Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。

FGOバレンタインイベント面白かったです。
チョコ受け取りも渡しも良かったですね。
バレンタインが終わったら次はホワイトデー。なんだか早いんだが忙しいんだが。
ですが楽しみです。

さて、本編をどうぞ。
物語も佳境に入ってますが展開が忙しくなってきております。


曹操暗殺計画 -憎悪と執念の力-

675

 

 

張角の継承者を名乗った大賢良師を覚えているだろうか。

彼は于吉にそそのかされて死んでいもいないのに張角を甦らそうとしたのだ。儀式の結果、得体の知れないモノが召喚された。

藤丸立香たちカルデア勢及び孫呉の軍勢によって討伐・鎮圧されたが結局のところ得体の知れないモノの正体は分からずじまいであったのだ。

 

「得体の知れないモノの正体。アレは名も無き悪魔」

 

ポツリと喋ったのは于吉。

 

「悪魔は魂を引き換えに願いを叶えてくれる存在です。オカルトや創作物では定番のものですよね」

「ド定番だな」

 

于吉の言葉に肯定したのは左慈。

 

「悪魔だろうが妖魔だろうが名前を持っているヤツは大物だ」

「ええ。種族名があり、更に個体名まであるとより強大です。人間程度では抑えきれないでしょう」

 

有名どころだと鬼の酒吞童子や九尾の狐の妲己。

鬼や妖狐の括りであっても別存在だと思わせるほど凶悪で強大である。

 

「逆に名前なしの悪魔や妖魔は弱い。ですが人の願いを叶える力を持っているのだから不思議ですよね」

「そういう風に定まったんだ。多くの人間が悪魔は願いを叶える代わりに魂を取られると認識したからこそ、そういう風に成ったのだ」

「ええ。外史とはそういうものが認められ、生み出される場所でもある。名無しの悪魔にとって外史は良い場所でしょうね。なんせ不安定な存在が安定する事が出来るのですから」

 

元より悪魔が先なのか人間の想像より生まれたのかは分からない。しかし悪魔が願いを叶える代わりに魂を取られるのは世界に認識されている。それはこの外史世界であってもだ。

 

「専門家なら名無しの悪魔を従える事ができるでしょう。しかし名前持ちの悪魔や妖魔を従えるとなると余程の実力が必要です。だから七十二の悪魔を従えた魔術王は本当に凄いと思いますよ」

 

魔術王の実力に于吉と左慈は心の底から認めた。

 

「話が逸れたな。お前はソレを八傑衆にも教えたんだったな」

「ええ。飛燕が魏を潰す為にアドバイスを欲してましたから悪魔召喚を教えてあげました」

「アドバイスで悪魔召喚を教えるとかお前どうかと思うぞ」

「いいじゃないですか。面白そうな事になりそうですし」

「お前な…」

「いいんですよ。この外史に神秘がより浸透するのも計画の1つです」

「それもそうか。あの女神の為にもな」

「悪魔・妖魔は人間にとって恐れる存在ですが人間も時には悪魔すら予想外な事をするんですよ」

「そうか?」

 

悪魔召喚に手を出した人間は身を亡ぼすのも定番だ。しかし稀に悪魔の予想を超える時もあるのだ。

 

「人間の執念というか悪性というのは稀に予想以上の事を起こすものです」

 

 

676

 

 

董承は己が善人だと思っていない。

漢帝国を再興・存続させていくには綺麗ごとではやっていけないのだ。

人を欺いたり、暗殺したりするのはしょうがないと思っているのだ。そもそも朝廷の内側は騙し合いの権力争いである。

 

「おのれ曹操!!」

 

董承は本当に漢帝国を再興させようとしていた。内側に浅い欲望を持っていても漢への忠誠心は本物である。

 

「おのれ陳珪!!」

 

曹操暗殺計画は全て計画通りかと思えば陳珪の裏切りと曹操の策によって瓦解した。最初から曹操の掌であったのだ。

 

