Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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珍道中は続きます。まあ『朕』ではないんですけど。
今回から珍道中らしい話が書けたらと思ってます。
もしかしたら『朕』道中がまた入るかもしれないですが。


珍道中その1

431

 

 

荊州へ向けて旅を続けるカルデア御一行。

旅慣れている藤丸立香たちであるが何姉妹も長距離の旅に付いてきている。

瑞姫は文句を言いながら甘えてくるが何だかんだで歩く。時折、我儘を聞いてあげて藤丸立香が抱っこする。

傾に関しては特に文句は言わずに歩いてくれる。外史が違えば彼女は長期任務で旅をする実績があるのだ。今回のような長距離の旅は全然平気のようである。

 

「ここを通れば荊州への近道になる」

 

近道とは崖路のことだ。危険であるが崖路を通ればだいぶ距離を稼げる。

 

「ええー…ここを通るの?」

 

まさかの崖路にうんざりしている瑞姫。普通は誰も崖路は通りたくないもので彼女の気持ちは誰もが分かってくれる。

 

「私もあまり通りたくないけどね」

「なら別の道を行きましょうよ司馬懿ちゃん」

「そうなると相当な遠回りになるけどいいのかい?」

「うう…それもちょっと」

 

ここは我慢するしかない。瑞姫も早く荊州に到着してゆっくりしたいという気持ちの方が優先して崖路を歩くというのを渋々了承した。

 

「落ちないように支えてね立香くーん」

「はいはい」

 

少しは瑞姫の誘惑にも慣れてきたので多少は言い返すくらいは出来るようになった。瑞姫や傾の誘惑は完全には防げていないが清姫を筆頭とする溶岩水泳部に比べればまだまだ。

溶岩水泳部はプライバシーとか関係なく藤丸立香を色んな意味でコミュニケーションを取ってくるからだ。睡眠中、入浴中、食事中、はたまたトイレなんて関係ない。

 

「それに始皇帝がいるから大丈夫だよ」

「あの、始皇帝陛下こそ一番に守るべきじゃ…」

「始皇帝って飛べるから」

「え」

 

始皇帝を見ると当たり前のようにフヨフヨと浮ていた。

 

「し、始皇帝陛下…飛べたのですか」

「うむ」

 

始皇帝だけでなく、英霊の中には飛べる者が何人かいる。もしもここに哪吒がいればある意味、崖から落ちる危険性はより少なくなる。

 

「もしもの時は朕の水銀で救ってやろう」

「どうやって飛んでいるのですか?」

「仙術」

 

仙術と言われてしまえば納得するしかない。

 

「まあ、落ちたとしても定番の(クラス名)着地任せたって言う」

「ああ、それな」

 

たまに高いところから落ちて、その時その時にいる英霊に着地を任せたりしている。

 

「何故かエミヤ(アーチャー)は手慣れてるんだよね」

「それやったら他の英霊たちもやりたいとか言い出してお主、何度も高いところから落ちてたな」

「ある意味、紐無しバンジー気分だったよ」

 

助かると分かっていても何度も命綱無しで落ちるのは怖いものだ。

 

「まあ基本、落ちるような事が無いのが一番なんだけどね」

「そうだな」

 

他愛のない話をしながら崖路を渡っていくカルデア御一行。このまま何もなく通れれば一番なのだが、そうはいかなかった。

 

「上!!」

 

秦良玉の声より上を向くとまさかの光景が広がった。

 

「岩が落ちてきた!?」

 

崖の上からゴロゴロと岩が転がり落ちてくる。このままでは岩に押しつぶされる未来しかない。

 

「みんな!!」

 

藤丸立香の一声で英霊たちは動き出す。

始皇帝は水銀を大きな剣へと変形させて転がり落ちてくる岩を全て切断する。切断されて少し小さくなった岩を燕青と李書文が砕く。

更に細かくなった岩を秦良玉の槍裁きとトリムマウの水銀の鞭裁きで全て弾き落とす。

 

「はー…凄いわね」

「そうじゃろう」

 

流れるような手際により窮地から脱した。その手際の良さに瑞姫は素直に賞賛。

 

「貴女は何もしてないじゃない」

「お主らを守っておったのじゃよ」

「私もな」

「…言い訳じゃないの?」

 

武則天と荊軻にツッコミを入れる瑞姫であった。

 

「上に誰かいる」

 

崖の上に人影が見えた。すぐに李書文と秦良玉が重力を無視したように登っていく。

 

