Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
珍道中その2です。まあ、珍道中というか雑談話というかそんな感じです。
『FGO』×『Fate/Requiem』コラボ開催決定しましたね!!
開催予定は五月下旬予定。どんな物語になるか気になります!!
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熊。目の前に熊がいる。
ドラゴンや魔神柱という巨大で恐ろしい敵と戦ってきた藤丸立香でも熊には別の怖さがあると思っている。
「「……」」
熊は静かに密着しあっている藤丸立香と傾を見ている。同じく2人も静かに熊を見る。その顔は真顔であった。
「こういう時は静かにゆっくりと退がるんだっけ」
今ここに坂田金時が居てほしいと心の底から思ったほどである。
あと何故かシトナイの顔が浮かんでしまって「ゴールデンなんとか」と思った。
「ゆっくりと後ろに」
「ああ」
静かにゆっくりと後ろに後退。熊に刺激を与えないように逃げる。
ゆっくりと刺激を与えないように逃げるがこの時の2人は運が悪かったようだ。目の前にいる熊が2人に対して突進してきたのである。
「こっちに来たぞ!?」
「こうなったら」
すぐに魔術礼装を起動させて『ガンド』を放とうとする。ガンドならば凶暴な熊でも動きを止められるはずだ。その間に全力で逃げてしまえばいい。
ヘラクレスに追いかけられるのを比べれば熊が追ってくる速さの方が遅く感じる。更に魔術礼装をフルで活用すれば逃げられる。
「ガン…」
ガンドを放とうとした瞬間に背後から鋭い何かが伸びてきて、熊の額を一突きで絶命させた。
「え?」
背後から槍のように鋭く伸びてきたのは水銀であった。
この水銀は落下時にクッションになってくれたものだ。まだ始皇帝の力が残っているのか水銀は2人を守るように漂っている。
「始皇帝が守ってくれたみたいだ」
近くに始皇帝がいないかとグルリと見渡すがいない。浮いている水銀は自動で動いているようだ。
(始皇帝陛下が守ってくださったのか。皇帝である始皇帝陛下が守ってくださるとは…やはり立香は特別な人物なのだな)
(気のせいかな。誤解が順調に進んでいる気がする)
誰だって王手ずから守ってくれる人物がいたら特別な人物だと思ってしまう。傾の誤解はしょうがない。
「この水銀はGPS機能でもついているのかな?」
「じぃぴぃえす?」
「自分たちのいる場所を伝えてくれるってこと」
「おお、それならここで待っていれば良いってことだな」
本当にGPS機能が備わっているか分からないが始皇帝が操作している水銀だ。自動で動いている水銀であっても始皇帝は把握しているはず。
傾の言う通り、この場は動かないで迎えを待っている方が安全である。
「でもここから少し離れよう。熊の死体の臭いにつられて別の獣が近寄ってくるかもしれないし」
「そうだな。だがちょっと待て」
傾は熊に近づいて解体を始めた。
「何をしてるんですか?」
「せっかく仕留めた熊だ。全ては無理だが肉を少しもらっていく」
テキパキと熊を解体して肉を分けていく。
元は肉屋であるため解体作業はお手の物ようだ。肉屋を止めて大将軍になっていても昔の腕は落ちていないということ。
「これくらいはもらっていこう」
「じゃあここから離れよっか」
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熊に襲われた場所から離れて藤丸立香は焚火の準備をする。
「えい、概念礼装『火炎伯爵』」
炎は蛇のようにうねって集めた枝へと向かって燃え上がる。
この概念礼装も荊軻からしてみれば暗殺したくなる概念礼装らしい。
「立香、お前も妖術師だったんだな。そう言えば司馬懿の事を師匠と言っていたし」
「まだまだ未熟だけどね」
パチパチと焚火の音が響く。
「というか身体が冷えたぞ。いい加減服を脱がないとこれ以上は体力が落ちる。それに暗くなってきたからもっと冷えるぞ」
