Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
前話で次の投稿は来週かもって書きましたが今日投稿です。
勢いで書きました。おそらく今までの話の中でこの話が一番文字数が多いですね。

いっきに本編が進みました。この章での終盤にあたります。


力の渇望-悪龍-

85

 

 

賈駆たちは誰にも聞き耳を立てられない場所で密談を交わしていた。

 

「そっか、やるねんな」

「うん。趙忠殿は何進様を暗殺するために宴を開く手配をした。何太后様もすでに抱き込んでいる。呂布と陳宮は最初から賛同してるし、盧植将軍も昨晩、月が説得したよ」

 

その密談は物騒なものだ。大将軍を暗殺やらなんやらと物騒極まりない。

 

「ほな、いよいよやな」

「華雄将軍には話した?」

「いや、言うてへん。華雄は一本気なヤツやからな…全部、済んだ後で話すわ。その方が、アイツも気が楽やろ」

「わかった」

 

華雄には話していない。彼女には話さないのは張遼が言うようにこういうのは合わないからだ。

華雄本人からしてみれば、後から説明されたら説明されたらで何故関わらせなかったと怒るかもしれないだろう。

 

「月の腹はもう決まってるんやな?」

「もちろんだよ。これはもともと、月がやるって決めたことなんだしね」

「ウチは気が重いわ。しゃーないのは分かってるんやけど皇甫嵩将軍の留守にやるっちゅーのもなぁ」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ。確かに皇甫嵩将軍には悪いと思ってる…でも、今が絶好の機会なんだ」

「分かってる。よし、やるっきゃないか。これもお国のためやな」

「うん、ボクたちでこの国を救うんだよ」

 

これは国が変わる革命だ。国を救うために人の命を奪う。

これはどの時代にも起こりえる大事件。

西園軍の任命式や卑弥呼が帰還してから時が経ち、朝廷の宮中で大きな事件が起きる。

これは朝廷内の問題だ。

今まで牙を隠していたにせよ、磨いていたにせよ、これから董卓の猛攻が始まる。

これは朝廷の大粛清の第一歩だ。もうこの国は汚れすぎている。ならば一度解体して立て直さねばならない。

そのためには今いる魑魅魍魎たちが邪魔なのだ。そうしなければ天子様に国を返上できない。

董卓は自分の手が血で汚れる覚悟はもうできている。

彼女は優しい。そして非情になる覚悟も持っている。全ては天子様のために動く。

 

「月」

「詠ちゃん」

「準備が出来たわよ」

「分かった。恋さん、霞さん」

「…ん」

「いるで」

 

董卓を慕う将たちや護衛たちも万全。

覚悟はもう出来ている。

 

「みんな、行きましょう」

 

これから朝廷に最も深くに根付いている魑魅魍魎を炙り出す。

 

 

86

 

 

董卓たちが魑魅魍魎たちを捕縛しに行こうとしていた時、藤丸立香たちは于吉に関して対策会議をしていた。

今のところ、于吉は妖馬兵を出陣させて洛陽を堕とす気配は無い。燕青や荊軻が洛陽の周囲を警戒していて探索に出ても何も発見されなかったのだ。

 

「ふむ、于吉め…嘘をついたか?」

「いや、そんなことは無いと思うけどねん…」

 

于吉が諦めるとは思えない。

 

「太平要術は何も妖馬兵を操るだけが力ではない。他にも様々な力があると聞く」

 

この会議には華佗も参加している。彼は医者であるが、実はもう一つの顔が存在する。

それは道教の教団『五斗米道』に属する顔だ。彼は何でも世に災いをもたらす『太平要術の書』を封印する、もしくは処理する命を受けて元々大陸を旅をしていたのだ。

そんな彼に出会えたのも何かの縁だろう。

 

「それが于吉という道士の手に渡ったと言うのなら危険だ。貂蝉の話だと于吉は凄腕の道士なのだろう?」

「ええ、于吉ちゃんはあれでも凄腕。それに太平要術の書の力が合わされば…ううん、もう」

「封印するか燃やすかできれば良いのだが…」

「封印する役目は華佗に任せる」

「任せてくれ!!」

 

着実に于吉と太平要術の書対策が固まっていく。だが相手は神出鬼没の道士であり、貂蝉と同じく別次元の存在。

どんな時にでも攻め込んでくる。

 

例えば今だったり。

 

「いやあ、私対策の会議だなんて…私ったら人気者ですね」

 

パチンっと諸葛孔明は指を鳴らすと于吉の立っている床が爆発する。

 

「ふん、前のようにいきなり出現する対策はできている。よく私の陣の中に不用意に入ったものだな」

「……ケホケホ。罠に掛かる覚悟はありましたけど、足が吹き飛ぶ所だったじゃないですか」

 

服が焦げ、火傷もちらほら出来ているが澄ました顔だ。

 

「まったく容赦の無い…こちらの孔明の方が面倒ですね」

「于吉!!」

 

すぐさま卑弥呼が拳を握り突撃。貂蝉も先回りして挟み撃ち。

 

「合わせろ貂蝉!!」

「分かってるわよん!!」

 

同時に拳を突き出すが、彼らの前に屈強な土人形が召喚された。

 

「あれは妖馬兵だ!!」

 

華佗が叫ぶのと同時に卑弥呼たちの拳が妖馬兵を粉砕する。だが粉砕されても残った腕で卑弥呼と貂蝉に殴りかかる。

 

「この土くれがあ!!」

「こんなのでアタシの愛を止められると思わないでよ!!」

 

2発目の拳で今度こそ妖馬兵を破壊する。

 

「やはり妖馬兵を使ってきたか。ならばお前の持つ太平要術の書を封印する!!」

「五斗米道の華佗ですか…貴方も毎回面倒ですね」

「毎回だと。何を言っている?」

「こちらの話ですよ」

 

華佗も突撃して攻撃に加わる。意外にも彼は戦える。

今まで太平要術の書を封印するために1人で大陸を旅していたのだから戦うことは当たり前にできるのだ。それに体の治し方が分かるのならば人体の壊し方。

どう戦えばいいかすらも分かっている。

 

「意外に戦える…!?」

 

于吉も少し驚いていた。直接戦うのは今回が初めてである。

 

「悪いがここで捕まえさせてもらうぜぇ」

「悪人 捕縛」

 

燕青と哪吒も加わるが、それは于吉としても勘弁してもらいたい。だからまた妖馬兵を召喚した。

しかも大量に。

室内が妖馬兵によって埋め尽くされる。これではギュウギュウに押しつぶされてしまう。

 

「さあ、孔明。このまま押し潰されたくなければ陣を解きなさい」

「チッ…」

 

