Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
今回から陳留の日常編が始まります。
まず藤丸立香と李典(真桜)たちですね。

では、本編をどうぞ!!


陳留での日常1

388

 

 

陳留での日常に慣れた頃、藤丸立香は自分の手持ちの道具を整理していた。

概念礼装に聖晶石、再臨素材等々。

 

「概念礼装、聖晶石の整理は完了っと」

 

聖晶石をジィッと見る。

 

「聖晶石…いくらあっても足りない」

 

イベントがある度に溶かしたり、砕いたりする。主に召喚に使いまくる。

いくつ溜めてもすぐに消えてしまう。具体的に、たった数分で消える。

正直に言ってしまうと無限に欲しいと思ってしまうものである。

 

「さて、次は再臨素材の整理だ」

 

再臨素材。英霊たちを再臨、強化させる代物だ。

再臨素材は普通では手に入らない不思議で貴重過ぎる物ばかり。学者や研究者、魔術師関係の者ならば喉から手が出るほど欲しいはずだ。

 

「よし、手持ちの素材はこれだけだな」

「なーにしとるん立香はん」

 

後ろからヒョコリと現れた李典。

 

「道具の整理整頓。こうして整理しておかないと何処に何があるか分からないからね」

「あー…確かに」

 

李典はこれでも絡繰り技師だ。自分の工房の惨状を思い出したのか彼の言葉に頷いてしまう。

 

(凪から部屋を片付けろ、片付けろって言われたなぁ)

 

そのうち部屋というよりも工房を片付けようと思うのであった。

しかし「そのうち」と想っている時点で片付きはしない。そういうものだ。

 

「それにしても珍しいもんばっかやな」

 

李典の目の前にあるのは見た事のないものばかりだ。

藤丸立香が妖術師と聞いているので妖術とかに使う道具か何かくらいしか思わない。彼女は妖術に興味がないからだ。

興味は無いのだが、その中で気になる物を見つけてしまった。

 

「立香はん。それなに!?」

「どれ?」

「これやー!!」

 

李典がビシリと指差ししたのは『暁光炉心』だ。

 

「これは暁光炉心って言うんだ」

 

暁光炉心。

明け方の太陽のように眩しく輝く動力炉。

仙道を基にした技術が使われており、現代科学や近代魔術では解明できない謎を多く秘めているとの事。

この説明を受けて、この素材は未知のテクノロジーが秘められているという月並みの感想しか出ない。

この暁光炉心を解析できるのは余程の天才、ダヴィンチちゃんや、始皇帝といった存在くらいかもしれない。

 

「ほああ~~」

 

李典は目をキラキラしながら暁光炉心を見ている。まるで宝物を見つけたかのようだ。

 

「李典……さん?」

 

今の彼女にとって暁光炉心はどんな金銀財宝よりも高価な物に見えているかもしれない。もしくはそれ以上だ。

 

「おーい」

 

李典はそろそろと近づいて暁光炉心を持ち上げた。

未知との遭遇により心が高ぶっているはずだ。

 

「立香はん」

「はい」

「これ、ちょーだい」

「駄目」

 

李典のお願いを迷うことなく却下。

当たり前であるが別世界の物を別世界に置いていくわけには出来ない。

偶然や確率的な出来事で別世界の物が転移するような事はどうにもできないが、人為的にしてはならない。

貂蝉や卑弥呼がそういう行為を許してくれるか分からない。

そもそも物が物であるため、この世界の文明レベルを壊してしまうかもしれないのだ。

 

(まあ、こういう未知の物を解析して文明レベルを上げていくんだろうけど…流石にこればっかりは駄目だよね)

 

考えすぎかもしれないが、もしも暁光炉心が解析されたらこの外史が『人智統合真国 シン』のような異聞帯になってしまうのではないかと思ってしまう。

 

「立香はん」

「はい」

「ウチって結構、良い身体してると思わへん?」

 

急に李典のスタイルの話になる。

 

「おっぱいも大きいし、くびれもあるで。正直言って、この曹操軍でも上位の方だと思うんや」

 

彼女の言葉は否定できない。李典のスタイルに太刀打ちできるとしたら夏侯惇や夏侯淵たちくらいだ。

スタイルの良さは人それぞれであるが、一般的に考えれば李典は上位に入る。

 

「ウチぃ、立香はんのこと良いかなーって思ってるんやで」

 

