Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
世間はオリンピックやらコロナやらで色々と大変で大騒ぎですね。
オリンピックといえばまさかアーチェリーの競技でFGOが出てくると思いませんでした。地上波にアーラシュが登場するとは…本当にFGOって人気なんですね。

そのFGOは今年で6周年。今日は色々と情報がたくさん出るのか気になるところです。
そして夏のイベント。今年の水着イベントは9月なんですね。やはり8月は2部6章でいっぱいなのかもしれません。
今年の水着イベントはどんな物語か…気になるところです。

恋姫の天下統一伝では水着イベントが真っ最中。
魅力的な恋姫キャラ達の水着も良いですね!!
天下統一伝も何だかんだで2016年からリリースされているので長いですね。

FGOも恋姫も人気コンテンツですね。


さて、前書きで長くなりましたが本編をどうぞ。
今回も日常編です。(今回はちょっと長いかな)




孫呉の日常6

573

 

 

今回の日常は冥琳の執務室から始まる。

 

「悪いな藤丸。雑事を手伝わせてしまって」

「構わないよ。前にも似たような事をしていたし」

「ふふ。そうだったな」

 

今日は冥琳の手伝い。

雪蓮が呉の王となった以降、呉のナンバー2の役職のように働いている彼女は軍師として雪蓮を大陸の覇者とするべく努力しているのだ。

 

「オレでよければいくらでも手伝うよ」

「なら遠慮なく扱き使ってやろう」

 

軽く意地悪そうな顔で笑う冥琳。それに対して軽く笑いながら「お手柔らかに」と言う。

今回の仕事内容は各部隊の兵の増減記録。現状の戦力をしっかりと把握するのも重要な仕事である。

 

「まとめ終わったよ」

「どれ見せてくれ」

 

淡々と仕事をこなしていく2人。真面目に仕事をしていれば時間は気付かないうちに経過していくもの。

時間の流れは変わらないのに体感的には早く感じるものである。

 

「休憩にしようか」

「じゃあ、お茶を淹れよう」

 

冥琳は眼鏡の位置を直し、ちょっとため息をつく。

 

「藤丸…すまないが少し話を聞いてくれないか」

「いきなりどうしたどうした?」

 

まるで疲れたような顔をしている冥琳。仕事疲れではなく、ちょっとした相談事だと予想する。

お茶を淹れて冥琳と自分の分を用意して椅子に座る。

 

「気付いているか?」

「…さっきから扉の前に気配は感じますけど」

「それについてだ」

 

扉の外から声が聞こえてきている。気になれば口を閉じて耳を傾ける。

 

「むむー…気付かれるかなーっと思いましたけど休憩に入っちゃいましたね。これはいわゆる誘いというやつなのか。はたまたこのパオの隠密能力が高すぎるだけなのか。そうだったら細作の才能がある自分が恐ろしすぎますね」

 

扉の前に居るのは包。

 

「あの…何をしてらっしゃるのですか?」

「ひゃわッ!?」

 

そして声をかけて包を驚かせてしまったのは亜莎。

 

「冥琳様に何か御用ですか?」

「え、ええー、そんなことないですよー。パオはたまたま通りがかっただけで…」

 

とても分かりやすい反応である。彼女には隠し事が苦手かもしれない。

 

「私が見ていた限り、半刻近く扉の前に居座っておられましたが?」

「な…パオの潜伏を見抜くとは、亜莎さんにも細作の才能があると…!!」

 

半刻近く見ていた亜莎も亜莎だ。

 

「細作ってどういうことですか?」

「ああっ、油断しました。亜莎さんは鈍いように見えて鋭いですね。このパオを誘導するとは…!!」

 

誘導はしてない。単純に疑問に思ったから聞いただけである。それをベラベラと喋っているのが包。

 

「誘導とか潜伏とか冥琳様の部屋の前で何をしようとしていたんですか?」

「むむむ、仕方ないですね。これも同期のよしみです。パオの作戦をお教えしましょう」

「さ、作戦?」

「実はですね。パオは研究と観察をしているんですよ」

「冥琳様のことをですか?」

「そう。亜莎さんは何故だと思いますか?」

「ええと…わかりません」

「んもー、仕方ないですね。これも亜莎さんが同期だから教えてあげるんですよ。私たちがこの国で成り上がっていくためには効率よく成果を上げていかなければなりません。目の前にその最高の教本があるにもかかわらず読まないなんでそれはとってもとっても勿体ない!!」

「なるほど、確かに冥琳様は筆頭の軍師。その仕事ぶりを見て覚えるというのは確かに大事かもしれません」

 

納得の亜莎。包の言っている事は何も間違っていないのだ。観察して手本になるようものを吸収して自分の力になるというのならば良い事である。

ならば、と思い亜莎も包の横に移動して同じ体勢で観察を始める。傍から見たら観察ではなく覗きにしか見えない。

 

「って、どうしてあなたまでが観察してるんですか!?」

「ええっ、まずかったですか?」

「まずいですよー。ちょっと考えたら分かるじゃないですか!!」

 

首を傾ける亜莎。分からないという意味だ。

 

「あのですね、あなたはパオと同時に仕官したんですよ。さっきは同期のよしみでパオの作戦を教えてあげましたが、基本的にはパオはあなたの敵なんですから」

「て、敵ですか…私、包さんの事をそんな風に思ったこと一度もありませんよ!?」

「なにを言っているんですか。パオが亜莎さんよりも先に出世するという事は、つまり亜莎さんが出世できなくなるということですよ」

 

包にとって亜莎は競争相手という事だ。出世欲が強い者ならば同期たちを目の仇にするのも当然。

 

「でも包さんが出世されるのは私にとっても喜ばしいことですけど」

 

しかし亜莎は包を競争相手としては強く見ていない。寧ろ同期が出世するのに喜ぶタイプだ。

 

「そ、そうきますか。しかしパオの目的があくまでパオが皆さんを蹴落とし一番になり、そのうえで孫呉に天下を取らせる事。亜莎さんは興味なくても気にせず出世させてもらいますからね!!」