「凄いな。簡単に崖を登って行ったぞ」

 

岩が自然に落ちてきたわけではなく、人為的に落とされた可能性がある。

盗賊らが狙ってきたかもしれない。それでも崖の上から岩を転がり落としてくるとは物取り云々の話ではなく、完全に殺害しに来ている。

 

「みんな無事だよね」

「ああ。私は無事だ」

「私もよ。立香くん、怖かったぁ」

 

瑞姫が藤丸立香に抱き着こうとした瞬間に異変が起きた。

藤丸立香の足元付近に何処からともなく大きな槍が飛んできて突き刺さったのだ。

足場は不安定であり、大きな槍が突き刺さった瞬間にバキリと崩れた。

 

「え?」

「あ、おい!?」

 

傾が藤丸立香の腕を掴んだが彼女の足場も一緒に崩れた。

 

「あ」

 

藤丸立香と傾は2人仲良く落ちた。

 

「姉さま!?」

「主ぃ!?」

「しょうがないのう」

 

燕青は急いで飛び降り、始皇帝は「世話の焼ける」と小さく溢しながら同じく飛び降りた。

 

「よぉし始皇帝、マスターの下敷きになって必ず助けろ。そして貴様はそのまま転落死しろ!!」

「荊軻ちょっと朕に対して酷くない?」

 

崖の上から聞こえてくる荊軻のコメントに対してちょっとだけへこむ始皇帝。

 

「んな事いいから助けるぞ!!」

 

始皇帝は水銀を飛ばして藤丸立香と傾の真下へと展開する。

 

「拳法家よ。行け」

「言われなくとも」

 

燕青は始皇帝の蹴りを受けて一気に加速する。

そのまま藤丸立香と傾の所まで到達して回収、始皇帝の水銀を使って着地を緩和すれば無事完了だ。

 

「よし、あともうちょっと」

 

燕青の手が藤丸立香の腕を掴みそうになった瞬間に槍が2人の手の間に飛んできた。

 

「なにぃ!?」

 

飛来してきた槍によって燕青は掴める事が出来なかった。

 

「主ぃいいいい!?」

 

藤丸立香と傾はそのまま崖の下へと落ちて行った。

 

 

432

 

 

崖の上では盗賊たちは縛られていた。

彼らは李書文と秦良玉に成敗されて捕縛されたのである。盗賊たちは顔を真っ青にしながら震えていた。

 

「なるほど。君たちは金で雇われていたわけだね」

「あ、ああ…」

 

司馬懿(ライネス)は盗賊のリーダーを尋問していた。

襲ってきた理由は盗賊らしい物取りではなく誰かに頼まれて襲ったの事。

 

「誰が私たちを襲えと言った?」

「し、知らねえ」

「拷問で口を割らすか。妾に任せよ」

 

武則天はよく分からない拷問道具を出していた。

 

「爪を剝ぐ。眼球をくり貫く。耳をそぎ落とす…どれからやってやろうか」

「ひぃっ!?」

 

武則天の言葉に盗賊のリーダーは顔面蒼白になる。口にした内容が内容だ。

更に武則天は頗る機嫌が悪く、殺気を滲ませていたのも相まって盗賊のリーダーは恐怖で動けなくなっているのだ。

武則天の機嫌が悪い理由は盗賊たちによってマスターである藤丸立香が崖から落とされたからである。

殺気を滲みだしているのは彼女だけでなく秦良玉もそうだ。特に相手が盗賊なので武則天よりも殺気は濃い。

 

「拷問なんて生温いわ。姉様を落とすなんて許されない行為だわ…即刻、首を斬り落とすべきよ!!」

 

瑞姫も珍しく怒りに身を任せて盗賊たちに罵声を浴びせている。

 

「落ち着け2人とも。仲間はここにいる全員で確かか?」

「あ、ああ…ここにいるので全員だ」

「この槍が何処からか飛んできた。お前たちの仲間が投げた物ではないのか?」

 

トリムマウが持っている槍を見せつける。

 

「し、知らねえ。俺らじゃねえ!!」

「うーん…本当そうだな。もしかしてこいつらとは別のが居たのか?」

 

飛来した槍は2本。最初の1本目は藤丸立香の足元を狙った。2本目は燕青が助けるの邪魔をしたのだ。

まるで狙いが最初から藤丸立香であったかのようだ。

 

