Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

171 / 297
こんにちは。
遅くなりましたが更新です。今回も日常編です。

FGOではアキハバライベントが終了し、ハンティングクエストですね!!
まあ、別のハンティングもしてますけど…

なにはともあれ、物語をどうぞ!!


孫呉の日常3

586

 

 

読書とは良いものだ。

本の種類にもよるが知識にもなったり、暇を潰すための娯楽にもなったりする。

元々、読書は好きな方であったが紫式部と出会ってからはより読書が好きになった。時間がある時はカルデア図書館に赴いて紫式部からオススメの本を借りているほどである。旅のお供もにも読書は推奨される。ストレス緩和のために本を読むというのは良いものだ。

 

三国志を元となったこの異世界でも藤丸立香は本を読んでいる時はある。この異世界の本にも興味は尽きず、紫式部だったら興奮するかもしれない。

 

ただ今はこの異世界の本を読んでおらず、持っていた本を読んでいる。その本のタイトルは『イーリアス』。

バレンタインの時にアレキサンダーからお返しに貰った本(二十一世紀現代日本における文庫バージョン)だ。

内容はギリシア神話を題材としており、有名なトロイア戦争について書かれている。お返しとして貰った本なのだから読まないなんて選択肢は無い。

 

トロイア戦争の関係者であるアキレウスやヘクトールたちがカルデアにいるが、本人たちから話を聞くのとはまた違った面白みがある。

本は面白いほど時間を忘れてしまう。つい夜更かしして読んだりする事があるもの。そして続編があるならば続きが早く知りたいと思ってしまうのも当然だ。

漫画や小説を1巻だけ買って、面白かったらつい次巻をすぐ購入していまう衝動がある。面白い本の魅力は凄いものだ。

 

「やっぱ何度読み返しても面白い。アレキサンダーがハマるわけだ」

 

ハマった結果アレキサンダーはアキレウスのファンになったくらいだ。カルデアにアキレウスたちが召喚された時は有名人に出会ったファンのような感じになっていたくらいである。

カルデアとはそういう奇跡的な出会いをさせてくれる。アレキサンダーだけでなく、他の英霊たちも尊敬する英霊に出会えて興奮している姿を見る。例えばヘクトールに出会ったマンドリカルドだったりと。

 

「さて、次は…緋色の研究を読もう」

 

『緋色の研究』はバレンタインでシャーロック・ホームズからのお返しだ。

シャーロック・ホームズシリーズはベストセラーだ。マシュ・キリエライトの愛読書でもある。

今まで読む機会が無かったが実際に読んでみるとハマる。ついつい続編をカルデア図書館で探してしまうほどだ。

 

「やっぱり面白い。そしてホームズの言っていた修正前の原稿が気になるなあ」

 

お返しで貰った緋色の研究は初版であり、出版には適さない事実や描写などは事前に削ってあるらしい。

後悔するかもしれないが修正前の原稿が気になるのは嘘ではない。

 

「事実は小説よりも奇なりって言うからな」

 

2冊の本を読み終わって空を見上げると真っ青な晴天が広がる。青空の下で読書するのも悪くない。

 

「よっと」

 

立ち上がって背伸びをする。

本を長時間読んでいると身体は同じ体勢のままだったりする。すると身体が固まってしまうのだ。

だからこそ固まった体をほぐすためにストレッチを行うのだ。

 

「さて、そろそろ休憩は終わりにしよう。雷火さんのところに行って仕事しないと」

 

呉に戻って来たと同時に仕事を手伝わされる。孫呉の天の御遣いの仕事は孫呉に血を入れるだけではないのだ。

 

「まさか呉に戻ってきた瞬間に雷火さんに引き摺られながら仕事をする羽目になるとは思わなかったなー」

 

今では包と共に雷火の下で扱かれている。

遅刻しないように雷火のもとへの廊下を歩いていくと廊下の先が騒がしい。

 

「いやぁぁ~~待ってぇ~お許しをぉぉ~」

「なんという情けない姿か。こら、離せ」

 

内容に反して緊張感のまるでない声であるが聴いてしまったからには無視できない。

 

「返してくださいぃ~それはとっても素晴らしいものなんですぅ~」

「駄目だ駄目だ。仕事が終わってからという約束だっただろう」

「仕事はちゃんとしますからぁ。休憩時間にちょっとだけですからぁ」

 

