Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
地獄界曼陀羅 平安京 轟雷一閃
クリアしました。とても面白かったですー!!
好きなキャラばっかりの登場なので個人的には好きな章でした。
最終決戦は白熱の展開でしたね。あのBGMのアレンジで決戦時はカッコよくて興奮しました。『大具足』もメッチャカッコイイ。あのデザインは良い!!
リンボも最後まで良い意味で悪役でしたね。そしてみんなのヒーロー金時は最初から最後までカッコ良かった!! ゴールデン!!
先日はPU2も始まり、早速ガチャりました。しかし『彼女』がピックアップされてなかったんですよね。いつ実装されるのやら。
まだクリアしていない人もいるかもしれないのでネタバレは控えておきます。
さて、それよりも本編をどうぞ!!
536
読書が好き。
人間誰かしら本を読むのが好きと言う人はいる。英雄だって反英雄だって読書が好きだ。
世界が違えど読書好きというものは同じなのである。
但し、どのような本が好きかは人それぞれ。本にもジャンルの幅が広い。
様々な人間がいるように様々な本がある。だからこそ好みも本当に様々。
「はわわ…」
「あわわ…」
「ふっふ~ん。どーかな朱里ちゃん、雛里ちゃん?」
「しゅ、しゅごいです」
朱里、雛里、蒼は読書会を開催していた。
読書会と言っても蒼の部屋に集まって本を読んでいる程度のものだ。
読んでいる本は集まっているメンバー的に兵法書かと誰もが思うかもしれないが違う。もちろん彼女たちは兵法書や専門書も読んでいたが今は軍師とも武将とも関係無い本を読んでいる。
読んでいる本はエロ本だ。朱里と雛里がむっつりなのは知る人は知っている。そして蒼もまたむっつりと言うかエロ本が好きなのである。
ただ朱里たちはむっつりを隠してはいるが、蒼は特に隠していないという違いはある。同じなのは彼女たちがオタク寄りのむっつりである事。
「えへへ~。その艶本はなかなか希少だよ」
「はい。これは貴重な本ですね」
フンスーと鼻息荒く朱里はのめり込みながら読んでいる。雛里は顔を赤くしながらアワアワとしているが目をしっかりと開けて読んでいる。
「他にもオススメがあるよ。こっちも読む?」
「この本以外にもオススメがあるんですか!?」
「よ、読みたいです…」
「いいよー」
同じ趣味の人同士ならばお互いのオススメを紹介したくなるもの。
蒼は嬉々とオススメのエロ本を渡していく。彼女たちが読書会をするような仲になるまでは時間が掛からなかった。
始めはいつも通り朱里と雛里が秘密の艶本読書会をしているところを蒼に見つかった事だ。見つかった時は星みたいにからかわれると思っていたが、朱里たちの想像と異なって蒼はグイグイとどのような本を読んでいるか興味を持った姿勢を見せたのである。
この事から朱里は蒼は自分たちと似た者同士と判断。あとは仲良くなるだけであり、現在に至るのだ。
「はー…凄かったですね」
「ドキドキが止まらないよう」
「蒼さん。今度はわたしのオススメの本をお貸ししますね」
今ではオススメのエロ本を貸し借りする仲にまでなったのだ。
「じゃあじゃあ、次はこの本を読んでみる~?」
「そ、その本は!?」
「あ、あわわ…」
3人とも本が好きだ。
エロ本が好きなのは性への興味があるからだ。単純にそういうジャンルが好きなだけというのもある。
但しエロ以外にも様々なジャンルがあるにはある。
蒼はその様々なジャンルの内の1つを教え、朱里と雛里に新たな扉を開かせてしまった。
「は、はわわ…!?」
「あ、あわわ…!?」
2人が読んでいる本の中身は男性同士が絡み合っている絵が描かれていた。
読んでいるジャンルは現代で言うところの『ボーイズ・ラブ』。彼女たちはBLというジャンルにハマってしまったのだ。
「こ、こんなっ…!!」
「男性同士の恋模様……男性同士の交ぐ合い…あわわっ」
「いいでしょ~」
エロ本よりもBL本を読んでいる時の方が顔を真っ赤にし、漫画みたいに鼻血を出しそうな勢いである。
まさか2人もここまでハマるとは思わなかったはずだ。今では買う本のジャンルが1つ増えてしまった。
「んふふ~」
ニコニコ顔の蒼。自分の趣味を誰かに教えて理解してくれた時はとても嬉しいものだ。
