Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。連続更新2話目!!
早速、どうぞ!!



成都での日常2

532

 

 

 

「もふぁむぐ」

 

屋台で勝った新作の肉まんを口を詰め込む。

 

「美味ぁ」

「好吃」

「これ豚肉じゃなくて鶏肉かな?」

 

屋台巡りは胃袋の容量が無限大になる気がする。だからなのかついつい財布の口が緩んでしまう。

藤丸立香は燕青と共に成都の街中を散策していると馬岱こと蒲公英と遭遇。そのまま一緒に屋台巡りへと移行したのだ。

 

「藤丸さん。今度あれ買ってー」

「おいおい、マスターにたかるなよ」

「えー、じゃあ燕青のお兄さんが買ってー」

「だからってオレにたかるな」

 

蒲公英は甘え上手なのか悪い気はしない。更にコミュニケーション能力が高いのかカルデア組や蜀陣営ともすぐに仲良くなっている。

 

「蒲公英ちゃん、これが食べたいの?」

「ったく、マスターも甘いな…って、これは凉糕か」

「ぴんいん?」

「ま、ゼリーみたいなもんだと思ってくれりゃいいぜマスター」

 

買って、食べてみるとちゅるりと美味しい。

 

「うん。美味しい」

 

またも久しぶりにゆっくりしている気がする。こうやってたまにゆっくりと休暇を取らないと人間はいつか倒れてしまうものだ。

いつかはマシュ・キリエライトと中華街の屋台巡りをしたいと思うのであった。縁日でも可。

 

「そう言えば藤丸さんは燕青のお兄さんたちからますたーて呼ばれてるけど、どういう意味なの?」

「そりゃ、あの坊主…北郷をお前さんがご主人様って呼んでるのと同じだよ」

「へえー、ますたーってご主人様って意味なんだ。それって天の国の言葉?」

「まあ、そうかな」

 

様々な英霊から「マスター」と呼ばれていて、もう普通な感覚だが意味を考えてみると「ご主人様」と呼ばれているようなもの。

前にメアリー・リードに似たような指摘を受けた事がある。今さらながら思うと確かに英雄に「ご主人様」と呼ばれるのは恥ずかしいというか恐れ多い。

たまに分かってて「ご主人様」と言ってからかってくる時もあったりする。その時は流石に恥ずかしかったものだ。

 

「まあ、始皇帝陛下の右腕だもんね。そう呼ばれてもおかしくないか」

(そう言えば、始皇帝の右腕みたいな存在になってたの忘れてた)

 

蒲公英たちが蜀陣営に入った後は始皇帝についても説明はあった。

天子姉妹がいる事は知っていたが、まさか始皇帝までいるなんて思いもしなかったのかとても驚いていたのは今でも思い出せる。

桃香たちに説明した時のように天の国とは不老不死となった始皇帝が治めた国と蒲公英たちは思っている。更に天の御遣いは始皇帝の遣わした使者とも思っているのだ。

 

「確かご主人様が乱世を治める役目で藤丸さんが于吉とかいう妖術師だか方士を捕まえる役目なんだっけ?」

「まあ、そんな感じ」

 

結局のところ藤丸立香も北郷一刀も同じ役目をこなしているようなものだ。何せ于吉が裏で乱世を悪化させているようなものなのだから。

 

「天の国か~行ってみたいな」

「はは、北郷に頼んでみるといいよ」

 

天の国。藤丸立香の世界は白紙化されている。そのような状態を見ても楽しくもないはずだ。

 

(……そう言えば北郷にも白紙化した事は言ってなかったな)

 

北郷一刀にも地球が白紙化した事は言っていない。そんな悪い報告を言う必要無いからだ。

自分の住んでいた世界が白紙化したなんて言えば混乱するか不安にしかならないからだ。そもそも大前提として北郷一刀の元いた世界が藤丸立香の世界と同じかも分からない。

 

実は自分たちは本当に同じ世界からこの外史に転移してきたのかという話になった事がある。自分たちの世界について歴史や起こった有名な出来事を話してみると一致していた。だからこそ同じ世界線から来たと思っている。しかし北郷一刀は人理焼却(1年の空白)地球白紙化の事を知らない様子だった。