急に猫を被るような声を出す。これは最初に出会った頃の刑部姫を思い出してしまう。

というよりも大体、何かをお願いされる時の雰囲気の流れである。

 

「立香はんなら、ちょっとくらい変なとこ触ってもいいで?」

「なにっ!?」

「そのかわりコレちょーだい」

「………駄目」

 

ちょっとだけ考えてしまったが却下。

男として色々モンモンとしながら惜しい事を逃したかと思うが、藤丸立香の判断が正解のはずだ。

 

「なんでやー!?」

「駄目なものは駄目です」

 

がっしりと腰に抱き着いてくる李典。何故か涙も流していた。

 

「お願いやぁ。ウチにコレくれー!!」

 

涙目というより、涙を流しても駄目なものは駄目である。

女の涙はお願いに強いものだが、藤丸立香だって強いのだ。

 

「お願いやー!! 何でもするから!!」

「女の子が何でもするなんて言葉を使っちゃいけないよ」

「立香はん…優しい。そんな優しい立香はんならウチのお願いを…」

「それとこれとは話が別です」

「うわーん!!」

 

何でもかんでも甘やかしてはいけないという事だ。

 

「お願いやー!! 立香はん限定で何でもするからー!!」

「さっき、何でもするって言葉は簡単に言っちゃいけないって注意したばっかなのに」

「立香はんだけやもん!!」

 

そういう言葉を言われると色々と勘違いしそうである。

 

「ウチは可愛くないんかー!!」

「李典は可愛いよ。そして駄目なものは駄目です」

「うぅ…そういう事はサラリと言う。そして断られた…」

 

何度も言うが可愛い女の子のお願いでも駄目である。

 

「じゃあ、せめてソレちょーだいなぁ」

 

李典が指出したのは『無限の歯車』であった。

 

「駄目」

 

無限の歯車。

永久機関の夢であり、一度回転しだすといつまでも回転し続ける歯車らしいとの事。

この素材も実は李典に目を付けられていたのだ。確かに彼女の性格上、無限の歯車はピンときたのだろうと思ってしまう。

最も李典の欲しい優先度は無限の歯車よりも暁光炉心の方が上だ。

 

「それもくれへんのー!?」

「何で貰えると思ったんだ…」

 

「うわーん」と泣きつきながら腰に抱き着く。そもそも先ほどから離れてくれない。そして腰に柔らかいものが当たっている。

本当に欲しくて欲しくてたまらないのだ。歯車という物ならこの世界でも手に入るかもしれないが、炉心という物は手に入らないはずだ。

ここで逃したらもう絶対に手に入らないと思っているからこそのしつこさである。

 

「うう…立香は~ん」

「そんな猫みたいな可愛い声出しても駄目」

「立香は~ん」

「ちょっ、倒れるって!?」

 

そのまま押し倒された。

 

「くれるまで離れへんでー!!」

「何という意地だ」

「死が二人を別つまでや!!」

「この場合、それ違う」

 

やんややんやっと2人して騒いでいると流石に誰かに気付かれるものである2人が近づいてきた。

 

「何してるのー?」

「ますたー 転倒 何してる」

 

徐晃と哪吒であった。

 

「お、珍しい組み合わせやん」

 

徐晃と哪吒の組み合わせは確かに珍しい。この組み合わせは官渡の戦いで出来たものである。

これには理由があり、徐晃は哪吒の風火輪に興味深々なのだ。空を飛べるのだから普通は誰もが興味が出るはずである。

徐晃の夢は空を飛ぶ事。その夢を体現させた人物が目の前にいる。ならばアヒルの子のようにくっついているのが今の徐晃だ。

 

「そういえば哪吒の足にくっついてる物も気になってたんや」

 

前に盗賊退治をした時に李典は哪吒の風火輪にも目を付けていた。しかし、当時は色々とあり過ぎたせいで上手く話す事も出来なかったのだ。

李典だって空を飛べる物があれば興味深々だ。

 

「それってどんなものなん。絡繰り…みたいで、そうでないような」

 

風火輪は宝貝だ。

宝貝は簡単に言ってしまえば魔力を持った武具、物品である。

絡繰りではないかもしれないが、仙人の未知な道具ではある。李典としても気になる物ではあるのだ。

もしも哪吒が人間でなく宝貝人間という人造人間である事を聞いたら李典の興味は哪吒に行くかもしれない。

 