「はい。それは構いませんけれど…。包さん、そうやって身内で争うよりも皆で協力し合った方が早く確実に天下を取ることができるのでは?」

 

正論ではある。

部屋の中で聞いていた藤丸立香の頭に「ンン、正論!!」と響いた。

 

「私は争うよりも皆さんと仲良くしたいです。もちろん包さんとも」

「ぬぬう…しかしですね、やはり出世というのは乱世の本懐でありましてですね…」

 

そんな会話が扉の外から聞こえてきたのである。

 

「これがな…」

 

藤丸立香の目の前で冥琳は頬杖を突きながらため息を吐いた。なかなかレアな光景である

 

「包と亜莎についてだ」

「なんとなく冥琳さんが言いたい事が分かる。もしかして2人の性格について?」

「そうだ。2人とも才能ある若者であるのは認めているのだが如何せん、我が強すぎるのと弱すぎるというかなんというか…」

 

冥琳がため息を吐いた理由は亜莎と包の極端なキャラ性についてであった。包は積極性がありすぎて無鉄砲。亜莎は引っ込み思案で自信が無さすぎる。

個性があって良いと言う人もいるが軍師としては改善してもらいたいと言うのが本音である。

 

「前に軍の再編について話し合っていたんだが…包と亜莎は逆の意見を述べてくれたんだ。いや、軍議で様々な意見を述べてくれるのは助かるのだが問題は述べ方と言うべきか。そこから2人の気質が分かる」

「どんな意見だったんですか?」

「質問を質問で返すようで悪いが、戦において呉の強みは何だと思う?」

「そうだな…突破力ですか?」

「正解だ。孫呉の伝統とでもいうべきか、強襲戦に特に強さを発揮する。まずはこれを主眼に置いて考えて意見を出して欲しいと言ったところ亜莎は水軍を推した」

 

呉の地は攻めるにも守るにも水軍が重要だ。強化も見据えて弓部隊の調練に力を入れるのが効果的だと意見。呉の突破力を支えるために援護の力を伸ばしたいという事だ。

思春と錦帆賊の加入により孫呉の水軍は練度を高めており、弓の強化はこちらでも有効だ。人員や兵の練度もそうであるが、より強力な弓矢新兵器の開発には大いに意義がある。

 

「良い意見だった。しかしこの意見が出るまでがちょっとな」

「と、言うと?」

「亜莎は自信が無いのかあまり意見を出そうとしないのだ。他の者の意見を推す傾向がある。それもまた生来の気質だろう」

「自分なんかより…みたいな事ですか?」

「そうだ」

 

引っ込み思案との自信の無さから自分の意見が通るとは思っていない。逆に自分の意見は浅すぎるのではないだろうかとマイナスの考えが頭の中を支配してしまう。

それらのマイナスから亜莎は自分よりも他の人の意見を推す。自分よりもあの方の方が良い意見だと思って補足するように話すのだ。

 

「これではせっかくの才能がもったいない。亜莎はもっと自信を持ってもいい」

「確かに。彼女はとても努力家だ。夜遅くまで勉強している努力が報われないのはもったいない」

 

才能があり、努力もしている。しかし生来の気質が邪魔をしている。

本当にもったいないとしか言えない。冥琳としては生来の気質が改善されれば亜莎は化けると確信している。

それこそ筆頭軍師の冥琳にだって並べるまで成長するかもしれないほどに。

 

「あの自信の無さは人付き合いも影響が出る。彼女はこれから上に上る可能性がある。そうなると様々な人と話す事になるから引っ込み思案は改善してほしいものだ。そうなると藤丸を見習ってほしいものだな」

「オレですか」

「ああ。お前の人付き合いの良さは呉の中じゃ1番だぞ。それこそ他人との心を開かせるのが上手い。まあ、それに関して今は置いておく」

 

コミュニケーション能力が恐ろしすぎるという事だ。

 

「そして包の方だが…」

「逆の意見だったという事だから突破力をより強化するような意見でしたか?」

「また正解だ。徹底的に突破力に磨きをかける方が良いと言っていた。騎馬部隊の強化した方がいいとの意見だ。これも悪い意見ではない」

 

精強な馬を仕入れ、騎馬部隊での一点突破で速やかに敵を叩けるようにする。それが結果的に生存率の向上につながるというのが包の意見。

戦いは必ず先手有利。そして勝敗は大抵、最初のひと当たりで決する。彼女は「ガンガン行こうぜ」タイプだ。

 

「意見を出すのは良いのだが彼女の場合は出世欲が強すぎるのが傷だ」

 

意見を出す時に他の人の意見を否定する癖がある。他の人よりも自分の方が良いと強調するためだ。その意見の出し合いでは亜莎の意見を良いと言いながらも否定して自分の意見を強調していたのだ。

自分の意見、作戦が良い。成功すれば評価が上がる。出世に繋がる。そのような流れが分かりやすい。

 

「能力に間違いはないんだがな。あそこまで出世欲が強い者はなかなかいない。包の積極性は買うが行き過ぎれば毒にもなる」

 

自己研鑽に励むのであれば包の強い野心は歓迎できる。そもそも彼女には炎蓮や雪蓮に通じる何かがあるのだ。

彼女の出世欲は雪蓮の前でも堂々と言い放ったほどである。包は孫呉向きの人間とも言える。

上手く伸ばしてやれば間違いなく孫呉の力になるのだ。なにせ彼女の戦術眼や瞬時の判断力は特筆すべきものがあると冥琳自身が判断しているのだから。

 

「まあ、かわいげのある出世欲だろうとは思うが亜莎のこともあるし、お前にも目を付けそうだ」

「オレにもですか?」

「ああ」

「……そう言えば前に」

「どうした?」

「実はこういう事があって…」

 

包が藤丸立香に目を付ける。実は既に思い当たる節というよりも、出来事があったのだ。

 

 

574

 

 

