Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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FGOのクリスマス復刻が終わって次はついに新イベント!!
4.5章がはやく待ち遠しいです。
だって、ついに楊貴妃が物語に関わってきそうですからね。そしてまさかの水着キャラが特攻とは…夏の水着ならぬ秋or冬の水着か。

恋姫天下統一伝ではハロウィンでしたね。
曹操が魔法少女になってました。そして袁紹はヴァンパイアっぽい姿です。
どんな物語なんだろうか気になります。

さて、本編ですが今回は益州を手に入れたその後の話になります。
まあ、蜀ルートの革命のあの話になります。

では本編をどうぞ!!


益州挨拶回り

516

 

 

「ファイトぉおおおお!!」

「いっぱっーーーーつ!!」

 

藤丸立香と北郷一刀は何処かで聞いたことがあるような掛け声を発しながら鍛錬していた。

 

「いい汗かいたな」

「ああ」

 

流れた汗をタオルでふき取る。乾いた喉に水を一気に流し込む。何となくだが水ではなく栄養ドリンクを飲みたかったが深く考えない事にした。

何故、2人が鍛錬をしているかと言われれば北郷一刀が藤丸立香に「一緒に鍛錬をしないか?」と誘った事から始まる。

 

藤丸立香は特異点攻略を始めてから鍛えないといけないとすぐに分かった。鍛えておけばいざと言う時に生存率が上がるからだ。

レオニダス式ブートキャンプやスカハサとの地獄の訓練は今でも続けている。

一方、北郷一刀は左慈の強襲や自ら悪役になった『彼』との戦いを得て、自分の弱さを痛感した。だからこそ本気で鍛える事を決めたのだ。

 

「自己鍛錬も限界があるな」

「まあ、確かに。我流のみで強くなるのと師事してくれる師匠がいるかでは大分違うからね」

 

北郷一刀は強くなりたいと思っているが、すぐに強くなれるかと言われればなれない。彼もまた今は生存率を上げる、足手まといにならないくらいにはなりたいと思っている。

守ってもらう負担を出来るだけ減らしたいと思っているのだ。

 

「ふん!!」

 

剣を振るう北郷一刀。彼が使っている剣は大陸製の剣だ。

彼は祖父から剣術を習っていたが、今持っている剣とでは合わない。前にも星に指摘されて大陸製の剣でなく、日本刀に近い剣を探した。

その時は結局、華蝶仮面やらなんやらで有耶無耶になってしまったので後日出来るだけ似た剣を探したのだ。

 

見つかるには見つかったがそれでもコレじゃない感があった為、北郷一刀の頭を総動員して日本刀について情報を鍛冶師等に依頼してみたが製作が不可であったのだ。

一応、鍛冶職人たちも日本刀を作ってみたらしいが北郷一刀が思う日本刀とは掛け離れていたのだ。そもそも日本刀の作成方法を知らない者がちょっとした情報だけで作れるはずもない。

 

「…そういえば藤太さんが刀を持ってたよな」

「持ってるけど、どうした北郷?」

「いや、日本刀が欲しいから鍛冶職人に藤太さんの刀を貸してもらえないかと思ってさ」

「うーん、藤太なら構わないって言いそうだけど……異世界とはいえ、この世界に刀の作り方を解明されて良いのかなって」

「うっ、そうだよな」

 

三国時代に日本刀は存在しない。未来で生れるものを過去で作って良いのかどうかという事だ。

流石にそれは北郷一刀も分かるようだ。

 

「あれ、でも…」

「どうした藤丸?」

「呉の方でさ…どう見ても刀にしか見えない武器を使っていた人がいるんだ」

「マジか!?」

 

日本刀というより太刀というのが正確かもしれない。

呉で太刀を使っている者とは周泰もとい明命だ。よくよく考えると何で彼女が太刀を持っているのか不思議である。

この異世界は時たま「あれ?」というものが見つかるのだ。桔梗の持つ豪天砲然り。

 

「本当にあの剣が刀と言われれば首を縦に振れないけど、どこからどう見ても刀だったんだよな」

「じゃあ、この世界には刀に似た刀を作る製法があるのか。もっと情報を集めてみるか」

 

