Masked Rider BAGX-AID   作:ドラーグEX

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第8話 隠されたKnowledge!

「ミライちゃん、ヤコちゃん。いらっしゃい」

 

『ラ・ジェルム』の飲食スペースの丸いテーブルに二人前のケーキセットが置いたレイコが、ミライとヤコに微笑む。

 

「いつも来てくれてありがとうね」

 

「いえいえ! ここのケーキ、美味しいですから!」

 

「ええ。雰囲気も好きですし、毎日来たいくらいです」

 

「うふふ、ありがとう。それにしても、ショウちゃんには驚いたわ。外にいたエミちゃんたちを見つけて飛び出しちゃうんだもの」

 

 視線を向けられてクッキーを食べる手を止めたショウは、すぐにまた食べ始めた。

 

「よっぽどエミちゃんのことが好きなのね」

 

「そ、そうみたいで……」

 

 エミは曖昧に笑って、レイコに話を合わせる。

 ショウは部屋から見えたエミの姿に嬉しくて家を飛び出したことになっていた。

 というか、ショウ自身がそう説明したので、その言い訳の場面にいたミライはショウの言葉を「犬かよ」と笑った。

 

「エミちゃんも、お友達たちとゆっくりね。お店は私だけでも大丈夫そうだから」

 

「ありがとうございます」

 

「すみませーん、注文いいですか?」

 

「あ、はーい! ……それじゃあね」

 

 別の客の待つテーブルへ向かったレイコを見送る。

 

「よかった。お店、大丈夫そう」

 

「だから大丈夫だって言ってるじゃん!」

 

 エミとミライのやり取りを終わらせるように「さて」と切り出したのはヤコだった。

 

「こうして仮面ライダーが三人、顔を合わせたわけだけど」

 

「え、いきなり? ま、仕方ないか」

 

 ヤコとミライの視線が、エミに集中する。親友たちからのかつてないほど真剣な眼差しに、エミは思わず姿勢を正した。

 

「な、なに?」

 

「エミさ、なんでライダーになったわけ?」

 

 ミライがフォークの先をエミに向けた。

 

「なんでって言われると……」

 

 ライダーになって一日と経っていないエミは、返事に窮する。

 

「守りたいものを……守るため?」

 

 エミの答えに、親友二人はポーズボタンを押されたかのように停止する。

 

「——ぷっ」

 

「——ふふっ」

 

 そして、とうとうたまらないといった風に吹き出した。

 そのまま大笑いする二人に、当のエミはあまり気持ちのいい思いはしなかった。

 

「い、いいじゃん別に!」

 

「あははは! いやいや、うんうん、よかったよかった」

 

「ええ。()()()()で安心したわ」

 

「ど、どういうこと? じゃあ二人はどうしてライダーに?」

 

「あー、うん、それは秘密」

 

「私も。プライベートなことだから」

 

「ええー……」

 

 納得のいっていないエミをなだめるように微笑んだヤコは、さくさくぽりぽりとクッキーを食べ続ける銀色の少女を見た。

 

「で、あなたはどういうつもりなの?」

 

 ショウは再び食べる手を止めた。

 

「どうって?」

 

「とぼけなくていいよ」

 

 フォークを置いたミライが、攻撃的な色を差した目でショウを睨みつける。

 

「私たちの親友をのっぴきならない状況に引っ張り込んで、無理やり変身させたその理由を聞いてる」

 

「待ってミライ! 無理やりだなんてそんな——」

 

「エミ、あなたは黙っていた方がいいわ」

 

 割って入ろうとしたエミをヤコが止める。

 

「でも……!」

 

 どうしていいかわからなくなったエミは、沈黙するショウに視線を泳がせた。星空を宿す瞳が、ミライを見つめ返す。

 

「私は探していた。バグゼイドになれる者を。偶然出会ったエミにはその資格があった。変身を迫ったことは間違いない。けれど、あの男に襲われて、そうするしかなかった」

 

「福戸か。なんであいつに狙われてる」

 

「わからない。ただ、彼はドライバーとガシャットを求めていた」

 

 エミは昨夜の、明らかにまともな状態ではない福戸を思い出し、寒気に胃の奥を撫でられた気持ちがした。

 

「なら、なんでガシャットとドライバーを持ってたわけ。それはそこら辺で転がってるようなものじゃない」

 

「それは……」

 

 言いかけて、ショウは口を噤んで俯いたきり、言葉を発さなくなった。

 

「はあ……。要領を得ないな」

 

