Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
FGOホワイトデーのイベント面白かったです。
怪盗天草はノリノリでしたね。館長さんも良いキャラでした。

そして今回のイベントで弟が出来た藤丸立香(ぐだ男とぐだ子)。
ジャンヌ三姉妹、母の源頼光、弟のボイジャー、ダディのモリアーティ等々。
嫁や彼氏は多すぎる。とんだ大家族だぜ。

さて、それよりも本編をどうぞ。
今回から日常編に入ります。日常編は何話にするか検討中。
日常編が終わったらまた八傑衆(呉)編?に戻ります。

最近は色々と忙しくて更新が遅くなっていくかもしれません。
すいませんがゆっくりとお待ちください。


孫呉の日常1

581

 

 

孫呉でのちょっとした日常。

 

「虞美人を一言で言うなら?」

「ネタ枠」

「どういう意味よ後輩」

 

虞美人のボディブローが藤丸立香にクリーンヒット。

地面に沈む藤丸立香。何処からともなくゴングの音がカンカンカンと聞こえた気がした。

 

「大丈夫、立香?」

 

ツンツンと突く小蓮。

 

「あの…マスターに容赦なさすぎでは?」

「こいつにはこれくらいでいいのよ蘭陵王」

 

今、彼らは何をしているかと言われれば中庭で飲茶をしている。

飲茶の参加者は藤丸立香、虞美人、蘭陵王、雪蓮、蓮華、小蓮。

言い出しっぺは雪蓮で「虞美人の事をよく知りたいから飲茶しよう」と言い出したのだ。そんなものは無視するのが虞美人であるが藤丸立香と蘭陵王に頼み込んで連れ出したのである。

 

何故、雪蓮は虞美人と飲茶したいと理由は簡単だ。虞美人に興味があるから。

正直に言って虞美人からしてみれば「面倒くさい」の一言である。一応、呉でお世話になっているのだから少しくらいは雪蓮の要望を受けないとどうかと言うものだ。

しかしそれは人間にとっての感性だ。虞美人にとって人間の感性なんてどうでもいい。

 

「私はぐっちゃんと仲良くなりたいのよね」

「お前までぐっちゃん言うな」

 

藤丸立香が虞美人の事を「ぐっちゃんパイセン」と言うからつい雪蓮も「ぐっちゃん」と言ってしまう。彼女もまた肝っ玉のある女性なのだ。

虞美人に興味があるから近づきたい。その考えが危険なものでも雪蓮は近づこうとする。彼女はそういう女性だ。

 

「お前ら人間と仲良くする気はない」

「えー、でも立香と蘭陵王とは仲良いじゃない」

「蘭陵王はともかく後輩とは仲良くない」

「ぐっちゃんパイセン酷い」

 

ちょっとショックを受けた藤丸立香。

 

「白々しいぞ」

 

軽く小突かれる。

 

「どうやって仲良くなったのよ立香、蘭陵王」

「色々とイベントをこなした結果かな」

「いべんとって何よ」

「私はただ虞美人殿と真正面から語り合っただけです」

 

蘭陵王は虞美人を恐れず、真正面から彼女と向かい合った数少ない人間。だからこそ虞美人は蘭陵王に対して嫌悪感もわかず、信頼できるのだ。

 

「その真正面から語り合うって具体的には?」

「ふふ、実際に雪蓮殿はしようとしてますよ」

 

雪蓮は最初こそ奇異な目で見てしまったがその目に恐れや嫌悪は無い。純粋に興味があり、仲良くしてみたいと思っているのだ。

虞美人を恐れない雪蓮を見て蘭陵王は微笑ましく感じてしまう。異世界であれど、虞美人を理解してくれる人間になってくれるかもしれないと思ったのだ。

 

「だから立香のいべんとって何よ」

「色々だよ。色々」

 

幕間だったり、閻魔亭だったり、ラスベガスだったり、サマーキャンプだったり。

 

「ネタ枠になった原因だよね」

「よく分からないけど殴って良い後輩?」

「嫌です」

 

ジャブを避ける。

 

「そう言えば立香は何で虞美人さんから後輩なんて呼ばれてるの?」

「うん。シャオも気になった。何で後輩なの?」

 