「ほし…」

「否(のー)」

 

李典が「欲しい」と言う前に断った。

 

「やっぱウチは立香はんしかおらへん。ソレちょーだい!!」

「駄目。てか、そろそろ離れて」

「美少女に抱き着かれて、押し倒されてるんや。そのご褒美にウチに贈り物はないんか!!」

「無いです」

 

物凄いしつこさだ。

 

「哪吒は徐晃さんと散歩?」

 

今の状況を気にせずに藤丸立香は哪吒に話しかける。

 

「うん」

「徐晃さんも付き添いかな」

「違う 付いてきてるだけ」

 

どうやら徐晃は哪吒の後を付いてきているだけのようだ。理由は言わずもがな。

 

「藤丸は哪吒の主なの?」

「マスターとサーヴァントの関係だとそうだね」

「ますたー、さーばんと?」

 

横文字が分からない徐晃では当然の反応だ。

 

「どちらかと言うと仲間だけど…まあ主っちゃ主かな」

「そう? 主なら哪吒にシャンへ風火輪を貸してって頼んで」

「ますたーを使うな」

 

哪吒も徐晃をいじめているわけではない。宝貝はそもそも仙人が使う道具で普通の人や武人が使う物でないのだ。

特別な道具であるため、勝手に誰彼構わず貸して良いものではないのだ。

 

「うう…シャンは空を飛びたいだけなのに」

 

ちょっと悲しそうな顔をする徐晃の顔を見た哪吒はちょっと罪悪感が出てくる。

 

「立香はん。ウチには罪悪感湧かへんの?」

「湧かないね」

「なんでやー!!」

「何でと言われても」

 

駄目なものは駄目である。

本当に何が何でも欲しいようだ。しかし彼女の気持ちも分からなくはない。

ここでしか手に入らない物と思えば人間は欲しいという欲求に駆られてしまう。それが自分の大好きな物だとより、しつこくなるくらい執着してしまう。

 

「な、ならウチの発明品と交換で」

「どんな発明品?」

「全自動籠編み装置や」

「いらない」

「ぐぼぉっ」

 

補足を入れると李典の全自動籠編み装置は自動と言いながら手動である。

外史が外史ならば爆発する可能性もある代物である。

 

「ぐぬぬ…ならば全自動張り型・お菊ちゃんを」

「……なんか嫌な予感がするからいらない」

 

藤丸立香の判断は正しい。『全自動張り型・お菊ちゃん』の詳細は触れない方が良いからだ。

よくわからないがお尻に悪寒を感じるのは気のせいではないはずだ。

 

「こうなったら夏侯惇将軍を…」

 

李典の言う夏侯惇将軍とは絡繰り人形の夏侯惇将軍だ。

これも外史が外史ならばよく踏みつけられて壊される運命にあるものだ。

 

「それもいらない」

「なんや、ウチの夏侯惇将軍がいらん言うんか。魅力が無い言うんか!!」

「いらな…ちょっと待って、ソレなんか誤解を招く言い方だからやめて」

 

李典にとっては今あげた絡繰りは全て大事な物なのだが藤丸立香にとってはそうでもない。

それにしても腰からなかなか離れてくれない。

状況が状況なだけに他の人から見られたら誤解されるかもしれない。なにせ李典が藤丸立香の腰に抱き着いて、押し倒しているのだから。

 

「キャーっ、真桜ちゃんが立香さんを押し倒してるのー!!」

「…何をやっているんだ真桜」

 

騒いでいたら他の人に気付かれるのは当然だ。今度は于禁と楽進が来てくれた。

冷静な楽進がすぐさま李典が迷惑をかけていると分かったようだ。まさしく正解である。

 

「はやく立香殿から離れろ真桜。そして部屋を片付けろ」

 

ヤレヤレと言った顔をしてしまう楽進。

 

「どうしてそんな事になったのー?」

「立香はんがコレをくれへんのや」

 

暁光炉心を見せたが于禁はとても興味がなさそうな顔をしていた。

 

「なにこれガラクタ?」

「ガラクタちゃう。これはまさしくどんな宝石よりも価値がある宝物や!!」

「えー、ガラクタにしか見えない」

 

