Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
FGOでは始皇帝を中心に中華鯖のピックアップですね!!
ああ、早く韓信と徐福ちゃんの実装を待つ!!

そして益州の劉備について、ほぼ読者の皆さんが正体を知っているみたいですね。
まあ、ヒントで出したのが答えみたいなものでしたからね。
彼はアニメ版とちょっと違います。まあ、補正が入ってるので。その補正もある設定を使っています。


葭萌関の戦い

474

 

 

益州の状況ははっきり言ってしまうと酷い。

民が死にたくないために故郷を捨ててるのだから。許可のない逃亡や浮浪は死罪だというのに逃げているという事は益州に居ても同じだという事。

 

馬超はこんな状況だというのに何も出来ずにいる事に不甲斐なさを感じてる。もしもここが涼州だったら民を飢えさせる、逃げ出させるなんて事はさせない。

 

今の益州に、劉璋に仕えていて良いのかとさえ思っている。しかし劉璋には助けてもらった恩があるからこそ益州から出ていく、裏切るなんて事は出来ない。

 

「はあ…」

 

重いため息が出てしまう。

 

『劉備は攻めてくるぞ』

 

急に益州にいる劉備の言葉が蘇る。

絶対なんて言葉は付けられないが、人徳ある劉備が攻めてくるとは本当に思えないのだ。

 

「こっちの劉備のやつ…変な事を言いやがって」

 

益州にいる劉備の言葉なんて頭から消し飛ばそうとふるふると振るが、この後すぐに信じたくない報告を知らされる。

 

「馬超様、緊急の報告があります」

「どうした?」

「荊州にいる劉備が攻めてきました」

「なっーー」

 

世の中は非情ということだ。

 

 

475

 

 

「見損なったぞ劉玄徳!!」

「馬超さん!?」

 

葭萌関に辿り着いた桃香たちに叩きつけられたのは歓迎でも再会を祝しての言葉ではない。怒りの籠った馬超の言葉であった。

 

「お前だけは…お前だけは、そんな事をする奴じゃないって思ってたのに。成都に黄忠が来たってのも嘘だって思ってたのに…お前も曹孟徳と同じ野心に駆られたか!!」

「ち、違います。そんなんじゃありません!!」

 

曹操の侵略を受けて涼州を追われた馬超にとって、その記憶はまだ色あせていない。しかしそれは徐州を追われた桃香たちも同じだ。

 

「馬超さんこそ、この益州の現状を知っているはずなのに、どうして劉璋さんの客将なんかに」

「言うなっ!!」

「えっ」

 

桃香の問に馬超は喉が張り裂けそうなほど大声で拒絶してみせた。それについて聞かないでくれと言っているようなものだ。

 

「今のあたしは劉璋殿より預かった葭萌関の将だ。おまえたちのような侵略者からこの益州を守るためのな」

「馬超さん。お願いです、話を聞いて…」

「これ以上話すことなんかない。蒲公英」

「あ、うん…総員、攻撃準備!!」

 

馬超が率いる部隊が隊列を組む。いつでも突撃できるように準備している。

 

「桃香さま、ここは一度退がって」

 

怒りに満ちた馬超だが、武人としての誇りは失っていないようだ。桃香たちが退がるまで攻撃はしてこない。

楼杏はこういう事になると薄々は予想していた。馬超は人一倍誰かの恩や義理を感じる人物だから劉璋に救われた恩を返すために戦っているのだ。

 

「桃香さま。後は我々にお任せください」

「う、うん…でも愛紗ちゃん」

「わかっています。錦馬超ほどの人物、みすみす討つような真似はしませんよ」

「それもだけど…馬超さん、なんだか辛そうだった。きっと、今もすごく苦しんでるんだと思う」

「それも承知の上です。鈴々、出るぞ」

「分かってるのだ。やっと出番なのだ!!」

 

本陣に戻り、攻撃の準備が終えた時。大地を揺るがす馬蹄の音が辺りにゆっくりと響き渡る。

それは西涼騎馬兵の駆け抜ける地響きそのものだった。

 