更に教えた相手もハマってくれたと分かると嬉しさは倍増。後はより沼に沈めるだけ。
見事に朱里と雛里はBLと言う名の沼にズブズブと沈んでいき、もう過去の自分には戻れない。
「ねえねえ朱里ちゃん、雛里ちゃん!!」
「何ですか蒼さん?」
「なんでしょう?」
本が読み終われば感想を言いあったり、談義するのも読書会の楽しみの1つ。
「2人はご主人様って、受けと攻めどっちだと思う?」
蒼の問いかけに2人は顔を赤くしながら真剣に考えた。
「蒼は受けだと思うな~」
「わ、わたしも受けだと思いましゅ」
「わ、わたしは攻めかな?」
北郷一刀、受け。
「わたしも雛里ちゃんと同じで攻めかと思ったんですけど…男性同士となるとご主人様って受けになると思います」
朱里は北郷一刀と愛の営みを思い出しながら考える。
愛の営みでは優しくしてくれた事から優しい攻めではないかと思ったのだが、それは朱里と雛里が相手だったからだ。
愛の営み行為は相手によって様々だ。相手によっては受けになったり、攻めになったりする場合もあるのだから。
「ご主人様は穏やかで優しいですから…たぶんですけど、少しでも活発な相手だと受けになると思います」
「な、なるほど」
「うんうん…分かるよ朱里ちゃん。でも雛里ちゃんのも分かるんだよね。ご主人様は攻めの部分はあると思うよ。でもどちらかと言うと…へたれ攻めみたいな?」
「「ああ~!!」」
凄く納得した朱里と雛里。
「そ、そうでしゅね!!」
北郷一刀、受け及びへたれ攻め。
「じゃあじゃあ藤丸さんはどう思う?」
「「受けだと思います」」
藤丸立香、受け。
「やっぱり~!!」
藤丸立香に関しては即答であった。
「藤丸さんは受けだよね。なんかそういう顔っぽいし」
「分かります。ご主人様と同じで優しくてカッコイイですけど、受けって顔なんですよね」
藤丸立香が受けという認識に3人とも納得。
燕青たちとの日常的な絡みを思い出して、彼が受けだと思ってしまうのも理由の1つ。何だかんだで藤丸立香は燕青たちに振り回されている感があるのだ。
「じゃあ~、ご主人様と藤丸さんという組み合わせは?」
「「ご主人様がヘタレ攻めで藤丸さんが受け!!」」
興奮しながら同じ台詞を口にするのだった。
「やっぱり~。蒼も絶対そう思う!!」
キャッキャっと興奮し合う女子3人。好きなものを語るのは楽しいものだ。
「絶対、ご主人様は藤丸さんが相手ならヘタレながらも攻めると思う」
「うんうん。藤丸さんならヘタレ攻めのご主人様を優しく迎えるのが思い浮かぶよ」
3人の頭の中では北郷一刀と藤丸立香の絡みが展開されている。
「前にご主人様が藤丸さんを押し倒してたところを見たんだよ~」
「「ええ!?」」
目を大きく開いてしまった2人。流石に反応しすぎであると誰もがツッコミを入れたくなる姿だ。
「押し倒したと言ってもあれは事故だったけどね~」
簡単に説明するに北郷一刀が転倒した時に丁度、目の前に藤丸立香がいたので押し倒す構図になってしまったのだ。
それだけでも近くで見ていた蒼にとっては妄想の肥やしになるのに十分であった。つい目をキラキラさせながら見てしまったほどである。
「わ、悪い藤丸。大丈夫か?」
「大丈夫だよ…って、北郷の手が胸に」
「あ、わ、悪い!?」
「いや、北郷ならいいよ。寧ろ…」
「え、藤丸それって…」
みたいな展開が蒼の頭の中で妄想として繰り広げられていたほどである。
「はぁ~…やっぱご主人様と藤丸さんの絡みはいい。もう創作意欲が湧いちゃうね!!」
「創作意欲…蒼さんは何か書いているのですか?」
「書くというより描くかな。これ」
蒼から渡された物は北郷一刀と藤丸立香が性的に絡み合った絵であった。
「はわぁっ!?」
「あわわわわわわ…」
「趣味で描いてるんだよねー」
才能があるのか彼女の描いた絵はとても上手かった。
「どうかな?」
「とても良いよ蒼さん!!」
「絵がとても生々しくて上手いでしゅ」
妄想でしか浮かばなかった光景が絵として実在した。その事実に興奮が収まらない。
本当に鼻血を出しそうな勢いの2人。
「その絵欲しい?」
「い、いいんですか?」
「うん!!」
今日一喜んだ朱里と雛里。
「趣味でここまでの絵を描けるなんて蒼さんは凄いですね」
「ありがとう。いつかこの絵を1冊の本にして『湖州扶練即売会』で売るのが夢なんだー」
「こ、こすぷれ?」
「即売会?」
