Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
日常編が終わり、今回から本編へと戻ります。
今回から孫呉独立編へと繋がっていきます。
つながるんですが、その前にいくつか話がバラバラと展開していくかもです。

FGO第二部第5章オリュンポス。
まだクリアしていませんがじっくり進行中。
何でも難所がいくつもあるらしい。


激化する世

400

 

 

「くそ…っ、曹操!!」

 

悪態をついたのは馬超だ。

 

「ぐす。お母さん」

「…泣かないの、蒼。この先の私たちの戦いは、生き残ることだって母様と約束したでしょ。でも馬家の兵も残ったのはこれだけなんて」

「まさか、曹操さんたちがあんな策を使ってくるなんて思わなかったよね…」

 

馬超たちは敗者だ。曹操との戦に負けたのである。

 

「それで…これからどうするの姉さん?」

「それなんだが…鶸。この二人と残った兵を頼めるか?」

「姉さん、どうするつもり!?」

 

どうするの何も馬超の目を見て、何をするかわかってしまった。

 

「あたしはここに残る。今回の決戦に加わらなかった連中を束ねて、もう一度曹操に戦いを挑む。西涼の民の意地と誇り…曹孟徳に見せてやる」

「だったら私も…!!」

「いや、お前たちには馬家の血を残してもらわないと困るからな。劉備の所に行け。劉備なら悪いようにはしないだろ」

 

一族の者が誰かしら生きていれば再起は図れる。血を絶やさない事がこの時代ではとても大事である。

 

「だったら、たんぽぽだけでも一緒に行くよ。たんぽぽなら本家じゃないからいいでしょ!!」

「ずるいわよ蒲公英。だったら私だって…」

 

全員が全員悔しいのだ。可能であれば曹操を倒したいと思っている。

 

「もうやだよぅ…お母さんが死んじゃっただけでも悲しいのに、お姉ちゃんまでいなくなっちゃやだぁ…!!」

 

その中でも馬鉄は最悪の未来を思い浮かんでいた。

 

「………蒼」

「ぐす、ひっく」

「蒼の言う通りです。ここは一度どこかに落ち延びて、改めて再起を図るべきだと思います…みんなで」

「たんぽぽもその方が良いと思う。それにここから徐州に行くのだって、曹操の領地を突っ切らなきゃいけないんだからね。姉様が持ってるほど楽じゃないよ、絶対」

 

一番下の妹の言葉に全員が我に返る。

 

「…そうか。そうだよな。今までみたいに、気軽に幽州や平原ってわけにはいかないんだったな」

「南の益州に頼るのはどうでしょうか。あそこの劉家は先代から母様と付き合いがありますし」

「今は娘の劉璋殿が州牧だったか。そうだな、ここで悩んでも仕方ないし、まずは南に行ってみるか」

 

戦に負けてしまったが、まだ終わりではない。まだ生き抜いてみせると馬超は決めた。

 

「ほら、蒼も泣いてばかりいるんじゃない。母様に笑われるぞ」

「ぐす…蒼だって好きで泣いてたんじゃないよぅ」

「わかったわかった。…なら、行くぞ!!」

 

ボロボロで疲労した肉体であるが足は動く。

 

「どこに向かうか決まったのか?」

「ジイサン、あんた何でこんな所に!?」

 

闇夜から足音も立てずに現れた老人に本気で驚いた馬超たち。

その老人は馬超が見つけてきた按摩の達人だ。母親の馬騰を癒す為に見つけた老人で、腕が相当良くて重宝していたのである。

彼は涼州軍ではないので戦に絶対に居なかったはずである。何故か馬超たちの前に現れたのも不思議だ。

 

「按摩のおじいちゃん何でここにいるの?」

 

馬岱は当然の疑問を口にする。

 

「お主たちを見届けろと言われた」

「誰に?」

「お主たちの母親にだ」

「母様が!?」

 

まさかの説明にまた驚いてしまう。

 

「何でだ?」

「馬騰殿に聞いてくれ。あやつめ、なんて頼み事をしてくれたのだ。しかも笑いながらだぞ」

 

老人も馬騰の容体は分かっていた。そして曹操との戦いで自分がどうなるかも馬騰は分かっていたのだ。

だからこそ馬騰は老人に娘たちの事を頼んだのである。

 

(まったく…馬騰め。笑いながら面倒な厄介ごとを儂に頼みおって)

 

老人の脳裏に笑いながら頼み事をする豪傑が蘇る。

 