「西涼の騎馬隊か…敵として相まみえるのは初めてだな」

「愛紗ちゃん、準備できたよ!!」

「よし…者ども。相手が名に聞く西涼の将とて、恐れるな。我らの力を、諸葛孔明の策を信じよ。劉玄徳の今の力、錦馬超に見せてやれ!!」

 

葭萌関での戦いが始まる。

劉備軍と西涼騎馬隊が真正面からぶつかり合った。

 

「はああああああああ!!」

「でぇえええええええい!!」

 

馬超と鈴々の雄叫びと共に武器の打ち合いが響き渡る。

 

「ちっ、まさかあの張飛がここまでやるようになってたとはな!!」

「鈴々もいつまでも昔の鈴々じゃないのだ。でも、馬超もやるのだ」

「ここまであたしに付いて来られる奴なんか久しぶりだぜ。たまには頭からっぽにして全力で身体動かさないとな!!」

 

馬超の気持ちが凄く分かる鈴々。だからこそ彼女は全力で丈八蛇矛を振るう。

全力で武器を打ち合う2人は何処か笑顔で、楽しそうであった。その様子を馬休は見ている。

 

「姉さん…あんな楽しそう」

 

最近の馬超はどこか顔が暗かった。申し訳ないと思うが劉璋に仕える事が苦でしかないと思うくらいの顔であったのだ。

それが鈴々と戦っている時はとても生き生きとして顔をしている。戦っている時は余計な事を考えずに真っすぐでいられる。

 

「鶸ちゃんこんなところにいたー!!」

「蒼、どうしたの?」

「まずいよ。葭萌関の城門に関羽さんたちが取り付いてる。蒲公英さまが何とか防いでるけど…」

「しまった、姉さんの戦いに夢中になりすぎたわ。姉さん、その勝負はそこまでにして。関羽さんが城門に取り付いてるって!!」

「…しまった、くそ。張飛、この勝負預ける!!」

 

戦いにのめり込むのも良いが守るべきものを忘れてはいけない。

 

「えーっ、鈴々ともっと戦うのだ!!」

「その相手、私たちが引き受けます!!」

 

鈴々の前に出てくるは馬休と馬鉄。

 

「お姉ちゃんは先に行って!!」

「お前ら、無理するんじゃないぞ!!」

 

馬超は2人の妹にその場を任せて馬を走らせる。

 

「鈴々殿、無事ですか!!」

「あ、仮面のお兄ちゃん」

 

鈴々の援護に駆けつけたのは蘭陵王だ。

 

「鈴々は大丈夫なのだ。でも馬超を逃がしちゃった。ごめん」

「いえ、鈴々殿が謝る必要はありません。朱里殿の作戦に支障はありませんよ」

「なら、良かったのだ」

 

剣を抜く蘭陵王。

 

「ここは私も一緒に戦いましょう。2対2ですので丁度よろしいかと」

「うん!!」

 

仕切り直しである。

 

「仮面の人…そう言えば劉備さんのところに居たような気がしたわね」

「うん。どんな顔か気になるよね。美形なのかな」

「今はそれどころじゃないでしょ蒼」

 

一方、城門では。

 

「城門に取り付いたご主人様たちをお守りするのだ。城壁の上に矢を射掛けろ!!」

 

愛紗の号令で一斉に矢が放たれ、城壁の上の敵が身を退いた次の瞬間に猪々子が指揮する破城槌部隊が突撃した。

 

「続けてもういっちょー!!」

「ううう、こんなのもう保たないよ。姉様、早く来てー!!」

 

城壁の上から馬岱の泣き声が聞こえてきた隙にもう一発叩きこめば分厚い木製の扉はギシリと歪み、補強の金具が耳障りな悲鳴を響かせた。

 

「ご主人様、猪々子、援護射撃を入れます。お下がりを」

「了解、総員下がれーー!!」

 

愛紗の合図に北郷一刀たちの隊が退いた次の瞬間、馬蹄の音が響く。

 

「でええええええええええい!!」

 

破城槌部隊の横合いから馬超率いる西涼の騎馬軍団だった。

 

「おのれ、馬超か!!」

「久しいな関羽。だがそう簡単に葭萌関は陥させないからな!!」

 

愛紗の青龍偃月刀と馬超の銀閃十文字槍が交差する。

 

