Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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珍道中編その3。

立香と傾は謎の怪人に襲撃されました。謎の怪人とは一体誰なのか…。
もしかしたら正体が分かっている方もいるかもしれませんが、どうなるかは物語本編をどうぞ!!


珍道中その3

439

 

 

龍を模した仮面を着けた謎の人物。龍仮面の怪人と言うべきかもしれない。

 

「緊急回避!!」

 

魔術礼装を急いで起動して龍仮面の怪人からの凶刃を避ける。

 

「ほう…よく避けたな」

 

凶刃は空を斬った。龍仮面の怪人は視線を横へ移す。

 

「た、助かったぞ立香」

「間一髪…」

 

いきなり問答無用で斬りかかってきた。何故いきなり襲い掛かってきた分からないが相手は明確に殺意を持って襲ってきている。

 

「おい貴様。いきなり襲ってくるとは良い度胸だな。この私を誰だと思っている!!」

「死にぞこないの負け犬だろう」

「何だとっ!?」

(…なんか傾さんを知っている口ぶりのような)

 

ピシャアンっと傾は鞭を取り出して地面へ威嚇のつもりで叩く。

彼女の得物は鞭だ。得物が鞭とは珍しく、カルデアでも武則天やメイヴくらいしか使ってない。

特に傾の鞭は彼女らが使っている物よりも長い。鞭の扱いは難しく、まるで手足のように扱うには相当な鍛錬が必要だ。

 

「喰らえ!!」

 

彼女が鞭を振るとうねりながら龍仮面の怪人に向かう。

 

「おっと」

「逃がすか!!」

 

避けられても鞭を少し振るい直すと追いかけるように向かう。

 

「ほう…」

「逃げられると思うな!!」

 

彼女の鞭捌きは本物。まるで自分の手足のように操っている。

鞭の動きは蛇を思わせるくらい生物の動きのように錯覚してしまう。

そのまま相手の武器に巻き付く。

 

「取った!!」

 

そのまま引っ張り上げると龍仮面の怪人が持つ武器を奪った。

宙をクルクルと周って落ちてくる武器を傾は見事にキャッチする。

 

「おおー」

 

素直に彼女の鞭捌きに感嘆する。

 

「所詮はただ妹のコネで成り上がっただけかと思ったが少しは実力があるのだな」

「減らず口が」

 

傾は自分の周りを鞭でグルグルと纏うように回している。

 

「これで終わりだ!!」

 

鞭を連続で全力で振るうと荒ぶる蛇神のように龍仮面の怪人へと襲い掛かる。鞭の滅多打ちだ。

熟練者でないと出来ない鞭捌きであり、喰らった者は悲惨な姿になりそうである。技名があるとしたら『快楽鞭天』と彼女は名付けるかもしれない。

 

「ボロボロの姿を曝け出すがいい」

 

決め台詞を決めて鞭をピシャァンっと音を立てるのであった。

 

「見事です傾さん!!」

「当たり前だ。これでも大将軍をやっていたのだぞ。クックック、惚れたか?」

「惚れましたよ」

 

男だろうが女だろうがカッコイイ姿を見れば惚れてしまうのは確かだ。

藤丸立香は英霊たちのカッコイイ姿を見ては惚れてしまっている。傾の見事な鞭捌きの姿も素直にカッコイイと思ったのだ。

 

「とてもカッコ良かったです。なんか頼れる姐さんみたいでした」

 

再会してから裏がありそうな誘惑してくる肉食年上系お姉さんというイメージであったが、今回の活躍で頼れる美人な年上系姐さんというイメージに上書きされる。

 

「ほほーう。なら色々と頼ってもいいのだぞ?」

 

ズイっと藤丸立香に近づくと胸がムニュリと当たる。

 

「ほれほれ。このお姉さんに任せるがよい。ほれほれ」

「…当たってますよ」

「当ててるのだ。クックック」

 

ちなみに藤丸立香が傾に言うイメージは頼れる『姐さん』であって『姉さん』ではない。そしてやっぱり肉食系というイメージは外れない。

 

「そうだ、助けた礼として抱かせてもらおうか。命を助けたんだ。褒美として男を貰ってもおかしくないだろう?」

「さっき襲い掛かる刃から助けたのでおあいこですよ」

「ああ言えばこう言うな貴様は」

「事実です」

 

しかし「抱かせてもらおうか」とストレートに言われて内心ドキドキしたのは内緒である。

 

「なに終わった気でいる?」

 