「戻ったぞ」

「どうだった荊軻殿?」

「槍が飛んできた大体の場所を調べに行ったが誰も居なかった。逃げられたようだ」

「そうか…」

 

槍を投げ飛ばした敵は不明。

 

「そっちが知りたかったんだがな」

 

藤丸立香を狙ったという事が重要だ。まさか于吉の差し金ではないかと予測する。

 

「我が弟子と傾殿は?」

 

一番の優先順位であるマスターの安全。

 

「すまん、見つからなかった。しかし魔力パスは繋がっているから無事なはずだ」

「そうか…確かに荊軻殿の言う通り魔力パスが繋がっているから無事だとは分かるんだけど。心配だな」

 

魔力パスが今も繋がっており、魔力も滞りなく流れている事から藤丸立香は無事だと分かっている。しかし合流は早めしなければならない。

無事だと分かっていても特異点では何が起きるか分からない。ただでさえ、此処は外史世界という異世界だ。

 

「今は燕青と始皇帝が捜索している。あの2人なら大丈夫だろうが我らも探しに行くぞ。と言うか既に秦良玉は探しに行ったようだな」

 

気が付けば秦良玉がいない。

 

「そうだね…っと、武則天殿それ以上は止めてくれ。しゃべれなくなったら困る」

「まだまだこれからじゃぞ?」

「いや、流石にこれ以上やられると私も見たくないのだが」

「妾に掛かれば生かさず殺さずまで…」

「もういいから」

 

拷問ショーをここで開催されたら困る。英霊は食事を必要としないが武則天の拷問を間近で見てしまうと食事を一週間は取れなくなるかもしれない。

 

「で、本当に何も知らないのか。言えば助けてあげるよ?」

「……女の声だった。姿は暗い緑色の布を纏ってて分からねえ。顔は仮面を着けてた…龍を模した仮面だった。目は翠色だった気もする。それと槍っつうか大刀を持ってたよ」

 

聞けば情報は出るものだ。

 

「なるほど。情報提供ありがとう」

 

 

433

 

 

崖下には始皇帝と燕青。

落下した藤丸立香と傾を助けに来たのだが2人は居ない。

 

「水銀を2人の下に配置したから落下の衝撃は吸収したはずだ。骨などは折れておらんはず」

「マスターどこだああああああ!?」

 

本当に何処にもいない。燕青は思いっきり叫んでマスターを探す。

 

「川に落ちて下流へ流されたか?」

 

近くには川があった。地面に落ちるよりだいぶマシであるが遠くまで流されるとなると問題だ。

始皇帝は川に手を浸す。

 

「む、なかなか冷たいな。それに川の勢いも速い…やはり遠くに流されたやもしれん」

「川の下流はあっちか!!」

 

ドビュンと燕青は下流へと走り去った。

 

「あ奴の立香への忠誠心は本当に…てか、過保護だのう」

 

始皇帝は自分の飛ばした水銀が何処に今あるか感知する。

飛ばした水銀は藤丸立香と傾を守るようにインプットしてある。何かあってもオートで動くようになっているのだ。

2人の近くに必ず始皇帝の操る水銀はあるから、その水銀を感知すれば自ずと合流できるのだ。

 

「あっちか」

 

始皇帝は燕青の跡を追うように飛んでいく。

 

 

434

 

 

バチャッバチャッと川から這い出して陸へと上がる。川の水は冷たく温まらないと身体はどんどんと冷えていく。

 

「あー…久しぶりに高い所から落ちた」

「久しぶりに落ちたって…お前はどういう旅をしてるんだ?」

 

びしょ濡れの藤丸立香と傾。2人は崖から落ちたが始皇帝の水銀がクッションになってくれたおかげで無事であったのだ。更に落ちた先が川であったため、衝撃がより少なかったのも幸運であった。

 

「これでも結構オレ高いところから落ちるのに慣れてるんだ」

「いや、高いところから落ちるなんて普通はないだろ。というかだから落ちてる時のお前は冷静だったのか?」

 

落下の最中は誰もが叫んでしまう。傾だって恐怖で叫んだ。しかし藤丸立香は落ちている時は冷静であったのである。

落下の最中に彼を見ると何処か「あ、また」みたいな顔をしていた。まるでいつもの事のような感じであった。

 

「慣れてるからね!!」

 

何故か自慢げに語るが落ちる事は自慢にはならない。藤丸立香のはスカイダイビングではなく落下なのだから。

 

「それにしてもびしょ濡れだ」

 

