Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
どんな内容かはどうぞ。
99
卑弥呼達と別れて急いで近くの町まで戻る。
それは助けた女性を近くの町まで運び、衛生面が良いベッドに寝かすためだ。
「よし、また治療を続けるぞ」
「え、その人助かったんじゃないの?」
「確かに助かったが緊急処置にすぎないさ。まだあちこち傷だらけだからな」
助けた女性は重症であったが華佗は最善を尽くした。
何でも彼曰く、命の灯に風を送り込んだとのこと。その後、助かるかどうかは彼女の『生きたいという意思』に左右されるらしい。
「彼女は生きる意志があったからこそ何とか一命を取り留めた。でも体はボロボロだからな。こういう重傷者には病魔が取り憑きやすい」
一命を取り留めても体が弱っていれば病弱死してしまう。だから華佗はまた治療を開始しようとしているのだ。
「手伝ってくれ。地和たちもだ」
「えー、アタシたちも!?」
「人命が掛かっているんだ。当たり前だろう!!」
「う、そうよね」
「アタシも手伝うわ華佗ちゃん」
「助かる!!」
医者として助かる命を放っておけない。何が何でも助けるつもりだ。
彼女にはまだ生きようとする意志がある。ならばその意思を受け取って助けるのが華佗の役目。
「それにしても酷いな…体中がボロボロ。片目なんて魚に食われてる。だがもう片方は奇跡的に残ってるな。でも目に傷がついている可能性がある」
きっと美人だったのだろうが戦いの傷や魚に食われた傷と酷い有様だ。だけどそれを治療するのも華佗の役目である。
妥協なんて絶対にしない。最高の治療で治してみせる。これは華佗の、五斗米道の後継者として誇りもかかっている。
「それにしても驚きなのが彼女の額の傷の部分だ。矢で討たれてたはずなのに何とか生きていたというのが考えられない。こういうのが奇跡って言うんだろうな」
本当に普通ならば死んでいておかしくないが奇跡的に生きているのだ。
世の中にはこういう死んでもおかしくないケガをしてたのに生き延びたというのはいくつか事例がある。華佗自身も大陸を旅しながら病人や怪我人を治療していたが、時たまに助からないと踏んでいたが奇跡的に助かった患者もいた事もある。
目の前で寝ている女性もその事例の1つに入っている状況だ。
(それも驚きなんだが何か妙な傷だな。矢で討たれたのは確かだ。だがその後に誰かに治療されたような跡もある。何だこれは?)
妙な治療方法が施された跡が分かったのはこの場で華佗だけだ。その妙な治療方法とはまるでギリギリ延命させたようなもの。
(これは治療目的で施術されたのではない。これはまるで…)
「華佗ちゃん、ちょっといい?」
「何だ貂蝉?」
「ちょっと立香ちゃん達と大事な話があるの。少し時間をもらってもいい?」
「ああ、勿論だ。よし、まずは湯を沸かしてくれ天和」
「はーい!」
部屋を変えて貂蝉とカルデアたちの緊急会議。とても重要な話があるということ。
「まず、孫呉を滅ぼした切っ掛けを作ったのは間違いなく于吉ちゃんね。妖馬兵と傀儡を黄祖に渡して孫呉を滅ぼしたのでしょうね」
この貂蝉の仮定は正解だ。今は離れている卑弥呼たちは確証を得ているのだから。
「それでアタシは考えたわ。この状況をどうするかを」
「まさか、黄祖の根城に行って于吉を倒すってか?」
「それも考えたけど…まずこの外史は于吉の手で間違った道を辿っているわ。ソレそのものを修正しないといけないの」
于吉や貂蝉という管理者はこの外史では本来存在しないもの。ただ三国志に登場する名前を貰って降り立ったにすぎないのだ。
本来存在しない者が三国志という歴史を本来ならば改変してはならない。それはこの外史の管理者としてはやってはいけないこと。
(まあ、例外はあるけどねん)
于吉が手を出さず、黄祖が孫呉に勝ったというのならば貂蝉も文句は言わない。そうなったら、ここはそういう外史と言うだけなのだからだ。
だが間違いなく于吉は黄祖に手を貸し、傀儡と妖馬兵を渡したのだ。
ここはもう特異点とも言う歪みになっているのだ。本来ならば孫呉は黄祖に負けない。でも孫呉は黄祖に負けた。
この外史は正常な時間軸から切り離された現実であり、よりもしもの世界になっている。藤丸立香達がカルデアで発見した特異点と同じだ。
「どうするのだ?」
「過去に跳んで于吉の策を破るのよ」
「レイシフト!!」
「タイムスリップよ。あ、でもレイシフトでも合っているわね」
この場合、タイムスリップもレイシフトも同じだが。
「そんなことが可能なのか?」
「ええ。アタシはこれでも外史の管理者よ」
