Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。

FGO 6.5章のトラオムをクリアしました。
今回の章もやっぱり面白かったです。もうストーリーが面白過ぎて引き込まれっぱなしでしたね。どのキャラも魅力があって良い!!
しかし最後のアレには不気味さを残して終わりましたね。
続きが気になりますがじっくりと待ちます!!

さて、こっちは今回で侍女物語編が終了です。どのようになったかは物語本編をどうぞ!!


侍女物語-人と猫-

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「ネコミミじゃらし」

 

仙狸が言葉を発した瞬間に輝く複数の翠の球体が何かに踏み潰されるように爆発した。

藤丸立香の眼には大きな猫の脚のようなものが翠の球体を踏み潰したようにも見えたが爆風で視界を遮られた。

 

「にゃーっはっはっは」

 

仙狸の笑い声が響く。

奥の手と言っていたように逆転の一手ともなる攻撃だ。

 

「これこそとっておきだにゃあ」

 

またも翠の球体が複数出現していた。そして月の身体から大きな黒猫の幻影が出現している。

 

「にゃ」

 

服に縫いついた矢を引き抜く。

 

「せっかくの服が傷付いたにゃ」

 

大きな黒猫の幻影が動く。

 

「今まで溜めた精気の力を込めて全員をぶっ潰してやるにゃあ」

 

時間を掛けて様々な人間から精気を得た仙狸は十分な妖力を得ている。それこそちょっとした宝具並みの威力だ。

走り回るのを諦めてここで藤丸立香たちを仕留める算段というのが感じられる。邪魔者を全て消して桃香を仕留めに行くつもりなのだ。

 

「ネコミミじゃらし」

 

大きな黒猫の幻影が翠の球体を踏み潰して周囲を爆発させる。

 

「まだまだにゃ!!」

 

翠の球体が更に出現しては大きな黒猫の幻影が連続で踏み潰して爆発させる。まさに黒猫パンチのラッシュだ。

 

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ」

 

爆発や黒猫パンチで周囲が破壊されていく。まともに喰らっていれば人間なんてミンチになっている。

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるなんて言うがまさにその通り。ターゲットが多ければ下手でも当たる可能性は高い。

 

「これで終わりにゃ。ぶっ潰れるにゃー!!」

 

一際、大きい破壊音が響くのであった。

 

「勝ったにゃ」

 

ビシっと決めポーズをする仙狸。

周囲はミサイルでも落ちたのかと言うくらい崩壊していた。

 

「終わりかにゃ?」

 

耳を澄ませて周囲を警戒。感覚を鋭く張り巡らす。

 

「…………にゃ」

 

愛紗と華雄が武器を持って舞った砂煙の中から飛び出す。

 

「分かってたにゃ」

 

大きな黒猫の幻影が2人を薙ぎ払う。

 

「次はそっちにゃ」

 

星と雷々、電々を薙ぎ払う。

今の仙狸は感覚がとても鋭くなっている。ちょっとした音や気配で誰が何処にいるか感知可能。

 

「でえい!!」

「たああ!!」

「だから分かってたにゃ」

 

俵藤太と玄奘三蔵が捕縛を試みようとするが避けられる。

 

「うにゃ~…ちょっと傷ついたにゃ。さっきので全員ぶっ潰したかと思ってたのに」

 

砂煙が治まる頃には藤丸立香たち全員が五体満足の姿が仙狸の視界に映った。

先ほどの攻撃は仙狸の全力であった。しかし相手が五体満足なのにショックを受けたのである。

 

「どうやって回避したのにゃ」

「色々とね」

 

藤丸立香が仙狸の問に答える。

概念礼装とスキル使用を組み合わせて回避したのだ。しかし気を抜いていたらミンチになっていたのは確かである。

 

「にゃら、どっちが根負けするか勝負にゃあ」

 

ゆらりと大きな黒猫の幻影が動き、翠の球体が複数出現する。

仙狸の妖力が尽きるのが先か、藤丸立香たちがミンチになるのが先かの勝負だ。

 

「さあ、勝負にゃあ」

 

