Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
地獄界曼陀羅 平安京 轟雷一閃に続き、サーヴァントの幕間が更新されたかと思えばクリスマスイベントが始まってましたね。
なんかペースが早い!?
クリスマスのあとはFGOの年末イベント。どんな情報が公開されるのか。
なんだか年末に向けて駆け抜けてますね。




成都での日常5

538

 

 

晴天の下。

徳利の中身をチャポンと音を立てながら飲み会をしている者たちがいる。

豪快に飲むのが2人、静かに飲むのが1人、楽しく飲むのが1人、飲まないのが1人。

 

「くぅ~…晴天の下で飲む酒は美味いなぁ。こんな所を婆に見られたら怒られちまうぜ」

 

昼間っから酒をカパカパと飲む。なんて贅沢すぎる事をしているだろう。

 

「呼んでこようか炎蓮さん?」

「止めろ馬鹿」

「はっはっは、呼んだら呼んだで面白そうな展開になると思うなー」

「荊軻まで賛同すんな。てか、もうデキあがってるんじゃねえか」

 

顔が真っ赤の荊軻。傍若無人にまであとちょっとかもしれない。

炎蓮と傍若無人一歩手前の荊軻に挟まれているのが藤丸立香。間にいるので両隣から酒の匂いが凄まじい。

 

「昼間っから傍若無人にならないでね荊軻」

「分かってるよー。一歩手前で抑えてるからー!!」

(もう傍若無人のレベルになってるんじゃないかな…)

 

コテンと藤丸立香の膝を枕にする荊軻。

 

「ちょっ…寝ながら飲むのは行儀が悪いから荊軻」

「いいじゃないかー!!」

 

へべれけ荊軻には何を言っても無駄かもしれない。

 

「ふふ、立香も大変だな」

「そう思うなら止めてよ星」

「いやぁ、私はこの酒を飲むのに忙しくて…」

 

ただ単にへべれけ荊軻の相手をするのが面倒のようだ。

 

「蒲公英ちゃんも荊軻の相手をするのを手伝って」

「でもでも藤丸さんと荊軻さんの仲を邪魔するのも悪いしー」

「邪魔って…」

「そうだー。私と主の仲を引き裂くのは許さんぞー」

 

膝の上でごろごろする荊軻。

普段はクール美人でカッコイイのに酒を飲んでいる時だけはだらしないお姉さんになる。

それはそれでギャップがあって良いのだが相手をする時は大変であるのだ。

 

(何だか閻魔亭の時を思い出すな。まあ、その時よりは大分マシだけど)

 

閻魔亭では傍若無人になって藤丸立香を無理やり、膝枕をしてくれたのだ。今はその時と逆。

 

「いじいじ」

「荊軻…頬をいじいじしない」

 

本当にキャラがぶっ壊れるくらい変わるものだ。

閻魔亭の宴会で『恋はドラクル』を歌いだした時は本気で驚いたくらいである。「本人!?」と疑ったほど。

 

「おい荊軻。なんか歌えよ」

「え、荊軻さんって歌えるの? 歌って歌って!!」

「えー…歌うには酔いが足らんな」

「なら、もっと飲め飲め」

 

トクトクと酒を注いではカパカパと水のように飲んでいく。

 

「おら、口開け。直接酒を注いでやろーか?」

「ちょ、それはやりすぎです炎蓮さん」

 

真昼間からの飲み会はまだまだ続く。

 

「お、主ーー!!」

 

急に星が叫んだ。「主」と言うからには、その相手は間違いなく北郷一刀だ。

 

「星?」

 

徳利を掲げている星を発見し、北郷一刀は何をしているのかすぐに分かった。

 

「良ければ一献、いかがかな?」

「おう、いいね」

 

この後に仕事は無いので断る理由が無い。

 

「お、藤丸に荊軻さん、炎蓮さんに蒲公英まで」

「先に飲んでるよ…ま、オレは飲んでないけど」

「荊軻さんはもう潰れてるのか?」

 

藤丸立香の膝で横になっている荊軻を見れば酔い潰れてると思うのは当然だ。

 

「うん。もう酔い潰れてる」

「まだまだ飲むぞー!!」

「…キャラが普段と違くなるくらい酔ってるのな」

 

酒飲んで性格が少しでも大らかになっていれば酔っている証拠だ。

 

「そう言えば今日は全軍訓練って聞いてたけど…星の軍は残って警備だったよな?」

「たんぽぽは非番だよ」

「私は優秀な部下がおりますゆえ」

 

蒲公英は非番だからいいとして、星は上手く切り抜けたようだ。

彼女が言う優秀な部下に後で酒でも送ろうかと考える。

 

「まあ、いいけど…程々にな」

「むぅ。私とて酒ばかり呑んでるわけではありませんぞ。例えば、こういう事とか」

 

北郷一刀が受け取った杯を飲み干せば、右腕に柔らかい感触が伝わってきた。

 

「せ、星?」

 

ふにゃりとした柔らかいものが右腕に当たっている。全集中をつい右腕に。

何度も言うが彼も男の子である。

 

「へへ。じゃ、たんぽぽもー」

 

左にも柔らかいものが当たる。

 

(おまえらなぁ…!!)