どんどん召喚されていく妖馬兵。今ここで暴れられてもマスターに被害が及ぶ。

仕方ないとはいえ、陣を一端開放する。

 

「こちらですよ」

 

そのまま于吉は全員を誘うようにふわりと浮きながら離れていく。

 

「逃がすか!!」

「待て華佗、罠かもしれんぞ!!」

「構うものか。虎穴にいらずんば虎児を得ずだ!!」

「あらやだ、漢らしい…」

 

確かに罠かもしれないがここで見逃すわけにはいかない。華佗の言う通り追いかけるしかないだろう。

于吉を追いかけた先に何の策があろうとも打ち破って見せる。

 

「俺らも追いかけよう!!」

 

 

87

 

 

何進は妹の何太后に連れられて十常侍の催す黄巾討伐の祝宴に参加していた。

 

「何進殿。ようこそお越しくださいました。どうぞ上座へ」

 

趙忠に促され、上座に不満を隠さずに座る。その時に一番の敵である張譲と目が合うがすぐに逸らす。

今まで対立してきた敵である十常侍の催す宴なんて面白くもなんともない。そもそもこの宴に来た事自体が何進自身からしてみればあり得ない。

どう見ても敵の胃袋の中に入り込んでいるようなものなのだから。

 

「ふん」

「何太后様もどうぞお席へ」

「ええ」

 

並ぶは豪勢な料理たち。この宮廷だからこそ用意できる高級の料理だ。

こんな高級な料理はまず下々の者には口にはできない。

 

「ふふっ。まあまあ、なんと美味しそうなご馳走なのでしょう。珍しい食材がたくさんですわね姉様?」

「あ、ああ」

 

十常侍の1人が何進の盃に酒を注ごうと近づいてくる。そして美味しそうな酒を注ぐ。

だが、何進の目には美味しそうな酒には見えない。

 

「趙忠。これはどういう風の吹き回しだ?」

「何進殿。近頃、我らの間には行き違いもございました。ですが、この盃をもって、かつてのように昵懇な間柄に戻りましょう。漢の国を導き、主上様をお守りするのには大将軍何進殿と我ら十常侍が力をひとつにしなくてはならないのです」

 

笑顔で趙忠は何進に一緒に酒を飲むように促す。それが目的なのだから。

 

「……妹よ」

「はい、姉様」

「毒見役を呼べ」

「まあ!?」

 

この言葉に他の十常侍は驚きと、不満を口にする。

 

「何進殿!!」

「それはあまりにも無礼というものですぞ!?」

 

十常侍は口々に失礼だと言ってくる。だが何進の反応は張譲も当然だと思っている。

 

(ふん。何進の反応は当たり前だよね…だがここまで来たら無理矢理でもーー)

「ほお、ならばこの酒、貴様が飲んでみろ?」

 

今の言葉で他の十常侍たちは黙り込んでしまう。

 

「趙忠、貴様はどうだ。張譲もな?」

 

趙忠はチラリと何太后を見る。こういう時のために彼女は何太后を引き込んだのだ。

 

「…何太后様」

「ええ。姉様、礼を逸するにも程があります。姉様も武人の端くれでしょう。如何に政敵でも……毒で殺めようだなんて褒められたものではありませんわ」

「…!!」

 

この言葉に趙忠や他の十常侍たちの顔が歪む。より歪んだのは趙忠である。

これは「裏切られた」という言葉が頭に響く。

何太后は趙忠に引き込まれていない。逆に利用させられたのだ。

 

(っ…趙忠め話が違うではないか。何太后は此方に取り込んだのではないのか!?)

 

趙忠のミスに張譲も顔が一瞬歪む。

 

「クククッ…ハッハッハッハ!!」

 

何進は今まで怯えていた顔から変わり破顔をする。

 

「貴様らの猿芝居など、最初から見抜いておったわ。たわけが、十常侍全員が呑気に余の前に雁首をそろえおって!!」

 

実は最近の何進が怯えているという宮中でいつの間にか広まった噂は全て演技である。

自分自身が十常侍に恐怖している状態になって油断させたのだ。

 

「うふふふふふっ」

「出あえーーーーいっ!!」

 

董卓たちや兵士たちが宴の席に乱暴に入ってくる。

十常侍たちは全員が苦々しい顔。圧倒的な有利かと思えば形勢が逆転させられる。

 

「動くんやない!!」

「もう、あきらめてください」

「宴の間は完全に、兵が包囲しているよ」

 

もう十常侍に逃げ場はない。

 

「何太后様、貴女は初めから私を謀っていたのですか?」

「ふふ、ごめんなさい。でも、貴女って意外に馬鹿だったわね。私が本気で姉様を裏切るとでも思ったの?」

 

趙忠は完全に引き込めていたかと思っていたが甘く見ていた。

彼女は何太后だ。何も裏が無く、乗ってくるとは思えないはずだったのだ。だがもうそんな考えは遅い。

 

「我ら姉妹の絆を侮ったな?」

「ええ。どんなに馬鹿でお調子者でも、姉様は私の姉様ですものね」

「い、妹よ…」

 

今の言葉は流石に無いだろうと心の中で妹にツッコミを入れる。

 

「……やれ!!」

 

号令と共に張遼たち兵士が動く。

 

「潔う往生せい。アンタらがのさばったせいで漢の国がここまでダメになってもうたんやっ!!」

「や、やめ…待てーーー!?」

 

張遼の偃月刀が煌めくと同時に血が飛び散った。

兵士たちも他の十常侍に剣を振るう。もはやここは阿鼻叫喚の地獄。人が人を殺す場。

 

「皆殺しにいたせ!!」

「ふん…斬ってもウチの刀が汚れるだけのようなヤツらやけどな」

 

十常侍たちは怨嗟の言葉を残しながら死んでいく。

 

「クックック…ハーッハッハッハ!!」

「あー…いやだわ。姉様、私、気分が悪くなてきちゃった。もう部屋に戻ってもいい?」

「まあ待たんか」

「…なぜ、殺さないのですか?」

 

今のところ生き残ったのは趙忠と張譲の2人。

 

「貴様は霊帝のお気に入りだからな。だが、あれは無能にも程があるのでな。そろそろ妹の劉協に皇帝の座を譲っていただく」

「私はあまり気乗りしないんだけどねー」

「それゆえ、貴様だけは生かしてやろう。隠居された霊帝が大人しくされているように貴様が相手を務めるのだ」

 

霊帝を大人しくさせる鎖が必要だ。その役目が趙忠というだけのこと。

彼女に選択肢なんてない。ここで断れば命がないのだから。

 

