Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
遅くなりましたがやっとこさ更新です。

FGOではハロウィンイベント開催中ですね。
既にストーリーをクリアして周回に勤しんでいるマスターたちが多いかもしれません。
私は頑張って周回中です。

今回のハロウィンイベントも面白かったです。まさかのシンデレラとは!!
新キャラのゼノビアもモレーも良いキャラでした。そして藤丸立香がカボチャになるとは誰が予想したか…。

そしてクリアしたマスターたちなら知っているはずですが最後にモレーが残した言葉。
11月、12月に配信される新規イベントに繋がるのでしょうか。


さて、前書きで色々と書き過ぎました。まだまだ書きたいですけど、前書きにしては多すぎますのでここでストップ。
そもそもこの物語に関係ないので。


本編ですが本当に日常的な話です。タイトルで分かるように雪蓮とのですね。
では本編をどうぞ。


孫呉の日常8-雪蓮の過ごし方-

604

 

 

酒の呼吸。ただ息が酒臭いだけである。

酔いどれ荊軻が藤丸立香の背中で酔っぱらっていた。正確には酔っぱらっていた荊軻を藤丸立香が回収したのだ。

 

「なんで昼間っから酒飲んでるんですか」

「酒を昼間っから飲むのは罪じゃないぞー!!」

「まあ、そうだけど」

 

昼間から酒を飲んではいけないというルールは存在しない。平日の昼間から酒を飲めるのは贅沢な行為だ。

 

「私はな、これでも拗ねているんだぞ。だから酒を飲んで紛らわせてるんだ」

「何で拗ねてるのさ…」

 

荊軻が拗ねているのは珍しいものだ。どんな理由であれ、酒を飲むのはいつもの事であるが。

 

「この前、賭博場に行っただろ。何故この私を呼ばないんだー!!」

「いや、遊びに行ったわけじゃないから。任務で行ったんだから。てか、よくないものだったから」

 

賭博場での事件。

人間を理性のない鬼にしてしまう魔薬が存在している事。

蓋を開けてみれば恐ろしいものが詰まっていたのだ。

 

「言っておくけど賭博場で楽しくお酒を飲めたなんて事はなかったからね」

「えー」

「えー、じゃない」

「でも賭博と言ったら私じゃないか? イメージ的に、義侠的に?」

「そんなイメージはない…と思う」

 

個人的にだが荊軻が賭博場に居ても違和感はなさそうである。

酒をあおりながら楽しく賭博をする姿を想像してしまう藤丸立香。その想像に「似合うな」と小さく呟いた。

 

「そんなわけで主が私を賭博場に連れてってくれなかったので酒を飲んでいるのだ。このまま二件目に突入だー!!」

「2件目も何も1件目も行ってないよ」

 

荊軻は庭で酒を飲んでいた。青空の下の酒というやつだ。

 

「酌をしろー、膝枕しろー!!」

 

完全にへべれけけーかモードである。

こうなった彼女からは逃げられないので満足するまで付き合うしかない。

大変ではあるが嫌ではない。テンションの高い彼女は素も出てくるから普段とは違った新鮮さがあるのだ。

 

「二件目に行かないならこのまま主の部屋に直行だ。2人で飲むのもいいなー!!」

「オレは飲めませんよ」

「もう飲める歳だろうに」

「なんかそんな気もしなくもない」

 

藤丸立香も酒の味を知りたい。

 

「飲も飲もー!!」

 

背中でバタバタする荊軻。いつもは綺麗な大人な女性であるが今は子供みたいな彼女。

これもギャップと言うのか悪くない。

 

「「あはははははははっ!!」」

「ん?」

 

荊軻の笑い声とは別の笑い声が重なる。

もう1つの笑い声もやけにテンションが高い笑い声だ。つい気になって足を笑い声が聞こえてきた方向に歩めてしまう。

 

「も~う、冥琳ったらぁ。またそんな怖い顔しちゃって」

「怖い顔? 私は別に普通だぞ」

 

もう1つの笑い声は雪蓮のものだった。

 

「おお、こんなところで酒宴が開かれてるー!!」

「あ、立香に荊軻じゃない。あなた達もこっちに来なさ~い」

「来るー!!」

 

庭の端にある休憩所で雪蓮と冥琳がささやかな酒宴を開いていた。

テーブルの上には何皿かの料理と結構な量の酒が入っている白磁の器が並べられている。

酒宴が開かれてるならば荊軻は見逃さない。またも酒をあおろうと藤丸立香の背中で手足をバタつかせている。

既にデキあがっている荊軻にまた酒を飲ませたら大変だ。そのうち「皇帝をコロコロしたい」と言い出して雪蓮がターゲットされたらより大変。

 

(雪蓮さんは皇帝じゃなくて呉の王を名乗ってるから大丈夫かな?)

