Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
だいぶ遅くなってすいません。やっとこさの更新です!!

いやあ、忙しくてなかなか…

さて、気が付けばネロ祭復刻が終わり、2部6章後半が始まってました。
まだ15節に入ったばかりですが後半のストーリーも面白いですね。
妖精騎士ランスロットはお迎えできましたが、パージヴァルはまだ。
課金しかないのか!!
そしてオベロンとハベにゃんさんの実装も期待してます!!
更にこの後は6周年や水着がまっているんですよね…いかん、財布がぁ!?


さて、本編に関係無い前書きでした。
本編はそのまま下記へどうぞ!!


孫呉の日常5

571

 

 

晴天が広がる青空。太陽からのポカポカ陽気が気持ちが良い。

植物たちは元気に光合成をする。

 

「今日もいい天気だ」

「じゃな。しかしあまり日差しを浴びすぎると肌に良くない。妾の玉のような肌にシミが出来てしまうわ」

「英霊だから大丈夫じゃないかな」

「分からんぞ。最近は英霊であっても太る可能性が出て来ておる」

 

程よい日差しを浴びながら街中を歩くは藤丸立香と武則天。

今日は買い出しついでに街中を散策。

 

「こういう天気の日に室内に篭っているのはもったいないからね」

 

背伸びをしながら陽気を身体全体に感じ取る。カルデアでは快晴というものを味わえない。

世界が白紙化になっているせいで気持ちの良い天気すらないのだから。

 

「さてと、どの店からあたろうかな」

「拷問器具とか売っている店」

「ないよそんな店」

「それは駄目じゃな。後で雪蓮に進言しておこう」

「やめて、ふーやーちゃん」

 

拷問器具を売っている店。探せばもしかしたらあるかもしれないが表通りには絶対に店を構えてはいない。

 

「そういう店よりも違う店に行こうよ」

「例えば?」

「美味しい点心や甘味が売ってる屋台とか服屋とか」

「なんか普通じゃなー」

 

普通上等。

時には冒険しすぎるよりもシンプルが良い時がある。

 

「ふーやーちゃんには刺激が無いかもだけど、たまには普通のデートも良いと思うよ」

「デッ…」

「どうしたの?」

「な、なんでもなーい!!」

 

ちょっとだけニヨニヨとした顔をしてしまう武則天。

 

(まったくマスターは簡単にそういう事を言うのじゃから!!)

 

心を落ち着かせる武則天。自分はそんなチョロイ女ではないと反芻する。

マスターである藤丸立香の事を気に入っているのは事実。しかし、いちいち彼のちょっとした言葉でドキドキするのは女帝としてどうかと思っている。

 

(妾はマシュや龍の巫婆、溶岩水泳部とは違う。妾は女帝で大人の女性じゃ。むしろ妾がマスターをドキドキさせるんじゃからな)

 

武則天の姿は童女寄りだが彼女はれっきとした大人だ。ナーサリー・ライムやジャック・ザ・リッパーたち子供サーヴァントたちと一緒に過ごしているのでより子供に見えてしまう時がある大人なのだ。

 

(むう…いずれはマスターに妾が大人な女というところを見せないといかんな)

 

頭を撫でられたり飴を貰ったりするのが嬉しくて子供らしい反応をしてしまうが、それは置いておく。

 

(そもそもマスターは妾の共同統治者として自覚をちゃんとしているのか。今度妾自らが確認せねばならんのう。それこそ身体に聞いてやっても…)

「なんか悪い事考えてない?」

「属性が悪じゃからな」

 

そう言う事ではないのだが聞くのが怖かったので聞かない事にした。

それから街を散策(デート)していると表通りから離れたところで何故かしゃがみこんで動かない人影を発見。

気になって近づくと知っている人物であった。その名も明命。

 

「何してるんじゃあんなところ…で……」

 

急に武則天の顔が青くなった。「どうしたんだろう」と思いながら明命の方に近づくと傍らには猫が一匹。

武則天の顔が青くなった理由はすぐに理解。気が付けば武則天は藤丸立香の後ろへ静かに移動していた。

女帝である武則天の顔を問答無用で青くしたその猫は石造りの階段で四肢を投げ出してグダっとしながら日光浴をしている。

明命はその猫に熱心に話しかけていた。

 

「お猫様お猫様。ひなたぼっこ中ですか。気持ちよさそうですね」

「なぁ~」

 