その事から北郷一刀が藤丸立香と同じ世界線と同じ人間だとすると、彼は人理焼却前にはこの外史に転移していたという事になるのだ。

藤丸立香と北郷一刀は時間軸的に多少の乖離がある。しかしこの仮説は仮説にすぎない。本当に同じ世界線の人間かどうか分からない。

 

(……ま、いっか)

 

ややこしく、難しい話になるが今は置いておく事にした。同じ世界線の人間か人間じゃなくても2人は友人関係なのだから。

 

「って、あれは北郷と…焔耶さん?」

 

噂をしていたら何とやら。それほど噂話をしていないが件の北郷一刀を見かけた。

 

「そーみたいだな……なんか空気悪そーだが」

 

会話も無く黙々と歩いている北郷一刀と焔耶を発見。まるで喧嘩した後で帰り道が一緒になったような雰囲気だ。

よく見ると焔耶の顔は不機嫌そうである。すると北郷一刀が意を決して声を掛けたようであるが無視を続けている焔耶。

 

「何あれ、焔耶の奴ったらご主人様を無視するなんて失礼じゃない」

 

一応、北郷一刀は桃香と同じ地位にいる。その事を考えると確かに焔耶の対応は失礼になる。

 

「ちょっと行ってくる」

「あ、蒲公英ちゃん」

 

蒲公英は素早く走って行った。

 

「……だから、ちゃんと理由を話してみてくれよ。俺に出来る事があれば、なんだってするからさ」

 

北郷一刀は焔耶と警邏の真っ最中。

本当は桃香も一緒にいたのだが愛紗からの呼び出しをされて途中で帰ってしまったのだ。

元々、息抜きで桃香を警邏に誘ったのが切っ掛け。なんやかんやあってそこに焔耶が護衛という名目で参加する事になったのだ。

 

彼が焔耶から無視されているのは桃香が一緒に居た時からだ。しかし桃香が居なくなった後はより酷くなっている。

何か焔耶に悪い事でもしたのかと思っているが心当たりが無い。しかし知らない間に彼女に傷つけたなんて事は否定できないのだ。

 

「なんでもしてくれるの?」

「ああ。男に二言は無い」

「やった~。じゃあたんぽぽね、ご主人様と一緒にお風呂に入って、身体の洗いっことかしてみたいな~」

「一緒にお風呂って、いきなりそんな……って、たんぽぽ!?」

 

やっと焔耶が返事をしてくれたかと思ったが違った。

 

「ん、な~に?」

 

北郷一刀の顔を覗き込むような恰好で蒲公英がきょとんと首を傾げていた。

 

「お前、いつからここに?」

「いつからって…ひっどーい。今の、たんぽぽに言ってくれたんじゃないの?」

 

蒲公英には言っていない。言っていたのは焔耶であるが、件の焔耶が見当たらない。

 

「ああ、焔耶なら」

 

らしくもない不機嫌そうな顔をして彼女は通りの向こうに視線を向けた。

その視線の先には大股で歩き去っていく焔耶の背中を発見。気付かなかったのか、無視したのか分からないが彼女は北郷一刀を置いていったようだ。

 

「そこまで徹底されて無視されるとは流石に凹むなぁ」

 

何故、嫌われているかの理由が分からない。

 

「理由…なにが?」

「いや、なんていうか俺、焔耶に嫌われてるみたいでさ」

「………ああ、なるほど」

 

少し考えた蒲公英は何か分かった素振りをする。

 

「何か知ってるのか?」

「うん。たぶん、あれしかないと思うし」

 

意味ありげに蒲公英は笑うと両手を口の横に添えて焔耶に向かって叫ぶ。

 

「あーーー!? あんな所で桃香さまがーー!!」

「桃香様は何処だ!? 何があったーー!?」

 

物凄い綺麗な回れ右をして、戻ってきた焔耶。その姿を見て心の中で「戻ってくるの速ぁ」と思ってしまった。

 

「ね、こーいうこと!!」

 

