Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
やっとFGO2部5章オリュンポスをクリアしました。
最終局面は怒涛の展開でワクワクが止まりませんでしたね。
まさか…あんな展開になるとは思いもしませんでしたよ。あれだけワクワクしてクリアしましたが、もう続きが早くも欲しいものですね。
ネタバレは出来ないのであまり詳しく書けませんが、オリュンポス最高でした。
そして、今回から孫呉独立編は本格的に突入です。
突入していきなり孫呉独立編は最終局面手前みたいなもんです。
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何姉妹を加え、建業へと到着したカルデア御一行。正確には建業の手前に到着したというのが正しい。
藤丸立香たちの目には孫呉の兵士たちが建業へと攻めている様子が確認できたのである。
「うわぁ…今まさに孫呉独立の戦の最中だ」
「そのようだな。見る限り孫呉の連中が優勢だぞ。あれはもう孫呉の勝利じゃないか?」
「ああ、戦なんて荒事いやね。私あそこに行きたくないわ立香くん」
藤丸立香の言葉に続いたのは何進と何太合だ。
今の状況をちょっと説明すると藤丸立香を挟むように何姉妹が並んでいるのだ。しかも2人とも藤丸立香の腕を絡めて自分の胸元を押し付けている。
なぜ、こんな事をしているかと言われれば誘惑を諦めていないからである。そして自分の身を守るためでもある。
背後からの視線が怖いので2人は無視する。背後からの視線とは言わずもがな燕青や武則天たちである。
(なんか後ろからの視線が怖いわ姉様…)
(大丈夫だ瑞姫よ。立香の傍ならばあいつらも何もしてこないはずだ。それにこのまま立香を誘惑して言いなりにすればこっちのもの)
(ええ、そうね)
藤丸立香は燕青たちのような有望な人材がおり、財力もある。これほどの優良物件を逃がしてはならない。
まさか金塊を簡単に出したときは驚いたものである。彼がいれば肉屋をやっていた時よりもマシな生活が過ごせるし、返り咲くための力にもなる。
そう判断したからこそ何姉妹は藤丸立香に付いて行くことを決めたのである。そして誘惑して言いなりにする事も決めたのだ。
「傾さん、瑞姫さん」
「なんだ立香よ」
「なぁに立香くん?」
「くっつきすぎです…」
彼女たちからは真名を預かっている。これは彼女たちの身を守るためでもある。
何処に耳があるか分かったものではないためだ。迂闊に何進、何太后の名前を出して何か問題が起きたら大変だからである。
彼女たちに恨みを持つ者は少なからずいるはずだ。実は生きていたと知られたら命を狙ってくる可能性を考慮して真名を預かったのである。
「えー、そんなにくっ付いていないわよ」
フニュフニュと胸を腕に押し付けておいてくっ付いていないとは言えない。
後ろからは視線が痛いのは藤丸立香も同じである。
(ぐぬぬ…やはり胸なのか。あんなものただの脂肪の塊ではないか)
(弟子も大きい方が良いのか?)