冷たい声がその場を支配する。すぐに鞭で滅多打ちにした場所に視線を送ると龍仮面の怪人は普通に立っていた。

暗い緑色の布は鞭によって弾き飛ばされたのか無くなっており、明確に姿がはっきりと分かった。

肌は白くてアルビノかもしれない。服装からイメージカラーは黒と翡翠色を混ぜ合わせた感じだ。瞳は綺麗な翡翠色をしており、髪は長く白い。

 

「無傷だと!?」

「あの程度の鞭捌きで私を捉えたつもりだったのか…止まって見えたぞ?」

「な、なんだと…」

 

確かに傾の鞭は龍仮面の怪人を捉えていた。しかし無傷であったのが謎である。

あれだけ複雑で荒ぶる蛇神のような鞭捌きであったのになぜ無傷だったのかありえない。

 

「ならもう一度喰らえ!!」

 

傾はもう一度、滅多打ちを喰らわせる。

 

「どうだ…って、なに!?」

 

よく見ると龍仮面の怪人は傾の鞭捌きを両手で全て弾き返している。動かす両手は速過ぎて残像を残している程だった。

 

「くっ…ならぁ!!」

 

鞭捌きをもっと速く、複雑にするが相手も呼応するように対応されてしまう。

 

「遅すぎる。もしかして手加減でもしてるのか? なら本気を出してくれ」

「くっ…こいつ」

「落ち着いて傾さん。挑発に乗っちゃダメだ」

 

何処からどう聞いても挑発だが本気の技を軽く打ち破られた彼女にとって今の挑発は効果的だ。

龍仮面の怪人は傾の実力を逆撫でしているのだ。彼女も武人であるからこそ自分の本気を軽く打ち破られ、馬鹿にされれば頭にくるものだ。

 

「そろそろ私の得物を返してもらおうか」

 

複雑な動きをする鞭を軽く掴み取り、逆にお返しと言わんばかりに奪い取った。

 

「なっ!?」

 

奪い取って相手の攻撃手段を失ったと分かった瞬間に龍仮面の怪人は一直線に傾へ向けて跳んだ。

 

「避けるよ傾さん!!」

「うあっ!?」

 

藤丸立香は傾の手を掴んでその場から急いで回避する。

 

「得物は返してもらったぞ。さて、次は私の番だな」

 

龍仮面の怪人から闘気が滲み出る。

 

「ぐっ…あいつ」

 

傾も武人だ。相手の実力を見る事くらい分かる。

認めたくはないが相手が自分よりも上だと分かってしまった。

 

「貴女は何でオレたちを狙うんだ」

「最初に言っただろう。どうせ死ぬ貴様らに言う必要はない」

 

龍仮面の怪人は跳び、すぐさま藤丸立香の間合いに入った。

 

(速いっ!?)

「死ね」

 

またも凶刃が振るわれる。

 

「概念礼装『三重結界』発動!!」

「ほう」

 

結界により凶刃を危機一髪のところで受け止める。

 

「だがずっとは張ってはいられまい」

 

連続で凶刃が振るわれる。

 

「おい立香、何か武器は持っていないか!!」

 

このままでは結界もいずれ破られてしまう。傾の獲物である鞭は離れた所に捨てられている。

すぐにでも取りに行きたいが動いたら凶刃が迫りくるので動けないのだ。相手が強いと分かってもこの場で何もしないわけはできない。

 

「えーっと、概念礼装『赤の黒鍵』。青と緑もあります!!」

 

シャキンッと黒鍵が現れる。

 

「細いな…だが!!」

 

傾は三色の黒鍵を手にして狙いを定める。

 

「結界を一瞬だけ解け立香!!」

「解くも何もそろそろ限界です!!」

「なら丁度いいっ」

 

結界が割れた瞬間に傾は黒鍵を連続で投げ続ける。

 

「でえええええい!!」

「数が多くても、そんな細い剣なぞ簡単に斬り落とせる」

 

投げた黒鍵は全て切り落とされた。

負けじと何本もある黒鍵を使い捨てながら斬りかかるが一太刀も入らない。

分かっていた事だが龍仮面の怪人は強い。更に彼女が本気を出していないと分かってしまうからこそ全力で相手をしている自分の実力が劣っているのが嫌に思えてしまう。

 

「ぐっ、こいつ」

「此方としてはいつまでも遊んでいるつもりはない。時間も無いのでな」

 

力任せに凶刃を振るうと傾が持っていた黒鍵を全て弾き飛ばす。

 

