Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
今回も日常回は5回目。でも本編よりに戻っていきます。


洛陽での日常5-曹操との出会いー

78

 

 

「西園軍の任命式?」

「そう。出て欲しいんだけど」

「断る」

 

いきなり賈駆に呼び出された諸葛孔明だが、内容は西園軍の任命式に出て欲しいということ。

賈駆としては董卓陣営には有能な人材が多くいるというのは知らしめてこの宮廷でも力を示したいのだ。最近宮中でも董卓のところに多くの良い人材が集まっているなんて噂が立っている。

それだけでもこんな魔窟では力を示すのに十分だ。それも式典に董卓の人材が多くいればそれだけ董卓が宮中で力を広めているという宣伝になるというもの。

 

「面倒だ。何度も言うがこれでも私たちは客将だ。そんな人物が式典に出るなんて無いだろう」

 

面倒だから絶対に出たくないという顔が出ている。こんなところまで来てカルデアのように過労ばかりは絶対に嫌だという現れ。

だが有能だから目を付けられる。これはどの時代であってもしょうがないものだ。

 

「がんばれ孔明せんせー」

「おのれマスター。他人事だとばかりに…!!」

「あんたも出てもらうわよ藤丸」

「え…面倒」

「フッ…」

「ニヒルに笑いやがって…」

 

一応、式典で彼らを選んだのはまともなのが彼らだからだ。

彼らの仲間である呂布奉先と燕青や李書文などは式典には性格的に合わない。荊軻や哪吒も少し違う。武則天は大丈夫そうで何か違う。

玄奘三蔵と俵藤太は良い。そうなると藤丸立香と諸葛孔明を含めた4名は合格である。

 

「俺らはアンタらの部下じゃねえんだけどなぁ」

「然り」

 

最近何故かカルデア御一行が董卓陣営になり始めている。というか賈駆はそうしたいと思っているし、張遼や呂布はもう既にそうだと思っている。

仲間意識を持ってくれるのは嬉しいものだが、気が付いたら勝手に陣営に入れられるのは困るものだ。それでは勝手に動けない。

 

「出てくれる?」

「うーん…私的にはそういうところはちょっと苦手なのよね」

「俺は構わんがな」

 

玄奘三蔵はちょっと躊躇いで、俵藤太は了承。

 

「つーか俺って式典に出る程のもんじゃないんだけど」

「天子様と劉協様と対等に話し合ったあんたが何を言うのよ」

 

ただ霊帝にプリンを作ってあげるのと、劉協に昔の旅の話をしているだけである。

そんなのでこの宮中で偉くなったとは言えない。

 

「それがここではどれだけの事か自覚がないようね」

 

霊帝と劉協のお気に入り、という言葉が付けば箔がつくだろう。

 

「お気に入りになった覚えはないけど」

「もう噂されてるわよ」

「プリンとお話を聞かせただけで…!?」

 

どうなっているんだこの朝廷はと思うのであった。

 

「だから出てよ」

「恋も立香に出て欲しい」

「ほら珍しく恋もそう言ってる」

「えー…貂蝉は?」

「あんなの天子様の前に出せるわけないでしょうがっ!!」

「呼んだぁん?」

「ひぃっ、呼んでないからあっち行きなさい!!」

 

出てきた筋肉達磨をすぐさま引っ込めさせる。貂蝉を霊帝の前に出すわけにはいかない。

出したらどうなるか分かったものじゃないからだ。もしかしたら気絶させてしまう危険性だったりする可能性もなくはない。

実際に賈駆や董卓は気絶した。呂布や華雄は平気だったみたいだが耐性の無い者はキツイだろう。

 

「なんだか失礼なことを思われてる気がするわぁん」

「なら見た目を気にしろ。人は見た目から印象を8割も決めるらしいぞ」

「どこに出しても恥ずかしくない綺麗な肉体だと思うけど?」

 

どうやら貂蝉とは常識的な会話が成り立たないようだ。

それはさて置き、話を元に戻す。

 