「うるさいのぅ」とでも言うようにその猫は一声鳴くだけで明命の方を見ようともしない。しかしふてぶてしい猫の態度とは対照的に明命は返事をもらえたのが嬉しかったのか、続けて楽しそうに言葉を投げかける。

 

「今日は良いお天気ですし、ひなたぼっこには最適ですねー」

 

確かに今日は天気が良い。猫でなくても日向ぼっこをしたいと思う動物はいるかもしれない。

人間ですら日向ぼっこしてお昼寝をしたいと思うほどだ。

 

「ところで…そのモフモフの毛、気持ちよさそうですねー」

 

彼女から欲を感じ取れる。

 

「太陽の光をいっぱいに吸い込んだふかふかのお布団のようですねー」

 

彼女の目はハートが浮かんでいる。何をしたいのかなんて猫好き人間の思考は簡単だ。

 

「うう…もはや我慢できそうにありません。少しだけでいいのでモフモフさせてもらっていいですか?」

 

我慢していたかどうか怪しいものだ。そして普段の明命では見れないふやけ顔かもしれない。

 

「お願いしますー。えっと…ほら、ちゃんとお礼の品も用意してありますよ」

 

彼女は懐から伝家の宝刀である一握りの煮干しを取り出す。するとそれを見た猫が反応を示した。

 

「なぁ~」

 

「めんどくさいけど仕方ないなぁ」と言わんばかりの鳴き声。

 

「えへへ、ありがとうございますー」

 

満面の笑みの明命。

どうやら今の反応を了承の声と受け取ったらしい彼女。用は個人の捉え方。

 

「それでは失礼しますね」

 

日向ぼっこ中の猫にゆっくりと手を伸ばし。そっと抱き上げた。

モフモフモフモフ、と擬音が聞こえるくらいに優しく抱きしめている。

 

「はぅわぁ。モフモフ気持ちいいです~」

 

今の彼女の顔はまさに至福を表現している。

彼女は猫をモフモフと抱きしめているだけでなく、猫の耳の付け根や背中を掻き始める。

 

「この辺ですか。それともこの辺ですか?」

 

猫が気持ちよく感じる箇所を掻いていく。すると猫は気持ちよさそうな声をあげて目を細めた。

もっと掻いてくれと言わんばかりに明命に身を摺り寄せる。その行為がたまらなくて明命は心をキューンとさせてしまう。

 

「うふふ~…えへへ~」

 

物凄く幸せそうな笑顔とは今まさに彼女の顔である。

猫の毛に顔を埋め、至福の表情で頬ずりを続ける明命。これでもかと言うくらいにモフモフしている。

猫好きな人間ならば彼女の気持ちは絶対同意。やはり猫は可愛いものだ。

藤丸立香も人並みに猫は好きだ。どちらかと言うとフォウ推し。

武則天にとってはどちらも一生分からない気持ちだが。

 

「うなあっ」

「あいたっ!?」

 

あまりにもモフモフしすぎたせいか猫が嫌がり、明命の手を引っ掻いた。その痛みに思わず猫を手放してしまう。

その隙に猫は明命から離れ、背を向けた。猫とは自由で気ままな動物だ。

 

「ああう」

 

猫はそのまま何処かに去ってしまう。明命は去った猫を物欲しそうな、申し訳なさそうな表情で見送るしかなかった。

そこまで見届けて藤丸立香と武則天は呆然と立ち尽くす明命に近づく。

 

「手、大丈夫?」

「はうわっ。どうして立香さんが!?」

「驚きすぎじゃ」

「ふーやーさんまで!? あ、もしかして見ておられたのですか?」

「うん。一部始終ばっちりと」

 

明命の猫の御機嫌取り姿は可愛かった。

 

「あぅぅ」

 

顔を真っ赤にさせてしまう明命。表現がまっすぐで可愛い。

 

「あんな動物の何が良いのか…」

 

ボソリと呟いた武則天。もちろん悪気があって呟いたわけではない。

猫好きな人間も居れば逆の人間も存在する。こればかりは好みの問題、個人の感性の問題だ。

猫が苦手、嫌いだからといって、その人が悪いというわけではない。

 

「なんでですか!?」

 

ギョロンと首と目を武則天に向ける明命。その姿にちょっとだけ恐怖したのは秘密の武則天。

 

