Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは!!
今年のハロウィンイベントも良かったです。
何とかストーリーはクリアしました。あとは周回のみ…

さてさて、今回も物語は日常回です!!
誰の日常回かは読んでどうぞ!!


洛陽での日常2

68

 

 

「わん!!」

 

犬の鳴き声が聞こえた。足元を見ると赤毛の子犬が足元に居た。

この犬の名はセキトだ。外史の呂布のセキトである。この世界の赤兎馬は馬ではなくて犬であるのかと思ったが、あとでちゃんと馬の赤兎馬が居る事が発覚した。

 

「どうしたのセキト?」

 

セキトの後を付いて行くと、ある茂みの中に入らされる。其所にはこの世界の呂布が気持ちよさそうに寝て居た。

しかも犬や猫達と一緒に気持ち良さそうに昼寝をして居るのだ。今日はポカポカ陽気で昼寝日和なのは確かだろう。こんな日はタマモキャットも日向ぼっこでお昼寝するに違いない。

 

「この世界の呂布は俺が知っている呂布のイメージと全然違うんだよね」

 

だが実力だけはイメージとぴったりである。なんせたった1人で数万の黄巾党の賊を倒した一騎当千の将である。

一騎当千万夫不当の名声はこの世界の呂布もカルデアの呂布奉先も同じだ。違うのは生き様や性格かもしれない。

だってカルデアの呂布奉先が目の前にいる呂布と同じように昼寝している姿は見た事が無いのだ。でも意外な姿はたまに見る。

 

(ウチの呂布はフランと一緒に居る時は優しいんだよね)

 

そのうちフランケンシュタインのパパの座を賭けてジェームズ・モリアーティと呂布奉先が何かするんじゃないかとヒヤヒヤしている。

 

「ん…立香?」

「あ、ごめん。起こしちゃったかな?」

「んん、大丈夫。気にして無い…寝たから元気に成った」

 

睡眠は大切だ。疲れたら寝て元気に成る。それは当たり前だ。

そういえば彼女みたいに何も気にせずに昼寝をした記憶があったような無かったような気もしなくも無い。

少しだけさっきまでの彼女が羨ましいものだ。平和な世界で温かい太陽の光と涼しい風を浴びて昼寝をしてみたい。そんな未来も欲しいものだ。

 

「…お腹空いた」

「そう」

「…お昼寝したらお腹が空っぽ」

「そう」

 

ぐぎゅううううううっと腹減り虫が鳴く。

 

「今度はお腹の音で抗議にしにかかったか」

 

あまり感情の出さない彼女だが、これでも一緒に過ごしていればだいたい何を考えているのかが分かってくる。多くの英霊と絆を紡いだ彼を舐めないでもらいたい。

彼女の考えが代々分かってきた藤丸立香は何故か張遼や華雄に驚かれた。張遼達曰く、呂布の考えが分かるのは凄いとの事。

 

「ん」

 

ぐぎゅうううううううううっと腹減りの抗議は続く。

 

「分かった。ごはん食べに行こうか?」

「良いの?」

「お腹の音を鳴らしておきながら…」

 

彼女は天然なのか狙ってやっているのか。

 

「肉まん食べたい」

「…肉まん売ってるの?」

 

肉まんはどの時代から存在していたのか。三国時代にはそもそも肉まんはあったのか。

一瞬そんな事を考えたが、すぐに考えるのを辞める。肉まんが売ってるならそれで良い。

 

「じゃあ町にでも行ってみる?」

「…行く」

 

藤丸立香と呂布の買い食い道スタート。

洛陽の町並みを見ながら歩き回る。目指すは点心やらなんやら売り出している屋台通りだ。

 

「肉まん」

 

鼻に薫るは食欲をそそる匂い。そういえば何だかんだで時刻は昼頃でお腹が空くのはちょうどいい時間帯だ。

お小遣いなら持っているから今日は昼から買い食いをしても事足りる。ならばもう今日は昼からずっと食べていても良いだろう。

 

「ぬぬぬ、何故こんな奴が恋殿と一緒に!?」

「□□」

「うわ、驚かすなです!!」

 

