Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
GW中の更新も今回で最後です。なにせ今日でGW最終日ですし。
まあ、中にはまだ7、8、9、10と休みがある人がいるかもしれませんのでGWが終わていないという考えもあるかもしれませんが。

タイトルで分かるかもしれませんが始皇帝がメインの話のつもりです。
といっても雑談話みたいなもんなんですけどね。

では本編をどうぞ。


朕道中

428

 

建業から出立した藤丸立香たち。次の目的地は楊貴妃がいるであろう荊州だ。

既に諸葛孔明たちが捜索しに向かっている。荊州と言っても狭くなない。

諸葛孔明たちだけでも見つけるのは時間が掛かるかもしれない。ならば合流して捜索するのを手伝うべきである。

 

「ねえ…立香くん」

「何ですか瑞姫さん?」

「おい立香よ…」

「何ですか傾さん?」

 

瑞姫と傾の両サイドから声を掛けられる。二人の顔はまるで信じられない者を見た顔をしていた。

その理由を藤丸立香は知っている。

 

「本当に本当なのよね?」

「本当です」

「信じられないのだが…」

「でも証拠は見せたし、納得もしたですよね傾さん」

「そうなんだが…」

 

2人が何に対して信じられないかと言うと目の前に人物である。

 

「はっはっはっはっは!!」

 

始皇帝である。

 

「本当の本当に始皇帝さまなの?」

「揺るぎないくらい始皇帝です」

 

彼女たちには『ある証拠』を出し、色々と説明をして納得させた。最初は半信半疑であったが彼女たちが『漢室』と繋がりがあったので上手い具合に理解してくれたのである。

特に瑞姫は『ある証拠』についての力を少なからず知っていたようで傾よりも先に始皇帝の存在を信じてくれた。彼女は元、太后であったので知っていてもおかしくない。

信じてくれても、やはり何処か信じられないという気持ちは残っている。その気持ちは分からないでもない。

現代に生きる者にいきなり「目の前にいる人物は歴史の偉人です。実は生きてました」と説明されても簡単に信じられるはずがない。証拠があっても完全に納得するまで時間は掛かるものだ。

 

「本当に本当に始皇帝さま…」

「うん」

「その始皇帝陛下をあの女がさっきから殺そうとしているんだが…」

「ああ、アレは因縁だからしょうがない」

「因縁って…」

 

あの女とは荊軻の事である。現在彼女は絶賛暗殺実行中。

 

(正面から正々堂々と殺しにかかってるから暗殺でもなんでも無いけど)

 

荊軻と始皇帝は今、殺し殺されという名の戯れをしている最中である。

 

「おい。止めなくていいのか?」

「そのうち終わるから大丈夫」

「本当に大丈夫なのか!?」

 

そのうち終わるというのが殺害成功という4文字だったら笑えないものだ。

 

「うむ。荊軻の奴も変わらずだな」

「し、始皇帝陛下!?」

 

気が付けば『戯れ』が終わったのか始皇帝は藤丸立香の横に来ていた。一緒にいた何姉妹はいきなり接近してきた始皇帝に驚く。

王への敬意、畏れを持つ者にとって王が急接近すれば驚くのは当たり前だ。特にこの世界は中国を元にしている。『始皇帝』という名に敬意と畏れが無いわけがない。

 

「今一度、確認するがお主らが何進と何太后で間違いないな?」

「は、はい。その通りでございます始皇帝陛下。私の名は何太后。真名は瑞姫です」

「我が名は何進と申します。真名は傾です」

 

何姉妹の始皇帝に対する口調はとても丁寧であり、敬意と畏れを示したものである。藤丸立香に対する口調と段違いである。

 

(真名か…のう立香よ。此方の世界の真名は汎人類史とは違うのだろう?)