蓮華と小蓮はずっと気になっていた事を聞く。

藤丸立香と虞美人の関係だ。何故か後輩と呼ばれている理由が分からない。

 

「私が先輩。こいつ後輩。それだけ」

「それって理由になってないと思いますけど」

 

苦笑いをしてしまう。

 

「働いている所が一緒なんだ蓮華さん」

「もしかして天の国でって事?」

「そういう事」

 

天の国をカルデアに変換すれば確かに同じ職場で働いている事にはなる。

 

「だから後輩なのね」

「てか、虞美人さんって天の国に行ってたんだ。どうやって天の国に行くの?」

 

藤丸立香は天の国の人間。虞美人が彼の先輩ならば、彼女は天の国に行った事へ繋がると小蓮は考えた。

 

「はあ?」

「天の国の行き方教えて。わたし、立香が住んでる国に行ってみたいなーって」

「あ、それ私も聞きたいなー」

 

雪蓮も興味津々だ。度々出てくる『天の国』というワード。

呉の頭脳である冥琳ですら天の国への行き方が分からない。そもそも天の国が何処にあるかすら分からない。

ただきっと凄い国、良い国なんだろうっというくらいしか想像できていない。

だからこそ天の国が気になるのだ。

 

「知らないわよ」

「えー、そんなわけないでしょ」

「………アラヤとでも契約してみればいいんじゃない?」

「あらや?」

「ちょ、虞美人殿…」

「ふん」

 

『アラヤ』と答えてくれたが孫呉三姉妹は全く分からない。

雪蓮は後で冥琳や穏に聞いてみようかと思った。

 

「ところで項羽、項羽って言ってるけど」

「様を付けろ人間」

「項羽って生きてるの?」

 

ずっと気になっていた事を聞く。これもまた全員が気になっていた事である。

虞美人は毎日「項羽」と呟いているのだ。項羽は過去の人間であり、既に死んでいるというのが雪蓮たちの認識だ。

誰もが同じ認識。彼女たちの世界では項羽は死んでいるというのが当たり前の事。しかし目の前の虞美人はまるで項羽が生きているかのような口ぶりである。

 

「項羽様が死ぬわけないでしょう。何を言ってんのよ」

「え、じゃあ項羽もぐっちゃんみたいに人間じゃなかったって事?」

「まあ、そうだね」

 

答えたのは藤丸立香。

項羽は人間ではない。哪吒と同じように宝貝人間のような存在。

 

「あの項羽も人間じゃなかった……そう考えると文献に記されている戦歴はすんなりと納得できるわね」

「虞美人さんも項羽も人間ではなかった。劉邦はこの事を知っていたのかしらね」

「劉邦ねえ」

「あ…」

 

すぐに手で口を抑えた蓮華。

 

「てか、様を付けなさいよ。人間ども。さっきからさっきから…!!」

「え、そっち!?」

 

劉邦の事よりも項羽に様付けしない方が気になるようだ。

 

「その項羽…様がもしかしてこの大陸にいるという事なの?」

 

虞美人はずっと項羽を探している。この大陸で探しているということは項羽が大陸の何処かに居るという事である。

だからこそ藤丸立香はすぐに項羽を探しに行こうとする虞美人を説得して呉に滞在している。

どうやって説得したかというと、呉を中心として探しましょうと言っただけ。あとは蘭陵王と一緒に頭を何度も下げて呉に滞在する事を何とか許してもらえたということだ。

 

「あの項羽がねえ」

「だから様を付けろ。そろそろ怒るぞ」

 

ビキビキと額に血管が浮き出ている。

 

「ぐっちゃんパイセン。エタっちゃだめだからね」

「エタるわ」

 

今の言葉遣いは清少納言の影響かもしれない。

 

「えた?」

「エタったらここら一帯が凄惨な光景になることだけは確かです」

 

誰も内臓がそこらに飛び散って呪いが渦巻く空間は見たくない。

 

「と、取り合えず見ない方が良いって事ね」

 

藤丸立香と蘭陵王の顔から「エタる」は色々とマズイというのだけは分かった蓮華。

 

「私はちょっと見てみたいけど」

「シャオも」

「後悔するよ」

 

真顔の藤丸立香と蘭陵王。

 