「やっぱ遠慮しとく」

「むむ」

「ダメだよ詠ちゃん。無理を言って困らせちゃ…」

「月がそう言うなら…」

 

賈駆の弱点は董卓。董卓の言葉ならすんなり受け止めるようだ。

 

「ならその代わり式典の間は大人しくしてなさいよ。特にそこの武人共は!!」

「へいへーい」

「分かった」

「あと荊軻も酒は飲まない」

「傍若無人にならなければいいだろう?」

「ダメに決まってるでしょ!!」

 

カルデア御一行はとんでもない人材ばかりだが、賈駆は客将に迎えてから嫌というほど一癖も二癖もある人物たちだと理解したのだ。

 

「じゃあお留守番してまーす」

 

 

79

 

 

今日、洛陽の宮中にて西園軍の式典が行われた。

その式典は黄巾党の乱で活躍した諸侯たちのためのもの。朝廷が黄巾党を鎮めろと言って従って鎮めた。

ならば何か褒賞がなければ各諸侯たちも納得がいかないだろう。だからこその式典だ。

 

「今頃堅苦しい式典をやっているころだろう」

「ちょっと忍び込んで見てきたぜ」

 

気が付いたら燕青がいなかったと思ったら式典に忍び込んできたらしい。

暇だったから、という理由だけで忍び込む。そういえば燕青はよく内緒でレイシフトして新宿に行ったりとしている。

 

「曹操や袁紹とかいたぜ。どっちも金髪くるくるだったな。いや、袁紹の方がくるくるだったな」

「くるくる」

「おう。くるくる」

 

袁紹はなんでもまさにお嬢様キャラのくるくるヘアーとのこと。三国志の英雄たちが女性になっているのはもう慣れたが髪型も色々あるのだろう。

それは人それぞれ、地域柄、国柄なので特に変だとは思わない。

 

「そういやあ、曹操のところに陳珪がいたぜ。見る限り曹操に下ったんだろう」

「そっか」

「陳登はいたか?」

「いや、居なかったな。いたのは黒髪と青髪の姉ちゃん…多分姉妹。桃色髪の童女にまた金髪のちとくるくるのお嬢さんだったなぁ」

 

くるくる率が多い。

 

「特に何もなく堅苦しい式典が続いただけだ」

 

そういう堅苦しい式典はどの世界でもどの時代でも変わらないということを知った。

 

 

80

 

 

ギスギスした空気の西園軍の任命式も終えた曹操軍。その中で不機嫌さを一番露わにしたのは曹洪である。

 

「まったくなんですの、あの方々は」

 

最初は劉協の可愛さで眼福であったが、その後が問題だった。

式典の大半を占めたのは霊帝の言葉でも尚書令の挨拶でもなく、何進の演説だ。

何進の演説が始まった瞬間に周囲の空気が張り詰めた。というよりも凍り付いた。

 

「西園軍は天子様の軍なのでしょう。それを事あるごとに我が軍、我が軍と…」

 

曹洪は何進の偉そうな物言いの上に完全に上から目線だったのが気に食わなかったのだ。実際に漢の大将軍なのだから偉いのだが、勝手に曹操軍を自分のもののように言うのが一番の不満の原因である。

 

「お姉さまはあのような方に仕えるために八校尉に拝領したわけではありませんのに!!」

「栄華様。どこで誰が耳をそばだてているか分かりませんよ」

「ですが燈…!!」

「燈の言う通りよ。控えなさい」

「あ…失礼いたしましたわ。わたくしったら何をこんなに熱くなって…」

「いずれにしても、八校尉は名誉官職ですから…実際に軍があるわけではないでしょう」

 

本来は黄巾党に対抗するために設立された軍だ。だが黄巾党は曹操軍や各諸侯に義勇軍のおかげで討伐された。

ならばもう実際に動くことはない。だから名前だけが発揮しているにすぎない。

 

「むう…」

「どうしましたの春蘭さん?」

「あの大将軍の物言いが腹立たしいのは間違いないが…実は腑に落ちんことがあってな」

「何だ姉者?」

「どうしてあんな雑魚が大将軍を名乗っているんだ?」

 