どっちが根負けするかの勝負をするつもりの仙狸だが藤丸立香はそんな考えはない。

藤丸立香は仙狸を捕縛するための策を実行する。

 

「行くぞ」

 

大きな黒猫の幻影が動き出す。

 

「ネコミ…」

「藤太」

「おう」

 

弓を構えて矢を力の限り張って、一気に放った。

狙いは仙狸。力強く放たれた矢が真っすぐに向かっていく。

今までは月が取り付かれているという事を考慮して直撃させる事は避けていたが今度は当てる気で放ったのだ。

仙狸も今度は当たる矢だとすぐに理解した。だからこそ大きな黒猫の幻影を翠の球体を踏み潰すのを止めて俵藤太の放った矢を薙ぎ払う。

 

「絶対に防ぐと思ってたよ」

「にゃ!?」

 

大きな黒猫の幻影の動きを一瞬だけ邪魔出来れば十分であった。仙狸の意識を一瞬だけ俵藤太に向けさせれば十分であった。その隙に動ければ仙狸を捕縛できる。

詠と北郷一刀が網を持って仙狸を覆おうとする。触れると精気が吸われるなら直接触れずに捕まえればよいのだ。

 

「捕獲ーー!!」

「おらーー!!」

 

網によって覆われ、ジタバタと動いている。

 

「こ、こんにゃので捕まえられると思うにゃ」

 

爪を伸ばして妖気で強化。覆われた網を引き裂く。

 

「これくらいで捕まえられるとは思ってないよ」

「にゃに?」

 

怪異をただの網で捕まえられるとは思っていない。

 

「美花たのむわよ」

「はい瑞姫様」

 

瑞姫が投げたものは何かを詰めた袋。投げられた短刀によって貫かれると赤い粉末が散った。

赤い粉末が何か分かったのか仙狸はすぐに離れた。それは唐辛子の粉末だ。

猫は唐辛子が苦手と言うが実際に動物にとって刺激物が苦手だ。人間だって目や舌等の粘膜がある箇所に触れれば地獄。

動物にとって「これは危険だ」という物には近づかず、離れるのが本能だ。ならば離れる方向にも策を配置する。

 

「よっし。任せて」

 

玄奘三蔵が既に構えており、気付いた仙狸は止まるが彼女の方から駆けてくる。

 

「にゃ。精気を吸い取ってやるにゃ」

 

意識が玄奘三蔵に向かうその隙こそが好機である。

藤丸立香も駆ける。舞っている唐辛子の粉末の中なんて関係無い。彼の手にはある物が握られており、これこそが本命だ。

 

「にゃに?」

 

更に北郷一刀と詠も駆けてくる。

四方向から向かってくる状況に仙狸はすぐに考える。藤丸立香たちは精気吸収の能力を知っているはずだ。だと言うのに4人は向かってくる。

それは何かしら対策を持って向かってきているという事である。

グルンと4人を見渡して違和感があるのは藤丸立香である。彼の手には何かを持っているのは明らかだ。

 

(にゃらあの人間の雄をどうにかすればいい)

 

藤丸立香の身体には唐辛子の粉末が付着しているが気にはしない。嫌だが我慢すれば良いと判断する仙狸。

 

「にゃっ!!」

 

仙狸は藤丸立香へと跳んだ。

 

「え」

 

ギロリと鋭い猫の目が藤丸立香を捉える。

 

「にゃーー!!」

 

ガッチリと藤丸立香に締め付ける様に抱き着く仙狸。瞬間に身体から力が抜けていく。

 

「エナジードレイン…」

「えなじぃ?」

 

精気吸収の事だ。

 

「にゃははは。その手に持っている物でなんとかしようとしたみたいだけど無駄にゃ」

 

身体に力が入らない。どんどんと精気が吸われていく。

 

「仙狸」

「にゃんだ人間の雄」

「君は人間に恨みを持っているようだけど何でだ。人間が君に何をしたんだ」

「何をした?」

 

怒りが滲んでくるのが分かった。

 