「じゃあこれ使って」
藤丸立香は傾に黒い布を渡す。これは『万能布ハッサン』だ。
バレンタインで呪腕のハサンからお返しで貰ったものである。
「どこから出したんだ」
本当に何処から出したのかと疑問に思いながら服を脱いで万能布ハッサンに包まる。
藤丸立香も服を脱いで魔術礼装『ブリリアントサマー』へと着替える。こういう時にも水着は助かるというものだ。
服が乾くまで我慢するしかないが焚火のおかげで身体は徐々に体温が戻っていく。
「それにしても酷い目にあったぞ。崖から落ちて川に流され、更に熊にまで襲われるとは…」
「こういう時もあるよ」
「普通はないだろ」
「突然、獣(ワイバーン)とかに襲われるなんて普通なんだけどなぁ」
よく「突然だがワイバーンだ!!」というのは当たり前に藤丸立香の旅で起きている。ワイバーンが獣かはともかく熊以上のモンスターからは襲われているし、高いところから落ちている。
第3者から見れば普通ではないようだ。もう藤丸立香が思う当然の事が既に普通では無くなっている。感覚がマヒしているのかもしれない。
「今日はここで一晩明かす事になるな。熊の肉を手に入れたんだ。焼こう」
傾はテキパキと肉を焼いていく。作業がスムーズで慣れている動きだ。
気が付けば旨そうな焼いた肉が出来上がっている。
「手慣れてますね」
「ふん、肉に関しては誰にも文句は言わせん」
「塩とか調味料あるよ」
「あるなら出さんか。てか、それも何処から出した?」
ガブリと肉にかぶりつく。ちょっと固いが肉汁が口の中で溢れて旨みが広がる。
「お、旨い」
何でも熊肉は旨味成分が強く、脂身のある部位は良い汁物になるらしい。人によって好みが分かれるかもしれないがゲイザー肉より圧倒的に良いのは確かだ。
藤丸立香もサバイバル生活に慣れているのでこのようなキャンプのような事は全然平気だ。寧ろ傾が野宿などに慣れているのが意外だった。
大将軍で贅沢な生活をしていたのだから文句でも言うかと思えば言わなくて、今まで旅も特に文句は無かったのだ。
彼女はこういう旅は瑞姫よりも平気のようだ。
「ご馳走様。美味しかったです」
「当たり前だ。私が焼いた肉だぞ。ふぅ、食った食った」
「傾さんって料理が得意なんだね」
「ふん、料理下手で肉屋の仕込みが出来るか。まあ今回は焼いただけだがな」
実は旅の最中で食事を作る時に傾は肉に関してだけは口を挟んでくる。元肉屋としての血で騒いでいるのか分からないが。
彼女が調理した肉は旨く、燕青も味は認めていた。
「みんなとはぐれちゃったけど、傾さんの美味しい肉のおかげで不安が無くなったよ」
「ほほう」
「こういう旅ってほんと、食事が唯一の楽しみだからなぁ」
旅の最中はいかにストレスを貯めないようにするかも工夫されている。その中でもやはり食事の楽しみは外せない。
食事は人間の三大欲求の1つだ。美味しい食事が出来ればストレスは軽減されるのは間違いない。人理修復の旅を始めた頃カルデアの厨房にエミヤやブーディカは立ってくれた時は全員が喜んだ。更に俵藤太が召喚された時はカルデア厨房組が喜んだほどである。
「こういう旅って…そういえば立香は色々な所を旅してるんだったな」
「そうだよ。って、何で知ってるんですか?」
「前に瑞姫から聞いた。何でも…ちぃえて何とかの話をしたとか」
過去を思い出すと確かに初めて瑞姫と出会ったときにチェイテピラミッド姫路城の話をしたと思い出す。そして頭痛も発生した。
「せっかくだ。私にも何か話を聞かせてくれ」
「いいよ」
焚火を囲って今まで旅路を話すのもまた良いものだ。
「何処から話そうか」
「私としては立香の事が知りたいな。というか始皇帝陛下と覇を競い合ったというのが聞きたい」
傾は藤丸立香と始皇帝が深い信頼関係があるのは旅の中で分かっている。始皇帝の口からも藤丸立香の事を一番の家臣なんて言っていたくらいだ。
どのような事があれば中国統一した始皇帝から一番の家臣になれたか気になるのだ。
