Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
前話(前半)がカルデア側の話なら今回(後半)は桃香と華琳の話です。
書いておいて何ですけど…原作と内容はあまり変わりません。
364
城の庭園にて。
「失礼します」
「よく来たわね、劉備」
目の前には曹操。自分よりも格上の存在である。
緊張からかコクリと唾を飲みこんでしまう。
「劉備、飲み物は茶と水どちらが良いかしら?酒でも良いけれど…まだ少し陽が高い気がするわね」
「え、あ…お水で大丈夫です」
「そう。なら冷たいうちに召し上がれ」
出された水を口に含む。すると喉の渇きが潤う前に驚きが出てしまう。
「え? 冷たいって…ひゃ、本当に冷たい。これ…氷!?」
「ええ。氷室を一つ開けさせてね」
この時代にとって氷はとても貴重だ。現代と違って氷は簡単に作れるものではない。
しかもそれが夏ならば尚更だろう。これだけでも曹操は桃香に氷を簡単に人に出すことが出来る陣営だと知らしめる。
「は、はぁ…それに何だか不思議な味がする…これ、梅ですか?」
「ええ。今年取れた梅で私が風味を付けてみたのよ。どうかしら?」
「はい…美味しいです」
「ふふ、なら良かったわ」
「えっと…曹操さん。陳登さんの件とこの間の平原からの難民の件、ありがとうございました」
「別に礼を言われるような事でもないわよ。我が国に居座られても困るものを流しただけだし…移動の間も大人しくて助かったわ。そして喜雨の知識が増える事はこの国とっても益のある事だもの。存分に使って頂戴」
「あ、はい」
淡々と返す言葉に桃香は短く返事をするしかなかった。
「…まさか、そんな話しだけの為に呼んだと思っているの?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど。お礼はちゃんと言っておこうと思って」
「そう…」
「さっき、武器が蔵に運び込まれているのを見ました。袁紹さんと…戦うんですか?」
曹操がいる庭園に案内されるまでに兵士が運んでいた武器を見た。その数を見るだけで徐州の軍備と差がある事を嫌でも理解させられる。
更に別行動をしている愛紗たちは曹操軍の兵士たちの質を見て今頃、驚いている。それほどまでに曹操の力は桃香たちと比べて圧倒的に上であるのだ。
「ええ、もちろん。まさかこんなに早く幽州は陥ちるとは思っていなかったけど…次に麗羽が目を向けるのは、ここかそちらでしょうしね」
「………はい」
曹操も袁紹が幽州を落としたと情報が分かった時点で次に狙われるのが陳留か徐州と予想していた。
いつでも迎え撃てるように曹操は準備をしていたのである。
「あの気分屋が、この後どちらから狙うかは分からないけど徐州になら横合いを突けるでしょうし、こちらに来るならそれはそれで問題無いわ」
「あの…白蓮ちゃんから聞いたんだけど袁紹さんは不思議な力を使うみたいなんです。だから…」
「ええ、知っているわよ。何でも『龍の力』を使うみたいね?」
「知ってたんですか?」
「もちろん。敵の情報を集めるなんて当然よ。もっとも麗羽が本当に『龍の力』とやらを手に入れたかどうか信じがたいけどね」
袁紹についての情報は調べている。だが『龍の力』については確定した情報は手に入れていないのだ。
「まあ、本物だとしても負けるつもりはないけどね。反董卓連合での怪異で痛い目はあってるから、そういうのに対しての対策は用意しているから」
普通ならば『龍の力』は聞いただけでも漠然と強大な力と認識される。だが曹操はその力を手に入れた相手ですら対処すると言っている。
彼女を見ても負けるとは思っていないほど自信を持った自然体であるのだ。
「あの…曹操さんは、どうして袁紹さんと戦うんですか? 反董卓連合では一緒に戦った仲ですよね。それに真名だって…」
「ただの腐れ縁というだけよ。それに貴女だって降りかかる火の粉は払うでしょう?」
「それは…そうですけど」
「…というか連合の時だって別に協力していたわけではないわよ?」
利害の一致でもない。単に時流が重なっただけにすぎない。
その言葉に桃香は理解はしても納得はしていない顔をしてしまう。