(はい。こっちの真名というのは此方の世界特有の文化みたいですよ)

(そういう文化もあるのだな)

 

文化に関しては国によって様々だ。世界は違えど同じ中国大陸で生きた始皇帝はどのようにして、そのような文化が生まれたか気になった。しかし、その答えを知る者はこの時代に生きる者は分かる者は少ないかもしれない。

何せ、この世界では既に当たり前のように根付いているからだ。この世界の『真名』という文化はどこから根付いたか。それはそれで興味深い討論が出来るかもしれない。

 

「しかし、立香は本当に不思議な世界というか特異点に飛ばされるな。カルデアの記録を見たが面白可笑しい特異点をいくつも周ってきたであろう」

「うっ…ハロウィン。チェイテピラミッド姫路城」

「それな。メカエリチャンとやらは朕とっても興味深いと思ったぞ。てか、分解して組み立ててみたい」

 

カルデアにいるロボット系の英霊に興味津々の始皇帝。そもそも開発等に携わる英霊はロボット系の英霊に興味津々なのである。

今では英霊ではなく、英霊が持つ宝具にも目をつけているのだ。オデュッセウスの宝具なんて最たる例である。

藤丸立香や坂田金時たちは目をキラキラしながら眺めていた。バベッジの変形なんて涙を流したほどである。男の子の浪漫(ローマ)だ。

 

「この世界についてや敵対する者は理解した。この特異点を解決する為には于吉とやらをどうにかすれば良いのだな?」

「はい。于吉はオレらがこの世界に来てからずっと異変を起こし、敵対しています」

「ならば聖杯も于吉が持っているのか?」

「聖杯の存在はまだ確認できていないです。でも于吉に近づく事で分かるかもしれない」

 

特異点の中心には聖杯が必ずある。夏の特異点やハロウィン特異点、異世界の特異点もそうだ。

この三国志の外史という世界もまた聖杯がある可能性がある。その聖杯を回収する事で異変は解決するはずなのだ。

 

「その于吉は大陸中にちょっかいを掛けていると」

 

黄巾の乱や洛陽、黄祖、反董卓連合もそうだった。更に官渡の戦いや孫呉独立にも全て関わっている。

藤丸立香たちが行く先々で異変を起こしているのだ。

 

「今の所、全ての異変を何とか解決してるけど…油断は出来ない」

「そうさな。あやつは軒轅剣を持っておった。他にも何か隠し持っている可能性は高い」

「はい。立ち向かうためにも始皇帝、力を貸してください」

「無論だ。朕に全て任せよ」

 

始皇帝がこれからの旅に加わる。これほど頼もしい事は無いが、それと同時に波乱も含んでいる。

カルデア側の事情が分からない外史世界の者たちにとって始皇帝の存在はまさに爆弾のようなものである。だからこそ始皇帝の存在をこの外史世界では慎重に扱わなければならないのだ。

既に外史世界に馴染むように始皇帝にはどのように振舞っていくか頼んである。中には納得できないような事があるが我慢してもらうしかない。

そもそも我慢してもらえるか分からない。始皇帝には始皇帝の矜持があるのだから。

 

「しかし立香が考えたあの設定。案外信じてもらえるものなのだな」

「嘘は言ってませんからね。ただ解釈が違うだけです」

「お主も少しは悪知恵が働くのだな」

「孔明先生やモリアーティのせいですね」

 

藤丸立香が考えた設定。その設定というのがこの外史世界の者たちに始皇帝が存在すると信じてもらうためのものだ。

傾と瑞姫にその設定による説明と証拠を出した事で信じてもらえた。

彼女たちは信じてもらえたが、他の者たちは信じてもらえないかもしれないという不安があるのだ。特にこれからより関わるかもしれない三国の者たちが信じてもらえるか重要だ。

藤丸立香の目の前にいる始皇帝はまさに本物。ただ外史世界からしてみれば本物の始皇帝であるけど違うのだ。そこが難しいところである。

 

「これから荊州に向かいます」

「それは何故だ?」

「荊州に仲間がいるかもしれないんです。楊貴妃ですね」

「楊貴妃か」

「これからも仲間が此方の世界に来る可能性は大いにありますからね。仲間の情報が手に入り次第合流していきます」

 

始皇帝が外史世界に来たのだ。虞美人や項羽もいずれ来る可能性は高いのだ。

 

「そうさな…仙女のやつも来るであろう。たぶん、そろそろこっちに来るんじゃないか?」

 

虞美人。彼女は始皇帝とは別の意味で心配してしまう。何故か分からないが最近の虞美人からはポンコツ成分が滲み出ている気がしてならないのだ。

 

「仙女とはそのうちどっかで会えるだろう。そういえばまずは荊州に行くのであったな。ならば早速向かおうではないか。異世界とは言え中国の大地を自らの足で踏みして行くのは久しぶりゆえ、朕ちょっとワクワクしてる」