(あの2人なかなかのを持ってるな。特に姉の方は)
(私は負けてないはず)
カルデア女性陣はそれぞれ思う事あるようだ。
(それにしてもあの男が一番危険だからな。気を付けないと)
傾が危険と判断したのが燕青である。やはり反董卓連合での出来事が原因になっている。
(ええ。顔はとても良いのに…)
(身体もな。しかしあの男は立香に厚い忠誠心を捧げておる。ならば立香を篭絡さえすれば問題なしということだ)
(ええ、そうね。それに立香くんの近くにいれば襲ってくる事はないし。それにもしも襲ってきても立香くんが止めてくれるはずだわ)
(今は立香を篭絡させるぞ)
(なんか傾さんも瑞姫さんも良からぬ事を考えている気がする…)
2人が何かしら良からぬことを考えているのは何となく分かる藤丸立香であった。
「それにしても…あんな状況じゃ顔を出せる雰囲気じゃない…かな?」
「かもしれぬな。ここまで来たが引き返すかマスターよ」
「李書文の言う通りかも。じゃあ荊州に…」
引き返そうかと思った矢先、いきなり誰かの声が響いた。
「そこにいるのは誰か!!」
「おわっ」
誰かと思って視線を向けると孫呉の兵士たちであった。
「って…あなた方はまさか!?」
「ついに帰ってこられたのですね!!」
孫呉の兵士たちに見つかった。この後の未来が何となくだが予想できるのであった。
413
孫呉の兵士たちに見つかって雪蓮たちのいる陣営へと招かれたカルデア御一行。
独立戦争中に戻ってきたのは間が悪いと思って引き返そうとしたが、見つかってしまえば逃げる事はできない。
大人しく付いて行く他なかった。陣営に付いて待たされていたが、数分後に遠くから誰かが走ってくるのが見える。
「やーーーっと帰って来たわね立香!!」
「た、ただいま戻りました雪蓮さっ、ごふっ!?」
「おらああああ!!」
雪蓮のラリアットが藤丸立香に綺麗に決まった。そしてそのまま首を絞めにかかる。
「雪蓮さんっ、首、首が締まってる締まってる!?」
ペシペシとタップするが緩めてくれない。このままだと本当に意識を失いそうになってしまう。
「おいおい。そこまでにしてくれ雪蓮の姐さんよぉ」
「次はあんただからね燕青!!」
「マジかよ」
燕青の次は荊軻で、その次は李書文であるらしい。
首絞めの順番を決められるのは嫌なものである。
「おい雪蓮。急に飛び出すな」
「あっ、冥琳さんお久しぶりです。そして助けてください」
「それは無理だな」
「なぜぇ!?」
雪蓮の後から現れたのは冥琳であった。助けを求めたが、非情にも助けてくれなかった。
「何故と言ったな。それは助けても意味がないからだ」
「どういう…?」
冥琳は自分の背後を指した。
「立香ーーー!!」
「やっと帰ってきおったか。この馬鹿者がーー!!」
「蓮華さまを悲しませた責任は取ってもらうぞ!!」
「うわぁ」
声からして小蓮、雷火、思春だと分かった。
「雪蓮を止めても次から次へと来るから無駄だと思ったんだ」
そう言って微かに笑っていた冥琳。その笑いからは「我慢して受け入れろ」というのが伝わってきた。
「オレ何をされるんです!?」
「さあな」
藤丸立香折檻され中。どんな折檻を受けたかは秘密である。
折檻を受けている間に他の呉のメンバーも集まってくるのであった。
「うう…まさか、あんな事をされるなんて」
「大丈夫か主?」
「さて、次はあんたよ燕青」
「ゲッ…」
顔を青くする燕青。
「それにしてもおかえり立香。燕青たちも」
「立香ー!!」
「こらシャオ。抱き着くのはやめなさい…もう。久しぶりね立香」
蓮華たちが「おかえり」と言ってくる。それがどこか嬉しくもある。
「じゃあ次の折檻は…」
雪蓮が次の狙いを燕青に定めたが、これ以上は話が進まないので司馬懿(ライネス)が声を掛ける。
「孫策殿とお見受けする。すまないがここまでしてくれないか?」
「あら、誰かしら?」
「私は司馬懿。そこにいる弟子の師匠だよ」
「へえ、あなた立香の師匠なんだ」
雪蓮はすぐに司馬懿(ライネス)が只者でない事に気付く。武人ではなく軍師であろうかと思う。
彼女の予想は正解で司馬懿(ライネス)は軍師だ。更に付け加えると魔術師である。