「見届けろと言われても、お主たちが足をちゃんと下せる場所が見つかるまでだがな」

「それでいいよ。ったく母様も何を頼んでいるんだか」

 

馬騰のまさかの頼み事で按摩の達人が付いてくるというのにちょっとだけ笑いそうになった馬超たち。

 

(劉備…あたしたちはこんなことになっちゃったけどさ。お前も生き延びろよ。曹操は強いぞ)

 

 

401

 

 

曹操が涼州制圧を成した。

官渡の戦いとはまた違う苛烈さがあったようだ。しかし、曹操軍はあらゆる策を用いて涼州軍に勝利した。

勝利したのは良いのだが、帰還してきた曹操の顔は勝者の顔ではなかった。

 

「どうしたんだろう曹操さん?」

「勝利したのに…あの顔は変ですね」

 

涼州制圧の出陣時とは全く雰囲気が逆転していた。

大事な部下を失ったという情報はない。大勢の兵士も失ったという情報もない。

 

「もしかしたらですが…曹操殿の望んだ勝利ではなかったのかもしれません」

「望んでいない勝利?」

「はい。誇りある者は戦いの決着にも望むものがあります」

 

人によっては勝てば良いと言う者もいれば、戦士として、武人として誇りを持って勝ちたいと言う者もいる。

曹操はどちらかといえば後者寄りだ。

 

「涼州での戦いはおそらく曹操殿が望んだ勝利ではなかったのでしょう」

 

戦いはどうなるか最後まで分からない。どんな結果になろうとも、その結果が戦いの終わりである。

勝利したが望んだ勝利ではない。涼州の戦いはとても後味の悪い結果だったようだ。

 

「そっか。これは曹操さんに詳しく聞くのはやめておこう」

「その方が身のためですよ主殿」

「そうするよ蘭陵王」

 

何はともあれ、曹操軍は冀州、河北四州、涼州と制圧して大陸を徐々に勢力を広げている。

曹操の次の狙いは徐州である。この情報が届いた時に「ついにか」と思った。

曹操と劉備の会談がどのようなものだったかは分からない。だが、桃香たちが陳留から徐州へ戻る前にちょっとだけ聞かせてもらったが曹操がいずれは攻めると言っていたらしい。

その時がついに来た、というだけである。

 

「で、藤丸たちはどうするの?」

「特に何もしません」

「へえ、貴方は劉備たちと反董卓連合では一緒だったから徐州に戻って、私たちと戦う可能性は考えていたけど…」

「そんな事はしません。自分たちが動くのは袁紹さんの時のような異変がある場合だけです」

 

中には例外もあるが、藤丸立香たちの行動方針は異変がある場合に介入する。それ以外は基本的に手は出さず、この世界の流れに任せるだけである。

だからこそ涼州での戦いは手を出さなかった。ならば曹操の次の狙いである徐州も手を出す事はない。

何にも思わないわけではないが、これは外史の管理者である貂蝉や卑弥呼との約束でもある。

異変がない限り、この外史の流れに逆らってはいけないのだ。

 

「ふぅん、なら良いわ。もしも藤丸たちが劉備たちについたら色々と策を考えなければならなかったしね」

 

どうやら曹操は藤丸立香たちが劉備についたとしても、どうやって戦うは考えていたようだ。

彼らが劉備につかないのならば、それはそれで楽になったという顔をした。

 

「まあ、貴方たちが劉備につかないのなら私たちの軍にもつかないのでしょう」

「はい」

「即答ね。まあ、すぐにその答えは聞かなくとも分かったけど」

 

藤丸立香の回答に納得している曹操。

曹操もまた藤丸立香たちには余計な事をしてほしくないのかもしれない。

 

「じゃあ、藤丸はこれからどうするの。また涼州の時みたいに留守番でもしてるの?」

「そろそろ陳留を立とうと思ってます」

「そう。もしかしたらそろそろと思っていたわ」

 

先ほどから曹操の予想が的中しているようだ。陳留から立つというのも予想済み。

 

「次はどこに行くのかしら?」

「荊州か揚州の方に考えています」

 

荊州には仲間の楊貴妃がいるかもしれない。揚州はそろそろ雪蓮たちに顔を出さないと後が怖いという理由だ。

 

「ああ、そう言えば藤丸って二番目の天の御遣いなんだっけ?」

「いやそんな大層な者じゃないって否定はしてるんですけど…そろそろ諦めてます」

 

揚州、正確には孫呉に二番目の天の御遣いが現れたという情報は曹操も掴んでいる。

更に詳しく情報を得た結果、まさか目の前にいる藤丸立香が二番目の天の御遣いとは思わなかったらしい。

 