外史の管理者ならば様々な外史を渡り歩くことができる。ならば過去にタイムスリップすることだって可能だ。
于吉だって過去に跳んでいるのだから貂蝉もできるに決まっている。
「だけどここにいる全員を過去に飛ばす事はできないの。頑張っても4人ね」
4人だけが過去に跳ぶことができる。
「貂蝉を含めるからこっちからは3人か」
「いえ、アタシは行けないわん。立香ちゃんたちが行ってほしいわ」
貂蝉は申し訳なさそうに言う。
「本当なら行きたいけどアタシがイクより立香ちゃんたちがイク方が良い気がするの。漢女の勘よ」
「何か字が違くなかった?」
「気のせいじゃない?」
そうなると過去に跳ぶメンバーを決めなければならない。
まずはマスターである藤丸立香は決まっている。あと3人だ。
「荊軻、李書文、燕青で」
「任された」
「応」
「いいよぉ我が主。どこまでもついて行くぜ」
過去に跳ぶメンバーは決定。
「跳ぶのは黄巾党の乱が終わった後くらいね」
「俺らが洛陽であーだこーだしているあたりか?」
「ええ、それなら過去の自分達と会う事なんてないでしょうからねぇ」
貂蝉が藤丸立香たちの周りに墨で円を書く。
「では始めるわ。こおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
貂蝉の筋肉が膨張する。熱気が放たれる。気合が放たれる。
「イ・ク・わ・よん!!」
「だから字がーー」
「アタシの手でイっちまいなあああああああああああああ!!」
「いや、だから字が…って何その掛け声!?」
貂蝉が力を発揮した瞬間に藤丸立香達は眩い光に包まれて消えた。
「頼んだわよ立香ちゃん達…」
貂蝉は藤丸立香達を信じる。自分ではなく彼等でなければならないと漢女の直感が自分自身に訴えているのだ。
だからこそ彼等を過去の呉に送ったのである。
(立香ちゃん達なら大丈夫)
目を瞑り、乙女のように無事を祈る貂蝉であった。
「ちょっといいか?」
「何かしら藤太ちゃん。今、丁度いい感じに区切りが付いたんだけど。そんでもって次の場面にイクところだったんだけどねん」
「次の場面って何言ってんだ貂蝉よ。って、そうではなく…吾がちと気になったのだが過去に戻って修正すると言うが今ここの吾らに何か影響があったりするのか?」
難しいことは分からないが過去を修正すれば未来も修正される。その理論の正確な確証は実証されていないが人理修復での事がある。
過去が変われば未来も変わることは事実である。そこで気になる点があるのだ。それが並行世界の話になる。
今の外史は孫呉が黄祖に負けた世界線になっている。過去に跳んだ藤丸立香たちによって修正されれば孫呉が勝つ世界線になるはずである。
修正したとしても外史には2つの世界線が生まれた事になっているのだ。
「修正したとしても吾らはどっちに残るんだ?」
「ああ、その話ねん」
「うむ。ここに孔明がいればもっと分かると思うんだがな」
普通に考えれば過去を修正されれば今の現在が変わる。それだけで納得するのもいいはずだ。だがここは外史という藤丸立香の元いた世界とは法則が違うかもしれないから無視はできない。
「では説明するわよん。それがアタシたちのこれからやる事でもあるからね…それでは眼鏡を掛けてっと」
「これから吾らが為すべきこと…って何で眼鏡掛けた?」
「聞いた話だと立香ちゃんは眼鏡萌えらしいから」
「……」
何処からか分からないがホワイトボードと黒ペンを取り出す眼鏡の貂蝉。
「まず外史は間違いなく貴方達の世界とは法則が違うわん。似ているけど違う部分はあるわ」
「違う部分って例えば?」
「いい質問ね三蔵ちゃん!!」
違う部分というのが世界に対する特別な現象や事象があるということだ。
ホワイトボードに黒ペンで『次元接触現象』や『空間併合事象』や『並行世界既視感』と書いていく。
「聞いた事も見たことも無い言葉だわ」
三蔵玄奘は貂蝉の書いた文字にハテナマークを浮かべる。それは呂布奉先や俵藤太もである。
「まずこの外史で過去を修正したら今ここにいる現在の外史はどう修正されるか…はっきり言ってしまえば過去に修正された影響によって変化するわ」
「ならこの外史はマスターの活躍によって正規の道に戻るのだな?」
「ええ。確かに二つの世界線が生まれるけど過去に戻って修正してきた立香ちゃんだけが正規の外史に進むなんて事は無いわ。アタシたちがこの外史に置き去りなんて事は無い」
この外史では過去に戻って修正すれば戻った外史で正規の道になる。それは外史の管理者である貂蝉の言葉ならば真実である。
「ここで次元接触現象というのが起こるわ」