 

皇帝と王は違う。

 

「もー、立香ったら荊軻をおぶって何処に行くのよ。もしかしてお持ち帰り?」

「違います」

「またまたー」

「なんだ主は私に欲情したか。主もやはり男だなー」

 

取り合えず2人の言葉を無視。酔っぱらいの言葉を真に受けてはいけない。

 

「それにしても珍しい」

「珍しいって何が?」

「雪蓮さんはいいとして、冥琳さんまで昼間から酒を飲んでるから」

「なによそれ、私はいいってどういうことー」

 

にへらっと笑いながら抗議してくる。

抗議の返事は「雪蓮さんだから」と答えるしかない。大体それで伝わるもので、隣にいる冥琳も納得していた。

 

「まあ、飲んでいると言うより付き合わされていると言った方が正確だな」

「こらっ。冥琳までなにツレナイこと言ってるのよ」

 

軽く笑う冥琳。

迷惑そうな口ぶりではあるが実際は迷惑でもなんでもない。その証拠に彼女は楽しそうに酒を口に運んでいる。

相当飲んでいる様子の雪蓮は顔を真っ赤にしており、酒の力でテンションが高いのも納得というものだ。

 

「で、これは何の酒宴なのさ?」

「理由なんて特にないわよ。イイお酒が入ったから、冥琳と一緒に飲んでただけよ」

「そうだ。酒を飲むのに理由なんれいらないんらろー」

「呂律が回らなくなってきたよ荊軻」

 

上機嫌で微笑み、なみなみと酒の注がれた杯を一気にあおっている雪蓮と同時に荊軻も片手に持っていた徳利を飲む。

 

「そんな一気に飲んで大丈夫?」

「だ~いじょうぶ、だいじょーぶ。楽しむ時は全力で楽しむものよ」

「そうらそうら~」

 

また酒を一気飲みの2人。

祭も酒豪だが雪蓮も中々の酒豪である。これも炎蓮の血筋なのかもしれない。

「楽しければそれでよし。楽しくなくてもイイお酒で全部吹き飛ばして新しい門出の景気づけにすればそれでよし!!」

要は酒が飲めればヨシという事だ。吞兵衛たちは絶対に首を縦に振る理由である。

 

「門出、か」

 

ポツリと呟いた冥琳。

 

「門出がどーかしたの?」

「私と雪蓮が出会って、もう何年になる?」

「十年…いや、十二年?」

「そんなに経つか。時の流れというのは本当に速いものだ」

「そうねぇ」

 

2人は酒器を傾けながら感慨深そうに呟いた。

12年。彼女たちの昔話を聞く機会はめったにないので興味が湧く。

 

「雪蓮さんと冥琳さんの12年か。色々と大変だったというか、色々と物語があったんだろうね」

「ほんとそう。今でもあの約束は忘れてないからね」

「約束?」

「うん、2人で天下を取る!!」

「正確には雪蓮が天下を取る。私はそのために雪蓮を助けると幼い頃に2人でそう約束してな」

 

そういう似た話はよくあるものだ。幼い頃に親友と大きな夢を語り、叶えようと約束する。

これも青春の1つなのかもしれない。幼い頃はなんでも大きすぎる夢を目標にするものだ。

 

「そんな小さい頃から天下について語り合ってたんだ」

「単に現実が見えてなかっただけ。子供の夢語りと同じよ」

 

子供の夢語りであっても、大人になっても本気で叶えようとしているのならば誰も笑わない。

 

「そうかな?」

「そうよ。あの頃の予定だと、もう天下を取っていたはずだもの」

「いや、子供の夢語りなどではない。孫呉は天下取りへの歩みを続けている」

 

冥琳のきっぱりとした台詞に嘘は無い。藤丸立香も2人の夢を笑わないし、本当に天下統一への道を歩いていると思っている。

今の2人が歩いている道は現実なもので夢物語で終わっていないのだ。

 