「…そうですか。ならば、私にも異存はございませんね」

「ああ?」

「私の願いはあくまで、主上様の安らかなお暮しです。俗世から解き放たれ、主上様と平穏無事に過ごせるなら、それは私にとって何より喜ぶべきことです。承知しました。言われたとおりにいたしましょう」

 

その命は趙忠にとって願っても無いこと。死なずに霊帝と過ごせるなら構わない。

 

「ふん、つまらん負け惜しみを」

「ほんと、変わった娘ねー」

 

何進は今度は張譲に家畜を見るような視線を向ける。

 

「張譲よ。今までよくもやってくれたな。」

「…まさかボクも助けてくれるのかい?」

「そんなわけ無かろう。貴様は余みずから首を斬ってくれよう…だが余も寛大だ。貴様は最後に殺してやる」

 

何進は次の命令を口にする。

 

「張遼、董卓よ宮殿に散り、十常侍の息がかかった宦官どもを一人残らず捕えよ!!」

「……はー。傾、悪いけど」

「なっ…!?」

「姉様…!!」

「ちょ、張遼。貴様…気でも違ったか!?」

 

張遼は偃月刀を何進に向けた。

 

「どうかしてるんがアンタの方や」

「おい董卓、何をしている。このたわけを斬れ!!」

「それは…出来ません」

 

今度は兵士たち全員が今度は何進達に剣を向ける。

 

「か、賈駆っ。これは一体どういう事だ!!」

「何進、お前のおかげで十常侍をまとめて葬ることができたよ。お前の役目はこれで終わりだ」

「賈駆、貴様っ!!」

「何進様、覚悟をお決めください」

「き、貴様ら…さんざん目をかけてやった恩を忘れおって…誰か、この痴れ者どもを斬れーー!!」

 

だが誰も何進の命令に従う者はいない。もう何進に従う兵士はここにはいないのだ。

それは今まで彼女がやってきた自業自得の結果である。

 

「お、おのれ!!」

「はぁ…結局、私たちも騙されていたってことなのね」

「そういうことか。妙に協力的だと思えば、すべては貴様自身が実権握るためだったということか」

 

今回の大事件の裏で糸を引いていたのは何進でも十常侍でもない。全て董卓たちによる策略だ。

この計画を立案したのは董卓自身。策を考えて、実行への準備の根回しをしたのは賈駆。

もうこの漢は魑魅魍魎たちによって腐りに腐っている。ならばこの国の癌を全て除去しないとどうにもならない。

賈駆は何進にも十常侍の趙忠にも接触し、秘密裏に潰し合うように根回しをしたのだ。

何進にも趙忠にも今回の宴を催す場で暗殺する策を授けたのである。まずは趙忠に何進の暗殺の策を授けた。次に何進と何太后には趙忠たちが暗殺計画の情報を流して行動させた。

趙忠と何太后を接触させるようにも裏で手を引いていた。何進に演技するようにも仕向けた。何もかも裏で秘密裏に準備してきたのである。

何進にも趙忠にもバレないように行動したのは流石に骨が折れたものだ。

だがその結果、何進も趙忠も疑いもせずに乗ってくれたからこそ上手くいったのである。

 

「…何進殿たちを連れて行ってください」

 

兵士たちが何進達を剣を向けながら囲む。

 

「霞…」

 

何進は張遼の真名で呼ぶ。

 

「ウチかて悩んだんやで…でももうアカン。アンタみたいなやつに、劉協様を傀儡に好き勝手されたら十常侍の専横となんも変わらん。この叛乱もただの混乱を呼んだだけになる」

「この腐った朝廷を改革するには演出は過剰なくらいの方がいい。それに民から見ればお前も十常侍も大差ないんだ。恨むのなら自分の俗物振りを恨むんだね」

 

何進はもう何も対策を練れない。

 

「ああぁ…」

「姉様、あきらめましょう」

「す、すまぬ妹よ」

 

何進と何太后は兵士たちに連行されていった。そして今度は趙忠に目を向ける。

 

「…私はどうなるのですか?」

「何進じゃないけれど、陛下には劉協様に帝位を譲っていただく。今の漢を背負うには陛下では荷が重過ぎる」

「…結局、貴女方も劉協様を傀儡にして、漢を乗っ取る算段ですか。あの何進といったい何が違うのです?」

「くっ…月をそんな風に言わないでよ!!」

 

何進と一緒にさせるのが気に食わない賈駆。彼女は怒りの目を趙忠に向けるが董卓によって遮られた。

 

「…そう思われても仕方ありませんね」

 

董卓は何進とは違う。

 

「私も全ては天子様のためです。この国は…もう駄目です。元に戻すには、より良くするには誰かが今の漢を壊さねばなりません」

 

今まさに董卓達は漢を壊した。漢の上層部に巣食い、国を好き勝手政をしていた魑魅魍魎たちを処理したのである。

 

「壊す役割をするその誰かが私だったということに過ぎません」

「っ!?」

 

董卓の目の奥は覚悟を持った光が存在する。

その目の奥にある光は綺麗なものではない。こんな儚げで優しい人には似合わない鈍く暗い光。

未来のために全ての汚れを背負う董卓。そのために彼女は非情になってみせる。その彼女の覚悟は目的のためなら強引ながらも実行させる厭わない程の強い意思だ。

『強引』という言葉の中には今のような虐殺さえ含まれているのだ。

その意思を感じ取った趙忠は董卓に恐怖してしまった。

 

(…これがあの董卓さん?)

「ふん、お前や何太后が陛下を骨抜きにしたせいだよ!!」

 

趙忠もまた兵士に引きつられて連行されていった。

そして最後に董卓たちは張譲に目を向ける。

 

「張譲殿」

「…まさか君なんかがここまでやってくれるとはね。はっきり言って予想外だったよ」

 

張譲の顔は涼しい。軽口を叩けるほどなのだから。

 

「まずあんたに聞きたいことがあるわ」

「なんだい賈駆?」

「あんた、道士と繋がりあるみたいね?」

「それをどこで…」

 

この言葉にピクリと反応する。秘密裏にしていたがバレていた。

どこで情報が漏洩していたか分からない。だがここは魑魅魍魎が跋扈していた場所だ。納得はしたくはないが不思議ではない。

 

「アンタ以外の十常侍や何進たちも厄介だったけど…アンタが一番厄介よ。道士なんて胡散臭くても怪しすぎる。何を考えてるのよ」

「…………く」

 

実は張譲の精神上だと完全に追い込まれていた。涼しい顔は嘘である。

何進を暗殺しようと思えば、返り討ちにあって十常侍は壊滅。そしたら今度は董卓が裏切り、何進さえも追いやった。

このままだと処刑は免れない。何進が消えたと思ったら次はまさか自分の番になるなんて笑えない。こんな事なら趙忠の策略なんかに乗るべきではなかった。

 

(おのれ…!!)

