Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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早めに書けたので投稿します!!
前回から来週っていったけど、うまく早く書けるもんだな。


親子

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豫洲の沛国で黄巾討伐しながら太平要術の書を探していたのだが未だに見つからない。目ぼしい場所の黄巾党の拠点は粗方全て潰したのだが見つからないのだ。

こうなると太平要術の書は本当に曹操が討伐するであろう賊の拠点に在るのかもしれない。

 

「どうしよう先生。やっぱり俺等もその拠点に行くべきかな?」

「そうしたいところだが…陳珪から聞くにそれは曹操の性格上許さないだろうな。それに陳珪から曹操に頼んだ手前で私達をその拠点に行かせるのも無いかもしれん」

「じゃあ、危険だけど燕青達に頼むしかないか」

「そうだな、燕青達に頼んで拠点を調べてもらう他ない……ところで何でもマスターは陳珪に迫られてるそうだな」

「そうなんだよね…何でだろう? その度に武則天に拷問されそうに為るし、三蔵ちゃんからは煩悩を断つべしって言って修行させられるし」

「だから包帯ぐるぐる巻きなのか?」

「大丈夫。もう完治したから!」

「お前は時たまに回復速度が速い時があるよな」

「イベント時ははっちゃけるし丈夫になったりします!」

 

何故かたまに超人並みの身体能力に為ったりする謎の奇跡を起こす藤丸立香。平凡なんて言われているが、こういうのが有るからよく分からない人物だ。

そんなことより諸葛孔明は何故マスターが陳珪に誘惑されているかの見当がすぐについた。どうせ彼を籠絡してカルデア御一行の力を操りたいと考えているのだろう。

こんな簡単な狙いくらいすぐに分かるというもの。最も恐らく相手もバレて分かってやっているのだろうが藤丸立香なら誘惑できると思っているのだろう。

彼は良くも悪くも純粋だ。そういう所を狙われているのだろう。

 

(ったく…だがマスターも簡単には落ちないだろう。というか逆に落としそうだ。なんせうちのマスターは英霊たらしだからな)

 

軽く笑う諸葛孔明。その笑いは誰にも見られなかった。

 

「呼んだかマスター?」

「どうしたマスター?」

 

来てくれたのは青燕と荊軻。この2人は先ほど話していたように曹操が討伐する賊の拠点への侵入と捜査をしてもらうために呼んだのだ。

流石にカルデア一行である彼らが曹操の討伐する賊を倒してしまったなんて事になったら陳珪側に迷惑がかかる。その様な事態が陳珪と曹操でイザコザがあっては悪いので、件の二人に気づかれること無く内密に納めたい。

2人には隠密行動で太平要術の書を探してもらいたいのだ。バレなければ、見つからなければどうという事も無いという訳だ。だからこそアサシンクラスで在る2人に頼んだのむのだ。

 

「了解したぜマスター!」

「了解した」

「気を付けてね2人とも」

 

2人は音も出さずに消える。彼等ならば賊にも曹操軍にも見つからずに隠密行動で仕事をしてくれるだろう。

 

「でも曹操か…やっぱり女性かな?」

「さあな」

 

場面が変わって俵藤太は畑から野菜を収穫して居た。この野菜は陳珪の娘である陳登が育てた物だ。

彼女の野菜の育て方はプロ並み。野菜の事、土の事、水の事などを全て理解して栽培しているのだ。

この事に関して俵藤太は彼女の手腕に感心していた。

 

「ほお、これは良い野菜だな! この時代にこんな良い野菜を育てられるとは凄いぞ!」

「こんな時代だからこそだよ。政事とか戦とか分からないけど、生きるには食べないといけない。食べるには食べ物を作らないといけない」

「そうだな!」

「自分で畑を耕して、種を撒いて、育てて…穫れた野菜を食べたら心を満たされない、喜びを感じない人はいないはずだよ」

「まさにその通りだ!!」

 