ニコリと笑って北郷一刀を見る蒲公英であった。

 

「ええと?」

「まだ分かんないの?」

 

蒲公英が簡単に説明すると、焔耶は桃香の事が大がいっぱい付くほどの大好きであり、その大好きな桃香に慕われている北郷一刀に嫉妬しているとの事。

 

「なぁっ!?」

 

まさかの真実を蒲公英の口から言われて驚いた焔耶を見て納得。

今までの事を振り返ってみると、彼女の行動に全て当てはまると考えられる。

 

「待て待て待て、何を勝手な事を…!!」

「だって事実でしょ。じゃなかったら、どうしてご主人様を嫌ってるわけ?」

「それは…だから…」

 

北郷一刀を嫌う理由をはっきりと口にしない。蒲公英の答えを認めたくないようにも見える。

 

「今さら隠そうとしなくたって良いじゃん。あんたが桃香さまに惚れ込んでる事なんて、みんな知ってるんだから」

 

今さらだが確かに焔耶の桃香に対する好意はまる分かりだ。

 

「黙れ、この小娘。貴様のような尻軽にワタシの桃香さまへの崇高な想いを語れてたまるか!!」

「…尻軽ですって?」

 

ここでカチーンと擬音が聞こえたような気がしたと後に北郷一刀は語る。

 

「ああ、そうだ。こんな好色男に媚を売るような女は尻軽と呼ばれても文句は言えまい」

「へー…そう、そういうこと言うんだ。ふーん」

 

蒲公英の声のトーンが1つ落ちた。

 

「じゃあ、あんたの敬愛する桃香さまも尻軽って事になるけど?」

「なんだと貴様、桃香様を愚弄するつもりか!!」

 

焔耶が蒲公英に対して言った事が北郷一刀に好意を抱いている女性は尻軽女になるという事だ。無論、焔耶は蒲公英個人にしか言ったつもりはないので、そのような意味は含まれていない。

 

「あんたが言い出した事でしょ!!」

「ちょ、ちょっと…おい、たんぽぽ? 焔耶?」

 

不穏な空気が一気に場を支配する。

 

「やるか」

「あんたがその気なら」

 

お互いに武器を構え出した2人。お互い本気の目をしている。

 

「待てよ、おい、ホントに待てって!!」

 

北郷一刀の声なんて聞いてはいない。2人は武器を構えたまま、じりじりと間合いを詰めて行く。

怒りを静かに内に込めて、本気でやり合う段階だ。そして一気に爆発したらただでは済まないのが理解できる。

 

「うらあああああああ!!」

「はああああああああ!!」

「くそっ、止めーー」

 

急いで仲裁しようと体が勝手に動いた。北郷一刀は2人の間に入り込んだのだ。

その様子を影から見ていた藤丸立香と燕青。

 

「マズイっ、燕青止めて!!」

「はいよぉ」

 

一瞬で燕青は移動して北郷一刀の所まで到着。

 

「なっ!?」

「え!?」

 

金棒を横から拳を叩きこんでずらし、片手で片鎌槍を掴んで止めた。

 

「喧嘩するのは大いに結構。しっかし、我が主の命令でね」

「あ、ありがとう燕青」

「礼なら主に言ってくれ」

「大丈夫か!?」

 

藤丸立香が走ってきてくれた。

 

「藤丸か。助かったよ」

「お礼なら燕青に言ってよ。助けたのは燕青だし」

 

そう言われてしまうとどっちにお礼をすればいいのかと思うが、2人にお礼を言えばいいのだ。

 

「馬鹿者、何をしているのだお前たちは!!」

「桔梗?」

 

声に気付いてそちらを見ると桔梗の姿があった。

 

「桔梗様、なぜここに?」

「わしの事などどうでもよい。とにかく武器を引かぬか!!」

 

桔梗に一喝されて焔耶が慌てて金棒を引き、蒲公英は槍を投げ捨てて北郷一刀にしがみつく。

 

「ご主人様大丈夫!?」

「まあ、なんとか」

「お館様、無理をなさるものではありませぬ。肝が冷えましたぞ」

 