「おいおい。足止めの鈴々はどうしたんだ?」

「馬超が本気で戻ろうと思ったら、歩きの鈴々で足止めするのは難しいよ」

 

あと少しで城門を破壊できたのだが、そんなピンチに気付いて割り込みに戻って来た馬家の機動力は恐ろしい。

 

「とにかく、愛紗が馬超を止めている間に立て直すぞ。猪々子、援護を頼む!!」

「おうよ。後方の斗詩の隊も呼ぶな」

 

猪々子が動いてくれている間に崩れかけた破城槌部隊の隊列を慌てて整える。

 

「貴様ほどの将が何故劉璋の手先などに甘んじているのだ」

「世の中には、捨てられないものが…捨てちゃいけないものがあるってことだよ!!」

 

馬超は吐き捨てるように叫んだ。

一瞬で馬のトップスピードを叩き出し、愛紗に力強い突きを打ち込んでくる。

 

「ちぃっ、さすが錦馬超、一撃が重い」

「お前ら、気合入れろ。関羽たちを一気に押し戻すぞ!!」

「押し負けるな。ここが踏ん張りどころだぞ!!」

 

愛紗の防御もろとも破城槌部隊を貫こうと馬超が次の攻撃を仕掛けようとしたその時、第三者の声が響いた。

 

「突撃ィィィィィィ!!」

 

第三者の声とは焔耶であった。彼女が率いる破城槌部隊が城門に突撃したのだ。

 

「なっ、別動隊がいただと!?」

「このまま突入せよ。葭萌関への一番乗りはこの趙子龍がいただいた!!」

「おまえたちも遅れを取るな!!」

 

城門は鈍い音と共に崩れ落ち、破城槌を抱えた兵士たちは星を先頭に場内へとなだれ込んだ。

 

「くそっ、関羽や一刀も陽動だったのか」

「姉さん!!」

「お姉ちゃーん!!」

 

鈴々たちと戦っていたはずの馬休と馬鉄が戻ってくる。

 

「二人とも、無事だったか」

「って、関の門が!?」

「仕方ない。蒲公英、葭萌関は放棄だ。連中に捕まらないうちに離脱しろ」

「わ、わかったよ。姉様たちも無事に逃げてね!!」

「敵陣薄いところがあったから、蒼が案内するね」

「ああ、お前たち蒼に続け!!」

 

葭萌関に戻ることも出来なくなった馬超たちは関から北に続く街道を全力で走り去っていった。

 

「…アニキ、あいつらは追撃しないのか?」

「いや、あの速さじゃ追いつけないからな」

「なんだよ。だったらあたいたち、良いところなしじゃんか」

 

そもそも馬超たちが逃げて行った方向は朱里が穴を開けておくように言っていた辺りだ。

ここで無理して捕えようとしても余計な血が流れるだけである。

 

「やれやれ、どうなることかと思いましたが何とかなりましたな」

「ああ、愛紗もお疲れ様」

「馬超も最初から籠城していれば、ここまで苦労しなかったでしょうに」

「それが分かってて、正面から戦いたかったんだろうな」

 

勇者という言葉がそのまま通じる錦馬超。そしてその姿を知っている桃香たちだからこそ、馬超も正面からの戦い以外はしたくなかったのかもしれない。

 

「武人らしい、堂々とした戦いぶりでした」

 

武人の戦いを貫こうとする姿は桃香たちが知っている馬超そのもので、内心なぜかホっとした。

 

 

476

 

 

葭萌関の城壁で馬岱は馬超たちが無事に撤退したのを確認してから自分の事を考える。

 

「さて…逃げるっていっても、どうやって逃げようかな。もう出口も押さえられてるんじゃないかな」

 

彼女の考え通り、既に出口は押さえられている。朱里や雛里がワザとでない限り、出口を押さえない事はしない。

 

「む、見つけた。貴様、この葭萌関の将だな。大人しく桃香さまに降るがいい」

「誰、あんた?」

 

いきなり現れた者に馬岱はポケっと呆れるように返事をする。

 