「雪蓮。孫呉の旗が天下にはためくのもそう遠い日ではない」

 

酒を飲むと真剣に語り出す人間はいる。冥琳も案外そういう人間かもしれない。

 

「私はそう信じて雪蓮についてきた。炎蓮様でも、蓮華様でも小蓮様でもない。ましてやそこな天の御遣いとか申す者でもない。雪蓮にその器があると信じてついてきたのだ」

「冥琳…」

 

雪蓮の頬がかあっと赤く染まる。いつもの余裕ある彼女のこんな顔は珍しい。

 

「も、もう…そんな風に言われると、なんて返事をしたらいいか分からないよ」

 

照れ隠しをするように酒をあおる雪蓮。

冥琳がここまで雪蓮を褒める姿はあまり見た事が無い。まんざらでもなさそうな雪蓮の表情に冥琳も少し嬉しそうだ。しかし、そこは孫呉の軍師なのかすぐにいつもの厳しい表情に戻った。

 

「天下への道を切り開くのに費やした年月が十二年。なかなか思うようにはゆかぬものだな」

「そうね…揚州をまとめるだけでもこんなに大変なんて、昔は無敵の自信があったのにねぇ」

 

どこか遠い目で、往時を懐かしむように呟く。

彼女たちの言う通り予想の出来なかった事ばかり起きていたはずだ。人生とはそういうものである。

予想した人生通りなんて起こるはずがない。それこそ藤丸立香たちが雪蓮たちの前に現れるなんて普通はあり得なかったのだから。

 

「思えばあの時から思い出と言えばほとんど戦いばっかりね。なんたってあの母様だし」

「厳しい人だったからね」

「厳しいなんてもんじゃないわよ。母様ったらこんなにちっちゃい私を胴にくくりつけて、そのまま戦場に飛び出していくんだもの。いくら泣き叫んでも容赦なし。おっぱいよりも敵の血の方をたくさん飲んだんじゃないかってくらいよ」

「それはもはやスパルタ並みだ」

 

幼子を胴にくくり付けて戦に出るのは想像できない。そもそも戦い辛いのではないかと思ってしまう。

世が世なら大問題の事をしている炎蓮だ。

 

「スパルタ?」

「こっちの話」

 

笑っている雪蓮もまた劣っていないように見える。彼女もまた炎蓮と同じように無茶をするのだから。

 

「で、何か不満があるのか?」

「別に不満ってわけじゃないけど母様のことはちゃんと尊敬してるし、今の自分のことだって好きよ。でもさっき言ったみたいに私ってずっと戦場の中で育ったでしょ。鬼みたいな母様に引っ張られて。花も恥じらう乙女の少女時代にしては何て言うか少し寂しいなって」

「どうかな。私には今の生き方しか想像がつかんのでな」

「実際私もそうなんだけどさ。でもたまにはお姫様っぽく蝶よ花よで育てられたら、どうだったんだろうって。戦とはなんの関りもない人生ってどんなのかなって」

 

もしもの話。

もしもこういう人生を送っていたらどうなっていたか。それこそ並行世界の話になる。

 

「どうしたんだ雪蓮。らしくないことを言うな」

 

普段ならば言わない事を言う雪蓮に冥琳は少しだけ考え込む顔をした。

 

「そんな顔しないでよ。たまにそう思っちゃう時もあるってだけ…もちろん本気で言っているわけじゃないよ」

「本当か? 不満があるなら今の内に言っておくものだぞ?」

 

口にしたという事は少なからず思っている事である。

友として雪蓮が抱える不満や不安は取り除きたいと思うのが冥琳の本心だ。

 

「違う違う。安心して。そんなんじゃないの」

 

真剣に考えだそうとする顔を見て雪蓮は大げさに両手を振る。

 

「もー、大丈夫よ。いきなり覇業なんてやめたー…なんて言ったりしないったら」

「私はそれでもかまわんぞ」

「え?」

 

まさかの台詞に雪蓮はポカンとしてしまった。

 

「お前が本当にやめたいと思うなら、私も止めはしない。覇業を止めるなら何か代わりに新しい目標を立て2人でそこに向かえば良い。雪蓮が望むことを叶えるのが私の役目なのだからな」

「冥琳……うん」

 