声の方へ来てみると冥琳と穏であった。涙目ですがりつく穏を冥琳が煩わしそうに振り払っている。

 

「何してるんですか?」

「む、藤丸か。実はな…」

「ああ~立香さん聞いてくださいよ~。冥琳さまがひどいんですぅ」

「あ、はい」

 

雰囲気的にそこまで緊急ではなさそうである。

 

「冥琳さまってば、私が買ってきたとっても楽しみしている本を取っちゃったんですよ~~」

 

確かに冥琳は手に新しい本を持っていた。

そこに手を伸ばす穏から遠ざけ、身をかわしていく。それでも穏は諦めずに縋りつく。

 

「読むのは仕事が終わった後にすると言うから買いに出るのを許したのだ。それを破ったのだから自業自得というものだろう」

「だってぇ~、だってぇ~。そこにご本があるんですもん~~。早く読んでって言ってるんですもん~~」

 

2人のやり取りを見ているとまるで聞き分けの無い子供を叱る母親に見えてしまう。

 

「お母さぁ~ん!!」

「誰がお母さんだ」

 

心の中でクスっと笑ってしまったのは内緒にしておく事にした。ここで余計な一言を言うと巻き込まれるからだ。

 

「お前がこの本を楽しみにしていたことは知っているが渡すと仕事にならぬことは目に見えている。今手掛けている軍備のまとめ直しが終わるまではこれは預かっておく」

「そんなぁ~。ほらほら、立香さんも何か言ってくださいよぉ。冥琳さまは鬼なんですぅ~~」

 

ここで2人の話を整理する。

穏は読むのは仕事が終わってからという約束で買いに行った本を我慢できずに読んでしまったという事。そこを見つけた冥琳が本を取り上げて今に至るという事だ。

シンプルに要点をまとめて結論を出す。

 

「穏さんには悪いけど冥琳さんの方が正しい」

「立香さんまでそんなことをおっしゃるんですか~~!?」

「いや、正論だし。まずは仕事を片付けないといけないんじゃないか?」

 

お預けされる気持ちは誰もが分かるが約束していたのならばしょうがない。どの時代でも約束を破る方が悪いのだから。

 

「分かってません。立香さんも鬼です!!」

「角生えてないよオレ」

 

角生えてたら鬼という短絡思考。

 

「はっ、さては冥琳さまと共謀して本を取り上げ、あとでこっそりと2人だけでお楽しみしちゃうつもりじゃ…いえ、絶対そうです!!」

「なんでやねん」

 

つい先ほどこの状況に出くわしたばかりだ。冥琳と穏から本を取り上げる共謀はしていない。

どのように考えたら、そのような事を思いつくのか分からない。

 

「仮にそういう企みがあったとしても、お前が約束を破ったのは事実だ。許す事はできん」

「うう~~…えーい!!」

 

なかなか折れない冥琳に言葉では効かないと判断したのか穏は実力行使に移行した。

 

「あっ、こら。止めないか。服が破れる!?」

「本を渡せばやめます~!!」

 

穏に乱暴に引っ張られて普段から露出度の高い冥琳がさらにあられもない姿になっていく。

 

(こうなるならもっと露出を控えた服を着ればいいのに…)

 

健全な青少年には刺激が強い光景である。

カルデアにいる英霊たち(過激な服や露出の多い服)で慣れた(感覚が麻痺)とは言え、女性のあられもない姿は男として反応してしまうのは性。

男の性としてこのまま静観していたいが人間としての理性では止めないといけない。

 

「ほら穏さん、どうどう。冥琳さんは仕事が終われば返すって言ってるんだから、そっちを早く終わらせればいいだけでしょ」

「そんなこと言って、終わりそうになったらまた追加するんですよきっと~」

 

流石にそのような事を冥琳もしないはずと思ったが否定できない部分もあった。

 

「あんまり我儘を言うようなら、それもあり得るな」

 

あり得るようだ。

 

「ほら~!!」

「冥琳さんもあんまりそういうこと言わない方がいいよ」

 

今のは余計な一言である。そのせいで鎮火しかけていた事が再度燃え上がる事もあるのだから。

 

「うぅ~~~でもでも~~」

 