 

男として嬉しいものだがからかっているとすぐに分かってしまう。

藤丸立香は3人のやり取りを見ているとつい「モッテモテだな」とつい口に出してしまう。

 

「ふふっ。どうされました?」

「い、いや、何でも…って、そんなにくっつかれると酒が飲めないんだけど」

「ご主人様がお酒飲めないなら、たんぽぽが飲ませてあげよっか…口移しで」

「ぶっ!!」

「これこれ蒲公英。そう主をからかうものではないぞ」

「だってご主人様、面白いんだもん」

 

2人とも男をからかって楽しむタイプの女性のようだ。

 

「度が過ぎると手籠めにされてしまうぞ。蒲公英も聞き及んでおろう、主の武勇伝は」

「ぶ、武勇伝…って、いや、それはその…なんとういう…つーか、手籠めにした覚えはないぞ」

 

北郷一刀の武勇伝。

戦とかで活躍したわけではない。ある意味、女との戦いかもしれないが。

 

「おや。武勇伝そのものは否定なさいませぬか」

「だって、みんなが俺のこと好きって言ってくれるの、すごく嬉しいし…俺もみんなのこと大好きだし」

「肌を重ねるのも気持ちいいし…」

「そうそう、女の子って、柔らくって、いい匂いで…って、蒲公英ーーー!!」

「へへぇ」

 

蒲公英の一言で北郷一刀が叫ぶ。場合によっては誤解を生む言葉だからこそ訂正の意味を込めて叫んだのである。

 

「うーん…男として尊敬するなあ。100人斬りか」

「そこまでいってねえから藤丸!!」

 

100人までとは言わないが、それでも何人か攻略した事は真実である。

 

「で、何人女性を泣かしたんだ北郷?」

「藤丸もそっち側かよ!? てか、泣かしてないから!!」

 

確かに泣かしてはいない。全員、愛し合ったのだから。

 

「私の観察眼によると…8人か?」

「8人!? 北郷…やるなぁ」

「流石はご主人様ー!!」

(何で星は分かったんだ…)

 

星は何でも知っているのかもしれない。

 

「では、本命は誰なのですかな?」

「本命…?」

「我らの仲でたった一人を選ぶとすれば、誰をお選びになりますか?」

「んん!?」

 

誰が一番好きか。

彼女たちの前だから2人のどちらかの名前を出せばいいとかそういう話ではない。もっと真剣な話。

考えれば考える程、頭が痛くなる。ここ最近の仕事ラッシュよりも頭を悩ませる。

本当にこの手の話はモテモテ男子にとって難しい話題だ。

 

(これはいかん。藤丸ヘルプ!!)

 

北郷一刀は藤丸立香にアイコンタクトを送る。

 

「で、お前はどうなんだよ立香?」

「そうだぞ。主の本命も知りたいぞー!!」

「ちょ、止め、待っ…2人とも!?」

 

藤丸立香も美人2人から同じ質問攻めにあっていた。

 

(くぅっ、藤丸もか!?)

 

藤丸立香、炎蓮と荊軻にグイグイと挟まれる。

 

「てかよぉ…あの小僧だってヤルことヤッてんだぞ?」

「何ですかいきなり…」

 

炎蓮が何の話を切り出したかすぐに分かってしまった。これでも炎蓮とは付き合いはもう長くなってきた。

大体の予想が付けるようになってきたのだ。そもそも似たような事ばかりをいつも聞かれるのだが。

 

「お前はいつまでたっても雪蓮や蓮華たちとヤラねえな」

「いやいや、出来ないですから!?」

「オレの娘たちは魅力がないってか?」

「そんなことありません。雪蓮さんたちは魅力的ですよ」

「ならなんで種付けしねえ?」

「種付けって表現が生々しいんで止めてください」

 

藤丸立香は炎蓮から孫呉に血を入れる約束をさせられた。本人的には否定しているのだが炎蓮は本気で考えている。

 

「好みの問題じゃなければなんだよ………ふむ」

 

炎蓮が急に考え込む。

 

「よし」

 