陳登は実は人見知りで対人関係が苦手なのだが俵藤太の豪快かつ爽やか、気前が良くて面倒見のいい兄貴肌の性質ゆえか彼にはそこまで緊張はしない。

しかも彼は食のこだわり等が有る為か陳登の考えにも理解してくれる。そのことが彼女にとって嬉しいものが在った。

 

「戦いなんて非効率。みんなで畑を耕せばいいんだ」

「確かに戦なんてせずに皆が皆、畑を耕せば今頃こんな時代には成らなかったかもしれんな」

 

だけどそう成らないのがこの世。完全なる平和なんて実現した事が有るなんて聞いたことが無い。

平和の裏に戦いが、戦いの裏に平和が有る。まさに表裏一体である。

彼女の言う通り皆が皆、畑を耕すなんて夢のまた夢だろう。その事は俵藤太も陳登も理解している。ただ言ってみただけにすぎないのだ。

 

「母さんも…」

「陳珪殿がどうした?」

「母さんはよく分からない」

 

小さく呟いた彼女の顔は暗い。陳珪と陳登の親子関係は傍から見れば普通だと思うが娘である彼女はそう思ってないらしい。親子関係は冷えていると思っている。

彼女の本心としては母親の事を理解したい。もっと仲良くしたいと心の奥底では思っているのだ。

 

(…私何を)

 

つい口走ってしまった自分を戒める。何故、人には言わない事を呟いたのか分からない。これも彼の人柄なのか?。

そもそも彼だけでなく、彼等の主である藤丸立香にもつい呟きそうに為った事が有る。自分はそんな簡単に心情を吐露なんてしない筈。きっと疲れているせいだろうと思う事にした。

 

「なんか母さんは貴方達の主にちょっかいかけてみるみたい。ごめんなさい」

「あー、それか。大丈夫だぞ! 主も気にしてないしな!」

 

確かに陳珪に誘惑されているが何とか自制しているので大丈夫だ。というか玄奘三蔵と武則天が諫め、あと一歩の所で陳珪の邪魔をしてくるでのでセーフ。

その後は2人に拷問と説法を責め苦に合うのだが。でもその後はケロリとした顔を見せてくるマスターである。

 

(マスターは時と場合によって治癒速度が変わるんだよなあ。何でか知らんが)

 

本編とイベントの違いである。

 

(それにしても陳登と陳珪の親子関係は複雑そうで…そうでもなさそうな気がするがな)

 

彼女たち親子を見るとお互いに嫌っているという事は無い。お互いにどう接すれば良いのか分から無いという感じだ。

陳珪に関しては娘である陳登を見る目が優しい時が有る。あれはまさしく娘を思う母親の目で在ると俵藤太は思う。

これなら一度、腹を割って話し合いをする機会があれば親子の距離は進むのではないだろうか?。

 

(そう思うのは簡単だが、実際には難しいというもんかな?)

 

その通りだ。第3者からして視れば、そうでも無いと思う事は当事者からして見ればそうでも無い事も有る。

だけどこれだけは言える。彼女たち親子は間違いなく家族愛が有る。ただお互いに接し方が分からないだけなのだ。

 

(何でこんなややこしい家族関係に成っておるのだろうな?)

 

彼女たち親子がすれ違ってしまったのはこの時代のせいなのか? それともただ彼女達の性格の問題なのか? そればかりは俵藤太が知る由も無かった。

 

「何か困った事があったら相談に乗るぞ陳登よ」

「藤太さん…」

 

今はこう言うしか無い。今は仲良くして居るが他人が家族関係にとやかく言うのも相手にとって良い気分ではないだろう。

 

「お主が本当に母親の事を知りたいというの為らば力に成ろう。だが吾が出来るのは力を貸すだけだ。陳珪の事を深く知ろうとするならばお主が足を踏み出さねば為らんぞ」

 