雪蓮の目指す道は何も天下統一だけではない。今の自分を捨てて新たな自分に成るのも悪くない。

自分の人生は自分だけのもの、というのが当然の理だ。生れついて決まった道があるというのも否定できないが結局は自分が決める事なのだから。

2人は言葉を止め、お互いの顔を正面から見つめ合った。真剣な光を帯びた瞳が微かに潤んで見える。

彼女たちの絆の深さを改めて知るが先ほどから藤丸立香と荊軻の存在は空気だ。

 

「あのー…もしかしてお邪魔かな」

「どうやら、そのようだな」

 

忘れされつつある藤丸立香と荊軻はポツリと呟く。

お熱い絆を見せつけられて荊軻も酔いが冷める。酒でなく急に無糖の珈琲が飲みたくなってしまう。

 

「あ、いや、すまない」

「あはは…ごめんね。なんかほったらかしにしちゃって」

 

やや照れ気味に頭を下げる冥琳と雪蓮もすまなそうに舌を出す。

 

「なんか2人の邪魔しちゃったみたいだ」

「気付かれる前に立ち去ればよかったな」

 

2人だけの世界に他の人が立ち入ってたいけない。それが関係者であってもだ。

 

「そんなことないよ。1人よりも2人、2人よりも3人。3人よりも4人の方が楽しいもんお。それじゃあ4人の世界を満喫する?」

 

早口でよく分からないことをまくし立ててくる。4人の世界とはよく分からない。

 

「雪蓮、お前酔っているな?」

「お酒飲んだら酔うに決まってるじゃない。でもどっちかと言えば雰囲気に酔っちゃった感じかな~」

「その雰囲気は間違いなくさっきのだね」

「あははは…あ、立香。冥琳たちと仲良くしてる? ちゃんと子を孕ませないとダメなんだからね」

「唐突っ」

 

自分の顔が赤くなるのを感じる。見た目だけは綺麗なお姉さんな雪蓮の口からそんな話題が出るのはドキリとする。

 

「いきなり話の方向転換すぎる」

「だって、約束したでしょ?」

 

約束した覚えはない。最後まで反論していた記憶はある。

 

「ぼちぼち仲良くはしてると思ってる」

「もうっ奥手ねぇ。そんな弱気で冥琳を落とせると思ってるの?」

「雪蓮、先ほどからどうして私を対象にしているのだ?」

 

話の方向転換にされた本人も聞き返す。

 

「だって、一番厄介なのは冥琳だもの。蓮華や冥琳は若くてかわいいから、立香も気分も乗るでしょうけどー」

「ちょっ」

「冥琳はねえ?」

 

チラリと横目で冥琳を見ると雪蓮は声をひそめる。

 

「立香、大丈夫? やる気になる?」

「よくわかった。つまり、私に喧嘩を売っているわけだな」

「喧嘩はやめてください」

 

半分冗談だと分かっていても2人が喧嘩するところは見たくない。寧ろ巻き込まれたくない。

 

「あはは。喧嘩を買う前に立香を誘惑しなさいよ。冥琳の子供だって作らないといけないんだから」

「確かに私も天の御遣いの血を呉に入れることは賛成したが」

「でしょ。だったら冥琳も協力しないと」

「その話はやめよう。冥琳さんにだって選ぶ権利はあるんだし」

「そうだな…雪蓮の言う通りだ。私も皆と同じく、子は残さねばならん」

「え」

「どうした?]

 

まさかの返事で呆けた。

今の返しは藤丸立香となら子供を産んでも良いと言っているようなものだ。

 

「冥琳さんはそれでいいんですか」

「構わん。たまには男に抱かれるのもいいだろう」

 

言い方が軽い気がするが彼女の性格から普段からそんな事は言わない。本当に言っているのだと分かってしまう。

 

「立香の顔が赤くなった。わっかりやすいわねー」

「主は結構分かりやすい時があるからな」

 

そんな事はを言われれば誰だって顔を赤くする。

 

「情緒もあると思うけど」

「情緒か。それも大切だろうが、もっと大切なのはお互いの信頼関係ではないか? 身も心も相手に任せるわけだからな」

「ごもっともです」

「ふふっ、冥琳は立香に抱かれてもいいって言ったでしょ。つまり、それは冥琳が立香を信頼してるってことでしょ」

「ありがとう…って言うべきだよね」

 