「ワクワクするのは良いんですけど…此方の世界で新たなる秦を建てるとか言わないでくださいよ」

「それはどうかなぁ」

「この世界にも悪逆や汚埃もあると思う。でも美徳や驚きがあるのも確かですから」

「ははは、分かっておるし、冗談だ。ここは異世界で汎人類史では無いからな」

 

始皇帝ならば本当に秦を建国できる実力があるのだから怖い所だ。もしも三国時代に秦を建国したら、寧ろ特異点案件になってしまう。

 

「よし。では行くぞ立香!!」

「はい、始皇帝陛下」

 

気が付けば空気になっていた何姉妹。彼女たちは始皇帝と藤丸立香の会話に口が出せなかったのである。

そもそも彼らの会話内容についてあまり理解できなかったのだ。異世界やら汎人類史やらチェイテピラミッド姫路城やらよく分からない。

分かったのは目の前にいる人物が本物の始皇帝で、これからの行先が荊州だということだ。

 

(瑞姫よ。目の前にいるお方が始皇帝陛下とは分かった)

(ええ、そうね姉様)

(だが立香は何者なのだ。あの始皇帝陛下と堂々とまるで対等のように話しているように見えるのだが)

(私もそう見えるわ…)

 

彼女たちにとって藤丸立香の評価は様々な人材を囲い、お金も持っている人物。そこに新たに分かった事が『天の御使い』や『天の国』というものだ。

そんな彼は始皇帝と対等のように話している状況を見て彼の評価が訳が分からなくなっているのだ。

 

(…立香って実は凄い奴なのか?)

 

藤丸立香は確かに『凄い』と評価出来る。彼の旅路を知る者なら「凄い」と言うはずだ。しかし何姉妹は別ベクトルで誤解をしていく。

 

「あの…始皇帝さま。立香くんとはどのような関係なのですか?」

「立香は今や朕の一番の家臣だぞ。過去には互いに覇を競い合った仲であった。今では人の世の在り方について話し合ったり、衝突したりする仲でもある」

「えっ!?」

「あ、なんか誤解された気がする」

 

始皇帝と藤丸立香たちは異聞帯で未来を賭けて戦った。

カルデアではよく様々な会話をしており、確かに中には人の世の在り方について話し合ったりもした。

確かに始皇帝は嘘を言っていない。しかし何姉妹は始皇帝の畏れから藤丸立香の『凄さ』を変に誤解してしまっている。

 

(始皇帝の一番の臣下。それって実質…)

 

今の言葉を分かりやすくしてみると藤丸立香は始皇帝の懐刀。国の実質ナンバー2と思われている。

 

(姉様)

(何だ瑞姫?)

(絶対に立香くんを落としましょう)

 

絶対に誘惑して手籠めにしてみせるという気持ちがより強くなったようである。

本当ならば始皇帝自身を狙うべきなのだが、2人は始皇帝を見て誘惑しても落とせないと本能で理解してしまったのである。

寧ろ不敬と言われて処刑される未来も見えたらしい。処刑なんてするはずないが始皇帝は何姉妹の誘惑なんて物ともしないのは確かだ。

ならば始皇帝のお気に入りとされている藤丸立香を狙うのが一番現実的である。

 

(立香くんを誘惑すれば私たちは天の国で…!!)

(ああ。もしかしたら漢帝国にいた時よりも上の存在になれるやもしれん!!)

 

何姉妹は色々と誤解してしまったようだ。しかし全てが彼女たちの勝手な誤解のせいではない。藤丸立香が説明した中には誤解を促すものあったので自業自得の部分もある。

普段ならば自分の認めた男以外には肌すら触らせないが藤丸立香ならば合格。傾と瑞姫はまた急接近して藤丸立香に密着する。

自分たちの胸を腕に押し付ける。自分たちの美貌は完全に分かっているのだからどう使えば男が落ちるかなんて朝飯前だ。

 

「立香く~ん。私もっと立香くんの事が知りたいわぁ」

「立香よ今夜一緒にどうだ?」

「また、いきなり!?」

 

何姉妹の誘惑が藤丸立香を襲う。籠絡されてしまうかはまだ分からない。

 

(立香は異世界でも変わらずよのう)

 

始皇帝はその様子を面白そうに見守るのであった。

 

 

429

 

 