「ほら、もう攻撃する手段も守る手段も無いぞ大将軍」

「うあっ…!?」

 

凶刃の狙いが傾の首へと向けられる。その瞬間自分の首が胴体からオサラバした未来を予想してしまって顔が青くなる。

 

「傾さん屈んで!!」

「っ、ああ!!」

 

傾が屈んだ瞬間に龍仮面の怪人の目に入ったのは藤丸立香が『ガンド』を放った姿であった。

片腕で防ぐが藤丸立香が放ったガンドは相手を倒すのではなく一時的に行動不能するだけだ。

 

「むっ、これは」

「今のうちに逃げるよ傾さん!!」

 

急いで傾の腕を掴んでその場から撤退する。

 

「逃げれると思うな」

 

『ガンド』によって一時的に動けない龍仮面の怪人。だが逃げていく2人の姿が霧に包まれていくのを見えたのに何か納得するように頷くのであった。

 

 

440

 

 

龍仮面の怪人から逃げ出して距離を取ったのを確認してから息を整える。

普通に全力で走るのと危機から逃げるために全力で走るのは疲労度が何か違う。

 

「はあはあ…息を整えないと」

「まったくあいつは一体何なんだ。いきなり襲ってきて…しかもメチャクチャ強いぞ」

 

傾が今まで出会ってきた武人の中でも1番の強さであったのだ。そして襲われる理由が見当たらない。

大将軍時代の恨みかと思ったが龍仮面の怪人からはそのような感情は読み取れなかった。寧ろ淡々と仕事をこなす刺客だ。

 

「てか、霧まで出てきたんだけど」

 

気が付けば濃い霧が出てくる始末だ。

 

「逃げたくてもこんな霧じゃあ逆に迷いそうだ」

「そんな事よりもあいつだ。さっきの妖術で倒したわけじゃないだろ」

「はい。あれは一時的に動きを止めただけですから」

 

一時的に動きを止めただけであるため、また追ってくる可能性はある。

 

「得物は落としたままだしな…」

 

急いで逃げてきたため、傾の武器である鞭を回収するのを忘れてしまったのだ。

 

「おい、さっきの細剣よりも良い武器は無いのか。追いつかれた時を考えて武器が無いと戦えん。さっきの細剣よりも良いやつだぞ」

「何故2回言ったし」

「大事な事だからだ」

 

確かに粗悪品の武器よりも良い武器を使うのは当たり前だ。とても大事な事である。

 

「えーっと…良い武器、良い武器。これかな」

 

ジャキンっとある剣を取り出す。

 

「大きいな!?」

 

誰がこんな大きい剣を使うのかとツッコミを入れた。

 

「いや、これが業物だというのは分かるが…私では流石に扱えんぞ。そもそも扱える奴がいるのか?」

「大丈夫。扱えるようにするから」

「は?」

 

藤丸立香は概念礼装を複数枚展開する。

 

「どうするんだコレ?」

「作戦会議開始!!」

 

これから龍仮面の怪人を倒すため作戦を練り始めるのであった。

 

「ところでこの剣って名はあるのか?」

「項羽の剣」

「…なんだって?」

 

 

441

 

 

霧の中を迷うことなく龍仮面の怪人は走り抜ける。

 

「見つけたぞ」

 

藤丸立香と傾は壁を背にして隠れていた。

 

(いや、隠れていたわけではないな。まるで待ち構えていたような…何か小細工でも考えたか?)

 

龍仮面の怪人はすぐに警戒する。確かに藤丸立香たちは何か作戦を考えているからこそ壁を背にしていたのだ。

隠れていたわけではなく、寧ろ待っていたのだ。

 

「逃げるのも飽き飽きだ。ここで決着をつけてやろう。この仮面女め」

(分かりやすい挑発だな。まあ良いさ…その挑発に乗ってやろう)

 

龍仮面の怪人は傾に向かって走り出す。今度こそ首を絶つ為に。

 

(……今だ!!)