ある日、書類整理で資料を持って廊下を歩いていた時の事。

 

「はー…ええと、次はどの資料を運べはいいんでしたっけ」

 

疲れたもとい面倒くさそうな声色が聞こえてくる。

 

「はーー、資料探しなんてパオにやらせず自分でやればいいのに。その方が絶対運動にもなっていいと思うんですよね。適度な運動が健康にいいということは今や農家の皆さんですら承知というのに」

 

中々な愚痴オーラを醸し出している。

愚痴が気になったので藤丸立香は来た道を引き返すと彼女は丁度、書庫の前で手元の目録を眺めていた。

 

「えーと…なんかよく見たら何冊もあるんですけど。これパオ1人で運ぶんですか?」

「や、包。探し物?」

「ひゃわ!?」

 

包に声をかけると彼女はその場を大きく飛び退き、ギョっとしながら見てくる。

そこまで驚かせるような声の掛け方はしていないはずだが彼女は驚いたようだ。

 

「って、なんだー。藤丸さんですか。無駄にビビって損しましたよー」

 

相手が藤丸立香と分かった瞬間に気を抜いたような反応。

 

「もしかして雷火さんかと思った?」

「う…まあ。お師さんじゃなくてよかったですよ」

 

包は雷火の事を「お師さん」と呼ぶ。

彼女は雷火の下につけられたので今や師弟関係のようになっているのだ。

 

「でも何で雷火さんに出会いたくなかったのさ?」

「いやはや、それは語るも涙の話がありましてですね…」

「その話って長い?」

「雷火さまったら、パオに雑用ばっかりさせるんですよ。今日だって、ほら。この目録にある資料をとってこいとお昼ご飯前に言うんですから!!」

 

藤丸立香の言葉を無視して語る包。

 

「……それはたぶん資料を取り行くついでにご飯食べて来ていいよって事じゃない?」

「ご安心ください。お腹いっぱいラーメンを食べてきました」

 

既に昼飯を食べていた。

 

「なら別に昼飯前ってところに怒る必要はないんじゃないかな」

「いいえ。あとで資料をとって戻らなければいけないという強迫観念により、パオは行列の出来るラーメン屋ではなく、早いだけが取り柄のお店に入る羽目になったんですよ」

「そ、そうなんだ」

 

軽く片方のお店をディスっているが置いておく。

 

「雷火さまや冥琳さまはこれも教育だと仰いますが、パオは意味があるのかどうか分からないですよ」

「2人とも立派な人だよ。あの人たちが言うなら間違いないと思うけど」

「まー、そこの功績についてはパオも分かっていますよ。ですが世には適材適所という言葉があります」

 

同意出来る言葉だ。

 

「パオは軍師です。それも大陸一になるような軍師です。そんな軍師に内政の手伝いをさせるなんて、どう考えてもおかしいと思いませんか!?」

「うーん…でも冥琳さんや穏さんだって内政について何もやらないわけじゃないし」

「まあ、それはその通りなんですよ。だからパオも一応ちゃんとやってるんです」

 

大きなため息を吐く包。

 

「しかし、はっきり言って税がどうのどこそこの官職がどうのというのは面白くないんです。こんなつまらない仕事ばかり毎日やっていたらパオの頭脳が目減りしてしまいます。それは国の大きな損失だというのに…はぁ」

 

彼女はなかなか自信家のようだ。言葉の所々に彼女が自信家だと思ってしまう部分がある。

そんな彼女の性格上、愚痴を他の人に言ったりしない。もしかしたらストレスが溜まりに溜まっているのかもしれない。今はまだため息レベルだがよりストレスが溜まるとどうなるか未知数だ。

 

「包。この後すぐに資料を持って行かないといけないのかな?」

「いいえ、昼休みの時間はまだありますけど」

「だったらさ、口直しがてら甘い物でも食べに行こうよ。美味しいお店を知ってるんだ」

「………じーー」

「他意は無いよ?」

「…あなたにもちょっとお聞きしたい事がありましたし、ちょうどいいです。ではご一緒しましょう」

「じゃあ、行こうか」

 

美味しい甘味を提供しているお店まで移動。そして着席し、甘味を注文。

出された甘味はよく冷えた梨。シャリシャリと良い歯ごたえで瑞々しい果実だ。

 

「それでですね、パオには冥琳さまや穏さんはいるのに加えて同期には亜莎さんもいるんです。皆さんと真っ向からやり合って負けるとは思いませんが、勝負は常に公平ではないですから…冥琳さまや穏さんには先代の時代から国に貢献してきたという積み重ねがありますし、亜莎さんもパオ程ではないんですがなかなかの才能をお持ちです。そんな中でパオはお師さんに頼まれた資料運びやら税の計算やらばっかりで功績があげられません!!」

 

よく冷えた梨の切り身をシャリっと齧りながら包の愚痴トークを聞く。

 

「そうして安穏としている間にパオの出世の扉が閉ざされてしまうかもしれないじゃないですか。それを避けるためにはお師さんの監視を掻い潜り、冥琳さまや穏さんにあっと言わせるようなことを成し遂げるしかないと思うんです」

「功績を上げるのは悪くないけど…その功績を上げる過程の中で勝手な行動もとい命令無視になる事は駄目だよ。下手したら冥琳さんたちだけじゃなくて他の人にだって迷惑が掛かる」

「うう…」

 

正論を言われて黙る。またも「ンンー、正論!!」と聞こえた気がする。

 

「気持ちは分からなくもないけど今はもう少し我慢して雷火さんの言う事を真面目にこなしていくべきだと思うよ」

「真面目にコツコツ…ですか。藤丸さんもそうしてこられたんですか?」

「オレ?」

「はい。パオが何の計算もなしに甘味に付き合ったと思いですか。あ、でもこの梨は気に入りましたけどね」

 

シャリっと梨を齧る包。彼女が藤丸立香の誘いに乗ったのは彼の話が聞きたかったという事だ。

 

「真面目にコツコツやってきたよ」

 