「あんたとは何だ。我が名は魏延。劉玄徳殿に一番の忠誠を誓う部下である!!」

「えええ…あんたが一番?」

「おう!!」

「いや…それだけはないと思うなぁ」

 

馬岱は魏延もとい焔耶の「劉玄徳殿に一番の忠誠を誓う部下」という部分にめちゃくちゃ違和感を覚えた。

 

「何だと…桃香さまの事を知りもせんくせに生意気な」

「劉備さんだったらよく知ってるよ。一番の部下だったら関羽さんか張飛ちゃんじゃないの?」

 

グサリと馬岱の正論が焔耶の胸に刺さる。流石に愛紗と鈴々を出されると焔耶もタジタジだ。

本人としては桃香に対する忠誠心は負けるつもりはないが相手が義姉妹となると色々とリードされているのは否めない。

 

「そ…それは…一番はそうかもしれんが、忠誠に関してはワタシだって負けるつもりはないというか、むしろワタシの方が上じゃないかとか…」

 

ぶつぶつと呟く焔耶を横目にそろそろと後ずさる馬岱。今の焔耶はショックを受けているので視野が狭くなっているのだ。

 

「………はっ」

 

気付いた時にはちょっとだけ遅かった。

 

「じゃあねー」

「なーっ、ま、まさか貴様、そこまで計算尽くで…!?」

「こんなの計算もいらないってば。たんぽぽ、あんたの相手なんかしてる暇ないもん。さよならー」

 

確かに計算でもなんでもない。勝手に自爆したようなものだ。

 

「貴様ーーー!!」

 

ピューーっという効果音と共にトンズラする馬岱と追いかける焔耶の構図が出来上がりだ。

 

「む………?」

「あ、星。そいつはこの関の将だ。捕まえるのを手伝ってくれ!!」

 

逃亡先に星が立っていた。「なんか2人組がこっちに来たな」という顔をしている。

 

「捕まえると言っても、逃げる者は捨て置けというのが桃香さまの命だろうに」

「きゃーっ。助けて将軍さま。粗暴な人に酷いことされそうなんですー!!」

 

馬岱は何も警戒せずに星の後ろに隠れる。既に知り合いの仲だからこそできる行為だ。

 

「ちょっ、どうしてお前、星にはそうやって助けを求めるような真似を!!」

「どうしてって…趙雲さんは知ってるし」

 

先ほどまで戦っていたとは考えられない空間である。

 

「ぐぬぬ…そいつを渡せ、星」

「だから、桃香さまは逃げる者は追うなと言っていただろう。馬岱もさっさと逃げるがいい」

「ふむ…どうやら無用な拳を振るわずにすみそうだ」

「なっ!?」

 

背後から老人の声が聞こえた瞬間に星はすぐに振り向いて武器を構える。

 

「あ、按摩のお爺ちゃん」

「知り合いか馬岱?」

「うん。うち専属の按摩師」

「馬家の専属になった覚えは無いぞ」

 

目の前には赤い中華服に黒眼鏡を掛けた老人が立っていた。星は目の前にいる老人が心底恐ろしいと思った。

なにせ気配を一切何も感じなかったのだ。もしも襲われていたら殺されていたかもしれない。

馬岱との会話を聞くと問答無用に襲ってくる輩ではないと理解はしたが、それでも末恐ろしい。

 

「おい焔耶。後ろから誰か近づいていたなら言ってくれ。敵ではなさそうだったからいいものの…」

 

現場の状況的に焔耶ならば老人が近づいている姿が見えたはずだ。

 

「す、すまん。てか、ワタシも気付かなかった…」

「気付かなかったって…おいおい、この老人は私の後ろにいたのだぞ。私の正面にいたお主なら普通は気付くだろ」

「あ、ああ…その通りなんだが、その老人が声を出すまでワタシも本当に気付かなかった」

 

焔耶は老人に対して警戒をむき出しだ。

 

(おいおい…視覚的にすら気付かなかったのか。この老人は何者だ?)