「全ては漢帝国の為なのだ。何故誰も理解せんのだ!!」

 

国の為に身体を削っているのに誰も理解しないばかりか周辺は漢を滅ぼそうとしてくる。

誰も今の漢帝国へ忠誠が無いのは悲しいどころか憤慨してしまう。だからこそ董承が漢を再興させなければならなかった。

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!」

 

再興しなければならないというのに全て失敗した挙句、悪魔(妖魔)に飲み込まれてしまった。

董承は悪魔(妖魔)に飲み込まれて消えた。残ったのは執念だけだ。

 

「おのれええええええええええええ!!」

 

執念だけが残ったのだ。

人間の執念とは恐ろしいものだ。昔から人間の執念や恨みというものは現実に作用する。

よく恨みを持った人間が化けて出てくるなんてものがあるのが証拠だ。日本だけならず全世界でも共通のものである。

死んだはずなの人間が現世に影響を与えるというのは不思議なものであるが、これも昔から起きた事と認識されている。

怨霊となって恨みをはらす、祟り殺す、国さえも傾かせたというものは無い話ではない。

 

「曹操ぉぉぉぉぉ!!」

 

執念や恨みがそこまで力を増幅させるかは解明できていない。神秘のようなものかさえ分からない。

魔術世界では執念や恨みと言ったものは馬鹿に出来ないのだ。たったそれだけで稀に悪魔(妖魔)さえ出し抜く時があるのだから。

 

「なんだ!?」

 

暗影と戦っていた司馬懿(ライネス)は急激に膨れ上がった魔力を感じ取った。そして悍ましいまでの殺気もだ。

それは曹操や暗影も感じ取ったようで手を止めていた。

 

「なに?」

 

荀彧や陳珪もまた異様な殺気を感じ取って視線を向ける。

 

「なにアレ…」

 

誰も術式を展開していないのに会場に術式が勝手に展開されていた。

術式の中心から怨嗟の声をあげながらナニかが出てきたのだ。

 

「ソ、曹操ォォォォォ!!」

 

そのナニかは肉の塊が人の形をしているようなものだった。

 

「この声はまさか董承か!?」

 

顔の部分に目が4つギョロリ開いた。口も大きく開き牙が剥きだされる。腕が4本に伸びて筋肉が盛り上がる。腕だけでなく脚が、体全体の筋肉が発達していく。

ただの肉の塊していたナニかはどんどんと人型の怪物へと変化していった。

 

「グオオオオオオオオオオ!!」

 

殺気と威圧感が会場内へと広がる。

 

「曹操ォォ貴様ヲ殺ス。陳珪モ殺シテヤルゾォォォ!!」

 

ただの怪物が曹操たちの目の前に現れたのだ。

 

「うわぁ」

 

暗影が何とも言えない声を出した。

 

「何で董承があんなのに…」

「これは私も予想外だよ」

 

司馬懿(ライネス)は頬からタラリと冷や汗を垂らす。

 

「何でああなったか分からない。ただ分かるのは董承が化け物になって私たちを殺したいってことくらいだ」

「そんなの殺気で嫌でも分かるわ」

 

怪物になった董承の眼は曹操を見る。

 

「曹操ヲ殺ス。漢帝国ヲ再興サセナケレバナラヌ。ソノタメニ殺ス!!」

 

怨嗟の雄叫びを上げながら董承は跳んだ。着地地点は曹操と司馬懿(ライネス)と暗影がいる場所。

 

「まずい!?」

 

3人はその場から離れた瞬間に董承が着地し、床を無残にも踏み砕いた。もしもその場に居たのならばミンチになっていたのは間違いない。

 

「逃ゲルナアアアアアアア!!」

「普通は逃げるだろう。ひき肉になりたくないからね」

「私もよ」

「ちょっと私まで襲うとかどういう事よ」

「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス!!」

 

董承は暗影の言葉に耳を貸さない。そもそも聞こえていないのかもしれない。

 

「あ、ダメねアレ」

 

