Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
どのような展開になっていくかは物語本編をどうぞ!!
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官渡に辿り着いた曹操軍が見た物は辺りを埋め尽くす袁一族の連合軍と、巨大な櫓の列であった。
「あの櫓は厄介ね。彼処から陣形を読まれたり、矢を射かけられたりしては堪らないわ」
「大丈夫です。そのための秘密兵器ですから。真桜、用意は出来てるわね?」
「完璧や。まかしとき!!」
袁紹軍も曹操軍を確実に倒す為に準備しているが、それは同じ事である。
「華琳さま。袁紹が出てきました。あの櫓も一緒です」
「動くのあの櫓は!?」
「また、無駄なところに手間をかけて…」
まさか移動式の櫓だとは思いもしなかった。袁紹は曹操を意外にも驚かせる数少ない人物という事である。
「…まあいいわ。行ってくるから、準備をしておきなさい。いつでも攻められる様にしておいて」
「御意!!」
袁紹の舌戦なんて簡単だと思いがちだが、実際の所はそうでも無い。彼女が何を言い出すかなんて予想できないからだ。しかし、流れが分かれば幾らでも論破できる。
「おーっほっほっほ!! おーっほっほっほ!!」
聞くに堪えない笑い声が上から聞こえてくる。
「…そうして見下されていると、なんだか無性に腹が立つわね」
「華琳さん。高い所から失礼いたしますわよ。おーっほっほっほ!!」
「笑うだけしか能がないのかしら? 随分と毛並みも悪くなっているようだし、もう年ではなくて?」
「なぁんですって!? 誰が目尻に小じわの目立ってきたオバハンですってぇ!?」
「…さすがにそこまでは言って無いわよ」
頭の中でどういう変換をしたのか気になるものだ。
ところで、実は近くで聞いていた藤丸立香は何故か貂蝉の事を思い出す。彼も頭の中で悪口をより誇張する傾向があった気がしなくもない。
「だまらっしゃい!! たかが宦官の孫の分際で生意気ですわよ!!」
「はいはい」
「なんですの、そのやる気の無い声は!? まあ、良いですわ。ここであなたを叩き潰して、この櫓の上からそのクルクル髪を吊るしてあげますわ!!」
もう舌戦をするのが疲れてきた様である。
「今はびよんびよん元気に撥ねているでしょうけれど、そのうち元には戻らなくなってしまうでしょうね。おーっほっほっほ!!」」
「残念。その前にあなたを打ち倒して、河北四州に冀州を丸ごと戴くことにするわ。だから、そんな光景が見られるのは貴女の歪んだ妄想の中だけに為るでしょうね」
「本性を現しましたわね。性悪女、でも残念ながらこの大陸に覇を唱えるのはこのわたくし、袁本初ですわ!!」
「本性をあらわしたのはどちらだか。まあいいわ」
ようやく戯言しか吐かない舌戦は終了だ。やっと本番である。
「猪々子さん、斗詩さん、櫓を用意!! 弓兵に一斉射撃をお命じなさい!!」
「あら残念。撃ち方なら、此方の方が…」
曹操が言葉を言い終える前に大きな飛来音と共に破壊音が響いた。
「……へ?」
「…此方の方が少し早かった様ね」
大きな岩石が空高く飛んできて袁紹軍自慢の櫓を破壊したのである。
「………えーーっと?」
これには袁紹も訳も分からずフリーズしてしまう。何が起きたのか頭で処理できずにいるのだ。
「残念、自慢の櫓は、役立たずの要ね」
「あ…あんなの卑怯ですわ!! あんな遠くからでっかい岩を飛ばすだなんて、どんな妖術を使ったんですの!!?」
「これに関しては妖術でもなんでもないわ。技術よ。貴女達の所よりも少し賢い子が居ただけよ」
「なんですってえええええ!? 此方だって賢い子はたくさん居ますわよ!!」
「てか、貴女が妖術云々を言える立場なのかしら?」
「ま、まあ…こんな物は序の口ですわ。本命は…」
曹操の陣営の後方から何か騒音が聞こえてくる。
「……何?」
「あらあら、どうやらわたくしの別働隊が少々オイタをしてしまった様ですわ」
ニコリと笑う袁紹。作戦として袁紹軍の別動隊が曹操軍の後方から強襲したのである。
「躾の悪い子達で、申し訳ありません。おーっほっほっほ!!」
本命の作戦が大成功したと思って高らかに笑う。しかしその時、鏑矢が空に向かって放たれたのである。
「…なんですの、あの鏑矢は?」
「ああ、その躾の悪い連中を私の隊が打ち払ったようね。まったく、自分の所の兵くらい自分で躾けておきなさい」
