Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
タイトルの通り、恋姫の霊帝たちの話を書いてみました。
霊帝(空丹)や劉協(白丹)についてまだ分からない所があるのでオリジナル感があります。もしかしたら違和感があるかもです。
霊帝(空丹)たちについての掘り下げは来年発売予定の恋姫革命の第3弾かなぁ
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霊帝は庭で菓子とお茶を嗜みながら過ごしていた。横には妹の劉協と十常侍の趙忠が居る。
何故宮中の外に居るのかと言われれば霊帝の思い付きであり、我儘である。彼女はこの大陸の頂点だ。ならばどんな事を言おうとも否定され無い。
だから外でお菓子を食べ、その甘さに舌鼓みというわけだ。
「こうきんとうってお菓子じゃなかったのね」
「何でお菓子だと思ったのお姉さま?…」
「とう、糖だから甘いお菓子と思ったのよ。まったく聞いたこともないお菓子だから気にはなったわ」
前に中郎将の軍議に顔を出した事があり、その時の話の殆んどを聞き流して居たのだが。唯一こうきんとうと言う名前に興味を持ち、どの様な菓子なのかと思案していた。(勿論、彼女の考えてる最中にも話し合いはされたが。自身の思考に没頭する彼女の耳に入る事は無かった)聴いたことの無い名のためいったいどんなお菓子なのだと思っていたが、字で書かれると黄巾党だ。まさか賊のことだと分かって興味が失せた。あと数日もすれば霊帝の記憶から完全に消え去るだろう。
それほど霊帝にとってはどうでもいい事になったのだから。
「ああ陛下、残念がるお顔も素敵です」
「ねえ、黄。新しい甘いお菓子とか無いの?」
「そうですね。宮中の料理人に甘いお菓子を作るように指示を出しておきます。きっと主上様の口に合うお菓子を作らせましょう」
「お願いね黄」
「はい、主上様」
「……お姉さまったら」
霊帝は自前の性質と趙忠の甘やかしによって贅沢を尽くす。劉協は幼いながらも国を思おうとする。こうも姉妹でありながら違う。それはやはり彼女達の側にいる者によって大きく影響を受けたからだろう。
言わずもがな霊帝の側には趙忠。劉協の場合は董卓だ。隣にいた者によってこうも違う。趙忠によって霊帝は甘やかされた。董卓によって劉協は努力を覚えた健気な子になった。
「あら?」
この時、霊帝の目にある人物たちが映った。その人物が霊帝の目に映ったのは本当に偶然であったのだ。
彼女の我儘で外に居たという事と、その人物が霊帝の目に映ってしまったという偶然だ。普通だったらあり得ない事だ。
「ねえ、黄。あの人たちを連れてきて」
「畏まりました」
そう言って趙忠が連れて来たのは藤丸立香と武則天に玄奘三蔵、董卓であった。
「連れてきましたわ主上様」
いきなり連れてこられた藤丸立香達は首を傾け、董卓は霊帝と劉協を前にしてしまい動揺する。
「て、天子様、劉協様。どうしてお外に?」
「あら月。ただ外に出てみたかったからよ」
「月…」
理由はただの霊帝の思い付き。だが霊帝の言葉や思い付きは何でも通る。
だから外に出たいと言えば幾らでも出れる。
「そこの人たちって月の部下かしら?」
「ええと、部下ではなくて私の所にて客将として迎えています」
「そうなのね」
「あ、あの立香さん達頭を下げて!」
藤丸立香と玄奘三蔵は頭を下げるが武則天は下げない。
「あの、武則天さん!?」
「嫌じゃ。何で妾が頭を下げねばならぬ」
武則天は女帝だ。頭を下げる理由はない。
女帝として誇りが頭を下げることを許さない。恐らく、王様系の英霊は頭を下げる事を絶対にしないだろう。特に英雄王や太陽王は絶対に。
「あ、あの武則天さん…」
「嫌じゃ!」
こればかりは今此所に霊帝と武則天が居た事は運が無かっただろう。
これは流石に董卓も焦る。目の前に居るのはこの大陸の頂点である天子。その妹である劉協と真名を呼び合う仲とは言え、これは不敬すぎるので庇い立てができない。
「こーら頭を下げなさい」
「あ、こらやめぬか。頭を押さえ付けるな」
ここで玄奘三蔵が武則天の頭を抑えて下に向けさせようとする。必死で抗う武則天。
武則天の誇りを無下にするつもりは無いが、ここで董卓に迷惑をかける訳にはいくまいと理解した玄奘三蔵が動いたのだ。