信頼。

言葉で表すのは簡単だが実際に誰かを信頼するというのは難しい。

 

「ふっ…信頼しているさ。ま、そのヌケているところが無ければ伴侶に選んでいたかもしれんな」

「オレってヌケてるんだ…」

「ああ。直らなければ伴侶にはできんな」

 

藤丸立香がヌケている時はあるにはある。

 

「あはは、わかってないなぁ冥琳。立香はヌケているところが可愛いんじゃないの」

「そういうものか」

「そういうもの。ね、立香」

「そういうものかなぁ」

 

イマイチ理解していない。

 

「そこだ、自分で分かっとらんところが一番の問題だな」

「ヌケているとは思ってないですから」

「ふっ…やはり分かっていないな」

 

ついクスリと笑っている。

 

「じゃあ冥琳と立香もめでたく結ばれるということで改めてみんなで乾杯しよっか」

「ふむ。大げさな気もするが」

「乾杯するところかな?」

「取り合えず酒が飲めれば良いという事だよ」

 

酒を飲む理由はなんにでもある事が分かった。

 

 

605

 

 

街の様子は活気がある。三国が膠着状態とはいえ民たちの暮らしにまで影響が出てしまえばよくない。

民たちの暮らしを良くするのも国を動かす者たちの仕事である。

 

「ありがと。引き続き警備、お願いね」

「はっ!!」

 

雪蓮は街の警備兵にテキパキと指示をしていく。王自らが街の視察も珍しくないものだ。

 

「揚州を統一して呉という国になった。色々と事件があったけど今のところ大丈夫そうだね」

 

走っていく警備兵の背中を眺め、そう一言。

袁術から建業を取り戻し、揚州を統一。その後はいくつか事件があったが解決している。

現在に至るまで大きな混乱が起きていない。雪蓮たちが治安の維持に優先的に力を注いだ事もあり、町はそれなりに落ち着いているのだ。

 

「そもそも、まともな戦闘になってなかったしね。袁術たちが籠城でもしてればもう少し状況は変わってたんだろうけど」

 

「籠城か。そういえばすぐに出てきたって聞いたな」

「籠城戦は攻める方も守る方も負担が大きいからね。戦と関係ない住人たちは特にね」

 

籠城すると防御力は高くなるものの、守る側の精神力の負担は相当掛かる。

いつ助け、応援が来るか分からないのを待って城に引き籠る気持ちは想像に難しくない。

 

「そういう意味じゃ、民には優しい領主だったのかな?」

「あはは。そういう考え方もあるわね」

 

袁術が民たちからどう思われていたか、袁術は民たちをどう思っていたか。それは今となっては分からない。

 

「ま、その時はその後が問題だったけどね」

 

袁術を追い詰めたかと思えば、まさかの于吉が裏で暗躍していた。暗躍していたというよりも遊びついでに雪蓮を殺しに来たような感覚であった。

 

「二度ある事は三度ある。あいつ…また私の前に現れる気がするわ」

 

彼女の言葉を否定できない。于吉は呉だけでなく、蜀や魏も滅ぼそうとしているのだ。

 

(…そう言えばイマイチ于吉が三国を滅ぼそうとしている理由が分かっていない。彼の本当の目的って何なんだろう)

 

于吉は三国を滅ぼそうとしているのは分かっているが、その行動理由は明確に分かっていない。

 

「ねえ立香」

「なに雪蓮さん?」

「于吉と戦った時の事だけど…あの場に私と立香、武則天ちゃん以外にも誰かいなかった?」

 

更にあの場に居たのは始皇帝。惚れてしまうくらいにヒーローみたいにナイスタイミングで助けに来てくれた。

 

「うろ覚え…私の勘違いかもしれないけど仙人みたいな人いなかった?」

「あー…居たね。その人が助けてくれたんだよ」

 

当時の雪蓮は重症だったので自分たちがどうやって于吉に勝ったか分かっていない。ただ于吉を撤退させて命からがら生還したという事ばかりに目がいってしまったので、どうやって勝ったかまでは重要視していなかったのだ。

終わりよければ全て良しというもの。過程は関係無いとも言える。

 

「やっぱり。じゃあアレは夢でも何でもなかったんだ」

 

その仙人が世界が違うとはいえ、始皇帝と分かったら雪蓮でも大声をあげて驚くかもしれない。炎蓮でさえ始皇帝と分かった瞬間に顔をヒクつかせていた程だ。

 