夏侯惇は曹洪よりもマズイ言葉を言う。

 

「あ、それボクも思いました」

 

許緒も夏侯惇に同意した。今ここに無礼な人物2人出現。

許緒も同意したのに陳珪と夏侯淵は呆れてしまう。

 

「だが禁軍十万の頂点に立つ大将軍だろ。実力を隠しているように見えないし、あれなら十人束にしても季衣の方が強いぞ」

 

彼女はまったくもって悪気や馬鹿にしているわけではない。武人として何進の実力が弱いことに疑問を思っているだけなのだ。

 

「呵々、大将軍を雑魚呼ばわりとは怖い者知らずがいたものだ」

「それは彼女が元々武人ではないからだな」

 

董卓と曹操たちに別の声が届く。その言葉は夏侯惇の疑問を説明した。

何進の隣にいた何太合。彼女は霊帝の妃であり何進の妹だ。そこからの繋がりで大将軍まで上り詰めた。

その過程でどこまで努力したかまでは知らないが。運も実力の内とも言う。

 

「先ほど注意されていたようだが、こんな場所では言葉に気を付けることだ」

「孔明さんに李書文さん」

「あ、董卓さん」

「「立香さん」」

「「え」」

 

董卓と陳珪の言葉が重なる。

 

「久しぶりです陳珪さん」

 

燕青から聞いた話で陳珪が来ているのは知っていた。なら顔を合わせるくらいできるだろうと思って来てみたのだ。

 

「立香さんたちは今ここに?」

「うん。董卓さんのところで客将やってるんだ」

 

陳珪がするりと藤丸立香に近づく。相変わらず距離が近い。

 

「もう、私のところから離れて董卓さんのところに行くなんて」

 

小さな声で呟いてくる。

 

「たまたまだよ」

 

たまたま、というよりも元々、拠点が洛陽になっていただけだ。

 

「燈、彼らは?」

「華琳様。彼らは私が沛国で相をしていたころにお世話になった方たちです」

「へえ」

 

華琳と呼ばれた女性が曹操。見て分かる。彼女もカリスマ持ちだ。

多くの王様系の英霊が持つカリスマを感じ取ってきた藤丸立香だからこそ目の前にいる曹操が本物だと分かる。

今まで多くの三国志の武人たちや文官たちを目にしてきたが彼女だけは別格だ。多くの偉人や英雄が英霊になったように彼女もまた英霊になってもおかしくないほどの存在だ。

そう藤丸立香は感じ取ったのだ。

 

「藤丸立香です」

「曹孟徳よ」

 

カルデアのマスターと魏の王の会合。

 

(彼は…)

 

曹操は藤丸立香を見た時、ある人物を思い出す。それは前に劉備の義勇軍にいた天の御使いだ。

似ている、というのが曹操の思ったこと。似ているというのは服装や顔つきという意味でだ。

劉備のところにいた天の御使いも藤丸立香のように変わった繊維で出来た白い服を着ていた覚えがある。

それに名前の名乗り方も同じだ。この大陸の名乗り方ではない。

 

(劉備のところにいた天の御使いの名前は北郷一刀。で、目の前にいるのが藤丸立香)

 

何かしらの接点があるように感じるのだ。

 

「ねえ、貴方も天の御使いなのかしら?」

 

曹操の言葉に陳珪や董卓、諸葛孔明が反応する。なんせ曹操が藤丸立香に対して「貴方も」と言ったからである。

 

「いや、違うけど」

 

それをキッパリと否定する藤丸立香。天の御使いと名乗ったことなんて一度たりともない。

 

「どうして俺が天の御使いだと思ったの曹操さん?」

(私に対して堂々と聞き返してくる気骨…それも似ているわね)

 

前に曹操に対して普通に聞き返してきた北郷一刀も同じであった。その時は夏侯惇に怒鳴られたが。今回は朝廷なので夏侯惇は抑えている。

 

(いえ、春蘭はあの男に警戒しているようね)