それからしばらく押し問答を繰り広げた後、穏はようやく無駄と悟ったのか散々ゴネながらも仕方なく引き下がるのであった。

 

「ほら、穏さん。仕事を頑張ったら本が読めるんだから」

「うぅ…はい」

 

頑張った分だけご褒美が美味しく感じる。その事を胸に込めて仕事にかかればいい。人間とはご褒美があればあるだけ頑張れるのだ。

これで解散し、「仕事に集中しよう」なんて言葉を口にしようかと思った藤丸立香であったが別の声で遮られる。

 

「あぁ~~!!」

 

穏がいきなり藤丸立香に指を指して声を上げたのである。正確に指を指した先は手元にある本。

 

「そ、その白と青い本と白と赤い本は…な、なんですか?」

「イーリアスと緋色の研究の事?」

 

2冊を穏に見せる。

 

「威梨阿須、緋色の研究?」

 

外史世界に藤丸立香が持つ2冊は同じものは存在しない。そういう意味では至高の一品。

 

「天の国の書物という事ですか!!」

「まあ、そうなるかな」

 

目をキラキラしながらゆっくりと近づいてくる穏。

 

「天の国の書物か。興味深いな」

 

冥琳も天の国の書物には興味津々のようだ。

 

「どういう書物だ?」

「戦記ものに謎解きものかな。特に緋色の研究はシャーロック・ホームズシリーズの第一作なんだ。あ、シャーロック・ホームズってのが題名で緋色の研究が副題名ね」

「師矢六駆?」

「長編と短編含めて60編もあるんだ」

 

藤丸立香はまだ全て読み終わっていない。マシュ・キリエライトなら読み終わっているかもしれない。

読み終わったらよく感想を言いあうのは楽しみの1つである。

 

「天の国の戦記に謎解きの書物……」

「穏さん近い近い」

 

気が付けば穏が物凄く近づいていた。

息が荒く「はぁはぁ」と言っている。目がキラキラからギラギラになっている。

 

「天の国の本。天の本~~」

 

にゅるっと穏の腕が伸びてくる。その先は藤丸立香が持つイーリアスと緋色の研究。

すかさず2冊を伸びてくる腕から遠ざけた。

 

「立香さ~ん」

「はい」

「その本を~~」

「貸しません」

「なんでぇ!?」

 

もしも貸してしまったら穏が色々と大変な事になるからである。

 

「勉強会の思い出が蘇るな」

 

前に穏と共に勉強会をしたことがあった。その時は孫子の兵法書を教材にしていたのだが急に穏の様子がおかしくなったのだ。

おかしくなったと言っても錯乱したとか精神がイカれたわけではない。まるで発情したような状態になったというのが正しい。

当時は色々な意味でマズイと判断し、ガンドをぶっ放して無理やり落ち着かせて勉強会を強制終了した。

その後、冥琳の元へ報告したところ穏には特別な性癖があると教えられたのだ。

 

「穏さんにああいう性質があるなら教えてくださいよ」

「教えたら拒否すると思ってな」

 

まるで武術の突きをしてくるように本を奪おうとする穏を回避しながら冥琳と会話をする。

今の穏はイーリアスと緋色の研究に意識を持って行かれているので2人の会話が耳に入らない。

 

「あれで勉強になると思ったのか」

「立香ならあるいはと思ってな。それに相手が立香なら穏の体裁は守れる」

 

穏の性癖。それは本を読む、見ると性的に興奮するという厄介な性癖。筋金入りの本の虫以上だ。

時も場所も選ばずで、発散しないと収まらない。もしくは昏倒でもさせないと収まらないらしい。

冥琳も最初は穏の性癖を目の当たりにした時は苦労したようだ。

 

「先ほど見ていたように本の事になると穏は妙に力が上がるからな」

 

いつもは肉体労働苦手というイメージの穏であるが本が絡むと何故か強化される。火事場の馬鹿力というわけではないが、何かのキッカケで人間はいきなり強くなる現象のようなもの。

冥琳だけでなく、他の面々も驚いたらしい。あの炎蓮さえも穏の変貌に少しは驚いたとの事。

 

「せっかくだ。その天の本も勉強の教材になるかもしれない。また勉強会を再会しろ」

「勉強会をしましょう~~!!」

 