董承の狙いは曹操。

カツンカツンと伸ばした爪を動かして曹操から離れながら董承の4つの眼を見る。眼は暗影を捉えず、曹操を見たまま。

 

「曹孟徳しか見えていないみたいねぇ」

 

もはや何を言っても意味は無く、会話は成り立たない。

相手は殺す事しか考えていないので曹操たちが取る行動は迎え撃つしか選択はないのだ。

 

「あいつとの決着はついてないのにこんな奴とまで戦う事になるなんてね」

 

チラリと暗影を見る。

 

「あ、私は手を出さないわよ。そいつ敵味方関係なく暴れそうだし…巻き込まれたくないわ」

 

気が付けば暗影は曹操と司馬懿(ライネス)から離れていた。

 

「それ本当かしらね」

「曹操オオオオオオ!!」

「よそ見するな華琳!!」

 

司馬懿(ライネス)は曹操の手を引いて董承の突進を避ける。

 

「た、助かったわ司馬懿」

「あいつから警戒を解けとは言わないけど先にどうにかするのは董承だ」

「ええ」

 

敵は怪物になった董承であり、戦力は未知数だ。膂力は発達した筋肉と床を踏み抜いた威力を見れば一目瞭然。

他にどのような力を持っているか分からないがゆっくりと分析している暇はなかった。

怨嗟の声を出しながら董承が襲い掛かってくるからだ。

 

「どうにか戦いながら奴を分析していくしかないぞこれは」

「ガアアアアアアアアア!!」

 

四本の腕が床や壁を破壊しながら曹操と司馬懿(ライネス)を狙っていく。

 

「華琳さま!?」

 

荀彧が悲鳴を上げた。

 

「これは不味いわ」

 

陳珪も冷や汗が垂れる。

董承を始末したかと思えば原因不明で復活するとは誰も予想できるはずがない。

 

(なら!!)

 

陳珪はある一手を準備する。

 

「殺シテヤル!!」

「もうずっと殺す殺す、としか言ってないね」

 

トリムマウによる水銀の刃で応戦するが董承の4本の腕による攻撃は激しい。

 

「何ダコレハ邪魔ダ!!」

「トリムマウ貫け!!」

 

グニャンと溶けた次に水銀の棘が董承を貫く。

 

「コノ程度デ!!」

「司馬懿そのまま奴の動きを止めて!!」

「分かっている!!」

 

水銀の棘は董承の腕から脚まで貫き、動きを固定させる。その隙に曹操は絶を振るって首を狙う。

絶という鎌の切れ味は抜群だ。一太刀振るえば首の切断は間違いない。

 

「なっ!?」

 

首を切断出来るのが間違いないのは普通の人間での話だ。今の董承は普通の人間ではない。

絶は董承の首元で受け止められた。

 

「斬れない!?」

「ソンナ鈍デ斬レルモノカ!!」

 

董承は貫かれていても無理やり動こうとする。

 

「トリムマウ。華琳を回収するんだ!!」

 

トリムマウは急いで曹操を回収して董承から離れる。

「コノヨウナ傷ナゾ…」

 

風穴を開けた部分が再生していく。

 

「首を斬ればお終りかと思ったんだけどね。たぶん首だけが異様に硬いのかもしれないわ」

「なら攻略法は見えてきたな」

 

首以外はトリムマウの棘で貫けた。傷を負ったところで先ほど見たように再生できるからこそ重要部でないという事だ。

絶の一撃で切断できないほど硬く守っているからこそ重要部(弱点)と言っているようなものだ。

 

「グオオオオオオ!!」

 

脚の筋力が膨れ上がり、屈んだ。

 

「コレデ、ドウダ!!」

 

脚力をフル稼働させて飛跳ねた。

壁や天井、柱を足場にしながら様々な角度へと飛び跳ねていき、曹操たちを攪乱させていく。

 

「此方の狙いを定めさせないようにする為か!!」

 

2人の視線は飛跳ねる董承を追いかけてキョロキョロと動き回る。

 