 

その夏侯惇はというと静かに李書文を警戒中。

 

「むむ、お前」

「姉者?」

「秋蘭…この男相当強いぞ」

 

夏侯惇が見るのは李書文。武人としての本能が彼に対して危険を知らせている。

今まで出会ってきた武人の中だと孫策は別格だった。だがさらに今現れた李書文もまた別格だ。

 

「そう気を荒立たせるな。ここは戦う場所ではないからな。場所を変えれば儂はいくらでも相手してやるが?」

「ふん、そういうお前も気が立っているではないか。名は?」

「李書文だ」

「夏侯惇だ」

 

2人とも凶悪な顔になる一歩手前。似た気質を持っている2人なのかもしれない。

これは藤丸立香の個人的な意見だが武人はどうも戦いたがりだ。同じ武人同士が顔を合わされば手合わせが始まる。

カルデアの武人系の英霊はそうである。李書文や燕青にベオウルフ等などが良い例だ。たまにマルタも入る時もある。

 

「姉者、気を抑えろ。ここは朝廷内だぞ」

「う、分かっている秋蘭」

「いずれ手合わせしてみたいものだ」

 

李書文もまた夏侯惇が武人として気になる様子。

 

「曹操さん?」

「何でもないわ。実は前に貴方と似た奴と会ったのよ。その男が天の御使いを名乗っていた…似てたから貴方も天の御使いかと思ったのよ」

「そんなに似てたの?」

「そっくりと言うわけではないわ。服装や顔つき、雰囲気とかが貴方と被ったのよ」

「ふーん。何て人?」

「あら、結構噂になっているから知っているかと思ったけど?」

 

全く知らなかった。『天の御使い』という言葉は知っていたがどんな人物で何処にいるかまでは見当もつかなかったのだ。

それは調べていないからだから当たり前なのだが。

 

「北郷一刀って男。今は劉備のところにいるみたいよ」

 

北郷一刀。この名前はまさに日本人の名前だ。

三国志の中に『北郷一刀』という名前は絶対に無いはずだ。それはきっとこの三国志ではイレギュラーな存在。藤丸立香たちカルデアと同じように。

 

(……貂蝉に聞いてみるか)

 

静かに聞いていた諸葛孔明。北郷一刀という名前を聞いてすぐさま貂蝉が何か知っていると当たりをつけたのだ。

敵になるか味方になるか分からないがその名前は頭の片隅にでも置いておく必要があるだろう。

 

「さて、答えたのだから私も何か聞いてもよろしいかしら?」

「え、うん。いいけど」

 

曹操から何を聞かれるのだろうか。いきなりすぎてちょっと緊張してしまい体が強張る。

 

「貴方にとって誇りとは?」

「誇り?」

「ええ、私は誇りとは天へと示す己の存在意義だと思ってるわ。誇り無き人物は例えそれが有能な者であれ、人としては下品の下品。そのような下郎は我が覇道には必要なし」

 

前に劉備は誇りについてよく分かっていなかった。今度出会った時にはまた彼女の誇りについて聞いてみたいものだと思っている。

今回は目の前の藤丸立香に聞いている。何故彼に聞いているかと言われれば、劉備の時を思い出した故の気まぐれだ。

 

「うーん、俺にとっての誇りっていうか何のために戦っているとかそういう意味でもいい?」

「それでも良いわ」

「生きるため」

 

曹操の答えをシンプルに答える。シンプルでありながら奥が深い答えである。

藤丸立香の戦いの意味は生きるため。他にも人理のためとかもいろいろあるが、最終的な戦う原動力はそれだ。

 

「生きるためって…そんなの誰もが思ってることじゃない」

「そう、誰もが思ってることだよ。誰もが当たり前に願うことのために戦っているんだ」

「貴方には大望のためのとか、野望のためとかそういうのは無いの?」

「そういうのは考えたことは無いな…あ、でも大切な人が笑顔になれる平和とかは欲しいかな」

 