何か思いついたかと思えば手を伸ばして藤丸立香を掴んで引き寄せた。

 

「え?」

 

引き寄せた先は己の巨乳。

藤丸立香の顔にムニュリとした感触が伝わり、甘い匂いも漂う。

 

「んなーーっ!?」

「あー、ずるいぞ炎蓮。私も私もー!!」

 

背後から荊軻が抱き着いてくる。

美女によるサンドイッチ。男ならば実現したい夢の1つだろう。

 

「いきなりなにコレ!?」

「いやー…主の抱き心地は良いものだな。溶岩水泳部やチビッ子たちの言った意味が分かるものだ」

「どれ…」

 

炎蓮はするりと手を藤丸立香のある体の一部に伸ばした。

 

「ちょっ、何処触ってるんですか炎蓮さぁん!?」

「ナニ」

 

炎蓮の手は藤丸立香の股間を弄っていた。

 

「何だ…反応はしてんじゃねえか。大きさもあるな」

「ちょ、触んないで…」

「良かったぜ。実はおっ立たねえ…なんて事かと思ったじゃねえか」

 

藤丸立香が雪蓮たちに手を出さない理由は勃起不全かと思ったからだ。しかし彼女の考えは杞憂に終わった。

 

「男としてちゃんと大丈夫みたいで安心したぜ」

「いつまで触ってんの炎蓮さん!?」

「触ってるというか鷲掴んでいる」

「アッーーー!?」

 

股間部分がニギニギされてる。

 

「ちゃんとヤレるかどうかオレと試してみるか?」

「なぁー!?」

 

顔を真っ赤にする藤丸立香。

 

「なかなか可愛い反応するなお前って」

「こらー、主を襲わせないぞー」

「そう言いつつ荊軻は助けてくれないんだけど」

 

荊軻は相変わらず酔っぱらったまま藤丸立香の背中に抱き着いている。

慣れてきたと言っても多感な青少年である藤丸立香に美女のサンドイッチ攻撃はメチャクチャ効く。

 

「で、本命は誰だ?」

「このままの状態で聞く事か!?」

 

藤丸立香の本命。

その人物は誰か分からない。マスターラブ勢の誰かかもしれないし、またはマスターラブ勢外の誰かかもしれない。

 

「んー…やっぱ最大候補はマシュかなー」

「ましゅ、って誰だよ」

「そう言えば炎蓮は知らなかったな。マシュとは主の後輩であり、大切な人であり、最大限の愛情を捧げている者だよ」

「そんな奴がいたのかよ…そういえば前にそんな奴がいるって言ってたか?」

 

マシュ・キリエライトを大切にしているのは本当だが、こうやって誰かの口からそう言われると何処か恥ずかしくなる。

第三者から見れば藤丸立香の口からマシュ・キリエライトに対しての言葉の方がよっぽど大胆でストレートだ。聞いていて口から砂糖を吐き出したくなるほど。

例えば「月も綺麗だよね」とか「マシュ、最高に綺麗だよ!!」とか大胆な言葉を言っている。

 

「次点だとメルトリリスにシャルロット、エレシュキガル、ジャンヌ・オルタ、宮本武蔵…か?」

「結構いんな」

「今挙げた者たちは何でも主と大きな旅を遂げた者たちだ」

 

尤もカルデアにいる彼女たちは特異点等の記憶を覚えている者もいれば、覚えていない者もいる。しかし、それでも彼女たちと藤丸立香の繋がりは他の英霊たちと何処か違うのだ。

 

「更に次点で溶岩水泳部やその他多数」

「溶岩水泳部って何だよ。しかもその他多数って…もう言うのがめんどくさくなっただろ」

「だって主を好きな奴が多すぎだし」

 

荊軻は空耳でどこからか「ちゃんと名前を出せー!!」というのが聞こえた。

 

「立香、お前は天の国にそんなに女がいんのか」

「いや、オレの女ってわけじゃないから」

 

途中から聞けば藤丸立香は女にだらしない男だって思われそうだ。

 

「こっちにいる者だと武則天や楊貴妃なんてそうだな。司馬懿もあれでなかなか…」

「まあ、見てれば分かる」

「それと秦良玉もだな。なぁ主?」

 

美女サンドイッチの具である藤丸立香がギクリとした。

 

「あの夜に何があったんだ?」

「何もなかった」

「大きくなったな」

「なってないから。てか、そろそろ離して炎蓮さん!!」

 

もがく藤丸立香だが炎蓮も荊軻も面白がって逃がさない。

 

「天の国に帰る前に血を孫呉に残していけや」

「だーかーらー!?」

 

相変わらずの流れである。

 