「先に言っておくけれど、私は貴女との同盟を受けるつもりはないわよ。それから袁紹を倒したら、次はあなたたちの番ですからね」
「え!?」
その言葉は心に突き刺さる。
「あら。私の真意を直接問いにでも来たのかと思っていたけれど…違ったかしら?」
「あ、いえ…そうなんですけど。同盟を受けないのはともかく、どうしてわたしまで…っていうか、たちって…徐州以外もって事ですか?」
「それ以外にないでしょう。まずは涼州の馬騰殿。それから袁術。そして荊州の劉表と益州の劉章。交州は…まともな支配者のいない土地だけど、だからといって見逃すものでも無いわよ」
「それって、大陸の全部じゃないですか!!」
「もちろん。今までは黄巾や董卓…内側の脅威だったけれど、既に外の脅威は蠢き始めているもの」
外側の脅威。それは桃香も聞いた事がある。
今まで内側しか目を向けていなかったが外側にも敵はいるのだ。
「烏丸、五胡、南蛮、山越…既に烏丸は動き出して、麗羽が対処に追われていたと聞いたわね。あなたも名前くらいは知っているでしょう?」
「漢の外にいる、異民族の人達ですよね」
「ええ。漢王朝が権威を失った今、次に立つ者が早急に大陸に覇を唱え、外の脅威を打ち払う力を得る必要があるでしょうね」
外の脅威は大きいものだ。桃香や愛紗たちが慄いている曹操の軍だけでは流石に外の脅威には勝てないのだ。
「それは分かりますけど…徐州や涼州の馬超さんたちは曹操さんと戦うつもりはないと思います。外の脅威と戦うって曹操さんが旗を揚げれば、協力してくれるはずです」
「反董卓連合の呼びかけにも答えなかった馬超が?」
「それは…」
痛い所を突かれてしまった。更に馬超が反董卓連合に参加しなかったのも理由がある。
「それに…袁術たちが私の旗に応じると思う? 聞いているわよ。貴女も呂布を降して編入し、戦力の増強をしているのでしょう?」
「………っ!!」
「それをどうこう言うつもりはないわよ。貴女の徐州が誰を抱え込んでいようと臣下に加えようと私がする事は変わらないもの。ただ…それが貴女たちの弱みになっている事は自覚しているわよね?」
何も答えられない。
「涼州もそう。涼州の誇りを優先させて独立を保つ気概は買うけれど、それで五胡の橋頭堡にされても困るのよ」
「そのために…全部飲み込むって事ですか」
「新たな王朝が必要な時代がやってきたのよ。かつて殷が周に、秦が漢へと変わったようにね」
「新たな王朝…」
曹操は大陸の覇権を手に入れて外の脅威に対して戦おうと考えている。未来について考えているのだ。
「だから…この曹孟徳に降りなさい劉玄徳。我が片腕になれば、貴女の望みを叶えてあげる」
桃香の望みは大陸の平和だ。曹操の覇道の先には確かに大陸の平和に繋がっている。
曹操に降っても桃香の夢が途切れるという事は無い。ただ、その夢に至る道筋が変わるだけだ。
「それは……できません」
しかし、桃香は曹操の提案を断った。
「あら、どうして?」
「どうしてって…」
「貴女が求めるのは民が笑っていられる平和な国なのでしょう? 私に降ればそれは私が作ってあげられるわよ。貴女の才覚があるなら、そうね…徐州と平原を含んだ青洲。それに公孫賛が奪われた幽州だって預けても構わないわ」
降っても役職を与える。言葉巧みに降った場合の利点を口にしていく。だが桃香の顔はそれで悩んでいるわけではなかった。
「公孫賛もそちらに逃げ込んでいるでしょうし、そのくらいは十分に治められるでしょう?」
「それでも…違うんです。曹操さんには従えません。それじゃあ董卓さんの時と同じです。いくら時間がなくても…力で抑えつけて作った平和なんて間違ってます」
「ふふ、そう。そうね…貴女ならそう言うでしょうね」
力で抑えつける事が間違いではない。それに董卓の時のような失態を侵すつもりはない。曹操はそう思っているが桃香はまた別の考えをもっているようだ。
「それでこそ、劉玄徳だわ」
「え?」
「話を変えましょうか。この大陸でいま新たな王朝を興すに相応しい人物がどれだけいるか分かる?」
「それって…州牧の中でって事ですか?」
「さ。これはと思う名をあげてごらんなさい」