「始皇帝と覇を競い合った…人智統合真国シンの話か」
「え、人智統合真国?」
「始皇帝が治めている国だよ」
「ああ…天の国の事か」
彼女たちが言う『天の国』はどのように思い描いているか分からないが、藤丸立香や北郷一刀の世界のことを示しているのなら『天の国』とは1つの国を示しているわけではない。
どのように説明すればいいか難しいものだ。藤丸立香と始皇帝の世界は汎人類史と異聞帯ということで違う。説明する時は色々と考えて説明しなければならない。
傾に汎人類史と異聞帯について説明してもチンプンカンプンになるからだ。
「人智統合真国シンはこの大陸より圧倒的に大きく広い国だよ」
何せ世界全土を制覇したのだから。史実の中国大陸統一より以上の偉業を成しているのだ。
「おいおい本当かっと言いたいところだが始皇帝陛下だからな。そんな陛下とどうやって覇を競い合ったのだ?」
「それはーー」
藤丸立香は人智統合真国シンでの旅路を話していく。馬鹿正直に話すと傾からしてみれば夢物語になってしまうので、彼女が納得できるように一部を脚色しながら話していく。
傾はゆったりと焚火の縁でくつろぎながら藤丸立香の話に耳を傾ける。人智統合真国シンの話は何処か嘘も感じ取れる部分もあるが彼が嘘を話しているようには見えない。
彼が語っているのは本当の事なのだろうと思いながらどんどんと話に惹かれていく。瑞姫が彼の話を「面白い」と言っていた事がよく分かる。
尤も今回は人智統合真国シンなのでチェイテピラミッド姫路城よりもシリアス寄りの話だ。
「流石は始皇帝陛下…まさか戦が消え去り、病や飢えからも解放された国なんて」
今のこの大陸からしてみれば始皇帝が成した人智統合真国はまさに平和の国。まさに誰もが望んだ『平和』な国である。
「しかも政なども全て始皇帝陛下がやってのけているとか…」
「全て始皇帝1人でこなしているようなものだったよ」
「本当なのだろうけど信じられん。もしも始皇帝陛下が早く不老不死になっていれば天の国ではなくこの国がそのようになっていたのかもしれんな」
この外史世界の始皇帝が不老不死になっていればどのような未来になっていたか。それは分からない。
「平和な国にお前は戦を仕掛けたのだな」
「…あの時のオレは始皇帝からしてみれば平和な国を壊す悪だったと思う」
「何処からどう聞いてもそうだろ」
「でも、こっちはこっちで自分の国を取り戻す為に戦うしかなかったんだ」
異聞帯の戦いは第三者から見れば藤丸立香たちは悪に見えてしまう。汎人類史を救うために異聞帯を攻略するという意味はとても深く重いのだ。
「お前たちの国はどうなっているんだ」
「………なんて言おうかな」
「話したくないなら話さなくていい。私もそこまで無粋ではない」
傾はそこまで空気が読めない人間ではない。藤丸立香の国は平和な国に攻め込まないといけないほど酷いのだろうと想像している。だが、その想像よりも上だ。
藤丸立香の国もとい汎人類史は本当の意味で真っ白、漂白になっているのだから。
「だが今では始皇帝の一番の家臣となっているのだろう。そう考えると陛下の器は大きすぎる。普通は一番の家臣にするか?」
「普通はそう考えるよね。でも今は力を貸してくれてるんだ。確かに始皇帝は器が大きいよ」
(敵だったが彼は始皇帝陛下が一番の家臣にするほどの人材だという事か。しっかし立香が平和な国に侵攻するような者には見えない…彼のような者でも戦わないといけないほどなのか立香の国は)
「始皇帝にはとてもお世話になっているよ」
高難易度のクエストとかではとてもお世話になっている。
「始皇帝陛下の力をお借りしているんだ。お前の国もすぐに平和になるさ」
「そうだね」
少し湿っぽくなったので話をガラリと変える。
「今度は傾さんについて聞かせてよ」
「私か?」
「はい」
これでも相手の話を聞くのは上手い方だと藤丸立香は自負している。カルデアのマイルームでは100騎以上の英霊と語り合っているからだ。