「向こうも面白い事になってますな。さて、此方は主の答えを待っていては、我々はみな老婆になってしまいそうだ」

 

藤丸立香の場面から北郷一刀の場面へと変わる。

 

「ごめん。みんな好きって…答えじゃ、ダメ…だよね」

「序列などないと?」

「たぶん、そうだと思う。星も好きだし、蒲公英も好きだし、愛紗も鈴々も朱里も、みんな別のすごく良いところがあるし。誰が一番とか決められないっていうか…やっぱりみんな一番っていうか…」

「やれやれ、私の前では星が一番と言っておけば宜しいものを」

 

まさか返事というか予想はしていた答えだ。

みんなが一番という答えは誰も傷つかない。しかし独占欲が強かったり、嫉妬深い女からしてみれば禁句にもなる。

 

「…そういうのも、なんか嫌じゃない。軟派っぽくて」

「えっ!?」

「…むぅ」

 

今の言葉は本気で言っているのかという顔の星と蒲公英。

 

「な、何?」

「いや、だって…ねぇ?」

「やれやれ。あれだけ皆に手を出しておいて、軟派の自覚はないのですかな主は?」

「…うぅ」

 

北郷一刀としては皆を真剣に相手しているつもりだ。狙っているわけではない。

言われてしまうと自覚はしているが基本は天然誑しの北郷一刀。

 

「まあ、それが主の悪い癖でもあり、良いところでもありますゆえ…英雄色を好むと言いますし、ま、気になさいますな」

「悪い癖はともかく…良いところかな?」

「言い換えれば、老若男女、万民を愛することの出来る素質の持ち主という事です。それは王者にとってとても大切な、千金、万金にも勝る尊きもの」

「老若男女…?」

「別にそこまで励めとは言うておりませぬ。それとも主は、そういう趣味が?」

「ない。ないないない!!」

 

北郷一刀はノーマルのはず。

 

「へぇぇ…」

「そこも納得しない!!」

「やっぱり相手は…」

 

蒲公英の視線が藤丸立香に向く。

 

「待て待て待て!!」

「なるほど。確かに非常に仲が良い姿を見かけますな」

「違うぞ。俺と藤丸はそういうんじゃない。友達なんだ」

 

藤丸立香と北郷一刀は友達だ。

 

「友達(意味深)」

「待て待て待て!?」

「お隠しにならなくても良い。主がどんな性癖の持ち主であれ、我らが主を慕う気持ちには一点の揺らぎもない」

「うん。大好きだよ、ご主人様」

 

北郷一刀を挟んでいた柔らかい身体が、きゅっと左右から抱き着いてきた。

 

「ふ、二人とも…」

 

星の細い指が彼の股間をそっと撫で上げる。

 

「ふふっ、主。我が妓館仕込みの技の数々、とくとご堪能いただきましょうか?」

「ぎ、妓館って…」

「ふふっ。星姉さまの技、すごいんだよぅ」

 

耳元近くで息を吹きかけながら言われるとゾクゾクしてしまう。

北郷一刀も藤丸立香と同じく美女に挟まれている状態だ。

 

「どうか、主も…我らのこと、激しく可愛がってくださいませ」

 

男2人が美女から挟まれる。第3者から見れば「なにやってんだ?」状態だ。

 

「ご主人様ー、どこですかご主人様ー!!」

「「「………」」」

 

なんともタイミング的なと誰もが思ったはずだ。

雛里の可愛い声によって変な空気になっていた飲み会はウヤムヤになったのであった。

その日の夜に北郷一刀の部屋に誰かが窓から侵入したとかなんとか。しかし、それはまた別の話。

 

 

539

 

 

成都の街中を歩く。前にも燕青や蒲公英と買い食いしながら歩いていたが今回は別の人である。

 

「一つ、弱者に優しく。一つ、困ってる人を見捨てない。仏弟子たるものいつでも心がけることよ」

「分かってるよ三蔵ちゃん」

「こら、お師匠様と呼びなさい」

「お師匠様!!」

「よろしい」

 

今回は玄奘三蔵と成都の街を散策である。

 

「お散歩っていうかデートかな」

「マ、マママ、マスターったら何言ってるのよ!?」

 

聖杯による知識付与により『デート』という言葉の意味を分かっているので顔を赤くする玄奘三蔵。

 

「これはデートじゃなくて、困っている人がいないか街を散策なのよ。もう、マスターは」

「ごめん、ごめん」

 

ポカポカと軽く小突いてくる可愛いお師匠様。

普段は元気で可愛くてアグレッシブでちょっとドジっ子だが『玄奘三蔵』としての名に恥じない信念の持ち主である。

僧侶としての姿を見せる時は本当に得の高い人。とても尊敬ができ、信頼できる英霊の1人だ。

 