日本刀について話ながら2人は歩いていくと東屋が見えてきた。

何かしら声が聞こえたのでヒョッコリと顔を出してみると雷々と電々は月と鶸に手紙の書き方を教わっていた。

 

「あ、ご主人様に立香さん」

 

月が気付いてくれる。

更に詳しく聞いてみると電々たちは商家の出であって読み書きは出来るのだが、何でも綺麗な書き方は難しいから教わっているのこと。

漢文でも洒落た言い回しや気の利いた言葉の使い方はあるもの。月たちならその方面は得意らしいから教えてもらっているのだ。

 

電々たちが手紙を送ろうとしているのは両親にだ。実家宛てならば自分が成長した感じの出る洒落た手紙を書きたいと思うのは当然かもしれない。

この時代に郵便局や郵便の制度はない。手紙を出すとしたら、その方面に行く旅人や商人に預けるかお金を積んで人を遣わすくらいが精一杯だ。

更に旅そのものが安全でない以上、無事に届くかどうかも分からない。

 

「このお手紙いつごろ着くかな」

「セミが鳴く頃には届いたらいいねえ」

「気の長い話だな」

 

近状報告。その言葉が頭を過る。

 

「ご主人様、どうかなさいました? お加減でも悪いのですか?」

「もしかして、天の国のお家が恋しくなったの?」

「ご主人様もお手紙書く?」

 

両親と言われて北郷一刀も家族を思い出してしまう。この異世界に来てから家族を思い出す暇なんて無かったからだ。

今さらながら家族の顔を思い出すとホームシックになってしまう。

 

「家族か」

 

家族と言われても藤丸立香も思い出してしまう。白紙化された地球。藤丸立香の両親がどうなったか嫌でも分かってしまうものだ。

 

「立香さん?」

「あ、いや。大丈夫だよ月」

「そうですか?」

 

月は藤丸立香のちょっとした変化に気付いたのか心配そうに見ていた。

 

「俺も大丈夫…実はさ最近、桃香が元気ないだろ?」

「そういえば…」

 

家族についてもそうなのだが、北郷一刀が思った事は桃香の事だ。

 

「お仕事が大変だからじゃないの?」

 

自分から悪役になった『彼』との戦いが終わった後、桃香は益州の平定と調略を休まず行った。その結果、小康状態になる。

桔梗の橋渡しもあって各地の諸侯は桃香を歓迎してくれ、成都での翠との戦いを評価してくれたのも大きかったのだ。

中にはまだ親劉璋派の地域もあるが、すくなくとも荊州の頃よりはずっと安定している。

 

「そのお疲れが出たのでしょうか?」

「うーん…それとは違う感じがするんだよな」

「だったら独立の件とか?」

 

実は数日前にある出来事もとい情報があった。

それは曹操が魏という国を大陸に建国したという事。更に曹操に対抗して孫策が呉を建国した。

 

三国志の代表的な2つの国がいきなりポンと出てきたのだ。いずれは出てくると予想していたが、本当にいきなりだったので北郷一刀として薄いリアクションをしてしまったものだ。

 

本当なら曹操も孫策も様々な過程をこなして国を大陸に出したが、その過程が分からないので仕方がない。

 

「魏に呉か…」

 

曹操の魏に孫策の呉。

少しずつ三国志の代表的な地名が増えていく。なれば次に来るのが予想できるもの。

 

「で、私は何をすればいいの? 桃香に帝位を譲るって言えばいい?」

「空丹さま?」

 

いきなりの空丹からの言葉に皆が驚いた。

 

「私は今の暮らしがあれば十分だし、それ以外は桃香たちの都合の良いようにしてちょうだい」

 

空丹は本当に王や皇帝といったものに興味がないのかもしれない。

茶器を温めるお湯を注ぎながら世間話みたいに言うだけで腹を立てる様子もないのだ。

 

「あ…あのお姉さま」

「あら、そういえば皇帝はもう白湯だったわね。白湯はどうしたいの?」

「ほぇっ!?」

 

そんな簡単に帝位を譲れるものではないと注意しようとした白湯だったがいきなり発言権を渡されて詰まってしまう。

 

「それはその…いきなりのお話だったので、なんとも」

「ふぅん、そう。桃香は?」

「わたしも、その…急に帝位を譲る、とか言われても」

 