「そ、そうなの…」

「シャオはそれでも気になるけど」

 

もしかしたら、いずれ彼女たちも虞美人の宝具を見る時があるかもしれない。その時はある意味驚くはずだ。

 

「それにしてもぐっちゃんパイセンは第二再臨の姿なんだね」

「文句あんの?」

 

現在の彼女の姿は第二再臨。ついでに蘭陵王も第二再臨。

 

「いや、無いけど」

「私としてはもう少し露出を抑えた方が良いと思うのですけどね。そもそも前にも言ったはずですが…」

「それはカルデアでの話でしょーが。ここだと第一だろうが第三だろうが変じゃないでしょ。それに…」

 

チラリと雪蓮たちを見る。

 

「それにここだと露出は普通なんでしょ?」

「いや、私たちを見て露出が普通って言わないでもらえる?」

 

孫家三姉妹はどちらかというと露出が多い服装を着ている。彼女たちだけでなく孫呉の関係者はなんとなく露出が多い服を着ているイメージが強い。

魏や蜀の皆と比べると何故か呉は露出の多い服を着ていると思った藤丸立香はスケベなのかと自分自身でも考え込む。

 

「私とこいつらを比べても服装はあまり変わらないでしょうが」

 

虞美人と雪蓮たちを見比べる藤丸立香と蘭陵王。

 

「「うう~ん」」

 

唸ってしまう。

蓮華と小蓮はともかく、雪蓮に関しては虞美人の服装は似たようなものだと思える。

 

「ここではこの姿が普通なのよ」

「ちゃんと言っておくけど私は露出狂じゃないからね」

 

服装は国や地域によっての文化だ。だから国が違えば服装の違和感を感じるのは当然である。

 

「ここではどんな格好でも良いでしょ」

「どんな格好でもよくありません」

「あの…この国は露出の国って思わないでくださいね」

 

このままだと呉が露出の国だと思われる。蓮華は何度も何度も強調するしかなかった。

 

「ぐっちゃんの話とか聞きたいけど」

「だから人間どもに話す事は無い」

「なら項羽…様の話を聞きたいわ。きっと文献とは違う内容がありそう」

「何で貴様らに項羽様の話を…」

「いいではないですか。項羽殿の武勇を伝えるのは悪いことではありませんよ」

 

異世界とはいえ、項羽の武勇を伝えるのは悪い事ではない。

何も外史に影響はないのだから話す事くらい大丈夫なもの。

 

「蘭陵王…」

「オレも項羽の話を聞きたい」

「後輩まで……ったく。長いわよ」

「全然構わないわ」

 

ニコリと笑う雪蓮。

 

「当時の項羽の話を聞けるなんて貴重な体験だわ」

「面白そう!!」

 

蓮華も小蓮も項羽の話に興味津々だ。

 

「いい、項羽様はね…」

 

これから長い長い項羽についての話が始まる。途中で項羽と虞美人の惚気話も加わるのだか、それもまた良し。

昼から夕方まで話は続いた。そんな中で項羽の話をしている時だけは虞美人も機嫌が良かったのであった。

 

「あ、まだまだ項羽様の話は10分の1も終わってないからね」

「昼から夕方まで話しても!?」

 

 

582

 

 

スヤスヤと気持ちよく寝ている藤丸立香。レムレムではない。

レムレムして異世界からまた異世界や別時空に跳んだから、もはや自分自身のレムレム睡眠が怖くなるものだ。

ゆっくりと瞼が開いていくが眠気が強いのでまた閉じそうになる。瞼を閉じた瞬間に二度寝へと突入するのは確実だ。

ここはもう二度寝するしかないと思ってすぐに瞼を閉じたが、予想しなかった展開になる。

 

「立香ーーー!!」

「うわああ!?」

 

朝っぱらから大きな叫び声でたたき起こされたのだ。

 

「ほら、早く起きなさーい」

 

目の前には雪蓮の顔がどアップで迫っていた。

つい後退しようとするが身体は彼女に抑え込まれてしまって全く動けない。

 

「失礼ね。人の顔見ていきなり後ずさりしようとして…怪物みたいな顔してるかしら?」

「目に映っているのは綺麗な雪蓮さんです」

「あら、ありがとう。立香の寝顔も可愛かったわよ」

「そりゃどうも」

 