実は買い食い道のお供に陳宮とカルデアの呂布奉先が加わった。

呂布と2人で街に繰り出そうとしたら後ろからいきなり陳宮から「ちんきゅうきっく」なるものを食らった。陳宮曰く藤丸立香が我が主人の呂布を籠絡しそうに見えたから攻撃してきたとの事。

なんという誤解だ。籠絡なんてできもしないのに。

 

「うるさいです。お前は恋殿を籠絡して…恋殿の、恋殿の玉体を汚す気ですの」

「こんな街中でなんという事を言うんだこのチミっ子は」

「□□□」

「ほら、うちの呂布も微妙な顔してる」

「何でこいつが微妙な顔してるのですか!?」

 

それはやっぱり自分の知っている陳宮がこんなんだからだと思われる。藤丸立香も自分の知っているサディスト陳宮がこの外史だとこんな生意気チミっ子とは予想外だ。

あの呂布奉先も目の前の陳宮を見ると意気消沈して珍しく大人しい。本当に珍しい。

 

「お腹空いた」

「恋殿。街に来なくともご飯なら用意できましたのに」

「ううん。恋、立香と外に出たかった」

「やはりもう恋殿はこいつに…」

「何故そこでそうなるのかな。ほら飴あげるから」

「子供扱いするなですー!!」

 

子供ではないだろうか。

 

「恋も飴ほしい」

「はい」

「餌付けするなですー!!」

「肉まんも買ったよ」

「ん、ありがと」

「うううううぅぅぅ!!」

「ねね。うるさい」

「恋殿!?」

 

何だか忙しい陳宮だ。

 

「□□…」

 

今の言葉を翻訳すると「陳宮だが我が軍師の陳宮ではない也」と言っている。

確かに性格的にも背格好的にも全然違う。似ている処なんて軍師という肩書きくらいだけだ。

 

「もぐもぐ。むぐむぐ」

 

それにしても呂布はさっきから良いペースで肉まんを食べている。まるで肉まんが飲み物のようだ。

見ていて飽きないので追加の肉まんを買って渡す。

 

「もぐもぐ、むぐむぐ」

「もっと食べる?」

「立香も食べる」

「いただきます」

 

呂布奉先と陳宮も肉まんを渡され食べる。4人全員が肉まんを食べるのはまた珍しい光景かもしれない。

たまにはこういう1日もあっても良いだろう。

 

「…ん」

「何かな呂布さん?」

 

じーっと見つめてくる呂布。

 

「…お前は何か良い」

「いきなりだね!」

 

呂布は藤丸立香の傍に居る事が安心できると感じている。まるで董卓の傍に居る様にだ。

彼女とは別の安心感が有るのが呂布にとってはまた良いのだ。

 

「ずっと此所に居ろ」

「うーん、ずっとは無理だなあ」

 

目的がある。ずっと一緒にいることはできない。

 

「…むう、縄で縛る?」

「疑問形でサラっと不穏な事を言わないで」

「ん?」

 

よく分かっていない様子。

 

「……活気があるなー」

 

それにしても流石は洛陽だ。賑やかで活気がある。黄巾の乱が有ったというのに民達は変わらずの生活をして居る。

 

「これも官軍が頑張って黄巾党を倒した結果なのかな?」

 

黄巾党によって多くの民たちは苦しみを受けた。それを守った、守らなかったのも官軍。

守ってもらった民は感謝するが、守ってもらえなかった民たちは恨んでる。そのかわり守ってもらった諸侯に感謝する。

考えていて難しいものだ。頑張って戦っているのに感謝されないというのも有るのは厳しい。そんなのは手が回らなかったというのも有れば、見捨てたというのも有るから何が悪くて何が正しいなんて事になってしまう。

だけど今のこの町の風景は張遼や呂布が戦って守ったモノで有るのは間違いない。

 

「そんなの恋殿のおかげですからな」

 

陳宮は自信満々に答える。

 

「確かに呂布さんは一騎当千で戦ったからね…まるで怖い者知らずだよ」

「そんなの当たりま…」

「そんなことない」

 