切っ掛けを作るだけだ。どんな問題で有ろうと自分に関する事は自分で決着をつけねばならない。

 

「いきなりなんなの?」

「はっはっはっは。なに、拙者の独り言だと思えばいいさ!!」

 

そう言うが陳登は少し気が楽に成った。自分自身としては余計な事を言ったかと思うが、ここまで他人の家族に対して親身に話してくれるのは彼が初めてだ。

お節介と言えば、それで終わりだが陳登としては少し嬉しかったのだ。

 

「藤太さんは優しいね。…あと立香も優しい」

 

陳珪にちょっかいをかけられている彼等の主を思い浮かべる。てっきりさっさとこの国から出て行くかと思えばそうでも無かった。

何度押し倒されても特に気にしている様子は無く。次の日にはケロリとしている様な感じで在る。

 

「我が主は拙者なんかよりもよっぽど優しい男だぞ!」

 

今頃も陳珪に押し倒されてるのだろうかと思ってしまう。その度に玄奘三蔵や武則天に助けられて、説教と拷問を食らって居るかもしれない。

そう思うとそろそろマスターのところに戻った方が良いかもしれない。

 

「ま、そろそろ昼時だ。飯にするか!!」

「……うん!」

 

昼飯を食べようと歩き出す。先頭は俵藤太で後ろから陳登がついて行く。

そして後ろからドサリと倒れた音が聞こえた。

 

「ん、どうした?」

 

後ろを振り返ると陳登がうずくまって倒れていた。

 

「陳登!?」

 

すぐに抱きかかえて走る他無かった。

 

 

48

 

 

「嬉雨!?」

 

陳珪は急いで部屋に入ってきて眠って居る陳登に駆け寄って彼女の顔を見ると今まで見てきた冷静な顔が崩れていた。

その顔はとても焦っている。正直こんな彼女は信じられなかった。こうも焦っているとは彼女にとって今までに無かった事なのだろう。

そしてその姿は娘を心配する母で在る。

 

「嬉雨、大丈夫!?」

「うう…」

「ねえ、嬉雨!?」

「落ち着け陳珪殿」

「これが落ち着いてられるわけーー!」

「陳珪殿が慌てれば彼女が助かるのか?」

 

諸葛孔明の言葉で陳珪は黙る。確かに慌てた所で陳登の具合が良くなるわけでも無い。今、自分たちができる事を考えなければ為らない。

彼の言葉によってその事が少しは伝わったのか陳珪は深呼吸をして一旦落ち着く。いつもの冷静な彼女だ。

 

「そうね。その通りだわ」

 

まずできること医者を呼ぶ事だ。医学については専門外である自分ではどうにもでき無い。

 

「嬉雨、すぐに医者を呼んでくるからね。誰か居る?!」

 

陳珪はすぐに医者を手配する要に部下に声を掛け始めた。

 

「陳登さんどうしたんだろう。いきなり倒れたの藤太?」

「ああ、いきなりだった。一緒に畑仕事をしていたが体調が悪いように見えなかったぞ」

 

俵藤太と陳登が一緒に畑仕事をしていた。その間は彼女は異常なんて無かった。昼飯にしようとした時に急に倒れたのだ。

症状を見ると腹部を抑えながら痛みを我慢している。

 

「…………まさか」

「何か知ってるの孔明先生?」

「もしかしたらだが……」

 

諸葛孔明は陳登に近づいて言葉をかける。

 

「おい。もしかして最近、膾…生魚を食べたか?」

「た…食べたけど?」

「分かった」

 

今の言葉で納得した様に頷いた。

納得したというのならば何か分かったという事だ。だけど彼だけが分かっていては意味が無い。

何が分ったのか聞いてみるとまさかの理由が出てきた。

 

「虫だ」

「むし?」

「寄生虫だ」

 

話によると陳登の歴史の中で膾を食べて寄生虫に中ったという物が在る。

確かに今の症状を当てはめると寄生虫の可能性は大いに有る。そもそも今の時代では生の魚を食べるという事は現代に比べて危険だ。

 