すぐに思いつたのが目の前の人物である。
「だとしたら…曹操さん」
「そうね。それから?」
「袁紹さんや、袁術さん?」
「冗談でしょう。あれこそ朝廷と一族の権威にすがるだけの俗物でしょうに」
冗談を言うのは止めなさいという感じで返される。
「なら、馬超さんや馬騰さん…白蓮ちゃん?」
「凡夫の名ばかり並べないで頂戴。馬騰殿とて今までの功績は認めるけど…所詮は涼州止まりの器よ。劉表や劉章とて朝廷に仕え、そこから甘い汁を吸おうとするだけの俗物だわ」
思いつく名のある諸侯を挙げたが全て違ったようだ。
「なら……董卓さん」
「今までに上がった名の中では優秀な部類だけれど…献帝陛下の臣として相国以上になるつもりはなかったでしょうね。結局見つからないままだったけれど、どこかに落ち延びたのかしら?」
「……」
曹操の目には「貴女の所にいるんでしょう?」という意味が含まれていた。だが桃香はそれについて口にするつもりはない。
特に追及もしないし、話を広げるつもりもない。
「ほら、他にはいないの?」
「孫策さんは?」
「ふむ…確かに彼女には見所があるわ。でも孫策は今や袁術無しでは軍としての体裁も保てない。大陸の前にまずは自分をなんとかしなければね。現時点では届いていないと評するほかないわ」
本当は新たな王朝を興すのに相応しい人物だと思っているが先ほど挙げたように、今の孫策は袁術に鎖を繋がれている。
その時点で群雄割拠の舞台に立つ資格は無いと判断しているのだ。もしも袁術の鎖に繋がれていなければ一番の脅威として警戒していたはずであり、今の桃香と同じように会談をしようと呼んだはずである。
(あれほどの才覚があるのにもったいないわね)
曹操としては早く独立して欲しいと思っている。
「他は?」
「ご主人様…」
「天の遣いか…あれは、正直分からないわね。けれど、自分がどこに立つべきかもわかっていない者にこの大陸を任せるつもりはないわよ」
天の御遣いである北郷一刀に関しては何処か気になるが大陸に覇を唱える存在ではないとも思っている。
「さあ、他にはいない?」
「…そんな人がいるのでしょうか」
「いるわ。今この時代に2人、ね」
「ふたり?」
「ええ」
指を真っ直ぐに桃香に対して差す。
「あなたと、私よ」
「わたし…!? どうしてわたしなんかが…」
まさか自分がなんて、と驚いてしまう。
「今の国があればいい、主の為ならと思う者に新たな国は興せないと言ったはずよ。貴女…朝廷や天子様を自分の主だと思った事なんて一度も無いでしょう」
「………えっ」
今の言葉にドキリとしてしまう。朝廷や天子である皇帝を主とは思っていないという言葉に対して桃香は心の中で否定できなかった。
天子姉妹である空丹と白湯の事は好きだ。敬意も表している。だが忠誠を誓っているかと聞かれれば何か違う。
「そして本心では徐州1つを預かるだけでは物足りないとさえ思っている。違う?」
「そ、そんなことは…」
「そもそも幽州の寒村に住んでいただけの村娘がどうして州牧まで登り詰められたの? それだけでなく、私や袁紹、袁術といった大勢力に囲まれ、進退は窮まっている。なのになお、この盤面から降りようとしないのは何故?」
「それは…わたしだって、愛紗ちゃんや白蓮ちゃん、陶謙様やみんなに助けられて、支えられて、ここまで来たんです。だから…」
曹操の饒舌な雨は桃香を追い詰めていく。追い詰められていく彼女はだんだんと声の大きさも小さくなっていく。
「けれど彼女たちも貴女の言うご主人様だって、貴女がここに降りても責めはしないでしょう」
「そ、それはそうかもしれませんけど」
「ねえ、貴女の内にあるものは何? どんな想いがあれば、この茨の道をそんなに真っすぐ進んでいられるの? 劉の血を引く者よ」
言葉の剣が心に刺さっていく。もはや防ぐことは出来ない。
「わ、わかりません…そんなの」
「そんなはずはないでしょう。言わないだけで、自覚しているはずよ。貴女は…さあ、その誰にも明かした事のない心の内を見せて頂戴」
「そ……それは…」
もう桃香は曹操に言い返せない。何を言っても斬り返されてしまう。彼女は心の中で助けを求めるしかなかった。
(助けて、ご主人様…!!)