実は遠くから北郷一刀が焔耶と蒲公英の間に入り込んだ姿を目にしたのだ。その時は本当に彼女の口にした通り肝を冷やした。

 

「助かったぞ燕青よ」

「あー…お礼なら主に」

「助けたのは燕青でしょ」

「マスターが命令したんだろぉ」

「ははは、良い主と従者じゃな」

 

何はともあれ怪我はせず、争い事に収まった。

 

「まったく、お戻りになった桃香さまからお館様と焔耶を2人きりにしたと聞いて心配して様子を見に来てみれば…」

「たんぽぽが悪いわけじゃないからね。焔耶がご主人様に意地悪してるから、懲らしめてやろうとしただけで」

「なにを、貴様がくだらんことを言って桃香様を侮辱するから!!」

「やめぬか!!」

 

桔梗の一喝に2人は姿勢を正した。その威圧感を感じた燕青は心の中で「おお、怖ぇー」と呟いた。

 

「お館様は、我らが主。そのお館様に武器を向けておいて、どちらが正しいも無いわ!!」

「いや、別に二人は俺に武器を向けたわけじゃくて、勝手に俺が自分で間に入っただけで…」

「お館様は黙っていて下され」

「…はい」

 

睨みつけられたわけではないが、桔梗の圧力に黙り込むしかなかった。

こういう時は黙っておくのが無難だ。

 

「その…ごめんね、ご主人様」

「……」

「どうした焔耶。おぬしは謝罪をせぬつもりか?」

 

桔梗に促されて、焔耶が北郷一刀に顔を向けた。そして何度か口を開いたり閉じたりした後、視線を横に逸らしながら呟いた。

 

「悪かったな……だが、ワタシの主は桃香様だ。お前にへつらうつもりはない!!」

 

そのように断言すると焔耶は肩を怒らせて、その場から立ち去ってしまった。

 

「申し訳ありませぬ、お館様。あれも頑固な所がありまして…」

「いや、別に構わないけどさ」

 

しかし、このままで良いわけではない。どうにか仲良くなりたいと思うのは北郷一刀の我儘かもしれない。

そのような事を考えていると蒲公英が顔を寄せて、桔梗に聞こえないように小声で囁いてくる。

 

「任せてご主人様。後でたんぽぽがとっちめて、ご主人様のいう事を何でも聞くように調教してあげるから」

「調教って……それは色々と駄目じゃないか?」

 

 

533

 

 

焔耶は鍛錬場にて剣の素振りをしている。

 

「ふんっ、ふんっ、ふん!!」

 

その気迫とは別に不機嫌なオーラを発しているので周囲にいた訓練兵たちはそそくさと居なくなっていた。

訓練兵たちの事なんて気にしせずに焔耶は剣を振り続ける。

彼女の苛々の理由はつい数時間前の事。北郷一刀と警邏をしている最中に蒲公英と遭遇して喧嘩し、桔梗に咎められたからだ。

 

「くそ!!」

 

彼女にも悪い部分はある。寧ろ結構、彼女の行動が原因だったりする。

ただ、その理由は心の問題だったりするのだ。

 

「焔耶さんの得物は金棒だと思ったけど…剣も使うんだね」

「って、おわっ。藤丸か!?」

「オレもいるぜ」

 

ヒョコリと現れた藤丸立香と燕青。

 

「何で貴様らがここに!?」

「焔耶さんを探してたから」

「ワタシを探してただと?」

 

ギロリと睨む。

 

「おいおい、主をそんな怖い目で睨むんじゃねえよ。主がなんかしたのか?」

「む……そうだったな。すまん」

 

素直に謝ってくるのに少し驚いた。北郷一刀に対して謝るのにとても躊躇していたのだから。

 

「で、何用か?」

「桔梗さんが呼んでたよ。たぶん、街中での事だと思う」

「うぐっ…」

 

顔を青くした。恐らくこってりと怒られる未来を想像してしまったのだ。しかし、それは彼女の自業自得だ。

街中で喧嘩し、更には自分の主に危険な目に合わせて、更に視線を背けて謝ったと思えば勝手に何処かへ消え去った。

普通に考えれば説教は当たり前。更に本当なら罰だって考えられるものだ。

 