孫呉に天の御遣いとして拾われてからは真面目に自分の出来る事をこなしてきたのは本当だ。

今までの旅路で身に着いた技術や知識が役に立ったこともある。しかしどうしても分からない事があれば教えてもらい、勉強でもして少しずつ力になるように努力はしてきたのだ。

 

「そうなんですか。でもその割には功績を上げてませんよね?」

「まあ、功績を上げるつもりはなかったから」

「出世に興味無いと…無欲ですねえ」

 

無欲。

包からしてみれば藤丸立香は無欲な人間に見えるようだ。しかしそれは違う。

彼だって人並みに欲はある。ただ呉で出世しても意味は無いからこそ無欲に見えてしまうだけなのである。

 

「ですが藤丸さんは冥琳さまやお師さんだけでなく、雪蓮さまや蓮華さまあたりにも頼られてますよね。そこら辺は一体どうされたんでしょうか?」

「そう?」

「とぼけた返しをして…謙遜のしすぎは嫌味になりますよ」

「そんなつもりはないけど。分析するならやっぱり今までの戦いを一緒に乗り越えたからかな」

「あー…黄祖とかいう奴との戦い。そして独立する時に于吉とかいう妖術師と戦ったなんていうのを教えてもらいましたね」

 

藤丸立香たちは雪蓮たちと共に大きな敵と戦い、勝利してきた。

その戦はとても濃く、深く、苛烈であった。だからこそ乗り越えたからには互いに信頼できる仲になったのだ。

 

「なるほど大きな戦いを乗り越えたからこその信頼ですか」

 

分からなくもないという感じで「うんうん」と頷いている。

 

「特に雪蓮さまが一番藤丸さんに心を砕いている感じですし。まさに雪蓮さまと冥琳さまのような感じです」

「冥琳さんと比較されてもな」

 

雪蓮と冥琳の仲の良さは友情を越えて愛情だ。

2人の間に隙は無い。

 

「あと他にはないのですか?」

「他、か……他の人より何か違うことがあったとしたらやっぱり天の国のことかな」

「ほーう」

 

『天の国』という言葉が出て来て目をキラリとする包。

 

「この大陸にはない知識。そこが少しは役に立っているのかも」

「天の国の知識…なるほどなるほど。つまりそれがパオに備われば鬼に金棒なのではないですか!!」

「え?」

「ならばこれはパオと藤丸さんで一旗揚げるしかないですよ」

 

ニヤニヤ顔の彼女。「何を言っているんだこの子は?」みたいな顔をしてしまう。

 

「藤丸さんの天の国の知識をわたしにだけこっそり教えてください。そうすればパオは誰にも後れを取らなくなります!!」

「いやいや、教えられる範囲で皆に還元したいんだけど」

「あーん、そんな意地悪言わないでくださいよ~」

「いじわるでもなんでもないよ。それに教えられるにも範囲があるし…」

 

ここで「ハッ」と何かに気付く包。

 

「なるほど。何の見返りもないのでは藤丸さんも受けにくいですよね。誰だってただで何かをあげるなんてしません」

「それ以前の問題かな」

「しかし困りました。立場でいうと今のところはパオと藤丸さんはそんなに変わらないですから褒美をあげるというわけにもいきませんし…あ、梨一つでどうですか?」

「それはオレが奢った梨なんですけど」

「むむ、強欲な人ですねえ」

 

しゃくしゃくの梨を齧っている。

何をもって奢った梨を買収道具にしたのか気になるところだ。

 

「では…」

 

彼女は何やら考え込んだ風のポーズをとってから、上目遣いで見つめてくる。

 

「パオに天の国の知識を独占させてくれたら…気持ちいいことしてあげちゃいますよ?」

(そういう路線できたか)

 

男として興味のある話ではある。

性欲に弱い者なら即篭絡されてしまうはずだ。

 

「うふふ、パオを藤丸さんの思うがままにしちゃっていいんですよ。こんな可愛いパオを好き放題できちゃうなんて、最高の報酬ではないですか?」

 

本気かどうか分からないが彼女のへこたれなさと手段を選ばない姿勢は凄くはある。しかしこの程度の色仕掛けには屈しない。藤丸立香は既にこの世界に来てから色仕掛けは喰らって耐性が出来ている。

傾や瑞姫の方がもっと上手いというものだ。更にカルデアでも誘惑されるのを鍛えられており、ちょっとした程度の誘惑は効かない。

だからこそ、こんな時の返しは決まっている。

 

「ごめん」

 

丁寧に断る事だ。

 

「なんでですかー。てか断り方!!」

 

まるで告白を断ったかのような感じであった。

 

「そもそも、そんな色仕掛けでオレを篭絡して出世してそれでいいのか?」

「な、なんですかいきなり」

「それも包の力かもしれないけど頭脳とか采配で勝ち取った出世じゃない。それでもいいのかって事」

 

最初に包が功績を上げると言っていた部分だが、それは軍師として功績を上げたいというのが強く含まれている。

色仕掛けで男を篭絡して、知識を得るというのは少し違う。

 

「むむむ……確かにそうですね。今の言葉は忘れてください」

「忘れとくよ」

 

彼女は色仕掛けよりも別の方法で功績を上げるのが良いのだ。

 

「パオにはこの魅力的な容姿以前に類稀なる頭脳があるわけですし、ならばまず頭脳で出世すべきですね。ただ、他の皆さんに教えている程度にはパオにも天の国の知識をお裾分けしてください。パオとしても競争の条件はなるべく公平にしたいですからね」

「それくらいなら」

 

天の国もとい藤丸立香側の世界の知識を何でもかんでも流す事はできない。この異世界に特異点並みな影響を与えない程度には話すだけだ。

 

「ふっふっふ、ありがとうございます。それにしても藤丸さん、抜かりましたね?」

「何が?」

 

首を傾ける。特に抜かったような事はなかった。

 