「うん!!」
良い笑顔の蒼。
「湖州扶練即売会はこういう本や艶本、更に専門書や兵法書とかを売ってる祭典なんだよ」
「そ、そんな祭典が!?」
「幻の祭典なんて言われてるほどなんだー。全て個人の趣味で創作されたものだけどね」
趣味で作られたとはいえ、プロ並みの作品もあるらしい。そもそも専門書や兵法書は趣味の延長線上のようなものだ。
好きで、興味があって、書いていた物が気が付けば先の未来で大ヒットしたなんて事は意外なものではない。
「あと、好きな偉人や武将とかの恰好もしたりするらしいよ」
「そんな祭典があるなんて知らなかったです。大陸には知らないが事がたくさんあるんですね」
蜀軍の2大頭脳と言われる朱里と雛里でも知らない事くらいあるものだ。
「湖州扶練即売会に行ってみたいね朱里ちゃん」
「うん、行ってみたいね。蒼さん湖州扶練即売会って何処でやっているんですか?」
「幻の祭典なんて言われてるけど開催地は…」
湖州扶練即売会。
幻の祭典に彼女たちが訪れるのはまた別の話。
「「ぶえっくしょーーい!!」」
そして何処かで男子2人がくしゃみをしたそうな。
537
始皇帝はお茶を口に含む。
「うむ。旨いな」
「お褒め頂き光栄です始皇帝陛下」
お茶を淹れたのは美花。
始皇帝に褒められるのはとても光栄と感じてしまう。
(また凄い場所に来てしまった)
場違い感をとてつもなく感じるは藤丸立香。
この場にいるのは始皇帝に武則天、楊貴妃、空丹、白湯、瑞姫、黄。
先ほどまでいた美花は既に退室している。この場にいるのはほぼ漢室の者たちだ。
そんな高貴な血筋を持つ者たちの輪の中に入り込んでいるのが藤丸立香である。
「どうしたのじゃマスター?」
「いや、何でもないよ」
膝の上に座っている武則天が顔を覗いてくる。
藤丸立香の膝の上に誰かが乗るのはカルデアではよく見られている光景である。
特によく彼の膝の上に座っているのがメルトリリスだ。もはや藤丸立香の膝の上は彼女の特等席と言ってもいいくらいなのだが、気が付けば他の英霊たちも座っていたりする。
その事がメルトリリスにバレると何故かオシオキされる。
「実は重い…」
「ん?」
隣に座っていた楊貴妃がつい口を滑らしてしまったのをすぐに笑顔で黙らせる。
「わわっ、待って、待ってください。酷吏を召喚しないで~!?」
口は禍の元。
「はっはっはっは。仲が良いのう」
一方、始皇帝の膝の上には空丹と白湯が何故か座っていた。
空丹は普通にしているが白湯は緊張した顔であった。白湯が緊張しているのは当然だ。
始皇帝の膝の上に座っているなんて普通はあり得ない状況であり、誰だって恐れ多いと感じてしまうはず。白湯の反応は正常である。
逆に空丹は普通にしているのは彼女がある意味大物だからかもしれない。
「2人とも軽すぎるな。ちゃんと食事は取っているのか?」
「取っているわ」
「わ、私も取ってます…」
ここで『朕』と自分の事を言っても大丈夫なのだが、つい始皇帝がいると『朕』と言えなくなってしまうのだ。
それほどまでに始皇帝の覇気が強すぎるのである。
「うむ。ちゃんと食べるのは良い事だ…飢えを感じるのは良くないぞ」
異聞帯とはいえ世界統一を果たし、全ての民に安寧をもたらした皇帝だ。
飢えや病を絶対にもたらす事は無かった。愛する民に苦を与えるなんてもっての外。
「そうね。お腹いっぱいに食べられないのは悲しいと思うわ」
そう言う空丹であったが黄巾の乱の事をよく知らない。
黄巾の乱は天和たちの影響が大きいが、やはり満足に食べられずに盗賊に身を堕としてしまう者たちもいた。
食べられないという事は悪事に手を伸ばしてしまう。命に関わってしまう事は簡単に人を悪人へと変貌させてしまうのだ。
「ちょっと聞いてみたい事があるがよいか空丹よ?」
「いいわよ。始皇帝陛下」
「空丹は黄巾の乱、黄巾党の時はどうしてた?」
「コウキントウ…お菓子の話?」
「なぬ?」
まさかの返しにキョトンとしてまう始皇帝。空丹の隣にいる白湯は「あちゃぁ…」といった顔をしていた。
同じく空丹の事を知っていた武則天も「やはりそうじゃろな」みたいな顔をしていた。
「そう言えば前にも聞いたことのあるわねコウキントウ。よく知らないけど黄や傾に任せていたわ」
始皇帝は黄を見る。ビクリと怯える黄。
「失礼します。お茶のおかわりを持ってきました」