「寄生虫…!?」

「歴史だと華佗と言う医者に助けてもらったはずだ」

「華佗?」

「神医とも言われるほどの天才医師だ」

「孔明先生は治せない?」

「私は医者じゃない。ナイチンゲールでも呼べ」

「婦長を呼んだらきっと陳登さんの腹を掻っ捌くと思うよ」

「「「………」」」

 

誰も否定しない。

 

「陳登さんを治すには華佗という医者を探さないとダメなのか?」

「だがこんな大きい大陸で人探しは困難だぞ!」

「陳珪さんは確か色んな所で顔が効いているから、もしかしたら」

「確かに彼女の顔は広そうだな」

 

こうしては居られない。直ぐさま陳珪の跡を追って、華佗という医者のことを伝えた。

華佗ならば娘を助けられると聞いて陳珪の動きは速かった。すぐさま各知り合いの諸侯に華佗という人物の情報が無いかを集めるために動いたのだ。

ただの相がこうも多くの重要人物達と知り合いとはやはり陳珪は只者ではない様だ。

 

「彼女の顔の広さならばもしかしたら見つかるかもしれないな」

「早く見つかると良いけど…」

 

陳登は今も苦しんでいる。陳珪は早く華佗が見つからないかと焦りで顔がだんだんと色あせていく。

こんな状況で何もでき無い藤丸立香は心が痛い。これは彼が優しいのと、お人よしのせいなのだが、何騎かの英霊はそこまでのめり込む必要は無いと思っている。だけどそんな彼のソコがまた良い所なのだ。

部屋で何もしないより外で歩いて居たい。だから藤丸立香は外に足を伸ばす。

 

「むう…陳登さんが苦しんでいるのに何もできないなんて! ぎゃてぇよ!」

「三蔵ちゃんそんなこと言ってもなぁ。華佗って人が見つからないんじゃ…」

「呼んだか?」

「え?」

 

外に出ていたら偶然なのか。運が良かったのか。

件の華佗に出会えた。

 

 

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「なるほど虫に中ったのか…全て理解した。任せろ俺なら治せる!」

「本当!?」

「ああ。五斗米道を極めし俺に治せぬ病魔は無い。治せぬモノが有るとしたらそれは恋の病くらいだ!!」

 

確かに恋の病はある意味、重大な病気だろう。その例を幾らでも見てきた経験が有る。というかその恋の病に巻き込まれて居るのがマスターだ。

モテモテなのは羨ましいが実際の所は大変で在るのだ。

 

「虫下しならば針を使う必要は無いな。だが痛みを和らげるためには使うか」

「針?」

「ああ。五斗米道の神髄は針にある。だが、虫下しならば材料さえあれば作れるぞ。それにとりわけ難しい材料は無いからな。すぐに用意できる!」

「なら、材料を揃えるのを手伝うよ!」

「そうか、助かる! 苦しんでいる患者を早く治すには人手が多いことに越したことはないからな!」

 

薬を作るには材料が必要だ。薬の材料も簡単には集まらない。それが医者にとっての秘伝ともなればより難しいだろう。

だからこそ人手が必要なのだ。

 

「材料はこれとこれと……これ等だ。集められるか?」

「集められるわ。すぐに手配してくる!」

「こっちのは山に行けば取れるはずだ」

「じゃあそっちは俺等が集めるよ!」

「助かる。こっちは俺も一緒に行こう!」

 

陳珪は集められる材料はすぐに集めた。藤丸立香達は山で必要な材料を集める。

薬の材料は彼等のおかげで難なく集めることに成功した。あとは華佗に薬を作ってもらうだけである。

 

「任せろ。はあああああああああ!!」

(何で薬を作るのに吼えたんだろう?)