「次元接触現象?」
「次元接触現象とはそのままの意味で次元が接触する現象よ。2つの世界が接触するの」
「それって大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫よ。この外史という世界だからこそ起きる事象なのよ」
過去修正によって黄祖が孫呉に勝ったという世界線と孫呉が黄祖に勝ったという世界線が接触するということだ。
次元が接触する現象はこの外史でいくつかあるが、まず1つとして過去の改変によって今の世界線に改変された世界線が上書きされる時に起こるのだ。
「その上書きが空間併合事象よ」
「また難しいものが…」
「空間併合事象は次元接触現象から次への段階に起こる時の事象よ。2つの分かれた並行外史が1つに成ることね」
枝分かれに為った並行世界がまた1つに戻るというよりかは、修正されて新たに生まれた世界線が修正する前の世界線に後ろから重なるという方が正しい。これが過去を修正して未来が変わる現象の1つである。
「貴方達の世界ではどうか分からないけど、この外史ではそういう風に次元の変化が起きてるのよ」
「ふむ」
「過去修正によって上書きされた世界や次元が何らかの原因によって一瞬だけ世界が重なると副作用の様なもので並行既視感が起こるわ。まあデジャブの様なものね」
「デジャブは聞いた事があるな。体験した事が無い事を前に一度体験したような感覚に陥ることだろう?」
「ええ。デジャブの理論は色々と考えられてるけど…この世界で起きているデジャブは世界が一瞬だけ接触した、もしくは上書きされて一緒に記憶として残るから」
並行世界が重なると世界に居る生命体も重なる。そうなると記憶や見た物なども重なるのだ。
記憶や見た物が重なるというがもう一方が見た事が無い、体験した事が無い事もあったりする場合がある。そのもう一方がデジャブの原因に成るのだ。
体験した事が無いのに前に体験した事がある錯覚は並行世界側の自分が体験した事を重なった時に記憶として組み込まれるからである。これは全員が意識することは無い。
極まれにこの感覚を体験するのは人による。例えば天の御遣いを見てどこかで会った事が有るような気がする武将が居たとしたら、それは並行世界では自軍に所属していたからなんて可能性だ。
「過去の改変というより世界の上書きって言い方が正しいかもねん」
「なるほどー」
「分かったのか三蔵よ?」
「なんとなく!」
この現象は此処に諸葛孔明が居たら興味深く聞いていたはずだ。異世界の法則なんてまず普通に生きていても知ることは無い。
「で、次元接触現象は立香ちゃん達が過去に跳んだことでこれから始まるわ。それは立香ちゃん達が過去で大きな変化を起こすことでね」
「それが于吉の策を破ることね!!」
「正解よん。でも立香ちゃんが過去で修正しても此方側の問題を解決しないと完全な修正は起きないわ」
「こちら側の問題?」
「ここがこの外史のまたちょっとした特殊な処でね…過去を修正した時に修正された外史が今の間違った外史を上書きする際に間違った外史にイレギュラーが存在していると上書きの邪魔になってしまうのよ!」
上書きする際に異物があれば上手く出来ないということである。
「それって吾らか?」
「確かに貴方たちはイレギュラーだけど、違うわ。例えばだけど過去で人を殺したら、今生きているその人はそれに合わせて消えてしまうでしょう?」
「うむ」
「なら過去で死んでいるはずなのに現在も消えずに残っているとしたらおかしいでしょ?」
「おかしいな」
「そういうイレギュラーもあるってことよ」
「分からん」
貂蝉の言っていることは分からないでもないが、少し頭に引っかかった。
過去で修正したものは未来で必ず影響される。それが歴史的に大きな役割や影響を持つ存在ならば猶更である。
「過去で修正されたものはすべからく変わるだろう。今の例えはよく分からんぞ?」
過去で死んだ人がいたら未来で生きていたその人は辻褄を合わせるために消える。それが何故消えないのか。
確かにそれは世界的にイレギュラーではある。
「過去で死んだ人間は未来で消えてしまう。だけどその消えてしまうはずだった未来の人間が実は消えていなかったらイレギュラーよね?」
「そうね」
「その人間の正体が実は特異点としての存在としたらどうかしら?」
「む…それは」
過去で死んだら未来で消えてしまう。だが未来でその人物が既に死の法則を越えた別存在ならば世界的に特異点に為り得る。
過去の人物が未来では別の存在になっていたら、過去と未来の修正が影響されないかもしれないということだ。