今カルデア御一行は董卓の所で世話になっている。そんな時に彼女達に迷惑をかけてしまえばまずいだろう。
「ぐぬぬぬぬ…!!」
「ほら頭さげて!」
「この体育会系キャスターめ」
まだせめぎ合う2人。それに対してどうすればいいか混乱しそうになる董卓であった。
だが霊帝はそんな事よりも目に映っている物がある。それが気に成るから今の武則天に対する不敬を気にしていない。
これも偶然なのか運が良いのか分からない。
「そこの貴方」
「はい。何ですか?」
「その手に持っている物はなに?」
手に持っているお盆の上に置いてある4つの茶碗が霊帝に目に映ったのだ。しかもほのかに甘い香りがする。
「プリンです」
「ぷりん?」
聞いた事も無い言葉に首を傾ける。
「甘い食べ物です」
何故、彼がプリンを持っているかと言われれば作ったからとしか言いようがない。
元々は甘いものを食べたいと武則天が言ったので作ったのだ。材料は俵藤太が居るから全然大丈夫で、作るのに関してもこの時代の調理具でも作れた。
ちょうど董卓も居たので誘って外で食べようとしたのだ。そんな時に霊帝の目に映ったということ。
「甘いお菓子なのね?」
「そうです」
普通に霊帝と会話をしている藤丸立香に董卓はまたもハラハラ。言葉使いとかに無礼は無いからまだ大丈夫。
董卓としては彼がこの大陸の頂点と会話をすることなんて無いと思っていた。だから特に天子に対する言葉使いとかや注意事項をそこまで教えていなかったのだ。
(り、立香さん…)
「美味しいの?」
「甘くて美味しいですよ。柔らかくてなめらかです」
「そう。なら食べてみたいわ」
見たこともない甘い食べ物という事で霊帝は興味をそそられる。先ほどまで未知なる甘いお菓子を食べたいと思っていた矢先に、知らない甘い食べ物が転がり込んできたのだ。
そんなもの興味を惹かれないわけが無い。
「どうぞ」
「あ、それは妾の!?」
「はーい頭を下げましょうね」
「ええい、その手をどけんか不敬もの」
気が付けば玄奘三蔵が武則天をどんどんと霊帝の傍から引き離して行く。
そうしてくれる玄奘三蔵に感謝する董卓。
「ふむ」
趙忠は受け取る前に藤丸立香にプリンを1つ毒見させる。
董卓の客将と言えど霊帝の身の安全を考えるのは当たり前。彼女のしたことは当然である。
「あら」
霊帝が目を見張る。
プリンを掬うとレンゲにぷるんとした物体が目に映る。とろりとした蜜と甘い香りがする。
もぐりと食べた藤丸立香に異常は無い。異常が有っても困るのだが。
(というか毒が効かないことになっている俺って毒見役に最適かも)
毒が無いことを確認した趙忠は霊帝にプリンを1つ渡す。
「ふむふむ」
霊帝はさっそくプリンを一口食べる。
「甘いわ」
甘く、舌触りもなめらか。初めて食べるプリンに久しぶりに食の楽しみが沸き上がる。
気が付けば完食していたので新たにお代わりを趙忠から受け取る。それもすぐに食べ終わる。そうすると4つ全て食べ終わってしまったのだ。
「そこのあなた。これはあなたが作ったの?」
「はい。美味しかったですか?」
「まあまあね」
まさかプリンを作って霊帝に褒められるなんて思いもよらなかった。なんならカルデアキッチンクラブのコックたちを紹介してみたいと思ってしまう。
「もうないの?」
「ないです」
4つしか作らなかったのでもうない。これ以上強請られても出せない。
「もっと食べたいわ」
「作れません」
「なぜ?」
「材料がありません」
また俵藤太に頼むしかないだろう。
「主上様の御言葉ですよ」
「作れないものは作れません。でも飴ならあります」
「あ、あの立香さん…」
真っ向から霊帝の頼みを断る藤丸立香に董卓は胃が縮みそうになる。
だけど彼だって作れない物は作れない。別の物を作って渡せばそれこそが不敬というものだ。
「また今度ならたくさん作ります」
「本当ね?」
「絶対約束します」
そう言った霊帝は気分を良くしながら宮中内に戻る。
「白湯は?」
「お姉さま。私は月と話してから戻りますね」
「そう」
霊帝と趙忠は戻っていく。その場に残ったのは藤丸立香と董卓と劉協。そして戻ってきた玄奘三蔵と武則天。
「ふ、ふえええええ…」
「どうしたの董卓さん?」
やっと緊張の糸が切れた董卓。
「大丈夫、月?」
「白湯様…はい」
残った劉協は藤丸立香たちに口を開いても良いと許可する。彼女は月の客将というのならば多少の不敬は気にしない。
「立香さん…はらはらしましたよ」