「もしかしなくてもその仙人って立香の仲間だったり?」

「うん」

「なら何で戦いが終わった後に何処にも居なかったのかしら。冥琳たちも何も言ってなかったし。てか、立香も言いなさいよ。命の恩人でもあるんだからお礼が言いたかったわよ」

「そうなんだけど…まあ、それはまた今度だね。たぶんその人は魏か洛陽に行っていると思う」

 

始皇帝本人は洛陽を訪れたいと言っていた。その前に魏に向かって八傑衆の情報を追っているはずである。

尤も始皇帝本人の事だから単独で洛陽に向かっているかもしれない。

 

「魏か洛陽にねえ」

「いずれ会えると思うから、その時にお礼を言ってあげて欲しい」

「そうするわ」

 

始皇帝と会合したらどんな反応をするか気になる所ではある。

蜀で始皇帝が現れた時は桃香たち全員が驚愕していた。過去一の驚愕であったようで桃香はもうこれ以上の驚きは一生無いと言うほど。

 

(てか、始皇帝が魏に行っていたとして曹操さんはどんな反応をするんだろう)

 

今頃、始皇帝が何をしているのか気にしながら街を歩いていく。

市場に差し掛かれば動きの速い行商たちは既に屋台や荷物を広げ、商売を始めていた。

 

「市場が出来てる」

 

雑貨に食材、武具の修理の看板を掲げている店もあれば湯気を立てる料理の屋台もある。

警備に歩く兵士の数は少し多いのを除けば戦が終わった後とは思えない平和だ。

 

「この時代に旅をしながら商売をしているんだもの。抜け目ないわよ連中は」

 

商売魂は逞しいというものだ。生きるためにはどんな事でも抜け目ない行動が必要ということかもしれない。

今の世はいつ、大きな戦が起きてもおかしくない。自分で出来る事は今の内に何もかもやっておくべきだ。

 

「何か食べていく? ちょうどいい時間だし」

 

お腹の具合的に昼飯時。

 

「こんな所でつまみ食いしてて、冥琳さんに怒られても知らないよ」

「じゃ、やめる?」

「いや、食べる」

 

結局は食べる。空腹時はどんな時でも食事が最優先だ。

 

「くっださーいな」

「へい、何にしやしょう!!」

 

元気の良い声が屋台から聞こえてくる。

 

「どうしようかな…チャーシューメンにしよっと」

「麻婆豆腐一択で」

「へいおまちぃっ!!」

「はやぁっ!?」

 

今注文したばかりのはずなのに2品が早くも出される。

 

「へへっ、兵隊さんにお出しする事も多いですから早いに越したことはないでしょう」

「いや、速過ぎでしょ」

 

どう考えても作り置きではないかと思うが目の前に出されたのは作り立てだ。

 

「ほら、抜け目ないでしょ?」

「抜け目ないって言うかどうか…」」

 

2つの料理はどう見ても作りたてで手抜きをしたわけでもない。もはや職人技の域と言っていいのかも分からない。

 

(何かの宝具?)

 

気になるが今は食事が最優先だ。

 

「いただきます」

「いただきまーす」

「はふはふっ。もぐ、んぐ」

「へえ、なかなか」

「ありがとうございます」

 

雪蓮の舌が満足する味。それならば城で雇っても良いという事でもある。

雪蓮が味を認めてくれて店主も口がにやけてしまう。自国の王が「美味しい」と言ってくれたならば料理人としてこれほど名誉な事はない。

 

「はふはふはふっ。んうんぐんうんぐ」

「なんか麻婆豆腐を食べているというよりも麻婆豆腐と戦っている感じね」

「………食う?」

「食わない」

 

雪蓮はチャーシューメンのメンマはヒョイパクリ。

 

「あ、このメンマ美味しい」

「そのメンマはさる旅の武芸者の御仁に教わったんですよ。何でも秘伝の法だとか」

「なんで武芸者がメンマなの。料理人ってなら話は分かるけど」

 

メンマと聞いてある人物が藤丸立香の頭に浮かぶ。

 

「メンマ好きな武芸者なんだよ」

「メンマがねぇ」

 

武芸者が料理をしたって何もおかしくない。

武術を極めながら料理を極めたって良いのだから。逆に料理人が武術を齧っていても何もおかしくない。

 