タイミングよく部屋にやってくる傾。そしてジっと見る始皇帝にビクリと黄と同じ反応をしてしまう。
黄は冷や汗をタラタラと垂らしているが傾はまだ状況が掴めてないので何故、始皇帝に視線を向けられたか分からない。
「黄そして傾。黄巾の乱についてどう対応したか聞きたい。話せ」
「え、あ、はい」
「で、では…傾殿。元大将軍の貴女に説明を任せますね」
よく分からないまま黄巾の乱で対応した事を説明していく。そして始皇帝は黙って説明を聞いていく。
「…という対応をしていきました」
「その対応には色々と改善点があるが…まあ、終わった事だから後から口を出すのはよそう」
既に終わっている事を後からあーだこーだと言うつもりはない。もしもここか洛陽の禁城で傾たちがまだ漢帝国を存続させているというのならばアドバイスはしたかもしれない。
「その結果等は空丹に報告はしたのか?」
「し、しました」
「先ほど聞いてみたら黄巾党について全く知らなかったようだが?」
「そ、それは」
傾は黄に視線を送るが本人は目を逸らす。
「空丹が皇帝だったならば国で起きた事は知っているべきだ。それこそ黄巾の乱は大陸全土を脅かした事件であろう。普通は知っていてもおかしくないと思うが?」
空丹は始皇帝ほどの絶対的な支配者ではない。始皇帝である自分と比べるのは間違っているが皇帝として何も知らないというのはいかがなものか、という部分が引っかかったのだ。
多くの国によって様々な王や皇帝がいるのは当たり前。そして聡明な王や皇帝もいれば、逆に暗君な王や皇帝もいる。
確かに「そのような事は知らなかった」という事はあるかもしれない。しかし空丹は黄巾の乱だけでなく、ほぼ漢室の外で起きている事を知らないような状況だ。
「何も知らなすぎではないか?」
傀儡の王よりも知らなすぎだ。
「白湯は知っておったか?」
「は、はい。でも少しだけです」
白湯は月経由で黄巾の乱は知っていた。本当は何があったか知りたかったのだが情報は傾や黄のところでほぼ止められていたのだ。
「ふむ…」
優しく白湯と空丹の頭を撫でる。
(本当にこの子らは傀儡…飾りに過ぎなかったのだな)
空丹はほぼ飾りにすぎなかった。白湯は外の事を知ろうとしていたが人為的に情報の規制をさせられていた。
皇帝であるにも関わらず、それほどまで立場が弱かったのは始皇帝からしてみればあり得ないことだった。
「白湯はまだしも空丹は何故こうなのだ?」
空丹の顔を覗くと話の内容を詳しく分かっていないようだ。
彼女を見ていると『人智統合真国 秦』の愛する国民たちを思い出す。空丹は自分の国民と似ているのだ。
間違いなく空丹は必要最低限の知識しか保有していない。
「空丹を教育した者は誰だ?」
ビククっと分かりやすく反応する黄。
「黄か」
「あ、いえ、その…」
物凄く焦っている黄。
「そういえば瑞姫は空丹の妻であったな。何か思う事はなかったのか?」
「はい!?」
急に名前を呼ばれてしまって驚いた瑞姫。
「何で空丹は何も知らぬのだ?」
「ええ…と」
「それは…」
皇帝である空丹を傀儡に、空っぽの人形のような人間にしてしまった事に始皇帝が怒っていると思っているのだ。
瑞姫としては当時、何も知らない空丹の方が色々と好き勝手しやすかったので気にしてはいなかったのでそのままにしていた。
黄は空丹を空っぽの人形にするのが目的ではない。傀儡にするとかそういう考えではない。
「どうしたのだ。答えよ」
始皇帝は怒ってはいない。単純に空丹にここまで知識を、教養を与えなかったのかが気になったのである。
傀儡の皇帝にする為だとしても、ここまで何も知らない状態にする必要性があったのか知りたいのだ。
始皇帝は『人智統合真国 秦』で国民たちから徹底的に『儒』を禁止・排除していた。それは価値観を持って争いあうものが人であると考えた為、価値観を無くせば争う行為が消えるからだ。
実際に国民たちから『儒』の概念は消え、争いの原因は消え去った。始皇帝の行った事はある意味間違いではない。本当に世界平和が訪れたのだから。
それと変わってこの空丹に関しては始皇帝とは逆なのである。国民ではなく、皇帝の方が『儒』を排除されている。
何のために空丹から教養を取り除いたのか。
(もう、何でこんな状況に。これも黄が空丹様を世間から隔離するような教育をするからじゃない!!)