「街中での事は不問したらしいから罰は無いと思うけど説教は確実だね」

「……だろうな」

 

更に顔を青くする。

 

「今夜は寝れないな」

 

ボソリと呟くが、今夜は寝れないで済むならマシだと思う藤丸立香。

エミヤやフローレンス・ナイチンゲール等から説教を受けた時は大変だったからだ。フローレンス・ナイチンゲールの場合は説教、反省文、研修と色々とフルコースである。

 

「こういう時は早く謝りに行った方がいいよ」

「い、行きたくない…」

「お前さんの自業自得だろーが」

「なんだと貴様!!」

「じゃあ、お前さんが悪くないって桔梗に伝えてこよーか?」

「それは止めてくれ」

 

怯える焔耶。街中での彼女とは別人に思えてしまう。

彼女は男が嫌いというわけではない。男が嫌いなら藤丸立香や燕青に対しても北郷一刀と同じ反応するはずだからだ。

ならば彼女は北郷一刀に対してだけあたりが強いのである。理由は蒲公英が言ったように桃香に好意を寄せられている北郷一刀に嫉妬しているからだ。

 

「そんなに北郷の事が嫌いなのか焔耶さん」

「あいつは武芸に秀でているわけでもなく、智謀に長けてるわけでもない男だぞ」

「それは俺も同じだよ」

「………あいつはとっかえひっかえ女に手を出してるような好色男だ」

 

燕青の視線が藤丸立香に向く。

 

「なに燕青」

「なーんでも」

 

物凄く気になる視線だ。

 

「好色家じゃないからね俺」

「よく部屋に女を呼ぶか常駐させてるのにかぁ?」

 

ニヤニヤと笑う。燕青はマイルームの話をしているのだ。

確かにマイルームに女性英霊はよく来ているし、常駐しているが変な意味ではない。そもそも男女性別不明関係なく様々な英霊がマイルームに訪れている。

 

「お前もあの男と同類か」

「違います。そして北郷もそんな男じゃありません」

 

藤丸立香も北郷一刀も好色家ではない。多感なお年頃ではあるのは確かであるが。

 

「ともかく…北郷はそんな悪い男じゃないよ。寧ろ良い奴だ」

「お前もあいつの肩を持つか」

「肩を持つ云々の話じゃないよ。それに北郷が焔耶さんに何か悪い事でもしたのか?」

「それは……くっ」

 

ギリっと噛みしめながら黙る。

北郷一刀は悪くない。理性では彼女だって分かっているのだ。

ただ彼女が北郷一刀を悪く思うのは心の奥底にある認めたくない感情があるからだ。それは恋敵を見るような感情。

 

自分の大好きな、忠誠を慕う桃香から好意を注がれているのが気に食わないのだ。

相手は悪くないが恋敵となると考えは変わる。自分の好きな人が取られた感覚に陥って、敵意を出してしまう。

男女の縺れ、恋愛は時に大きな事件を起こす。それは人間だけでなく神もだ。そもそも神話の恋愛の方が人間の恋愛で起こした事件よりもえげつない。

 

「今度、北郷と腹を割って話してみれば? きっと彼の良さが分かるよ」

「あんな好色男と腹を割って話す事なんてない」

「たぶん2人きりで話したらこいつ金棒を振り上げるだろ」

「流石に焔耶さんもそんな事しないでしょ」

 

焔耶を見ると真顔だった。

 

「焔耶さん?」

「………流石に殺しはしない」

 

結構ギリギリな台詞だと思ってしまった。

 

「でも悪い部分ばかり見るのは良くない。北郷には北郷の良い部分があるんだから」

 

そもそも焔耶は北郷一刀を誤解している。彼は焔耶に何も悪いことはしていない。

ただ桃香の好意を注がれているというのが気に食わないから彼を嫌っているのだ。

 

「確かに感情的な問題は難しいと思う。でもそれで北郷を嫌うのは良くない」

「ふんっ」

 