「そう?」
藤丸立香としては王様系英霊と接するような感覚で会話したつもりだ。
言葉使いも選んで会話したはずだからおかしいところもおそらくなかったはずである。
「でも凄く慣れた感じでしたね」
「これでもいろんな王様や皇帝様と会話したからね」
「そうなんですか?」
様々な王と皇帝と会話したことがあるという言葉が劉協の耳に入る。
自分も王としての血筋だ。だけど他の王や皇帝というのは聞いたことがなかった。だから聞いてみたいと思った。
「立香さん…多くの王たちと会ったって一体?」
「この大陸が世界の全てじゃないよ董卓さん。海の向こう側には多くの国があるんだ」
「あ、あの…」
「白丹様どうしました?」
「あの、月。その人の言っていた事が聞いてみたいわ。それに聞きたいこともある」
「ん?」
劉協は藤丸立香を見る。
「お話を聞かせてもらえませんか。貴方が会ってきた王たちのことを」
「立香さん。私からもお願いします」
劉協と董卓からそう言われてしまえば断れないというものだ。
「何々、お話しするの?」
「何じゃマスター。王や皇帝の話をするなら分かっておるよな?」
まずこちらの陣営には武則天という女帝がいる。カルデアには多くの王や皇帝がいる。全て話すと長くなるだろう。
それでも劉協が満足する王の話をするとしよう。マーリンやシェヘラザードのように上手く話せないが頑張って話してみようと思ったのだ。
「まずは――」
藤丸立香は縁によって出会ってきた王や皇帝の話をする。
王たちの生き様や運命、国、戦い。何を求め、何を成したか。王であるが故の由縁。誇りや曲げられぬ意思。
語るに語るとその凄さが再確認できるし、相手も分かってくれる。
でもやっぱりたった1日じゃカルデアにいる王様たちを全て語ることはできない。カルデアに多くの王様系英霊がいるのだから。
「――聖神皇帝って人はそんな人だったよ」
「くっふっふー」
武則天はいつの間にか藤丸立香の膝に座って話を聞いていた。特に自分の話を誇らしく語ってくれたのは嬉しいものだ。
「うんうん。アタシもいろんな王様と語ったわ」
玄奘三蔵は相手が王であっても言うことは言う。それが彼女の強みの1つである。
第六特異点ではあの太陽王であるオジマンディアスに一歩も引かずに言葉を発したのだ。それは藤丸立香も同じくだが。
「多くの王たち…」
劉協は語られた王たちの話を聞いて胸が熱くなる。これは話を聞いて新たな知識を得た喜びの感覚に近い。
彼の話をもっと聞きたい。その聞いた王たちに並べるくらいに自分もなれるかと想像してしまう。その想像をするだけでもっと努力しないといけないと思う。
そして聞いてみたいことがある。多くの王や国を見たということなら、この質問に対して忌憚なく答えられるはずだ。
「あの…この国を、大陸を見てどう思いますか?」
この国、この大陸についてだ。
「あ、あの。忌憚なき答えをお願いします」
忌憚なき答えをお願いすると言われてしまってははっきりと言う他ない。だがきっと劉協が予想している答えが返ってくるだけだ。
「良い国とは言えないかも」
「そうね、人々の笑顔がないわ」
「…っ」
「り、立香さん、三蔵さん!?」
はっきりと言う。
「大陸全てを見てきたわけではないけど…この洛陽から離れている程、人々は貧しく餓えに苦しんでいたよ」
「そうそう。酷いところだと生きる気力が顔から消えていたわ。まるで生きるのが辛いようだったよう」
中にはまだマシな村や町だってあった。豊かな国であっただがそれはその国の諸侯たちのおかげだ。
力や努力がなく、賄賂ばかりの太守が治めている場所は酷いものであった。中には金品だけ持ち逃げした太守だっていたのである。これも腐敗しきった朝廷の十常侍の影響だ。
それを良しとしている今の国が良いと心の底からは言えない。それに前までも今も賊などに怯える日々だ。黄巾党の乱の時は多くの小さな村や町は犠牲にあった。
今は幼く未熟な劉協であっても流石にそれくらい耳に入っている。
だが今の彼女ではどうにかしたくともできない。周りにいる魑魅魍魎たちが劉協を見張っているからだ。今の彼女は霊帝の妹というポジションにいながらも力が無いという状況である。
「多くの国を見てきたけど…やっぱり人々の笑顔がない国は良いと言えない」
「この洛陽も表向きしか知らないわ。裏はどうだか分からないわね」