「今、パオは交換条件を指定しませんでした。つまり、藤丸さんはパオに無償で協力していただけるということです。この抜け目のなさ…いやあ、自分が怖いですねぇ」

「いや、包さんにも必要だったら教えられる範囲でタダで教えるよ。特に見返りは求めてないし」

 

無償で情報提供という意味。

そもそも何でもかんでも情報を提供するつもりは最初からなかった為、してやられた感は全く無い。

 

「見返りを最初から求めてないと?」

「うん」

 

急に真顔になって何やら考え、ぽつりと「なるほど」と呟く。

 

「そういうことでしたらパオは大手を振って藤丸さんの知識を利用させていただきます」

「利用してくれ」

「ええ。パオが筆頭軍師になって孫呉を天下へとたどり着けさせてやりますよ」

 

元気が出たのか廊下で会った時よりもストレスが抜けている感じだ。

 

「ふっふっふ。今日からパオによる天下統一への道が開かれました。パオが呉を大陸の覇権を握らせてやりますよ!!」

「やれやれ、それでは天下を取る日は一生来ぬやもしれぬなあ」

「っ、こ、この声は!?」

 

びくーっとした擬音が包から聞こえた気がした。

 

「昼食と資料を取りに行っただけにしては、やけに帰りが遅いと思うて心配して聞きこんでみれば立香と連れたって城を出ていったと言うではないか。まさかと思うて城下町を探して回ってみればこのような甘味処で」

 

一呼吸。

 

「何を油を売っておるかああああ!!」

 

強烈な一喝が店内に響いた。

 

「お疲れ様です雷火さん」

 

このような状況で藤丸立香は普通に挨拶。

 

「お疲れではない。お主もお主じゃ立香。女子と見ればすぐに連れ出して!!」

「おっと、誤解を招く言い方」

「まあまあお師さん。落ち着いてくださいよ。休憩時間はまだ残っているじゃないですか」

「何故お主に宥められねばならんのじゃ。立香にも言いたいこともないわけではないが、今日はお主じゃ。わしからの頼み事はどうした」

 

元々、包は雷火からの資料回収を頼まれているのだ。頼んだ仕事が遅ければ上司として気になるのは当然である。

 

「使いの一つもまともにこなせず、筆頭軍師とは」

「それならもう確保済みですよ」

「なぬ?」

 

自信満々の顔。

 

「お師さんが探していた資料は藤丸さんがお持ちだったのです。だからこうやって梨をシャリシャリと食べてるんですよ」

2人の視線が藤丸立香に注ぐ。

 

「立香、見せてみよ」

「はい」

 

資料を雷火へと渡すと「うむ、確かに」と呟く。

 

「実は資料室の前で藤丸さんと出会いまして。まさかお師さんの探していた資料を藤丸さんが持っていたとは…日頃の行いですかね。とても運が良かったです」

 

出会った時に包は藤丸立香が持っていた資料と目録にある資料が一致しているのを一瞬で見抜いたようだ。

それは恐ろしい洞察力。冥琳の評価は間違っていない。

 

「なぜお主がこんなものを?」

「実は亞莎が炎蓮さんの頃の時代の資料が読みたいって言ってたんだ。だから今度、用意しておくって事で用意してたんですよ」

「なるほど。真面目な亞莎らしいの」

「そもそもなんで雷火さんも炎蓮の頃の時代の資料を?」

「古きを温めて新しきを知る。最近は包をはじめ、若い将が増えてきたからの」

 

若者のために過去の資料をまとめ直し、炎蓮の業績等を改めて知ってほしいという雷火の計らいだ。

 

「ふむ、亞莎は過去の重要性を十分に承知しておるようじゃ。感心感心」

「それくらい、パオだって確認していますよ」

「ほう?」

 

全く信じていませんという声質に顔。

 

「自分が身を寄せることになった陣営の過去の戦況くらいはちゃんと調べますよー」

 

どんな将がいるのか、どれだけの兵を所有しているのか、どのような形の戦が得意なのか。

軍師としてそれらを把握しておくのは当然の務めらしい。

 

「なので、お師さんの授業はパオに必要ないですよ」

「たわけが。戦の過去は戦ばかりではない…まあ戦についての説明は確かに必要なさそうじゃな」

「ほら。パオにかかればお師さんの課題の先を行くなんて当然ということが分かっていただけましたか?」

「だから戦ばかりではないと言うておるじゃろうが。ここには過去の治世についての記録もある。そういったものを頭に叩き込んでおくのも必要なことじゃ。筆頭軍師になるならば当然抑えてもらわなければな」

 

隣で相槌を打っておく藤丸立香。確かに雷火の言っている事は正しい。

 

「…分かりました。ま、パオのことですから、内政もさらっとこなしちゃいますよ」

 

意外も素直に受け入れる包。

 

「そのうちお師さんが頭を垂れ、パオに教えを請う日も来るでしょうね」

 

まさかの二言目。しかし彼女の言った日が現実に来るかは分からない。

 

「大きく出たのう。内政においてもわしを追い越すと?」

「そうですよ。今のパオは昨日までのパオと違いますしね」

「なかなか頼もしい言葉じゃな」

「ふっふっふ、私には天の国の知識という新たな武器が備わりましたからね。パオの頭脳に藤丸さんの知識が合わさればまさに鬼に金棒というものです」

 

雷火の白い目が藤丸立香を刺す。

 

「包は後輩だからね。先輩としてちょっとは助言しないと」

「さすが先輩ですね!!」

 

この世界に来てから「先輩」と言われたのは初めてかもしれない。すこしだけホームシックな気分になる。

 

「もう1回言って」

「せんぱーい!!」

「…なんか違うなぁ」

「なんでガッカリするんですか!!」

 

マシュともBBとも違うがある意味、新鮮であったことは違いない。

 

(藤丸さんは先輩と言われるのが嬉しいのですね。あとは言い方でしょうか?)