桃香自身もいきなり帝位を譲ると言われても「はい、受け取ります!!」と元気に返事が出来るはずがない。

 

「桃香殿は中山靖王・劉勝殿の子孫と聞き及びます。少なくとも血筋に関しては、王やそれ以上の位を名乗っても問題はないでしょう」

 

黄がもっと何か言うかと思われたが空丹が納得していれば、今の生活が保障されればいいのか、桃香が帝位に就くことに文句はないようだ。

 

「あ…うん。一応、お母さんからこの剣を預かった時に、そういう血筋だって教えてもらったんだけど」

 

そう言って見せたのが宝剣『靖王伝家』。この剣に特別な力が込められているのは既に知っている。

この剣の力を知っているのならば桃香が中山靖王・劉勝殿の子孫と言われても納得できる。

 

桃香も白湯もさすがにすぐに帝位をどうこう、なんて気持ちにはなれない。

益州を取るだけでも大騒ぎであったのに皇帝の座をいきなりどうかと言われてもすぐに答えられるはずがない。

 

「まあ、独立は必要にしても、当分は今のままでも問題ないでしょうし。この件に関しては急ぐ必要はありません。国の行く末に関わることですし、よく話し合って決めていければよいかと」

「うん…よく考えないとね」

 

そんな話があった。

 

 

「ふええ。桃香さま皇帝になるの?」

「まだ決まったわけじゃないですよ」

「ああ。いま一番悩んでいるのはそこだと思うんだけど…月はどう思う?」

「そうですね。桃香さまですから、益州に来てまだ日の浅い時期、更に叫弾の種となりそうなことを恐れているのでしょう」

 

益州を取る事でも散々悩んでいたのに王や皇帝ということになると余計に悩む。覚悟を決めたとはいえ、いきなり王になるかどうかなんて人生ハードモードすぎる。

 

「私が相国になった時にも、いろいろとありました。それを跳ね返すだけのお覚悟を求めてしまうのは…酷な部分もあると思います」

「そうだよなぁ。桃香には地位とか領土とかそういった方面の野心はなさそうだし」

「はい、新野からも少しずつ人を呼べてますし、益州の再生も順調です。今はそれで充実してらしゃるのでしょう。もちろん、将来的な志はもっと高く、遠いところにあるのでしょうが」

 

少なくとも桃香がやりたい事が荊州にいた頃よりもずっとやれている。

全てが完璧というわけではないが、彼女は出来る事を喜ぶタイプで足りない所に文句をつけるタイプではない。

 

「ねえねえ、ご主人様」

 

袖をくいくいと引っ張ってくる電々。

 

「桃香さまのお父さんやお母さんってご主人様、知ってる?」

「いや…聞いたことないけど…自分から言うならともかく、聞くような話題もないからな。こんな時代だし、事情もあるだろうしさ」

「そっかぁ。桃香さまも、お手紙出せたら元気になるかなって思ったんだけど」

「桃香さまのような方なら、徐州や平原の御役目についた時点でご家族を呼び寄せても不思議ではありませんけどね」

 

この時代、親を大事にするという考えは北郷一刀たちが生まれた時代よりも強い。彼女にそのような気配が無いという事は、つまりそういう事かもしれない。

 

 

517

 

 

益州内の挨拶回りで今回は南の方だ。益州内の調略はほぼ終わっているが、桃香の方針で挨拶は出来るだけ自ら足を運ぼうという事になっている。

諸侯に挨拶するだけなら成都に集めれば簡単だが、各地の様子見が出来るという事で自ら足を運ぶ事になったのである。

 

「桃香さまをお一人で歩かせるなんて大丈夫なんですか」

「だから、一人じゃないって言ってるだろ」

「おぬしは何をそんなに心配しておるのだ焔耶よ」

 

挨拶回りに来ているのは焔耶に白蓮、桔梗だ。更に藤丸立香に秦良玉、荊軻も加わっている。

 

「心配しすぎじゃない焔耶さん?」

「まるで過保護すぎる母親のようですよ」

「臣下と言え!!」

「もしくは番犬か?」

「犬って言うな!!」

 

吠えているのでそう見えた事は言わない方がよさそうだ。

 

「中には主の犬と呼ばれて喜ぶ奴はいるぞ」

「そんな奴いるか!!」

「そんな奴はいる。マスターの犬を自称する者がいるよなあ」

 