 

相手を誘い出して一定の間合いに入った瞬間に傾は地面から隠していた剣を抜き出して一気に真横から振るった。

刀身が長く、切れ味抜群の剣だ。間合いに入った瞬間に真横から振るって切断する。

 

「そんな事だろうと思っていた」

 

龍仮面の怪人は簡単に剣を受け止めた。

 

「確かに良い剣だ。当たれば私なんか簡単に切断できただろう。しかし身の丈に合わない剣を使ったな。全く使いこなせていない。剣を振るうので精一杯ではないか」

 

剣を弾いて龍仮面の怪人は凶刃を振るい直す。

 

「死ね」

「おい立香!!」

「はいっ、魔術礼装起動『瞬間強化』。概念礼装『技巧』を付与!!」

 

傾は自分の身体に何処からか力が入るの感じ、更に自分でも扱えないような剣が扱える感覚が身体を駆け巡る。

原理は分からないが今の自分ならば『項羽の剣』が扱えると自信がみなぎる。

 

「うらああああああ!!」

 

傾はまるで剣の達人が如く剣を振るう。

 

「こいつ…」

 

まさかの変貌に龍仮面の怪人も一瞬だけ驚いたようだ。しかしすぐに打ち返す。

 

「でええええい!!」

 

まるで曲芸のように剣を振るって龍仮面の怪人に立ち向かう。

まさかの動きに自分自身でも驚いているくらいだ。これも妖術の一種だと言うのなら本当に不思議なものである。

一時的だが自分の実力をこうまで底上げできるとは驚きだ。

 

(これならいける!!)

「…まさか勝てると思っていないか?」

「はっ。今の私なら呂布だって斬れるわ!!」

「それは言い過ぎだ」

 

凶刃を振るって傾の斬撃を弾き返す。

 

「やれ立香!!」

 

弾き返された瞬間に傾は屈む。そして水銀が放たれた。

 

「ちっ…」

 

水銀は龍仮面の怪人の武器に巻き付いて奪い取る。始皇帝が藤丸立香たちを守るために残してくれた水銀だ。

 

「概念礼装『破壊』を付与!!」

「おおおおおおおお!!」

 

先ほどより全身に力が漲るのを感じ、傾は剣を上段に挙げて一気に振り下ろした。

振り下ろされた一太刀は地面を抉るように切断した。

 

「でええええい!!」

 

今度は剣で地面を下から抉るように振りかぶると砂や石が龍仮面の怪人へと飛散させた。

すぐに目潰しと分かって後ろへと後退するために跳んだが横から嫌な予感をした。その嫌な予感は的中でいつの間にか移動した藤丸立香が既にガンドを放っていた。

 

「…やるな」

 

ガンドは龍仮面の怪人に命中し、そのまま動けなくなる。

 

「はあはあ…これで終わりだ」

 

傾は『項羽の剣』を龍仮面の怪人の首へと寄せた。

 

「やったぞ立香。不安はあったが策通りだったな」

「なんとか決め手のガンドが当たって良かったです。2回目だったから避けられる可能性もありましたからね」

「なかなか、良い連携だったな。もしかして私たちは身体の相性も良いかもしれんぞ。どうだこの後?」

「そんな事を言っている場合ですか…って、まだ油断しないでください」

 

最後まで油断はしてはならない。最後の最後で油断、慢心して取り返しのつかないの事が起きるのは現実ではある。

 

「安心しろ立香。あとは首を絶つだけだ!!」

 

とどめを刺すために剣を振るおうとした瞬間に霧の奥から何かが飛び出してきた。

 

「傾さん!!」

「ちぃっ!!」

 

剣の振るう先の方向転換させて飛び出してきた何かを切り落とした。

何かとは獣であった。しかし見たことが無い獣だ。どう言えばよいかと言われれば『怪物』と答えるしかなかった。

 

「何だこいつは…これが妖魔とか言うやつか?」

「私が1人で貴様らを殺しに来たと言っていないだろう」

「うぐぁっ!?」

 

ガンドの効果の時間切れ。龍仮面の怪人は傾の腹部を蹴り飛ばした。

 

「傾さん!?」

「平気だ立香…しかし最悪だ」

 

周囲をよく見ると霧の奥から妖魔が多すぎるくらい不気味に現れたのだ。何の妖魔かは分からない。

ただ分かるのは霧から出てきた妖魔たちは藤丸立香と傾に狙いを定めているという事だけだ。

 

「時間を掛け過ぎたな。本気を出せば片付けられたかもしれないが本気を出したら出したでバレる可能性があったからな。出来れば自らの手で殺しておきたかったが妖魔どもに任せるしかないようだ」

 

自分の身体に異常が無いか龍仮面の怪人は確認していた。

 

「貴様らの仲間の足止めももう出来ない。なら雑だが妖魔どもに食い殺されてもらおう」

 

龍仮面の怪人が言う彼らの仲間とは始皇帝と燕青の事だ。彼らが藤丸立香たちを捜索している。

合流されたら仕留める事は出来ない。合流出来ないうちに済ませたかったがまさかの抵抗に時間を食ってしまった。だからこそ雑であるが数ある妖魔たちで一気に仕留めようと龍仮面の怪人は考え直したのだ。