「人間は私に何かをしたのではにゃい。人間共は我ら猫に酷い事をしてるからにゃ!!」

 

人間への恨み。

 

「人間は我ら猫を理由もなく殺しているにゃ!!」

 

人間が理由もなく猫を殺していると聞いて「嘘だ」と言いたくなったが『動物虐待』という言葉が頭に過る。

 

「我らは普通に生きていただけにゃ。なのに人間はいきなり痛めつける、殺してくる。にゃんでにゃ。我らが人間に何かしたのかにゃ!!」

 

仙狸の行動は全て今を生きる猫たちの為だと理解した。

確かに動物の虐待行為は昔も今も発生している。その怒りは否定できるものではない。しかし藤丸立香たちが仙狸の怒りを受けるのも間違っている。

 

「君の怒りはもっともだと思う。その怒りは間違いじゃない」

「にゃん。同情はいらないにゃ」

 

場合によって同情は相手の怒りを燃やす事になる。

 

「確かに人間は猫を痛めつけている。猫だけじゃなくて他の動物もだ」

「特に猫を殺しているにゃ」

 

猫を一番殺しているかどうかは分からない。仙狸の主観かもしれない。

 

「でも…」

「にゃ?」

「でも君たち猫を。動物を家族や友人のように思っている人間だっているんだよ」

「そんにゃの…」

 

ここで仙狸の視線が藤丸立香から別に切り替わった。普通ではあるはずがないが、仙狸はどうしても視線を変えたくなった衝動に駆られたのだ。

仙狸が視線を向けた先にいるのは玄奘三蔵である。彼女のスキル『妖惹の紅顔(A)』の発動によるものだ。

『西遊記』において多くの妖怪達から「高僧の血肉を喰らえば妖力が増す」という伝承から狙われ続けた事がそのままスキル化したものである。

妖怪にとって玄奘三蔵は狙う存在。よってどんな妖怪も玄奘三蔵を無視できなくなるという事だ。

 

「にゃ!?」

 

一瞬だけ意識が藤丸立香から現状三蔵に切り替えられた隙。それだけで十分だった。

 

「今だ」

 

手に持っていた物を素早く仙狸の、月の首に嵌めた。それは首輪である。

 

「にゃにゃっ!?」

 

 

732

 

 

首輪。

首輪とは用途によって様々な意味を持っている。例えばファッションとして扱われたり、識別や誘導用として動物に付けるものとして使われたり、刑罰用として使われたりものする。更に他にも意味があったりもする。

 

「道具や装飾品は使用方法によって様々な意味を出すものだ」

 

諸葛孔明が朱里たち見せたのは首飾りだ。

 

「これはファッショ…いや、装飾品としての意味を持つ物だ。身に着ける事で己を綺麗に魅せる」

 

次には見せる物は普通の首輪。

 

「首飾りも首輪も同じ物だが意味合いが違うだけで人が思う認識は大分違う」

「そうなんですね」

「確かに…首飾りも首輪も首に嵌めるで同じだけど認識の仕方で全く別物よね」

 

朱里と風鈴が「なるほど~」と納得していく。

 

「でも首輪が何で仙狸に有効なんですか?」

「実は仙狸だけでなくとも動物の怪異には有効だ。もっとも言えば人間にも有効だけどな」

 

諸葛孔明は首輪を身に着ける。

 

「このように首輪は名の通り首に嵌める物だ。それは呼吸する部位を締めるというもので重要な部分を抑える意味も含まれている」

 

人間でも動物でも重要な部分を抑えられる。首こそ生物にとって重要な部位だ。その部分を抑えられるという事は支配されるという事になる。

 

「首輪を嵌められるという事は支配される、服従するという意味になる」

 

首輪は被支配者の象徴としての意味合いがある。

犬や猫が首輪をつけていれば飼い犬や飼い猫と誰もが思うはずだ。『飼い』という部分が重要でそれは支配されており、自由意志を持たないという意味も含まれている。

 

「首輪を嵌める者と嵌められる者で別れているのが重要だ。そこに魔術的な意味を込めるとより効果が発生する」

 