目をギラッギラさせてくる穏。

 

「あ、もうオレ卒業したんで大丈夫です」

「卒業してないですよ!?」

 

やんわりと勉強会を拒否する藤丸立香であった。

 

「一緒に勉強しましょうよ立香さ~ん」

 

ガシリと抱き着いてくる穏。何が何でも勉強会をさせようとする抗議の構え。

柔らかい感触にドキドキするがここは我慢。勉強会をしようと言うが彼女の性癖を考えると絶対に勉強になるはずがない。

 

「前の時のようにならないなら」

「………………大丈夫ですよ?」

「今の間はなんだ。そして疑問形だったよね今」

 

絶対に勉強会にならず脱線すると完全に予想できてしまった瞬間である。

 

「冥琳さまも何か言ってください~!!」

「立香、不安なのは分かるがこれも呉のためだ」

「次は冥琳先生の講義が受けたいです」

「私も忙しいのでな」

 

新たな先生を指名したが軽く断られる。

 

(全く立香は気付かないのか。穏も自分の性癖を理解している。なのに立香と勉強会をしても良いという事は男として見ているという事だぞ)

 

前の勉強会を経てまた勉強をしようと言ってくれているのだ。自分の性癖を我慢できないのに異性と共にいる。

間違いが起きても構わないと言っているようなものである。

 

「勉強しましょう~~!!」

「ちょっ、ズボンが脱げるから引っ張るの止めて!?」

 

先ほどの穏と冥琳のような状況である。

 

(まあ、穏も狙って言っているわけではなさそうだな)

 

恐らく無意識に藤丸立香を男として見ているようなものかもしれない。

 

「勉強会~~!!」

「あ、そろそろ雷火さんの所に行かないと遅刻しちゃうんで」

 

そそくさとその場を後にする。しかし穏は諦めない。

 

「逃がしません~~!!」

「穏さん仕事しろ!!」

 

結局、雷火の所までついてきて彼女の説教でやっと帰ってくれるのであった。

 

「諦めませんからね~~!!」

「本が関わるとほんと性格が変わるな」

 

イーリアスと緋色の研究を穏が読めるのはまた別の話である。余談であるが冥琳が穏から取り上げた本を読んでハマってしまうのも別の話。

そして更にこの時、藤丸立香はある未来を想像できるはずがなかった。まさか『あの邪悪な経典』が元に事件が起きようとは。

 

 

587

 

 

太史慈。真名は梨晏。

雪蓮とはもともと敵同士で、最初の出会いは天から星が降った地での一騎打ちだった。

その後、時を経て豫章城で決着を付ける。決着後は雪蓮の下に降る。

彼女はいつも明るいムードメーカーで雪蓮同様に誰にも分け隔てなく接する事が出来る。当初は宿将たちから警戒されていたが、その人柄でねじ伏せ今や様々な者たちから信頼を寄せられている。

 

「そう言えば梨晏さんとはこうやって話すのは始めてかもしれない」

「そう言えばそうだねー。えっと、立香…くんだよね?」

「立香でいいよ梨晏さん」

「ならアタシも梨晏でいいよ」

 

藤丸立香たちは梨晏とはこうしてゆっくりと話し合うのは初めてかもしれない。

豫章城で梨晏が雪蓮に降った後は少しくらいは会話をしたが、それこそ挨拶程度。その後は黄祖、于吉の策略によりてんやわんや。

落ち着いて梨晏と話すことなく次の戦いに向かう事になった。于吉と操られた炎蓮と戦って元の時代に戻った後はそのまま孫呉を離れる事になってしまったのだ。

次に再会したのは反董卓連合。その次は袁術との戦い。どちらもゆっくりと話すことは無かった。

 

「何だかんだでゆっくりと話す事は確かになかったなぁ」

「えーっとあなたは…」

「燕青だ。よろしくな」

「あーっ。豫章城の城門を飛び越えた人!!」

 

ついつい指さしてしまう。

 

「そう言えばそんな事もしたなぁ」

 

しみじみと過去を思い出す燕青。

 

「あれ、よく平気だったわよね。普通だったら矢で串刺しだったんじゃない?」

「普通だったらな」

 

当時は藤丸立香の魔術礼装で支援されていたのも含めて運が良かったと言うべきだ。

 