「そんなことあり得るのか。別の存在になったといっても元はそいつだ。過去で消えてしまえば別の存在になるという過程すら意味ないのではないか?」
「そう考えるわよね。だけどこう考えてみて、未来で別の存在になった。なった過程でもう別な存在。そこでその人間の存在は終わっているという区切りをつけられた」
区切られた人間はもうその時点で終了しているのだ。世界の辻褄合わせの修正も区切られたそこまで。
それ以降の別存在になった者は影響を受けない。なんせ、もう存在証明として違うからだ。
「んんん?」
「三蔵ちゃん分かった?」
「分からないわ!!」
「うーん…言い方がマズイのかしらね」
言い方がどうやらピンと来ないのかもしれない。よりよく分かりやすいように考える貂蝉。
「過去を変えたら未来の人が消えてしまうという言い方がダメかもねん。じゃあ過去に死んだ人間は未来でも死んでいなければならないという辻褄があるわよねぇ?」
過去で死んでしまった人間は未来でも辻褄合わせのために死んでいなければならない。この法則がある。
「過去で死んだ人と未来で動く死体はどう思う?」
「えーっと…おかしいけど、どっちも死んでるわよね?」
「その通りよ。ならどちらも死んでいるという辻褄の法則は合っているから変ではないわよね」
過去で死んでいるのと未来で動く死体。それはどちらも死んでいるから、死という概念の筋は通っている。だから世界の修正的に辻褄はあっているのだ。
「SFとかだとよく過去で死んだら未来で生きているその人はスゥっと消えるイメージがあるけど…絶対そうなるとは限らないわ」
確かにSFだと過去で生きている人間が死んだら未来の人間が消えるというのがある。だがそれは1つの表し方だ。
もしかしたら消えずにいきなり死んで倒れるという表し方かもしれない。そういう他の表し方が複数あるかもしれないのだ。
結局は過去と未来の辻褄を合わせるために修正されていればいいのである。
「何となく分かってきたぞ」
「動く死体。それは死んでいるから修正としては消滅するというのは無いわ。それが特異点たる存在になる」
ここで過去修正による世界の上書きの話に戻る。
もしも特異点たる存在を過去で解決したとしても、その存在が未来で動く死体で特異な存在として存在していたら上書きの邪魔になってしまうのだ。
「世界の上書き…空間併合事象で世界が合わさって辻褄が合うように成る。でも過去で死んだ結果と未来で動いている死体が上書きされても結局は動く死体は残ってしまう。どっちも死んでいる事に成っているからね。それが修正として邪魔になるのよ」
「ようやく分かってきたぞ。最初からそういう風に言ってくれれば分かりやすかったんだがな」
「だって、知的に説明すれば立香ちゃんにギャップ萌えしてもらえるかと思ってねえん」
「………知的と難しく説明するのは違うからな」
貂蝉が難しい感じに説明していたが纏めると簡単だ。
この外史では藤丸立香達の世界とは法則が違う部分がある。その違うと言う部分が世界で起こる現象の事だ。
今回は過去修正によって起こる現象。次元接触現象、空間併合事象、並行世界既視感。
何らかの異変や影響、もしくは過去を修正する事によって既に起きた世界線に変えられた世界線へ上書きされる時に次元が接触するのが次元接触現象。
未来が変わるという修正。変える前の世界線に変えた世界線が上書きされた事象が空間併合事象。
未来が修正された後や、2つの次元が一瞬だけ接触した時の副作用として起こるのが並行世界既視感。
これらが過去修正などの外史で起こる一連の流れである。
「なるほどな。過去修正と言っても単純な事が起きているわけではないからな」
「その通りよん」
「過去を修正しても未来でイレギュラーがあれば修正が上手くいかないというのが吾らがどうにかする案件だな?」
「正解よん!!」
「そのイレギュラーというのが貂蝉が説明で度々出した『動く死体』か?」
「流石ねん!!」
その修正の最中で未来にイレギュラーとなるモノがあると上手く修正が起きない。その1つが動く死体。
上手く修正が起きないというのは上書きされても、その世界線に所々におかしな部分が残ってしまうという事だ。
過去で死んだ人間でも未来では動く死体として存在する。その動く死体が問題なのだ。過去で死んでも未来でも死んでるというのが辻褄が合っている為、その動く死体がさらに特異な存在ならばより修正に影響がある。
この外史でどのように上手くいかないかと考えると、その動く死体が何処かの武将で兵を率いているとする。