「桃香!!」
その助けは聞き届けられ、彼女にとってのヒーローが助けに来るのであった。
「桃香!!」
「ご、ご主人様!?」
北郷一刀が会談の場に足を踏み入れた次の瞬間。胸に飛び込んできたのは桃香であった。
「ご主人様ぁ…!!」
「…何? ……稟!!」
北郷一刀の登場に曹操は予想外すぎた。
「…申し訳ありません。北郷殿から、どうしてもと頼まれまして」
「この会談を邪魔する事を?」
「違うよ。この凄いお城を案内してもらっているうちに、どうしても曹孟徳自慢の庭園の方も見たくなってさ。会談は謁見の間とかでやっていると思ったから…桃香との会談の邪魔をしたのはこの通り、謝罪するよ」
ペコリと頭を下げる。
そもそも会談の場に乗り込んできたのは偶然でも何でもない。狙ってやったのである。
「それに華琳さまからも、どこをお見せしても構わないと言われましたので北郷殿の頼みを断るに断れず…」
「……そうね。ふふ、確かに何処を見せても良いと言ったのは私だわ」
もし何もなければ、そのまま去ろうと思っていた北郷一刀。だが桃香の様子を見るに曹操相手に相当追い詰められたと判断したのである。
だからこそ助けるために会談の場に乗り込んできた。後の事は曹操の度量の大きさに賭けた勝負であったが、どうやらその勝負も何とかなったようである。
曹操は会談を邪魔された事に関して怒ってはいない。寧ろ、面白そうに北郷一刀と桃香の2人を見ていた。
「ご歓談中、申し訳ありません。華琳さま」
「どうかした?」
急に陳珪と夏侯淵が急いで会談の場に入ってくる。様子からして緊急のようだ。
「はい。袁紹が動き出したと報告が」
「…袁紹が!?」
袁紹が動いた。それにしても動きが早すぎる。
予想では陳留か徐州に侵攻してくると予想していたが、袁紹が選択したのは曹操のいる陳留のようだ。
「一刀さん。どうしてここに?」
「色々あったんだよ。それより…俺たちは席を外した方がよさそうだな」
もはや会談どころの話ではない。曹操はこれから戦争を始めなければならないのだ。
時間も少ない。準備はしているが曹操も流石に袁紹がここまで早く侵攻してくるとは思わなかったのだ。予想していたのはもう少し先だと思っていたのである。
「まったく。相変わらず私の邪魔ばかりするのね、麗羽は。劉備、悪いけれど話はここまでにさせて頂戴。部屋や会食の用意もさせていたのだけれど…」
「あ…いえ、お気遣いなく。ご主人様と孫乾さんも来てくれましたし、これで失礼します」
「そう。なら、他の皆がいる所まで送らせるわ。稟」
「はっ」
「ああ、それと…二人とも。私と袁紹との戦いや、涼州への侵攻を止めるつもりなら、好きになさい。私はいつでも受けて立つわよ」
北郷一刀としては曹操の言葉の意味が分からなかった。だが桃香はその意味が分かったようだ。
「…失礼します」
桃香のその言葉を最後にその場を後にするのであった。
「ふふ、なるほどね。これは少し評価を改めなければならないようだわ」
「随分と楽しそうね、華琳さま」
「楽しくないはずがないでしょう。劉玄徳も期待通りだったけれど、あの天の遣いというのもなかなかだったわ。稟をどうやって籠絡したのやら」
また新しい楽しみが増えたのである。
「燈。徐州にはこちらの情報を存分に流して御上げなさい。まあ貴女の事だし、私たちに感づかれるような下手はしないと思うけれど」
「あら、どういう風の吹き回し? 私を間諜や利敵行為で捕えるつもり?」
「違うわよ。それより、あの二人がこの局面でどんな手を打ってくるのか、見てみたいでしょう?」
ニコリと笑う。その様子に陳珪はヤレヤレと言った感じである。
「蟻の穴から堤も崩れると言うわよ」