「流石の私もアレは出来ないわね」

「雪蓮さんならやれそうだけど」

「だから流石に出来ないわよ」

 

それでもやってのけるイメージが湧いてしまう。

 

「で、こっちのお爺ちゃんが」

「李書文だ」

「この人は燕青を城門に打ち上げた人だよね。あれ、なんか老けた?」

「そのボケはもういい」

 

未だに振られる「老けた?」というボケ。

 

「あはは。ごめんなさい」

「まったく…」

「でも私の知ってる李書文と全く関係無いのね?」

「ただ同じ名前なだけだ」

 

李書文(槍)と李書文(殺)は過去と未来の同一人物。説明しても信じてもらえないだろうからただの同姓同名にしておいた。

 

「でもそっくりな気がするのよね。ちょっとその黒眼鏡取ってみてよ」

 

黒眼鏡を取る李書文(殺)。

 

「やっぱ似てるわ。目元とか」

 

同一人物だから似てるのは当然だ。

 

「でも李書文よりもお爺ちゃんの方が気性は穏やかに感じるわね」

 

李書文(槍)が動ならば李書文(殺)は静という感じである。

 

「そして李書文と同じで強いわよね」

 

李書文(殺)は静かで穏やかであるが内に感じる強さは雪蓮も梨晏も感じているのだ。

それこそ熟練の強者と言うべきもの。長年の鍛錬により鍛え上げられた武術の達人。

武人として戦ってみたいと思う雪蓮と梨晏であった。

 

「この爺さんは強いぜぇ」

 

ニッカニカの笑顔の燕青。

カルデアでは戦い好きな武人や荒くれ者、戦闘狂がたくさんいる。

戦いたいという欲求を解消するためにシミュレーションルームでよく戦闘訓練という名の試合をしている。

燕青も常連であり、李書文(槍)もたまに入り浸る。そして李書文(殺)も鍛錬と称して使っている。特にカルデアに新しい英霊が召喚されて、その英霊がバリバリの武人系だった場合は年甲斐もなく戦ってみたいと思うらしい。

 

「いやぁ、あん時は燃えたわぁ」

 

シミュレーションルームでお互いにボロボロになるまで戦った事を思い出しているのであった。

 

「燕青がそこまで言うなら今度手合わせしてみたいわね」

「私も私もー!!」

「ふっ、こんな老いぼれと戦いたいと申すか」

 

ある意味モテモテの李書文(殺)。彼も武人から戦って欲しいと言われてまんざらでもない。

 

「しかし今はそういう空気でもあるまい」

 

全員の前に並ぶは酒や彩り豊かな美味しいご飯。

久しぶりの再会に食事でも如何かと提案したのだ。

 

「そう言えば冥琳さんは?」

「冥琳なら遅れて来るって。そっちこそ荊軻は?」

「何でも祭さんと粋怜と酒盛りしてから来るって」

「おいおい、それデキあがった姐さんが来るじゃねえか」

 

傍若無人の荊軻が乗り込んでくる未来を想像して冷や汗タラリ。それはそれで面白いが大変な事になるか如何かである。

 

「ま、そん時はそん時よ。まずは呑みましょ!!」

「儂は茶で」

「オレも」

 

お酒は飲まない2人。

 

「えー、飲みなさいよ立香ー」

「アルハラは勘弁です」

 

いつものやり取りをして酒盛りが始まるのであった。

 

「じゃあカンパーイ!!」

「干杯!!」

「乾杯~」

 

雪蓮、燕青、梨晏は一気に酒を飲み干す。

 

「酒を飲む人は何処も同じだね」

 

乾杯からの美味しく酒を飲む。これはどの時代でもどの国でも変わらない。

 

「ほら立香も老書文」

「乾杯」

 

藤丸立香と李書文(殺)は酒ではないが乾杯する。

飲むだけでなく、美味しいツマミにも箸を伸ばす。選んだ料理は油淋鶏。

 

「あ、立香。それちょーだい」

「自分で取りなさい」

 

そう言いつつも藤丸立香は餌を待つ雛のように口を開く雪蓮に油淋鶏を食べさせる。

 

「俺はやっぱ焼き餃子だなぁ」

 

燕青は一口に熱々の焼き餃子を食べ、酒を流し込む。

 