確かにいるので否定できない。

牛若丸だったり、牛若丸だったり。

 

「え、お前は仲間を犬扱いしてるのか?」

「待って、何か誤解されてる」

「藤丸…お前って奴は」

「ほほう。お主も可愛い顔してなかなか…」

「誤解なんですけど!!」

 

からかってると分かっていても誤解だと言っておかなければならない。もしかしたら本気で信じてしまう人もいるからだ。

 

「でも本当に牛若丸はマスターの忠犬じゃないか。あの懐きレベルは度を超えるレベルだぞ」

「いや、荊軻…牛若丸は確かに忠誠を誓ってくれてるけど、疚しい事なんて…」

「首輪をつけて変なプレイをしてるとか噂が…」

「ないからぁ!!」

 

何処でそんな噂が流れるのか知りたいくらいだ。

 

「そうなのか。清姫だったり、タマモキャットともとそんな噂が…」

「ねえから!!」

 

一部の英霊たちはマスターである藤丸立香をどう見ているのか知りたいくらいだ。

 

「本当にやるのう藤丸は」

「桔梗さん誤解ですから…」

 

話が変にズレたので何とか流れを戻す。

 

「桃香さまはこの先の益州を…いや、大陸を背負うお方なんですよ。そんなお方にたったあれだけの護衛で」

「大丈夫だって、周囲には警戒も置いてるし、私たちもすぐに駆けつけられる距離だろ」

「それにあの3人も付いておるしな」

 

桃香の傍にいるあの3人とは北郷一刀に愛紗、鈴々だ。

 

「ぐぬぬ…あの3人って、どうしてワタシを加えてくださらなかったのです!!」

「なんじゃ、それが本心か。とはいえ、新参の我らの前では話しにくい事もあろうさ」

 

昔からの仲間、古参のメンバーというのは仲間内の中である意味特別である。

桔梗の言う通り、昔からの仲間にしか言えない事はあるものだ。

 

「新参であっても桃香様への忠誠は変わりません!!」

「おぬし、めんどくさいのう。蒲公英がぼやくわけじゃわい。聞いておるぞ。穴にでも入って反省しろと言われたのじゃろう?」

「だ、だからと言って落とし穴に落として良い理由にはなりませんよ!!」

「なんじゃ、本当に落とされたのか」

 

どうやら落とされたようだ。

 

「まあ、忠義云々はともかくさ。たまには古い馴染みとだけでゆっくりとさせてやろうぜ?」

 

白蓮は前方を歩く桃香たちに視線を移すのであった。

 

「ふわぁ。良い天気なのだ」

「鈴々、あまり先に行き過ぎるな。迷子になるぞ」

「そんな事ないのだー!!」

 

そう言いながら鈴々は街道の先の方まで馬を走らせていく。そっちは進む先ではないが。

北郷一刀に桃香、愛紗に鈴々。白蓮の本隊から少し離れたところに置いて彼女たち4人はのんびり街道に馬を進ませていた。

 

「なんだかこの4人でこうやって旅をするのも久しぶりだね」

「はい。旗揚げした頃を思い出します」

「そうだよな。最初はこの4人しかいなかったんだよな」

 

始まりの3人もとい4人。

 

「懐かしいな」

 

桃園で一緒に戦うと誓った時を思い出す。

その後は黄巾の乱から藤丸立香たちとの出会い、反董卓連合、曹操からの逃亡、成都での決戦と怒涛の展開であった。

その間に出会った人も、別れた人も、仲間になってくれた人も、敵対関係にある人もいる。

 

「なんだかあっという間だった気がするよ」

「あっという間というには思い出すことが多すぎる気がしますけどね」

「ふふ、そうかも。でもあの頃の愛紗ちゃんって…」

「もう、その話はいいではありませんか!!」

 

懐かしそうに愛紗と昔話をする桃香は楽しそうであった。

白蓮から本隊と離れて4人で少しのんびりしろと言われた時はどうなるかと思われたが、桃香に良い気分転換になったようだ。

白蓮のこういう気遣いは桃香と付き合いが長いだけある。流石は桃香の姉貴分である。

 

「お姉ちゃん、愛紗!!」

 