「あ、困っていそうなおばあちゃんを発見。行くわよマスター!!」

 

困っているおばあさんのところへ素早く向かう。どうやら荷物が多くて持ち運ぶのが大変らしい。

何故そこまで多くの荷物を持ってしまったのかと思うが、困っているのならば助けてあげるべきだ。

荷物を持っておばあさんの家まで送ってあげる。それだけの事をしただけなのだがとても感謝されたのだ。

人助けをして感謝される。やろうと思えば誰でも出来る行為。

現代では困っている人がいても見て見ぬ人がいる。それは悲しい事であり、現代に生きる人間の優しい心が薄れている事かもしれない。

 

「人助けをした後は気持ちいいわねマスター」

「そうだね。なんだが心がポワっとする感じがするよ」

「その気持ちを忘れちゃ駄目」

「うん…現代だと困っている人がいると見て見ぬふりをする人がいる。そう思うと三蔵ちゃんのやっている事は凄いと思うよ」

「えー…そうなの。現代は寂しいところね」

「いや、誰もが見て見ぬふりをする人ばかりじゃないよ。ちゃんと困っている人がいたら助けてくれる人もいるんだ」

 

困っている人を見て見ぬふりをする人がいるのは確かだ。だが誰も彼も見て見ぬふりをするわけじゃない。

困っている人がいれば助けてくれる人もいるのだ。

 

「なら現代も御仏の教えが伝わってるのね」

 

御仏の教えというか仏教は現代に続いている。

 

「きっと困っている人がいたら助けたいという思いは誰もがあると思う。でも見て見ぬふりをしちゃうのは…たぶん怖いからだと思うんだ」

「怖い?」

「自分の力でちゃんと助けられるか。責任を持って助けられるかが不安になるんだと思う」

 

困っている人に手を差し向けても自分の力では助けられない。他にも理由があるかもしれないが『手を差し伸べても助けられない』と思うと声を掛ける事が出来なってしまう。

 

「ふーん。でも困っている人から見たら声を掛けてくれるだけでもとても助かった気持ちになるのよ。もしも自分だけじゃダメだったら更に他の人にも力を貸してもらう。人間は力を合わせる事の出来る生き物なんだから」

「力を合わせあうか」

「そうそう。今のあなたなんかが最たる例じゃない」

「オレが?」

「そうよ。何で自分の事が分かってないのよ、もう」

 

藤丸立香は1人では人理を救うなんて出来なかった。英霊とカルデアの皆と力を合わせたから人理焼却から人理を取り戻せたのである。そして今も皆で力を合わせて戦っている。

 

「そっか、そうだね。ありがとう三蔵ちゃん」

「いいのよ。あなたの頑張りはとても素晴らしい事だわ。だから迷わないようにね立香。もしも迷ったらあたしが手を差し伸べてあげる!!」

「本当にありがとう三蔵ちゃん」

 

藤丸立香はカルデアのマスターとして世界を救う運命に囚われた。

本当なら彼はただの一般人だったのだ。きっと世界が平和だったら普通の学生として学園生活を謳歌していたかもしれない。

それが何の運命に巻き込まれたのか分からないが世界を救うという大きすぎる宿命を持ってしまった。それを後悔や嫌だと思った事があるのを否定できない。

 

それでも藤丸立香しかいなかったから、覚悟を決めたから、自分に出来る最善をしようと思ったからここにいるのだ。

過酷の旅を乗り越えて今に至るが藤丸立香は英雄ではない。心が挫けそうになる時もあれば、迷う時もある。

そんな時に弱音を吐ける人物や、迷いを取ってくれる人がいるととても助かるのだ。玄奘三蔵は藤丸立香が相談や弱みを見せてしまう英霊の1人。

 

「三蔵ちゃんがカルデアに来てくれて本当に良かったよ」

「ふふ、あたしもあなたにまた会えて良かったわ」

「三蔵ちゃんが僧侶じゃなかったら惚れてたかもね。てか、告白してたかも」

「うえ!?」

 

ちょっと顔を赤くする玄奘三蔵。

 

「こ、こら、そんな軟派っぽい事を言わない!!」

「そこまで軟派っぽい事だったかな。でも現代だと結婚できる僧侶もいるみたいだよ。日本だと明治以降だったか、そういう風になったとか」

「何で結婚の話!?」

 

あわあわとする玄奘三蔵の姿が何処か可愛くて面白い。ついクスリと笑ってしまう。

 