 

怒りと焦りが張譲を悩ませる。

 

(ここまで地位を上り詰めたのだ。こんな所で終わるわけにはいかないだろう!!)

 

まずは逃げなければならない。生き延びて再起を果たす。

 

「董卓め…」

「逃がすと思ってんの?」

 

賈駆が護衛を引き連れて張譲の前に出る。更には呂布たちも出てくる。

 

「張譲殿。諦めてください」

「董卓…!!」

 

賈駆の後ろから董卓が現れる。これで完全に張譲は包囲された。

 

「大人しく捕まってください」

「は、大人しくだと。捕まった所で殺さるだけではないか!!」

「当たり前でしょうが…アンタの罪はそれほど重いわ」

「たかだが西涼の出めが…!!」

 

張譲は拳を強く握りしめる。

 

「もうアンタの終わりよ」

 

呂布と張遼が武器を持って前に出る。だがまだ張譲の終わりではない。

 

「追い込まれてますね張譲」

「う、于吉か!?」

 

壁から幽霊のように于吉が出てくる。

 

「な、だ、誰ですか!?」

「壁から出てくるなんて!?」

「おや、董卓たちもお揃いですね。あ、張譲。この壁から離れていてください。壊されるので」

「何を言って…!?」

 

いきなり于吉がすり抜けてきた壁が大破した。

 

「ふんはあああああああ!!」

「うっふううううううううん!!」

 

壁から出てきたのは圧倒的な筋肉を持つ貂蝉と卑弥呼であった。

 

「何だこの化け物たちは!?」

「どこから出て来てんのよあんたらは!?」

 

流石の張譲も驚き、賈駆は壁を粉砕してきて出てきた貂蝉と卑弥呼にツッコミを入れる。

 

「あら、賈駆ちゃんに董卓ちゃんに…あらあら全員集合ねえ」

「董卓さんに賈駆さん!!」

「立香さんたちまで!!」

 

まさかのまさかで全員が集合した。だがこれこそが于吉が用意していた策の場所である。

今から彼は策を実行する。

 

「太平要術の書にはこんな使い方もあるのですよ」

 

太平要術の書を開いて、何か呪文のような言葉を紡いでいる。

 

「おい于吉何をやっているんだ。妖馬兵はどうした。こんなときにブツブツと言っている場合じゃないんだぞ!!」

 

「張譲。アナタは力を欲していましたね?」

「そんなこと当たり前だ。力があるならこんな状況ならずにすんだものの…」

「なら力を与えましょう。太平要術にはこういう使い方もありますので」

 

于吉が呪文を唱え終わった瞬間に太平要術の書から不気味な光が飛び出して張譲に取り込まれて行った。

 

「な、于吉何を!?」

「だから力を与えました。これでアナタは無敵ですよ」

「うあああああああああ!?」

 

不気味な光が張譲を包む。

 

「な、何が起こるんや!?」

「あれは…危険」

「ぬう、于吉め。無茶なことを!!」

「何をしたの?」

「奴は大陸全土から集めた負のエネルギーを張譲めに取り込ませたのだ。あんなことをしてどうなるか分かったものじゃないぞ」

言っていることは理解できた。しかし実際のところやられた張譲はたまったものではないだろう。

 

「張譲は力を貪欲に欲していた。ならば耐えれるでしょう」

 

「耐えれるとは簡単に言うな。アレは一般人に無理矢理に魔術回路を埋め込んでいるものだぞ」

 

「これはこれは諸葛孔明殿。こちらの諸葛孔明には会われたかな?」

「……まだだ」

「フフ、あんな幼女ですが確かに諸葛孔明ですよ」

 

不気味な光が徐々に収縮していく。その中心には張譲が不気味に笑っていた。

 

「はは、ははははは。なんだ、力が溢れてくるぞ」

 

魔力が、妖力が溢れている。この溢れてくる力が何でも出来ると思わせてくれる。すぐにでも早くこの力を試したい。

 

「丁度良いところに目の前に賊がいるな」

 

ギロリとその眼光は藤丸立香たちを見る、董卓たちを見る。

 

「董卓。このボクを追い詰めたつもりだろうが天はボクを選んだようだ」

 

肉体から妖力を滲み出させて手に集中させる。あれは魔力弾だ。

 

「死ね董卓!!」

「月!?」

「危ない!!」

 

魔力弾が董卓に接触する前に藤丸立香は走る。そのまま飛び込むように董卓を押し倒して避けるがその前に燕青が魔力弾を蹴り飛ばしていた。

 

「大丈夫か董卓さん!?」

「は、はい。ありがとうございます」

「全く、無茶しないでくれ主」

 

お互いに無傷。間一髪と言うところだろう。

 

「月になんてことすんのよ!!」

「なんてこともなにも。ただボクは自分の敵を倒すだけだよ。今まで同じようにね」

 

ニヤリと歪んだ顔。

その歪んだ顔が戦いの始まりだ。

 

「よくも月を…屠る」

 

呂布が勢いよく飛び込んで武器を力の限り振るうが張譲が片手を掲げて結界を展開。あと一歩のところで防いでみせた。

 

「ははははは。どうだ、あの呂布の一撃を防いだぞ!!」

 

張譲にとって呂布の力は恐ろしかった。だがそれはもう過去形だ。自分自身で呂布の攻撃を防げるようになればどうとにでもなるのだから。

 

「呂布。どうだこのボクに付かないか?」

「戯れ事!!」

「そうか残念だ」

 

もう片手で大きな魔力弾を形成。その魔力弾が呂布に接触する前に藤丸立香が動く。

 

「哪吒、燕青、呂布奉先お願い!!」

 

号令と共に3騎が動く。

哪吒が大きな魔力弾を破裂させ、呂布奉先が結界を張っている張譲に連撃。燕青がそのうちに呂布を回収した。

 

「ええい、うっとおしい!!」

 

呂布奉先の連撃に圧されたのが焦ったのか、魔力弾を散弾のように放つ。

 

「三蔵ちゃんスキル『妖惹の紅顔』を。孔明先生はスキル『軍師の忠言』を!!」

「まっかせて!!」

「了解した」

 

魔力弾の散弾が全て玄奘三蔵に引き寄せられる。その全てを受けて耐えてみせる。

 