過去で死んだとしても未来では動く死体となっていたとする。過去未来の辻褄としては死んでいるから一応法則としては成り立ってしまう抜け道だ。過去で倒したとしても既に発生している未来の世界線ではなんらかでか動く死体として兵を率いていても、上書きによってもあまり修正に意味を成さなく為ってしまうのだ。
過去でも未来でも死んでいては修正される意味はないのだから。
「アタシは今回の問題で1つの可能性を予測したわ。于吉は動く死体を作っている可能性があるとね」
「動く死体…キョンシー?」
「三蔵ちゃん正解よん。もう理解が早くて良いわ!!」
于吉は道士であり妖術師。キョンシーを生み出す術を持っていてもおかしくない。
「もしかしたら于吉は黄祖を動く死体として駒にしている可能性があるのよ」
貂蝉の予測だが黄祖と孫呉の戦いでは実際のところ孫呉が勝っていたかもしれない。だがその後は于吉の手によって黄祖を動く死体にして、妖馬兵を貸し与えて復讐されたと考えているのだ。
「黄祖が動く死体か…」
「ええ。そこに太平要術の書によってより改造されていればまず間違いなく悪龍になった張譲のように危険ねえ」
貂蝉の予測である于吉の策。
動く死体にして太平要術の書によって改造された黄祖。そして于吉によって覚醒された大軍の妖馬兵。
これは確かに強大な敵であり、孫呉もカルデアも苦戦する強さ。
「貂蝉の説明ならば過去を修正された世界でもその動く死体である黄祖は未来でも存在し続けるな」
過去を修正されたとしても未来でも存在し続ける。これは過去未来修正の中にあった抜け道というのかもしれない。
于吉にとって過去を修正されようが戦力は残るし、過去修正の影響にもきたすというわけだ。
「これが于吉の考えた策と言うのならば確かにとんでもないな」
「ええ。だから現在の問題をアタシ達が解決しないといけないのよ。過去未来の修正を上手くイクようにするにはね」
藤丸立香が過去に戻って于吉の策を破る。既に于吉の策によって過去を修正しても意味を成さない異変を現在に残った貂蝉たちが破る。
過去と現在の問題を解決しないと外史の歴史修正が上手くいかないということだ。
「過去に行った立香ちゃん達が頑張るだけじゃないのよん」
100
卑弥呼は身体の何処かにビクンと電流のようなシグナルが走る。
「むむ!!」
「どうした卑弥呼?」
「…そうか。貂蝉はあの手を使ったのだな」
神妙な顔つきになる卑弥呼に声を掛ける諸葛孔明。
「貂蝉はどうやら過去に跳ぶことを選んだようだ」
「過去に?」
「うむ、過去に跳んで于吉の策を打ち破るのだろう」
この外史は于吉によって間違った道を辿り始めている。ならば特異点たる原因を解決する為に過去に跳ぶのはカルデアでもやっていることだ。
だがマスターのレムレム睡眠による転移からこの外史に来て、更に過去に跳ぶなんて初めての事だろう。色々と不安があるが卑弥呼の説明から聞くともう遅い。
マスター達はもうこの外史の過去に跳んでしまったのだろう。できれば自分達が戻るまで待ってもらいたかったものだと考える諸葛孔明。
「歴史修正か…だが全てを救えるとは限らないぞ」
「分かっておるわ。人理精算というやつなのだろう?」
「知っていたか」
「無論だ。これでも外史の、世界の管理者だぞ。辻褄合わせ…こればかりはどうしようもないな」
ここは外史という異世界だから少し違うが、元々決まった運命は覆せない。
だがここは正史でなくて外史。正史で決まっていた運命が外史では違う運命であったなんて事はよくあることだ。それをよく知っている卑弥呼である。
「だがこの外史は正史とは違うのでな。どうなるかは分からん」
「外史は正史の三国志を元にしているのだろう? なら決まった未来を進むのに対して修正されるのではないか?」
「いや、この外史は確かに正史の三国志を元にしている。だが未来の結果はいくつかあるのだ」
この外史の歴史の流れは確かに正史の三国志を基準にしているが未来が違うとの事。
「前にも言ったがこの外史にも複数の並行世界がある。だが同じ未来になることはないのだ」
「剪定事象か?」
卑弥呼が言う外史の未来には決まったルートが1つではなく複数存在する。
まずこの外史には基本軸となる世界がある。それが于吉達が滅ぼそうとした外史世界だ。その外史世界のルートだと実は結果的に滅んだ事になっている。
それはある男と三国志の武将達に貂蝉が于吉達と戦ったが結局はその外史が滅んだのだ。そしてそのまま正史に跳ぶというルートである。
その基本軸世界の外史を中心としてルートがいくつか分かれる。
三国の魏がメインの外史で、曹操が大陸を天下統一をするというルート。呉がメインの外史だと呉蜀同盟によって魏を打ち倒し、天下二分の計が成立するルート。