「出来たぞ!!」

「早ぁ!?」

 

華佗によって完成された薬はとても苦そうであった。良薬は口に苦しという言葉があるのだからしょうがない。

 

「さあ陳登。これを飲んで吐くんだ!!」

「………飲むのに吐くの?」

「ああ!!」

 

自信満々の顔で薬を飲んで吐けと言う医者。虫下しだから仕方ないかもしれないけれど、乙女に向かってソレは流石に無いだろう。

 

「でも、そうじゃないと寄生虫をどうにかできないぞ?」

「うう、確かに……でも!」

 

チラリと藤丸立香や俵藤太たちを見る。乙女としては確かに男性に吐いている姿は見られたくはないだろう。

これには女性にしか分からない気持ちなので、察した武則天や玄奘三蔵は男性達を一旦部屋から追い出すのであった。

 

「あ、あの俺は医者なんだが…!?」

「ええい! 乙女心の分からん奴め! 何かあったらすぐに呼び出す。だから扉の前で待機しておれい!!」

「いや、医者としては…!」

「指を千切るぞ!」

「…待ってます」

 

本当に華佗の方が正しいのだが、乙女の心は時にして何事にも最優先される事が有るらしい。

こればかりは男性にとって口が挟めないので大人しく待機するしかないのだ。

 

「何かあればすぐに言ってくれ! 飲んで吐くだけだから問題は無いと思うが…何かあればすぐに入るからな!」

 

陳登、虫下しを処方中。

 

「よし。虫は全て吐き出したな」

「もう大丈夫なの?」

「ああ。もう大丈夫だぞ。でも胃の方は寄生虫によって傷つけられているから胃に優しい食べ物を食べると良いぞ!」

「ああ、嬉雨!!」

「わ、母さん!?」

 

陳珪は陳登を優しく抱擁する。その姿はまさに娘を想う母である。

 

「今は2人だけにしといた方が良いかな?」

「そうだな」

 

今ここでは藤丸立香達はお邪魔だろう。そっと彼等は部屋を出るので在った。

 

 

50

 

 

「立香さん」

「あれ、陳珪さん。陳登さんはもういいの?」

「ええ。嬉雨はもう寝たわ」

「そっか」

 

陳登は完全に寄生虫の苦しみから開放された。今まで激痛と戦ってきた彼女はやっと休めるのだ。

今は布団の中でぐっすりと眠って居るころだろう。その眠りはいつもより暖かい。

なんせ寄生虫を吐き出しただけで無く、家族の絆を確認できたのだから。

 

「久しぶりに嬉雨とたくさん話したわ」

「陳登さんと?」

 

家族なのだから当たり前だろうと思ったが陳珪はそのまま口を開く。

 

「私は政事で、嬉雨は農業で。いつのまにか別れてしまって家族というものが何なのか忘れてしまって居たわ」

 

陳珪と陳登はすれ違っているように見える。本人達もそう思って居た。でもそれは本人たちの勘違いだ。

実際はお互いとも家族としてもっと親しくなりたかった。仲良く成りたかった。母と娘として家族愛を感じたかったのだ。

 

「まさかこんな事にならないとお互いの事が話せないなんてね」

 

今までお互いに何かあれば打ち明けたいと思っていた。でも出来なかった。

その出来た結果が今回の事だというのが何とも言えない。なんせ娘が苦しんでいたのだから。

 

「でもまさか嬉雨も同じ思いだったなんてね…やっぱ家族なのね!」

 

家族とはそういうものなのかもしれない。

陳珪を見るとどこか優しい顔になっている気がしなくもない。彼女は家族としての心を塞いでいた壁がやっと崩れたのかもしれない。

 

「これも立香さん達のおかげね」

「え…、それは違うよ。陳登さんを治したのは華佗さんじゃないか」

「確かにそうね。華佗さんにはもうお礼は言ったわ。でもやっぱり立香さん達のおかげでも有るのよ」

「何で?」

「貴方たちと出会わなければ、こうはならなかった」

 