定番の質問からなかなか突っ込んだ質問まで多数話せる。どんな相手だろうが盛り上がる自信がある。
何せカルデアのマイルームではコミュニケーションの百戦錬磨である。中には大胆な話へと繋がる事があるのだ。
プロポーズを待っているかのような話だったり、死んでも一緒に居たいとか、どこからどう聞いても愛の告白だったりと様々な内容を話し合ったりする。
藤丸立香に掛かればどんな相手であろうとも話し合える。
「定番の質問その1。好きなもの何ですか!!」
「肉だな。特にお前のような若い男の肉が好きだぞ。フフフ」
ペロリと自分の唇を舐めて傾は藤丸立香を見る。何処か艶めかしい。
「……」
「どうした?」
「次の質問だぁ!!」
「おお、来い」
誘惑されるような空気になったり、ちょっとエロトークに入りかけたりしたが何だかんだで盛り上がる。
会話が盛り上がれば時間なんてすぐに経つものだ。時計が無いので正確な時間は分からないが体内時計的に深夜帯だ。
長距離の旅をしていれば疲れは身体に溜まる。ただでさえ今日は2人とも大変な目に遭っているためいつもより疲れが溜まっているのだ。
疲れが溜まっているということは眠くなるという事である。
「ふわぁ…今日はもう寝ようか」
「んん?」
服はもう乾いている。乾いているなら着替えて寝るだけだ。
「ふふ、寝るか? ならば立香…ほれ、もっと私の近くに寄らんか?」
そんなことを言いつつ、彼女は自ら近づいてくる。
「先ほど食事だけが楽しみと申しておったが…クククッ、かような山の中で男と女が二人きりだぞ。もっと愉しいことがあるだろう。んん?」
「ちょっ、傾さん」
彼女の指が肩の辺りに触れてくる。さりげなく距離を取るが、取ったら取ったで近づいてくる。
「何を遠慮しておる。枕がないとつらいだろう。どれ、私の膝を貸してやろうか。なんなら胸でも…」
「ま、待った待った」
心の中で「胸枕だと!?」なんて思ったが我慢した。恐らくカルデアの誰かに頼めばやってくれる英霊はいるかもしれない。
「よいではないか。ただ一緒に寝るだけだろう」
「ちょっ、ハッサン布の中に引きずりこまないで!?」
今は2人きりなので傾も大胆に攻めてくる。ここに武則天たちがいないからこそ大胆に誘惑できるのだ。
引きずり込まれると肌に柔らかい何かが当たる。お互いに肌をさらけ出しているので直接触れ合う興奮が爆発しそうになる。
「服着て!!」
このあと30分くらい攻防があったそうな。
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「熊の死体…額を一突きだな」
「流石は朕の水銀。見事だろう侠客」
「ハイハイ…流石は始皇帝陛下」
「なんか雑じゃない?」
始皇帝と燕青は熊の死体を発見し、確認していた。
熊は始皇帝の水銀によって絶命させられていた事が分かった。そのことからこの場に藤丸立香と傾が居たことは確かである。
まさか熊に襲われていたというのは予想外というか運が悪いのかと思ってしまう。
「立香は運が良い人間だろう。なんだかんだで生き残るからな」
「そこも主の実力…運命力ってやつかもなぁ。ともかくこの場に主たちが居たのは確かだ。ここから離れたとしても遠くには行っていないはずだぜ」
「ふむ…向こうだな。あっちから朕の水銀の気配がある」
指をさす方向に燕青は走っていく。辺りはもう暗くなっているから藤丸立香たちは動いていないはず。
更に焚火でもしてくれれば見つかりやすいというものだ。
「待ってろ主!!」
「すぐに見つかりそうだな…よし。ちょっと寄り道がてら朕道中でもやってく?」
「最優先は主だーー!!」
燕青は始皇帝の言葉にツッコミも入れずに走っていく。
「俺の声が聞こえるか主ぃいいい!!」
叫ぶが返事は無い。返事が無いのは予想出来ていたが、いずれは向こう側も聞こえるかもしれない。
喉が枯れるのなんて気にせずに叫び続けるのであった。
「む?」