「あ、お師匠であるあたしをからかったなー!!」

「ははは、ごめんごめん。でも三蔵ちゃんが可愛くて素晴らしい人なのは確かだからさ」

「だからそういう事を言うからー!!」

 

何故か「そういうところじゃーい!!」と言う清少納言の言葉を思い出した。

 

「って、ん?」

「どうしたの?」

「向こうにいるのって」

「えーっと…北郷君に恋ちゃんだ」

 

北郷一刀と肉まんをたくさん持った恋が街を歩いていた。

 

「デートかな。オレらと同じで」

「こら、調子に乗ってると痛い目に合うわよ。清姫ちゃんやメルトちゃんに聞かれたらどうなると思ってるの?」

「………調子に乗り過ぎました」

 

メルトリリスのお仕置きは既に経験済みである。

 

「おや、更に2人に近づいている子が…」

「あれはねねちゃんね」

「勢いよく跳んで」

「北郷君に飛び蹴りを」

 

北郷一刀が宙を舞った。

 

「北郷ーーー!?」

 

陳宮蹴撃(ちんきゅーきっく)。

音々音の宝具(仮)であり、マルタ(水着)や李書文(殺)が宝具を発動した時と同じように何故か背景に『陳宮蹴撃』の文字が見えた気がした。

必殺技を発動時に文字が浮かび上がるのはカッコイイと思ってしまうのは藤丸立香が男の子だからだろうか。

ドシャァと地面に転がり落ちた北郷一刀と綺麗に着地する音々音。

 

「くおおぉぉらあぁぁ~~~~~。ねねの目を盗んで恋殿とな~に、楽しくやってるですか!!」

「おーい、大丈夫か北郷ー!?」

 

人間がきりもみ回転しながら地面に転がり落ちたのを見たら流石に無視はできない。

急いで走って転がっている北郷一刀の容体を診る。

 

「大丈夫か北郷!?」

「ふ、藤丸か…」

 

身体に異常は無さそうだが彼の顔は絶望に染まっていた。

 

「恋殿も恋殿です。古記に曰く、男は皆狼なのですよ!!」

「…狼じゃない、ご主人様」

「妊娠させられてからでは遅いのですよ。元気な子を産んで、どうするおつもりですか」

「…子供は育てるもの」

「にゃっ!? 手遅れでしたか…こらーーーーっ!!」

 

反応の無い北郷一刀。顔は暗いままである。

 

「北郷君ってば絶望した顔してるわよ。なんか、あたしが砂漠で迷子になった時と同じくらい」

「…平気、ご主人様」

「恋殿ぉ~~~、その優しさがそいつをつけあがらせるのです。放っておきましょう」

「……うるさい」

「ひっ!? お、怒ってらっしゃいますか?」

「……不意打ちは卑怯者がすること」

 

珍しく厳しい口調で音々音に説教しながら、北郷一刀の背中を優しく撫でる恋。

 

「ねねは悪くないのです。そいつが恋殿とわいわいきゃっきゃっと楽しくしてたから…」

「…ひがみか?」

「義憤です。こそこそと恋殿をかどわかす卑怯な男には当然の報い…」

 

何かに気付いたようで、彼女は目を丸くした。丸くした目の先にはじわじわと広がる黒い染み。

 

「おもらしですか、軟弱な男なのです」

 

黒い小便だったら即、病院行きである。

 

「こんな色の小便があるか。どうしてくれるんだよ。愛紗と桃香と星と朱里と雛里他いろいろの頼まれ物が…」

 

実はおつかいを頼まれていた北郷一刀。

 

「今、次々と恐ろしい名前が…た、頼まれものとはどういうことですか」

「げっ、朱里に頼まれていた見るからに怪しげな本が墨汁に、ヤベ!?」

「ひぅ!?」

「筆が、ああぁ~~、ダメだ…完全に折れて」

「今の話から推察するに猫の餌に落ち着きそうな、そこのメンマは…」

「星に殺される…」

 

顔がすぅぅっと青くなる音々音。

 

「大丈夫じゃないって事かな?」

「ああ、藤丸。大丈夫じゃない…主に俺の精神的に」

 

彼の周りに散乱している物は全て、おつかいで頼まれた物。その全てが台無しになってる。

 

「これはちょっと独特な味付けのメンマということで…ダメだ、星は店に怒鳴り込みかねない」

「そ、そそそそ、そんなの、ちんきゅーきっくの前に言ってください!!」

 

藤丸立香と玄奘三蔵は犯行現場を見ていたが、そんな事をする暇はどう見てもなかった。

 

「どこのタイミングでだよ、問答無用で蹴ってきておいて」

 