 

馬岱は按摩師と言っているが按摩師が気配を全く感じさせずに近づいてくるなんて信じられない。

本当は引退した凄腕の暗殺者と言われた方がしっくりくるものだ。

 

「てか、按摩のお爺ちゃん。どうしてここに?」

 

てっきり逃げたかと思っていたのだが、まさかまだ城壁に残っていたとは驚きだ。

 

「どうしても何もお主を助けにきたのだが…その必要はなさそうだな」

「え、助けにきてくれたの。ありがと按摩のお爺ちゃん!!」

 

なんだか孫のように老人にまとわりつく馬岱。

 

「そこな老人。何者だ」

「呵々、そう警戒するな。馬岱殿を見逃してくれるなら此方も手を出そうなどと馬鹿な真似はせんよ。それと儂はただの按摩師だ」

 

ただの按摩師というのが信じられない。

 

「ただの按摩師が気配も感じさせずに近づいてくるか普通」

「なに、ただのちょっとした技だ。圏境(極)と言う」

「どんな技だか」

 

気配を消す技というのは理解できたが、ここまで気配を感じさせないとなると相当な腕だというのも理解させられる。

恐らく凄腕の武術家だと予想。もしも死合いになればどちらかが必ず死ぬと思わせる存在感だ。

 

(完成された武術なのだな。あの境地に至るまで、あの老人はどれほどの鍛錬をしたのだろうか)

 

武人として戦ってみたいという欲求が星にかけめぐる。きっと愛紗や夏侯惇たちも戦ってみたいと思うはずだ。

 

「呵々。そう猛るな…気持ちは分からんでもないが、先ほど逃げる者は捨て置けというのが其方の主の命なのだろう?」

「むう、それを言われるとな」

 

武人として戦ってみたいが、相手に戦う気が無いのならば意味は無い。流石に戦いが為に無理やり襲うなんて事はしない。

 

(李書文殿なら戦いたいと言えば、応じてくれるのだがな…目の前の老人はそのような御仁ではなさそうだし)

 

李書文や燕青は戦いたいと言えば高確率で応じてくれる。

 

「逃げるといい」

「なっ、逃がすのか星!?」

「いや、何度言わせる。桃香さまはーー」

「…どうしたの、何の騒ぎ?」

 

城壁の上から聞こえてきた声に気になって顔を出したのは藤丸立香。李書文も一緒にいる。

城壁の光景を見た瞬間の第一声はやはり老人に対してだった。

 

「あ、老師!!」

「立香。この御仁と知り合いなのか?」

「うん。仲間なんだ」

 

老人の正体は藤丸立香が契約したサーヴァントの1騎である李書文(老)だ。

 

「これまた…なんとも」

 

まさか藤丸立香の仲間だとは思いもしなかった。

よく分からないが強者と出会うと彼の仲間だった率が高いようなそうでもないような感覚に陥る。

 

「もしかして馬超さんのとこに今まで居たの?」

「うむ、馬超殿のところで厄介になっていた」

 

話を聞くと李書文(老)は気が付けば涼州にいたそうだ。涼州の民に話を聞いて、この世界は三国志の時代というのに気付くのは簡単だった。

この世界の何処かにマスターがいるのは明白だが中国大陸は広すぎる。当ても無く歩いてマスターを探し回るのは難しいというか面倒。そもそも無一文なし。

 

英霊だから何とかなるかもしれないが路銀が無いのは不安と思って按摩の腕を使って涼州でちょっとだけ稼いでいたら馬家に声を掛けられたのだ。

これはチャンスだと思った李書文(老)は按摩の腕を売る代わりに馬家に大陸の情勢やマスターたちについて聞き出す。

 

話を聞くと劉備陣営に似たような人物たちがいると聞いた。有益な情報を聞けたので劉備たちがいる徐州に旅立とうとした時に曹操が攻めてきたのである。

馬家と曹操との戦いに関係無い李書文(老)であったが馬騰とちょっとした約束をしてしまったので、戦争に負けた馬超たちにちょっとだけ付き合う事になり、今に至るという事である。

 

「そうだったんだ」

「すまぬな。本当ならばすぐに合流できたと思うのだが」

「いいよ。老師には老師の考えがあったんだから」

「まったくマスターは優しいのう」

 

軽く笑う李書文(老)であった。

 

「へー、藤丸さんの仲間だったんだ。按摩のお爺ちゃんって」

「あれ、馬岱さんお久しぶりです。てか逃げてなかったの。さっき馬超さんから逃げろって言われてなかった?」

 