「美味いねえ。でも餃子だとビールが飲みたくなるな」

「びぃる。そう言えば前に立香が言ってた天の国のお酒だっけ」

「天の国のお酒かー、私も飲みたい」

「俺もカルデアに来て驚いた1つが酒の種類だよなぁ」

 

当たり前だが過去の人間にとって未来の文化は驚くしかない。食事にしろ技術にしろとたくさんあるものだ。

 

「爺さんもそう思うだろ?」

「そうだな。確かに儂も色々と驚いたな」

 

李書文(殺)の驚いた姿は見た事がないがこれでも彼も未来の文化には驚いている。

尤も比較的近代に近い英霊である李書文(殺)。それでもたった数十年でもガラリと世界は変わるもので驚くのだ。

 

「ねえ立香はお酒を造れないの~?」

「前にも言ったでしょ。造れないって」

「ぶーぶー」

 

カルデアに来てから藤丸立香も色々と技術を習得してきた。

同人誌を描いたり、サバイバル技術を習得したり、忍術を少し習得したりと様々だ。しかし酒造りは出来ない。

 

(酒造りか)

 

時たまにトンチキな特異点に行く事がある。もしかしたら酒を造るような事があるかもしれない。

 

(いや、まさかね)

 

可能性はゼロではない。そんなことありえないといった事を体験しているのだから。

それこそ同人誌を描くなんて思わなかった。チョコレートで世界が飲み込まれるなんて想像できなかった。

藤丸立香の旅路ではあり得ない事が起こる。

 

「お爺ちゃんはお酒飲まないの?」

「儂はお茶で。酒は飲まん」

「お爺ちゃんも立香と同じで人生損してるわよ。お酒を飲まないなんてもったいないわ」

「そうでもないぞ」

 

酒を飲まなくても人生を謳歌できる。

李書文の人生は武術に注ぎ込んできた。その事に関して何も間違いはなかった。

 

「儂はこの歳まで生きて来て損した事はないぞ」

「え~、ほんとかな。人間生きてれば損の1度や2度はあると思うわ」

「呵々。確かにそうかもな。一本取られたわ」

 

雪蓮の言う通りで損をした事が無い人間はいない。小さかろうが大きかろうが人間は損くらい1度は経験するものである。

 

「お爺ちゃんはどんな損をしたの?」

「むう、そうさな……茶に毒を」

「おうおう。茶碗が空だぜ。茶淹れてやるよ。それとも酒がいいか!?」

「老師。こっちの料理も美味しいよ!!」

 

李書文(殺)が何かを言いかけようとした瞬間に燕青と藤丸立香が急いで割り込むように入ってくる。

 

「お茶で」

(おい爺。酒の席でとんでもねえ爆弾を落としこむな)

(呵々。ちょっとした冗句だ)

(ちょっとどころのジョークに聞こえねえからな)

 

盛り上がっている酒の席で死因を話されるなんて通夜ものだ。

一瞬だけ空気が白けそうになった為、燕青は空気を変える。

 

「やっぱ酒飲みと言ったら飲み比べだよなぁ。勝負しようぜ」

「あら、良いわね」

「ふっふっふ。負けないよ」

 

雪蓮も梨晏も飲み比べにドンと来いの姿勢だ。

 

「お酒の飲み比べ、早飲み、イッキ飲みは悪い文明」

「いんじゃんか」

「そういうのも駄目だから」

 

酒は飲んでも飲まれるな。酒は節度を持って楽しく飲む。

無茶な飲み方は絶対にダメ、というやつだ。

 

「良い子は真似すんなよって奴だな」

 

良い子も大人も真似しない事。

 

「んじゃ…杯を乾すと書いて乾杯!!」

 

喉を鳴らして酒を流し込む3人。

酒を飲むペースが早くなれば酔いが回るのも早くなるものだ。

 

「デキ上がったな」

「デキ上がったね」

 

酒に酔ってデキ上がった3人を見る李書文(殺)と藤丸立香。

顔が真っ赤になった雪蓮たち。ふらふらしているが幸せそうな顔もしている。

酔えば酔うほど人間は気持ちが開放的になる。それこそ羞恥心も薄まるもので下世話な話が出やすい。

 

「そう言えば梨晏も呉の一員となったからには立香に種を授けてもらわないとね~」

「えっ、ど、どういうこと!?」

 