川に落ちたのだからびしょ濡れなのは当たり前。川の水は冷たく、身体は冷えている。このままだと体力は落ちる一方だ。

 

「服を乾かさないと。あと温まらないとな」

 

びしょ濡れで服がべったりと身体に張り付いているのは何処か不快に感じてしまう。だがそのおかげで目の保養もあるのも事実だ。

いけないと分かっていてもつい目線を傾を見てしまう。彼女も同じくびしょ濡れで服が身体に張り付いており、妙に艶めかしい。

そのように捉えてしまうのはやはり藤丸立香が男だからだ。傾は肉付きが良いプロポーションで、男なら彼女を美女だと認めるはずだ。中身に関しては賛否両論があるかもしれないが。

 

「はは~ん」

 

女性は男の視線に敏感ですぐ気付く。男は気付いていないだろうと思っていても気付かれているものだ。

傾も藤丸立香の視線にすぐに気付いた。彼は自分を見ていると。その理由も分かっている。

 

(くっくっく。立香もやっぱ男だな)

 

藤丸立香はなかなか誘惑に落ちないが、自分に女として全く興味が無いわけではないと分かっただけでも十分な収穫だ。

誘惑を続けていけばいずれ落ちる可能性があるという事である。

クネリと身体を見せつける。

 

「なあ立香。寒いな」

 

そのまま身体を押し付けるように密着してくる。

 

「ちょっ…傾さん、くっついたら」

「くっついたら何だ?」

 

色々と当たっている。

 

「身体が冷えるからな。こうやって肌を合わせて温めあうのが良いだろう?」

「いや、びしょ濡れの服を着たままじゃ意味ない気が…」

「ああ、そうだったな。なら服を脱いで肌を温め合うか」

 

スルリと誘惑するように、見せつけるように、まるで誘うように服を脱ごうとする傾。

 

「待った待った!?」

「私は何も間違った事はしていないぞ」

 

服が濡れているから脱ぐ。身体は冷えており、このままだと体力が落ちるから温め合う。

嘘か本当か分からないが雪山で遭難し、体温が落ちないように人肌で温め合うなんてものがあるほどだ。

何も間違っておらず、流れは傾が誘惑するのに方向が向いている。

 

「まずは…火を起こして」

「その前に服を脱いで温め合った方が良いだろう?」

 

確かに火を起こす準備をするくらいなら服を脱いで温め合った方が速い。濡れている限り気化熱で体温が奪われるからだ。

案外正論で返す言葉に詰まってしまう。まさか崖から落ちてこのような展開になるとは思わなかった。

草食動物を狙う肉食動物のようにニヤリと笑う傾。

 

「ほれ、恥ずかしがる事はない。これは生きるためだ。こっちに来い」

 

こっちに来いと言うが既に密着している。

彼女の言葉は正論だが、何か怪しく感じるのは気のせいではないはずだ。

 

「傾さん…」

「ふふっ、立香」

「………あ」

 

藤丸立香の視線が傾から逸れた。

 

「おい、視線を逸らすな」

「傾さんアレ」

「おいおい。私を見ろ」

「いや、アレ」

 

藤丸立香の声が少し強張っていた。

 

「全く、何だと言うの……だ」

 

しょうがないから同じように藤丸立香が向けている視線の方向を見る。その先にはまさかの光景。

 

「「……」」

 

熊がいた。

 

「「……」」

 

熊。パンダではなくまごうことなく熊。

 

「「……」」

 

熊。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回の更新はまた2週間以内には更新したいです。


431
珍道中の始まり。
まさか藤丸立香と傾が崖から落ちるとは…。
はい、珍道中のメインは立香と傾のつもりです。


432
今話一番の不幸な人たち。実は盗賊たちでした。
藤丸立香たちを襲ったのが運の尽きでしたね。
彼らがどうなったかは…想像にお任せします。
そして彼らに藤丸立香たちを狙うように依頼した者はいずれ登場します。


433
こっちは『朕』道中にするつもりです。書けたらですが。
今更だけど始皇帝と荊軻の組み合わせの方が良かったかな?
まあ、そのコンビはいずれ書ければと思ってます。


434
立香と傾の珍道中の始まりです。

藤丸立香。高いところから落ちるのに定評が何故かある。ネタとされつつある。

彼もやっぱ男です。
だって源頼光にハグを頼んだり、お栄ちゃんのお餅に反応するくらいですから。

最後にKU☆MA


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