「な、なんじゃ!?」

「お猫様は素晴らしいんですよ!!」

 

謎の熱意を発する明命に押されてしまう女帝。自分が好きなものを誰かに説明する際は爆弾並みの熱を発するものだ。

それこそカルデアで例を挙げるなら黒ひげのティーチやミス・クレーン、刑部姫、清姫と多々居る。

その熱意にどんな英霊も押される姿を藤丸立香は見てきた。今の明命はまさにソレ。

 

「いいですか、ふーやーさん。お猫様はですね」

「いらんいらん。その説明はいらん」

「いーえ、ふーやーさんにはお猫様の素晴らしさと可愛さをお伝えします。お猫様の良さが分からないのはかわいそうですから!!」

「そんな憐れみを感じるでない。余計なお世話じゃ」

 

苦手・嫌いなものを説明されても理解出来る事はない。好きになる事もない。

 

「いえいえ、お猫様は素晴らしいのです。私はお猫様の素晴らしさをふーやーさんにお伝えします!!」

「こやつ妾の話を聞いてないぞ!?」

 

もしかしたら彼女にもバーサーカー適正があるかもしれない。

 

「まずはお猫様の素晴らしい所を100つほど説明しますね!!」

「100も言えるのが凄いというより怖いわ!!」

 

自分の好きなものについて良い所を100答えろという質問があったとして、実際に100つ答えるのは難しすぎる。

例を挙げるなら自分の彼女・彼氏の良いところを100つ答えろと言われたら100つ答えられる人がいるのか、と疑問に思うほど。

 

「次にお猫様をたくさん呼んでふーやーさんの周りを囲います。お猫様の可愛さを周囲から理解してもらいます!!」

「やめろ!!」

 

本気で嫌がる武則天。なんて事を言い出すんだと言わんばかりの顔だ。

 

「お猫様に囲まれるなんて幸せな空間ですよ?」

「何処がだ!?」

 

武則天は近代に展開される猫カフェには絶対に行けない。

猫っぽい存在だけでも武則天は警戒するほどだ。タマモキャットやジャガーマンとの交流をあまり進んでしようとはしない。

特にフォウはカルデアでも警戒すべき存在と認識している。そのフォウは武則天の驚く姿は面白いのか見かけたら必ず突撃しているほどだが。

 

「待っててください。先ほどのお猫様は何処かに行ってしまいましたが別のお猫様を探してきますので」

「探さんでいい。勝手に人の好きな物を押し付けるな」

「どのようなお猫様がいいですかね。お猫様はたくさんいますから!!」

「だから本当に話を聞いておらんな。こやつ本当にバーサーカー適正あるんじゃないか!?」

 

明命は悪気があるわけではない。弁護するならばお猫様が好きすぎて暴走気味なのだ。

明命のキラキラもといギラギラした目が武則天を捉える。

ギラギラ光線から目を逸らし、そのまま藤丸立香にアイコンタクトで「こやつを止めろ」と送る。

確かに今の明命は少し暴走気味だ。悪気はないのだが武則天が困っているので助けるべきである。

どうやって助けようかと思った時に明命の手の傷に気付く。

 

「明命ちゃん手、見せてみて」

「あ、はい」

 

優しく手に触って傷を診る。

 

「やっぱり血が出てるね」

「あ、このくらい…」

 

慌てながら言う彼女よそに藤丸立香は彼女の手を握って魔術礼装を起動させて治癒を施す。

 

「あ…」

 

癒しの魔術。温かな光。

 

「はい、これで大丈夫」

「あ、ありがとうございます」

 

猫の引っ搔き傷くらいなら一瞬で完治。

 

「あの…」

「何かな?」

「そ、その……手」

「あ、ごめん」

 

そう言えば握りっぱなしであった手を放す。

傷を治すためとはいえ、いきなり女性の手を握る行為は無神経だったかもしれない。

よく見ると彼女の顔は少し赤くなっていた。

 

「ごめんね」

「い、いえ」

 

頬を赤くしたままの明命。

 

「あ、あの…その、し、失礼します!!」

 

そのまま急ぐように走っていくのであった。

 

「行っちゃった」

「マスター」

「なに、ふーやーちゃん?」

「いい加減にするんじゃぞ。本当に」

「え…」

 

武則天にジト目で見られる藤丸立香であった。

 