そっぽを向く焔耶。

自分の好きな人から好意を持たれている人と仲良くなるというのは確かに難しい。

本当に感情の、心の問題だ。どう解決するかは焔耶次第である。そして北郷一刀次第でもあるのだ。

 

「だからさ…」

 

焔耶はそっぽを向いたまま。何となくだが苛々を募らせているのも感じる。

これ以上話しかけると不機嫌になって怒鳴るかもしれないと思って藤丸立香は口を閉じた。

 

「ところでさっきも言ったけど剣も使うんだね」

「ん? ああ。昔は剣を使っていたが、今は桔梗様に頂いた鈍砕骨を使っているんだ」

 

大きな金棒を見せてくる。見れば見る程、重そうな金棒だ。

そんな大金棒を戦場では軽々しく振っているのが焔耶だ。桔梗と同じで見た目とは裏腹に物凄い膂力の持ち主かもしれない。

 

「でも剣も使える。もしもの時に鈍砕骨が使えなくなったらの時にだな」

 

戦場ではどうなるか分かったものではない。

武器が折れたり、奪われたりするかもしれない。そのような時は別の武器で戦うしかないのだ。

 

「武器が無ければ自分の拳で戦えばいいじゃねぇか」

「それはお前みたいな奴だけだ」

 

己の武器は己自身と体現しているような人物。

 

「でも最終的には己の身体だけになるだろ?」

 

武器が無い、奪われた。諦める事が出来ないのなら己の拳で解決するしかない。

 

「体術で戦っている奴なんて戦場でそうそう見ないぞ」

「ま、戦になると確かになー」

 

戦争で体術のみで戦う者は相当な手練れくらいな者だ。もしくは自分の武術に自信や誇りがある者くらい。

この外史でも素手で戦っている者は少ない。思いつくだけでも魏にいる楽進や、特別枠で卑弥呼や貂蝉くらいの者。

 

「とにかく焔耶さんは剣の達人でもあると」

「剣の達人って…そう言われると恥ずかしいぞ。でも剣で武道大会に優勝した事はあるけどな」

 

ニカっと笑ってくれた。自分の自慢話が出来て嬉しいのか当時の武道大会を詳細に話してくれる。

燕青は武道大会という単語に惹かれたのかちょっとワクワクしながら聞いている。

 

「へえ、決勝戦の相手はとても強い人だったんだ」

「ああ、かなり強くてな。はっきり言って当時は互角でどっちが勝ってもおかしくなかったがぎりぎり紙一重で勝ったのだ」

 

焔耶は大柄で筋骨隆々な女戦士を思い出す。

 

「あいつ…今頃なにしてんだろうな」

 




読んでくれてありがとうございました。
次回はこの後すぐ!!

今回は恋姫原作でもあった魏延(焔耶)のお話でした。
彼女は恋姫たちの中でも少ない北郷一刀を最初は嫌っていた人物の1人。
まあ、嫌っていた理由は嫉妬というものみたいですけどね。
やっぱり好きな人に好かれてる人を見るとモヤモヤするというか無条件で嫌いになるのかもしれませんね。


532
最初は藤丸立香と燕青、蒲公英の屋台巡りから始まりました。
これ書いていたら中華街に行きたい欲求に駆られましたね。
このご時世じゃなけれなばなあ…
凉糕…食った事無いけど。美味しいのかな。

北郷一刀と藤丸立香の世界が同じかどうか。
これはいずれ書くかもしれません。

北郷一刀と焔耶が仲良くなる時は来るのか。それはゆっくりとお待ちください。
そして焔耶と蒲公英の凸凹コンビの活躍もお待ちください。


533
焔耶は男嫌いじゃなくて桃香に好かれている男が嫌いなので藤丸立香や燕青たちには普通に接すると思います。なので悪いと思ったら普通に謝罪します。

友人として藤丸立香も流石に北郷一刀と焔耶の仲が悪いのはいただけない。
お節介と分かっていてもフォローする話でした。

そして最後に焔耶が言った強い人。
アニメ版に出ていたキャラです。


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