藤丸立香たちは新たに始皇帝と何姉妹を加えて荊州へと向かう。

荊州までの旅路はまさに珍道中であった。正確には『朕』道中。

珍道中とは旅の途中で奇妙な出来事に遭遇していくものだが朕道中は始皇帝が色々とやらかすというか、活躍したようなものである。

色々ありすぎて全てを語る事は出来ないので、そのいくつかを語る。

まず1つ目。朕道中『暗殺者はお隣に』だ。

荊州に向かっている途中で始皇帝は何度も死の危険性があった。今も始皇帝は死から身を守ったばかりである。

 

「…始皇帝、大丈夫?」

「うむ」

 

始皇帝の顔の周りには水銀が張られているのだが、その水銀に短刀がビッシリと刺さっている。

ビッシリという事で短刀の数は尋常ではない。針千本ならぬ、短刀千本と言いたいくらいだ。

 

「大丈夫なのだが…この数は朕ちょっと引く」

 

今は仲間であるが殺意100パーセントが嫌でも分かってしまうものだ。

 

「…ああ、アレか。愛情の裏返し的な?」

 

ビシリと荊軻の額に血管が浮き出た。般若のような形相で手には短刀を強く握りしめている。

今にも飛び出しそうであるが燕青と李書文が抑えているおかげで未遂だ。既に手を出しているので未遂でも何でもないが。

 

「落ち着け姐さん!!」

「落ち着かんか」

「大丈夫。私は冷静だ。ちょっと殺殺(コロコロ)してくるだけだから」

「大丈夫じゃねえよ姐さん!?」

 

始皇帝と荊軻の因縁。もはや2人の光景はカルデアでは日常茶飯事である。

荊軻が暗殺を計画し、実行する。始皇帝はその暗殺を受け止める。そのまま戦いに突入。最終的に燕青たちに止められるという流れである。

他に流れがあるとすれば荊軻が泥酔して暗殺を実行するというものだ。泥酔している場合は他の皇帝系の英霊も被害にあう。

 

「こら、止めぬか荊軻。偉大なる祖龍に何てことをするか!!」

 

実は武則天も酔いどれ荊軻に暗殺未遂事件に巻き込まれた被害者である。

 

「今はカルデアの仲間だと理解している。しかし始皇帝の事を考えるとつい暗殺しちゃいたくなってしまうのだ」

「姐さん。アンタの気持ちは分からなくはないけど…今は止めてくれよぉ」

 

今は外史世界にいる。未だに解決までのゴールはまだまだ先だ。

敵勢力もまだ謎な部分もあり、強力な力を持っていると孫呉独立で知った。ならば藤丸立香たちも出来る限り戦力は欲しいのである。

始皇帝はまさに大きな戦力だ。因縁があるとはいえ、ここで仲間割れは勘弁してもらいたいのだ。

 

「私が始皇帝の分まで頑張れば大丈夫だ。何が何でもマスターは守ってみせる」

「姐さんそうじゃない」

 

始皇帝と荊軻が一緒にいるという事はこういう事である。

 

「…なあ、立香よ。何であの女は始皇帝陛下を殺そうとするんだ。不敬云々の話じゃないぞ」

 

傾としてはあの偉大な始皇帝を殺そうとしている荊軻が信じられなかった。

 

「普通ならそうだよね。でも始皇帝と荊軻の関係は普通じゃないから」

「まったく分からん」

 

彼女が分からないのはしょうがない。始皇帝と荊軻のやり取りはカルデアの者たちにしか分からないのだから。

そもそも英霊となったからこそのやり取りなのかもしれない。始皇帝と荊軻のような因縁の関係はカルデアではいくつもあるのだ。

それは奇跡のようで運命の悪戯のようなもの。英霊召喚とは本来は不可能だった英雄同士の邂逅が出来るものだ。

 

「ところで荊州まで後どのくらいなの…」

 

瑞姫は歩くのに疲れたのかちょっとだけ弱音を吐いた。

 

「まだまだ先」

「ねえ、立香くん。おぶってぇ」

 

流れるように藤丸立香へともたれ掛かる。どんな状況でも誘惑へと繋げる彼女は強かだ。

ドキマギしながら我儘を聞く藤丸立香。しゃがんで背中を瑞姫に見せる。

 

「どうぞ」

「私は前がいいなぁ」

「前」

「抱っこして…ね?」

 