蜀がメインの外史だと蜀呉同盟により魏と戦い、曹操が和平に応じ天下三分の計を成立させて終戦させるルート。
そしてもう1つが于吉が二度目の外史にて暗躍し、妖馬兵を復活させて武将達と戦ったルートだ。
「外史の未来はまだまだあるかもしれんが、この5つのどれかが基本的にこの外史の未来となるだろうな。もしくはちょっとばかし違うかもしれんが大体似たような未来に進む」
実はもう1つ特別な外史があるがそれは割愛である。漢女ルートとも言う。
(あれは未完であるようなものであるからな)
当事者の卑弥呼は華佗との思い出に浸かる。
「並行世界は多少の差異はあっても未来は同じになるのだが…それを聞くとバラバラな未来だな」
「うむ、正史の三国志演技よりも違う未来となる」
「それだとこの外史はやはり編纂事象に入る部類かもしれんな」
正史の歴史よりも完全に別世界になるということだ。正史の三国志だといずれは三国とも滅びて晋という国が天下統一することになっている。
だが卑弥呼がいう外史の未来だといずれも希望に満ちた理想世界になるらしい。なんせ三国の覇権争いが終わった未来が綴られた外史も存在するのだから。
「正史から離れすぎて破滅するということはないのか?」
「ないな。外史はそちらの世界とは違う。外史は並行世界のようで別の世界のようなものでもあるからのう。だが外史は他にも複数存在する。中にはこの5つのどれかに属さない未来もあるが…それだと確かに破滅してしまう未来はあるかもしれぬな」
詳しく語ると混乱するので割愛しているが実は他の外史には異世界人とか転生者がいたりするのだ。
彼らによってまた未来は変わる。その結果によって希望と幸福に満ちた理想世界になったり、いずれ滅んだり、未来は無いと外史の判断で打ち切りになったする可能性はある。
「5つの未来のどれかになると言うが…その未来に至るにはターニングポイントがあるはずだろう?」
「うむ。実は言うとどの未来になるかだが、ここで天の御遣いが関わる」
天の御遣い。これは旅をしていれば度々耳に入った言葉だ。
最初はもしかして特異点たる原因ではないかと思っていずれは調べようと思っていた。
「天の御遣いが三国のどこかの陣営に所属することで、ある程度未来が決定されるのだ」
「なるほど。天の御遣いが蜀、魏、呉の何処かに入れば進む未来が外史で決定されるということか」
この外史の未来が決まるターニングポイントは天の御遣いがどの陣営に入るかで決まる。
基本軸となる外史は劉備ではなく、天の御遣いが劉備役として進む未来だから劉備が存在しないというのもある。そして于吉が2度目の外史で暗躍するルートはそもそも天の御遣いがいないという世界線だ。
天の御遣いがいるかいないかでこの外史は進む未来が決定されるのだ。それほどまでにこの外史にとって天の御遣いとは重要な人物となっている。
「天の御遣いが今どの陣営に居るか分かればこの外史の未来も多少は分かるのだがな」
「だからお前らは天の御遣いを探していたのか?」
「うむ。実は先ほど孫尚香が寝る前に聞いてみたが天の御遣いは知らないと言っていた」
そうなるとこの外史は呉をメインにしたルートではないようだ。
「天の御遣いとは何者だ?」
「ふふふ。貂蝉が惚れる程の良いオノコだ。ああ、ワシも華佗とお胸がムネムネするような青春をしてみたいぞ」
「………」
聞く気が失せてしまう。だがいずれは聞かなければならない案件だ。
「しかし過去へか。はあ、私も付いていきたかったがな…頼んだぞマスター」
この外史に新たな流星が降り立つ。2つ目の大きな流星である。
最初の流星は天の御使いを乗せてこの大陸に降り立った。だがこの2つ目の流星は様々な噂が立てられる。
2人目の天の御使いがこの大陸に降り立ったとか、ただ流れ星が落ちただけとか、五胡の妖術師が星降りを起こしたとか。最初の流星とは違って幾つも説が出ているのだ。
その噂や説を信じるかは人それぞれ。だけどある人物たちは2人目の天の御使いを信じた。そして取り込もうとした。
それが間違った運命を打ち破る切っ掛けになるのだ。
101
流星はある地に降り注いだ。流星は眩い光を発光させたままである。
その落ちた流星目当てに集まる者達も居た。
「はー、天の御遣いをひっ捕えて来いだなんて…祭、悪いわね。母様の思い付きにつき合わせちゃって」
「はっはっは、これしきのこと慣れておるわい」
「まったく2人目の天の御遣いかもしれないなんて…天の御遣いはもう何処かの陣営にいるとか聞いたわよ」
「確か…黄巾の乱でも活躍していた義勇軍の所に居るとかいう噂じゃったか?」