 

「多いな。ならこの剣で…うぐっ」

 

瞬間強化と概念礼装も時間切れだ。先ほどの動きはもう出来ない。

 

「…おい立香。さっきの妖術をもう一度掛けろ」

「でもそれ以上は傾さんの身体に負荷が掛かります」

「だがこのままだと食われるぞ!?」

「なら奥の手を使います」

 

藤丸立香は妖魔たちに向けて右手をかざす。

 

「おい、何する気だ?」

「傾さんはオレの側にいてください。巻き込まれないように」

 

息を整えて集中する。藤丸立香が言う奥の手とは令呪ではない。

令呪も奥の手だが別の奥の手があるのだ。それは英霊の影を呼ぶ事である。

本体ではないため能力は劣化しているがそれでも十分な戦力であることは間違いない。

 

「力を貸してくれゴルゴーン!!」

 

周囲が一気に冷たくなったと傾は錯覚した。圧倒的な威圧感がのしかかる。

始皇帝とは違う威圧感であり、死の恐怖すら感じる。これは大丈夫な案件ではないとすぐに思ってしまう。

 

「こ、これは…なんだ。おい本当に大丈夫なのか立香!?」

 

傾が目にしたのは魔獣の女王を思わせる大蛇の怪物であった。

 

「呼びかけに答えてくれてありがとうゴルゴーン」

 

ゴルゴーン。

第七特異点で縁を結び、召喚に応じてくれたアヴェンジャークラスの英霊。

有名なギリシャ神話におけるゴルゴン三姉妹の三女。メドゥーサが呪わしき成長によって魔獣と化したなれの果て。

 

「頼むゴルゴーン。目の前の妖魔を殲滅してくれ!!」

 

ゴルゴーンの蛇と化した髪の触手から紫色の魔力光が投射され、全ての妖魔を殲滅させた。

紫色の魔力光はそのまま龍仮面の怪人へと狙いを定めて放たれる。

 

「お、お前…こんなのを使役できるのか」

「使役というか力を貸してもらってるだけだよ」

 

蛇と化した髪の触手が藤丸立香をカプカプと甘噛みしてきた。

 

「お、おい…食われてないか?」

「大丈夫。甘えているだけ…痛っ」

 

ゴルゴーンからデコピンをされた。

「照れ隠し?」と口にするとまた叩かれる。2回目はちょっと強めであった。

 

「と、とりあえずこいつは敵じゃないんだな。食われないんだな?」

「ゴルゴーンは仲間だよ。正確にはゴルゴーンの影だけどね。それに彼女とは絆を深めた仲間なんだ」

「それなら安心…か?」

「うん。最後は優しく殺してくれるって約束もしてくれたしね」

「いや、ダメだろソレ!?」

 

まさかの返しにツッコミを入れるのであった。

 

「なるほど…流石はカルデアのマスターと言ったところか」

 

龍仮面の怪人の声が響いてきた。魔力光から逃れたようで無事であったのだ。

ゴルゴーンの蛇と化した髪の触手が蠢きながら狙いを定めて襲い掛かった。

 

「流石にこんなのを相手にしてられん。それに時間切れのようだ」

 

今度は水銀の刃が飛来してきて避けるが殺気の籠った拳が仮面を掠る。

 

「ちっ、避けやがったか」

「燕青!!」

「主。無事か?」

「おお、どうやら無事のようだな」

 

始皇帝と燕青がついに合流。始皇帝は指を軽く振るうと無数の水銀の刃が龍仮面の怪人へと飛来していく。

 

「カルデアのマスターの暗殺は失敗か」

「さっきもカルデアって言った。カルデアの事を知っているのか」

「つい口が滑ってしまったようだ。…さらばだ」

 

撤退することをすぐに決めたようで龍仮面の怪人は森の中へと消えるように逃げて行った。

 

「主を狙っておいて逃がすと思ってんのか!!」

「燕青、追いかけなくていい。今度は師匠たちと合流しに行こう」

 

燕青が怒りを爆発させて追いかけようとするが藤丸立香が止める。

 

「む…主がそう言うなら」

 

渋々と怒りを鎮めるのであった。

 

「でも、無事で良かったぜぇ主……あとそっちもな」

「私はついでか!?」

 

本気で主を心配していた燕青。そして傾に対してはどう見ても心配していなくて、ついでに居たから心配した体で言った感じだ。

 