「三蔵ちゃん!!」

「大丈夫よマスター。これも御仏の加護よ!!」

自分は全く平気だと態度をみせる。そのまま張譲に攻撃へと転じる。

 

「御仏的に貴方は許せないわ!!」

「許せないのはこっちだ。ボクの邪魔をするな!!」

「みんな、そのまま攻撃を休まずに!!」

 

張譲は結界を張るが哪吒たちの猛攻は止まらない。力を得て、こんな有象無象など簡単に倒せると思っていた。あの呂布さえも超える力を得て手に入れたのだから数の差など意味はないと思っていた。しかし、目の前にいる敵は強かった。それが張譲を苛つかせる。

 

「おのれ…だが、ボクの力は最強だ。この結界が破られるはずはない!!」

「李書文!!」

「応さ!!」

 

今まで潜んでいた李書文が蹴速と共に速さを乗せた拳で打ち抜く。

張譲の術はまだ慣れていないのか完全無敵な結界ではない。複数の英霊たちの攻撃で結界が破壊された。

 

「今だ!!」

「うぐああああああ!?」

 

李書文の槍が張譲を貫く。

 

「急所は外した。もう降参しろ」

 

戦いは瞬時に決着がついた。いくら巨大な力を得ても、使い方が分からなければ意味はない。実際に張譲は得た力を使いこなせていないのだ。いきなり拳銃を素人が使っているようなものである。

そんな相手に百戦錬磨の英霊が遅れをとるはずもない。

 

「す、すごい…」

 

この戦いを見た賈駆はポツリと呟いた。もちろん、李書文たちの強さを再確認しただけではない。寧ろ、今回の称賛は藤丸立香にもある。今まで彼は呆れるほどお人好しで、皆が認める善人くらいだと思っていた。実際に彼は心を許しそうになるくらい善人だ。そんな彼が今の戦いで見せた采配は目を疑った。

的確で冷静な指示により敵を打ち破ったのだ。采配には李書文たちは迷いなく従った。それほどまでに藤丸立香の指示を信じているということ。

賈駆は藤丸立香の強さの1つを見た瞬間であった。

 

 

88

 

 

「おやおや、流石は英霊ですね。そして英霊を指示するマスターである彼も見事です」

 

英霊も驚異だがマスターである彼も驚異である。あれだけ我の強い英雄や偉人をまとめあげるのはそうはいない。

于吉にとって藤丸立香という人間は油断できない。天の御使いである北郷一刀を油断できないように。

 

「ここまでねん于吉ちゃん」

「観念しろ于吉!!」

「于吉よその太平要術の書。俺が五斗米道の力で封印してやるぜ!!」

「こっちはこっちで人外ですね」

 

于吉に暑苦しい気で圧倒する貂蝉と卑弥呼。それに加わるは華佗の熱血な闘気。並みの者なら彼らの気当りで気を失うだろう。恐らくこの世界の並みの武将たちなら気絶する。

 

「こんなことをして何が目的だ。やはり外史の消滅を企んでいるのではなかろうな?」

「そうなると左慈ちゃんもいるはずよね?」

 

于吉には明確な前科がある。いくつもあるが、明確なものは2回だ。1回目はある外史にて左慈とともに外史の消滅と天の御使いの殺害を計った。2回目は別の外史で暗躍し、最強の軍隊を手に入れて都を墜とそうとした。

 

「これで3回目かしら。懲りないわねえ」

「今回は前のようにはいきませんよ。今回は本気ですので」

「ほお、だが今回はワシもおる。前より上手くいかんぞ」

「卑弥呼。アナタがいるから何だと言うのですか。先程も言いましたが今回は本気ですので」

 

張譲の方からいきなり禍々しい気が放たれた。

 

「なんだ!?」

「今回は本気です。私は左慈のために外史を破壊する」

 

パチンと指を鳴らすと多くの妖馬兵を召喚する。これは張譲への置き土産。

 

「待て于吉!?」

「またお会いしましょう。私にはやることがありますので。もし次があるなら…ーーーで」

「何だと、それはどういう!?」

 

于吉は靄のように消えた。

 

 

89

 

 

張譲は虫の息だったはずだ。だが、体から禍々しい気が滲み出ている。よく見ると槍で貫かれた傷が徐々に塞がっている。

 

「む、面妖な。あれも太平要術の力か」

「おのれ賊ごときがあああああ!!」

 

張譲が吼える。すると張譲の肉体が変質してゆく。

 

「うう…うがあああああああああああ!!」

 

鱗が生える。角が生える。尻尾が生える。牙が生える。肉体が大きく変化していく。その姿は誰もが見れば分かる。

 

「龍……!!」

「ボクの邪魔をするな!!」

 

灼熱の炎が吐かれる。龍のブレスは驚異的な力。

 

「あっははははははは!!」

 

巨大な龍。その大きさは邪竜を思い出す。

今の張譲は悪龍と言うべきか。

 

「凄いぞ凄いぞ。ボクは龍となった。軍隊なぞいらない。ボクさえいれば無敵だ。龍とは神に等しい。ボクは大陸の頂点に辿り着いたんだ!!」

 

その姿、その力、その驚異は幻想で最強。誰もが敵わないと思う。

董卓や賈駆は腰が抜けてしまう。早く逃げなければと頭では理解しているが体が動かない。呂布や張遼は董卓たちを守らねばと前に出るが龍となった張譲には刃が届かない。

 

「あはははははははは。賊が、董卓が呂布が虫のようだ。恐れずに足りないな!!」

「こ、こりゃまずいで!?」

「…強い」

「まさか龍になるなんて…嘘でしょ」

 

実はこの外史には龍が存在する。幻想と現実が混ざりあった世界なのだ。

だから龍という概念はこの外史にとってなんらおかしくはない。

 

「お前たちを片付けたらこのまま天子を手に入れる。いや、このボクが天子になることだって可能なはずだ。なんせ今のボクは大陸の頂点なんだからな!!」

 

力を手に入れた張譲は自分が最強の存在だと疑っていない。

張譲は力が欲しかった。宮中では実権を手に入れても自分の兵などはいなかった。だからいずれはすぐに鎮められる可能性があったのだ。だが今はどうだ。張譲にとって一番厄介な董卓たちを圧倒している。彼女さえ潰せばもう天子は手に入る。

いずれ袁紹などの諸侯が天子を取り返しに来るかもしれないが今の力を持つ張譲ならば返り討ちにできる。

 

「天子を手に入れたら宮中の掃除だ。邪魔な諸侯どもも消す。ボクに逆らう奴は全員消す。あとはボクが理想の国家を建て直してやろう!!」

 