ピシャリと陳宮が肯定する前に呂布が否定してくる。

 

「戦いは…戦争は怖いもの。たくさんの人が傷つくのが戦争。皆、傷つきたくないから相手を倒す」

 

前に華雄や張遼は呂布が何を考えているか分からない時が有ると言っていた。

確かに彼女は口数が少ないし、言葉で語るより先に行動を移す。だけど今言った質問や自分の答えを持っているという事は、実は良く考えているのかもしれない。

 

「お前は戦いをどう思ってる?」

「戦いに附いて?」

「うん」

 

いきなりな質問だ。まさかこんな質問をしてくるなんて思わなかった。

 

「恋も戦いは怖い。でも戦わないと生きていけない。だから戦う」

「□□□」

 

カルデアの呂布も外史の呂布が案外考えているのに頷く。彼女の考えは間違っていない。

生きる為に戦う。それは正しい。

 

「生きるために戦う。それは正しいと思う。俺だって今までの旅路はそうだったよ」

 

戦いは怖い。それも正しい。

藤丸立香だって多くの戦いを経験してきたけど、どれも怖かった。

でも怖くても負けられない戦いなのだ。なんせ彼の背中には大きすぎる使命を背負ってしまったのだから。

そんな使命は彼には重すぎる。だけど彼しかいなかった。藤丸立香しかいなかったから、その使命を背負い込んだのだ。

誰かがやらねばならない使命。誰でも良いというわけではないけれど、運命なのか偶然なのか藤丸立香しかいなかったから彼が背負い込んだ。

 

「…戦うという事は生きる為だけじゃ無い。その戦いで誰かを不幸にさせてしまうという事もある」

「誰かを不幸に?」

「何ですかそれは?」

 

自身の願いや正義、生存の為に他者の其れを踏みにじる事や何かを救う為に何かを切り捨てる事だ。

自分が幸せに成る事で誰かが不幸に成る。それは黄巾の乱でもそうだろう。

黄巾の乱で勝ったのが官軍で、負けたのが黄巾党だ。

勝った官軍はいつも通りの生活に、負けた黄巾党は絶望を。これで分かる筈だろう。

戦いに寄って誰かが勝つ事で誰かが不幸に成るという事を。

 

「何を言ってるんですか、黄巾党は悪なんですよ」

 

陳宮は黄巾党が悪だと疑っていない。実際に黄巾党のせいで多くの民達が苦しめられてきたのだから。

どこの町や村に行っても黄巾党が悪と断言するだろう。でも違うのだ。

黄巾党に成った者の中には此方と同じように生きる為に賊に成ったというのも有るのだ。

結局の処どっちも生きる為に戦っている。

 

「黄巾党を倒すのはダメだった?」

「そんな事は無いと思う。倒さないと此方が死んでたから」

「ん?」

「呂布さんの質問に対する答えだけど…戦うっていうのはお互いの曲げられない意思のぶつかり合いだよ。だから自分が背負っているモノの為に相手を倒して不幸にさせてしまうんだ。だけどそれを後悔しちゃうかもしれないけど…止まっちゃいけない」

 

官軍や諸侯にも負けられない理由が有る。黄巾党にも負けられない理由が有る。

それが黄巾党の戦いだったのだ。

 

「…曲げられない意思のぶつかり合い」

「もちろん、この答えが必ずしも正解ってわけじゃないけどね」

「ううん…その考えもいいと思う」

 

呂布は納得したような顔だ。彼女の質問に対する答えがこれでよかったようである。

 

「立香も、それで戦ったの?」

「うん。生きる為に、背負った使命の為に戦ったよ」

 

多く戦ってきた。その後ろには藤丸立香達が自分の世界を救う為に罪なき者達だって置いてきた。

その罪悪感に押し潰されそうだけど命を賭して守ってくれた友と約束したから挫けちゃいけない。

 

「立香は弱いけど…強い」

「なんだそりゃ」

 

武力的なものではない。呂布が言ったのは精神的なものである心の強さだ。

それを分かっているのかカルデアの呂布奉先は頷いていた。

 

 

69

 

 