しかし、そんな平和な時間がいつまでも続かないのも彼女たち4人らしいといえばらしい。

 

 

518

 

 

「これは酷いな」

 

燃える家。倒れる人々。その間で途方に暮れる大人たち。

急いで向かった村は壊滅的な打撃を受けていた。

 

「この辺りの賊は一掃したと思うておったが…そう言った矢先にこれか」

 

原因は盗賊だ。

恐らくは何処からか流れた来た賊の可能性が高い。しかし、今は何処の賊がやった等と考えている暇は無し。

まずは生存者がいないかどうか、火を消す事が大事だ。

 

「今日はここに陣を張って、村の警護を行う。出せる糧食も出すぞ」

 

消火と救助の仕切りは白蓮たちが率先していく。その手伝いに藤丸立香たちも加わる。

 

「賊め……」

 

消火と救助活動をしている最中、秦良玉の顔が怖かった。

 

「あ、桃香さまー!!」

「ご主人様。焔耶ちゃん…」

 

村の一角で桃香は1人の女の子を静かに抱きしめていた。火傷を負っているが大事はなさそうだ。

 

「消火と救助は白蓮たちが当たってくれてるよ。その子は?」

「賊に親を…だそうです」

「そうか…」

 

どんな人間も完全な万能ではない。それは桃香たちにも当てはまる。益州をより良くしようと頑張ってもこういう不幸が起きる時は起きるものだ。

全てを救う事が出来ないのは当たり前だが、その現実を見せつけられるのはやはり辛いものだ。

 

「ぐすっ。将軍さま…お願いです。どうか、どうか…おっ父とおっ母の仇を討ってください…」

「うん…ごめんね。助けに来るのが遅くなっちゃって」

「桃香さまが…」

 

「桃香が謝る必要はない」、と言おうとした焔耶を北郷一刀はそっと押しとどめた。

その行為に不満そうな視線を向けてくるが、彼女も渋々口を閉じた。今は、その言葉は言っても仕方ないと判断したからだ。

 

「白蓮が今日ここに陣を張るって。炊き出しの支援や村の警護もするって言ってた」

「なら桃香さま。私と焔耶はそちらの手伝いに行ってきます。行くぞ焔耶」

「…わかった」

「ありがとう…愛紗ちゃん、焔耶ちゃん」

 

その辺りを気遣ってくれたのか、愛紗は焔耶を連れて人が集まりつつある村の中央へ去っていく。

 

「ご主人様もありがとね」

「いや、これくらい…」

 

のんびり気分転換の旅がとんだ騒ぎになってしまったものだ。

 

 

519

 

 

次の日。

白蓮が集めた情報を元に賊の砦へ数人の手勢で向かった。廃棄された県境の監視所か何かであり、砦と言うには粗末な建物。

賊の人数は10人くらいしかいない。しかし、たった10人でも村を壊滅させるくらいの事は出来る。

賊たちは桃香達が村に入ったのに気付いたのか逃げ支度をしていた。だからと言ってみすみす逃がすなんて事はさせない。

 

「悪を打ち払う!!」

 

秦良玉は鬼の形相で盗賊たちを成敗していた。

村を壊滅させた事、例の女の子の両親の命を奪った事で秦良玉の怒りは有頂天になったのだ。

 

「逃がすかあああ!!」

「し、秦良玉よ…大丈夫か?」

「私は全然、冷静です!!」

「そ、そうか…」

 

秦良玉の豹変で若干引く荊軻。盗賊に良い思い出が無いのは知っているがここまで怒りを発しているのには驚く。

彼女の活躍により盗賊は瞬く間に壊滅するのであった。

 

「…ありがとうございました、劉備さま」

「おかげで助かりました。なんとお礼を言ったら良いやら…」

「ありがとう、劉備さま」

「ううん…わたしは何もしてませんから」

 

報告に戻った桃香は、あの女の子や村長を筆頭に総出の歓迎を受けていたが彼女の顔は何処か申し訳なさそうであった。

 

「それより…これから大変だと思いますけど、困ったことがあったら何でも言ってくださいね」

「助かります。この子たちも村で責任持って…」

「よろしくお願いします」

 

桃香は村人たちを不安にさせないように言葉を選びながら話していくのであった。

 