「師匠は孔明先生の義妹でもあるんだよ」
「そうなのか。ならば君も軍師だったりするのか?」
「まあね。兄には負けるつもりはないぞ?」
「君とは軍師として語りたいな」
「私もです~」
諸葛孔明の実力を知っている冥琳と穏は義妹の司馬懿(ライネス)に興味が出たようである。
雪蓮としては司馬懿(ライネス)よりも秦良玉の方に興味がある。彼女もまた相当な実力者だと武人の勘で見抜いたのである。
(他にも知らない顔がいるわね。そっちの方はまあまあって所かしら? 翠髪の方は武人でも軍師でもなさそうだけど)
傾と瑞姫の事である。2人は自分の正体がバレないように静かにしている。
「それは嬉しいお誘いだが、今はそれどころではないのだろう?」
今の孫呉は独立のために袁術と戦争中である。
「確かに。でも、もう終わりだけどね」
「もう終わり?」
「ええ。もう袁術軍は壊滅状態だからね」
既に袁術軍は敗北している。袁術軍の半数以上の兵士たちの士気が下がっており、降伏しているのだ。
長い間、煮え湯を飲まされていた。やっと反旗を翻して戦いを始めたかと思えば決着は一瞬であったのだ。
「こんな呆気無い勝利は初めてじゃ」
「そうねー。こんな事を言うのは不謹慎かもだけど戦り甲斐がない戦だったわ」
「孫呉独立はみんなの念願だったのに…それを賭けた戦いなのに盛り上がらなかったよねー」
我慢に我慢をしてきた祭たち。解放された怒りを糧に袁術軍を屠ろうとしていたが、想像よりも弱すぎて逆に力が抜けそうだったほどだ。
黄祖との戦いと比べると雲泥の差である。袁術には申し訳ないが「弱すぎる」の一言しか出ない。
「確かに思うところはあるけど…孫呉独立が出来るなら特に文句なんて無いわ」
「蓮華さまの言う通りですね」
呆気ない戦であったが孫呉独立はもうすぐである。
今まで耐えに耐えてきた。ついに念願の孫呉独立は目の前だ。
「あとは袁術を討ちとって終わりよ」
袁術軍は降伏したが袁術と張勲はまだ捕まっていない。
建業の外を見張っていたが袁術軍の兵士たちが南陽へ逃げたなんていう情報は無いから袁術はまだ逃亡していない。
恐らく袁術は建業の中に潜んでいる可能性が高いのだ。
「なら、探してくるわね」
そう言って雪蓮がフラリと建業へ向かおうとする。
「待ってください姉様!!」
「なに蓮華?」
「なに? ではりません。何処に行こうとしてるんですか!!」
「袁術ちゃんを討ちに」
「勝手に1人で行こうとしないでください!!」
指を自分の耳に詰めて蓮華の説教を聞かないようにする雪蓮。
「ちゃんと聞いてください姉様!!」
「はいはい」
袁術軍はほぼ壊滅したとはいえ、建業はまだ袁術の手中である。街に袁術の兵が潜んでいるとも限らない。
危険であるのに孫家の当主をフラリと勝手に向かわせる事なんて出来るはずがない。
「蓮華。建業に残った袁術の兵にもう戦う気力はない。そこに大勢で乗り込んだら、かえって敵の戦意を呼び覚ますことになるわ」
「そうかもしれませんが…」
「戦はもう必要ない。あとは袁術を討つだけよ」
姉の目を見て、これは何を言っても無駄だと理解した。
「…わかりました。では、明命!!」
「はい!!」
「手の者を率いて、姉様の護衛をするのだ。無茶をなさろうとしたら、おとどめするのだぞ?」
「はい。お任せを」
雪蓮を建業に向かわせるのは認めたとしてもたった1人で行かせはしない。護衛をつけるのは当たり前である。
「もー、お守りなんていらないのに。私ってばいくつになっても信用ないわね」
「そういうことではございません」
「ふふっ、分かっているわよ。心配かけてごめんね? でもこれだけは自分の手でケリをつけておきたいから…」
「はい、わかっています」
今までの因縁との決着。孫家の当主として、自分自身の手で終わらせたいのだ。
「あ、そうだ。立香も付いてきてよ」
「え、オレも?」
「ええ。孫呉独立の瞬間を天の御遣いに見届けてもらおうかと思って」
藤丸立香は孫呉の天の御遣いとなっている。独立の瞬間を天に見て、認めてもらうという風評を流そうというのだ。