支配・服従するという概念を強化した首を嵌められた者はその通りになるという事である。

それこそ動物に首輪を嵌めるとは『飼われる』という意味だ。首輪を嵌めるイコール飼われる、服従するという事になる。

動物の怪異にとってそういう概念的なものは嫌でも効くものだ。

 

「だから仙狸に効くんだ。他の動物の怪異にもな」

「首輪にはそのような意味もあるんですね」

 

雛里は「ふむふむ」と勉強になったと頷いている。

 

「そういう意味もあるという事だ。他にも大事にしているという意味だってあるぞ?」

 

可愛がっている動物に首輪を嵌めている者たちのほとんどが「大事にしているから」という意味が多いはずだ。

 

 

733

 

 

首輪を嵌められた仙狸はガクンと力が抜けたように膝をついた。

 

「にゃ、にゃんで…」

 

全く力が入らずに動けない。

 

「にゃんにゃんだコレはぁぁぁ!?」

「首輪だよ。それこそ始皇帝が仙術を込めた特別性のな」

 

概念的に相手を服従・支配するという部分を強調させられた首輪だ。

猫の怪異である仙狸とって首輪を嵌められたら『飼い猫』という意味合いになってしまう。完全に術中に嵌ったのである。

支配された状況になり、首輪を嵌めた藤丸立香の許しが無い限り仙狸は何も出来ない。それこそ首輪にはリードが付いているので服従される側と支配する側と分けられているのもポイントだ。

 

「そ、そんにゃ…」

「君の怒りは正しい。でもオレらはその怒りを甘んじて受けるつもりは無いんだ」

 

動物を虐待している人間を許せとは言わない。しかしその怒りを動物虐待していない人間に向けるのはお門違いだ。

 

「さっきも言ったけど全ての人間が猫を虐待しているわけじゃない。家族のように、友人のように接している人間だっているんだ」

 

猫を家族のように愛している人間はたくさんいる。大事に大切に一緒に過ごし、時には叱ったり、笑ったり、可愛がったりもする。

事故や寿命で亡くなった時は悲しくて泣く時だってある。それこそペットロス症候群になってしまうくらいにだ。

 

「そ、そんにゃの…」

「仙狸だって分かってるんじゃないのかな。それとも本当に全ての人間が猫を殺していると思っているのか?」

「にゃぐ」

 

図星なのか口を閉じる。仙狸だって全ての人間が猫を殺しているわけではないと分かっていたのだ。

ただ猫を殺している人間がいるのも事実。溜まった怒りが爆発した結果が今回の出来事に繋がっている。

猫を殺していない人間がいるのも知っているからといって我慢しろとは酷なものだ。

 

「こんな事を言うのは虫が良すぎるのかもしれない」

「にゃんだよ」

「まだ人間を信じてくれないだろうか」

「はっ…本当に虫が良い話にゃ」

 

こんな状況に陥っても「人間を信じてくれ」とは何を言っているんだという気持ちになるはずだ。藤丸立香自身も言っていたように『虫の良すぎる話』である。

それでも今の言える言葉はそれだけしかない。全ての人間に猫や動物を殺すなとは言えない。『生類憐れみの令』というものが日本であったが上手くいったわけではなかったからだ。

 

「でも、君が憑りついた月は…猫を大事にしている女性だ。憑りついている君が分からないはずがない」

「にゃう」

 

またも図星なのか黙る。

 

「月は猫を優しくしている。それに他にもお猫様なんて言って崇拝している女性もいるんだよ」

 

孫呉にいる猫大好き将軍を顔が過る。「お猫様~!!」なんて猫を追いかけている姿も頭の中で再現される。

 

「そんにゃ人間がいるのかよ」

「うん。いる」

 

嘘だと思うなら見に行ってもらいたいくらいである。

そんな話をしていると何処からともなく「にゃーにゃー」と猫の鳴き声がたくさん聞こえてきた。

 

「お、お前たちは!?」

 

仙狸の周囲はたくさんの猫が集まってきたのだ。

 