2人が怒鳴り合う間も、恋はマイペース。地面に散乱するメンマの前に屈んで一言。

 

「三秒以上、経ってる…」

「うん、そういう次元の話じゃないと思うよ恋さん」

 

この外史世界には3秒ルールがあるらしい。今まで気にしてなかったが3秒ルールの起源は何処だろうと思う。

気が付けば野良猫が集まって来た。音々音の言った通り、猫の餌になるメンマ。

 

「待つのです。その、ほんのりと憐れみを込めた目がとっても気になります」

「恨むなら恨め。俺は事実をありのまま伝えて、あとは愛紗や星の裁定に委ねるつもりだ」

「ど、どう伝えるつもりですか…?」

「ちんきゅーきっくが全てを破壊した…と」

 

まさに真実である。

陳宮蹴撃(ちんきゅーきっく)を喰らって北郷がきりもみ回転してしまって地面に転がり落ちた。

その衝撃により、おつかいに頼まれていた物が台無しになったのだ。北郷一刀に非は無い。

言うなれば後ろから車が追突事故してきたようなものである。

 

「家臣の罪を許し、功を讃えるのが主の仕事です。こんな些細なことで…」

「家臣は主をお前呼ばわりしない」

「主さま、ねねの代わりに死んでくださいです!!」

「普通、家臣は主を身代わりにしない!!」

(この子、無茶苦茶な事をサラリと言ったな…)

 

音々音、結構ギリギリな発言をしているのを気付いているのかどうか。本当ならば厳罰レベルの事をしたのだが相手が北郷一刀だからこの程度で許されている。

ギャイギャイと言い合いをしている2人を他所に恋は何処かへ走っていった。

 

「あれ、恋ちゃんどこ行くのー?」

 

すぐに後を追っていくと、辿り着いたのは肉まんを売っている店。彼女が持っている紙袋に入っている肉まんはその店で買ったものだ。

 

「…肉まん、返す」

「か、返すと言われましても…将軍様」

 

いきなり戻ってきて肉まんを返すと言われても店主はわけが分からないのは当然だ。

 

「すいません…おい、恋」

「…お金」

「金?」

「ご主人様が買い物したの、ねねが壊した」

「恋殿…」

「買い直さないと、ご主人様が怒られるから…お金、もらう」

 

彼女の行動理由がすぐに分かった。

音々音の上司として責任を取ろうとしているのだ。恋がそのような行動をしていると何故か健気さを感じる。

 

「恋ちゃん…!!」

 

何故か感動してしまう玄奘三蔵。

まるで小さい子が親や友達の為に頑張ったように感じてしまったのだ。

恋は何処か精神が幼く感じる。それでも飛将軍と恐れられたのは不思議であるのだ。

戦っている時と普段とでは全く違う。ご飯を食べている時なんて可愛くてしょうがない。

 

「すいません、本当に。もちろん、そんな必要はありませんから…ほら恋」

「よく分かりませんが…急遽、金が入用になったということですか御遣い様?」

「ぷっ!? き、気付いてたんですか」

 

天の御遣いがお金に困っているなんて恥ずかしくなってしまう。しかもおつかい失敗で怒られるかもしれないなんて思っているくらいだからだ。

 

「本来、あたしらはお代なんていただいちゃいけない立場です。そこへ、頭まで下げてもらっちゃあ…待っててください御遣い様」

 

シニカルに笑うと店の奥に消えていった店主。

 

「どうぞ、そっちはあたしがいただきますよ」

「…うん」

 

戻ってきたと思えば恋が抱えている肉まんの入った紙袋とお金を交換してくれた。

 

((店主…!!))

 

カッコイイと思ってしまった藤丸立香と北郷一刀。

 

「では、御遣い様、将軍様、今後ともごひいきに」

((ダンディーー!!))

 

店主の渋さにときめきそうになってしまう。

いつかはこういう渋カッコイイオヤジになりたいものだと思ってしまう男2人。

 

「……美味しかった」

「あ、ありがとうございました」

 

手を振る恋にぎくしゃく頭を下げるねね。そしてまたシニカルに笑って返す店主であった。

 

「カッコイイな」

「うん。カッコイイオヤジだ」

 

本当にいつかはカッコよく年を取りたいと思ってしまう。

 

「恋ちゃん偉いわ。あたしってば感動しちゃった」

「恋…偉い?」

「うん。偉い偉い」

 

恋の頭を優しく撫でる玄奘三蔵。

部下の、仲間の為に将軍が買った物を店に戻す行為なんて出来るわけがない。

恥や立場を気にせずに動く事が出来る者はそうそういない。そう考えると恋の行動は普通は出来るものではないのだ。

 