「孫呉の天の御遣いがフラフラと色んな所にいれば孫策もいい顔はしないでしょうね」

「あはは…」

 

これには苦笑いをするしかない。

 

「そして荊州には貴方の新たな仲間がいるのね」

「はい。噂くらいの情報ですが、行って確かめる価値はあります」

「それって幻想的な音色を引く音楽家でありながら妖術師の事かしら?」

 

これには目を丸くしてしまう。曹操は妖術関連の物を探していた。ならば荊州にいる楊貴妃の事も情報として得ていてもおかしくはない。

 

「まったく…司馬懿といい、益州の妖術師といい。私が見つけるのは全て奪われるわね。秦良玉だってそうよ」

「奪われるって…いやいや、リャンさんたちは仲間なんですから」

 

曹操が見つけた人材を奪ったわけではない。彼女が見つけた人材が藤丸立香の仲間だったにすぎないのである。

 

「分かっているわ。でもこうも続くとね…」

 

荊州の事を含めれば3度目になる。曹操の言いたい事は何となく分かるというものだ。

気持ちが何となく分かったとしても曹操に仲間は渡せない。

 

「じゃあ、陳留から立つのね」

「はい。お世話になりました」

「また近くを寄ったら顔を見せなさい。秦良玉と司馬懿にまた会いたいしね」

 

ついに陳留から立つ。

次の目的地は荊州か揚州だ。楊貴妃と合流するか、雪蓮と再会するかである。

楊貴妃には悪いが雪蓮たちの方を後回しにすると後がどんどんと怖くなりそうなので、実は揚州に向かおうかと考えている。

 

(楊貴妃怒るかな…)

 

荊州には紫苑がいる。もしも楊貴妃が紫苑と出会っていたら藤丸立香たちの情報を手に入れているはずだ。

最も荊州にいる妖術士が本当に楊貴妃であればの話であるが。

何はともあれカルデア御一行は陳留から立つ。次の目的地では何が起こるか予想なんて出来ないが目的はいつまでも変わらない。

目的のために藤丸立香たちはこの大陸で足を進めるだけである。

 

「藤丸」

「何ですか曹操さん?」

「発つ前にもう一回、女装してみないかしら。あれ面白かったから」

「嫌です」

 

 

402

 

 

曹操軍五十万が徐州に向けて侵攻していると情報が入った。

その数には、どんな策を使われて絶対に失敗しない。労力はかかっても確実な成果を得る為に、というのがヒシヒシと伝わってくる。

 

徐州の全兵力を集めても十万いくかいかないかだ。その十万とは訓練兵や州境防衛兵なども含めた総力。

三十万が相手なら彭城を守るだけの策が朱里にあったようだが、それは机上の話。もしも実行したら徐州は実質壊滅し、土地そのものにも大きな被害がでるとの事。

この策を聞いた桃香はすぐに反対する。彼女の性格上、反対するのは朱里自身も分かっていた。だからこそ彼女は机上の空論と前置きをしたのである。

机上の策でも現実は『ひとあがき』だ。もしも防衛が成功しても次も守り通せるかと言われれば、否である。

 

もはや、選択肢は降伏か死。そんな2つの選択肢は認められない。

桃香は降伏したくない。徐州の皆にも犠牲は出したくないと思っている。これは彼女の我がままであり、心の中に眠る小さな意志だ。

だからこそ彼女しか思い浮かばなかった3つ目の選択肢を導き出した。それは『逃げる』というものであった。

 

1人で逃げるのは嫌。しかし、みんなで逃げる。

曹操に従いたくない。その結果、戦を起こして徐州の民に迷惑も掛けたくない。だから『逃げる』だ。

戦うのも、従うのも嫌だというなら『逃げる』は理には適う。

曹操の評判だと支配した土地の人からは悪い評判はあまり聞かない。おとなしく従うならば徐州の人たちが苦しむ事はしないと思っている。

それは徐州を明け渡すという事にもつながる。陶謙から受け継いだものが全て意味を無くす。

美花は分かってくれたが、電々と雷々は衝突した。彼女たちの気持ちは痛いほど分かる。

それでも2人は自分たちの心の整理をつけると今回の事は分かってくれた。電々も雷々も桃香のことが大好きだからである。

 

この『逃げる』という事は徐州の民に対しても説明した。

自分の力が至らなかった事。曹操は強くて大きな国を作りたいと願っていて、自分の目指す国とは違うが、民の信望も厚くて必要以上に恐れる必要はない事。何より、民にとって正しい政事を行っている事。