「こんな事……前にもありましたね」

「秦良玉さんみたい鬼の形相になったって事か?」

「いえ、そうじゃなくて…」

「愛紗はいつも鬼の形相なのだ」

「鈴々!!」

 

ゴホンと咳をして区切る。

 

「ご主人様と出会う前…まだ我々が3人だった頃の話です」

 

北郷一刀がまだ彼女たちに出会っていない頃の話。それは北郷一刀も知らない過去。

 

「桃香さまの村も同じように賊に襲われていて…その退治に手伝ったのが桃香さまとの出会いでした」

「愛紗と鈴々が、お腹が空いて行き倒れていたのを助けてくれたのがお姉ちゃんなのだ」

「ちょ、鈴々。そこは言わなくていいだろう」

 

恥ずかしかったのが顔を赤く染めた。確かに空腹で倒れていたというのはなかなか人には言えない。その相手がご主人と仰ぐ人物なら猶更だ。

何となくだが当時の状況が想像できてしまう。鈴々は説明するまでもなく、愛紗も意外なところで抜けていたりするのだ。

 

「行き倒れの縁だったのか」

「うっ…まあ、そうです」

 

劇的な出会いではなかったらしい。

 

(いや、空腹で道端に倒れている人を見つけたらある意味、劇的な出会いか)

「ですが…桃香さまに助けられた日の晩、今の世について夜を徹して語り合いまして…私はそれを語る桃香さまの目の輝きに惹かれたのです。その後、近くの住んでいた賊を退治して私たちの旅に同行していただくことに」

「そうだったのか」

 

2人の会話から桃香の母親が出てこなかった事から、その前にはこの世にはいないと考えるのが自然だ。桃香も話したがらない気持ちは嫌でも分かる。

愛紗たちも、そういう事情があった為あまり話したくはなかったかもしれない。

 

丁度、村長との話が終わったのか桃香が戻って来る。村の人たち相手には笑顔を見せていたが、北郷一刀たちの前では少しだけ疲れた表情を一瞬だけ見せた。そして何処か違和感を感じてしまう。

村の心配をしているのは当然だとして、他にもあるような感じだ。言葉には出来ない、何となくの違和感とも言うべきもの。

 

 

520

 

 

その日の晩。

北郷一刀は珍しく眠れなかった。もうすっかり夜も更けて、空に月も見えなくなった頃に何となくふらりと寝室から出る。

 

「良い匂いがする…何かの花でも咲いてるのかな」

 

鼻をくすぐる良い匂い。何処か気持ちが落ち着きそうになる。

 

「って藤丸?」

「あ、北郷。夜中にどうしたの?」

「いや…こっちの台詞なんだけど」

 

真夜中の廊下で藤丸立香と出会う。

 

「荊軻が桔梗さんと酒を飲むって言ったからさ。ちょっと様子を見に」

「なるほど」

「あんな事があったばかりだから傍若無人になったりはしないと思うけどね」

 

良い事があっても悪い事があっても酒の味は変わらない。

良い事があればはしゃぐが、悪いことがあった後の酒は気持ちを変える為に飲むものだ。

 

「俺は眠れなくてさ」

「そういう夜はコーヒーでも飲むと良いよ」

「それ、もっと眠れなくならないか?」

「寝ないという発想だ」

 

結構メチャクチャなアドバイスであった。そもそもコーヒーはこの大陸に存在しない。

 

「なあ、藤丸。桃香の様子おかしかったよな」

「それはオレも思ったよ」

 

体調が悪いとかそういうものではない。もしかしなくても心の問題だ。

 

「見ていてさ…心配になるんだよ。こういう時って相談に乗った方が良いよな?」

 

心の問題はとてもデリケートなもの。

相談に乗るとしても人に話したくない心の問題なら逆に負担を掛ける事になる。それほど心というものは難しいのだ。

 

「相談に乗ってあげた方が良いと思う。桃香さんが話してくれるか分からないけど…誰かに自分の悩みを言う事はとても心が軽くなるんだ」

 

その相手が心から信頼できる者なら猶更だ。

 

「桃香さんの悩みを聞ける人は限られてる。きっとその人は愛紗さんや鈴々ちゃん…そして北郷だけだと思う」

「そっか…」

「うん。話を聞く…それだけでも救われる人はいるものだから」

 