確かに天によって孫呉の独立が認められたというのは拍が付くものだ。
「じゃ、行くわよ。立香」
「ちょっ、引っ張らないで!?」
ズルズルと引っ張られるのであった。
「ちょっ、勝手に主を連れて行くな」
「仕方ないのう。妾が付いて行ってやる」
更に武則天がピョコリと付いて行く事になった。
「姉様を頼むわ立香」
「…うん。分かったよ蓮華さん」
頼まれてしまえば断れない。
「じゃあ、行ってくるわ」
「ああ…雪蓮、行って、決着をつけてこい」
「ええ」
ついに袁術との決着である。
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建業へと入り、宮殿へと無事に入り込んだ雪蓮と藤丸立香たち。
街では袁術の兵士が襲ってくる事は一切なかった。寧ろ何も無く、静かであったくらいだ。
「宮殿の中も静かね」
宮殿内にも袁術の兵士はいない。寧ろ誰も居ないと言ってもいい。
「流石に袁術ちゃんも宮殿内にはいないかしら?」
「そうですね。もう宮殿内から逃げているかもしれません」
「でも、まだ宮殿内にいる気がするのよねー」
「その理由は?」
「袁術ちゃんなら蜂蜜水を取りに戻ってきそうかなって」
蜂蜜水。
袁術の好物。しかし危険と分かっていても戻るくらいに好物のようだ。
「雪蓮さま…流石にそれは無いですよ」
「もしも、そうじゃったらアホじゃろ」
自分の命よりも好物を選ぶ。無謀と思うか、勇気と思うかは人それぞれである。最もほとんどの人が呆れるかもしれないが。
「あははー…流石にそうよね。袁術ちゃんもそんな事するわけないか」
実はある外史ではまさにその通りであるのだが、この外史ではまだ分からない。
「手分けしましょ。私は立香とふーやーちゃんだっけ? で、探すから明命は他を探してみて」
「はい!!」
明命たちは宮殿内に散開して捜索し始める。
「じゃ、私たちも行きましょ」
「何処にいるか見当はついてるの?」
「まずは玉座の間に行ってみましょ」
「一番居そうになさそうな場所じゃが」
壊滅状態の袁術軍。それなのに堂々と玉座の間にいたら馬鹿ではないかと思ってしまう。もしくは何か切り札的な物を持っているからこそ待ち構えているかのどちらかかもしれない。
「そういえば雪蓮よ。玉璽はどうしたのじゃ?」
「ん、ああ、玉璽ね。あれは袁術ちゃんにあげたわ」
「袁術さんにあげたんですか?」
「ええ」
袁術に玉璽を渡したのは孫呉独立の計画の1つであったのだ。
玉璽を手に入れた袁術が浮かれて皇帝でも名乗ったら天に叛く逆賊として討つ理由が出来る。偽帝討伐という大義が出来るのだ。
袁術は漢室との血縁関係は全く無い。玉璽を持っていたからといっても皇帝になれるわけではないのだ。
「ああ、そういう」
「ま、その策は実行することなく、こうやって独立の戦が始まったけどね」
これもまた別の世界線の外史であるならば実行されたが、別の物語である。
「なるほど。玉璽をそう使おうとしたのか」
「ええ。ま、罰当たりな使い方かもしれないけどね」
「罰当たりかどうかは知らん」
静かな廊下をカツカツと歩いて、玉座の間までたどり着く。
「……あー」
「どうしたの雪蓮さん?」
「いる」
雪蓮の目が鋭くなる。
「何で逃げずにいるのかしらね。もしかして何かあるのかしら?」
扉を開いて玉座の間に入ると袁術と張勲がいた。
袁術は玉座でふんぞり返っており、傍には張勲が立っていた。
(あの子が袁術…)
藤丸立香は初めて袁術を見た感想は豪華な衣装を着た幼女、というものだ。隣にいるのが話に聞いていた張勲だとすぐに分かった。
「この裏切り者め。よくぞ妾の前に現れたな!!」
「袁術ちゃんに言われたくないわよ」
「なにおー!! この恩知らずめ。いったい誰のお蔭で黄祖から命を救われ、孫家を継げたと思っているのじゃ!!」
「その恩ならとっくに返したわ!!」
「ひうっ!?」
雪蓮の叫びにビクついた袁術。
確かに雪蓮たちは袁術に救われた。だが、その恩は既に返している。
袁術が揚州牧に任命されてから、耐えながらもどんな命令もこなしてきたのだ。中には命を落とすような命令もあった。