「そうそう。会いはしなかったけど噂は聞いてるからね。なのに2人目なんて…」
2人目の天の御遣いを手に入れた所で既に天の御使いは劉備とか言う武将の陣営に居ると広まっている。何か役に立つのか分からない。
だが管轄は流星から天の御遣いを乗せて降り立つって事しか占っていない。天の御遣いの人数までは占いで言い残していないのだ。
1人だけかと思っていたが実は2人目もいるって可能性は否定しきれない。これは考えの問題だろう。誰が天の御遣いが1人だけと決めたのか。
占い師である管轄も天の御遣いが1人だけだなんて言っていないのだ。
「じゃあ行くわよ祭」
「ああ、策殿」
馬を走らせて2人の女性は流星の落ちた場所まで走り切る。
「雷火の話だとこの辺りよね?」
「ふむ、それらしきのものは見当たらんが」
「手分けしましょ。一刻後にまたここで落ち合いましょ」
二手に分かれて落ちた星を探す。だが2人とも落ちた星なんてみたことがないがこれに違いないってモノをこの後に発見する。
「……え、星?」
彼女の目の前には白く光っている大きくて丸いモノがあったのだ。
落ちた星を見た事がない者にとって、目の前のモノを見れば星だと思うのは当然だろう。
気になってもっと近くへ行こうとした瞬間に誰かの気配を感じる。
「何者か!?」
「おー、あったあった。間違いなくアレだよね!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
「んん、あんた誰?」
「それはこっちの台詞よ。名乗りなさい!!」
「ふっふー。人に名前を聞くときはまずは自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃない?」
「ふふっ」
「ん、何かおかしい?」
「いえ、何でもないわ」
どちらも落ちた星目当て。ならばどうするかなんて決まっている。
戦って勝った方が星をもらい受けるという事だ。お互いに武器を構えて剣戟が始まる。
「はああああああ!!」
「とりゃあああああ!!」
2人の戦いはどちらも激しく、剣の火花が迸る。お互いの実力は拮抗している。
どちらも笑いながら斬り合いをしているのは楽しんでいるから。同じ実力で斬り合いをする。2人も強い者の出会いに楽しんでいるのだ。
「やるねー!」
「貴女も…ねっ!!」
この戦いが何時までも続けば良いなんて思うがここで終わる。
「待てぇぇぇぇい!!」
「え!?」
「待たんかぁああ!!」
「さっ…!!」
「貴様は何者か!?」
現れた女性は弓矢を構える。
「二対一じゃ、流石に分が悪いかー。星は諦めるしかないね」
楽しい勝負はお終い。決着つかずの引き分けということだ。
「…策殿。こやつは?」
「さあ、誰かしらね?」
「太史慈よ」
サラリと名乗る太史慈。
「そう…私は孫策よ」
「えーあんたがあの孫堅の…どうりで。まあいっか。じゃあね!!」
落ちた星を巡る勝負は太史慈が諦め、孫策が勝ち取った。
「ふふっ、変な子…」
「あれが太史慈か」
「え、祭知ってるの?」
「まあな。それよりも策殿。何を勝手に…」
「あーん説教は聞きたくなーい!!」
「だから…む、あれは!?」
祭と呼ばれる女性は目を見開く。
「そうそう。あんなの見た事ないよね」
孫策達の目の前に発光するモノ。未だに白く光り続けていたが徐々に収まっていく。
「策殿、離れよ!!」
「大丈夫よ祭」
光がどんどんと収まっていくと中から人影が見えてきた。
「誰かいるわ…しかも複数!?」
「気を付けるのじゃ策殿!!」
光が消えた時、その場に現れたのは4名。
「本当についたのか?」
「さあな。現地人に聞かねば分かるまい」
「マスター大丈夫かぁ?」
まず孫策の目に入ったのは赤い中華服を着て、槍を持った赤髪の男。白い着物を着た黒髪の美人女性。見事な刺青のある伊達男。
「大丈夫だよ燕青。それにしても貂蝉のあの掛け声なんか字が違う気がするんだよな。てかおかしい」
そして最後に出てきたのは見慣れない白い服を着た少年であった。
もしかしたら全員が天の御遣いかもしれないが、もしこの中で1人だけと言うのなら見慣れない白い服を着た少年かもしれない。
これは孫策の勘である。彼女の勘はよく当たるので皆が信じる。ここぞという時は彼女の勘を頼る時だってあるものだ。
「ちょっと其処の人達!!」
孫策は意を決して声を掛ける。すると全員の目は孫策の集中する。
燕青たちは瞬時に白い服を着た少年を、藤丸立香を庇うように構える。
「策殿!!」
同じく祭と呼ばれる女性は孫策の前に庇うように出る。