(本当にマスターは誑しじゃのう。いや、あの猫好き娘はアレでオトされたわけではない。単純に異性への耐性が無かったという感じじゃな)

 

将として男性の兵士と共に戦場に出る時とプライベートで男性と接するのは違う。

 

(マスターも狙ってやっているわけじゃないのはカルデアで見てきているから分かっておるが…流石に自重してもらいたいのだがのう)

 

そろそろ自重しろ。カレン・C・オルテンシアからも言われた言葉である。

 

(カルデアでもどんどん誑し。この異世界での誑しも通常運転)

 

何度も言っておくが藤丸立香の誑しは狙ってやっているわけではない。彼の行動は優しさからのものだ。

 

(マスターの優しさは良いものじゃ。それが悪いわけではないが、それが色んな女に向けられるのはなんか…こう。嫌なんじゃよなあ)

 

武則天。独占欲の気がある。

彼女だけでなくカルデアの英霊達のほとんどが独占欲の強い者たちが多い。

溶岩水泳部の源頼光が最たる例だ。彼女たちだけでなくジャンヌ・オルタやメルトリリスも当てはまる。

 

(マスターが誰を選ぶか…それは分からん)

 

藤丸立香が愛を誰に渡すか。それは確かに誰も分からない。

 

(やはり一番はマシュじゃよなあ)

 

カルデアの誰もがまず一番にマシュ・キリエライトを候補に挙げる。

 

(次に可能性としてはジャンヌ・オルタやメルトリリスとかの名が挙げられる)

 

候補に挙がる女性たちは藤丸立香と強い縁や旅路を辿った者たち。

特異点や異聞帯の記憶はなくとも強い縁が藤丸立香と結びつける。

 

(妾もダ・ヴィンチからアガルタの事は聞いておる。それも深い縁じゃが…ジャンヌ・オルタやエレシュキガルの者たちとは違うんじゃよな)

 

比べるようなものではないが少し悔しいと思う部分がある。こればかりは才能や努力の問題ではない。

 

(ならば妾は妾の方法で…)

 

チラリと藤丸立香を見る。己が共同統治者候補として認めた男。

 

(うむ、妾は神聖皇帝。マスターといえど此方は女帝なのじゃ)

 

武則天は何かに納得する。

 

(こんなナリだが妾は大人の女性じゃ)

 

童女もしくは少女姿の武則天。精神が子供っぽくなっているが本質は女帝で大人な女性だ。

 

(ふむ。自重しろと言われておるマスター…なら、そろそろ分かってもらわねばな。くっふっふー)

 

武則天は思案していたが何か答えを見つけたように目を開く。そして「くっふっふー」と笑うのであった。

その答えはきっと藤丸立香が驚くもの、大胆な行動かもしれない。

 

 

572

 

 

ペラリ、ペラリと本のページを捲る音が聞こえる。

人の耳に本を捲る音が「ペラリ」と聞こえているかどうか分からない。実際は違う風に聞こえているかもしれない。

ページを捲る擬音が「ペラリ」と教え込まれた、聞いたから、脳がページを捲る擬音を「ペラリ」と認識している。

 

「お茶です」

「ん」

 

蘭陵王が淹れたお茶を「ズズズ」っと啜る虞美人。

 

「貴女が本を読むなんて珍しいですね」

「いや、私も本を読む時は読むわよ」

「どのような本を読んでいるのですか?」

「項羽様についての本よ」

(まあ、貴女が興味を出すものといえば項羽殿が全般ですからね)

 

虞美人の頭の中は、ほぼ項羽で埋め尽くされている。もちろん他にも考えている事はあるが優先順位第1位は項羽なのだ。

 

「でも私の項羽様ではなく、この世界の項羽様についてよ」

「この世界の項羽殿ですか」

「ええ。私の愛する項羽様ではないけれど、異世界の項羽様にも興味あるのよ」

「異世界とはいえ愛する人や自分自身がいるとなれば興味はありますよね」

「あ、ちゃんと言っておくけど…興味はあると言ったけど浮気じゃないから」

「分かってますって」

 

虞美人が浮気をするイメージが付かない。カルデアでは砂糖を吐くくらい虞美人と項羽はラブラブである。

 

「で、本にはどのような事が書かれてましたか?」

「三国志を元に創られた世界…じゃなくて中国の歴史を元に創られたようなこの世界。流れは一緒ね。この世界の項羽様も同じ事をしているわ」

「そうですか」

「そしてこの世界の私もね」

 