「グラアアア!!」

「チッ」

 

跳んでくる董承をギリギリで避ける。

たった少しだけ掠っただけで服が千切れていた。まともに衝突したら身体が弾け飛ぶかもしれない。

 

「サッサト死ネ!!」

 

また部屋中を縦横無尽に飛跳ねて攪乱させていく。

 

「さっきより速いわよ!!」

「厄介だな」

 

目で追うのがだんだんと難しくなっていく。

 

「これは不味いっ、至上礼装・月霊髄液!!」

 

スキル『至上礼装・月霊髄液』。

伸縮自在、形状自在で無比の武器にもなれば、全身の能力を強化する堅固な鎧にも変化する。

トリムマウが瞬時に司馬懿(ライネス)と曹操を包み込む。

 

「死ネエエエエ!!」

 

董承がロケットのように突撃するとトリムマウに包まれた2人が吹き飛んだ。

 

「華琳さま!?」

 

トリムマウに包まれた2人は勢い落ちることなく壁に衝突した。

ズルリと壁から落ちて床にベチャっと着地。トリムマウが2人から離れていく。

 

「ぶ、無事か華琳?」

「なんとか…でも身体中が痛いわ」

「骨が折れていないんだから文句言わないでくれ」

 

董承の突進と壁に衝突した衝撃はトリムマウでも全て防ぎきれず、多少は肉体に響いてしまった。

 

(これはキツイな。早く奴の弱点を探さないといけない…いや首が弱点そうだけどさ。こっちが有利になるようにしないと)

 

戦闘特化ではない司馬懿(ライネス)では強力な攻撃は出来ない。しかし弱点を作り出す事ができる反則技があるのだ。

 

『弱点なら首以外にもあるぞ』

 

頭に声が響く。ライネスを依代とした司馬懿の声だ。

 

(司馬懿殿?)

『あいつは悪魔(妖魔)と一体になっている。それは分かってるな』

(ああ。アレが人間だとは思えないさ)

 

戦いながら解析した結果、董承は術式で召喚されそうになった悪魔(妖魔)と同じ反応をしている。

原因は不明であるが董承は悪魔(妖魔)と融合した事で怪物となったようである。

 

『理解しているなら簡単だ。宝具を発動できる条件は揃ってる』

(条件が揃ってるって……あ、そういう事か!!)

『いかなる時も冷静でいる事だ』

 

焦っている時こそ視野や思考が狭くなる。どのような時も冷静であれ、戦場で生き抜くためには必要である。

冷静でなければ勝てる戦も勝てない。焦っていたからこそ現に司馬懿(ライネス)には董承を倒す方法を持っていたのに気付かなかったのだ。

 

(その通りだ。焦り等の冷静を欠ける状態というのは怖いね)

 

深呼吸をする。

身体中に痛みが響いているが支障をきたすレベルではない。董承を倒す条件は揃っているが問題は宝具を発動する時間だ。

宝具を発動しようとしたら董承も異変に気付くはずだ。必ず先に殺すために襲いかかってくるのは間違いない。

 

(何がなんでも発動するしかないか)

「シブトイゾ曹操ォォォ!!」

 

4つの眼を充血させながら曹操を睨み付けている董承はズシズシと歩いてくる。

 

「斬リ殺シテヤル!!」

 

4本の手から鋭利な爪が伸びだす。爪というよりも刃に近い。

 

「や、止めなさい化け物!!」

「ナンダァ!!」

 

董承だけでなく曹操も声が聞こえた方を向く。そこには薄青色の袋を持った荀彧がいた。

 

 

677

 

 

怪物となった董承が異界より這い出てきた。

予想外の出来事に飛燕も驚いた。董承による暗殺計画が失敗したおかげで飛燕1人で曹操たち全員を始末するつもりであったが、その必要がなくなりそうである。

怪物となった董承が憎悪を力に変えて曹操を殺そうとしているのだから。

 

「ま、周り関係無く殺そうとしているようだがな。おっと」

 