今日は哪吒と一緒に洛陽の町を練り歩いている。買い食いしたり、町の子供達と遊んだりとしているのだ。

そんな事をしながら町を歩いていると、どこからともなく罵声が響いてきた。どんな場所でも喧嘩とかはああるらしい。

ここが天子様のいる洛陽であってもだ。

 

「ますたー 喧嘩 あっち」

「行ってみようか。だって聞き覚えのある声も聞こえたし」

 

その罵声の中で確かに聞き覚えのある声が聞こえた。ここ最近よく聞く声である。

現場に向かって見ると。

 

「ほれ、遠慮せんとかかってこんか」

 

この声の主は張遼である。

騒ぎの現場では彼女が凛々しい袴姿で仁王立ちになり、チンピラらしい3人組と対峙して居たのだ。

その3人組が何処かで見た事が有るような人物と一瞬思ったが他人の空似だろう。

 

「俺たちゃ、そっちのオヤジに用があるんだよ。関係ないヤツは引っ込んでろ!!」

「ひいぃ!?」

「おっちゃん、ええからウチの後ろに隠れとき。…せやから用事やったらウチを通せってゆうてるねん!!」

「うぐぐ…あ、アニキィ」

「あのな、お嬢ちゃん別にとって食おうってわけじゃないんだ。ちょーっとお願いしたいことがあるだけで…」

「う、嘘つけ。お前らオレに金をたかってきたんだろうが!!」

「てめえは黙ってろ!!」

「ひいぃっ」

「あんたが黙れや!!」

 

会話から察するに3人組に絡まれた人が張遼に助けられているという構図だ。

しかも張遼は挑発してるようでチンピラ3人組はイライラしている。なんとなくだがこの後の展開が読める。

 

「そんな訳の分からない因縁でおっちゃんから金をたかんなや。さっさと帰れ」

「この野郎」

「もういいっ、やっちまえお前ら」

 

チンピラ3人組は張遼の挑発に我慢できないのか武器を構える。

 

「やぁっとやる気になってくれたみたいやな。ほな行くでぇ!!」

 

張遼も自分の背丈由りもずっと大きな偃月刀を構えると、掛け声とともに地面を蹴った。

 

「でえええええやあああああ!!」

 

彼女の細腕のどこにこんな力が有るのか、という勢いで得物が振り上げられ、鋭い剣先が瞬く。

一瞬で2人のチンピラを倒した。

 

「ふっ…あと1人やな」

「くっ、この…」

「なんやまだやるんか? ウチは構へんで」

「くそっ…テメエら、いつまで寝てる気だ!?」

 

あっという間に仲間を伸され、リーダー格のチンピラも流石にこれ以上は部が悪いと判断したのかもしれない。

足元に転がる仲間を容赦なく蹴り上げて無理やり引き起こした。

 

「おら、さっさと行くぞ!!」

「はっ、もう二度とくんなや」

「覚えてやがれよ!!」

「うわあ…これまたつまらん遠吠えやな。もちっと気ぃきかせて、わんわんってくらい言うてみぃ!!」

 

逃げて行ったチンピラの背中に張遼は最後まで容赦なく罵声を投げつけた。

そしてチンピラ達が消えた後、周囲に居た市民達から大きな歓声が上がったのであった。

次々に浴びせられる拍手と称賛に、恥ずかしいと言いつつも彼女は気持ちよさそうに応えている。

 

「どもなー。ありがとー!!」

 

満面の笑みで手を振っていた張遼が、きょとんと眼を見開いて動きを止めた。

その目の先には藤丸立香と哪吒が居たからである。

 

「お見事でした」

「なんや立香に哪吒やーん!!」

「悪党 成敗 見事」

「なーに、こんなん当たり前や」

 

彼女は今日、非番であるようで街中を歩いていたらおっちゃんに絡んでるチンピラを発見して、先ほどのような事に為ったとの事。

先ほどまでの事は彼女の性格上許せなかったからこそ自らの手で助けたのだ。その行為に後悔は無い。

 

「さーて、この後はメシでも…」

「きゃあああああああ!?」

「なんや!?」

 