「ありがとうゴルゴーン」

 

藤丸立香はお礼を言うとゴルゴーンの影は霧のように消えた。そして本当の霧も気が付けば消えていた。

 

「助けに来てくれてありがとう始皇帝、燕青」

「まったく困った臣下だ」

「主のためならどんな所でも助けに行くに決まってんだろ」

「あ、この水銀をお返しします」

 

水銀が始皇帝の水銀で出来た羽衣に戻っていく。

 

「なあ、主。本当に大丈夫か。どっかケガしてないか?」

「大丈夫だって燕青」

「そこの女に何もされてないか? 何かされてたらぶっ飛ばしてやるぜ?」

「おい。本当に私に対して冷たくないか?」

 

やはり反董卓連合での出会いが最悪だったのと燕青にとってマスター以外はどうでもいいと思ってるからしょうがない対応である。

 

「大丈夫だから。それに傾さんが居てくれたからこそさっきの龍の仮面を被った人と戦えたんだ」

「その通りだ。これでも私が前に出て戦ったんだぞ」

「傾さんもありがとう。助かったよ…とと」

「あ、主」

「おい、大丈夫か?」

 

藤丸立香がよろけた瞬間に燕青よりも先に傾が支えた。

 

「大丈夫か?」

「はは…ちょっと疲れたみたい」

「まあ。あれだけ妖術を使って、あんなのを使役していたからな。疲れるのも当然か…ほら肩を貸してやる。遠慮するな」

「ありがとう傾さん」

 

遠慮なく傾の肩を借りるのであった。

 

(なんか俺のポジション取られた!?)

 

気が付けば距離が近くなっている藤丸立香と傾を見て嫉妬した燕青であった。

流石は英霊たらしと言われるほどのコミュニケーション能力。相手が英霊でなくても仲良くなるのはお手の物らしい。もちろん藤丸立香は狙ってやっているわけではない。

 

「ところで燕青たちも襲われた?」

「ああ。霧が出てきたと思ったら妖魔どもに襲われたな。きっとあの仮面女の差し金だろうぜ」

 

時間稼ぎ云々と言っていたから間違いなく龍仮面の怪人が妖魔を使役していたのは確かだ。

彼女はカルデアの存在を知っていた。それらの事から龍仮面の怪人が誰と繋がっているのも容易に予想できる。

 

「まあ、その後がメチャクチャ大変だったんだけどな」

「その後?」

「ああ…」

 

急にゲッソリとした燕青。彼がこんな顔をするのは珍しい。

 

「何があったの?」

「あれはまさに朕道中だったぜ…」

「え?」

 

珍道中ではなくて『朕』道中。

 

「始皇帝?」

「うむ。あれはまさに朕道中であったな!!」

 

何故か始皇帝はイキイキとしていた。面白かったと顔から感情が読み取れる。

 

「いやはやまさかあのような異世界があるとはな。いや、あの異世界は泡沫の夢のようなものか」

「え?」

「魔王カリンだか勇者レンファだか知らんが朕が世界統一してやったわ。はっはっはっはっは!!」

「え?」

 

始皇帝と燕青は本当に朕道中をしてきたようである。

どんな朕道中か凄く気になるが、聞くのも怖いと思うのであった。

 

(その異世界大丈夫かなぁ…)

 

ともかく、その後は司馬懿(ライネス)たちと合流して無事に荊州への旅へと戻るのであった。

 

「大丈夫ですかマスター!?」

「大丈夫だよリャンさん。それに傾さんが居てくれたからね」

「ふふん。私が居たからこそだな」

 

藤丸立香と傾の珍道中。珍道中というよりかは謎の刺客からの襲撃であったが、2人が力を合わせて危機を脱したのは確かである。

 

「そうだったのですね。ありがとうございました傾殿………ところでマスターに変な事してませんよね?」

「あの拳法家といい、お前まで…」

 

短い期間である傾が藤丸立香に対する行動を見れば秦良玉の反応は当然である。

 

「ねえ、姉様。本当に何もなかったの?」

「うーん…裸で抱き着いたり、眠っている間に床に潜り込んだりしたがな」

「え、そこまでしたのに何もなかったの?」

「良い所で邪魔されたのだ。ったく、あの仮面女め」

 

龍仮面の怪人の邪魔が無かったらどうなったかは誰にも分からない。

 

「マスター本当に何も無かったのですか?」

「な、何も無かったよリャンさん」

 

結果的には何も無かったが過程は色々とあったのだが説明すると大変になりそうな気がするのでお口をチャックした。

 