いきなりたたき起こされて靄がかかっていた頭の中がだんだんとクリアになっていく。

窓から差し込む日差しはキラキラと眩しく、室内に流れる空気も朝の爽やかさに満ちていた。

 

「ふわぁ…で、いきなり朝からどうしたのさ?」

 

朝起きたら誰かがマイルームにいるなんて当たり前なのですぐ冷静になる。

 

「朝這い?」

 

朝からスルースキルを使おうかと思ってしまう。

 

「うふふ。冗談よ」

「朝から元気ですね」

「立香も朝から元気じゃない」

 

彼女は視線を下げる。すぐに布団を覆って隠す藤丸立香。

 

「胤なんだから、そのくらい元気じゃないとね」

「ただの生理現象です」

 

まるで何処かのエロゲだかライトノベルの主人公みたいなやりとりをしたような気がしたが頭の片隅に置いておく。

まずは雪蓮が朝早くから部屋に侵入してきた理由が知りたい。

 

「それよりも早く起きてよ。私は急いでいるんだからさー」

「本当にいきなりなんなのさ」

「はい。起きて!!」

 

服を無理やり引っぺがそうとしてくる。

 

「分かったから。起きるから。着替えるから服を無理やり脱がそうしないで」

 

着替えるから部屋から出て行ってもらおうとお願いする。

 

「私は気にしないわよ。どんどん着替えてちょうだい」

 

ニヤニヤと笑っている雪蓮を方向転換させて出口へと無言で導く。

 

「やーん、何よー。立香のケチー!!」

「はいはい。外で待っててねー」

 

カルデアでは色々ともう見られているというか覗かれているがプライバシーはやはり大事である。

 

「ぶーぶー。もう、早くしてよねー」

 

結局意味が分からないまま急いで早着替えをして文字通り早く雪蓮の元に顔を出す。

 

「早いわね」

「早着替えは特技です」

「じゃ、行くわよ」

「何処に」

 

無理やりたたき起こされた理由はまだ説明されていない。

仕方ないと諦めて自分自身で予想する事にした。朝起きて基本は何をするか想像。

 

「朝飯?」

「ええ。今日は川で魚釣って食べよー!!」

「今から!?」

 

驚く藤丸立香に雪蓮はニッコリと微笑むと背中に隠し持っていた釣り道具を嬉しそうに取り出した。

朝起きたら朝食を食べるのは1日の始まりであるが、まさか食材調達から始まるとは流石に想像できなかった。

 

「大自然の恵みを堪能するのよ」

 

彼女の顔はとても楽しみにしている顔であった。

 

「今から食材調達かぁ」

 

朝からやるような事ではないので正直に面倒だと心の中で思ってしまうが、あれよあれよと雪蓮に連れ出されてしまう。

気が付けば緑が生い茂る林の中を歩いている状況だ。

 

「立香ってば早くー!!」

「そんなに急がなくても」

 

彼女は長いドレスの裾を翻して小川への道を軽々しく駆けていく。その足取りから本当に楽しんでいるのが分かる。

 

「ねえ雪蓮さん」

「なに?」

「なんで釣りなのさ。釣りが好きなんだっけ?」

「ううん」

 

笑顔で否定。嫌いというわけではないが好きというわけでもない。普通といった意味を感じられる返事であった。

 

「昨日の夜ね、寝ようと思って布団に入ったら急に子供の頃に食べた焼き魚の味を思い出しちゃって」

 

どうやら思い出しの思いつきで動いたようだ。思い立ったら吉日という言葉があるが本当に実行している人も珍しい。

 

「焼き魚か。美味しいよね」

 

雪蓮の行動力は置いておいて、釣った魚を焼いて食べるのは悪くない。寧ろ最高と言ってもいい。

自分で焼いた魚は美味しくないはずがない。

 

「あの時も確か冥琳や蓮華と川で釣りして、自分たちで火を起こして焼いて食べたの」

「へえ」

「それがすーっごくおいしいわ、楽しいわでね。思い出したらもういてもたってもいられなくなって、すぐに釣竿を探して小川に向かったんだけど」

「夜中に?」

「そうだよー。女1人で夜釣りってのも乙なものでしょ。けど、冥琳に見つかってさ」

 