簡単にしてしまうと自分は曹操に従いたくないから逃げるけど、曹操ならば徐州を悪くしないので大丈夫と言っているようなものだ。

桃香だって心の底でその事実は分かっている。恥ずかしく、自分が愚鈍な存在であると思ってもいる。しかし、今はこの方法しかないのだ。

言葉を選ぶようにしてゆっくりと成り行きを説明する桃香を前に徐州の民は怒るのではなく、どちらかといえば同情的であった。

感情を爆発させるような民はいなかったのである。それでも中には心の中で納得いかない民はいたかもしれない。

 

話が一区切りついたところで1人の村人が声を出した。その者は「劉備さまがお逃げになるなら、それについていく事は出来ないか」と言ったのだ。

その者は曹操の治める国ではなく、劉備の桃香の治める国で暮らしたいと言ったのである。その者の言葉に応じる声は水面に広がる波紋のように静かに全体へと広がっていく。

桃香はまさか多くの民が自分の逃避行に付いてくるなんて思いもしなかった。

自分をここまで慕ってくれる。付いてきてくれるという事実に胸が暖かくなり、目頭が熱くなる。

 

この様子をみた北郷一刀はこれが『人徳の劉備』なのかと思った。

 

大群の逃避行になったが、逃げる先は揚州の袁術のところだ。

袁術と聞いて、皆の反応は「ええ…」というものであったが理解はできる。相手も一筋縄ではいかない。だが東は海、北と西は曹操、南は袁術という時点で最初から決まっていた。

そもそも他国に行くには揚州を通らねばならない。その時点で袁術が何かを仕掛けてくる可能性は高い。ならば最初から袁術を頼る方がマシというものである。

 

使者は北郷一刀。

袁術と渡りを付けるためにどうするかと考えるが、運が良いようだ。

なにせ、揚州の州境警備に孫策が来ているからである。

孫策たちとは反董卓連合で縁を持った者たちだ。袁術よりも話が分かってくれる。

 

「…なんとまあ、都合のいい話だこと」

 

事情を話した孫策の第一声は、どこかで呆れた台詞であった。

その台詞が口にされるのも予想していた。言われても言い返すことはできない。自分もそう思っているからである。

 

「そこは百も承知でさ。けど曹操に全面降伏するっていうのもな」

「言いたい事は分かるけど…でもそれ、陶謙殿から受け継いだ徐州を捨てるって事でしょ。しかも頼る相手が呂布まで置いて警戒し続けた袁術って…正直ありえないわよ」

 

痛い言葉だ。正論過ぎて何も言い返せない。

 

「返す言葉もないよ。でも俺たちの意地の張り合いに徐州の皆を巻き込むわけにもいかないだろ。それとも孫策は西涼みたいに全滅するまで戦い続けろとでも言うつもり? 五十万だぞ、五十万」

「もちろん」

 

北郷一刀としては「それはしょうがない」と返ってほしかったが返事は反対の意味で即答であった。

何となくであるが、孫策ならばそう言いそうだとは少しは予想していた。

 

「父祖から受け継いだ地を守るためなら当然でしょ。馬超は良くやったと思うわ。結果が伴わなかったのは残念だったけどね」

「いやいやいや…さすがに五十万は諦めるでしょ。十万とか二十万は頑張る気にもなるだろうけどさ」

 

太史慈がフォローでもしてくれたのか、孫策の言葉にツッコミを入れる。

 

「それも分かって、曹操はその数を動員したのだろう。官渡はともかく、西涼ではよほど痛い目を見たのだろうな」

「ちょっと…あんたたち、裏切るつもり」

「そのつもりはないけどさ」

「そもそも抗う事も出来ずに袁術の麾下に甘んじている我々には何とも言えん話だと思ってな」

 

周瑜の言葉がグサリと孫策に刺さる。

 

「えええええ、今その話する!? 一刀だって気を使ってしなかった話よ!?」

 

苦笑いだ。

孫策は北郷一刀に対して正論を言うが、自分たちの事を言われると何も言い返せない。

彼女の言う理屈からしてみれば孫策も袁術に逆らっていてもおかしくない話だ。なのに言いなりになっている。

立場や状況は違えど、孫策も北郷一刀の事を言えないようなものである。

 

「でも…仲がいいんだな3人とも」

「でしょー!!」

「腐れ縁と言うのだ。こういうのは」

 