なんとも普通な答えだ。

まだ北郷一刀の方が天の御使いとしての自分を理解し、劉備の大望を目指すため自ら神輿になっていた。でも藤丸立香は普通だった。

劉備と北郷一刀は考えが甘いながらも大陸の平和を望む。藤丸立香は普通に生きることを望む。

 

(ちょっと期待外れかしらね…)

 

これで話を終わりにしようとしたが藤丸立香はまだ口を閉じていない。

 

「実は大きな救いのために戦えって言われてさ。そんなの最初から覚悟なんて無かった俺には大きすぎる責任だったよ。でも、誰かがやらなくちゃいけないのなら…やるしかないでしょ。それが俺だったんだ。俺しかいなかったんだ」

「…」

 

急に藤丸立香の空気が変わる。顔つきや目の光が変わったのだ。

 

「俺は自分に出来る事を、出来る範囲で努力するさ。出来ない事なら、出来る範囲に収めようとするよ。先達の助けを借りて未来を夢見るんだ。絶望的な状況下でも人間として正しく抗い続ける。時折挫けそうになるけど振り返りもするさ。だけど足を止めるのも振り返るのも一瞬だよ」

 

この言葉はある人の受け売りだ。最初に助けてくれた英霊の受け売り。

藤丸立香は今までの旅路を思い出している。どんなに歳を取ろうが頭を打ち抜かれようが絶対に忘れない旅路。

生きるなんて言葉は簡単に言える。でも生きるために圧倒的な絶望を抗うことは難しい。

7つの特異点と亜種特異点、ロストベルトを攻略し、生き残ってきた彼の言葉は重い。

藤丸立香は王の才覚があるとか、強い武人だとかそういう存在ではなく普通の一般人だ。だが彼は多くの困難を乗り越えてきた強い人間となったのだ。

認められなくても、評価されなくてもいい。でもその旅路だけは誰にも馬鹿にされたくないし、否定されたくない。

 

「俺は生きるために戦う。それがみんなを救う一歩にだってなるんだから」

 

先ほどまで曹操の前に立っていた藤丸立香は普通だった。でも今いる彼はまるで大きな戦いを勝ち抜いてきた勇士のような人物に見えたのであった。

 

 

81

 

 

洛陽から陳留への帰り道。

 

「不思議な魅力のある人だったでしょう華琳様?」

「ええ、最初はそこらの普通な男かと思ったけど…あの天の御使いのように何か違うわね」

 

曹操は藤丸立香が違うと感じ取った。確かに普通であるかもしれない。でも何かが違うのだ。

王の才覚があるとか、武将としての力があるとか、軍師としての知力が溢れているとか、そういうのではない。だけどそれらとは違う何かを持っている気がする。

 

「立香さんの言葉は何故か響くのよね」

「あら、燈ったらあの男を無駄に評価しすぎてない?」

「…そうかもしれないわね」

 

燈がここまで評価するのは珍しい。曹操は知らぬことだが、彼らと陳珪の物語があったのだ。

彼女が認める人物は少ない。認めて下ったのが曹操だ。

 

「もし彼が我が覇道の前に立ちふさがったら、どう出るのかしらね?」

(うーん…立香さんは華琳様の覇道の前に出るかしら?)

 

藤丸立香は大陸の覇権を手に入れるつもりはない。だから曹操の前に立ちはだかることは無い気がする。

だがこの世の中どうなるか分からないし、人の心の移り変わりも分からないもの。

 

「まあ、もしそうなったら大変ね」

「あら、それは?」

「立香さんの周りには有能な人材が集まっているからね。華琳様のように」

 

そう言えば黒髪長髪の男と赤髪の男だが確かに只者ではない。特に夏侯惇は李書文を警戒していた。

曹操自身もあの李書文は危険だと理解できる。まるで人の皮を被った化け物のようだと感じたのだ。

あの武人を相手にするのは骨が折れるだろう。

 

「あの眼鏡は確か諸葛孔明って言ってたわよね…ん、そう言えば劉備のところにも諸葛孔明と名乗る子がいたわね。ただの同姓同名かしら?」

 