どんな絶望的な状況でも明日を生きるために一生懸命な民の国を見た。民のために、自分の国のために、自分のために奮起する王を見た。
第七特異点でのウルクの国を比較しているのは流石にどうだろうと思ったかもしれないが、藤丸立香が心の底から凄いと思えた国の1つがバビロニアだったのだからしょうがない。
「この洛陽は安全だし豊かだから人々にまだ笑顔があった。でも他の場所はそうじゃなかったよ」
実際にこの洛陽だって裏は平和とは言えない何かだってある。だからこの国は良いと言えない。今は。
「そうですか…」
嘘も言わない。忌憚なき答えをはっきりと言った。劉協が望んでいる答えを言わなければ質問の意味がないのだから。
「やっぱり今のままじゃいけないんですね。変えないといけない」
「言葉で言うのは簡単じゃぞ」
武則天が劉協の国を変えると言う言葉に被せる。
「お主は何をしておる。ただただ言葉を放つだけでは何も変わらんぞ。周りの者に任せっきりなのではないか?」
「そ、それは」
「ぶ、武則天さん!?」
「信じられる者がいるのならば良い。だが王の周りには信用できる者なぞ少ない。ならば自分でやるしかない…妾はそうだった」
彼女が皇帝になったのは学問を武芸を女の技を自分にとって不要な他の全てを捨てて磨いたからだ。単にそう願い、そう決意し、そう努力したから。
その努力は誰かの成果ではない。まさに自分自身だけの成果だ。
ならばその努力を劉協は今しているかと言われれば自信をもって首を縦に振れない。
「…それは」
「何もせぬのなら国は変わらん。自分も変わらん」
劉協の国を立て直すという気持ちは本物だ。だが行動に移せていないというだけ。それだけなのだ。
この国の頂点にいるようなお方にこんなことを言うのは恐れ多いかもしれないが、劉協には覚悟がまだ無いのだ。
「どんな結末が待っていようが王として覚悟を持って前に進み、受け止めねばならないぞ」
武則天の言葉には重みがある。それはカルデアの者しか分からないが、彼女の言葉の圧は董卓と劉協に届く。
2人は彼女に皇帝としての迫力を感じた。実際に武則天は皇帝なのだが。
「覚悟に努力…信じられる者」
劉協は武則天の言葉を呟く。この外史の劉協がどんな道を辿るか分からないが、同じ王や皇帝に連なる者としてアドバイスを送ったつもりの武則天。
こんがらがるが、時代的には劉協は武則天にとって先輩にあたる。世界が違うのに、子孫でもないのに、時代的にも全く離れている。
でも武則天の同じ王としての何かに気まぐれでアドバイスした。それだけだ。
「…ありがとうございました。何だか良いお話を聞けて為になりました」
劉協からお礼を言われるなんてこの国からしたら卒倒ものだ。だけど藤丸立香たちは普通にお礼の言葉として受け取った。
「お礼なんていいわよ。これも御仏の導きだし」
「あ、あの…またお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「いいですよ」
お話くらい聞かせるのはいくらでもできる。
「では、また」
そう言って董卓と劉協は戻っていった。
「…今思うと俺ってこの国の、大陸のトップと話してたんだね」
「そうねー」
「何を今さら…というかマスターは今までもっと凄い王や皇帝と口を交わしておるではないか。妾のようなな!!」
今日のことを賈駆に報告したところ。
「あ、あんたたちは何てことをしてんのよー!?」
「いやあ」
「褒めてないわよ。首が斬られてないのが奇跡よ!?」
凄い説教された。彼女の気持ちは分からなくもない。
本当に普通だったらあり得ないのだから。
藤丸立香。運が良いのか悪いのか、偶然なのか運命なのか分からないが霊帝のプリン作りの命と劉協の話相手の命を受ける。
「あんたってどうなってんのよ!?」
「さあ?」
これでも平凡と言われている。
「そこらの男が天子様と劉協様に近づけて普通に会話したってのがおかしいわよ!?」
「そう?」
これが藤丸立香の不思議さの1つである。
「月、あの方たちは不思議な人たちですね」
「立香さんたちのことですね」
「ええ。お姉さまにも気に入れられていたわ。それに私も」
今日出会った藤丸立香たち。彼らはまるでこの大陸の人間じゃないような存在だ。
霊帝や劉協の知らないことばかり知っている。彼らとの出会いは彼女たちの日常を少し変えた。それだけでも今日は良い日だと思うだろう。