始皇帝は怒っていないのだが、怒っていると勘違いしている瑞姫。
チラリと姉である傾を見るが彼女もまた冷や汗をダラダラに垂らしていた。
黄、傾、瑞姫は天子姉妹の扱いについて責められていると勘違いしている。
傾と瑞姫は空丹と白湯の事は嫌いだとは思っていない。しかし漢室にいた頃は彼女たちの権威を利用していたというのも真実である。
黄に関しては全て空丹のために教育を行った。それは全て悪意あるためでなく、愛ゆえの行動だ。しかし、始皇帝の怒りの琴線に触れたと思っている。
この瞬間、始皇帝と黄たちとの間に勘違いが生じている。
その状況をお茶を啜りながら傍観するは藤丸立香及びに武則天、楊貴妃。そして始皇帝の膝に座っている空丹と白湯はよく分かっていない状況。
(り、立香くん助けて!!)
瑞姫は頼みの綱である藤丸立香を見る。
「あ~んですよマスター」
楊貴妃はお菓子を藤丸立香の口に詰め込んでいた。
(ちょっとあの女、私の視線が立香くんに伝わらないじゃない!?)
意図的だったか偶然だったか分からないが楊貴妃のやったことは瑞姫をイラつかせた。
「妾にも菓子をもらおうかの」
「は~い。どうぞふーやー奶…姐姐。姐姐!!」
「おい、もうわざとじゃろ。鋸以上がお望みかのう?」
「鋸は嫌ですー!?」
「仲良くしてねふーやーちゃん、ユウユウ」
3人は今の状況を我関せず状態であった。
(ちょっと立香くーん!?)
楊貴妃のせいで瑞姫の視線に気付かない藤丸立香。
(絶対にあの女はわざとでしょ。てかあの女、気に食わないのよね。理由は分からないけど)
瑞姫は楊貴妃と顔を合わして会話した事が度々ある。
そもそも始皇帝、武則天、楊貴妃という面々はよく空丹たちと絡んでいるので瑞姫も自然と顔を合わせるのが多いのだ。
その時は素直で親切心のある好感の持てる人間だと思っていた。しかし顔を合わせる度にどんどんと何か違うと感じ始めたのだ。
姉である傾は楊貴妃の『何か』に気付いていないが瑞姫は『何か』を感じ取っている。
(あの子は何て言うか…黄や宦官たちと似た感じがするのよねえ)
楊貴妃が黄たちに似ている理由。それはもう喉まで出かかっているのだが、始皇帝の言葉で飲み込んでしまった。
「どうした。答えられないのか?」
「ええっと…」
「始皇帝。たぶん2人とも怒られていると勘違いして、萎縮してるんじゃない?」
「む?」
ここで藤丸立香の助け舟が来る。
(立香くぅん!!)
