜、バグゼイドとして初めて戦ったエミの前に現れた、赤い甲冑の戦士を乗せる黄色い大型バイクだった。

 

「話はあと! 乗りなさい!」

 

「はっ、はい!」

 

言われるがままに黄色いバイクにまたがってハンドルを握る。

そこでエミはこのバイクにガシャットの挿入されたゲーマドライバーが巻かれていることに気づいた。

しかし、エミはすぐに別の、きわめて重大なことを思い出した。

 

「あの、私っ、無免許で、しかもノーヘル!」

 

「ハンドル握ってればいいわ!」

 

「え、わ、わああああっ!?」

 

エミの意に介さず勝手に走り出したバイクは屋上の落下防止柵を飛び越え、校舎の壁を滑るようにして駆け抜ける。

 

「きゃあああ! あああっ!」

 

「静かにして! 目立つわよ!」

 

校舎裏に着地し、木の陰に滑り込む。

上から見ていた福戸には、エミたちの姿はもう見えていなかった。

 

「はあ、はあ……怖かった」

 

ハンドルから手を離し、早鐘を打つ胸に手を当てながら息をつく。突然絶叫マシンに乗せられたような感覚で、まだ身体が震えている。

 

「怪我はしてない?」

 

「あ、ありがとうございます。助かりました」

 

恩人もとい恩バイクから降りたエミは、どうにかこうにか頭を下げた。

 

「あの福戸が黒幕だったとはね。こんな近くにいたなんて」

 

「あ、あのぅ。ところで……」

 

「ん? なにかしら?」

 

「バイクさんも、仮面ライダーなんですか?」

 

「そう見える?」

 

「うーん……。どっちかっていうと、ライドされてる側ですよね。でも、それ、ゲーマドライバーですし……」

 

「ふふふ。ええ。そうよ。私も仮面ライダー。……よっと」

 

車体の後ろ側を持ち上げ、器用にゲーマドライバーのレバーを閉じる。『ガッチョーン……』という音声とともに、大型バイクの姿が、ずんぐりとした四投身に変身した。

 

「仮面ライダーレジー。バイクさんって言われるより、レジーって呼んでくれた方がハマりがいいわ」

 

「は、はあ。じゃあ改めて、ありがとうござしました。レジーさん」

 

「どういたしまして。あなた、昨日の新人さんでしょ?」

 

「は、はい! 櫻井エミです! 仮面ライダーバグゼイド? とかいうのです!」

 

「ふぅん。バグゼイド、ね。覚えておくわ」

 

「ところで、あの赤い人は?」

 

「赤い人……? ああ、デザイアね。今はいないわ。近いうちにまた会うとは思うけど」

 

「やっぱり、戦わないとダメ……ですか?」

 

「さあ。そこまではわかりかねるわ。あの子次第ね」

 

そう言ってレジーはゲーマドライバーに手をかけ、レバーを開けた。

 

『レベルアップ! 激走奔走追走快走! 激走ダビッド!』

 

四頭身の身体がバイクに変わり、またもエンジン音を鳴らし始める。

 

「じゃあね。また会いましょ」

 

「あ、は、はい……」

 

颯爽と走り去ったレジー。その姿が見えなくなってから、エミは自分の腕をさすった。

福戸から向けられた明確な殺意。

それがエミには悲しく、しかしどこか決心がついたような気がした。

 

「次は、容赦しません」

 

昨夜赤い甲冑の戦士に言われたような言葉をつぶやき、エミは数分前までいた校舎の屋上を見上げた。

 

 

「どこに隠れた、櫻井エミ……いや、バグゼイド!」

 

校舎を歩き回りエミを探す福戸。

あと少しでドライバーとガシャットを奪えたところに思わぬ邪魔が入ったことが、彼の激情を掻き立てる。

 

「別のライダーと既に協力関係を築いているとは。こちらも考えを改める必要があるか。……む?」

 

福戸の目に映ったのは、今朝、エミたちに注意をしていた生徒会長のレヌイだった。

書類を運んでいるようで、こちらには気づいていない。

 

「ほう……」

 

闇色の考えが鎌首をもたげ、福戸は口の端を上げる。

 

「あいつを使うか」

 

福戸がスーツのポケットから取り出したのは、灰色のガシャット。

だが、そのガシャットには側面に刻まれたタイトルも、正面にプリントされたゲームのイラストも無い。

それはこのガシャットに何もデータが入っていないブランクであることを意味している。

 

「さあ、ゲームの始まりだ」

 

起動スイッチ(プレイング・スターター)を押し、レヌイの背中に狙いを定めてガシャットを投げる。

 

「さて、これを運んだら次は——うっ!?」

 

背中に衝撃を受け、レヌイの身体が電流を浴びたように痙攣する。

彼女の身体の中へ沈み込んでいくガシャットが暗く輝き、『NAZOTOKI BRAIN』というタイトルと、コミカルに描かれた人間の脳とクエスチョンマークのイラストが浮かび上がる。

 

「う、ぐ、あ、ああアァアアアッ!!」

 

膨れ上がった輝きを突き破り、怪人——デ・バグスターが現れた。

女性らしい身体に格子模様を走らせ、肩口や腰から鉛筆や分度器などの文房具を模した意匠が無秩序に飛び出ている。

 

「さあ、出て来い。バグゼイド……!」

 

デ・バグスターが壁を突き破って外に躍り出る光景を見ながら、福戸は邪悪に顔を歪ませた。

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