董承は脚の筋肉をフル稼働させて会場内を飛び跳ねている。間違って当たりでもしたら轢き殺される程だ。

 

「こっちはこっちの戦いがあるってのに迷惑だよな」

 

如意棒を伸ばして哪吒を狙うが避けられる。

 

「無問題」

 

哪吒は董承の飛び跳ねる軌道を読みながら飛燕へと攻撃を仕掛ける。

 

「やるじゃねえか。こんな状況でも気にしねえのはなかなかの豪胆さだ!!」

 

哪吒と飛燕の打ち合いは続く。

 

「曹操も劣勢だな。そして陳留の方も劣勢だろう」

「何?」

「張白騎の奴が今頃陳留で大暴れしてるからさ。曹操の奴は残った戦力で大丈夫だと思っているが甘く考えすぎだ」

 

鬼の力。そして八傑衆が1人の張白騎の力。

どちらも常識を外れた力である。陳留に残った戦力だけで対応できるものではない。

 

「鬼の力は強大だ。兵の数があったとしても鬼1体倒すのにどれくらい必要だろうな。そして張白騎は死ぬことはない」

「死なない?」

「ああ、あいつは戦で死ぬことはない。戦ってのは人間を殺す。どうやって殺すかと聞かれれば剣や槍で殺すだろう?」

 

戦争では武器を使って戦うのは当然だ。如何に早く敵を殺すことが出来るかが重要である。

 

「張白騎は剣や槍といった得物では殺せないんだよ。きっと陳留で戦っている曹操の部下共はわけの分らないまま殺されるだろうな」

 

飛燕から魔力の上昇を感じた。

 

「どうやらあっちも佳境のようだしこっちもそろそろ決めるか!!」

 

 

678

 

 

曹仁と曹純の剣技が張白騎に繰り出された。

大将首さえ取れば戦争は終わりだ。2人は勝利を確信したかと思ったが予想外の事が起きたのである。

 

「え!?」

「何で!?」

 

2人の剣技が何故か張白騎から逸れた。

確実に剣は届いたはずなのにまるで勝手に動いて剣筋がズレたのである。

 

(一旦、距離を置かないといけないっす)

 

剣技を外した2人は隙だらけだ。落馬した張白騎は体勢を直し槍も持ち直していた。

すぐさま曹仁は曹純の手を引っ張って後退した。

 

「だいじょうぶっすか?」

「大丈夫。どこも斬られてないわ」

 

決着が着いたかと思われたが不可解な事が起きた。

剣が勝手に動いて外されたのだ。まさか自分自身が外すような事をするはずがない。

 

「何がなんだかっす。剣が勝手に逸れたっす」

「姉さんもなのね。私も。まるで剣があの方を斬りたくないように動いた感じがする」

 

不可解な事が起きて警戒を一層深める。

戦いでは不明な異変が理解できないままでは死に近づく。

 

「自慢の白馬をよくも斬ったな」

 

張白騎は倒れた白馬を摩る。

 

「これで俺の機動力を奪ったと思ったのだろうが意味は無いぞ。本当の力を見せてやる」

 

張白騎の下半身が白い馬の脚へと変形していき、その姿はまるでケンタウロス。

更に額から角が生えて鋭く伸びる。虎の牙と爪まで生えだした。

 

「なにあれ…」

「これが俺の本気だ。ここからが本番だぞ」

 

馬の脚で駆けて2人に迫る。

 

「死ねい!!」

 

槍を縦横無尽に振るわれる。

白馬に乗っていた時よりも機動力があり、速度も段違いであった。

 

「でええええい!!」

「うわわっ!?」

 

槍を剣で防ぐ。

 

「このぉ!!」

 

もう一度、剣を振るうがまた剣が逸れた。

 

「またっすか!?」

「姉さん!!」

 

逸れたという事は剣を握っていた曹仁の腕も釣られて引っ張られてしまう。

体勢が崩れて隙だらけとなった彼女は敵側からしてみれば良い的である。

 