そこまで話して、雪蓮は大きなため息を吐く。

 

「釣竿取り上げられちゃったのよ。酷いよね」

「冥琳さんが正しいと思う」

「えー!?」

 

まさか夜中に釣りをしに行こうとしていたとは思わなかった。予想以上に行動力のあるようだ。しかし夜釣りも悪くは無い。

ただ雪蓮は己の立場を分かっていないのかもしれない。彼女は今や呉の王だ。

 

「何処に誰が潜んでいるか分からないに一人で夜中に山に入るのは危険でしょ」

「ぶーぶー、そうかなぁ」

「そうです」

 

自分の立場をよく考えろと冥琳にも言われたはずである。

 

「だから朝から再度挑戦ってわけね」

「そ。冥琳から釣竿を取り戻して誘いに行ったわけ。立香にも大自然を満喫してほしくてね」

「そう言う事ね」

 

彼女の行動力には呆れたというか驚いたが、藤丸立香も実は今の状況を楽しんでいる。

朝早くたたき起こされた時はどうしようと思っていたが、だんだんと楽しいと思い始めている。

 

「正直に言うとワクワクしてる」

「でしょー。私も昨日は楽しみ過ぎて、あまり眠れなかったんだから」

「遠足に行く前の子供か」

「ほら急ぎましょ。早くしないと魚が居なくなっちゃう」

 

雪蓮の左手がごく自然に藤丸立香の右手を掴む。

そのまま2人は手を繋いで走り出す形になる。彼女の長い髪が風に揺れて藤丸立香の頬の上をかすめた。

 

「早く行きましょ」

「早く焼き魚食べたいしね」

 

釣竿を肩に担ぎ直し、雪蓮と一緒に山道を走り出した。

小川に着いてから2人は早速ほど良い岩場に陣を取り、釣り糸を垂らした。ポチャンと音が立つのも良いと思えてしまう。

やはり朝早いので他の釣り人は見当たらない。今は2人だけの独壇場みたいなもの。

聞こえてくるは虫の鳴き声、鳥の囀り。風に揺れる葉擦れの音。心が安定する感覚を覚える。

ちらりと横目で雪蓮を見ると真剣な表情で水面の浮きとにらめっこしていた。

 

「なに?」

 

視線に気付いたのか彼女の方から話しかけてくる。顔は浮きの方を向いたままで魚が食いつく様子は無い。

 

「まさか自分から誘っておいて1人で釣り糸に餌を付けられないんだなーって」

 

実は雪蓮は釣り針に餌を付けられなかったのだ。

まさかの事実に一瞬だけ呆けてしまったほどである。釣り針に餌が付けられないのにどうやって釣りをするつもりだったのか聞いてみたいものだ。

 

「む。仕方ないでしょう。いつも冥琳がやってくれていたんだもの」

「もしもオレが出来なかったらどうするつもりだったのさ。てか、夜中に釣りに行けた場合1人だったでしょ。それこそどうするつもりだったのさ?」

「なんとかなってたわよ。それよりもこれ、いつになったら釣れるのかしら?」

 

浮きを睨みつけたまま唸るように尋ねてくる。

彼女の眉間にはくっきりと三本の縦じわが刻まれていた。

 

「まだ始めたばっかじゃないか」

「そうかな。もう結構経つと思うんだけど」

「釣りは焦っちゃ駄目。基本は気長に待つものだよ」

 

釣りは必ず釣れるとは限らない。ボウズ、1匹も釣れない事もあるのだ。

釣りは魚を釣るのが楽しいが、他にも楽しむ事はできる。浮きを睨めっこするだけでは楽しめない。

集中しすぎるのではなく、息を抜いて景色や自然の音色を楽しむのも釣りを楽しむコツである。

 

「昔はぽんぽん釣れたのになー」

「調子の良し悪しもあるものだよ」

「そんなもんかしら」

 

頷きながらも彼女の顔はしかめっ面のまま。どうやら釣り向きの性格ではないかもしれない。

それから時はゆっくりと過ぎてく。静かな水面に並んで浮かぶ2つの浮き。長い時間見つめているが浮きはピクリとも動かない。

深呼吸でもしてみると、胸いっぱいに爽やかな空気が流れ込む。とても新鮮な空気だ。

山奥であれど晴れた日の朝となれば心地よい。青々と輝く木々の葉も、朝露を拭き三少し肌に冷たい空気も心地よいものだ。

 