(でも星のメンマ愛は異常な気がするなぁ。悪いというわけではないけど)

 

好きなもの一直線。良くも悪くもという事だ。

 

「美味しかったわねー」

「なかなかの麻婆豆腐でした。あの辛さなら美味しい」

 

辛すぎる麻婆豆腐を知っている藤丸立香。そもそも概念礼装で麻婆豆腐というのがよく分かってない。

 

「立香って麻婆豆腐が好きなのね」

「好きっていうか運命というか。食わなくちゃいけないという使命かな」

「何言ってんのよ」

 

謎の麻婆豆腐のこだわりを聞きながら市場を歩くと本が置かれているが目に入る。

この時代の書物は貴重だ。そして現代にはもう見つからない内容の本もある。

藤丸立香はつい本を1冊手に取る。

 

「ふむふむ。兵法書か」

 

雪蓮も同じく本を1冊手に取った。

 

「へぇ。妲己の書いた本なんかあるんだ」

「え、そんな本があるの?」

 

どんなラインナップをしているのか気になる本屋である。

そもそも妲己が書いた本なんて本物かどうかも疑わしいものだ。

 

「ほら、立香もこれとか読んで勉強しなよー」

「どれ?」

 

戦略の本か国を治めるための指南書なのかと予想しながら受け取る。

 

「女性を虜にする房中術」

「………んー」

 

本の内容としては気になる。

 

「最初にした約束、忘れたわけじゃないよね?」

「約束したっけなぁ…」

「ひっどーい。そういう男は最低よー」

「そんなこと言われても」

 

取り合えず、目次に目を通す。気にならないと言えば嘘になるからだ。

隣では雪蓮が妲己の書いた本とやらを無言で読み始めた。どのような内容か気になるものだ。

イメージ的に皇帝を誑かす方法や拷問、美の追求的なものが書かれているのかもしれない。そして藤丸立香は独房術の本をペラリ。

 

(なんか凄い内容なんだけど…こんな事して大丈夫なの?)

 

いま読んでいる房中術の本の内容はなかなかアグレッシブだった。

 

「ほー。そんな事が書いてあるんだ」

「わっ、いきなり覗き込まないでよ」

「いーじゃないの。あ、これなら私も出来そう。立香は?」

「これならオレも出来…って、何を言わせようとしてんのさ」

「ふふふ~。立香ったらけっこう無茶な体位もイケそうなのね」

 

パタンと房中術の本を閉じる。

 

「はい、おしまい」

「えー、立香ならどこまで大丈夫か知りたいのに」

「次の店を周ろう」

 

スタスタと本屋を出ていくのであった。更に市場を歩くと今度はキラキラした物が目に入る。

 

「いらっしゃいませー」

「へぇ、このご時世に宝飾品?」

 

並んでいるのは高そうな宝石や首飾り。混乱した戦場でこんなものを売るのは危ないという以前に戦場で売れるのかどうかだ。

 

「はい、遠征の兵士の皆さまが意外と買って行かれるんですよ?」

「へえ、そうなんだ」

 

兵士たちが装飾品を買う理由。もしかしたら自分に身に着けてるためかもしれない。

装飾品はただ豪華さを表すだけでない。本質は威厳さと強さを見せ付けるためのものだ。

戦場で装飾品を付けた者が居たら「あれ、あの戦士は他の者と違うぞ」となるはずだ。それだけでも相手に気落とす事が出来る。

 

「よくいらっしゃるのが故郷の許嫁へのお土産で、『俺、この戦いから無事に帰れたら、あいつと結婚するんだ』とか何とか…」

「あ……そ、う…なんですね」

 

どう聞いても死亡フラグ。しかし藤丸立香はその兵士が許嫁と結婚出来る事を心から願う。

 

「ね、立香。何か買ってよー」

「いきなり、おねだり来た」

 

雪蓮が目をキラキラさせながら見てくる。

 

「ダメ?」

「ダメというか何と言うか…今はそんなにお金持ってないよ」

 

今はイベントのあまりの金の延べ棒を持っていない。

 

「こういうのは値段じゃないよ。気持ちだよ。ね?」

「そうですよ」

「そんなものかな」

 