少し嬉しそうに笑う周瑜。

 

「…で、どうする冥琳。この話」

「取り次いでやれ」

「はいはい。しょうがないわね」

 

案外あまりにもあっさりと決めてくれた。

 

「いいの? 今の流れで絶対に断られると思ってたのに」

「私は全然乗り気じゃないけど、ウチの軍師様がそう仰せなんだもの。逆らった後が怖いのよ」

「ありがとう。恩に着るよ」

 

あれだけゴネていたが周瑜の一言にはタイムラグなしで従った孫策。やはり二人の間には深い絆がある。

そういうのは、ちょっとカッコイイと思う北郷一刀であった。

 

(それにしても…孫策さんってウチにいる炎蓮さんに似ているなぁ)

 

藤丸立香と一緒にいた炎蓮。揚州の出身と言うだけで他は何も知らない。

話を聞くと訳ありとの事で、それ以上は詳しくは聞いていない。

 

(炎蓮さんって揚州で何かしたんだろうか?)

「ちょっとなに一刀?」

「あ、ごめん」

 

ジーっと見てしまったのに気を悪くさせたのかと思ってすぐに謝る。

 

「なに、もしかしてホレちゃったかしら?」

「孫策さんが綺麗なのは事実だけど、そうじゃないって」

「口がお上手ね。じゃあなに?」

「いや、徐州に孫策さんと似た人がいてさ」

「そうなの。じゃあ、その人も美人ね」

「そしてきっと面倒な人だろうな」

「冥琳~」

 

今度は孫策が周瑜をジーと見る。

 

「ははっ、すまん」

 

クールで知的だが、孫策に対しては軽口を叩く周瑜であった。

 

「けど、どうなっても知らないからね」

「わかってるよ。でも俺たちには、もうこの道しか残ってないんだ」

 

彼女の言う「どうなっても知らない」という言葉。この意味は予想でき、すぐに分かるはめになる。

 

「そう言えば立香は?」

 

孫策は期待しながら北郷一刀に藤丸立香の事を聞く。案外この内容の方が孫策たちにとってメインだったかもしれない。

 

「藤丸なら徐州を発ったけど」

「え?」

「藤丸ならいないぞ」

 

真顔になる孫策。そして爆発した。

 

「立香はどこに行ってんのよーーー!!」

 

 

403

 

 

孫策の取り次ぎによって北郷一刀は袁術に会う事に成功する。

 

「そうかそうか。それは災難であったのう、一刀とやら」

 

ゴテゴテと飾り立てた玉座の上から優しい言葉をかけてくれたのは袁術であった。

少しだけ気になったのは反董卓連合の時よりも衣装が豪華になっている事だ。服の中心にある三つ葉を模したような赤い宝石の装飾品が目立つ。

反董卓連合は戦であったから、寧ろ今の姿が通常なのかもしれない。彼女は袁紹と同じく名家なのであるから豪華な服装を着ているのに違和感はない。

 

「曹操は我が親族、麗羽姉さまを討った憎き仇。それと敵対するおぬしらになら、喜んで力を貸してくれようぞ」

「ほ、本当ですか。ありがとうございます!!」

「それで劉備さんが連れてくるのは何人くらいなんですか? 領民をいくらか連れてくるんですよね?」

「はい。いま募っている最中ですので、正確な数はわかりませんが…恐らくは五万から十万ほどかと。こちらも目処が立ち次第、ご報告させていただきます」

「それに兵を加えて、十五万から二十万といったところか。ちと多いの」

 

多いという言葉に「マズったか?」と一瞬だけ思ってしまう。

 

(む、もしかして少なめに言った方が良かったか?)

 

少なめに言って、実は多かったというよりも多めに言って実は少なかった方が相手方の方も助かるはずだ。

 

「まあ、よかろう。七乃、どこぞに空いている土地はあったかの?」

「んー。ちょっと探しておきますねー」

「場所についてはこやつらが着くまでに決まれば問題なかろうて。すぐにでも皆を連れてくる方が良いぞ。曹操もいい加減動くであろうし、早い方がよかろ?」

「感謝いたします。主の玄徳も喜びます、袁公路殿!!」

「うむうむ。玄徳殿にも宜しゅうな」

 

もしかしたら受け入れを拒否される可能性もあった。その場合は別の案を考える羽目になったが、そうはなりそうになさそうだ。

この結果を早く桃香たちに報告したいと逸る気持ちを抑えて感謝の言葉を口にした。

北郷一刀は袁術に深々と頭を下げると、後ろに控えていた周瑜につられて、謁見の間を後にするのであった。

 