キラキラした視線を藤丸立香に送る瑞姫であった。
「怒ってないぞ2人とも。単純に何故、空丹から儒から遠ざけたか聞きたいのだ。何か理由や目的があったのか聞きたいだけである。お茶や菓子を飲み食いしながら話しても許すぞ」
流石に飲み食いしながら話すのは恐れ多くて出来ない。
「ちょっと黄が話しなさいよ。あんたが教育係みたいなもんでしょ」
「そうなのか、では話せ黄よ」
「あうう…」
観念したというか覚悟を決めたような感じで黄は話始める。
「全ては空丹様のためなのです」
黄は空丹に悪いものを触れさせない為にありとあらゆる外の情報を規制してきた。
結果として空丹は善も悪でもない人間となったのだ。良い言い方をすれば純粋な人間。それこそ始皇帝の統治によって生れた愛する国民と似たような存在だ。
空丹を一から今まで育て上げたのが黄でなく、空丹と出会う前までは宦官たちが育てたのだ。
人ではない、天帝の子である。そのように刷り込まれながら育てられたせいで人間らしさが薄まった原因は宦官たちだ。
その後を継いだのが黄であったが、宦官たちのように傀儡のために育てるのではなく守るために教育を行ったのだ。
彼女の目から空丹は特別な人間に見えたのだ。簡単に言うと惚れたと言ってもいい。
男女的な意味ではなく、特別な人間として惚れたという意味の方が近いかもしれない。もはや崇拝レベルのもの。
黄はある意味、空丹に対して歪んだ愛情を持ってしまったという事だ。
汚い心を持たず、綺麗で純粋な人間。そんな彼女を守るために、汚さないために黄は空丹から外の情報を規制していたのである。
「ふむ、そう言う事か。分かった」
「は、はい…」
何を言われるかと緊張していた黄であったが予想とは違う結果が返って来た。
「ところで立香よ兵馬妖についてなんだが…」
「あ、あの…始皇帝陛下。何かお咎めがあるのでは?」
「何を言っておる。朕はただ話が聞きたかっただけにすぎん。話を聞いて罰を与える必要性が無い」
先ほど始皇帝陛下が言ったように空丹から教養を、儒を取り除いた理由が知りたかっただけなのだ。
結果としては黄が空丹を守る為、汚さない為という歪んだ愛情であったという事が分かった。それだけで始皇帝の興味はもう消えたのだ。
愛の表現は人それぞれ。人ならざる者同士の愛もあるほどだ。
人の愛に対してとやかく言うつもりはない。
「それとも黄は罰が欲しいのか。まあ、そういう性癖を持つ者もおるからのう」
「い、いえ、私にそんな性癖はありません!?」
「罰が欲しいなら空丹にでも頼むがよい」
「黄は罰が欲しいの?」
「ああ、空丹様からの罰。それはそれで…」
(やっぱそういう性癖じゃん)
黄は空丹限定で歪んだ愛情や性癖を持っているかもしれない。
「さて、ところで別に聞きたいというのは兵馬妖の事だ」
兵馬妖。
この外史世界の始皇帝が造り上げた無敵の兵士だ。
始皇帝は益州攻略戦での戦いで兵馬妖に襲われた事もあり、その時に兵馬妖も初めて見たのだ。
「兵馬妖は始皇帝陛下がお造りになったのですよね?」
「そういう事になっておるな」
「そういう事になっているって…」
「朕がこの大陸から消えた後に兵馬妖をどうしたかまではよく知らんからな」
始皇帝はこの外史世界の始皇帝という事になっている。
そのように説明したからしょうがないのだが、いつかはボロが出る可能性はある。
始皇帝もといカルデアの事を正確に知っているのは北郷一刀のみ。尤も北郷一刀も十全に知っているわけではないが。
混乱を招くために嘘と真実を混ぜた説明をしたが、いずれは真実を話さねばならない時が来るかもしれない。
「兵馬妖は種類があるのであったな立香よ」
「はい。成都で戦った時は別の兵馬妖がいました。実際にここに居る人だと傾さんが見てます。ね、傾さん」
「ああ。歩兵の兵馬妖だけでなく、馬に乗った奴や大きい奴もいたな」
兵馬妖にも種類がある。
藤丸立香が最初に確認した兵馬妖が兵士妖だ。その後、成都での戦いで新たに確認したのが騎兵妖と将軍妖。
正史世界の兵馬俑と同じならばまだまだ兵馬妖は種類があるはずである。
「これを動かすには膨大な妖力が必要だな」
「その為に使われたのが太平妖術の書です」
「ふむ。元々は始皇帝の力になるはずだった兵馬妖が今では怪しい方士に使われていると」
「その方士とやらは許せませんね。始皇帝陛下の物を勝手に使って、あまつさえ始皇帝陛下を襲わせるなんて…!!」
自分の力を他人に奪われて、襲われる。屈辱以外のなにものではないはずだ。
尤も兵馬妖はカルデアの始皇帝の力ではないので屈辱は感じてない。
「いやあ、あの時は何故か兵馬妖がほぼ朕のところに来てな。朕てば人気者だったぞ」
兵馬妖に襲われた時は始皇帝と武則天、楊貴妃の3人で対応していたのだが始皇帝にターゲット集中を付与されたのかってくらい兵馬妖に狙われていた。
「何故か始皇帝陛下が狙われておったのう。妾と楊貴妃を無視してまで」
「そうですね。何故か始皇帝陛下が襲われてました」
武則天と楊貴妃も当時の戦闘を思い出したのか始皇帝の言葉に同意した。
「宝具使った?」
「いや、使っておらんぞ」
始皇帝の宝具には敵の攻撃を集中させる効果がある。しかし兵馬妖での戦いでは使っていない。
本当に兵馬妖は始皇帝だけを狙って襲ってきたのだ。
(始皇帝だけを狙った…もしかしてそういう命令が兵馬妖にインプットされていたのか?)