お姫様抱っこがご所望のようだ。

 

(流石は瑞姫。グイグイ攻めているな)

「抱っこ…」

 

藤丸立香。抱っこするよりも抱っこされた方が多い男。

 

「よっと」

「あら」

 

軽々と瑞姫を抱っこする。抱っこされる方が多いとはいえ、鍛えているので女性を1人を抱えるのは簡単なものである。

女神であるエウリュアレを抱っこした事があるのだ。不快な抱え方はしない。

 

(密着して分かったけど、立香くんも鍛えているのね)

 

意外にも男らしい体つきと分かってペロリと舌なめずりする。

そんな2人の様子を見守る女性陣の内心は嫉妬したり、羨んだりと様々。誰がどのような感情を現したかは内緒である。

もっともその内の1人は始皇帝に対して殺意を向けている最中だ。

 

「ねえ、立香く…」

 

瑞姫が更に誘惑をしようとした瞬間に事件が起きる。

 

「む、何だ?」

 

群雄割拠の時代とはいえ、盗賊たちがいる。大陸を旅をしていれば遭遇する可能性は大いにあるのだ。

草むらから囲うように盗賊たちが現れたのだ。その数20人ほど。

 

「へっへっへ。良いカモを見つけたぜ」

「女が多いじゃねえか。こりゃ高く売れるな」

「その前に俺らで楽しんでから売りましょうよ兄貴!!」

 

何故か黄巾党の色違いと思ったが口には出さず、飲み込んだ。

 

「いや、本当に良い女ばかりじゃねえか。売るのがもったいないな」

 

良い女。この盗賊の言葉は同意できる。

カルデアの女性陣は一癖も二癖もあるが美人で可愛い女性たちばかり。そして各々の専門分野に強い。

傾と瑞姫も美しさと可愛さを兼ね備えている。男が彼女たちを見て「美しくない。可愛くない」とは言わないはずだ。

 

「内側は可愛くねえけどな」

「燕青、お口チャック」

 

何処からともなく燕青の言葉が聞こえてきたので止めておいた。

 

「おいおい…凄い服着た奴もいるもんだな。あれは高く売れそうだ」

 

凄い服を着た奴とは始皇帝の事だ。盗賊は特にマントに目を付けたようである。

確かに始皇帝の服はこのメンバーの中でも異色であり、ある意味最先端を突き進んでいるかもしれない。

 

「ふっ、朕のセンスにあの者たちは目が釘付けのようだな」

「アレはそういう目で見てないぞ」

「え、そうなの?」

 

危機的状況であるのだが焦りもしない荊軻と始皇帝。

 

「野郎はたった4人だけだ。殺して服をひん剥け。女は出来るだけ傷つけずに捕まえろ」

 

盗賊たちは剣を持ってジリジリと近づいてくる。

 

「貴様ら…瑞姫に手を出したら殺してやるぞ」

 

傾が殺気を滲み出して鞭を取り出すが、その鞭が振るわれる事は無かった。

 

「荊軻終わったか?」

「既に終わっている」

 

一瞬であった。瞬く間に始皇帝は水銀を、荊軻は短刀を放って20人の盗賊を全員無力化したのである。

盗賊たちは何が起きたか分からずに地面に倒れていた。

 

「まったく嘆かわしい。朕が統治しておれば盗賊なぞさせんというのに」

 

危機的状況であったのだが気が付けば危機から脱していた。その危機から救ってくれたのが先ほどまで殺し殺されをしていた始皇帝と荊軻だというのだから不思議だ。

 

「なあ…あの女は先ほどまで始皇帝陛下を殺そうとしていたよな。だけどさっきは力を合わせて盗賊を倒したんだが」

 

まったくもってどういう関係か分からない傾であった。だが、それこそがカルデアにいるからこそ生まれた関係性である。

 

「始皇帝だからね」

「始皇帝という名前で全て片づけないでほしいわ…」

 

 

430

 

 

朕道中その2は『好きな物が水銀だけど、嫌いな物も水銀ってどういう事ですか?』だ。

この話が出てきたのは休憩中の時である。流石に荊州に向けて歩きっぱなしというのは不可能だ。

英霊ならまだしも藤丸立香は人間だ。傾や瑞姫も同じく人間であり、無茶はさせられない。

どんな仕事や旅でも休憩というのは必要である。過酷な重労働などは絶対にダメ。

 