値段でなく気持ち。この言葉は誰が言い始めたのか。

やはりお金を持っていない者が考えた言葉かもしれない。『気持ち』という言葉が付けば何処か特別感を感じられる。

 

「あ。これなんかいいな」

「指輪?」

「何よ。私だって、こういうのが気になる事くらいあるんだから」

 

雪蓮が宝飾品に興味を示すのは悪い事ではない。誰だって装飾品に興味を抱くものだ。

藤丸立香が気になったのは無邪気に指輪を左薬指に嵌めたからである。

 

「…似合わないかな?」

「似合ってるよ。でも…」

「何よ。似合わないなら似合わないって、はっきり言えばいいじゃない」

 

「むー」っと頬を膨らませている。まるで「私は指輪よりも血みどろの剣が似合うってかー!!」と訴えているようにも見える。

 

「私はすごくお似合いだと思うんですけど」

 

すかさず装飾店の店主はフォロー。フォローするも何も指輪を嵌めている雪蓮は良い。

 

「だよねー?」

「すごく似合ってるから、いいと思うけど…」

「じゃあ何が不満なのよ。値段?」

「おやおや、お勉強させていただきますよ?」

 

雪蓮はまだ頬を膨らませている。装飾店の店主は指輪を買わせようと値段を値切らせてくれると言っている。

 

「値段じゃないよ。左薬指に嵌める指輪って、オレの国の風習じゃさ」

「風習じゃ?」

「婚約指輪なんだ」

 

雪蓮の膨らんだ頬がぷしゅーっと縮む。そして一呼吸置いてから雪蓮は指輪を戻した。

 

「その、勘違いしないでよ。別に立香が嫌いってわけじゃないんだから」

「はい」

 

心の中で「ツンデレか」と呟いてしまった。

 

「そういう意味の指輪なら、出来れば蓮華にあげて欲しいな…って思っただけなんだからね」

「そっか。なら、さっきの指輪くれますか」

「ありがとうございます」

「ちょっと、立香!?」

「そういう意味じゃなくて普通の指輪としてなら付けてくれるって事でしょ」

「…うう。そりゃ、そうだけど」

「いるかいらないか」

「………いる」

「じゃ、これ買います」

「毎度!!」

 

装飾品の店主にお金を渡し、指輪を受け取る。

 

「お客さんどうですか。彼女に指輪を嵌めて上げては?」

「そうですね。雪蓮さん手を出して」

「何だか恥ずかしいわね」

 

手を出す雪蓮の指に指輪を嵌める。

もしも指輪を送る相手が清姫やシャルロットだったら彼女たちは嬉しさのあまり泣くかもしれない。チョロイと言われている水着カーマ相手ならばどうなるか気になるところだ。

そもそも藤丸立香が誰かに指輪を送るという情報がカルデアで流れたら正妻戦争が始まるかもしれない。

 

「へえ…良いわね」

 

嬉しそうに指にはめた指輪を見る雪蓮。

 

「ありがと立香」

「どういたしまして。とても似合ってるよ」

「ふふ、そう?」

 

ニコニコ笑顔の雪蓮。今日一日とても楽しい日になりそうだと思う彼女であった。

 

「ふ、良い買い物したな兄ちゃん。これも青春だな。オジサンも昔はなぁ…」

 

何故か装飾店の店主が昔を思い出すのであった。




読んでくれてありがとうございまいした。
次回の更新は今日中。


今回は雪蓮をメインに日常編を書いてみました。
特にオチ無し。前書きにも書きましたが本当に日常の話。

604
恋姫をプレイしている方ならば分かるかもしれません。
雪蓮をメインと書きながら、ここは冥琳の幕間を元に書いたものです。
原作にほぼ似ていますが藤丸立香と荊軻ならこういう感じになるかと思って書きました。
まあ、2人はほぼ空気でしたが。


605
ここもそうですね。
袁術の幕間を元に書きました。(袁術は出てませんけど)
雪蓮と藤丸立香のデートみたいなもんですね。

麻婆豆腐ネタ。
分かりましたかね。士郎と言峰の「食うか?」「食うか!!」のシーン。
そのオマージュ。

恋姫でもジョ〇ョネタがあるとは。
有名な死亡フラグのセリフ…

最後に装飾店のオジサンが締めました。

ところで袁術の幕間を元に書いたものでしたが、その本人の再登場は八傑衆(魏)編でちょろっとある予定です。

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