「終わりだ!!」

「ダメ!!」

 

槍の一撃を今度は曹純が受け止めた。

 

「そんな細い身体で俺の槍を受け止められると思うなっ!!」

 

槍を横一閃に薙ぎ払う。

 

「うああ!?」

「きゃあ!?」

 

言われた通り受け止めきれず2人は薙ぎ払われた。

 

「曹純様、曹仁様!!」

 

近くで鬼と戦っていた兵士たちが2人に駆け寄る。

 

「御無事ですか!?」

「え、ええ。大丈夫よ」

「よくも曹純様と曹仁様を!!」

 

彼らはただの兵士ではない。曹純に心酔する親衛隊『虎豹騎』と言い、曹魏の中でも随一の武勇を誇る。

 

「弓構え…射てぇ!!」

「「「おう!!」」」

 

矢が野太い声と共に力強く放たれた。

 

「無意味だ」

 

また不可解な事が起きた。

多量に放たれた矢の全てが張白騎から逸れたのである。

 

「えっ」

 

まるで矢が張白騎に触れたくないから逸れたように見えたのだ。

 

「どういう事?」

「これが俺の力だ」

「覚悟!!」

 

背後から兵士たちが剣と槍で斬りかかろうとしたが同じように逸れた。

 

「私たちと同じように逸れた!?」

「無駄だと言っているんだがな」

 

剣、槍、矢が届かない。

 

「種明かしをしてやる。何も知らずに死ぬのは嫌だろうからな?」

 

ポンポンと馬になった下半身を叩く。

 

「これは駁(ばく)という妖馬だ。于吉殿が俺に与えてくれた力」

「駁?」

「この馬の力は面白いぞ。なんせ武器の類が届かなくなるという力なんだからな」

 

駁(ばく)。

形状は白い馬の体と黒尾。角が一本で虎の牙と爪を持つ。鳴き声は鼓を叩く音と似ているから駁と名付けられた。

駁(ばく)を飼うと兵器(武器)を避けることができると言われている。

 

「武器を避ける事が出来る?」

「そう言っている。俺に剣や槍は届かない…いや、武器全てが届かん。俺を殺せる武器は存在しないのだ!!」

 

言い終えたと同時に張白騎は動く。

 

「曹純様と曹仁様をお守りしろ!!」

「邪魔だ雑魚共!!」

 

虎豹騎を簡単に蹴散らしていく。

 

「な、なんだと!?」

 

曹純と曹仁を守るために虎豹騎たちは武器を振るうがやはり届かない。

武器を届かせる事が出来ない者はただの的である。張白騎は無傷で曹純と曹仁に突撃する。

 

「お逃げください曹純様、曹仁様!!」

「逃げられると思うな。いや、逃げられんだろう。ここで退けば陳留が攻め落とされるのだからな!!」

 

槍を旋回させながら蹴散らす。兵士が減れば減るほど魏の敗北が近づく。

 

「まずは貴様ら2人だ。ここで殺せば士気は下がる!!」

「うぐぅ!?」

 

薙ぎ払われる曹仁。

 

「姉さん!?」

「次は貴様だ!!」

「きゃあ!?」

 

曹純も薙ぎ払われる。

 

「受け止めたか。だが時間の問題だぞ!!」

 

武器が届かない。それは敵を倒せず、防戦一方になるという事だ。

現に曹仁と曹純は張白騎に応戦出来ず守るばかり。剣を振るおうとしても届かず、逸れてしまって逆に隙を作るだけだ。

2人はただ攻撃を受けとめる事しか出来ず、このままいずれ防御を崩されて切り殺される未来しかない。

 

「剣や槍が効かないなんて反則っすよー!?」

 

兵器が効かない敵は恐ろしい。どうやって倒せばいいか分からなくなり、焦りと恐怖が肉体を蝕む。

 

「そら、このまま防戦一方か。敵は俺だけではないぞ。周りの鬼どもも警戒せんとな?」

「「「グオオオオオ!!」」」

 