 

妙な事に気が付いた包であった。

 

「…色々と思うところがないわけではないが少しはやる気になったのは喜ぶべきことじゃな」

「あと、よくよく考えると今から内政について携わっておけばですね、パオの方がお師さんよりもずっと長生きしそうですから放っておいてもいずれば自動的にパオが出世しそうだなとも思うんですよね」

「ほうほうなるほど。要はわしにさっさとくたばれという事か?」

 

「しまった」という顔をしている。誰もが思っている事だが包はいちいち一言多いのだ。寧ろ一言以上多い。

 

「いやいや、パオはそんなこと一言も言ってないじゃないですか。被害妄想がすぎますよ。だいたい、お師さんが殺して死ぬようなタマですか…って、それじゃ出世に時間がっ」

「その通りじゃ。お主らが一人前にならんことには、そうそうこの命はくれてやれんわ」

「え、えへへ、そうですよねー…」

「わしを殺したいのなら、とっととわしを安心させられるようになることじゃな。さあ、休憩は終わりじゃ。午後の執務を始めるぞ」

 

ガッシリと掴む。

 

「え、ちょ、あ。もうちょっと休憩時間は残ってる気がするんですけど」

「お主も元気が有り余っているようじゃからの。鉄は熱いうちに打てというではないか。仕事がお主を待っておるぞ。立香も亞莎の後で良い。その資料をわしの所まで持って来るように」

「了解です」

「あーーー、これは流石のパオでもちょっとまずいやつです。藤丸さん!!」

「はい」

「て、天の国の知識でお助けを…お助けをぉぉ!?」

「頑張れー」

 

恐らく、口でものを考えるところを改善するのが一番だ。

 

 

575

 

 

「…という事がありました」

「なるほど。しかし雷火殿を指導係にするのが一番だ。これで包のやつも少しは良い方向に進んでくれれば良いのだがな。アレでもマシな方だがそれでもまだまだ我が強いというか何と言うか…」

 

軍事にばかり自信があるのは悪い事ではないが戦に勝つことだけが目的ではない。戦には民と金、未来がかかっている。大陸の制覇は当然目指すところだが、それと同時に民の繁栄と安寧を保証しなくてはならないのだ。

その意味をまだ包は分かっていない部分があるのだ。だからこそ雷火から国の内側を学ぶ事でその意味を理解してもらおうと冥琳は考えているのだ。

包の指導係として雷火を推薦したのは冥琳だ。これで包が成長すれば呉の戦力は格段に上がる。

 

「我が強すぎるのと出世欲が強すぎる。包も自分だけでなく周囲を視る、認めるというのを理解してもらえればいいのだが」

 

その為に指導係として雷火を推薦したのだ。

 

「…そう言えば亜莎は夜遅くまで勉強していたと言っていたか?」

「言いました。実は…」

「また回想に入るのか」

「入ります」

 

藤丸立香、2度目の回想。

それはある夜更けの事である。夜中に小腹が空いたので目が覚めたのだ。

小腹を満たす為に内緒で厨房に侵入した。

 

「待て、何をしているんだ藤丸」

 

回想から呼び戻された藤丸立香。

 

「ゴマ団子でも作ろうかと」

「勝手に侵入するな」

「でも先客はいたよ」

「誰だ」

「雪蓮さん」

「何をやっているんだ雪蓮…」

 

厨房で雪蓮から許可を貰った代わりにゴマ団子を分ける約束し、調理開始。

ゴマ団子作った後に部屋に戻ろうとする時にずらりと並ぶ扉のひとつの隙間から薄っすらと灯りが漏れている部屋を発見したのだ。

 

この部屋の居主は亜莎。今は誰もが寝ているであろう真夜中だが部屋から灯りが漏れている。

まだ起きているのか、もしくは灯りを消し忘れているのか。こんな夜遅くまで起きているとなると何をしているのか気になるところ。しかし逆に後者であった場合は危ない。

 

何故、危ないかと言われればこの時代にまだ電機は普及していない。灯りに使われるのは火。灯りっぱなしの火ほど危ないものは無い。

コンコンと扉をノックするが返事は返ってこない。今度がもう少し強めにノックしてみるがそれでも返事は無し。

亜莎には申し訳ないが部屋に許可なく入る。部屋に入れば亜莎がいるのは当たり前。

 

彼女は部屋に入った藤丸立香に気付かず、机に向かったまま黙々と筆を動かしていた。机の上には本や竹簡、木簡山と紙や筆一式。そして薄ぼんやりと灯りを放つ蝋燭が一本立っている。

蝋燭の火の明るさだけでは本を読むための十分な明るさではない。しかし部屋に人が入ったのに気付かないのは警戒心が無さすぎるのか集中力が凄いのかどちらか。

 

「その明るさで読み書きするのは目が悪くなるよ」

「っ、だ、誰っ。って、立香様!?」

 

声をかけた事でやっと部屋に入って来た藤丸立香に気付く亜莎。彼女の驚きは当然。

部屋に気付かないうちに誰かが居たら驚くものだ。彼女の驚いた反応に少しだけ申し訳なくなる。

 

「そ、そんな…いつの間に。びっくりしました」

「たった今。勝手に部屋に入ってゴメン。ちゃんと扉を叩いたんだけど」

「そそそ、それは失礼しました」

 

慌てて立ち上がり、頭を下げようとする亜莎をやんわりと手で制す。彼女は悪くなく、どちらかと言えば藤丸立香の方が悪い。

 

「いいよ。さっきも言ったけど勝手に入ったオレが悪いんだ」

「そ、そんなことないです」

「部屋に入った理由としては扉から灯りが漏れててさ。もしかしたら火を消さずに寝ちゃったのかなって」

「す、すいません」

「だから謝らなくていいって…でもちょっと不用心かもね。その集中力は凄いけど、これが盗賊やら刺客やらだったら危ないよ」

 

城門はもちろんの事、場内にも警備兵はいるから基本は心配無用。

 

「心配してくれてありがとうございます。でもご心配には及びません」

「そう?」

「はい。悪しき心を持った者であれば、どんなに気配を消して近づいても私は必ず気が付きますので」

 