気持ちよく酔っていたらまさかの発言に梨晏は少しだけ酔いが冷める。

 

「その話か…」

 

種を授けてもらうという言葉に一瞬だけ狼狽する梨晏。

いきなり目の前の男性から子作りしろと言われているようなものだ。誰だって狼狽するし、拒否反応が出てもおかしくない。

 

「あれ、聞いてないの梨晏。孫呉は天の国の血を入れて各を上げて、天下に号令するのよ。子が出来たらそれは御手柄ね」

 

藤丸立香(天の御遣い)の血を孫呉に入れるという件は未だに実行に移そうとしている。色々とマズイ気がすると思っている藤丸立香としては中止にしてほしいものだが中止にならない。

 

「梨晏。これに関してだけど断っても…」

「ふ、ふーん。そうなの。じゃあそこはみんな競い合いってことなのかな?」

「んん?」

 

狼狽しながらも梨晏の口から出たのはまるで肯定しているかの台詞であった。

 

「まぁ、競い合いみたいなものかな。でも今のところ立香が誰かに種付けしたって話は聞かないのよね」

「種付けって言い方やめて」

 

ツンツンと立香を突く雪蓮。

 

「燕青。実は立香が孫呉の女の子に手を出したとか知ってる?」

「残念ながら知らねえなぁ」

「何でニマニマしてるのさ燕青」

「こういう主を見るのは面白いから」

「この野郎」

 

本人としては色々と大変なのである。

世の男からは「何言ってやがるんだ。この贅沢もんがあ!!」と思われるかもしれないが現実は上手くいかないものだ。

 

「梨晏も頑張ってね~」

「そう言っちゃって良いのかな雪蓮は。それって敵に塩を送っているようなもんだよー?」

「んーまあ、私には冥琳がいるしねー?」

 

それとはまた別の話だが雪蓮と冥琳の仲の良さは誰もが知っている。もはや親友、恋人レベルの仲の良さなのだから。

雪蓮としては国を堅固なものにしていくなら蓮華に一番に血を入れて欲しいと思っているらしい。

 

「そ、そう言って、私に負けるのが嫌なんじゃないの?」

「そう言って、私が敵にならないことに安心してるんじゃないの?」

 

梨晏はドキマギしながらしどろもどろ。雪蓮の変わらず気持ちよく酔っている。

 

「へ、へん。雪蓮が参戦したって楽勝なんだから」

「あらそう。じゃあ蓮華の前に味見してもいいのかしら?」

 

どんどんと話が下世話の方向へ。

 

「あ、味見って」

 

チラリと藤丸立香を熱い視線を見る。

いちいち反応してしまうのも藤丸立香が多感なお年頃だから。

 

「あっはっはっは」

「放っておけ。酔ってるだけだ」

 

酒に酔ってる燕青笑い、李書文(殺)はお茶を啜って我関せず。

女性2人が男性1人に対して話し合う。こういう時の野外は傍観するのが一番である。

 

「私を戦いだけの女だと思わないほうがいーよー。侮ってると痛い目見るんだから」

「へえ。夜の戦績も豊富なんだ?」

「そりゃ……もう、百戦錬磨だよ」

 

梨晏のはっきりとしない台詞に訝しむ。

まるで焦っているかのようにも見える。まるで嘘がバレそうな顔だ。

 

「それは頼もしいわね」

 

梨晏はバレてないと思っているが、彼女がそういう経験が無いというのがバレバレである。

彼女は嘘がへたっぴかもしれない。それだというのに無駄に頑張る。

 

「ねえ、立香。お姉さんがとってもいいこと、教えてあげようか?」

「とってもいいこと?」

 

頑張って年上お姉さんを演じる梨晏。

 

「私がいろいろ手ほどきしてあげたりしちゃうよー?」

 

梨晏が身体を寄せて来て、酒で温まった体温を感じてしまう。

温かく、柔らかい。そして酒の匂いではない良い匂い。これではついつい男として期待してしまう。

 

「それじゃあ勝負する?」

「るえ?」

「立香で」

「え?」

 

急に何を言い出すのか分からない。一瞬だけ梨晏と藤丸立香は呆けた。

 

「どっちが立香を満足させられるか。褥の上で勝負」

 