急に霧が出てきた。特に霧が発生するような状況ではないからこそ始皇帝は不思議に思った。
「どうしたんだ始皇帝陛下さんよ?」
「霧が出てきたな」
「そうだな。それがどうしたんだよ?」
「霧が発生するような状況ではないのだよ。霧が発生するにはいくつか条件があるものだが…この霧はどの条件とも当てはまらずに発生しておる」
霧には放射霧、移流霧、蒸気霧などといったものがあり、発生する要因がいくつかある。だがこの場で発生している霧はそれらの霧ではない。
まるで何も条件が揃っていないのに霧がいきなり発生したかのようである。
「んな事よりも主を…あん?」
「おお…朕道中ならぬこれが本当の珍道中かもな」
霧の奥から光る何かを見た。1つだけではなく、無数に光っている。
それは夜行性の動物を夜中で見た時に似ている。光るものとは獣の目。しかし、2人は無数に光るものがただの獣の群れだと思っていない。
「妖怪の類か?」
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目が覚めたら身体に柔らかい感触を感じた。それとどこか甘い匂いも鼻をくすぐる。
「んん…」
「ああ、いつもの事ね」
傾が抱き着いて寝ていた。
「…いつもの事とはどういうことだ」
先ほどの台詞に傾は気になったのか質問してくる。そもそも起きていたようだ。
「おはよう。傾さん」
「おい、この私が抱き着いているのだ。その反応はなんだ」
目が覚めたらベッドの中に誰かが潜り込んでいたり、抱き着いているなんてカルデアでは日常茶飯事だからだ。
特に溶岩水泳部の清姫、静謐のハサン、源頼光が常連である。次点でアン・ボニー&メアリー・リードたちや子供英霊たち。
子供英霊たちは微笑ましく感じるがアン・ボニー&メアリー・リードたちの場合だとびっくりする。青少年として健全な爆発してしまう可能性もあるほどだった。
何故か一部の英霊たちはその爆発に対して『かかってこい』の姿勢らしい。
「慣れてるからね」
(…なるほど、始皇帝陛下一の家臣だからな。私と同じような事をする奴がいてもおかしくないという事か)
ススっとどこかいやらしく手を藤丸立香の胸に当てる。
「んくっ…」
「なんだ鼓動が早いぞ。んん?」
傾の誘惑がまったく効いていないというわけではない。そうでなければ彼の顔が赤くなっていたりしないはずだ。
(ふふ、可愛いではないか)
「そろそろ離れてください」
「む、酷いことを言うな。どれこっちは…」
「ちょっ、下半身に手を伸ばさないでくださいよ!?」
朝の健全男子の下半身は時たま色々とマズイ時がある。そもそも遠慮なく傾が抱き着いてきているというのも健全男子には効果抜群である。
カルデアで『誘惑』に対して鍛えられているとはいえ、彼も健全な青少年だから限界はある。
その限界が来るのを待っている英霊もいるらしい。
「ふん!!」
「ぐ…なかなか力が強いではないか」
傾の両手を掴んで何とか止める藤丸立香。
傍から見れば男女が包まっている布の中でモゾモゾといやらしい事をしている風にしか見えない。
「なぜ私を拒むのだ。そんなに私には魅力が無いのか?」
「そんな事ありません。傾さんは魅力的です」
「なら何故だ」
「このまま後先考えずに受け入れたら後が怖いからです!!」
その言葉に嘘偽りはない。そしてなかなか情けない理由であった。
「なんだそれは…そんな理由で」
情けない理由で一瞬だけ、呆れてしまった。まるで毒気が抜かれてしまう。
「まあ…立香の気持ちは分からんでもないが」
藤丸立香がカルデア御一行の女性メンバーから好意を持たれているのは傾は当たり前に分かっている。そして一部の女性が怖いというのも分かっている。
何となくだが藤丸立香の言う「後が怖い」というのに納得できてしまう。特に拷問器具を嬉しそうに手入れをしていた武則天を思い出すと傾も怖さで震えてしまうくらいだ。
(あの女どもの中で普通に怖いのが武則天という童と何をしてくるか分からない司馬懿という軍師だからな…)