「恋ちゃん。その思った行動は忘れちゃ駄目よ」

 

善意の行動。

人間として忘れてはいけない事だ。

 

「ば、賠償責任は果たしました。まだ、因縁をふっかけてくるつもりですか」

「ねねちゃん…それは君が言う台詞ではないと思う」

「いきなりなんですか藤丸殿!?」

「藤丸の言う通りだぞ。てか、元々、肉まんはこっちの金で買ったの。それに…」

 

恋の善意ある行動を前に言いにくいが全て解決したわけではない。

取り戻したお金は肉まん代だけ。筆や墨に壺メンマ等の頼まれた物はまだまだある。

流石に肉まん代だけでは圧倒的に足りない。

 

「台無しにしたのは茶とか香に石鹸とかあるんだぞ」

「うぐぅ…」

 

恋は懐を探って北郷一刀の掌に小銭を置いた。

 

「…ありがとう、恋は優しんだな」

 

その気持ちだけでとても嬉しい。しかし現実は厳しいものだ。

まだ足りないのだ。

 

「オレもあと少し持ってるし…ねねがまとまった額を払ってくれれば、なんとかなるかな」

「なななな、なんですとー!?」

「二択だよ、ねね。星にネチネチ言われるか、お金で回避するか」

「星に……あわわわわわ」

 

ガクガクブルブル状態の音々音。どうやら星の説教は嫌なようだ。

更にじっと恋が見据える。

 

「よよよ…少ないお小遣いをやりくりして必死に貯金してきたというのに…」

「小遣い制なんだ」

 

なんとなくだが納得できてしまう。

 

「…これが、ねねの全財産です」

 

彼女が懐から出した財布はズッシリと重く、悲痛になるのも納得がいく。

 

「悪い。さて、急いで買い物を済ませちゃわないと」

「オレも手伝うよ」

「助かる藤丸」

「ねねも行きますよ。ねねのお小遣いで女遊びでもされたら泣くに泣けません」

「しねーよ……信頼されてないな俺って」

 

その後、一分に一回はため息を吐く音々音をなるべく見ないようにお使いを済ませるのであった。

本当は藤丸立香がイベントの記念で保存していた金の延べ棒等でなんとかなったが、玄奘三蔵曰く「これもねねちゃんには良い経験」との事。

 

「これも諸行無常ってやつかな?」

 




読んでくれてありがとうございました。
もう2020年も残りわずかです。今年中にあと何話更新できるか…。
目標としてはあと3話は更新したですね。最低でも1話は更新します。

今回で日常編は終了で次回から本編に戻ります。
八傑衆編(蜀)の始まりです。原作とオリジナル要素をふんだんに混ぜ込んだ話になる予定です。


538
昼間っからの酒飲み。もういつも通りの展開です。
荊軻の酔っぱらった絵は可愛いですよね。
2021年に正月イベントがもしもあるのなら、また出して欲しいものです。

美女に挟まれる。
藤丸立香も北郷一刀もモッテモテ。

藤丸立香の本命。
これは答えの出ない問題ですね。人によって好きなキャラは様々なので。
でも最大候補はやっぱりマシュ。
次にメルトリリスにシャルロット、エレシュキガル、ジャンヌ・オルタ、宮本武蔵。
(これは作者の感想。物語でヒロイン級な扱いであったため)
次点でいろいろ。
絆セリフやヴァレンタインイベントとかでも色々ありますからね。
私としてはもっと溶岩水泳部にスポットを当てて欲しいものです。
てか、溶岩水泳部の新部員として楊貴妃は入るのかな。

この物語の藤丸立香はどうなのかは秘密。
まあ絆は深め合っているのは確かです。まだまだ彼とのカップリングの話は書いていきたいです。英霊と愛を育むのは良いんですけど、恋姫と愛を育みすぎるとBAD ENDになりますけどね。

北郷一刀の本命。
本命はいなくて全員っていう。流石は北郷一刀です。
まあ、なんだかんだで本命は人それぞれですけどね。

北郷一刀×藤丸立香の可能性。これは否定できない…!!
ちょくちょくこの物語で語られるやもしれません。
湖州扶練即売会編で大きく語られます。


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藤丸立香と玄奘三蔵のお散歩デート?
ちょっと軟派ぽかったかな。
彼女は立香が弱音を見せてしまう英霊の1人かもしれませんね。
なんだか相談とか親身になって聞いてくれそうですから。

陳宮蹴撃(ちんきゅーきっく)。
音々音(陳宮)の宝具(仮)ですね。
FGOの陳宮は他人を飛ばすけど、恋姫の陳宮は己が跳ぶ。

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