「にゃー」

「にゃうーにゃー」

「にゃーにゃーにゃー」

「「「にゃにゃー」」」

 

猫たちは仙狸に対して何かを訴えていた。藤丸立香たちは猫たちが何を言っているのか分からない。しかし何となくだが猫たちは仙狸に月を開放をするように言っているのではないかと思った。

何故なら集まってきたたくさんの猫たちは月に懐いている猫たちだ。そして月がよく可愛がっている猫たちだ。そこに優しさと愛が繋がっている。

猫を、動物を虐待している人間もいれば、家族や友人のように接している人間だって本当だ。だからこそ動物たちは種族を越えて人間と信頼関係を築ける。

 

「お、お前たち…」

 

たくさんの猫たちに何か言われてだんだんと仙狸は内包した怒りが鎮まっていった。

 

「そうか。お前たちは…そうか」

 

たくさんの猫たちの声を聞いて納得していく。

猫たちは言いたい事を言った途端に鳴くのを止め、その場に留まる。

 

「そうか…そうだよにゃ。本当は分かってたにゃ。猫を大切にしてくれる人間だっている事はにゃ」

 

仙狸は人間の精気を吸い取る妖怪と言われている。そこから派生した猫又も似たような存在だ。しかし元の飼い主に恩返しをする穏やかな性質の猫又も存在する事も確かなのだ。

あり得ない話かもしれないが仙狸の元に集まった猫たちは妖怪化したら月に恩返ししてくれる怪異になるかもしれない。

猫の怪異だって良い人間がいる事は分かっているはずなのだ。

 

「………どうせもう何も出来ないにゃ。諦めるにゃ」

 

ため息を吐くように、憑き物が落ちたように仙狸はその場に座り込んだ。

 

「猫たちの為に私は反抗したにゃ。でもこの子たちは大丈夫だと言っているにゃらもう…」

 

月の身体からぽわっと猫の形をした光が出てきた。

 

「じゃあにゃ。でもまた人間が猫たちを痛めつけているにゃら私は何度も戦うにゃ」

「分かった」

 

そうならないようにするのは人間たちだ。

 

「これから何処に行くんだ」

「そうだにゃ…適当にぶらついて山に帰るにゃ」

「そっか」

 

仙狸は集まった猫たちと共に山へと帰るのであった。

 

 

734

 

 

月に憑りついていた仙狸が消えていく。その感覚が月に感じられる。

 

『じゃあにゃ。アンタには迷惑かけたにゃ』

 

誰かの声が聞こえてくる。すぐに月はその声が仙狸だと理解した。

 

『アンタは猫たちを良くしてくれてると聞いたにゃ。これからも優しくしてやって欲しいにゃ』

 

仙狸はそう言うと完全に消えた。猫の怪異という事で怖いと思っていたが話てみると何となくだが優しさもあるように感じられた。

怪異の中でも話せば分かる存在がいるのかもしれないと思った瞬間である。それでも相手は怪異だ。それだけは忘れてはいけない。

 

「ん…」

 

ゆっくりと瞼を開けると心配そうな詠の顔が視界に入った。

 

「月!!」

「詠ちゃん?」

 

意識が戻った事に気付いた詠は月を抱きしめる。

 

「よかった」

「ごめんね」

「いいのよ。月が無事なら」

 

周囲を見渡せば詠の他にも愛紗や美花たちもいる。

 

「無事で良かったぞ」

「はい。無事でなによりです」

「本当に良かった~」

「うんうん」

 

全員が心配してくれるのは嬉しいような申し訳ないような気持ちになってしまう。

反董卓連合の時とは規模が違うがまた助けられた。助けられてばかりでは駄目だと思い、自分はもっと強くならねばと思うのであった。

 

「月、大丈夫か?」

「はい。立香さん…って、あれ?」

 

ここで自分の服装が猫侍女服だと気付く。内緒で買っていたがまだ着た事がないはずだ。

着ている理由としては仙狸のせいだが、それは彼女には分からない。そしてもう1つ気付いたのは首輪を嵌めている事だ。

 

「この首輪は?」

「あ、ごめん。仙狸を捕まえるのに色々とあって月の首に嵌めてたんだ。今外すね」

「ボクが外すわ」

(私…立香さんに繋がれてる?)