「あー、もう。つまんない!!」

 

リラックスしていたが横から台無しにしてくれる癇癪が聞こえる。

 

「釣竿を投げないで」

「ねえ、何で釣れないの!!」

「雪蓮さんの忍耐が足りないからじゃない?」

「もう、いい。やめ!!」

 

まさかの一言が聞こえてしまった。

 

「ちょ、止めるって。何を言い出すんだ」

 

誘っておいて、魚が釣れないから止めるとはどうかと思ってしまう。

そもそも魚を釣るのはある意味、我慢比べのようなもの。すぐ飽きてしまう人には釣りは出来ない。

 

「立香ー、おなか減ったー」

「減ったお腹を膨らませる魚を今、雪蓮さんは諦めたけど?」」

「なら立香は諦めないでね。心ゆくまで釣りを堪能して、たくさんお魚を釣っておいて頂戴」

「いや、本当に誘っておいてそれはどうかと思う」

「ずっと座ってて腰も疲れたし、ちょっとその辺を散歩してくるわ」

「自由すぎる」

「駄目?」

 

小首を傾けて上目遣いに可愛く「駄目?」と言いながら覗き込んでく。

その仕草ならば誰もが許すかもしれないし、許さないかもしれない。

 

「可愛いな」

「ふふ、ありがと」

「はいはい。散歩に行ってらっしゃい」

 

藤丸立香は許してしまう方だ。

きっと冥琳たちも許してしまいそうである。

 

「えへへ。それじゃ、またあとでね」

 

彼女はにっこりと微笑むと素早い動きで山の奥へと入って行った。木を登り、道ならぬ道を進み、岩場を駆け上がっていく。

もはや散歩ではなく探索というのが似合う。待つよりも動く方が彼女には性が合っているというのが丸分かりだ。

藤丸立香は彼女の姿が見えなくなったらもう一度、視線を浮きに戻すのであった。

 

「あ、かかった」

 

浮きが急に沈み、すぐに釣り糸を上げると生きの良い魚が釣れた。

不思議な事に雪蓮が居なくなった途端にこれまでちらりとも姿を見せなかった魚が餌にどんどん喰いつき始めた。

入れ食い状態と言うわけではないが、流れが来たというのが実感できる。

やはり魚が連れ始めると楽しくなってくる。少し興奮しながら藤丸立香は魚を釣り上げていく。

 

「このぐらいかな」

 

釣れた魚を針から外し岩場に敷いた葉の上に置く。釣れた魚は合計で4匹。

2人で食べるなら十分な量だ。大きさも申し分なしで食べがいがある。

 

「魚を焼く準備でも始めよう」

 

歩き回って枯れ草や木の枝を集める。具合の良さそうな地面の上に焚火の準備をする。

 

「さて、火は前みたいに概念礼装で起こすか」

 

傾と一緒に熊の肉を食べた時の事を思い出す。熊の肉は美味しかった。

 

「おー、魚が釣れてる!!」

「おかえり雪れ…おわっと」

「すごいじゃない立香。沢山釣れてるじゃなーい!!」

 

首元に抱き着いてくる雪蓮。よく見ると彼女は何かを採取してきたようだ。

果物や木の実、キノコなど山の幸が山盛りだ。

 

「雪蓮さんの方も大量だね」

「でしょ。自然の恵みを堪能しましょって言ったでしょ。あとで魚と一緒に食べようね」

「ありがとう雪蓮さん」

「立香こそ、魚ありがとね。早く焼いて食べよう。私もうお腹ぺっこぺこだよー」

 

焚火の準備をされているのを見て雪蓮は剣を取り出す。

 

「後は火を付けるだけじゃない」

「何で剣を抜いたのさ?」

「見てて」

 

周辺に生えている草の中から綿毛のあるものを採取し、剣先を石に打ち付けた。すると火花が発生し、飛ばした火花を綿毛に引火させる。

そのまま集めた枯れ葉や木の枝に移すとメラメラと燃え始めた。

 