 困ったと頭をかき、背もたれに背中を預けたミライは、カップに注がれたお茶を飲んだ。

 黙ったままだったエミは、十数秒前のミライの発言に、遅れて疑問符を浮かべた。

 

「ねえ、気になったんだけど、ヤコとミライはドライバーをショウちゃんからもらったんじゃないの?」

 

「いんや」

 

「違うわよ」

 

「じゃあ、どうやって? どこかに売ってた?」

 

 顔を見合わせたミライとヤコは、なぜか観念したようにため息をついた。

 

「ミライ、この子たちを追究するより、あいつのところに連れていった方が早いわ」

 

「私もそう思ったところ。こうなったら仕方ないか」

 

「な、なに? なんの話?」

 

 ひとり狼狽えるエミに、薄く笑ったヤコが告げる。

 

「紹介するよ。私たちをライダーにしたやつをさ」

 

 ◆

 

 ラ・ジェルムでの短いティータイムを終えたミライとヤコは、エミとショウを連れ立って外へ出た。

 日が落ちても清都の街は人通りが多い。

 明かりにつられて店の中に吸い込まれていく仕事帰りの大人や、友人たちと遊び歩く部活終わりの学生など、談笑する一団と何度かすれ違った。

 しかし、エミの隣を歩くショウはともかく、ミライとヤコも店を出てから一言も話さない。

 エミは自分たちが世界から弾き出されたように思えた。

 また、エミには前を行く二人の向かう先が、数分前から、薄々わかり始めていた。

 

「はい、到着でーす」

 

 ついにヤコとミライが足を止める。

 そこは、ヤコの自宅である平屋造りの屋敷であった。

 

「やっぱりここだった」

 

 何度かくぐったことのある門を通る一同。

 エミはヤコの家の中に、二人をライダーにしたその人物がいると考えたが、実際はそうではなかった。

 

「こっちよ」

 

「え?」

 

 ヤコを先頭に屋敷の庭へと進み、四人は蔵の前に立った。

 予想が外れたエミは恐る恐るミライに耳打ちした。

 

「ねえ、まさか、この中にいるの?」

 

「まあね。ああでも安心して。別に閉じ込めてるとかじゃないの。出られないだけだから」

 

「出られない……?」

 

 ヤコが蔵の扉を開ける。

 中はきちんと整理された、なんの変哲も無い蔵だった。

 

「なにも無いけど?」

 

「慌てない慌てない。まだ終わりじゃないから」

 

「そうそう。エミ、あんた絶対驚くわよ」

 

 蔵の奥へ進むミライのあとを追いかける。打ちっ放しの床の一部分に取っ手が付いており、その床が正方形に開くようになっていた。

 それを開くと地下に伸びる階段があった。

 電気が通っているのか、地下にもかかわらず明かりが見える。

 

「足元、気をつけてね」

 

 階段を降りて地下に消えていくミライとヤコを信じて、エミも地下へ足を踏み入れた。

 

「わあ……!」

 

 歓声を上げたエミの目に映ったのは、白い壁に囲まれた空間。そしてその中央に置かれる白い円卓。

 

「すごい! めっちゃ広い!」

 

「最初に驚くのが、そこ?」

 

 エミの後ろから続いたショウも、室内を観察する。と、奥の壁に取り付けられた巨大な装置が目に留まった。

 

「あれは?」

 

「……あれが、私とミライにゲーマドライバーとガシャットを渡したやつよ」

 

「どういうこと? 人じゃないの?」

 

「少なくとも、人じゃないわね」

 

「強いていうなら、()()()()()()()、かな」

 

 二人の言葉の意味を分かりかねていると、装置の画面に明かりが点いた。

 青い背景に、黒い立方体がゆるやかに回転しながら浮いている。

 

『新しい客人かな。霧城ヤコ、鳶岱ミライ』

 

 どこからから男の声がした。エミは自分たちのほかに誰かいるのかと姿を探したが、見当たらない。

 

「エミ、探しても無駄だよ。話してんの()()() だから」

 

 ぽんぽんと装置を叩くミライに、エミはますますわけがわからなくなる。

 

『箱とは失礼だな。鳶岱ミライ』

 

 また同じ声がした。

 しかし、今度は声がどこから聞こえたのかわかる。今、ミライが手を載せている装置だ。

 

「き、機械が喋った?」

 

「そ。こいつは喋る機械なわけ」

 

「ディーク。自己紹介を」

 

 ヤコにディークと呼ばれた機械が電子音声で空気を振動させる。

 

『はじめまして、櫻井エミ。私はDeus Ex Enlightenment Knowledge。ディークだ』


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