間違いなく彼らとの出会いは何かしらの変化を彼女たち親子に与えたはずだ。

 

「立香さん…貴方は持っている」

 

何を持っているというのか分からない。はっきり言って自分に何か凄い物を持っている覚えはない。

 

「持っているというのは天運よ」

「天運?」

「そう。極わずか選ばれた人しか持っていない天運! それは努力でも才能でも手に入らないモノ」

「えー…俺そんなの持ってないですよ!? だって俺平凡だし!」

 

藤丸立香自身は天運なんて持っていないと言うが実際はそんな事は無いだろう。

彼自身気付いていないが実際のところ持っている。天運に関しては英霊たち何騎かが持っていると言っているのだ。

そうでなければ今まで特異点の旅で説明できない部分も有っただろう。

縁というのも要因として大きいが、それでもピンチの時は彼の天運のおかげで助かってきた。

それを力を貸してくれた英霊のおかげだといつも言っているのだが。

彼の善性という人の良さもあるが、多くの英霊が力を貸してくれた。特異点でうまい具合に重要な人物に出会えた。

どんな絶望的な状況でも最終的には諦めずにその時の最良で解決してきた。

これらをふまえて天運を持っていないと言い切れるのか。

 

「私は華佗さんを見つけるのに今できる手を多く使ったけど見つからなかった。でも立香さんは華佗さんを見つけたいと思っていたら見つけた」

 

見つけたいと思っている人を偶然にも見つけることができる。これまさに持っている人ではないと不可能だ。

 

「立香さんはこの大陸ではまさに『天の御使い』なんて呼ばれる人かもしれないわ」

 

『天運を持つ人』と『天の御使い』と言われれば何となくだがイコールが成り立つ気がする。

陳珪は藤丸立香の事をこの大陸で唯一天運を持つ人間と断定しまうほど彼を認めているのだ。

平凡だというのならば何故、彼に一騎当千とも言える武人が仕えているのか? 何故、凄腕ともいえる間諜のような人が仕えて居るのか?

何故、化け物並みの知性をもった軍師が仕えて居るのか? 何故、清廉で道徳ある高潔な僧が仕えて居るのか?

何故、王の器を持った人が平凡な彼に仕えて居るのか?

彼の周りにはまさに国を建国させるには必要な人材ばかり揃って居る。

大陸を制覇できるような人材が多いのだ。

 

(曹操さんも私が見てきた中で覇王としての資格を持っているわ。彼女には財力が在る、武力を誇る将が居るし、多くの兵力が在る、王としての器が在る、そして彼女も運を持っている。でも立香さんとは違う!)

 

曹操と比べられるなんて藤丸立香からしてみれば恐れ多すぎる。そもそも勝負にもならない。

でも陳珪は比べたのだ。

普通に比べれば曹操の圧倒的勝利。だけど天運だけは負けていない。

それは彼の周りを見れば分かる事だ。平凡だというのならば彼の周りにこれだけの存在は集まらないだろう。

 

「だから立香さんは天運を持っていることを自覚した方が良いわよ!」

「そうなのかな…?」

 

陳珪は心の底から彼が欲しいと思った。

彼に仕えている燕青達みたいに仕えてみたいと思ってしまった。それは今まで出会ってきた事のない人材故に。

こんな人にもしも仕えてみたら、もしかしたらこの乱世の時代が変わるかもしれないと勘が訴えているのだ。

彼との出会いは確かに変化を与えてくれたのだ。

 

「ねえ立香さん。国を治めることに興味はないかしら?」

「ない」

「………ないの?」

「ないね」

 

彼の周りには国を治める人材がそろって居る。今は少ないが彼や諸葛孔明や武則天が手を回せば幾らでも人材を確保できそうである。

そもそも陳珪の知り合いを各州からそういう風に引き抜いていけば不可能ではない。それだけ彼女の顔は広い。

だけど目の前にいる彼は国を治めることに関して興味が無いとハッキリと言った。

これでは陳珪が考える未来が実現しない。彼女としては彼が義勇軍でも何でも行動してくれると計画的に考えると助かるのだが、彼等はきっとそんなことはしないだろう。

どうにかして彼にその気になってもらおうと思案する。やはり色仕掛けだろうかと考える。絶対にその気にさせる。

 

(この子って女慣れしてる感じだけど初心なのよね。そこが可愛いっていうかなんていうか…よし!)