「おおー、見事」

「ふふっ。火を熾すのは昔から得意なのよ」

 

鮮やかな手前。釣り餌を付けられなかった人には思えない。

 

「一言多い」

 

軽く小突かれる。

 

「それよりも早く魚焼こう。お腹空いたし」

「そうだね」

 

2人は葉の上の魚を手に取ると竹で作った串を刺していく。

 

「塩とかあるよ」

「良いわね。てか、何で持ってるのよ?」

「野宿するのに調味料は必須だから」

 

特異点でのサバイバル生活を思い出す。味付けが無くても食べられる事自体が感謝ものだが食べる物にもよるのだ。

例えば第六特異点でのゲイザー肉を食べた時など。あの時は食べる物がゲイザーしかなかったのでしょうがないが、食べようと思えばモンスターが食べられると分かった瞬間であった。

 

「立香もこういう経験があるんだ」

「うん。ゲテモノは相場は美味だなんて言うけど色々と味付けを工夫しないと食べられないのもあるからさ」

「なんか立香が遠い目をしてる」

 

ゲイザー肉を食べた以降は時折ゲテモノを食う事になるとは思わなかった。海魔のゲソ焼きなどはある意味良い思い出である。

 

「毒耐性があるからって面白半分で変な物とか食わせる奴いるし…」

「なに喰ったのよ」

「なんかよく分からない物」

 

塩を塗した魚を焚火に囲うように地面に刺していく。

ゲイザーやら海魔を食べた事を思い出したが今回は絶対に美味しいはずだ。

 

「立香も思い出したように私も思い出すなー。子供の頃は母様に引っ張られて今みたいに野宿みたいな事をよくやってたわ。これも修行だとか言ってね」

「なんとなく想像できるよ」

 

炎蓮が雪蓮たちを無理やり引っ張って山に向かう姿が目に浮かぶ。

修行とか言っていたらしいが、もしかしたら炎蓮なりの親子のコミュニケーションを取っていたかもしれない。

 

「それが染みついたんでしょうね。母様がいなくても冥琳や蓮華と野山で遊ぶ事が何度もあったし」

 

現代は漫画やらゲームやらで外で遊ぶ機会が少なくなっている。昔は娯楽が少なかったから山や川で遊ぶのが当然であった。

特に決められた遊びは無いが何か勝手なルールを作って遊ぶのが子供。山や川へ行けば好き勝手遊ぶものだ。

 

「魚を釣るのはいつも冥琳。焼くのが私」

「なんとなくだけど分かる」

「ふふ、でしょう」

 

談笑しているうちに魚の表面が焼けてきて香ばしい匂いが漂い始める。

 

「あ、そうだわ。これも火にかけなきゃ」

 

彼女が取り出したのは竹包みであった。

 

「もしかしてお米?」

「正解。こうやって火にかけておけば美味しいお米が炊けるわ」

 

彼女は昨日の夜眠れなくてワクワクしていた。その結果、張り切って準備したという事。

それはまさに竹で作った飯ごうだ。キャンプを想像してしまう。

 

「さ。魚もご飯もまだ時間がかかるし、果物でも食べて待ちましょ」

 

そう言って果実を渡される。

少し黄色がかった赤色の小さな桃のような果実。それは李(すもも)。

シャプっと齧ると酸味と甘みの果汁が口の中に広がる。瑞々しい李が乾いた喉を爽やかに潤した。

 

「自然の恵みに感謝だね。旨い」

「でしょ。この実で造ったお酒もとーっても美味しいのよ」

「雪蓮さんが言うなら間違いないね。伊吹童子たちが喜んで飲みそうだ」

「いぶきどうじ?」

「オレの仲間」

 

流石に神様とは言えない。

 

「たまにはこういうの良いかもしれない」

「そうね。でも最近はこういうことも減ってきちゃったね。蓮華たちとも別任務で何か月も顔を合わせないっていうのも珍しくないし。そもそも私自身、軍務で忙しくて時間がとれなくてさ」

 