鬼たちも襲い掛かってくる。

気が付けば曹仁たちが率いる部隊が劣勢になりつつある。最初は押し留めていたが徐々に鬼たちに押し返されているのだ。

 

「鬼どもは腹を空かしているから貴様らを食い散らかしても足らんだろう。陳留という餌場を求めて止まらんぞ!!」

 

凶暴で凶悪な鬼の大群が陳留に雪崩れ込んだ事を想像してしまうとゾッとしてしまう。陳留は悲惨な光景へと変わる。

 

「そんなのさせないっす!!」

 

陳留は始まりの地であり、魏の中心であり、曹操が守ってきた領地である。

絶対に攻め落とされるわけにはいかないという意志は折れるわけにはいかない。しかし気合や強き意志があっても剣は届かない。

 

「見ろ。鬼たちが貴様らの陣形を崩し、出城に到達したぞ」

「そ、そんな!?」

 

鬼たちは出城の門を壊そうとしたり、壁を登ろうとしていた。

 

「隙を見せたな」

「しまっ…」

 

槍が曹純に向かって一直線に突かれようとしていた。

 

「る、柳ーー!?」

 

曹仁の悲鳴が響く前に2人の声が響いた。

 

「させるかなのおおおおおお!!」

「させるかああああああああ!!」

 

曹純を守るように双剣とドリルが張白騎の槍を阻む。

 

「間に合ったのー!!」

「今のは肝が冷えたで!?」

 

于禁と李典が間一髪の所で守ったのだ。曹仁は妹が無事である事に息を吐いた。

 

「2人とも…そっちは大丈夫なの!?」

「秦良玉はんと凪に何とか任せた。でも時間の問題や」

 

陣形は崩れて劣勢になっており、兵士たちも鬼たちに食われていく。このままでは全員食い殺される。

一旦出城まで撤退し、体勢を立て直す事が先決である。

 

「まずは出城を襲っている鬼を倒すべきや」

「そんな事をさせると思ってるのか?」

 

撤退を簡単に許すわけがない。

 

「ウチと沙和がこいつを突き飛ばすからその隙に撤退するで!!」

「あ、待って!?」

 

曹純が敵の能力を言う前に2人は動く。

 

「とっておき行くで!!」

「決めるの!!」

 

李典と于禁は左右から張白騎を攻める。

于禁の双剣の名は『二天』。李典の槍は『螺旋槍』。2つの業物が振るわれる。

 

「二天堕爪!!」

 

二天を頭上に投げて空中で掴み取り、急降下して串刺しからの斬り払い。

 

「螺旋天衝!!」

 

紫電が螺旋槍から迸り、螺旋が赤く熱を持つ。そのまま勢いと共に突貫。

 

「芸達者な奴らだ。しかし俺には届かんぞ?」

「あれ!?」

「なんやてっ!?」

 

2人の大技は張白騎には届かない。

何故届かないか、逸れたのか理解出来ずに混乱してしまう。

 

「そいつの変な力みたいっす。剣や槍が逸れちゃんすよー!!」

「なにそれー!?」

「もっと早く言ってほしかったわ!!」

 

武器等の類が届かない敵をどうやって倒せばいいのかと叫びたくなる。

実際に于禁は叫んだ。

 

「くうう…撤退するで!!」

「だから逃げられると思ってるのか?」

 

鬼たちに指示を出すと曹純たちを囲うように動き出す。

 

「こいつら指示を聞く程度には知恵はあるんか!?」

 

鬼たちは本能のままに暴れる獣だと思っていた。しかし張白騎が指示を出すと訓練された兵士のように動いたのだ。

 

「下級の鬼たちだが指示を聞くくらいは出来るさ」

(下級の鬼?)