やっと張譲の思い浮かべる道が見えてきた。自分の欲しかった力を手に入れたのだ。あとは自分が動くだけ。

 

「だ、駄目です。張譲殿。貴方に天子様は渡しません!!」

 

悪龍となった脅威の張譲に恐怖しながら董卓は口を開く。

 

「ふん、このボクに指図するな。それに今の君はとても怯えている姿が滑稽だな。それでよくボクに指図したものだ。あっははははははは!!」

 

董卓が発した言葉は悪龍となった張譲に対しての精一杯の抵抗。だが張譲は虫の声のように気にもしない。もう張譲にとってそこらの人間は下等な存在。なんせ自分は龍という最上位の存在になっているのだから。

 

「さあ、焼け死ね!!」

 

足が動かない。圧倒的な力の前に体が言うことを聞いてくれないのだ。賈駆は董卓だけでも逃がさないと考えるがやはり身体が動かない。

呂布や張遼たちは無理矢理にも足を動かして董卓たちの前に出る。

董卓だけは守らねばならない。彼女のように優しく、覚悟を持った大切な人は自分たちの命に代えても守らねばならない。

 

「月だけでも…」

 

自分の身体なんだから動くはずだ。だけど動けと頭で命令しても動かない。目の前には圧倒的な驚異。

どうしてこうなったのだろうか。これはやはり殺す殺されるの事だからか。

順調だったはずだ。なのに今は絶体絶命。まだ死ぬわけにはいかない。頭にはグルグルと様々な言葉が回るがまとまらない。

董卓だって賈駆と同じ考えで大切な人を助けたいと思っている。賈駆を呂布を、張遼を助けたい。

振るえる手を拳にして握る。振るえを止めて何かをしなくてはならない。だが何も考えられない。

 

「み、みんな…」

 

もう駄目だと思った時、董卓と賈駆の横をすり抜けて前に出た人物がいる。

 

「あ、あんた…」

「立香さん!?」

 

前に出たのは藤丸立香だった。

 

「燕青、李書文頼む!!」

「いいよぉ!!」

「応さ!!」

 

マスターの指示で2人は跳んで悪龍となった張譲の顎を下から蹴り上げた。

「ぐぶっ!?」

 

灼熱の炎は董卓たちには吐かれなかった。

 

「みんな配置に着いて!!」

 

こんな絶望的な状況だと言うのに彼の目は死んでいなかった。

 

「いつでもいいぞ!!」

「戦闘 準備 完了」

「任せろ」

「妾に任せるがよい」

「御仏の力を見せるわ」

「□□□□□□!!」

「マスター、全員配置に着いたぞ」

 

俵藤太たちは指示された場所に配置した。これから行うのは悪龍退治。これこそが藤丸立香たちの本当の戦いだ。彼らが解決しなければならない事案だ。

 

「おのれ。たかだか矮小な賊ごときが…関係ない者が出しゃばるな小僧!!」

 

張譲の目が藤丸立香に向けられる。

彼が今の張譲に恐怖しているのは分かる。そのくせして恐怖の対象である自らを倒すと口語しているのだ。

それがとても気に食わない。その理由は分かっている。それは彼の目が董卓と同じように弱いくせに強い覚悟を持った目をしているからである。

 

「その目が気にいらない!!」

 

張譲が吼える。

 

「確かに俺は関係ないかもしれないよ。この国だとね…でも今のこれはそう言ってられない!!」

「お前がこのボクを止められると思ってるのか!!」

「俺だけじゃ無理だよ」

 

キッパリと言う。藤丸立香個人では今の張譲に立ち向かってでもすぐに殺される。

 

「俺ができるのは力を貸してもらう事だよ」

 

自分に力が無いことくらいは自覚している。だからこそ仲間の力が必要だ。

 

「これは俺だけしかできないことじゃない。誰だって出来る事だ」

 

この言葉が董卓の耳に入る。

 

「誰にだって出来る…」

 

彼の背中を見ていつの間にか振るえが消えている。

 

「張譲。お前を止める」

「止めるだと、止めると言ったか小僧…このボクをどうにかできると思うな!!」

 

悪龍退治が始まった。荒れ狂う悪龍に立ちに向かうは1人のマスターと英霊たち。

気が付けば于吉が置き土産に残した妖馬兵がぞろぞろと迫っている。

 

「行くよみんな」

 

悪龍になった張譲へとカルデアの呂布奉先の咆哮とともに動き出す。

李書文の槍が、哪吒の火尖槍が、呂布奉先の方天画戟が振るわれる。

相手は巨大な悪龍。適当に攻撃しても意味は無い。ならば急所や弱点となる核を狙うべき。

 

「あの角が怪しいかな孔明先生?」

「そうだ。狙うはあの角だマスター。あそこに魔力が集中している」

「分かった孔明先生!!」

 

狙うは額に生えている角。

哪吒は大きく飛んで悪龍の角へと目掛けて火尖槍を突き出す。

 

「むむ 角硬い へし折るのに時間かかる」

「ボクの玉体に触れるな!!」

「哪吒太子よ離れろ!!」

 

張譲が周りに魔力弾を複数展開。俵藤太が全て弓矢で打ち抜く。

 

「酷吏たちよ。妾のために道を作れ」

 

多くの酷吏たちを召喚して組体操のように重なっていくと高くまでそびえたつ。

そこを武則天は上りあがって悪龍となった張譲の背中に乗る。

 

「へし折るのがダメでは削り切ってくれるわ」

 

酷吏を2人召喚して長い鋸でギコギコと削り切り始める。少しずつだが角に傷がつき始める。

 

「ああ、小賢しい!!」

「藤太、哪吒。悪龍の髭を止めるんだ!!」

 

龍の髭で薙ぎ払おうとするが2本とも弾け飛んだ。

 

「させんぞ!!」

「龍の髭 穿いた」

 

俵藤太の矢と哪吒の火尖槍の援護により武則天は無傷。

 

「飛んでいると戦いにくいな」

「なら落とすしかあるまい」

「ええい、灼熱の炎で燃やしてくれる!!」

「三蔵ちゃん。緊箍児で口を塞いで!!」

「任せて!!」

 

シャンッと錫杖を鳴らすと光の輪のような緊箍児が龍となった張譲の口の周りに大きく出現して締め付ける。

これでブレスを封じた。龍のブレスほど強いものはない。

 

「三蔵ちゃん、そのまま締め付けさせといて!!」

 

ブレスを防いだ隙に哪吒はもう一度角に突貫。

 

「孔明先生。張譲を叩き落とす策はある?」

「もう出来ている」

 