丁度お腹が空いたから藤丸立香達を誘って食事でもしようかと思ったその時、女性の悲鳴が聞こえた。 

すぐさま現場に走ると先ほどのチンピラ達が小さな子供を抱えて武器を突き立てて居た。

 

「わたしの子を返して!!」

「うるせえ、黙ってろ!!」

 

先ほどの女性の悲鳴はあのチンピラ達に子供を奪われた時に出た悲鳴のようだ。

 

「貴様ら…何しとんねん」

「さっきぶりだな。言っただろ? 覚えてろって」

「その子を早く母親に返しぃ」

「誰が返すかよ。これは人質だ…てめえをボコボコにする為のな!!」

 

人質。こういう犯罪によく聞くし、初歩的で悪人がよくするイメージのもの。

だが効果は何よりも誰よりも酷く効く。下手に動いたら無関係な人の命が消えてしまうのだから。

 

「貴様ら…腐ってんな」

「うるせえ黙ってろ。変に動くんじゃねえぞ!!」

「やるぅアニキ」

「だ、だな」

 

チンピラ達は圧倒的な有利に立って居る。流石の張遼も人質が取られては先ほどみたいに挑発も何も動けない。

 

「う、うああああん」

「黙ってろガキが!!」

 

人質になった子供は泣き叫ぶ。それに対してイラついて怒鳴るチンピラ。

これは最悪な状況だ。もしチンピラのリーダー格の手が滑って子供を殺すなんて事に為ったら最悪すぎる。

そこに居る母親と人質に成った子供は無関係な人達だ。無関係な人たちは巻き込まれてはならないし、傷ついてはならない。

そんな人たちは救わなければならない。

 

「ますたー あいつ等 許せない」

「ねえ哪吒…」

 

隣に居る哪吒を見ると怒りによって目が見開いていて、その目には殺気が籠っている。

子供達に優しき善神を望む哪吒にとって目の前で起きている事は許せないのであろう。もし此所にアタランテが居たら同じ反応をすると思う。

 

「へっ…どうしてくれようかな?」

「あ、アニキ。あの女をぶん殴らせてくだせい。やられた傷がうずくんで」

「だ、だな。オイラもなんだな」

 

チンピラたちは人質を取ってどうしてくれようかとゆっくり思案している。これは自分達が圧倒的有利だと思っているからだ。

 

「俺達に恥をかかせたんだ。同じように恥をかかせてやるぜ!…そうだな、この場で裸にしちまうのもいいかもな」

「おお、流石はアニキ!!」

「だ、だな!!」

 

下品な顔をしながら張遼を舐める様に見てくるチンピラ3人。

 

「こ、この下衆ども」

「そんなこと言っていいのか」

 

剣を子供の喉に近づける。

 

「さっさと脱げや」

「ちょっと待った!!」

 

ここで藤丸立香が手を真っすぐに上げる。

 

「あんだ小僧が邪魔すんな」

 

藤丸立香は両手を挙げて何も武器を持っていない一般人をアピールしながら近づく。

 

「ちょっ、立香はん」

「俺とその子を人質交換しよう」

「はあ、何を言ってんだお前?」

 

確かにいきなり人質交換と言われればチンピラたちの反応も分からないでもない。

 

「その子が可哀そうだ。俺と代わってほしい」

「ア、アニキどうしやすか?」

「そうだな…」

「うあああああん」

「だから黙ってろガキ」

 

子供はずっと泣き叫ぶ。

 

「俺なら泣かないし、何もしない。黙ってる。人質なら大人しい方がいいだろ?」

「…それもそうだな」

 

納得したようで人質交換が行われる。両手を挙げながら近づいて行き、相手の剣の間合いまで入る。

 

「此所まで来たから子供を離して。何もしない」

「ちっ、小僧が。ほらよ」

 

チンピラのリーダー格は子供を乱暴に投げつけた。

 

「あ!?」

 

哪吒は急いで駆け出して子供をキャッチ。そのまま母親に優しく返す。

 

「坊や!!」

「うあああん! お母さああん」

 