危険で無茶だと分かっていても命令をこなしてきたのである。雪蓮にとってはもう限界である。もう袁術に縛られるのは御免だ。
「なんじゃとー!!」
そもそもこの乱世は自分以外は敵。裏切り、裏切られるのが当然な世になっている。
認めたくはないが裏切られる方が間抜けだといわれる始末だ。だが袁術も同じ事をして、のし上がってきた。
もはやお互い様としか言いようがない。
「うるさい、うるさい!!」
雪蓮と袁術のやり取りを聞いて武則天は袁術の事をまさに子供だとしか思えなかった。
(子供じゃのう…これで牧なのか)
まさかのギャップにちょっと気が抜けた。最も今の自分も人の事が言えないかもしれないが。
「でも、まさか玉座の間で待ち構えているなんて思いもしなかったわ」
「ふん、ここでお主を討ちとってやるのじゃ!!」
「へえ、私を討ち取るですって?」
「お嬢様。討ち取るんじゃなくて捕縛するんですよ。人質にするんです」
雪蓮は孫家の当主。袁術軍を制圧した孫呉軍のトップだ。彼女を捕まえて人質にすれば交渉に使えるのだ。
「ここで孫策さんを捕まえれば逆転できますよーお嬢様!!」
「うむ!!」
「孫策さんならこうやってノコノコと来ると思って待ってたんですよー。まあ関係ないのもいるようですが」
張勲は藤丸立香と武則天を見る。
「そういうつもりだったのね。でもそんな事が出来るのかしら?」
「うむ。やるのじゃ七乃!!」
「はいはーい」
張勲が古そうな剣を鞘から抜いて構えた。古そうな剣であるが剣身は煌めいていた。
更によく見ると剣身と柄に何か文字が刻まれている。
「え、あなたが戦うの?」
「ちょっ…これでも私は袁術軍の将ですよ。戦えますよ!!」
「あなたが戦えるなんて想像できないんだけど…」
藤丸立香や武則天はピンと来ていないが袁術や張勲を知っている者なら、そもそもこうやって立ち向かってくるなんて想像が出来なかったはずである。
「もう、いくら何でも私をなめ過ぎです……よ!!」
張勲が剣を振った瞬間に斬撃が放たれた。
「なぁっ!?」
「雪蓮さん!!」
いきなりに事で思考が一瞬だけフリーズしたがギリギリセーフだったとしか言いようがない。
雪蓮は反射的に斬撃を避けたのだ。
「ちょっとちょっと何よ今のは!?」
「すごいでしょう。これが宝剣の力ですよー」
「宝剣…そういえばアンタたちに顔を出す度に自慢してきたわね。なんて宝剣なのかしら?」
「教えるわけないじゃないですか。もしも教えて何か攻略法とか見つけられても困りますし」
そう言って張勲はまたも斬撃を繰り出す。
「チッ…!!」
雪蓮は舌打ちをしながら斬撃をまた避ける。
「えーーい!!」
「この!!」
意外にも駆け寄って剣を振るってきた張勲。それに合わせて迎え撃つように剣を振るった雪蓮。
「あのまま斬撃だけしか振るってこないかと思ったわよ張勲!!」
「いや、だってあのまま振るうだけでも孫策さんのことだから攻略しそうと思ったですし」
「でも間合いに入ったのが運の尽きよ!!」
高速で南海覇王を振るう。
「そうでもないですよー」
張勲の剣が輝き、衝撃波で南海覇王の斬撃を払う。
「…やるじゃない。本当にただの剣じゃないわね」
「おおー、七乃すごいぞ!! 孫策なんてケチョンケチョンにしてしまえー!!」
油断していたわけではないが雪蓮は息を吐いて、気持ちを切り替える。
本当は心のどこかで袁術と張勲を逃がそうかと考えていた。しかしもうそんな事は必要ない。ここで2人を斬ると決めた。
「まさかあなたがこうやって戦えるなんて本当に思わなかったわ。だからといって悪いわけじゃない。なら武人として本気で行かせてもらうわ!!」
「いや、本気で来なくていいです。寧ろ手加減してくれていいですよー」
「はあああああああ!!」
「うわっ、きた!?」
獣のように動き剣を振るう。
そんな雪蓮と張勲の戦いを観察する藤丸立香たち。
「三国志で張勲…袁術が何か宝剣を持っていたなんて逸話はあったっけ?」
「そんな話は無かったと思うぞ?」
気になったのは張勲が持っている宝剣だ。見ただけであの宝剣がただの剣でないのは明白である。