「そろそろ休憩にしないか弟子よ」

「あ、私も賛成。立香くん休憩しましょうよ」

 

司馬懿(ライネス)の提案に瑞姫も賛成する。ずっと歩きっぱなしは彼女にとって耐えられない。

 

「そうだね。休憩しよっか」

「よし。ではお茶にしよう」

 

司馬懿(ライネス)はトリムマウを使ってすぐさまお茶会セットを用意した。

 

「ねえ、貴女…それ何処から出したのよ」

「それは秘密だ」

 

気が付けばお茶やら菓子が用意されていて驚く瑞姫。更に驚いたのが見た事も無いお茶や菓子だからだ。

テーブルやイスも見た事も無いデザインなので興味深そうに見る。

 

「へえ、珍しい。漢室では見なかった物だわ」

 

司馬懿(ライネス)が出したのは未来の西洋文化の物だ。中国出身の彼女には珍しくてしょうがないはずである。

 

「これ高いんじゃない?」

「なかなか値の張るものだよ。それは置いておいて、飲むといい」

「ええ、頂くわ。ほら姉様も」

 

ちょっとした休憩が高貴なお茶会へと変容する。何故ならお茶を囲っているメンバーが司馬懿(ライネス)を筆頭に瑞姫、傾、武則天、始皇帝だからである。

ある意味、中華の上位者たちのお茶会である。そこに加わるのが藤丸立香である。

 

「不思議な味ね」

「紅茶は初めてかい?」

「そうね。でも似たような味を飲んだことがあるような」

 

そもそも紅茶の起源は中国からだと言われている。漢室にいたのだから彼女が原種を口にしていても不思議ではない。

 

「でもこっちのお菓子は初めてね。これは何という菓子なの?」

「マカロンさ」

「魔華論?」

 

色鮮やかな菓子であるマカロンを食べる。甘味が口に広がり、紅茶で流し込むと更に良い。

 

「あ、美味しい」

「だな。こんな菓子は初めて食うが美味いな」

 

モグモグとマカロンを食べていく何姉妹。マカロンの味が気に入ったようだ。

彼女たちだけでなく武則天もまた気に入っている。

 

「ふむ。英霊となって良かった点の1つはこうやって美味しい物が食べられる点じゃな」

 

過去の人物たちは未来の発展に驚くのは当たり前である。

ほとんどの英霊たちは未来の技術に驚いている。食べ物だったり、冷蔵庫などの機材だったり、トイレだったり。

英霊たちに食事などといった行為は必要ないのだが娯楽としてカルデアでは推奨している。ある意味、英霊たちはカルデアで第二の人生を謳歌していなくもない。

 

「うむ。最初にカルデアへ来たときは食事なぞの必要性は無かったが…食べてみると久しく忘れていた食の楽しみを思い出したものだ」

 

始皇帝ですらカルデアの食事を楽しんでいる。やはりカルデアの料理上手英霊たちのおかげでもある。

 

(それにしても…本当にこのお茶会のメンバーは凄いな)

 

中国統一を果たした始皇帝に、ある意味漢のトップにいた何姉妹、晋の土台を作り上げた司馬懿、そして中国唯一の女帝である武則天。

時代は違えど中国の頂点にいた者たちのお茶会。カルデアでは案外見る光景であるが冷静になると凄い光景である。

 

(でもやっぱり始皇帝が一番目立つなあ)

 

この中でもやはり目に付くのが始皇帝だ。存在感がこれでもかというくらいグイグイと出ている。

 

「なあ司馬懿だったか?」

「何かな傾殿」

「前から気になっていたのだが…その従者はなんだ。人間じゃないだろ」

 

傾が気になっていたのはトリムマウだ。

 

「トリムマウという。水銀を妖術で操っているようなものと言えば分かるかな」

「お前…やはり妖術師だったのか」

「隠していたわけではないけどね。今だと軍師であり妖術師だよ」

 

ここで水銀という言葉が出たので話は始皇帝へと繋がる。繋げたのは瑞姫で、始皇帝の周囲に浮いている羽衣のような物が気になったからだ。

 

「始皇帝陛下。その羽衣のような物ってもしかして」

「うむ。これも水銀だ。水銀は良い…腐らず、乾かず、固まらず。永劫不滅を象徴するかのようなその在り方まさしく、朕に相応しい美しさであろうよ」

「はい。始皇帝陛下の美しさに水銀は合っていると思いますわ」

 