酒が回っているのでこんな事を言い出しているに違いない。

酔っ払いの言う事なんて真に受けてはいけない。

 

「ほ、ほお~」

 

しかし真に受けていない者が1人。

梨晏は酒ではない意味で頬を染めている。

 

「ほら、立香も私たちを見比べてどっちの勝ちかもう考えているみたいよ?」

「そんなこと考えてません」

 

雪蓮も余計な事を言わないでもらいたいと心の中で思う。

 

「ふ、ふーん。でも、その勝負なら悪いけど雪蓮に勝ち目はないと思うよー?」

「へえええぇ。そうかしらねー?」

 

酔っているとはいえ、雪蓮も梨晏が男女の交わりに経験が無いのは気付いている。

このまま気付いていない振りをして会話を続けた方が面白そうだと判断したのだ。

 

「ぐぬぬ…そうだよ。初心な立香なんて一晩で腰が抜けちゃうかもよ!?」

「大した自身ね。さぞかし数多の男を虜にしてきたんでしょうね?」

「そりゃあもう。私が、そのチャっとしたらもう蓬莱が見えるって言われるぐらい」

 

その「チャっ」という部分が気になる。

 

「さっすが梨晏。そこまで行ったらもう神仙の域ね。これは期待していいわよ立香」

 

多感なお年頃の男子には興味が尽きない会話だ。色々と反応してしまう。

梨晏の言っている事が本当ならば。

 

「いや、もう覚悟しといたほうがいいよー?」

「ほら、立香も期待してるわよ。今夜、さっそくしてみたらどう?」

「今夜っ!?」

「ごぼぶ!?」

 

またも狼狽える梨晏。そして藤丸立香は何故か麻婆豆腐を喉に詰まらす。

 

「い、いやー、今夜は流石にもう沢山呑んでるから。そのうちそのうち!?」

「ごほごほっ。そ、そのうち…」

「へ~。ま、期待してるからね」

 

雪蓮としては孫呉の権威を高揚する意味でも梨晏が率先して藤丸立香の子種を宿してくれるなら頼もしいことである。

 

「ど、どーんと私に任せておいてよ。や、やさしく立香を導いてあげるから。ね、立香!!」

「ええ、あ、はい?」

 

取り合えず返事をするしかなかった。

 

「でも、今日は飲もう。ね、飲もう!!」

 

酒を雪蓮たちに注ぐ。

 

「梨晏、オレ飲めないんだけど」

「儂も飲まんのだが」

 

少しテンパっているのか藤丸立香と李書文(殺)の茶碗にも酒を注ぎ込んでいた。

 

「さあ、杯を乾すと書いて乾杯ーーだっけ!?」

 

夜はまだまだ長い。雪蓮は梨晏をイジるのを止めない。

 

「で、これは何だ?」

 

遅れてきた冥琳は部屋の惨状に呆れ顔。

 

「ただの酔っ払いども」

 

酒を飲まない藤丸立香と李書文(殺)以外の3人はタガが外れたように酒を煽っていた。

 

「あ、冥琳~~」

「え、な、こら。うわっ、酒くさっ!?」

「冥琳~~」

「り、梨晏もか!?」

 

酔っ払いに絡まれるのも飲みの場ではあるあるだ。

 

「じゃ、そろそろオレはお暇します。老師、燕青の回収を」

「もうしている」

 

燕青を脇に抱えている。そして静かに部屋から退室する藤丸立香。

 

「あと頼んだ冥琳さん」

「待て、私に後始末をさせるな!!」

 

この後、冥琳は雪蓮に剥かれたとか。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回の更新は2週間後予定です。

あと日常編を2話くらいやったら本編に戻ろうかと思ってます。


586
本好きの穏とのちょっとした日常編でした。
彼女ならば立香が持つ本に興味を持たないはずがない。
天の国の本(別世界)のなら飛びつきますね。内容がどんなものにしろ。
そして最後に伏線っぽいものを。(まあ、回収するかは別として)

587
そう言え梨晏と絡ませた話が無かったなーと思って書きました。
本編にも書きましたが孫呉滅亡修正編でも洛陽の怨霊編でも梨晏とカルデア組の絡みって本当になかったので。
そしてここでも立香の種馬よ。
結局、この話がオチになっちゃうのよね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。