やはり人によって価値観は違う。

李典にとっては暁光炉心はどんな宝石よりも宝物に見えるが、于禁にとってはガラクタにしか見えないようだ。

こればかりは人の価値観の相違である。楽進も不思議そうに見ていたが、彼女も于禁の同じように興味は無いようだ。

 

「なあなあ紗和、凪。どうにか立香はんから貰えるように説得できひん?」

「いや、さっきから断られているんだろう。なら無理だろ」

 

于禁も楽進も暁光炉心に興味が無いのでノリ気ではない。そもそも真面目な楽進は状況が分かったようなので、寧ろ藤丸立香の味方である。

 

「さっさと立香殿から離れろ真桜」

「嫌やー。くれるまで離れへんで!!」

 

何が何でも離れないといった感じだ。これには困るとしか言いようが無い。

 

「絶対に離れへんで!!」

 

もはや離れる気はない李典。

 

「うーん。なら勝負でもして決めるの」

 

于禁の一言に皆が目を向ける。

 

「「勝負?」」

 

「そう勝負。平行線の話なら勝負して決めるの」

「なるほど。それは良い案や」

「いや、そもそも勝負する気は無いんだけど」

 

勝負も何も藤丸立香に勝負するメリットが何1つも無い。

負けたら暁光炉心を取られてしまうが、勝っても何も無い。

 

「なんや、負けるのが怖いんか?」

「そうじゃなくて」

 

男のプライドでも刺激しようとする魂胆であるが、そもそもの話である。

 

「ますたー 勝負するの?」

「しない」

 

ちょっと空気であった哪吒に声をかけられる。

 

「勝負してやー!!」

「うーん…」

 

ここでちょっと考える。話は平行線だ。そしてこのままでは李典も腰にしがみっぱなしかもしれない。

根気よく耐えていればいずれ、離れるかもしれないがいつになるか分かったものではない。ならば勝負してさっさと解決した方が良いかもしれない。

 

「……分かった。勝負しよう」

「お、流石は立香はんや!!」

「で、どんな勝負かな。ちゃんとお互いに公平な勝負じゃないとしないよ」

 

絡繰り分解勝負とか、普通に武器を持って試合をするとかならば勝負は受けない。

どちらも李典にとって得意分野だからだ。李典はこれでも将の1人だ。普通に藤丸立香が勝負しても勝てない。

 

「分かっとるって」

 

ニコリ顔の李典。

 

「勝負の内容は…かけっこや!!」

 

 

389

 

 

かけっこ。

誰もが知っており、やった事のあるものだ。

子供の頃は毎日走ったりしていたような気もする。もちろん藤丸立香だって走るなんて行為はやっている。

 

「かけっこか」

 

かけっこ勝負ならばと藤丸立香は了承した。

足に自信が無い者以外ならば、この勝負を誰もが了承するはずだ。藤丸立香も脚には自信がある。

第三特異点でヘラクレスとかけっこした経験があり、それからトレーニングをして身体は鍛えている。

カルデアに来た頃よりも身体もガッチリしてきており、脚の速さも上がったと思っている。

特に意識せず言った言葉が「アタランテよりも速くなってみせる」だ。これを聞いたアタランテは頬を赤くしていた。

この意味を知った時、とても重要で大胆な事を言ってしまったと後から気付いたのであるが。アタランテも「私よりも足が速くなってもらわねば」なんてマイルームでは言ってくれる。

その言葉の意味は、そういう意味である。

 

「よし、走りやすい恰好はこれでいっか」

 

着替えたのはカルデア戦闘服。

 

「うん。とっても似合っているの。他にも服はどんなのがあるの?」

「結構色々あるよ」

「後で見せてほしいの」

 

オシャレ好きの于禁にとって藤丸立香の持っている現代服(魔術礼装の服)が気になるようだ。

これが女性物ならばもっと興味を示していたはずである。

 

「ウォーミングアップも済ませたし、準備は大丈夫だよ李典」

「お、そかそか。なら勝負内容を説明するで」

 

勝負内容と言っても、とても簡単。

李典が説明した内容は100m走そのものである。

 

「こっからあっちまで走って、先に着いた方の価値や。簡単やろ?」

「うん。単純明快でイイネ」

 

スタート位置に足を運ぶ。

 

「よし。じゃあ任せたで凪」

「私っ!?」

 

李典が急に楽進をスタート位置に向かわせた。

 