 

カチャカチャと首輪を外そうとするが外れない。

 

「あ、あれ?」

「どうしたの詠?」

「何か外れないんだけど」

「そんなまさか」

 

藤丸立香も外そうとするが外れない。そもそも首輪に繋がっているリードも手放せない。

 

「あれ?」

 

この首輪は普通の首輪だ。特別な材料で作られたわけではない。

何か違うと言われれば始皇帝が仙術を組み込んだという以外はない。

 

『朕が首輪に込めた仙術は単純だぞ。嵌めた怪異を服従させるというものだけだ。ただ嵌めてもすぐ取れるようでは意味がない。だから簡単に取れないようにした』

 

何処からかそんな声が聞こえたような気がした。

確かに首輪やリードがあっても何かの拍子で外れてしまう事や手放してしまう事もあるものだ。よって簡単に外れないようにするのは当然の処置である。

 

「……外れないね」

「そんな事言ってないで早く外しなさいよ」

 

危険性はなく、何か起きるというわけではない。月に全く無害だ。

 

「でも見た目が色々と問題かもな」

 

北郷一刀がよく分からない感想を言う。

現状はネコミミメイド服を着た月にリード付きの首輪が嵌められている。そんな彼女のリードを握っているのが藤丸立香である。

 

「SMかぁ」

「待て北郷。それ以上は駄目だ」

「正確にはBDSMだっけ?」

 

確かに首輪にはそういう意味も含まれている。

 

「えすえむって何?」

 

瑞姫が質問してくる。

 

「えーっと、簡単に言うと支配する側と服従される側の立場を楽しむ行為?」

「何で疑問形なのよ」

「SMを説明するのが難しいんだ。言い方1つで誤解されそうだし」

「なら他にはどんなのがあるのよ」

「痛める事を性的に感じるのがS。痛めつけられるのを性的に感じるのがM。ただ物理的じゃなくてもいい。言葉攻めとか」

 

サディストは他人の苦しむ様子や恥ずかしむ様子を見て快楽を得る。逆にマゾヒストは苦しい、恥ずかしいといった感覚に対して快楽を感じることを得る。

色々と広義があるのでこれが正解だというのは難しいが北郷一刀の説明は至ってシンプルで「SMってこんな感じかな」というものだ。

 

「何となく分かったわ」

 

何となくと言うが物凄く納得した瑞姫。何故なら身近にそういうタイプの人間がいるからだ。

チラリと視線を移したのは姉である傾である。

 

「どうした瑞姫?」

(姉様は間違いなくえむね)

 

傾自身が理解していない性癖。

 

(司馬懿ちゃんは絶対にえすね)

 

この場に居ない司馬懿(ライネス)の顔を思い浮かべる。彼女の言動や思想から物凄く納得できてしまう。

そもそも彼女自身が他人の苦しむ顔とか好きとか言っている時点で色々と歪んでいると瑞姫は分かっていた。

 

(そして…月は)

 

視線を傾から月へと移す。

 

(月も姉様と同じ気があると思うのよねー)

 

首輪に繋がれているリードが藤丸立香に握られているという状況に月はなんともいえない感情を心に宿しているのだ。

詠や藤丸立香たちは気付いていないが瑞姫だけは彼女の微妙な表情の変化に気付いていた。

 

(きっとゾクゾクしてるんじゃないかしら?)