「本当か?」

「拷問器具を出して聞かないでくださいふーやーちゃん…」

「私も気になるなぁ弟子よ」

「………荊州へ急ごう!!」

 

荊州まであと少し。荊州は荊州で別の物語が紡がれる事になる。

 

 

442

 

 

「戻ったぞ」

「成果はどうだ?」

「失敗した」

「なんと…君ほどの者が失敗するとは予想外だな」

 

龍仮面の怪人はターゲットの殺害を失敗。

失敗とはいえ報告は大切だ。龍仮面の怪人は依頼主に結果を報告するのであった。

 

「それほど強かったのか?」

「ああ。本気を出してもあの皇帝に勝つとしたら厳しいかもな」

「皇帝? まあ、いいさ。于吉殿が言うには一番厄介になるらしいが私にとっては二の次だ」

 

仮面を付けた道士風の男にとって于吉の情報からカルデアは計画達成の厄介な敵と思っている。厄介ならば早めのうちに摘むべきであるが彼の一番の敵は他にいるのだ。

カルデアよりも仮面を付けた道士風の男にとっての一番の敵は今、荊州にいる。

 

「そっちはどうだ。益州の劉璋のところに入り込んだようだが順調なのか?」

「順調だとも。実は今度、君を劉璋に紹介しようと思ってるんだ」

「…面倒な事だ」

 

本当に面倒くさそうにため息を吐く龍仮面の怪人。

 

「華流出亜(かるであ)? とやらは別の手段で仕留めよう。それよりも次の仕事を頼みたい」

「……何をすればいい?」

「ある剣が欲しい。その剣があれば私は表舞台に立てる。私が『本物』になってみせる」

 

 

443

 

 

ノウム・カルデアにて。

 

「先輩…」

 

マシュ・キリエライトは眠る藤丸立香を看病していた。バイタルに異常が無いとはいえ、眠りっぱなしの人間をそのままにしておくわけにはいかない。

汗を拭いてあげたり、着替えさせたりと色々とあるのだ。そして何故かマスターの看病をするのに女性英霊たちで騒ぎが起きたのである。

マシュはその騒ぎの勝利者の1人である。補足であるがマスター看病したい選手権で特に勝利して看病しているのがフローレンス・ナイチンゲールである。

 

「今そちらでは何をやっているんですか…!!」

 

藤丸立香の寝言で『呉の種馬…』とか『下半身に手を伸ばさないで…』とか口にして凄く気になるのであった。

クーフーリンたちは面白そうに聞いていたが清姫たちは寝ている藤丸立香に対して「そっちで何をやっているんですのー!!」とか言って布団に入り込もうとしていた。

マシュも凄くモヤモヤしながら藤丸立香の寝言に逐一反応するのであった。

 

「マシュ。そろそろ休憩しなさい」

「あ、虞美人さん」

 

自動ドアを開けて入ってきたのは虞美人であった。

 

「あんた今日はずっとソイツの看病しっぱなしでしょ。看病するあんたが潰れたら意味無いわよ。てか、そろそろ交代しろって言われてるわよ他の英霊たちから…ったく、こいつの何処が良いんだか」

「ふふっ。でも虞美人さんも何だかんだで先輩を心配してくださってますよね」

「んなわけあるか」

 

虞美人は眠っている藤丸立香の頬をズブリと指で指した。

 

「記録でも見たけどこれがレムレム睡眠ねえ…ほんと何なのよ」

 

睡眠を介する謎のレイシフト能力に呆れそうになる。どんな理由で身に着けたのか気になるものだ。

 

「虞美人さんは今の所、何か感じ取れるものはありますか。つい最近は始皇帝さんが先輩の寝言で言う異世界に飛ばされたみたいですけど」

「全く無いわね。てか呼ばれたくないわ」

 

きっと面倒な異世界(特異点)だと思っているので出来れば関わりたくないと思っている虞美人。

虞美人からしてみれば面倒そうな異世界であるのは確かである。

 

「ま、後輩に関しては向こうでも大丈夫そうだけどね」

「そうなんですか?」

「ええ。何でもどっかの亜種特異点の時みたいに英霊の影を使った情報が入ったみたいよ。後輩も後輩で考えて戦ってるみたいね」

 

つい最近だとゴルゴーンの霊基の影が呼ばれた。本人からしてみれば少し何か違和感がある感じだが、マスターが無事であるというのが分かったらしい。

その後は何故か姉たちから「「でっかい方の愚妹が先に呼ばれるなんて生意気だわ」」とか理不尽な事を言われて遊ばれていたが。

 