間違いなく武則天と司馬懿(ライネス)が腹黒いというのは分かっているのは自分も腹黒いからだ。
「ん? それなら後の憂いが無くなれば良いのか?」
「まあ…」
歯切れは悪いが肯定する藤丸立香。彼も男だから『そういう事』に興味がありまくりだ。
したいかしたくないかと言われれば前者だ。そもそも男なら誰もが前者を選ぶ。何故なら男はスケベだから。
「ほほう」
ググっと腕に力が入ったのを感じて急いで藤丸立香も力を入れる。
「ぐぐぐ…!!」
「まあよく考えてみろ。今は2人きりだ。誰にもバレないぞ?」
確かにこの場には藤丸立香と傾の2人きりだ。彼らが何をしようと誰にも見られない。
「大丈夫だ。誰にも言わない…私にゆだねよ。極楽をみせてやるぞ」
耳元でねっとりと囁いてきてゾワゾワとしてしまう。
「うぐぅ…ここぞとばかりに良い声で責めてくる」
「墜ちたか!!」
「墜ちてないです」
良い声や色気ある声の決め台詞は誰に対しても効果抜群である。美声というのは魔力や魅了を含めている気がする。
馬であっても美声で「ヒヒン」と言えばカッコイイと思ってしまう事があるくらいなのだから。
「こんな朝から盛ってるとは猿か貴様ら?」
2人の空間をぶち壊すように誰かの声が聞こえてきた。その誰かの声とはどこかで聞いたことがある気もするが状況が状況なだけにそこまで頭が回らなかった。
「誰だ良い所で!!」
「良い所ではなかったと思います」
「立香、ちょっと黙ってろ」
一言多い藤丸立香を黙らせる傾。
声がした方向に視線を向けると龍を模した仮面を着けた人物がいた。
暗い緑色の布を纏っており、姿は隠しているが声からして女性だと分かる。手には青龍偃月刀に似た武器を持っているが、それも気が付かなかった。
「貴様は誰だ!!」
「まさかヤッてるとは思わなかったぞ……少し待とうか?」
「待たなくていいですから!! というかどなたですか!?」
何故かちょっとだけ空気を読まれた。
「名を教える気はない。どうせ貴様らはここで死ぬのだからな」
凶刃が2人に迫る。
読んでくれてありがとうございました。
次回は今日中です。
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KU☆MAは始皇帝の水銀のおかげで倒されました。
現実だと熊は怖いですからね。本当に怖い。
まあ立香からしてしてみれば熊以上の怪物に襲われてますが。
「ゴールデンなんとか」
最近だと復刻のぐだぐだファイナルでも「ゴールデン越後」なんて台詞がありました。
やっぱあの漫画のネタなのかな。
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藤丸立香と傾の雑談でした。
マイルームではないけど立香お得意のコミュニケーション。
今までの旅の話をしたり、何が好きかを聞いたりと。
そして2人っきりを良いことに誘惑を始めた傾。でも立香は我慢しました!!
R18版だったら我慢できなかったでしょうね。てかそれはカルデアでも同じか。
熊の肉食べた事ないけど美味しいみたいです。
ゲイザー肉より絶対に美味しいのは確かですね。ゲイザー…目玉が珍味らしい。
概念礼装はこんな事も使える…と思ってます。
『火炎伯爵』とか『万能布ハッサン』とか。
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一方そのころの始皇帝と燕青。
まだ朕道中は始まっていない。そしてまさかの妖怪が現れた。
どうなる朕道中!?
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一夜を明かしました。
朝起きたらベットに誰かいるなんて状況はもう慣れた藤丸立香。
ドキドキはするけど慣れてます。でもその先は興味津々だけど我慢してます。
藤丸立香はいつ大人の階段を登るのやら…(もしかしたら登ってるかもだけど)
そして最後に現れた謎の人物とは誰なのか。