曹仁、曹純の部隊が袁紹の奇襲部隊を壊滅させた証拠である鏑矢だ。
袁紹の考える事なんてお見通しだと言わんばかりの対処である。
「な…なんですってえええええ!?」
更に今度は袁紹軍の後方から煙が舞い上がっている。
「まさか!?」
これも曹操軍の仕業である。徐晃の部隊が後方から奇襲し、糧食を燃やしているのだ。
似たような作戦を思いついていた2人。曹操は相手も同じように後方から攻めて来るかもしれない。と、何通りも相手の動きを予想して動いている。
「か、か、かかか…華琳さん!?」
「ああ。私はわざとやったから、別に謝らないわよ」
「くうぅ……!! なら、この決着は正面からつけさせていただきますわ!!」
「はいはい。…ほら、そう言っている間に自慢の櫓も貴女のが最後になってしまったわよ」
「ちょ、まさか!? ひゃああああああああああああああ!?」
投石機によって飛ばされて来た岩石が袁紹の立っていた櫓に直撃し、無残にも破壊された。そして袁紹は真っ逆さまに墜ちる。
「あら。三公を輩出した名門女汝袁氏の当主が随分とはしたない声をあげたわね」
「お、おのれおのれおのれー!! よくもやってくれましたわねーー!!」
結構な高さから落ちたというのに意外にもピンピンしていた。
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官渡の戦いは曹操軍に軍配が上がっている。
袁紹軍が用意した櫓は投石器で破壊され。襲撃部隊も予想されて対処された。逆に袁紹軍が曹操軍に襲撃されて補給線を潰されている。
袁紹軍は曹操軍の手のひらで踊らされているかの如く、着実に削り取られているのだ。
まるで勝ち確定の流れに乗っているようである。
「いやはや、流石は曹操殿…と言うより曹操軍と言うべきかな」
曹操軍の熟練された動きに、質の高い将の指示。全てが袁紹軍を確実に倒す為に動いて居る。
第三者の目からしても、今の状況だけでこの戦いは曹操軍の勝利だと思ってしまう。それほどまでに気持ちよく袁紹軍を崩しているのだ。
当の曹操達はとても気分が良いはずで有る。ここまで気持ちよく袁紹軍を潰していっているのだから。
「これってもう曹操さん達の勝ちの流れだよね師匠」
「そうだな。このまま何も無ければ曹操軍の勝利だろう」
現状、特に何も怪異関連は発生していないので藤丸立香たちは待機して居るのみ。
このまま何も起こらないで曹操軍と袁紹軍の決着がつけば一番の理想である。
「むう、このまま何も無いのが一番だが…このまま出番が無いと私が曹操殿の所に入り込んだ意味が無くなってしまうね」
「意味が無くなるとどうなるんです師匠?」
「そうだな…」
司馬懿(ライネス)が曹操の所にいるのは怪異対策として選ばれたからである。
曹操としてはこのまま自軍に所属させる(好みのタイプでもあるから)気で居るが、司馬懿(ライネス)としては藤丸立香と合流できれば離れる気でいた。しかし、曹操の所で世話になったのはどうしようもない事実である。
ならば何も役に立てずに世話になっただけで、出て行くというのは許されないのかもしれないのだ。
「もしかしたら曹操殿と一夜を明かさねば為らないかもな」
「ええ!?」
つい想像してしまったのか藤丸立香の頭の中でモヤモヤとピンクの景色が広がる。メイヴの宝具を喰らった時のような景色を思い浮かべると大分分かりやすい。
「おや、何を想像したのかな我が弟子よ」
「い、いや…何でも」
ニヤリと小悪魔スマイルと小悪魔の尻尾を出す。そもそも小悪魔の尻尾はどうやって生やしているのかが気になるものである。
「どのような想像をしたのか懇切丁寧に説明してくれないか?」
「それはぁっ!?」
弟子の慌てる姿を見て楽しむ師匠がどこにいるのか。まさに目の前に居る。
「君の頭の中で私は曹操殿にどのような事をされたのかな? もしくは私がしたのかな?」
どんどんと弟子を追い詰める師匠。これはある意味、セクハラではないのだろうか?。
「そ、曹操さんってそういう趣味なんですかね!?」
「ん? ああ。曹操殿は女性が好きみたいでね。夏侯惇に夏侯淵はお気に入りで既に関係を持っているぞ。それに荀彧もだ。もしかしたら他にも手を出しているかもね」
まさかの曹操の趣味。そういった意味でなら秦良玉を見る目も納得のいくものがある。それに曹操の血筋はそういうのがあるようだ。
実は曹洪も曹操と似た傾向がある。最も彼女の場合は曹操と比べて、やや低い方向に偏っているようである。そして曹仁もまた別系統で変わった趣味もとい癖がある。