良かった、という顔をした後にすぐさまチンピラに顔を向けて殺気を滲み出す。

よくも子供を投げ飛ばしたという想いと、マスターを傷つけたら許さないという二重の殺気である。

 

「大人しくしとけよ小僧」

「はい」

 

子供は助け出したが藤丸立香が代わったというだけでピンチと言う意味では変わらない。

でも変化は起きている。

 

「ほれ、続きだ。さっさと脱げ女」

「ぐ、こんの…」

 

張遼としてはこんな奴らの言う事を聞くつもりは無い。だが藤丸立香を見捨てるわけにもいかない。

 

「おらおら早く脱げやー!!」

 

下品な笑い声が周囲に響き、周囲に居た民達は不安な顔になっていく。

そんな中、藤丸立香は哪吒にアイコンタクトを送る。そのアイコンタクトが逆転の開始であった。

 

「はっはっはっはっは、がふう!?」

 

チンピラがいきなり後ろに吹き飛んだ。

 

「なんだぁアニキ…ゲフ!?」

「…ごふ!?」

 

残り2人も前のめりに倒れる。

その隙をついて藤丸立香は捕縛から抜け出して跳ぶように駆け抜ける。

 

「あと頼んだ哪吒!!」

「了解 ますたー 張遼 お前も来い」

「よっしゃ任せろや! こんな下種共ぶっ潰す!!」

 

哪吒と張遼が怒りの形相でチンピラ達に拳を振るった。

それだけで今度こそチンピラどもとの関わりはお終いだ。張遼達の怒りによってボコボコに成ったチンピラは捕縛されて後から来た華雄達に引き渡した。

 

「おお、霞。非番なのにお疲れだな」

「もうちっと早く来てくれてもなあ」

「んん、何だ?」

 

華雄に労われている中でチンピラを制圧した張遼と哪吒は民達から歓声を受けていた。ただチンピラを倒しただけだが正義が悪を倒すという構図によって歓声を受けているのである。

それでも悪い気は起きない2人なので恥ずかしながら対応している。

 

「ありがとう哪吒、張遼さん」

「ますたー 無事 良かった!」

「ええって、ええって」

 

周囲に居た多くの民達は哪吒と張遼に歓声を上げている。その2人だけにである。

身代わりに為った藤丸立香は歓声は無い。だって悪党を倒してないのだから。だけど歓声が無い事に不満は無いのだ。

藤丸立香は歓声が欲しくて子供の身代わりになったわけでは無い。他人とは言え母親と子供を助けたいから哪吒と協力して身代わり行為をしたのである。

 

「あの…」

「ん?」

「うちの子を助けてくれてありがとうございました!!」

「ありがと。お兄ちゃん!!」

 

評価されない時もあるだろう。でも見てくれている人もいるのを忘れてはならない。

ポンポンと優しく子供の頭を撫でる。

 

「無事で良かったよ」

「ぼく強くなる!!」

「そっか、頑張ってね。君なら強くなれるよ」

 

笑顔で子供の夢を応援する。きっとこの子なら強くなるだろう。

これにてチンピラ達小悪党との関わる事件は終わりだ。後は元々、張遼から誘われようとしていた食事に行こうとの再開である。

 

「なあ立香」

「何かな張遼さん…ズルズル」

 

ラーメンを啜っている時に張遼から名前を呼ばれる。

 

「あん時にチンピラどもがいきなり態勢を崩したよな」

「うん」

「何したん?」

「俺は何もやってないよ」

「そんなはずないやろ。ウチはこの目で立香の懐から何か物体が飛び出してチンピラどもに当たったのを見たで!」

 

あの時チンピラ達がいきなり態勢を崩した。それは普通だったらあり得ないが張遼の目には何か小さな輪っかのような物が飛んでいたのを見たのである。

そしてその輪の様な物は目の前にいる藤丸立香の懐から出てきたのも見た。

 

「したのは俺じゃなくて哪吒だよ」

「もぐもぐ ん?」

 

自分の名前が出たので視線を向ける哪吒。その手には箸で焼売を摘まんでいる。

 

「哪吒はんが?」

「うん コレ」

 

そう言って哪吒が見せたのは腕にはめている乾坤圏。

 