パチンと指を鳴らすと張譲の周りに魔法陣が複数展開されて爆破した。

 

「こらあ、妾もいるのだぞ!!」

「だから当たらないように配置した」

 

魔法陣の爆破によって張譲は態勢を崩す。

 

「呂布奉先。儂らを投げ飛ばせ」

「お願いするぜ飛将軍」

「□□□□!!」

 

呂布奉先によって李書文と燕青は高く高く投げ飛ばされる。そして2人は拳を握って急降下して悪龍の背中に力の限り殴る。

 

「ぐぶうおお!?」

 

物理的な力で悪龍は地に墜ちていく。

 

「マスター。武則天の宝具だ」

「そういうことか。武則天は宝具の開放を!!」

 

令呪を一角使用。

 

「くっふっふっふー。こやつは罪だらけだからのう。妾の宝具がよく効くだろうて」

 

宝具展開。

 

「そなたは幸運じゃぞ? 妾の公務を、誰よりも間近で見られるのじゃからな!!」

 

宝具『告密羅職経』の発動。

張譲の墜ちる下に毒の壺のように広く広がった沼が広がった。そのままどぼりと墜ちて毒が悪龍の肉体を犯し、自由を奪う。

 

「うおおおおがあ、な、なんだこれは!?」

「もうお主は飛ぶことは出来ぬぞ」

「こ、こんなもの…!!」

「無理だぞ地に墜ちた龍よ」

 

決着の時は近づく。

 

「く、おのれ…妖馬兵!!」

 

控えていた妖馬兵が動き出す。

 

「ボクがこの毒沼から出るまで守れ妖馬兵!!」

 

ぞろぞろと突進してくる妖馬兵。その数は置き土産にしては多すぎる。

暴れている悪龍を押し留めるのに英霊たちは出張っている。残りの英霊たちでは対処には難しい。

 

「ぞろぞろと出てくるな。しかも土くれなのだから私の刃ではどこ狙っても意味ないな」

「どこを攻撃しても、形が残っていれば動くしな!!」

 

荊軻にとって妖馬兵は相性が悪い。無機質な相手は何処を斬っても毒でも意味がないからだ。

 

「うわわわ、こっち来たー!?」

 

緊箍児で悪龍の口を塞いでいる玄奘三蔵の元に近づいてくる。今ここで邪魔されたら悪龍のブレスが開放されてしまう。

 

「藤太は三蔵ちゃんの護衛を!!」

「まったく世話の焼ける師匠だな!!」

 

次に悪龍となった張譲の方を見る。そこで押し留めているのは武則天を筆頭に燕青、李書文、哪吒だ。

彼らは暴れる悪龍を押し留めるのに戦っている。トドメを決めるためにあと1人か2人を向かわせなければならない。

荊軻と諸葛孔明は藤丸立香を護衛しながら近寄る妖馬兵を壊している。

ならばこの中で一番破壊力のある呂布奉先を向かわせたいが妖馬兵たちの壁に塞がれている。呂布奉先が破壊しても破壊しても沸いて出てくる。

あと1手足りない。

 

「チッ…妖馬兵の数が多いな」

 

まさかの多さに舌打ちをする諸葛孔明。

 

「…董卓さん」

「は、はい!?」

 

急に声を掛けられて意識が覚醒する董卓。

 

「力を貸してほしい。悪龍になった張譲はなんとかする。だから周りにいる妖馬兵をなんとかしてほしいんだ。お願いだ」

 

藤丸立香は力を貸してほしいと董卓たちにお願いする。こんな戦いは規格外だと分かってる。

だがこんな戦いに力を貸してほしいと董卓にお願いするしかなかった。断られてもしょうがないと思っていてもお願いするしかないのだ。

彼女たちの力が借りたいのだ。

 

「………」

「月?」

「分かりました」

 

董卓は目を一瞬だけ瞑って目を開く。そして立ち上がって呂布たちに、残った兵士たちに声を掛ける。

 

「皆さん…立香さんたちが戦っています。あの龍は本物ではありません。あれは十常侍の張譲です!!」

 

董卓にはふさわしくない大きな声を張る。

 

「今の戦いを見れば分かります。この戦いに勝てないということはありません!!」

 

たった10人で悪龍と戦っている。見ていて説明を貰いたい部分もあるが張譲が悪龍になった時点で今さらだ。

 

「立ち上がってください。私は逃げません!!」

 

董卓は足を動かす。声を荒げるように仲間の兵士たちに鼓舞を上げる。

 

「漢を救うため、私に力を貸してください!!」

「しゃーないな。ここまで言われたら腰抜かして何もしないわけにはいかへんよな!!」

「…うん!!」

 

張遼と呂布が董卓に近づく妖馬兵を一撃で切断する。

客将である藤丸立香たちが戦っている。見ているだけなんてしない。

 

「おら、行くぞ。こいつらはしぶといが倒せないわけやあらへん。自分の持つ武器を持ってこいつらを斬れ!!」

 

自分たちの大将である董卓が前に出て鼓舞を続ける。

武将の呂布と張遼が妖馬兵を破壊する。その勢いに乗らない兵士たちはここにはいなかった。

 

「俺たちもいくぞー!!」

「こいつらを倒せ!!」

「董卓様をお守りしろ!!」

「張遼将軍と呂布将軍に続けええい!!」

 

兵士たちが雄たけびを上げて妖馬兵に斬って掛かる。

 

「おらおらぁ!!」

「ふん!!」

「なんや見た目はゴツイがこんなん敵やあらへんわ!!」

 

張遼の偃月刀で妖馬兵を動けなくなるまで斬る。妖馬兵の恐ろしいところは完全に破壊するまで動くところだ。

だから動けなくなるまで斬り続ければ倒せる。

 

「でやあああああああああああああああ!!」

 

張遼が連続斬りで切り刻む。

 

「くらええ!!」

 

偃月刀を振るい、怒涛の勢いで妖馬兵を破壊していく。

拳を突き出すように殴り、偃月刀を叩きつけるようにし、振り払うように斬る。

 

「おらあああああああ!!」

 

もう既に1人で何体も破壊する。

 

「流石だな。応援助かるよ」

「いいっていいって荊軻っち。これは元々ウチらの戦いやしな!!」

 

そう言った同時に荊軻は張遼の後ろの妖馬兵を破壊し、張遼は荊軻の後ろにいる妖馬兵を破壊する。

 

「ま、恋には及ばへんけどね」

 

張遼は呂布の方を見ると彼女が一騎当千の如く妖馬兵をなぎ倒している。やはり彼女は強い。

彼女の持つ方天画戟をまるで自分の手足のように振るっている。

 