何気にサラリと凄い事を言った彼女。

 

「立香様に入室を許してしまったのは貴方様にかけらも悪意が無いからです」

 

そんなことを言われると何も言い返せない。

 

「なるほど。それでもオレは男だよ」

「はい?」

「男なら女性の部屋に入ってやっぱ急に襲っちゃいたくなるかも…って事があるかもしれないんだよ?」

「なっ、わわ、私はそういうつもりで言ったわけではあ、ありません!!」

「はは、冗談だよ」

 

そもそも藤丸立香が女性の部屋に侵入して性的に襲うなんて事はしない。一部の者はソレを望んでいるらしいが今は置いておく。

 

「もう、立香様は」

「でも気を付けてね」

「はい。心配してくださって嬉しいです。それに…私は幼い頃からずっと戦場で生きてきましたのでこのように女として扱ってもらったことなどが記憶にありません。立香様は初めてです」

「そっか」

 

そういう返しを繰り出されると照れてしまう。男性は女性からの勘違いされるようなセリフに弱いのだ。

こほん、と咳をして空気を変える。彼女の部屋に入った元々の理由は蝋燭の火が付けっぱなしだと危ないからだ。

実際のところ亜莎は起きていたので火事の心配はない。新たなに気になったのは夜遅くまで勉強していた事だ。

勉強しているのは良い事なのでその努力は褒めるべきだ。注意、心配するのは『夜遅く』までという部分。

 

「さっきも言ったけどこの明るさだと目を悪くするよ。それに亜莎って明日は非番じゃなかったよね?」

 

明日が休みなら夜遅くまで何をしようと自由だ。しかし明日に仕事があるのなら睡眠を取るべきである。

睡眠は身体を休めるべき必要な行為。夜遅くまで勉強のし過ぎで仕事に支障をきたせば本末転倒。

 

「勉強を頑張るのも偉いけど睡眠は取る時に取らないと」

「しかし、私にはいくら時間があっても足りません」

「どういう意味?」

「私は元来、学などまるでない無教養な人間です」

「え」

 

何を言っているんだろう、という意味を含めての「え」。

 

「本当なんです。私は冥琳さまに取り立てていただくまでは単なる兵卒でした。確かに小隊の指揮をするようなことはありましたがあれはほとんど成り行きというか咄嗟というか…正直、私もいまだ何故冥琳さまから目をかけていただけたのか分かりません」

 

冥琳が亜莎を取り立てたのは彼女の才能を見抜いたからだ。

 

「ですが亜莎なら出来る、大丈夫…と言ってくださったそのお言葉を信じることは出来ます。その期待に応え、冥琳さまや穏さまに少しでも近づき孫呉の役に立つ為にはもっともっと精進しなくては」

 

きっぱりと言い切る亜莎の瞳は力強く輝いている。これから行く先に広がる道を真っすぐに見据えているのだ。

彼女の目標は揺らぎなく目の前に聳え立っていて誰にも邪魔することは出来ない。しかし心配してしまう部分もある。

彼女は真面目で善人だ。彼女の人物像を聞いていればすぐに理解できる。その真面目の中に『頑張りすぎている』というのがある。

最初の方にも藤丸立香が思ったが努力するのは悪い事ではないが無茶な努力は褒められない。何度も思うが頑張りすぎて体調を崩しては本末転倒。一人で思い詰め過ぎて絡まりしてしまうのは良くない。

 

「…頑張っているんだね」

「はい」

「でも、あまり無理のしすぎは良くないよ」

「そんな、無理など…ご心配に及びません。まだまだ頑張りが足りないと思っているくらいですので」

 

本当に真面目な彼女。もしかしたら自分自身に「無理」と言えない人間なのかもしれない。

 

「立香様?」

 

彼女の事を誰かに聞くといつだって武術の訓練をしたり、勉学に励んでいると言われる。

悪い事ではないが、たまには肩の力を抜いても良いはずだ。彼女は恐らく肩の抜き方が分からないのかもしれない。

 

「ちょっと休憩にしよう」

「これ…は?」

 

藤丸立香は元々、夜食にと作ったゴマ団子を亜莎に渡す。

 

「ゴマ団子。中に餡子が入って甘いよ。頭を使った時は甘い物が一番なんだ」

「ごまだんご」

「もしかして嫌いだった?」

「いえ、あの…先ほども言いましたけど私は幼いころから戦場で育ちましたのでこういった甘い菓子の類はあまり縁がないのです」

「もしかして食べた事ない?」

「あるにはあるのですが、僅かに数えるほどです。本来、砂糖は高級品ですし」

 

城では皆、普通に食べている。確かによくよく考えれば砂糖といった調味料は昔からすると高級品だ。

現代のように当たり前に口に出来るものではなかったのである。

 

「美味しいよ」

「はい、なんだかドキドキします」

「大げさな」

「で、ではいただきます。はむ」

 

恐る恐るといった感じにゴマ団子を食べる亜莎。

 

「甘くておいしいです」

 

甘味は幸せの味。

彼女はゴマ団子の美味しさに頬を緩めた。

 

「とても美味しいです。香ばしくって、もちもちしてて、甘くて…こんな美味しいもの、私初めてです!!」

 

満面の笑みでゴマ団子を頬張っていく。

食べ物を美味しく食べている人を見ると自分も食べたくなるものだ。藤丸立香もゴマ団子を頬張る。

 

「まだあるから、おかわりしていいよ」

「はい、ありがとうございます!!」

 

ゴマ団子食べたおかげか彼女が纏っていた緊張が少し解れた気がする。

 

「オレもさ…頑張りすぎた時があるんだ」

「立香様?」

 

人類最後のマスターになり、早く世界を救わないといけないという気持ちが出て勝手に焦った時があった。

何かしないといけない、努力を続けないといけない、そんな気持ちばかりが心を埋め尽くす。しかしそれがいけないのだ。

時には肩の力を抜いて休む事も大事な事だ。今みたいに甘いお菓子を食べながら。

それを教えてくれたのが優しく賑やかでノリがよい軟派な人だった。

 