始皇帝の美しさは瑞姫ですら認めている。『始皇帝』だからというわけではない。

彼女は人間には無い美しさを始皇帝から感じているのだ。女性として美しさを求める彼女にとって始皇帝の美しさの秘密は知りたいと思っている。

始皇帝の人間には無い美しさの秘密というのはサイバネ化なので瑞姫にはきっと最後まで分からない。

 

「好きな物は水銀なのですね」

「強いて言うならな」

「水銀が浮いているのは司馬懿さんと同じで妖術なのですか?」

「これは妖術というより仙術だ」

 

始皇帝は現代技術とは別ベクトルで近未来化を成功させただけでなく、仙術をも極めているのだ。

 

「仙術まで…」

「うむ。不老不死の研究がてら仙術を極めてしまった」

 

始皇帝が不老不死を求めていた話は何姉妹も知っている。まさか本当に不老不死になっているなんて想像できるはずがない。

不老不死の話は始皇帝を証明する時に聞いている。人類の夢である不老不死。

どうやって不老不死になったか聞いた何姉妹は当然の感情である。しかし教える気は始皇帝には無い。

 

「あの、失礼ながら嫌いな物はあるでしょうか。もしも教えて下さればこれから気を付ける事ができますので」

「嫌いなもの……ふむ、強いて言うなら水銀かなぁ?」

「え」

 

ここで意味が分からなくて固まる瑞姫。

彼女の反応はしょうがない。藤丸立香も同じような反応をしたものである。

 

「あれ本当に不味くてなあ、もう二度と口に入れたくないぞ」

 

更に始皇帝の今の言葉に同意出来る藤丸立香。司馬懿(ライネス)からのバレンタインチョコを思い出す。

レポートを提出した時の司馬懿(ライネス)は「本当に食べたのかい?」と言っていたが顔は物凄く小悪魔スマイルであった。そしてどこか嬉しそうでもあった。

その後はレポート提出のご褒美だったのか美味しいチョコ菓子を振舞ってもらえたのだが、それはまた別の話である。

更に別の話であるが、水銀チョコのことを始皇帝に話したら「朕とお主は水銀口にしたフレンド。水フレだな」とか笑いながら言っていた。

 

「始皇帝陛下の事を知ろうとしたが分からなくなったのだが…」

 

傾の感情はしょうがない。本体の司馬懿でさえ始皇帝の考えは読めなかったらしい。

 

「おい立香。始皇帝陛下に対して気を付ける事は何なんだ」

 

傾と瑞姫は始皇帝の威光と畏れに勝てない。特に傾は権力や威光の力というのはよく分かっている。

そのせいで始皇帝に対して細心の注意を覚えようと必死であるのだがいまいちどう気を付ければ良いのか分からないのだ。

なにせ好きな物と嫌いな物が同じという混乱しそうな答えが返ってくるのだから。

 

「始皇帝陛下の考えが分からん…」

「始皇帝だからね」

「また『始皇帝』という名前で片づけんでほしいのだが」

 

始皇帝だからしょうがない。




読んでくれてありがとうございました。
次回は2週間以内に更新したいと思っております。

『益州攻略(もう1人の○○)編』に入って行きますが、まずは荊州に辿り着くまでの話を書いていきます。始皇帝や何姉妹をちょっとでも書けたらと思ってます。


428
何姉妹は既に始皇帝が本物だと理解しております。
どうやって信じたか。どうやって説明したかは藤丸立香たちが北郷一刀たちと合流してから分かります。その時に恋姫キャラたちに始皇帝の存在を信じてもらう説明をする物語を書きますので。

何姉妹は藤丸立香を変に誤解。誘惑するのに一層力を入れます。
しょうがないよね。


429
朕道中その1
荊軻と始皇帝の因縁。何姉妹からしてみれば彼女の行動は不敬云々の話じゃありませんからね。カルデアでは日常茶飯事みたいなもんですけどね。
英霊同士の会合はまさに奇跡みたいなものです。


430
珍道中その2
始皇帝陛下。好きな物も嫌いな物を水銀ってどういう事ですか。
これはマイルーム会話で本当に「え?」となりました。
今回はまさにコレです。

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