「その程度になってもらわなければ困るのよ。英雄を育てるには英雄しかないもの。それで…たとえ四面から楚の歌を歌われることになったとしてもね」
「項羽だなんて、縁起の悪い事を。…秋蘭さまからも何か言ってあげて頂戴」
「華琳さまの悪い癖だよ。もう直らんさ」
「あ。あの子の件はおしまいよ。秋蘭、麗羽の動きを報告して頂戴」
これから官渡の戦いが始まる。
365
通路をつい早歩きで歩いてしまう桃香。無意識的にも曹操の所から離れたかったのかもしれない。
「うう…本当に助けに来てくれてありがとう。ご主人様」
「まあ、何とかなって良かったよ。郭嘉も助かったけど…後で曹操に怒られたらごめん」
本当にタイミングバッチシに北郷一刀は桃香を助けた。もしも彼がいなければ彼女は潰れていたかもしれない。
「華琳さまの事ですし、この程度で怒りはしないでしょう。私もそう判断したからこそ、出来る範囲で動いただけですし。ですがこれでもう、貸し借りはなしですからね」
「貸し?」
孫乾が首を傾ける。
「もうずっと前の話だけどね。雛里と程立がいなくなって桃香が平原の後始末に走り回った時期があったんだよ。その前だって戯志才、俺たちを試すような事ばっかりしてさ」
「確かにあの時、士元殿と風を推薦したのは私でしたね。否定はできません」
孫乾の知らない彼女たちの過去があった。それだけである。
「けどあの時は…」
「桃香」
「あ、うん」
もちろん郭嘉に非が無い事は分かっている。世の中には建前とか言い訳が必要になる場面があるものだ。
「とはいえ、古い事を持ち出す男の人はモテませんよーお兄さん」
急に知らないような知っているような声が聞こえた。
「桃香を助けるためなら、そのくらいなんでもないよ」
「ふぇ…ご主人様」
まさかのセリフに桃香が頬を赤くする。そういうセリフを簡単に言えるのが北郷一刀の良さの1つである。
「…って程立!?」
そしてあんまり自然に会話に紛れ込んできたから一瞬気付かなかったが、そこにいたのは紛れもなく郭嘉と一緒にいた程立であった。
「お久しぶりですー」
「え、程立さんも曹操さんの所にいたの?」
「はい。稟ちゃんと一緒に華琳さまのお世話になっています。まあ、今は名前を変えて、程昱を名乗っているのですがー」
ちょっとした名前の改名である。案外違いが分からないが、漢字でこう書くと教えてくれた。
「それより風。袁紹が動き始めたそうです。華琳さまには報告が上がってますから、すぐに我々も呼ばれると思いますよ」
「おやおや。思ったより早かったですねー。なら皆さん、風はこれで」
「では…私もここで失礼します。他の皆さまは突き当りの部屋でお待ちのはずですから」
「ああ。本当にありがとな、郭嘉」
「それでは、また戦場で」
そう言い残して2人は道を引き返していった。
「戦場で…か」
「そうだな。次は…そうなるんだろうな」
群雄割拠の時代に入ったのだ。寧ろ戦争で再会する方が自然になるからである。
366
愛紗たちが待っている部屋に戻るとギュウギュウ詰めであった。それは愛紗たちだけでなく藤丸立香たちカルデア勢もいるからだ。
「おかえり」
「ただいま。てか、狭っ」
部屋は広い方ではあるが10人以上もいれば狭く感じるのはしょうがない。特に呂布奉先の大きさが目立つ。
「って、彼女は……え?」
その中で金髪の美少女と水銀の従者に視線を奪われる。まず間違いなく、彼女が藤丸立香の言っていた司馬懿だと分かった。
特に水銀で出来た従者は「え?」と心の中で驚いてしまう。その驚きはこの外史に来てから何度も見てきたと司馬懿(ライネス)は心の中で思う。
何度も見てきたが様々な人間の驚き顔は飽きないものである。