一触即発の状態になったが、この空気をまず破ったのが藤丸立香であった。
元気な声で。
「すいません。貴女たちはここらの人ですかー!!」
「え、ええ。そうだけど」
「俺は藤丸立香って言います。ここらって何処ですかー!!」
「…何だか元気な子ねえ」
彼からは悪意を感じない。これは話に応じてくれるだろうと判断できる。そもそも向こうから話しかけている。
「祭、武器を下ろして。彼等は大丈夫よ」
「しかし…」
「大丈夫」
祭が武器を下ろしたのを見ると燕青達も警戒を解いてくれた。
「私は孫策よ。ここは建業と徐洲の間辺り」
「孫策」
孫策伯符という名前を聞いて此処が呉に近い場所というのは理解できた。
ならば貂蝉の過去に跳ばす方法は成功したようだ。そして早速、呉の関係者というかそのものである孫策に出会わせてくれるとは貂蝉はなかなか出来る。
(やるなあ貂蝉)
「質問には答えたわ。なら今度は私の質問に答えてくれるかしら?」
「いいともー!!」
なかなか元気に返事をしてくれるのに気分は悪くない。
「あなたって天の御遣いなの?」
「違います」
「嘘だー!!」
「何で真実を答えたのに嘘と言われるんだ?…」
「だってさっきまで落ちた星の中に居たのよ!!」
「星の中?」
藤丸立香だけでなく、燕青達も首を傾ける。
「さっきまで眩い光の中に居たアレじゃねえか?」
「ああ、アレ」
貂蝉によって過去に跳ばされた時、藤丸立香達は眩い光に包まれた。それが孫策達からしてみれば星に見えたのだろう。
しかも夜空から降り注いだらしく、それなら星だと思われてもしょうがない。さらにさらに話を聞くと管輅の占いでだと、黒天を引き裂いて一筋の流星が天の御遣いをこの大地に降り立たせるなんてのがあるらしい。
それがまさに藤丸立香達にピッタリと当てはまるのだ。
「あー…それだと俺ら天の御遣いだね」
「だな」
荊軻も頷く。
「じゃあ、やっぱり天の御遣いなのね?」
孫策は管輅の占いなんて信じていなかった。そもそも占いとかそういうのはあまり信じていない派なのだ。だが今夜の事を自分の目で見てしまえば嫌でも信じるってものだ。現実的ではない非現実的なことが起きている。
「天の御遣いの基準がよく分からないけど、その管輅の占いに当てはまっているなら…天の御遣いってことになるね」
「やっぱり。じゃあそっちは?」
孫策は燕青たちを見る。
「俺の仲間たちだよ」
「彼らも天の身遣い?」
「んー…俺等はどっちかっていうと護衛じゃねえか?」
燕青は疑問形で答える。
「まあ、我が主である事には変わりないからな」
天の御遣いに護衛がいてもおかしくはない。藤丸立香を主と呼んでいるなら間違いなく彼らは従者だ。
「一応、天の国の者だけど御遣いという役割を持っているのは貴方だけってことね」
「俺としては天の御遣いなんて大それたもんじゃないけどね」
「でも貴方は管輅の占いにとても一致しているわ」
眩い光を放っていた星の中から出てきた見慣れない服を着た少年。本人は天の御遣いではないと否定しているが管輅の占いにとても一致しているのだ。
これだけなら誰もが彼を天の御遣いと思うだろう。
今のところ黒天を引き裂いて大地に降り立ったところまでは一致。
「君が天の御遣いだとして何のためにこの地に来たのかしら。目的は?」
「…この大陸を混乱させる奴がいる。そいつを止めるために来たんだ」
天の御遣いの役割は大陸の乱世を鎮めること。これも一致した。もう彼が本当に天の御遣いだと孫策は確定した瞬間である。
「ねえ、取り合えずウチに来ない?」
「策殿!?」
「祭、これは母様の命令よ。それに彼は天の御遣いに一致してるじゃない」
「まあ、そうじゃが」
「どう?」
孫策の拠点である呉に行けるのなら願ったりだ。過去に来たら必ず行かなければならない場所だ。
「行きます」
早速、呉への道が開かれた。
読んでくれてありがとうございます。
次回はまた未定です。何だかんだでもう年末ですよ。
次回更新は未定ですけど…早めに更新出来たらします。
今回の物語はいろいろと考えて過去の呉に行くというものになりました。
話の中で次元接触現象とかデジャブについてとか…私なりの考えた設定です。
過去未来の修正とか影響とかも私なりに考えたものですので、私の考えが正しいとか違うとかそういうのはありませんね。このような考えで話を展開させただけです。
細々と書きましたが…結局は過去に行った立香たちと現在にいる貂蝉たちが呉のメンバーと関わる話を書きたかっただけですね。
ただ単純に間違った未来を変える物語が今回の2章のメインです。
どんな展開になるかは…これからですね。
では、また次の話にて!!