もしや宝剣は異変案件ではないかと勘繰ってしまう。現段階だと雪蓮からは手を出すなと言われているが、もしも異変案件ならば動かないわけにはいかない。
「武則天。いつでも動けるようにしておいて」
「任せよマスター」
「それとこの情報を明命さんと外のみんなに伝えて」
「うむ。酷吏よ」
武則天が酷吏を召喚した瞬間に殺気が飛んできた。
「…っ、酷吏よ妾とマスターを!!」
酷吏が藤丸立香と武則天を抱えて真横に跳ぶ。彼らが元々、立っていた場所は斬撃によって切断されていた。
「ありがとう武則天」
「これくらいよい。…それにしてもいきなりじゃのう」
視線の先は張勲だ。
「ちょっと張勲。なに立香たちに手を出してんのよ」
「いや、武則天さんが仲間を呼ぼうとしたから止めただけですよー」
ここに雪蓮や藤丸立香たちの仲間を呼ばれたら形勢が悪くなるのは袁術たちだ。仲間を呼ぼうとするのを止めるのは当然である。
「本当は孫策さんだけがここに来てほしかったんですがねー。まあ、今となっては今更ですけど。でもいずれ隙をついて仲間を呼ばれるのは困るので扉は閉めておきますね」
玉座の間の扉に何か文字が刻まれた。
「これは…!?」
「結界みたいなもんですよ。これで外には出させませんよ?」
「結界?」
張勲が結界を張るなんて聞いたこともない。
「あんた…もしかして妖術が使えるの?」
「ちょっとですけど」
「凄いぞ、七乃ー!!」
「やったー。お嬢様もっと褒めてくださーい!!」
カチャリと宝剣を構え直す張勲。
「これで邪魔なんて誰にもさせません。ここで孫策さんと倒して捕まえちゃいますよー」
(まったく張勲がここまで戦えるなんて意外ね。妖術も使えるなんて知らなかったし…)
雪蓮は張勲の事をよく知らない。袁術のように腹黒いのは知っていたが、まさかこうやって実力を隠していたというのは見抜けなかった。
更にここまで彼女が強気なのは宝剣が理由でもあるかもしれない。まさかの張勲にちょっと驚いたが驚異は張勲よりも宝剣にある。
直感が宝剣に対して危険だと告げているのである。
(…腕を切り落としてでも張勲から宝剣を離すしかないわね)
雪蓮も剣を構え直す。そして一気に跳んだ。
跳んだ瞬間に嫌な予感が急激に襲ったのだ。張勲が笑ったからである。まるで「掛かった!!」という声が聞こえてくるような笑いだ。
「お嬢様、今ですよー!!」
「ふはははははーー、潰れてしまえ孫策!!」
袁術が何かを天に掲げた。掲げた物は玉璽であった。
「えっ!?」
雪蓮の真上には金色に輝いた『璽』という文字が見えた。
読んでくれてありがとうございました。
次回の更新はGW中に更新を考えております。
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何姉妹。藤丸立香を誘惑するのは諦めてません。
彼女たちの活躍は一旦、ここでストップ。せっかく出したのに…(すまない)。
まあ、彼女たちと合流するのがまずメインでしたから。
彼女たちも4章のどこかで活躍させる予定です。
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ついに雪蓮たちの元に戻ってきた藤丸立香たち。
孫呉独立の戦が始まっていなければゆっくり再会について話が展開してたかもしれません。しかし、既に独立への戦いが始まっていたので雪蓮たちとの再会の絡み話はカットになりました。
前書きで孫呉独立編はいきなり最終局面手前と書いたのは既に雪蓮軍と袁術軍の戦が終わっていたからです。
原作の方でも一瞬で決着でついていましたからね。
原作では雪蓮のイベントCGがあって、BGMとセリフも相まってカッコイイんですよね。
そちらは原作にて確かめてください。
この物語の孫呉独立編のメインはこの後になります。
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ここからが本当の孫呉独立編です。
張勲…あれ、彼女ってこんなに強かったっけ?
これは物語が進めば分かります。
宝剣もなんの宝剣かは近いうちに分かりますよ。そして最後に袁術が放ったアレは恋姫の天下統一伝のアレです。