「せい!!」

 

一回薙ぎ払うだけで数体の妖馬兵を破壊。

 

「まだまだ!!」

 

踏みつけ、殴り上げ、そのまま方天画戟で斬る。まだまだ斬り続ける。

極めつけは方天画戟を妖馬兵の腹部に横殴りに降るって折り曲げて、そのまま方天画戟ごと投げ上げる。後を追うように跳び、捕まえて地面に叩き落とした。

その落とした先にいる妖馬兵をも下敷きにして潰す。勢いは止まらずに走り出して目の前にいる妖馬兵を貫く。

その姿はやはり一騎当千である。

 

「やっぱ凄いわ恋っち」

「ほお、あれは凄いな…」

 

荊軻は素直に感嘆する。

確かに張遼の言う通りでこの外史の呂布は凄まじい。李書文が戦いたくなるのが分かるというものだ。

彼女は英霊ではなく生身の人間だ。だと言うのにその力は想像以上。

 

「はあ!!」

 

そのままカルデアの呂布奉先の元に向かって、彼の進行を邪魔する妖馬兵を全て薙ぎ払う。

 

「…無事?」

「□□」

 

呂布奉先の言葉は分からないが外史の呂布は何となく彼が「無傷也」と言っているように聞こえたのであった。

 

「月…」

 

董卓は藤丸立香の横に立つ。賈駆は董卓を支える。

董卓を支えている賈駆だからこそ、彼女が立っているのだけで無理をしているというのが分かる。それでも勇気を出して立っているのだ。

ならば親友として彼女を最後まで付き合って支えてみせる。それが今、彼女にできることなのだから。

たったそれだけが董卓にとってとても力強い支えであるのだ。

 

(ありがとう詠ちゃん)

 

お互いに強く手を握りあう。

そして横には同じように怖いはずなのに立ち向かっている藤丸立香。彼らが立ち向かったからこそ勇気を貰えたのだ。

藤丸立香だって董卓達に力を貸してもらったからこそより心に余裕が出てくる。戦いの流れも此方側に向いてきている。

お互いに勇気を貰え合っているのだ。

 

「皆さん、このまま霞さんを先頭に悪龍になった張譲への道を作ってください!!」

「荊軻は2人の呂布を先導して!!」

 

藤丸立香と董卓は指示を出し続ける。

その指示を的確に遂行する仲間たち。応えるために全力で力を出す。

 

「ほな道を切り開くで野郎ども!!」

「「「おおおおおおおお!!」」」

 

張遼と兵士たちが妖馬兵を崩して道を作る。

 

「2人の呂布よ。私に付いて来い!!」

「□□□!!」

「うん!!」

 

荊軻を先頭に走り出す。目指すは悪龍の角。

 

「こんな…何で…僕は力を手に入れたのに!!」

 

暴れる悪龍となった張譲は今だに毒の沼の中。脱出させないために武則天の宝具と李書文たちが奮闘している結果だ。

 

「何でだ。くそっ、あの目が気に入らない!!」

 

董卓の、藤丸立香の目が気に入らない。

周りにいる李書文たちや、妖馬兵を倒している張遼たちも気に食わない。

自分に逆らう全てが気に入らないのだ。

 

「何でだ。何でボクの邪魔をする!?」

「それは今の状況が…俺たちが解決するべき案件だからだよ」

「邪魔も何も私たちは敵対しています。ならばお互いに邪魔をしあうのは当たり前です。貴方には貴方の目的があり、私には私の目的があります!!」

 

董卓はこの漢を変えるために。張譲はこの漢を手中に収めるために。そして藤丸立香はこの問題を解決するために。

それぞれが別の目的のために戦っている。

 

「おのれ…こんなところで!!」

 

悪龍となった張譲の動きが徐々に鈍くなる。武則天の宝具が効いている証拠だ。

 

「行け2人とも!!」

 

荊軻は2人の呂布を悪龍となった張譲のところまで先導した。あとは2人の役目をこなすだけである。

藤丸立香と董卓は2人の呂布に同時に声を掛けた。言葉も同じだ。

 

「呂布奉先!!」

「恋さん。お願いします!!」

 

悪龍退治の時。

 

「□□□□□□□□□□!!」

「恋も!!」

 

2人の呂布奉先が駆け出して悪龍となった張譲の元へとたどり着く。弱点となる角へと目掛けて2本の方天画戟を振るった時、悪龍の角が砕け散った。

 

「があああああああああ。そんな、嘘だあああああ…嫌だ。こんな所で終わってたまるかああああああ!?」

 

悪龍の肉体に亀裂が走る。全てが崩れていく。

断末魔とともに悪龍となった張譲は毒の沼と一緒に消えていったのであった。

 

 

90

 

 

悪龍退治は終わった。残ったのはぐちゃぐちゃになった周囲に残骸のみ。

 

「お、終わったのでしょうか?」

「終わったよ」

 

手を差し出す。その手は微かに震えていた。

堂々とした指揮をしていたが内心はやはり怖かった。あんな巨大な龍は久しぶりに相手にした。でも戦わなければ生き残れない。

 

「ありがとうございました。立香さん、貴方がたは命の恩人です」

「董卓さんたちだって戦ったじゃないか。俺らだけのおかげじゃない…助かったよ。董卓さんは凄いね」

「月です」

「え?」

「月と呼んでください。立香さんなら真名で呼ばれたいのです。もちろん皆さんも」

「うん。ありがとう月」

 

笑顔で藤丸立香の手を握り返す。

 

「月が許すならボクだって」

「なんやなんや、真名を預けるならウチも!!」

「真名は恋」

 

戦いが終わり、信頼が築け、真名を呼び合う関係となる。

まだ後処理やら色々とやることは残っているが今は張譲との決着がついたのだからそれでよし。

他にも調べることや次のことも考える必要もあるけれど戦いが終わった後は休息が必要だ。藤丸立香はその場にへたり込む。

 

「立香さん大丈夫ですか!?」

「大丈夫だよ月。ははは…足にきちゃったよ」

 

于吉の策と宮廷の闇が消えたのであった。

 

「お疲れ様です立香さん」

「うん」

 

戦いは終わった。今はそれでいい。




読んでくださってありがとうございました。
今回は長く書いてしまいました。最初は分けようかと思いましたが1話にまとめてしまいましたね。

オリジナル設定で太平要術の書の力によって張譲が悪龍になるというもので、藤丸立香たちと董卓たちが力を合わせて戦うという話でした。
カルデア側も恋姫側も戦う姿を書きたかったので今回のような感じになりましたね。

次回でこの物語の1章にあたる部分は終了です。

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