戦いの様子を見ていたので馬超が馬岱に対して撤退命令が出ていたのは知っている。桃香からも逃げる者を追うなという命令も知っている。だから馬超たちはもう全員逃げていると思っていたのだ。

 

「それが、このキャンキャン吠える猛犬みたいな人に絡まれちゃって…ちょうど趙雲さんが通りかかったから助けてもらったんだけど」

「き、キャンキャン!?」

 

何となくだがその図が簡単に想像できた。焔耶は目の前に敵陣の将がいたらついつい追いかけるタイプだからだ。

最初に出会った時からそれは変わっていないらしい。

 

「それは貴様が逃げるからだ。ワタシは無実だ。それに犬みたいなどと、失礼にもほどがあるぞ」

「も、う、け、んって言ったんだよ。そんな大人しいわけないじゃん」

「なんだと!!」

 

すぐに2人の相性が悪いと理解できてしまった。気のせいかもしれないがトーマス・アルバ・エジソンと二コラ・テスラの喧嘩と重なった。

気が付いたら李書文(老)を中心にグルグルと追いかけっこしている。

 

「それにしても先ほどから静かだな書ぶ…」

 

さっきから静かな李書文が気になった星が視線を移すと言葉を閉じた。

なんせ凄い目で李書文(老)を見ていたからだ。もう視線だけで貫けるくらいの眼光である。

 

「ど、どうした書文殿?」

「ああ、そこの若造は我慢しておるのだよ。儂との戦いをな。まあ、戦っても儂が勝つがな」

「言ったな糞爺。今すぐ座に送り還してやろうか」

 

ギロリと殺意を込めた目を向ける。

 

「殺意を向けるな」

(てか、自分の事を糞爺って…)

 

カルデアではよく自分同士、過去未来の自分と喧嘩をするのは日常茶飯事である。

 

「もしかして書文殿とそこな御仁は知り合い…て、立香の仲間なのだから当たり前か。それにしてもただならぬ関係に見えるが」

 

李書文が老人に対しての殺意や闘気のむき出し感がハンパないのだ。星も焔耶も気にするのは当たり前である。

 

「コイツに何したんだよジイサン」

「何もしておらん。ただそこの若造が儂と戦いたがってるだけにすぎん」

「なんかそれだけじゃない気がするんだが」

 

焔耶は訝しんだが、実際のところ李書文が未来の自分と戦いたいというのは本当である。

恨みがあるとかではない。単純に武術を極めた己と戦ってみたいだけという一点のみ。ただ若い自分と年老いた自分とでは性格的にどこか合わないので喧嘩腰になってしまうのだ。

自分自身であっても血気盛んで猛き狂う時と穏やかな時ではやはり合わないのかもしれない。

 

「てか、なんか2人似てないか?」

 

ここで焔耶は2人が似ているようだと口にする。

 

「まさか祖父と孫…いや、父と息子だったりするのか?」

「「やめてくれ」」

 

珍しく同時に口が開いた。それにしても焔耶の考えはちょっと惜しい。

 

「そもそも、アンタなんて名前なんだよ」

「按摩のお爺ちゃんの名前は李書文さんって言うんだよ」

 

馬岱がしれっと名前を口にした。

 

「え?」

「お爺ちゃんの名前は李書文だよ」

 

星が李書文と李書文(老)を交互に見る。

 

「同姓同名か。まあ、同じ名前なんて凄く珍しくは無いか…」

 

劉備陣営には諸葛孔明と呂布奉先の名を持つ者同士がいるのだから。

 

「だよねー。蒲公英はこれで同じ名前の人に会ったのはこれで4回目だよ」

 

馬岱の「同じ名前の人に会ったのが4回目」というのに何故か気になった星。

彼女は劉備陣営の者たちと顔見知りだ。諸葛孔明と呂布奉先、そして李書文と数えると3人だ。ならばあと1人同じ名前を持つ者を知っている事になる。

普段ならば「そうなのか」と言って終わりなはずだが、何故か今回は頭に引っかかるように感じてしまったのだ。

 