霊帝には記憶に残るに値する日となった。劉協にとっては心を意思を成長させる糧になった1日となった。
「藤丸殿は月に似ているような気がします」
「私にですか?」
「ええ。優しく、強い意志を持っている気がします」
自分の姉である霊帝はどう思っているか分からないが劉協は藤丸立香のことをそこらの下々の者とは思えない。
なんせ堂々とした口調で会話をしてきたのだ。王としての威圧も受け流して普通に会話してきた。それさえも彼女にとっては新鮮だった。
「また話を聞きたいものです」
「立香さんならまたお話を聞かせてくださいますよ」
董卓はこれに関してははっきり言える。なんせ彼とても良い人なのだから。
77
何進と十常侍の対立は日に日に悪化している。お互いに牽制し合い、腹の探り合い、騙し合いと毎日だ。
そんな事が続けばどちらも不満は溜まりに溜まりに、いつでも爆発しそうになる。ここにいる十常侍たちは不満を隠すことなく口にした。
「おのれ、肉屋如きが…!!」
「大将軍の器でないくせに威張るなぞ…!!」
「あんな愚か者はさっさと消せないのか!!」
何進が聞けば今すぐにでも十常侍の首を切り落とそうな罵声ばかり。それほどまで十常侍にとって何進は敵でしかないのだ。
「落ち着いてください皆さん」
「趙忠殿…」
「今ここで何進殿に悪口を言った所で何も変化は起きませんよ」
何進に対して不満をいくら口にしたところで一瞬だけ十常侍の気が収まるだけだ。だが何進が健在ならば不満を口にしたより先にまた不満が募るという悪循環。
肉体的にも精神的にも、権力的にも目の上のタンコブを処理しなければ十常侍に安寧は訪れない。
「ならば早く何進を消す策を考えなければなりませんな」
「なら良い策でもあるかい?」
「張譲殿」
「消すのは簡単だ。だけど何進は霊帝と深く関わっている何太后の姉だ。何も考えずに刺客を放って消せばまず疑われるのはボクらだ」
何進と十常侍が対立しているのは周知の事実。何も考えずにどちらかが動けばどちらも真っ先に疑われる。
「何進だけを消すのはダメだ。何進の息が掛かっている者全てを消すんだよ」
「もしくは此方側に引き込めれば…ですね」
「ああ、趙忠の言う通りだね」
自分たちにとって不穏分子を全て消さなければ安寧は訪れない。跡を継ぐような奴らを残してはならないのだ。
「まあ、何進の下に付くような奴も少ないと思うけどね」
十常侍たちは自分たちの事を棚に上げるが、何進に対して不満を持つ者たちは多くいる。
何進は漢という国を腐らせた要因の1人であるのだから。官軍の兵士たちは良い顔で従っているが裏では悪口ばかりである。
今、この官軍でまともなのは董卓や皇甫嵩たちくらいのもの。そのため官軍の兵士たちの信頼も董卓たちに集まりつつあるのだ。
「ここは私が策を立案しましょう」
「趙忠殿…良い策があるので?」
「ほお…趙忠殿が」
「はい、お任せください。よろしいですか張譲殿?」
「………構わないよ。趙忠に任せる。で、どんな策なんだい?」
「はい。私が考えた策とは――」
趙忠の策の説明を聞いた後、張譲は自室に戻っていた。
「ふむ、趙忠の策はまあまあかな。だけど上手くいくかどうか…」
趙忠から説明された策は悪いものではない。だが確実性は欠ける策だったのだ。
「そもそも何進がホイホイと来るかどうか…そのために趙忠は何太后を引き込むらしいけど」
何進と何太后の絆の強さは知らない。肉親とはいえ、命が関わるとなった時に彼女たち何姉妹はどうなるかまでは張譲すら分からない。
「まあ…人間の本性なんて欲望にまみれたものだからね。いざという時、人間は本性を現し、いくらでも残酷に醜くなるものさ」
読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。次回も来週予定。もしくは再来週になるかもです。
今回の話はどうでしたでしょうか。
藤丸立香が霊帝たちと関わった話でした。普通だったら近づくことも顔も見上げることも口を開くこともできない存在ですが、偶然にも関わったという物語です。
まあ、原作でも藤丸立香は多くの時代の王や皇帝。更には女神様まで関わっていますのであり得ない話ではないと思って書きました。相手がどんな人物でも堂々と口を開きますからね立香は。(流石に空気を読む時もありますが)
ちょっと物語的にも内容的にも無理があったかな?
日常編もあと2話で終わりにします。その後が本編に入ります。