この世界の項羽も虞美人もカルデアの2人と同じ歴史を辿っている。

 

「ま、この世界の私と項羽様の正体までもが同じかまでは分からないけどね」

「そうですね。この世界の項羽殿と虞美人殿がお二人と一緒かまでは本に載っているとは限りません」

「もしかしたらこの世界の私と項羽様は本当に人間だったかも」

 

いずれにせよこの世界の項羽と虞美人がどのような存在だったかは分からない。

 

「この世界の武将たちがほぼ女性だったので項羽殿も女性かもしれませんね」

「止めてよ。項羽様が女性だなんて」

「ですが魏、蜀、呉の武将たちが女性ではないですか」

「呉はそうだけど魏の曹操や蜀の劉備も女なんだ」

「ええ。あの呂布もですよ」

 

信じられないかもしれないが本当だ。しかし虞美人もカルデアにいるからこそすんなりと受け入れる。

 

「逆にこの世界の虞美人殿は男かもしれませんね」

「それは想像できないわね」

「ですがこの世界の貂蝉殿と卑弥呼殿は男性ですから」

「え」

 

つい間抜けな声が出た。

 

「蘭陵王なりの冗談?」

「いえ、本当なんですが」

 

カルデアにいるからこそ男性として語られた英雄たちが実は女性だったというのは慣れたが、その逆は流石に驚いたものである。

この世界の貂蝉と卑弥呼の容姿と迫力は誰もが驚く。失礼かもしれないが本当に驚く。大切な事だから2度繰り返すほど。

 

「きっと貴女も会えば驚きますよ」

「ふーん」

「しかし彼らは良い人たちです。きっと貴女が人間でなくとも変わらず接してくれます」

「どんな人間なのよ?」

 

実際のところこの世界の貂蝉と卑弥呼は人間ではない。高次元の存在である。

 

「カルデアにはいないタイプですね。容姿は女性の下着をつけた筋肉の発達した大男…」

「言わなくていいわ」

 

女性の下着を履いたレオニダスとスパルタクスを想像してしまった虞美人。飲んだお茶が胃から口に戻りそうであった。

 

「会いたくないんだけど」

「いずれ会う事になりますよ。絶対」

「絶対なのね…」

 

パタンと本を閉じる。

話を聞くと貂蝉と卑弥呼は蜀にいる。呉で一段落したら蜀に戻る段取りか魏に向かった司馬懿(ライネス)たちと合流する手筈になっているのだ。

蜀に行けば確かに貂蝉と卑弥呼に会うのは絶対である。

 

「会いたくないわね」

「はは」

「何で笑ったのよ」

 

軽く笑って誤魔化したにすぎない。

 

「虞美人さま~」

「ぐっちゃんパイセ~ン」

 

のほほんとした声とぐだっとした声が聞こえてきた。

 

「この声は」

 

現れたのは穏と藤丸立香。

 

「変な発情女と後輩か」

「変な発情女って何ですかぁ!?」

 

失礼すぎる虞美人。

 

「だって…ねえ?」

 

藤丸立香と蘭陵王を見るが2人は困った顔をするしかなかった。

虞美人が変な発情女と言った理由は穏の特殊性癖を知っているからだ。

 

「こほん。虞美人さまがわたしをどう思っているかは置いておくとして…」

「どうしたのよ?」

「ぐっちゃんパイセン。項羽の情報だけど」

「早く言いなさい」

 

項羽の名前が出た瞬間に虞美人の顔つきが真剣になる。

元々、虞美人は項羽を探す為に呉まで歩いてきた。そして呉では項羽の情報を提供してもらう事になっている。

呉に項羽がいるか情報を集める担当となったのが穏である。

 

「えー…先に結果から言いますね~。項羽さまの情報はありませんでした~」

「使えない人間ね」

「ひどぉいです!?」

 

鋭すぎる言葉の剣が穏の胸の突き刺さる。

 

「うう…立香さ~ん」

「よしよし」

 

傷ついた穏を慰める。

 

「だって何も分からないなら、当然の評価でしょーが」

「いやいや、何も情報が見つからなかったというのが分かったから他に考察する事が出来るんだよ」

「何を考察するのよ」

 

呉では項羽が見つからなかった。その事から呉に項羽はいないというのが分かる。

 