「……ふむ。あの田舎者は出ていったか」

「ですねー」

「やれやれ。ショボい手土産しか持ってこぬような輩に話を合わせるのも難儀するのう」

 

北郷一刀が居なくなると袁術は本性を現す。簡単に言えば腹黒い部分が出てきたのである。

 

「まあ、徐州はあんまりお金もないって言いますしー」

「そうじゃな。妾の眼鏡に適うような品を持ってこられるはずもないか。ほっほっほ!!」

 

この様子を見た雪蓮はため息を吐きたくなった。

 

「しかし、奴らは妾の欲しい者を匿っておる」

「はい。間違いなく劉備さんの所には天子様がおられますね」

 

劉備の元には天子姉妹がいる。この情報は前に呂布を仕向けた時に得たものだ。

確定ではないがほぼ8割の正確な情報である。

 

「天子様さえ手に入れれば、この大陸は妾のものじゃー!!」

「はい。ついに美羽さまの天下がくるのですねー!!」

「何せ妾の手にはこの玉璽と宝剣がある。あとは天子様がおれば完璧なのじゃ」

 

袁術は玉璽と宝剣をうっとりしながら見るのであった。

 

(その玉璽をあげたのは私でしょうが……ま、その玉璽は袁術ちゃんが持っててくれた方が都合が良いんだけどね)

 

玉璽を持っている袁術は今にでも自分が皇帝だと言いそうである。

洛陽で玉璽を手に入れた孫策は袁術に渡したのだ。これも孫呉独立のための第一歩。

袁術に玉璽を渡して、どのように独立へと繋がるかはまだ孫策達の頭の中しか分からない。

 

(それにしても宝剣の方は謎なのよね。何でも黄祖との戦いの後に手に入れたようだけど…そっちは一応調べておかないといけないかしら?)

 

宝剣、宝剣と言っているが何の宝剣か分からない。袁家の宝剣かと思ったがそうではない。

玉璽と同じように扱っている事から名のある宝剣なのは間違いない。

 

「で…孫策よ。どうすれば良いか、わかっておるじゃろうな?」

「はいはい。けど本当にやるのね?」

「当たり前じゃ。どうやって徐州を落とそうかと考えておった所にまさか向こうから飛び込んでくるとはのう。曹操さまさまじゃわい」

 

まさに想像通りだと心の中で思う孫策。

 

「どれもこれも、美羽さまの日頃の行いが良いからですよー。今夜はカモのお鍋にしましょうねー」

「うむ。ネギを入れるのも忘れんようにするのじゃぞ」

「はーい!!」

「ほれ孫策、おぬしもいつまでも残っておるとあの田舎者が怪しもうて。さっさと奴らの所に戻らぬか。くれぐれも妾たちの考え、気取られるでないぞ?」

 

袁術の目的は徐州と天子姉妹。

 

(ほら、言った通りじゃない。どうするの一刀、劉備)




読んでくれてありがとうございました。
次回は今日中です。


400
曹操の涼州制圧編はカットです。
どのような物語りかは原作でお確かめください。
曹操が望まなかった決着に関しては原作にて分かります。
そして按摩の達人は馬超たちの元でもう少しだけ厄介に。

401
藤丸立香たちはついに陳留を立ちました。
今回の立香の出番はこれだけです。
次の目的地は揚州です。前書きにも書きましたが孫呉独立編に向かいます。
楊貴妃合流と按摩の達人合流はその後になります。

402
革命の『劉旗の待望』にある曹操からの逃亡編ですね。
これもカットになります。孫呉独立編につながるためにちょっとだけ関わるくらいです。これもどのような内容か気になる方は原作の方でお確かめください。
それにしても桃香も思い切りがありますね。まさか逃げるを選ぶとは。
逃げるは恥だが…というやつかもしれません。
きっとこの選択を選んでみんなに説明する時は心が痛かったでしょうね。特に徐州の民に説明する時は。
それでも多くの民が桃香に付いていく事になったのは、やはり彼女の『人徳』なのでしょう。これはこれで凄い事です。

最後に孫策が叫んでましたが…
立香「今、向かってます」

403
袁術のターンです。
前が袁紹だったので今回は袁術です。4章では袁家とケリをつける話でもありますね。
オリジナル展開になっていきます。どのような展開になるかはゆっくりとお待ちください。(宝剣とか玉璽とか)
そして袁術の豪華な衣装とは天下統一伝のあの服装を使わせていただきました。

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