 

576

 

 

「…ということがありました」

(ゴマ団子が食べたくなったな)

「冥琳さん?」

「いや、何でもない。そうか…亜莎は夜遅くまで。本当に彼女は頑張り屋だな」

 

努力を続ける人。

亜莎の人物像の1つだ。彼女はこれからも期待に応えるために努力を続けるはずである。

 

「しかし藤丸も思っているように努力のし過ぎはよくない。今度、それとなく休みを与えてみるか?」

「休みを与えても、その休みを何か勉強する日にしちゃいそうだけどね」

「まあ…確かに」

 

亜莎もちゃんと休みを取っているは取っているはずではあるが、きちんと疲れが取れているかどうかだ。

休みの日は休むのが一番なのだから。

 

「もしくは息抜きに飲茶するのも良いかもね」

「それもいいな。今度誘ってみるか…私と2人きりでは緊張するかもしれないし藤丸も付き合ってくれ」

「いいですよ」

「ゴマ団子…菓子と聞いてある事を思い出したな」

 

思い出したのは件の亜莎との事だ。

 

「今度は冥琳さんの回想だね」

「藤丸ほど長くない。短いものだ」

 

それはある廊下での事。

 

「亜莎。探していたのだ」

「これは冥琳さま。今日は何の御用でしょうか」

「御用と言う程のものではないのだが、以前差し入れしてもらった焼き菓子が大変に美味だったのでな」

「ああ、それはよかったです。私も大好きなので」

「うむ、あれなら客人の歓待用にも使えそうだ。良ければどこのものか教えてもらえないだろうか」

 

歓待用に美味しいお菓子を用意するのは良い事だ。

 

「きゃ、客人に!?」

「印象を侮るわけにはいかんからな。菓子が美味で損はあるまい?」

「いえいえそんな、あれは単に私の好みというか、なんというか、高価なものでもないですし、お客様相手にそんな恐れ多い」

 

確かに高級品という聞こえは良いものだ。しかし美味しいものに高価も低価も関係無い。

食べて美味しいと思えば一番なのだから。

 

「仮にありふれたものであったとしても、口に合うのであれば問題ないだろう」

「ごく普通の市井のお菓子ですし、あんなつまらないものをお出しするわけには…」

「では亜莎はそんなつまらないものを私に食わせたということかな」

「あぁぁぁ、申し訳ありません。申し訳ありません」

「いや、冗談だ。そんなにかしこまるな」

 

怒ったわけではないのだが亜莎はあわあわ状態。

 

(参ったなこれは…ただ菓子の出所を知りたがっただけなのだが)

 

これもまた彼女の気質である。

 

「…という事があったのだ」

「確かに短い回想でした」

「気にするのはソコじゃないぞ藤丸。最初に言っていたが彼女の過度な引っ込み思案についてだ」

 

気になった事があったから聞いておきたいものがあったのに引っ込み思案のせいで上手く聞き出せない。

 

「包は無鉄砲で亜莎は過度な引っ込み思案」

 

亜莎と包の極端なキャラ勢の悩み。元々、今回の話の主題である。

 

「絵で描いたような一長一短でな。育ての苦労とまで言うと傲慢だろうか」

 

事あるごとにとにかく手柄を立てようと積極的に手を挙げる包。亜莎は生来の引っ込み思案に加え、包の剣幕に押されてなかなか自発性が伸びない。言葉ひとつ引き出すにもかなり根気が必要。

 

「パオは孫家に天下をとらせると約束したのです。のんびりしている暇はありません…とな。それが本気であるのは間違いないのだが、さすがに生き急ぎすぎ、無鉄砲すぎる。最短距離で最大の成果を得ようとし、そのためならば同士とあらそうことも辞さない。頭が回る事は確かで弁舌も達者。しかし炎蓮様や雪蓮に似た危うさも感じるのだ」

 

何となくだが包は炎蓮や雪蓮と似た気質がある。

 

「亜莎の慎重で堅実なのは美点であるが必要なところで発言できないのはもったいない。実力はあるのだから自信をもつべきだ」

 

逆に亜莎は包とは極端に正反対。

 

「私もいつまでも頂点に君臨しているというわけにはいかない。国の規模が大きくなればなるほど私は前線から遠ざかることになるだろう。いずれは穏や他の軍師に引き継がねばならん。だからこそなんとかうまくかみ合わせることは出来ぬものか」

考えようによっては全然違う2人がいるのは強みにはなる。どちらの方策も取れるからだ

 

ただどうやってうまく組み合わせるか。へたすれば絡まり合って自滅する。

 

「何か良い方法はないだろうか。いや、それは考えるのが私の仕事なのだ。藤丸にとっても迷惑な話だな。すまない」

「迷惑だなんて思ってないよ」

 

国のことを考えると2人とも実力を発揮してほしい。亜莎に自信をつけさせて包に他人を認めさせるようにするにはどうすれば良いのか。

 

「…じゃあ試しに一計を」

「む、何か案があるのか」

 

何か案を思いついたからこその一計。




読んでくれてありがとうございました。
次回の投稿はお盆休みくらいに予定しています。

今年も熱いので読者の皆さんも熱中症に気を付けましょう。


573~576
はい。今回は前々から書きたかった包と亜莎との絡み話でした。
これもまた原作をプレイしている人なら分かるように彼女たち幕間を元に書いた物語になっております。

全くもって正反対の包と亜莎。
どちらも良いキャラです。作者的には包の方が好きですね(どうでもいい情報)
亜莎は声優繋がりでFGOだとミス・クレーンが浮かびます。

正反対でなかなか癖のある部下に上司である冥琳も大変です。

そして最後にある一計とは
(まあ、冥琳の幕間を知っている人ならすぐ分かりますよね)


次回で日常編は一旦終わりの予定です。
次々回からまたオリジナル展開で本編に戻っていきます。

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