「なんやそれ?」

「乾坤圏」

「ん? どっかで聞いた事があるよーな…」

「えい」

 

哪吒は乾坤圏を宙に軽く投げる。

 

「停」

 

乾坤圏は宙に留まる。

 

「おわっ何や宙に輪っかが浮いてるで!?」

 

驚いた張遼を更に驚かせようと哪吒は乾坤圏を自由に操る。

 

「あんた妖術師やったんか!?」

「違う どっちかと言われれば 道士?」

「同じようなもんやろ。五胡に妖術師がおるって噂で聞いたけど…ほんま者を直に見たのは初めてや」

(五胡?)

「他にもいろいろ出来るんか」

「できる」

「見せてーや」

「見世物じゃない」

「ちぇー」

 

二人の説明で何でいきなりチンピラたちが態勢を崩したのか理由が分かった。

最初から藤丸立香が身代わりになる時には打開策を持っていたのだ。

 

「立香が考えたん?」

「うん。まあ危なっかしい策だったけど…あの後、心臓バクバクだったから」

「いやいや、上手くいったやん。十分良い策だった思うけど」

 

上手く策が成功した。それは良い。

だけど上手くいかなかったら、という事だってあるのだ。

 

「もし、身代わりに応じてくれなかったら。騙されて俺も人質になってしまったら。怒りを買って暴れだしたら…色々とあるよ」

 

策を考えるのは1つだけでは足りない。様々な可能性を考えて幾つも用意するものだ。

カルデアで諸葛孔明の授業でもよく言われている。

 

「なんや他にも策があったんか?」

「うん。これも孔明先生の授業の賜物だね」

 

授業ではよく困らせて申し訳ないが勉強が役に立っているので、今ここで心の中に諸葛孔明に感謝。

後で実際に会って感謝もしないといけない。

 

(色々と片付いたら新しいゲームを買ってあげよう)

「やるやん立香。アンタはいずれ軍師か策士にでもなるんか?」

 

軍師か策士に成る。そう言われてもピンとは来ない。

カルデアのマスターは軍師や策士は違う。

 

「何か違うかな…」

「ん、そうなん?」

 

張遼は頭にハテナマークを浮かべながら春巻きを齧る。

 

「ま、でも今回の騒動の解決は立香のおかげやで。ほんま助かったで」

「うん ますたーのおかげ 偉い」 

 

策を考えた藤丸立香のおかげで打開できた。これは紛れもない真実だ。

 

「でも倒したのは2人じゃない。2人を信用してたからできた策だよ」

「こら。これはあんたの功績でもあるんやから胸を張りぃ」

 

バシバシと肩を叩いてくる張遼。謙遜も良いが自分の功績は胸を張るべきだと教えてくれる。

藤丸立香は戦えない。でも、怖くても自ら足を歩める勇気と強さを持っている。

優秀で才能ある仲間達の主である彼は何ができるのか。最初はそればかり思っていた。

凄い者達の主のくせに、これといって活躍はあまり聞かない。でも今日の事でやっと分かった。

ただの善人というわけでは無く自分の出来る事を出来る範囲でこなしている。身代わりなんて自ら代わるような人間はそうそういない。

今まで一緒にいて、人助けや並々ならぬ信念からの行動などに対しては損得勘定抜きで真摯に応える姿勢を貫いている人物だと思った。

その良さが哪吒達が主として認めている1つなのかもしれない。

 

「やっぱあんたは良いやつやな立香」

 

ニカリと笑う。

 

「あんたは、変わらずそのまま良い奴でいてな」

 

 

70

 

 

張譲は策を考える。どうやって邪魔な何進達を消すかを。

彼女の妹である何太后は霊帝の妃。普通に消しては怪しまれる。それに何進の回し者が自分である張譲について調べている。

おそらく黄巾党のつながりがあると踏んで調べているのだろう。確かにあるからもみ消したが、何進の事だからどこからか炙り出す恐れがある。

 

(だからこそ今の何進は邪魔だ)

 