話を聞いてくれるだけで心がスッキリする事がある。桃香の抱える心の問題の大きさは分からない。

それでも桃香と絆が一番深まっている北郷一刀なら何とかなるかもしれない。

 

「ありがとな」

「これくらい良いよ……頑張ってな」

「ああ」

 

北郷一刀は藤丸立香と別れて庭に出る。何かの花の匂いがより一層強くなる。

何の花の匂いか想像しようとした時に声を掛けられた。

 

「ご主人様?」

「あれ…桃香?」

 

声の主は桃香であった。

 

「ご主人様…どうしたの、こんな時間に」

「それはこっちの台詞だよ。桃香こそどうしたの」

「ちょっとね、寝られなくて」

 

2人とも同じ理由で庭の散歩をしていたようだ。

 

「そっか。隣、いい?」

 

小さくうなずいたのを確かめて、北郷一刀は明かりと一緒に彼女の隣に腰を下ろす。

ちょっとだけお互いに無言が続く。

桃香は割とおしゃべりするタイプであるが、たまに静かになる時がある。いつもなら気にならない沈黙が今日はやけに重苦しく感じる。

 

「なあ、桃香」

「なに?」

「前に詠も言ってたろ。辛いことがあるなら我慢しないで言ってくれよ? もちろん、無理にとは言わないけどさ…今日、ここに来る間もずっと何か考えているみたいだったからさ。心配してたんだよ」

「あ…やっぱり、気付いてたんだ。ごめんねご主人様」

「謝る必要は無いけどさ。でも…何に悩んでいたんだ? 今日の村の事?」

「それもあるけど…」

 

彼女は言おうか言うまいか迷っていた様子であったが静かに待つ北郷一刀を見て、諦めたように口を開いた。

 

「鈴々ちゃんから聞いたよ。わたしと愛紗ちゃんたちが出会った時の話…聞いたんだよね?」

「愛紗たちが行き倒れてたのを助けて、その後、盗賊退治をしたんだろ? それが縁で愛紗たちと旅をするようになったって」

「うん」

 

返事をしたらまた彼女は黙り込んでしまう。

まさか過去の話を聞いて欲しくなかったのかと思ってしまう。それが原因で元気が無かったのかと思ってしまう。

 

「……言いたくなかったら、言わなくて良いよ」

「ううん。聞いて欲しい…かな。たぶん、良い機会なんだと思うから」

 

短く答えると、安心したのか小さく息を吐いて、ぽつりと呟いた。

 

「わたしね…嘘つきなんだ」

 




読んで下さってありがとうございました。
次回は今日中にて。

今回は原作とあまり変わらない展開だったかもしれません。
ほぼ桃香と北郷一刀をスポットを当てた話でした。益州攻略編のちょい続きみたいなものですので。そして次回に続きます。んでもって次回で終了ですね4章も。


516
いきなり最初の台詞について…やっぱ頑張ってる時って言いたくなる気がする。

明命が持ってる武器ってどう見ても刀っぽいんだよなあ。
豪天砲もそうだけど三国時代に刀の製法なんてないはずなのに。これも恋姫の不思議なところです。それをどうやって考察して物語に組み込むか。

家族について
北郷一刀の家族もちょろっとくらいしか出てないんですよね。
祖父だったり、実は島津家の分家筋かもしれないっだったりと。
藤丸立香の方はほぼ不明だからなあ。
書くとしたら本当にオリジナルになりそうだ。

物語上では気が付けば魏や呉という国が…。
どのような経緯で魏や呉が出来たかは原作の方で確認してくださいね。


517
原作でもあった益州挨拶回り。これも原作通りの展開です。
そして藤丸立香と牛若丸の忠犬プレイ……鬼ヶ島イベントのアレを誇張しました。

518~519
原作でもあった盗賊に村を壊滅させられた話。
桃香が自分の中にある過去を思い出す。
ここも原作とあまり変わらない展開でした。

リャンさんは鬼の顔で盗賊を討伐しました。FGOでもちょっとした幕間やイベントでいずれ触れられるのかな。


520
藤丸立香と北郷一刀がちょこっとだけ会話。
立香は一刀の背中を少し押しただけ。そして一刀は桃香と出会う。

まさかの一言…桃香はが言う嘘つきとは。

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