「そうですか」

 

無事という報告は何度も聞いておきたい。無事と分かれば心配する方からすればとても安心するからだ。

 

「ま、英霊の影も呼んで対処してるなら私が呼ばれる事はないでしょ。私としてはその間に項羽様との蜜月を…」

「あれ、聞いてませんか。項羽さんも既に先輩のいる特異点に転移したらしいですよ」

「………」

 

ピシリと固まる虞美人。

 

「おらあああああ後輩。なに勝手に項羽様をそっちに呼んでるんだ!!」

「あ、あ、落ち着いてください虞美人さん。先輩の首は司馬懿さんみたいにそんなに曲がりません!!」

「私もさっさとそっちに呼びなさい。なによ始皇帝が使っていた変な絡繰りを使えばいいの!?」

 

虞美人が始皇帝が作成した『夢に繋がる君』を乱暴に被って藤丸立香にも装着させる。

 

「さっさとそっちに呼びなさい!!」

「あ、先輩の首がーー!?」

 

ちょっとだけ曲がった。




読んでくれてありがとうございました。
次回は2週間以内に更新予定です。

これにて珍道中編は終了です。なんだかんだで戦闘シーンになってしまいました。
なんか珍道中ではないような気がしましたがこれでも『益州攻略編』の一部なのです。
次回でやっと荊州に到着。楊貴妃や北郷一刀たちと再会です。(たぶん)


439
龍仮面の怪人との戦闘。
傾の鞭滅多打ち『快楽鞭天』は天下統一伝の技です。
彼女も何だかんだで強いと思います。

そして今回も概念礼装を使った戦闘を加えてみました。
黒鍵。カッコイイですよね。FGOでは3色あるんですよね。


440
作戦会議。まあ作戦会議の描写ないですけど。
まさかまさかの『項羽の剣』。
バレンタインのお返しで立香は本当にすごい物ばかり貰ってます。
これどう見ても触媒になる物だったり、色々な意味で重すぎる物だったり。


441
概念礼装や魔術礼装、英霊の影をふんだんに使ったつもりの戦闘描写でした。
ちょっとオリジナル設定も入ってますが。

瞬間強化はそのまま肉体の強化です。
概念礼装『技巧』は技術、テクニックの意味ですから剣などの武器を扱うレベルが一時的に身に付くと思って書きました。
概念礼装『破壊』もそのまま威力の倍増ですね。
忘れちゃいけないのが始皇帝の水銀。これも戦闘の組み込みました。

何進(傾)に魔術的な強化付与をしましたが…付与できるのかなって最初は思いましたけど、出来ると思って書きました。
魔術回路云々について実は恋姫キャラ全てにあると思ってます。
恋姫の『天下統一伝』だと魔術的な技とか普通に繰り出してますし。

奥の手『英霊の影』を呼ぶ。
ゴルゴーンを選んだのは恋姫キャラの何進(傾)と中の人つながりです。
そしてゴルゴンレーザー(勝手に命名)で怪物を倒すシーンが書きたかったらです。 

気が付けば距離が近くなっていた立香と傾。(絆レベルが上がった)
一緒に落ちて、焚火を囲って飯食って、語り合って、触れ合って、危機を乗り越えたりしましたからね。これらで絆レベルが上がったのでしょう。(戦闘でどれくらい絆ポイントもらえたやら)

そして始皇帝と燕青は幻のような朕道中に遭っていました。
実は2人、勝手なクロスオーバーしてしまった。
始皇帝によって世界統一された『あの世界』…本当に大丈夫かなぁ?
Fate/Grand Order 人魔運営迷宮 ギオウ山 『巣作りKARINちゃん』
書く予定なし!!


442
龍仮面の怪人の正体が分かった方がいるかもしれませんね。
彼女の活躍はまだまだありますのでこうご期待!!
そして仮面を付けた道士風の男の正体は一体誰なのか?
ある剣とは…『本物』になるとは?


443
一方そのころのカルデア。
立香は相変わらずレムレム。
でも寝言のせいで騒ぎが起こってしまいました。その前に『マスター看病したい選手権』とかで騒ぎは起きてますけど。
コミカライズ版の英霊剣豪七番勝負でも清姫が騒ぎとか起こしてますしね。

ぐっちゃんパイセン。早く本編に出したいです。
ぐっちゃんはまだカルデアですが旦那はいつのまにか恋姫世界に行ってます。

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