あの男もただ者でないことは曹操も気づいている。おそらく曹操のところにいる軍師に匹敵するかもしれない。

 

「あの孔明とかいう男は?」

「彼は相当なキレ者よ。腹の探り合いになったら私でも厳しいかもね」

「あら、燈にそこまで言わせるなんて」

「というか立香さんに仕える人たちみんな只者じゃないわよ」

 

悩ましげにため息を吐く陳珪。彼に仕える英霊のことを全て理解できたつもりではないが、陳珪が今まで出会ってきた人物たちでも上位に入る程の只者ではなかったのだ。

 

「そうなの?」

「ええ、立香さんにはあと7人も只者じゃないのがいるわ。華琳様好みの子もいるわよ」

「あら、それなら会っていきたかったわ」

 

可愛い、美しい女の子が好きな曹操にとってその情報は良いものだ。

 

「おい燈」

「何かしら?」

 

夏侯惇が陳珪に声を掛ける。

 

「あの李書文の他に強い奴はいるか?」

「いたわよ。呂布、燕青、哪吒、藤太と言う人たち4人。この4人もとっても強いわ」

「ん、ちょっと待て。あの呂布もあいつの部下なのか?」

「ああ、その呂布ではないわ。同じ名前なのよ。見た目はまったく違うわよ」

「そうなのか?」

 

ややこしい事この上ないが、同姓同名がいるというのは色々と何かしらちょっとしたことがあるものだ。

今のように同姓同名がいただけで少し混乱したりする。

 

「武力も優れて、知力も優れている人材が揃っているか…ますます面白いわね。あんな平凡そうな子なくせに」

「本当よね。更にその中には王としての資質を持つ者すら付き従っているのだから」

「そうなの?」

「ええ、あの子は…」

 

武則天を思い出す陳珪。彼女はどこか王の気質を感じたのだ。

普段は子供のような振る舞いだが、時折に王の顔を見せたりする。そんな彼女すら従わせているからこそ不思議なのだ。

 

「ますます不思議な奴ね。もしかしなくてもまた近いうちに会えるかもしれないわ」

「そうですね。私がそうだったんですから」

 

曹操は今日の出会いに不思議な縁を感じるのであった。

 

 

82

 

 

「曹操さんってやっぱり凄かった」

 

この外史の曹操を近くで見て思ったことは、まさに『王』であった。

 

「どんな世界であれ、曹操というのならば英雄と言うことなのだろうな」

 

諸葛孔明だって曹操のカリスマ性は感じた。王としての資質も感じた。本物だということを。

今はまだ陳留の太守だろうがすぐに魏を建国してこの大陸の覇権を掴もうとする王となる。

 

「ふん、連れている夏侯惇を飼いならしているのだからなかなか」

 

李書文も曹操に対しての評価は高い。彼が人を認めるなんてそうそうないからこそ、より曹操の凄さが極まるもの。

 

「まあ、次に会うことがあるか分からないがな」

 

カルデアの目的をもう一度、再確認しよう。

この亜種並行世界なのか亜種特異点なのかどちらかに分類されるか分からないがこの外史に異常を感知した。

その原因は恐らく于吉という男が鍵を握っている。そのため、今は于吉の手がかりを探しているのである。

 

「今は卑弥呼の帰還待ちだがな」

 

マシュたちに心配ばかり募らせているのではないだろうかと思ってしまう。だけどカルデアと通信が繋がらないなんていくらでもあった。

そんな時は自分のやれることをやるだけ。カルデア側もいつでも対応できるように準備している。

 

「今は出来ることをやろう」

「そうだな」

「そう言えば賈駆さんは?」

「そう言えば詠ちゃんがいない」

 

話を切り替えて董卓に賈駆について聞いてみる。

彼女はいつも董卓と一緒にいるイメージしかない。だからこそ今、董卓と一緒にいないのが珍しいものだ。

 

(…恐らく賈駆はあの策を実行しに行ったな。この洛陽もそろそろ血生臭いことになるやもしれん)