 

ごく自然に藤丸立香に近づく陳珪。本気で彼を誘惑で落とそうと決めた。

普通の者が彼を見たらやはり平凡だと称するだろう。だけど彼をよく見ると分かる者は分かるのだ。

彼は本当に天運を持っている人間だと。そして天運を持っているだけの人間では無くて、彼は強い人間だと理解する。

だからこそ陳珪は本気で彼が欲しいと思った。

 

「ねえ、ダメなの?」

「ダメって言うか…うん、ダメだね! 俺たちには目的があるからね。そのためには国を治めるとかできないんだ」

 

そもそも国を治めるなんて考えた事も無い。というよりもそんな事ができるはずもない。

彼が天運を持っていようがなんだろうが、結局は平凡な一般人なのだから。

 

「目的って?」

「特異点を解決すること!!」

「え、とくいてん?」

「そう。だから…国を治めるとかできない。ていうか俺にそんな王様のような事はできないよ」

「そうなの…」

 

藤丸立香の言葉はまさに本音。特異点というのはよく分からないが、解決すべき使命というのは分かる。

国を治めることができると言われても、反応しない。天運を持っていると言っても自分を威張ったりする様な事も無い。

彼は無欲なのか? 王に興味がないのか? 大陸制覇にすら興味が無いのか? 陳珪はそう考える。

だけど違うのだ。藤丸立香と陳珪の思想が違う。正確にはカルデアの人間と三国時代の人間では考えが同じに成る事は無い。

だからどう説得しようが、誘惑しようが話は平行線のままなのである。

 

「だから、そういう難しい話は違う人に…曹操さんとかにするべきだよ」

「……そっか。正直に言えば君が台頭してくれると良いんだけどね」

「陳珪さん…………そろそろどいてください」

 

実はいつの間にかまた押し倒されていた。それはもう密着していて、女の色香を思いっきり利用して押し倒して居る。

そんな事をされれば健全な男子である藤丸立香には我慢の限界が近い。

カルデアでもよく誘惑されたり夜這いを受けたりするのを毎回我慢しているが、それにも限度がある。

 

「あ、ちょ、待って待って!?」

「あ、ちょっとこのまま!。私に任せてくれたらいいから」

「だから何で!?」

「せめて天運を分けてもらおうかなって」

「荊軻ぁ、燕青ーん!!」

 

残念だが彼女達は今居ない。

 

「そうだ今2人は出払ってるんだった!?」

「うふふ!」

「書文先生ー!!」

「やれやれ…」

 

マスターセコム部隊出動。

 

 

51

 

 

燕青と荊軻はある軍と黄巾党の賊の集団が戦っている戦場を見て居た。その軍の牙門旗には曹とある。

この時代で曹と言えば魏の曹操しか思いつかない。千里眼のスキルは無いが目を凝らして見ると一際目立つ人物が居る。その人物こそが曹操かもしれない。

 

「チビで金髪クルクルじゃねえか!?」

「あれが曹操か?」

「かもなぁ」

 

曹操という人物を勝手に予想していたイメージと全然違うのでちょっと面食らう。最もこの三国時代で接触してきた武将のほとんどに面食らっているのだが。

 

「それにしてもこの戦は間違いなく曹操の勝ちだな」

 

曹操軍が黄巾党の賊を圧倒的なまでに蹂躙している。そもそもこの戦いを最初から見ていたが賊の方はまさに烏合の衆というモノだ。

そんな相手に訓練された正規軍が負ける事は無い。

 