ゆらゆらと萌える炎を見つめて雪蓮は切れ長の瞳を細めた。

どこか遠くを見つめている表情。激しい戦いが続く毎日で、こんなのんびりとした時間は彼女にとって貴重なものかもしれない。

彼女の気持ちは分かる。藤丸立香も今みたいにゆっくりするのは久しぶりだ。

カルデアでは「久しぶりに休暇と取ってくれたまえ」と言われても何だかんだで事件が発生する。休暇を取ろうとしても事件解決の為に走っているのだからゆっくりも何もない。

 

「朝早くからたたき起こされた時はどうかと思ったけど、こういうのも良いかもしれない」

「でしょ。私に感謝してよねー」

「図々しいな、おい」

 

お互いに軽く笑いあう。

 

「そろそろ魚はいけるんじゃない?」

 

焼き魚を手渡してくれる。

 

「ご飯の方は、もう少しかかりそうだね」

「それじゃ、いただきます。命を食すのだから、きちんと感謝の心を捧げないといけないわね」

「そうだね。全ての食材に感謝を込めて…いただきます」

「いただきます」

 

2人は改めて手を合わせてお辞儀をする。

こんがりと焼き上がった魚にかぶりつく。適度に脂ののったクセのない白身。川魚なのでパリパリと焼けた皮ごと食べられる。

塩も効いていて、ついがっついてしまう。旅行とかで出かけた先でアユの塩焼きの味を思い出す。

今食べている魚はアユではないが。

 

「美味しー!!」

「雪蓮さん」

「はぐはぐ。ん、なに?」

「誘ってくれてありがとう」

 

本当に気分転換になった。ゆっくりのんびりと魚を釣って食べる日常を与えてくれた事に素直に「ありがとう」だ。

 

「いいわよ。それに私も気分転換できたしね。ていうか、私もありがとう。付き合ってくれてさ。もしかしたら断れるちゃうかと思ったし」

「有無も言わさせずに連れて来たくせに」

「あら、そうだったかしら?」

 

また互いに噴き出して笑う。

 

「また今度来ようよ」

「あら、そんなに気に入ってくれたのかしら。自然の恵みを堪能しようの会」

「うん。そして今度はさ、冥琳や蓮華たちと一緒に。それだけじゃない燕青や荊軻たちも誘ってさ」

「うん、そうね!!」

 

焼き魚を片手に彼女は肩をすくめて笑う。

 

「なら今度は立香に私の釣った魚をご馳走してあげるわ」

「はは。期待しないでおくよ」

 

釣りを開始した雪蓮を思い出す。

何故か1匹も釣れない未来を予想してしまう。

 

「なにそれ、かわいくないわね」

「だって魚を釣る役目は冥琳さんなんでしょ」

「そうだけどさー、でも私だって釣れるわよー!!」

「釣れないに100万QPを賭ける」

 

眩しいくらいの晴天の下で2人の笑い声が響くのであった。




読んでくれてありがとうございます。
次回の更新は2週間以内です。


孫呉の日常1でした。
次回からも日常の話になります。立香や虞美人たちが孫呉の人たちとどんどん関わっていきます。


581
孫呉三姉妹との飲茶。
まあ、三姉妹というよりもぐっちゃんパイセンとの飲茶ですね。

冒頭にも書きましたがぐっちゃんパイセンはどんどんとネタ枠に…。
毎回期待してますけど、またぐっちゃんパイセンがメインのイベントか幕間が欲しいですね。

ぐっちゃんパイセンも立香と蘭陵王が居ればそこまで人間たちに嫌悪感は出さないと思って2人が一緒にいる形にしました。

エタっちゃ駄目。

気のせいかもしれないけどぐっちゃんパイセンと雪蓮の服装ってあまり大差ないような?

項羽様の話をしている時は彼女も機嫌が良い。たぶんの予想ですけど。
やっぱり好きな人の活躍を話すのは良いものと思いますから。


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雪蓮との日常。
これは原作でもあった話です。
藤丸立香とならこんな流れになるかなーって想像しながら書きました。

やっぱりリラックスしたい。気分転換したいと思うのは人間として当然。
今の雪蓮は大変ですからね。それは立香も。

焼き魚って美味しいですよね。鮎の塩焼きは美味い。
今のご時世じゃ、出かけるの難しいですがまた気兼ねなく旅行がしたいものです。
山や川を駆けまわるって良いと思う。

今度はみんなで来る。
その約束を雪蓮と立香は果たせるのか…。

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