「馬岱さん、良かったらそっちの事情を聞かせてくれないかな。話が終わったら馬超さんのところに戻って良いからさ。普通に桃香さんも許してくれると思うし」

 

今の様子を見ると馬岱は馬超と違って桃香たちに敵意をそこまで持ってるようではない。現状の馬超サイドの情報を少しでも知りたいのだ。

朱里たちから敵兵を捕まえたら情報を聞き出すように言われている。もし無理なら聞かなくて良いと言われており、更に逃がしても良いとも言われているのだ。

 

「この性悪がそんな素直に従うわけないだろ」

「いいよー」

「なーーっ!?」

 

即答であった。これには藤丸立香もちょっと驚いた。

 

「楼杏さんたちもいるんだよね。みんなにも会いたいな」

「もちろん会えるよ。みんな馬超さんや馬岱さんたちの事すごく心配してたよ」

「じゃあ決まり!! あ、もし捕まってる西涼の人たちがいたら」

「それは…朱里ちゃんたちと相談になると思う」

 

桃香は出来るだけ戦いたくない姿勢を見せるつもりだから馬岱と一緒に帰すつもりはあるはずだ。

 

「それでいいよ。だったらよろしくね」

 

 

477

 

 

馬超たちは無事に撤退することに成功していた。しかし心情は敗北したというマイナスな感情で混ざり合っている。

 

「くそっ劉備め、まさかあれほどの戦力を整えてるなんて」

「やはりこの状況で野戦を挑むのが良くなかったのでは」

「けど劉備相手にいきなり籠城なんて恰好悪いマネできるかよ」

 

籠城をしていればまた違う結果になっていたが気持ち的に真っ向から勝負したかったのだ。

 

「お姉ちゃん、そんな事よりあれ見て!!」

 

馬鉄の声と指さした方向を見ると益州の部隊が近づいてきている。

 

「おう翠、無事だったか。劉備が攻めてきたと報告が入ったから急いで駆けつけたのじゃが…遅かったか」

「すまん。これでは劉璋殿に合わせる顔がない」

「いやいや、無事で何よりだ。劉玄徳の軍は漢中の諸将さえ手を出せぬ大軍勢と聞いていたが…それほどか」

「数の問題じゃない…単なるあたしのしくじりだよ」

 

こうやって厳顔が加勢するために軍を動かしてくれたのだ。本当に籠城をしていれば良かったかもしれない。しかしもう遅いのだ。

 

「勝ち負けは時の運というしな。イチイチ気に病んでいては戦は出来ん。ところで蒲公英が見当たらんがどうした。まさか」

「蒲公英は劉備殿に捕まったのだと思います」

 

馬休は暗い顔をする。

 

「むぅ…無事だと良いな」

「それは心配してないよ。あいつらは…蒲公英に酷い事をするような連中じゃないから」

「そうか…信じておるのだな劉玄徳の事を」

 

厳顔の言葉に馬超は一瞬だけ顔を歪めた。

 

「なんじゃ違うのか?」

「いや…そうだな。あたしはまだ…あいつの事を信じたいって思ってるんだな」

 

劉備もとい桃香は優しい人物だ。馬岱に酷い事はしないと確信している。そして曹操とは違うと思っているのだ。

 

「馬超殿、劉備を信じるのは構いませんが敵だという事を忘れないでください」

「こっちの劉備も来てたのか」

「もちろんです。ですが遅かったようですね」

 

せっかく加勢に動いたが意味は無かった。しかし馬超たちが無事だったのは大きい。

 

「馬超殿が無事で本当に良かったですよ。客将と言えど貴女は劉備と戦うに必要な戦力ですから」

 

劉備と戦うという言葉を聞いて胸が痛くなる。頭の中もモヤつく。

 

「葭萌関が抜かれたとなると決戦は成都になりそうですね」

「ふむ…そうじゃな。急いで戻って迎え撃つ準備をせねばな」

 

決戦は益州の都である成都。

 

「おい馬超」

「お前は…」

 

急に馬超に声を掛けてきたのは龍の仮面を被った女性であった。

 

「関羽と戦ったか?」

「いきなりなんだよ」

「関羽と戦ったかと聞いている」

「……戦ったけど、それがどうした」

 