「当然の答えじゃない」

「で、オレは蜀から呉に来たんだ」

「そう言えばそうだったわね」

 

蜀にいた藤丸立香たち。何ものんびりと過ごしていたわけではない。

この世界ではカルデアから英霊たちが呼び出されている。特に中華圏内の英霊ばかりが呼び出されている為、まだ合流出来ていない中華圏内の英霊の情報はずっと集めているのだ。

虞美人や項羽、赤兎馬や陳宮達が既にこの異世界に呼ばれているかもしれない。そんな可能性を捨てきれないからこそ分かる事があるのだ。

 

「蜀でも項羽がいるかどうか探していたんだぐっちゃんパイセン」

「項羽様にちゃんと様を付けろ後輩」

「それは一旦置いておいて」

 

蜀でも呉でも項羽の情報は見つからなかった。

 

「今やこの大陸は三国が対立しています。その中で2つの国から項羽さまの情報が出てこなかったということは~」

「もしかして…項羽様は魏に?」

 

蜀でも呉にもいない。ならば魏に項羽がいる可能性が高いのだ。

 

「もちろん、これはただの考察にすぎません。絶対とはいえませんが…」

 

確かに絶対とはいえない。この大陸は今や魏、蜀、呉が対立していると言われているがまだ完全に三国が全てというわけではないのだから。

 

「可能性としては魏にいる可能性が高いってだけだよぐっちゃんパイセン」

「魏…」

「もしも項羽が蜀にいたらオレと合流するし、呉にいたらすぐさまぐっちゃんパイセンと合流すると思うんだ」

 

蘭陵王もうんうんと頷く。

カルデアで奇跡の再会を果たした項羽と虞美人。異世界でも2人は絶対に再会を果たす。

虞美人も項羽も再会するために本気を出す。2人は本当に赤い糸で結ばれているのだから。

 

「ただ項羽の方から来てくれないとなると…」

「項羽様の身に何かが!?」

「待った待った。項羽が不覚を取るなんて想像できない」

「そ、そうよね。項羽様が不覚を取るなんて絶対に無い事だわ」

(虚数大海での事は黙ってよう)

 

夢の出来事になったが項羽が楊貴妃に不覚を取った事がある。もしも口にしたら虞美人が楊貴妃を襲いそうで怖いものだ。

 

「恐らく魏で項羽が動かない理由があると思うんだ」

 

魏に項羽がいた場合の仮定をする。

彼が動かない理由があるとすれば異変に繋がる。つい最近の異変・事件といえば于吉が仕向けた八傑衆。

情報によると八傑衆は魏でも暗躍している。だからこそ司馬懿(ライネス)たちが赴いているのだ。

 

「八傑衆って…確か私が倒した奴だっけ?」

 

既に記憶から八傑衆が薄れている虞美人。

人間と妖魔の混ぜ者を倒した事なんてどうでもいいのだ。

 

「なら私の方から魏に行くわ!!」

 

今すぐにでも飛び出そうとする虞美人を止める藤丸立香と蘭陵王。

 

「待ってぐっちゃんパイセン!!」

「落ち着いてください」

「離せ!!」

 

虞美人のためにも魏に向かわせたいがまだ呉から離れられないのだ。

 

「離れなさい後輩、蘭陵王。爆散して竜巻となって魏に行くから!!」

「それは本当にお止めください!!」

 

サマーキャンプを思い出す。

 

「爆散…竜巻?」

 

何のことか分からない穏。

 

「まだ呉を離れられない理由があるから!!」

「どーせあれでしょ。後輩が種馬の役目を果たしてないからとかでしょ!!」

「何を言っちゃてるのぐっちゃんパイセン!?」

「そこの女にさっさと種付けしろ。そして魏に行くわよ!!」

「種付けとか言うの止めて!!」

「いやぁん。立香さんたら~」

「穏さんもクネクネしてないでぐっちゃんパイセンを止めて。本当に爆散して竜巻になりそうだから!!」

 

閑話休題。

 

「で、呉から離れられない理由って何よ」

「吸血巨人の事件なんだ」

「アレはもう終わった事でしょ」

「いや、まだ終わってないと思う。ぐっちゃんパイセンが油断して吸血巨人に首をねじ切られた時って覚えてる?」

 

あまり思い出したくない記憶だが重要な事である。

 