「おやおや、私の顔に何かついているかね?」
「あ、いえ…」
「北郷、桃香さん、美花さん紹介するよ。彼女が仲間の司馬懿(ライネス)。オレの師匠でもあるんだ」
既に愛紗たちには自己紹介済みだ。あとはその場に居なかった北郷一刀たちだけであったのだ。
「よ、よろしく」
「よろしくお願いします」
慌ててペコリとしてしまう桃香。
「ふむ、君が劉備か。先ほど関羽から話は聞いていたよ。それにそちらが天の御遣いと言う北郷一刀だね」
2人を見て、すぐにからかえば面白い人材だと小悪魔スマイルをしそうになった司馬懿(ライネス)であった。
隣の従者である美花に関して言えば2人ほどお人好しでそうではなさそうだとすぐに理解する。
(これが劉備か。そして天の御遣い…我が弟子と同じ現代の人間か)
今の段階で劉備も天の御遣いである北郷一刀に対して特に大きな興味は無い。ただ、からかいがいがありそうと思うくらいである。
「会談は終わったんだよね?」
「ああ。てか俺が無理矢理終わらせたというか…」
「どういうこと?」
一部始終を知らない彼らには分からないものだ。
「それよりも陳留でゆっくりはしていられない。袁紹が攻めてきたらしい」
その話は初耳である。北郷一刀たちだって先ほど聞いたばかりなのだ。これから戦争が始まるのならば部外者がいつまでも陳留にいてもしょうがない。
ならばすぐに徐州に戻るのが一番である。特に桃香はすぐにでも帰りたい気持ちなのだ。
「では、すぐに徐州に戻らないといけませんねご主人さま、桃香さま」
戻ったらすぐに曹操と袁紹の戦争の結果を調べないといけない。どちらが勝とうが次に狙われる可能性が大いにあるからである。
「じゃあ戻るか」
「あ、待って」
「どうした藤丸?」
ここで藤丸立香が挙手をする。
「オレらはここに残る」
残る理由は言わずもがな、袁紹の『龍の力』関連である。そして後ろにいるかもしれない于吉関連だ。
この話は既に北郷一刀と桃香たちには話を済ませている。だから藤丸立香たちが陳留に残る発言をしても驚きはなかった。
「そっか。寂しいが仕方ないか」
「また会えるよ北郷。あ、そうだ炎蓮さんたちが残ってるんだ。何かあれば頼むよ」
炎蓮に張三姉妹、それに貂蝉たち。彼女たちは徐州に残り組である。藤丸立香の動向は話しており、もしかしたら彼女たちもいずれ冀州方面に行くかもしれない。
無責任かもしれないが、その時は桃香たちに少しだけ支援してもらうように頼むしかない。
「またね桃香ちゃん」
「うん、また会いましょう三蔵さん」
「では、秦良玉殿。またお会いしましょう」
「はい、愛紗殿。また何処かで」
それぞれが一旦の別れを言う。一旦の別れなのである。
実は袁紹の『龍の力』問題が解決したら徐州に戻るつもりなのである。その前にいくつか寄り道はするのだが。
「またな。次の再会が戦じゃない事を願うよ」
「流石にそれはないよ」
軽く笑い合うのであった。
読んでくれてありがとうございました。
次回は2週間後以内の予定です。
前書きにも書きましたが今回は原作と変わりません。ちょっとくらいしかオリジナル要素はないです。
でも、書きたかった部分の話なのです。
364~365
劉備と曹操の会談。
劉備が曹操に追い詰められてました。劉備が何も言い返す事が出来なかった話。
この時の劉備はまだ自分の願いの為に覇道への自覚が無かった、もしくは表に出したくなかったのかもしれませんね。
ですがこの会談があったからこそ劉備は次の段階へと進む糧になったと思います。
366
カルデア組は陳留に残ります。
やっと官渡の戦い編(曹side)に入っていきます!!
どのような展開になっていくかはゆっくりとお待ちくださいね。