 

諸葛孔明は賈駆がどうしているかの予想は立てていた。この朝廷に、洛陽に近いうち大事件が起こるだろう。

この大陸全土に広がる程の大事件が。

 

 

そしてその賈駆はと言うと。

 

「お疲れさま姉様。さ、一献どうぞ」

「うむ。まったくあの暗君めが。瑞姫がなだめすかして、やっと一言か」

「大変だったのよ。下々の事は傾に任せておけばいいの一点張りで。それに黄も陛下を甘やかすばかりで…」

 

何進と何太后は今日の政務を全て終わらせて休憩していた。

今日はいろいろと忙しかった。西園軍の任命式やらなんやらとあったからだ。

 

「…あれはダメだ。無能なだけなら良いが、陛下に甘言を吹き込むだけの知恵だけは回りおる。余計にタチが悪い…そろそろ潮時だな」

「まあ、怖いお顔」

「瑞姫とてもはや機嫌取りも飽きただろう。そうだな、陛下の妹君なら後を継ぐのも不思議ではないだろう」

「白丹さま?」

「うむ。あれならまだ幼い故、我らの好きにできよう。なまじ政事に関心があるのも都合が良い」

「大きくなってからが問題じゃない?」

「時間はたっぷりあるのだ。それまでに骨抜きにしてやれば良かろう…とはいえ、あまりあからさまに消えていただいては余の可愛い瑞姫が疑われてしまうな。さて、良い策はないものか」

 

何進が策がないかと考えようとした時に声が聞こえた。

 

「策ならあるわよ」

「貴様…よもや先ほどの話!!」

「ああ、別に誰にも言うつもりはないってば。貰えるものさえ貰えるならね」

 

睨み合う2人。

 

「ちっ。はるか西方より取り寄せた瑠璃の杯だ。貴様ごときにくれてやるには過ぎた代物よ」

「おや、気前が良い。ありがたく戴いておくわね」

「けれど貴女、董卓の腰巾着ではなかったの?」

「ボクだって少しは良い目が見たいわよ。分かるでしょ?」

 

怪しいが聞いておけるものは聞いておく。

利用できる者は全て利用するのが何進だ。

 

「ふん、まあいい。して方策とは?」

「趙忠を取り込めばいいのよ。簡単でしょ?」

「黄だと…天子様を妄信する一番面倒な輩だぞ」

「だからいいんじゃない。あれは天子様と静かに日々が過ごせれば他はどうでも良い奴だから。天子様もそうでしょ。日々、楽しく贅沢に過ごせればいいと考えているだけのお方じゃないの?」

「それは確かに…」

 

何進とて趙忠がどういう人物か知っている。

 

「なら、それを叶えて差し上げればいいのよ。消すなんて物騒なことを言わなくてもね」

「なるほど。自らご退位いただくなら我らが非を問われることもない。まあ他の十常侍は邪魔だがな」

「その上で白丹さまをご指名いただくなら…」

「みんなが満足するなら、どこからも文句何て出ないでしょ。で、具体的な方法だけれど…」

 

賈駆が策を説明していく。何進がこの先、洛陽を手中に治めるものと邪魔な十常侍を消す策を。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。次回も来週くらいの予定です。

今回は曹操との出会いでした。
彼女が藤丸立香を見て思ったことは平凡。でも何か引っかかる部分があるという感じで書きました。そりゃあ、7つの特異点を解決し、亜種特異点も解決。
そして自分の世界を救うために、ロストベルトで罪のない生命さえも消滅させる覚悟を持った人間ですもん。ただ平凡ではないと思います。

逆に立香は曹操をみて、やはり曹操は曹操と言われるだけのカリスマを思いっきり感じてます。恋姫の曹操は武力はずば抜けてませんが、王としてはどの三国よりもずば抜けていますからね。しかも皇帝特権でも持ってるのかっていうくらい多彩な才能もありますし。立香側の世界の王とも張り合えるんじゃないかと思ってます。

次回で日常回は終わりです。本編にもう戻ります。

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