「ちょっと待て、真桜。何で私が立香殿と勝負するんだ!?」

「李典が勝負するんじゃないの!?」

 

楽進も藤丸立香も普通に驚く。

 

「誰もウチが立香はんと勝負するなんて言ってないで」

 

確かに李典みずから勝負するとは言っていない。彼女は「勝負する」しか言っていない。

 

「私は走らないぞ。走るなら自分でやれ」

 

普通はそうなる。真面目な楽進ならばこんな勝負はしない。

 

「そんな…ウチら仲間やん凪」

「何故、私が代わりに走ってくれると思った」

「ううー……………凪の秘密をバラすで」

 

ここで脅迫とは李典もある意味良い性格の持ち主だ。

 

「秘密ってなんだ」

「秘密は秘密やで。凪のひ・み・つ」

「私に秘密なんて無い」

「それは~ゴニョゴニョ」

「な、何でソレを!?」

 

急に顔が真っ赤になる。どんな秘密か気になるが、人の秘密を不粋に聞くものではない。

 

「頼む…凪!!」

「ぐ…うう」

「李典。そういうのは駄目でしょ」

「立香はんは黙っといて。これはウチと凪の問題や」

「いや、李典が悪いだけでしょ」

 

どこからどう見ても李典が悪い人にしか見えない。

 

「……はぁ」

 

諦めたようにため息を吐いた楽進。

 

「すいません立香殿。私がお相手します」

 

李典の術中に嵌った楽進であった。

彼女も楽進を選んだのはこの中で脚が速いからだ。勝負に勝つために脚の速い楽進を選んだのは何も間違いではない。

ルールも100m走で先にゴールに着いた方の勝ちというものだけだ。

代わりに走ってもらうというのはルール違反になりはしないのだ。

何度も確認するがルールは先にゴールした方の勝ちというものだけ。

 

「本当にすいません。立香殿」

「いや、気にしなくていいよ」

 

ズルいと思う人もいるかもしれないがルール違反でもないので何も言い返せない。

こういうのがルールの中の穴を突くというもの。

 

「頑張れ凪!! ウチの為に!!」

「頑張れ凪ちゃーん!!」

「ますたー 加油(頑張れ)」

「どっちも頑張れー」

 

応援席には李典、于禁、哪吒、徐晃。スタート位置には藤丸立香に楽進だ。

 

「位置に着いて~…よーいドン!!」

 

于禁のスタート合図と共に楽進と藤丸立香は走り出した。

ノリ気でないとはいえ、楽進は真面目な人物なので勝負に対して手は抜かない。

 

(やっぱり速い)

 

3人の中で一番鍛えられているのが楽進だ。脚の速さも相当なレベル。しかし藤丸立香も負けてはいない。

楽進のちょっと後ろに張り付いている。

 

「なかなかの脚の速さですね立香殿。しかし勝負に手を抜くわけにはいきませんので!!」

「分かってるよ楽進!!」

 

2人とも一直線にゴール目掛けて走る。このままだと楽進が勝ってしまう。

 

(先に仕掛けたのは李典だからね)

 

魔術礼装は何も英霊を強化させるだけの機能がついているだけじゃない。本人にも身体強化させる事は出来る。

身体強化。ある意味ドーピングかもしれない。

普通に考えればルール違反かもしれないが、この勝負の場合はルール違反ではない。

何度も言うがこの勝負のルールは先にゴールについた方の勝ちと言うものだけなのだから。それに先にルールの穴を突いたのは李典だ。誰も文句は言わせない。

 

「行くよ」

 

ラストスパートの所で藤丸立香は急加速した。

 

「なーーっ」

「ゴール!!」

 

楽進を追い越していっきにゴールするのであった。

かっけこ勝負は藤丸立香の勝利である。

 

「なんやてー!?」

 

この結果に叫ぶ李典であった。

 

「これで文句は言わせないよ」

 

勝負の世界はハッキリしている。

勝ちと負け。負けた者は勝った者に口答えは出来ないのだ。

 

「うう…分かった。諦める」

 

とてもガックシと肩を落とした李典が目に写る。そのまま彼女はトボトボと何処かに歩いて行ってしまった。しかし勝負の世界とはそういうものだ。

勝負とは勝つか負けるか。得るか失うか。手に入れられるか手に入らないか。

最も藤丸立香はこの勝負で何も手に入っていないのだが。

 