 

現段階で聞きたくない単語が聞こえてきた。彼は「下級の鬼」と言ったのである。

「下級の鬼」がいるならば「上級の鬼」がいるということだ。下級の鬼だけで恐ろしい強さだというのに上級となれば一体どれだけの強さなのか考えたくない。

 

「もう終わりだな。せっかく助けにきた連中も無駄な働きだった」

 

鬼に囲まれ、逃げ場はなく撤退も出来ない。助けようと虎豹騎たちは動くが鬼たちの壁を突破出来ずにいる。

 

「戦場は完全に崩れたな。出城の方も……まだ無駄なあがきをしてるが時間の問題だ」

 

出城の方では城壁から鬼たちを押し返そうと応戦しているが状況は芳しくない。

 

(む、飛燕と同じような棒を持った女が戦っているような…)

 

気になったものが見えたがもうすぐ鬼たちに食い散らかされる未来だと思ったため視線を曹純たちに戻す。

 

「素直に首を差し出せば苦しまずに済む。足掻くなら絶望しながら鬼に食われて死ぬだけだ」

 

周囲にいる鬼たちは口を大きく開いて涎を垂らす。その光景が一層、恐怖を増長させる。

 

「今頃、曹操も死んでいる。貴様たちも後を追え」

「華琳様が死んでる?」

「ああ、最初からそういう計画だったのだ。洛陽に誘き出された曹操はもう死んでるさ」

 

今の魏は戦力が拡散している。

曹操は洛陽に誘き出し、暗殺。手薄な魏の中心である陳留は鬼たちに食い散らかされる。

董承の、八傑衆の計画は完遂しようとしている。

 

「そんな事はないっす。華琳姉が死ぬはずがないっす!!」

「言うだけ言え。もう終わりだ。そう…魏の終わりだ!!」

 

 

679

 

 

起動。

 

演算開始。

演算終了。現状況の予測を完了。

 

敵性反応の方角を感知。現場到達までの距離を計算。計算完了。現場到達に問題なし。

 

敵性生物の勢力、数を予測。脅威度の確認。脅威度問題なし。

 

「出陣する」

 

巨大な体躯が全速力で駆けだした。




読んでくださってありがとうございます。
次回の更新は1週間~2週間後予定。



675~676
今更ながら…というかここでやっと2章で登場していた謎のエネミーの答え合わせ。
得体の知れないモノの正体は「名も無き悪魔」です。定番の願いを叶える代わりに魂等を要求する悪魔ってやつです。

召喚方法もそれぞれありますがやる事はほぼ同じ。この物語では太平妖術の書を用いて召喚したり、董承は陳珪と2人係で召喚しようとしました。
創作物では本当に定番ですよね。

もしも色々と正体について考えていた読者様がいたらこんな答え合わせですいません。2章の頃から考えていた設定でした。


董承と名も無き悪魔が合体して曹操絶対殺すーマンの登場です。(悪魔合体?)
読んでて字面がうるさいと思ったかもしれません。

何で合体出来たかと言えば…人間の底知れぬ憎悪を執念という負のエネルギーという設定にしました。
昔から人間の恨みつらみというのは謎の力を起こしますから。
昔の日本ではまさにそうだと思います。

悪魔董承は意外にも強いです。
ですが司馬懿(ライネス)は逆転の一手を閃きました。(恐らく分かっちゃうかな)
陳珪もまた手を打ちます。


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飛燕もまた董承の悪魔合体については予想外。


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曹仁と曹純の攻撃は外れました。
前回あれだけ決めて書いたのになぁ。(作者が言うのもなんですが)

于禁の『二天堕爪』と李典の『螺旋天衝』
これらも天下統一伝の彼女たちの必殺技です。不発に終わってしまいましたが。

張白騎の力について。
本編にも書きましたが『駁(ばく)』。
何かネタになる資料がないかと探している時に見つけた物です。
なんでも武器(兵器)を避ける力があるそうです。
なので剣や槍といった武器が届かない、逸れるという風にして書きました。


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おそらく誰なのか読者様たちは分かってしまうかもしれません。
彼が動くだけでもう色々と終息する気がします。
曹操暗殺計画編も終盤に入っております。


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