 

流石にこんな状況で茶化せる事はできないので黙っておく事にするのであった。

 

「早く外しなさいよ」

「分かってるけど外れないんだよ…」

 

無駄だと分かっておきながらも外そうとする。

 

「外れないとなると藤丸と月が皆の前でペットプレイする事になるな」

「それを言うな北郷!!」

 

丁度、月の恰好はネコミミメイドだ。

 

「月に変な事させないわよ!!」

「しないよ詠!!」

「「こ、これが大人…」」

「そうだけど違う!!」

 

電々と雷々に間違った大人の知識を与えたくない。

 

「藤丸殿。いや、性癖は人それぞれだからな。うん」

「立香も男という事だ」

「お前…そういう奴だったのか」

 

星は分かって言っていると理解できるが愛紗と華雄は誤解をしていた。

藤丸立香は健全な男性であるはずだ。

 

「藤丸様」

「何ですか美花さん」

「他にも何か用意しましょうか?」

「有難迷惑です」

 

美花もからかって言っているのだとすぐに分かった。何故なら普通に笑っているからだ。

 

「立香くーん」

「な、なに瑞姫?」

 

ボソリと誰にも聞こえないように囁く。

 

「今度は姉様で試してみない?」

「何を言ってるんだ」

 

後ろにいる傾は聞こえていなかったのか首を傾けていた。

先ほどまで仙狸による怪異で事件であった。救出した月を見てホッとしたばかりであった。それなのに今の状況に意味が分からない。

 

「マスターも大概だな」

「月ちゃんに変な事しちゃ駄目よ」

「藤太も三蔵ちゃんもそんなこと言っていないで助けて」

 

このままでは本当に北郷一刀の言った通り、藤丸立香は月とペットプレイをする事になりそうだ。

 

「な、なんとかするから月」

「あ、はい。でも…このままでも」

「「何を言ってるの月!?」」

 

藤丸立香と詠は月の素っ頓狂な言葉にツッコミを入れる。

怪異事件が解決したかと思えば別の事件が起きるのであった。




読んでくださってありがとうございました。
次回の更新は2週間以内を考えております。

侍女物語編が終わった次は日常編ではなく、物語本編に繋がるちょっとした話です。
まあ、北郷一刀と藤丸立香の話になるのかな。


731
ネコミミじゃらし
天下統一伝の月の技です。モーションからちょっとした宝具並みだと思ってます。

唐辛子
人間も動物も苦手な物です。辛い物ってある意味危険物。

仙狸の動機。
ありきたりですけど同族たちの恨みを晴らすってやつですね。
ネタとして定番だと思います。

732
孔明先生の講義の続き
前に話た物は首輪でした。
首輪も色々と意味がありますからね。今回は支配・服従という意味を持った首輪をネタとして使わせていただきました。

733
仙狸は山に帰る。
まあ、許す許したという感じではないですね。一応、納得してくれた感じ。
もう動物虐待はしないとは約束するのは難しいですし。でも本編にも書いたように友人として、家族として愛してくれる人間は必ずいるのです。


734
今回の被害者は月。
反董卓連合では張譲に憑りつかれ、今回は仙狸に憑りつかれる。
この物語では憑りつかれキャラになってしまった。なんでだろう。

そして今回のオチ。
これも定番だと思ってます。何故か外れないというやつ。
狙ったわけでもないのに強制的にペットプレイをする2人。

SMの説明は難しいです。
ただ虐めるのと虐められるじゃないんですよね。誰かが言ってました…Sが優位なのではなく、SもMも対等だと。

月は傾と同じ性癖?
確か何かで月はマゾ気質を持っているとかあったと思います。

ペットプレイという事で確かFGOのアンソロジーで藤丸立香がタマモキャットにペットプレイという名の散歩をさせられていたらマシュに誤解されたっていうのがあった気がしたなあ。



張角、若モリアーティ、ドン・キホーテ
新たにPUされたキャラ。どれも良いキャラだ。これからもイベントでどのような顔をみせるか楽しみです。老モリアーティと若モリアーティとかね。
ロボットと娘を得た老モリアーティを見た若モリアーティはどんな反応をするんだろう。既にネタにされてますけど若モリアーティはフランのお兄ちゃんになるのかな。

6.5章では胸熱展開はあって良かったです。
特にドン・キホーテの騎士として名乗りシーンはカッコよかった!!
そしてシャルルマーニュが助けに入るシーンも王道で良かったです。
コンスタンティノス11世も好きな人の為に戦うってのもしびれます。

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