「立香殿はとても脚が速いんですね。私も脚には自信がありましたが…まだまだなようです」

「楽進はとても脚が速いよ。自信を持ってもいいくらいだ」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。自信持って楽進。それに君ならもっと強くなれる」

「はい!!」

 

自信が出たのか元気の良い返事である。

 

「ますたー お疲れ」

「うん。まさかかけっこ勝負するとは思わなかったけどね」

 

人生何が起きるか分かったものではない。人理焼却が起き、最後のマスターになるくらい分からないものだ。

これにて、かけっこ勝負は終了である。

 

 

390

 

 

李典の工房にて。

 

「ふんふーん」

 

李典は鼻歌を歌いながら工房で作業していた。

 

「にっしっし~。立香はんも案外ぬけてんなぁ」

 

李典の手には暁光炉心があった。

 

「ほああ~~なんちゅーもんやぁ。こんな凄いもん、あの場で手に入れられんかったら一生手に入んなかったやろなぁ」

 

暁光炉心を見ているだけで創作意欲が増し、様々なアイデアが浮かんできそうになるのだ。

実際に見ているだけでアイデアが浮かんできており、浮かんだアイデアをまとめている最中なのだ。

 

「もしもこれをバラして調べたら…もう!!」

 

暁光炉心を分解して解析する。その行為を思い浮かべただけで彼女は興奮してしまう。

 

「本当はあの鉄の歯車も欲しかったけど…流石にそこまで欲張ったらアカンしな。もし欲張ったらコレも手に入んなかったかもしれへんし」

 

そもそも李典がどうやって暁光炉心を手に入れたかだが。

最初をよく思い出すべきだ。

彼女そろそろと暁光炉心を手に取った。しかし、その後に手を放した事はしていない。

暁光炉心を于禁に見せたのも李典だ。その時も彼女の手の中にあった。藤丸立香と楽進のかけっこ勝負の時もずっと手に持っていた。

本当にあれからずっと持っていたのだ。

 

「立香はんが物凄く鋭かったら…駄目やったかもなぁ」

 

李典はどうしても暁光炉心が欲しかった。だからこそ手に入れるための流れを作ったのだ。

まず最初は暁光炉心欲しさに藤丸立香の腰に抱き着いた。それから「欲しい、欲しい」と言うが次の段階で「離れない、離れない」と流れにした。

その次にかけっこ勝負だ。李典と藤丸立香の勝負から楽進と藤丸立香の勝負という流れにした。

どんどんと李典が暁光炉心が欲しいという部分から楽進にかけっこ勝負で勝つという方向に意識に持っていかせたのである。

成功するか否かは賭けであったが、何とか成功したのである。

 

「いやあ、あのまますんなりと抜け出せたのも運が良かったわぁ」

 

もしもあの場で気付かれていたら今頃、彼女の手には暁光炉心は無かったはずだ。

 

「しっかし、いつかはバレるやろな。ならそれまで貸してもらうっちゅーことで」

 

にししっと笑いながら、目をキラキラしながら李典は暁光炉心を見る。

李典が暁光炉心を手に入れた。この結果が後々、ある大きな事件に繋がるなんて李典も藤丸立香もこの時ばかりは予想なんて出来るはずも無かった。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回は2週間以内に更新したいです。

官渡の戦い編を終えてからの陳留の日常編でした。
次回も日常編が続きます。

388
道具の整理整頓って大事ですよね。
そこから真桜ちゃんが暁光炉心を見つけてしまう話。
彼女ならば無視できない代物ですからね。
ちらっと哪吒たちも出ましたが今回はわき役です(すまぬ)。

389
かけっこ勝負。
真桜ちゃんのしつこさに負けて勝負することに。
藤丸立香のフィジカル(鍛錬もしている)なら普通に勝てる気がしなくもないですが、魔術礼装の組み合わせで勝利した流れでした。

390
借りパク?した真桜ちゃん。
普通なら藤丸立香も気付くでしょうが、話の流れ的に気付かなった事にしました。
これが始まりであり、ある物語に繋がっていきます。



次回はどんな日常編にするか…今の段階だと思いついているのが。
藤丸立香、曹操の前で女装事件。(なお、司馬懿(ライネス)のせい)
曹仁脱ぐ。(妹を困らせる)
昼下がりから酒(霞と荊軻と一緒に雑談。反董卓連合とか月の事とか)

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