今の霊帝は十常侍の1人である趙忠が骨抜きにしている。最もあの彼女は本当に霊帝を甘やかしているのだが。

だけどそれだけでも此方としては助かる。上手く霊帝を操れるかもしれないからだ。

 

(だが霊帝も力が弱まっている。なんせ政事に興味が全くないからな。アレはただ美食を食う日々を過ごしているだけだ)

 

そうなったのには十常侍の彼女にも責任の一端がある。

 

(あいつは惚けた顔して腹黒いからな。余計な情報を霊帝に流さないのには良い働きだ)

 

趙忠が張譲にとって良い働きをしてくれるのならまだ残す必要はある。

 

(いずれは十常侍の見直しも必要だな。それにしても于吉は最近顔を出さないな。それほどまで妖馬兵の準備に時間が掛かるという事か?)

 

妖馬兵は張譲が待ちに待っている戦力。それさえ手に入ればすぐにで何進だろうが呂布だろうが倒せる力なのだ。

 

(まあ、良いさ。妖馬兵が来るまで朝廷をより我が手で絡めてみせる。その為に邪魔者は消してやる)

 

張譲はより力を得る為にまだまだ洛陽で策を巡らせる。それが漢王朝の衰退であると分かりながら。

 

 

71

 

 

漢の大将軍である何進は妹の何太后と密やかに会話をしていた。

 

「あの暗君め」

「姉さま。どこに耳と目があるか分かりませんよ」

「ここなら安全だ。瑞姫だって暗君のご機嫌取りは飽きただろう。それに張譲も邪魔すぎる。あの魑魅魍魎の十常侍めが」

 

何進は大将軍なって全て人生上手くいくものかと思えば、実際は心労ばかりだ。最近は霊帝のご機嫌取りと十常侍の睨み合いばかりな気がする。

張譲に関しては、調べていくとキナ臭い事が分かった。それは黄巾党と繋がっていたという事。もしそれが本当ならば、それをネタに張譲を消すことができるのだ。

だが調べさせるように部下に任せたが未だに良い情報は持ってこない。もし、情報が無くともいずれは消す算段は他にも考えている。

 

「褒めたくはないが、もみ消すのはお手の物か張譲め」

 

張譲だけでなく十常従の全てを消さねば安心はできない。ここ最近は対立が明確になっているから近いうちに此方から仕掛けないとマズイだろう。

だからどうやって上手く策を実行させるかだ。

考える事やストレスによって最近は彼女の酒の量が増えたかもしれない。

 

「ところで姉さま。最近というか前から董卓のところに面白い客将が居るのを知ってる?」

「何だそれは?」

「どれも優秀な人材らしいわよ。武力も知力も揃ってる人達だとか」

「董卓の所に居るのが勿体ないではないか!」

 

今の状況では優秀な部下ができるだけ多く欲しい。全ては周囲の敵を倒す為と自分達を守るため。

大将軍と霊帝の妃という位にいるとはいえ、安全というわけでは無い。逆に国のトップの位置に近い程、足元が危険なのだ。

いつ狙われても、暗殺されてもおかしくはない地位である。

 

「それに良い男もいるみたい」

「ほお、それはそれは!」

 

ニヤける何進。

 

「その人たちは1人の主に仕えて旅をしていた集団みたいでね。その主とやらを籠絡すれば董卓の元から奪えるかも」

「なら…」

「試してみましょうか」

 

実は何太后、前にチラリと董卓の所で客将をしている集団の主である男とやらを見た事がある。

その男は何太后になかなか好みの男性であったし、誘惑すればすぐにでも籠絡できそうな感じであった。

籠絡さえできれば董卓のところからごろりと人材を奪えるだろう。

 

(なんて名前の子だったかしら?)

 

まさか、そんな事が話されているなんて藤丸立香は思うまい。だがこれで藤丸立香たちは宮中での闇に少しずつだが巻き込まれ始めているかもしれない。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください(たぶんまた来週予定)

今回は呂布と張遼たちの日常回でした。
それとちょいちょい、次回からは日常回だけではなく、本編に繋がるような話も入れていこうと思ってます。

次回はどうしようかな…何太后や卑弥呼とかの話にしようかな。
では、また

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