「そうね…確か私が吸血巨人を斬りつけようとしたら空ぶったのよね。確かに斬れたはずの間合いだったんだけど」

「その時、周りに誰かいたりは?」

「居なかったと思うけど。何が言いたいのよ後輩」

「実はあの現場に謎の血痕があったんだ」

 

虞美人と吸血巨人が戦った現場よりほんの少しだけ離れた場所にあった血痕。2人の戦った間合いの外にあった血痕と言った方が分かりやすいかもしれない。

戦いの外に第三者がいて、戦闘の余波に巻き込まれた負傷から流れた血のように見えたのだ。

 

「もしかしたらだけど…あの場に誰か居た可能性があるんだ。それこそ吸血巨人を援護していた人かもしれない」

「先ほど虞美人さまは言いましたよね~。確かに斬れた間合いだったと。ですが外れて逆に返り討ちになってしまった」

「もしかしたらだけど、謎の第三者がぐっちゃんパイセンに何かして剣を外させたんじゃないかな」

 

黙って何かを考える虞美人。謎の第三者とは吸血巨人の協力者と考えるのが妥当である。

 

「………そうかもしれないわね。確かに剣の間合いに入っていたけど外れた。まるで幻や煙を斬ったような感じだったし」

「でもその後は特に何もなかった。あの後どのように吸血巨人に手傷を負わせたんだぐっちゃんパイセン?」

「周囲に魔力を込めた弾を撃ち出して手傷を負わせたわね」

 

虞美人の攻撃方法に血のように燃えた魔力弾を複数放つ技がある。周囲に放った時に吸血巨人の協力者にも被弾して傷を負わせた可能性があるのだ。

 

「そもそも吸血巨人の協力者ではなく、呉に解き放った者かもしれない。そうなるとまだ捕まってもいないんだ」

 

この事から分かるのは吸血巨人の事件は終わっていない。

 

「吸血巨人の事件は八傑衆が起こしたんじゃないかと考えるんだ」

「吸血巨人という妖魔は孤島にいると言われてます。ですが人間の住む街中に現れるなんて言い伝え聞いた事ないですからね~」

「確かに…私の知る吸血巨人も人間の国で食事をするために孤島から出るような奴じゃない。なら無理やり孤島から人間の国に連れ出されたと考えられるわね」

 

ならば吸血巨人を利用した者は誰か。ここ最近の事を考えるとやはり于吉から八傑衆と考えられる。

蜀では八傑衆が2人暗躍していた。ならば呉でも八傑衆が2人以上暗躍していてもおかしくない。

 

「もう1人犯人がいて、そいつが八傑衆かもしれない。また何か事件を起こすかもしれないから呉から離れられないって事ね」

「そうなんだぐっちゃんパイセン」

「なら、その八傑衆とやらをさっさとシバくわよ。そしてすぐに魏に行って項羽様を探すのよ!!」

 

やる気を出す虞美人。言われなくても次の事件はもうすぐ近づいてくる。




読んでくれてありがとうございました。
すいません。また次回も未定です。


571
原作でもある明命の幕間に藤丸立香と武則天を混ぜた話でした。
う~ん、猫好きの明命と猫が苦手…じゃない?武則天はたぶん会話は合わないかも。
あるものに対して好きと苦手な者同士が会話しても分かり合えるのは難しすぎますからね。

なんか明命がちょろい感じになったかな。でも原作でもそうだったし、そうでもないかな。そして武則天も。

武則天もなんだかんだで藤丸立香に対して好意が高い英霊だと思うんですよね。
絆セリフや幕間、バレンタインイベントでも分かるように。
今度、藤丸立香と武則天のカップリング話でも書こうかな。


572
恋姫世界の項羽ってやっぱ女性なのかな~。
そして虞美人は男…じゃなくて漢女かな。気になります。

ちょっとした考察1。
項羽は魏にいるかも。まあ、4章の最後のオマケでも書いたように項羽は確かに魏にいるんですよね。
魏でどのような事をしているかはまだ秘密。

ちょっとした考察2。
虞美人が吸血巨人に後れをとった理由。
何者かが吸血巨人を援護していたからです。まあ、その何者かはすぐに予想できちゃうかもですけどね。
ぐっちゃんパイセンが吸血巨人に一度、負けたのは誰かに邪魔されていたからでした。
どんな能力で邪魔されていたかは、そのうち分かるかも?


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