曹純はまともであるが、曹操の血筋を侮ってはならない。もしかしたら彼女もまた何かある可能性だってある。
曹家は案外、変わった趣向や癖を有してる者達が多いのかもしれない。こればっかりはただの憶測でしかないもので有るが。
「しかし、そういうのは英霊たちで慣れているだろう?」
「まあ……ね」
英霊たちにも様々な趣味趣向がある。その英霊たちの相手をしているのが藤丸立香だ。
百合趣味なんて聞いた所で「うん。そういう趣味の人も居るよね」と思うだけである。理解も全然出来るレベルだ。
そもそも師匠である司馬懿(ライネス)の趣味趣向も中々のものである。
「で、どのような想像をしたんだね弟子?」
「話を逸らせなかった!?」
実は話を逸らそうとしたが師匠には効かなかったようである。
「弟子がアタフタする姿を見逃すはずがないだろう?」
「師匠が苛める!?」
「これも師匠の愛だと思いたまえ」
「受け入れます!!」
追い詰められても藤丸立香はこういう返事をする男である。
「では、どのような想像もとい妄想を…って、タイミングが悪いな。どうやら戦いに変化があったみたいだ」
司馬懿(ライネス)と藤丸立香の視線が袁紹に向けられる。
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結構な高さから墜ちた袁紹を心配してすぐに田豊は駆け寄って袁紹の容体を確認する。
「お、おのれおのれおのれー!!よくもやってくれましたねわねーー!!」
案外平気そうなので安心する。しかし、悪運が強いと知っているが頑丈すぎないかと思ってしまう。
これもまた『龍の力』の恩恵なのかもしれない。
「麗羽さま。後方の輜重兵が襲撃を受けて…!!」
「分かっていますわ!!」
「それに曹操軍の後方を叩きに行った韓猛もどうやら失敗らしくて…」
「ですから、それも存じていますわ!! あのクルクル小娘…このわたくしに、わたくしにこれだけの恥をかかせて…絶対に許しません事よ!!」
袁紹の片目がギラリと変化する。まるで龍の目のようにだ。
「総員、攻撃の用意を!! 礼儀を知らない野犬の群れを我が名門袁家に仕える貴女達で存分に躾けて差し上げなさい!! よろしくて!!」
袁紹の睨む先には曹操。
「お疲れさまでした、華琳さま」
「後で真桜には褒美を与えておく様に。あの投石器は大したものだわ」
「承知したしました。曹仁隊、徐晃隊の両部隊はそのまま遊撃に廻しております」
「あれは少しやり過ぎな気もしたけれど…麗羽相手ならあれくらい分かりやすい方が良いでしょう。貴女への褒美も後で取らせるわ」
「はい!!」
物凄く良い返事をした荀彧。ほんのり頬を赤くしている。
どんなご褒美を想像しているのか気になる所だが、きっと百合百合しいに違いない。
「皆、これからが本番よ。向こうの数は圧倒的。けれど、協調も連携も知らない黄巾と変わらぬ烏合の衆よ!!」
曹操軍にとって袁紹軍の脅威は黄巾党と変わらない。
「血と涙に彩られた調練を思い出しなさい。彼処で培われた団結と連携をもってすれば、この程度の相手に負ける理由などありはしない。いいわね!!」
曹操の鼓舞が兵士たちに伝わり、士気が大いに上がっていく。
「華琳さん!!」
自軍への鼓舞を終えた瞬間に大きな声で袁紹は曹操の真名を叫ぶ。
「あら、無事だったのね麗羽……ん?」
曹操はすぐさま麗羽の異変に気付く。
もっとも袁紹の身体から龍のオーラが滲み出ていれば誰だって気付くものだろう。そして片目が龍の目のように変化しているのも見ればまる分かりである。
「もう許しませんわよ。このわたくし自ら直々にケチョンケチョンしてあげますわ!!」
「あら、そんな事が出来るのかしら?」
「出来るから言っているんですのよ!!」
袁紹は脚力をフル活動させて一瞬で曹操の間合いへと入り込んだ。
「その首もらいましたわあああああ!!」
袁紹の拳が曹操の顔を捉える。
読んでくれてありがとうございました。
次回は二週間以内に更新(したい)予定です。
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官渡の戦いがはじまりました。
前半は原作と同じ流れで曹操が圧倒した状況です。
しかし、次回の後半はほぼオリジナル展開でいきます。
袁紹の『龍の力』に曹操の用意した怪異対策。そしてカルデア勢。
どのような展開になるかはゆっくりとお待ちくださいね。