「つーか曹操軍の銅鑼の音で賊が飛び出してきてたぞ。何であいつら出撃してんだ?」

「出撃の合図と勘違いしたのではないか?」

 

恐らく曹操は挑発や名乗りを考えていたのだろうが、無駄になったので在る。

 

「んじゃあ今が丁度、賊のアジトに潜入できる時だな」

 

アジトから大半の賊が出撃したのだから今頃、中の敵は数少ない。それなら潜入して太平要術の書を探す事ができる。

曹操軍が賊たちと戦をしている間、2人は賊のアジトに潜入する。

潜入だがいとも簡単に出来た。これ程まで簡単に潜入できるなんて逆に力が抜けてしまうと言うもの。

 

「んー…」

 

そのまま砦の宝物庫やらを調べているが太平要術の書とやらは見つからない。賊の何人かを捕まえて拷問もとい尋問して聞き出してみたが全てハズレで在った。

荊軻と二手に分かれて探していたが、彼女の方も見つからなかった様だ。これは他の者が持ち出して逃げたか、戦いに挑んだかだろうか?。

どちらにしてもまた探す羽目に成る。分かった事はこの賊のアジトには太平要術の書が無いという事だけだ。

 

「おっと!」

 

誰かが部屋に入って来た為、すぐさま霊体化する。誰か黄巾賊が戻って来たかと思ったが違った。

青髪の女性と黒髪の女性が入って来たのだ。そう言えばこの女性達は曹操らしき人物の近くに居た連中だと思い出す。

おそらく曹操に側近に当たる人物だろう。そうなると曹操の側近の武将で考えると夏侯惇や夏侯淵などだ。

 

「秋蘭よ。確か、大変用心の書だっけか?」

「太平要術の書だ姉者!」

「おお、それそれ!!」

 

黒髪の女性の方からはポンコツ臭がする。強い武将では在るが頭の方は弱そうだ。

 

「……無いぞ。その太平要術の書?」

「確かに無いな。もしかしたら奪われたのかもしれんな!?」

「何だと!?」

 

秋蘭と呼ばれた女性は周囲を見る。散乱する部屋を見ると普通に賊が荒らしたままに見えるがそうでは無い。

何処かしら探し物をするように散らかせた様にも見えるのだ。

姉の方よりも妹の方が鋭そうだ。流石に霊体化している燕青達には気付いていないが、彼等が探し物をしていたというのに気付いている。

 

(よくもまあちょっとの違和感で気づくもんだな)

 

普通の人間ならば気付かないだろう。

 

「では誰かが侵入して盗んだのか!?」

「そういう可能性も有ると言う事だ姉者。もしくは逃げ出した賊が持って行ったと言う可能性も有る」

 

此所には太平要術の書は無い。それだけが分かれば十分だ。

 

「華琳様に報告しに戻るぞ姉者」

「ああ、分かった。戻るか秋蘭!」

 

彼女達が戻った事を確認すると燕青達も戻るのであった。

この時ではまだカルデアは曹操軍との接触は無い。




読んでくださってありがとうございました。
次回もまたゆっくりとお待ちください。
(次回も来週を予定しています。もしくは早く投稿できれば投稿します)

今回はどうでしたでしょうか。
実は華佗を登場させたくて、陳登の寄生虫の話を自分なりに書きました。
もしかしたら物足りたかった感じがするかもしれませんね。

陳珪はやっぱり立香の『縁の力』に気付くと思います。なのであんな感じになりました。結構、長々と書きすぎたかなあ。でも、過去の時代の人間にとっても違う考えを持つ人間の思想は興味を惹かれると思います。どんな人間であろうと上に立つのは周囲とは違う考えを持つ者だと思います。織田信長にしろ、曹操にしろ。





そして華佗を登場させたということは、ついにあの漢女たちも!!
次回のタイトルは『筋肉と筋肉』です。

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