龍の仮面を被った女性。戦ったことは無いが相当な腕があるのは間違いないと思っている。

会話した事はあまり無いが、向こうから話しかけてくるのは初めてだったのでちょっと驚いた。

 

「どうだった?」

 

彼女から関羽と戦った感想を聞かれているのだとすぐに分かったが、上から目線なのに少しだけイラつく。

 

「強かったよ」

 

本音を言うと愛紗と戦ったのが楽しかったというのもある。流石に厳顔たちの前では言えない。

 

「どれくらい強かった?」

「どれくらいって…負けるつもりはないけどこの大陸で五本の指に入いるくらいじゃないか?」

 

大陸にはまだ見ぬ強者がいるかもしれないが馬超が戦った者たちの中でも上位に入るのは確かだ。

 

「そうか。なら殺せるな」

「あ?」

 

関羽もとい愛紗は強いと言っているのに目の前にいる龍の仮面を被った女性は簡単に「関羽は殺せる」と口にしたのだ。

 

「どういうことだよ」

「貴様の口ぶりでなんとなくだが分かった。関羽は私が思うほど強くないとな」

 

ブチリと何かが馬超の中で切れた。

 

「てめえ、関羽と戦ってもねえのに何言ってんだ」

「私の所感を言っただけだ馬超」

「戦ってもねえのに関羽を侮辱すんなって言ってんだよ」

 

武人として戦った相手を刃も交えてない者に悪く言われるのは許せない。

愛紗が馬超から見て弱い人物だったら龍の仮面を被った女性に対してここまで怒りはしない。ただ弱くても武人として真正面から戦った相手を侮辱する事に対して注意くらいはしたかもしれない。

ただ愛紗は馬超が認める強さを持つ武人だ。自分が認めた武人を馬鹿にされるのは気持ちが良いものではない。しかも遠回しに馬超も弱いと言っているようなものだ。

 

「何を怒っている。相手はただの敵だろうに」

「そうだが、てめえのそれは武人を理由も無しに侮辱してるだけだ。同じ武人としてそれは聞き捨てならねえんだよ」

 

怒りを滲ませる馬超に対して龍の仮面を被った女性は涼しい顔だ。

 

「ま、まままま、待った待った!!」

 

慌てて2人の間に入る益州の劉備。

 

「ここは仲間割れをしている場合じゃない。我々の敵はあっちの劉備軍でしょう」

「ちっ」

 

舌打ちして馬超は怒りの溜飲を下げようとするが下がらない。苛々して今すぐでも槍を振るいたいくらいだ。

 

「困るから煽るような事は言わないでくれ。君の実力は知っているが油断しないことだぞ」

「油断していない。私の所感を言ったまでだ」

「それが困るって言ってるんだ!!」

 

実力があるのは認めるが仲良くなれないと理解した馬超。

武人として戦いたいと思っていたが撤回。単純にぶちのめしたいと思うようになる。

 

「馬超殿すまない。私から彼女にうんと聞かせておきますから」

「よく言っておけ」

「はい。分かっています」

 

本当に分かっているのか疑問である。

 

「暗影殿、次からこのような事はやめてもらいたい」

(あの女、暗影って名なのか)




読んでくれてありがとうございました。
次回の更新は1週間後予定。早く更新出来たら更新します!!
今のところ原作と同じ流れが続くかもしれません。


474~475
ここは原作と同じ流れですね。
桃香たちと馬超たちの戦いです。普通に戦って、桃香たちが勝ちました。


476
やっと老書文と合流だ!!
短すぎますが李書文(老)が馬超に拾われた経緯を書きました。
按摩やってたら馬超に腕を買われたのです。
そして若い李書文と会ったらやっぱり喧嘩腰になるのかな。
大体、そんな感じになるというのがみんなのイメージみたいですし。


477
益州の劉備だけじゃなくて龍仮面の怪人もまた登場。
名前も今は「暗影」としました。
暗影と馬超の仲は良さそうではないですね。やっぱり自分の認めた武人を馬鹿にされるのは許せないのかもしれません。
暗影が愛紗を気にする理由もいずれ書いていきます。

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