藤丸立香は始皇帝だけが狙われた理由を考える。最近は司馬懿(ライネス)やシャーロック・ホームズの影響で考察する癖が出来てしまっている。
「そこでだ…空丹ならびに黄たちよ。始皇帝についての記録が知りたいのだが何か知っておるか?」
この外史世界の始皇帝について興味がある。だからこそ始皇帝は調べようと思い至った。
兵馬妖や玉璽の件で外史世界の始皇帝はカルデアの始皇帝と同じ天才であったことは分かっている。ならばと始皇帝が考えているのは本当に外史世界の始皇帝は死んだのかと疑問に思っているのだ。
もしかしたら生きているのではないかと少しだけ思ってしまったのである。『少し』だけと思ったのはもしも生きていれば今頃、三国や漢が建国されずに秦がまだ存命しているはずだから。
外史世界の始皇帝が生き永らえていなかったとしても、兵馬妖や玉璽の他に『大きな力』がまだあるとも予想している。
もしもまだあるのならば見つけておいた方が良い。于吉たち敵側に渡っていたら必ず此方側は痛手だ。
「申し訳ありません。始皇帝陛下についての記録はそれほど…」
「わ、私も…」
「ふむ、そうか。そう落ち込む事は無い。構わん許す」
「ですが、洛陽の禁城の書庫には始皇帝陛下について記された書物があるはずです」
洛陽ならば多くの書物が集まっている。そして禁城にしかない書物だってある。
ならば始皇帝についての記録が残っていてもおかしくないはずだ。
「洛陽か…今度行ってみるかのう」
「洛陽に始皇帝が言ったら色々と大変な気がするんですけど」
「なら立香よ、共をせい」
始皇帝が洛陽に堂々と足を運んだら大騒ぎだ。
(あと汎人類史の記録で見たアレがあるはずだ。この世界にも秦始皇帝陵が)
読んでくれてありがとうございました。
次回は2週間から1週間後の予定です。
536
BでLなお話を少し書いたつもりです。(そこまでBLではない)
『湖州扶練即売会』
恋姫の『乙女乱舞』であったネタを使わせてもらいました。
これはまた何処かで書いていきます。
もしかしたらイベント時空みたいな展開で書くかも。
538
お偉い人達とのお茶会。
ほぼ始皇帝が喋ってただけでしたけど。
始皇帝。やっぱり恋姫世界の始皇帝が気になる。
天下統一伝で始皇帝が実装されたりするのかな。だって実装されていないとはいえ、女カが登場するくらいですから。
空丹が世間から隔離されたわけが知りたかっただけ。
なにせ、まったく逆ですからね。
始皇帝は民たちから儒を排除したが、恋姫世界では民ではなく皇帝である空丹から儒を排除されていたのですから。
本当に「何でそんな事をしたのか?」と思っただけです。
結果、分かった事が黄の歪んだ愛情。
瑞姫、楊貴妃の内側にある黒さに気付き始める。
個人的な感想だけど、瑞姫なら楊貴妃の危なさが分かりそうなんですよねえ。
ある意味、面白そうなコンビになりそうなのでまた書こうかな。