Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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連続更新3話目です!!
これで一旦打ち止めです。はい今度こそ次回は未定です。

魏と呉の戦編もどんどんと流れが変化していきます。
変化というか関わっていく者が現れたというか。

では、本編をどうぞ。



魏と呉の戦-毒-

784

 

 

魏軍は呉の各砦を次々と突破している。このまま順調に進みさえすれば建業まですぐそこである。

 

「ふー…」

 

順調に進軍しているのに不安な気持ちを含んだため息が聞こえてくる。ため息を吐いたのは魏の両翼である夏侯淵だ。

 

「おお、秋蘭ではないか」

「姉者。戻っていたのか」

 

逆に意気揚々なのは夏侯惇。つい先刻も砦を陥落させてきたので気分も高揚しているのだ。

 

「おう。我ら魏に歯向かう者たちをまた片付けて参ったぞ」

「姉者は働き者だ」

「華琳様もさぞかしお喜びになられるだろう!!」

 

全ては曹操の為に夏侯惇は剣を振るう。

 

「……」

「どうした?」

 

妹の様子に首を傾ける夏侯惇。姉妹であるため、少しの違和感も気付くのだ。

 

「いや、その…華琳様がな」

「ん?」

 

己の主の名前が口にされ、何かと思う。

 

「姉者。近頃の華琳様は…少々、お変わりになられたと思わぬか?」

「変わった…何処がだ?」

 

急に何を言い出すのかと思ってしまう。しかし夏侯淵が変な事を言いだすとは思わない。

曹操が何処か変わったかもしれないと思い返しても、どんどんと魅力が上がっているという変化しか思いつかなかった。

 

「華琳様はどんどん美しくなっているくらいしか思わんが」

 

頬を赤らめてしまう。

 

「それは私も同意だが、そうじゃないんだ姉者」

「んん?」

「官渡で袁紹を破って以来、いっそうご自分の力に自信を深められた」

「それは良い事ではないか」

 

更に馬騰を倒し、涼州を手に入れた。不穏分子であった董承の暗殺も返り討ちにした。

順調に曹操は天下統一に向けて進んでいる。確かに良い事であるが夏侯淵が不安を感じているのはソコではない。

不安に感じているのは今の曹操の精神である。

 

「私の思い過ごしかもしれないが…華琳様は」

「慢心しているかもしれない」

 

夏侯淵の思っていた事を先に口にしたのは陳珪であった。その横には郭嘉も居る。

 

「最近の華琳様は自信が漲っています。それは良い事なのですが何処か慢心している気もします」

「ええ。華琳様らしくないわ」

 

郭嘉の言葉に陳珪は同意した。曹操は慢心などせず、確実性が取る。しかし今回の事に関しては確実性が見受けられないのだ。

 

「華琳様が慢心しているだと…言って良い事と悪い事があるぞ稟、燈」

 

2人を睨む夏侯惇。崇拝しているレベルの彼女にとって曹操に対しての悪口はピキンと怒りを感じる。

 

「悪口を言っているわけじゃないわ」

「悪口だろう」

 

更にムスっとする。

 

「慢心しているというか覇権を手に入れる為に華琳様は早急に動いている感じですね」

 

実は夏侯淵と郭嘉の2人は呉との戦争はまだ早いと判断していた。それは魏の人材不足に関係している。

順調に魏の領地を広めていった結果、人材が足りなくなっている。広めた領地に対して人材が追い付いていないのである。

 

人材を確保するために様々な者たちを集める事には成功したがまだ荒いというのが現段階の評価だ。

軍部に関しても夏侯淵が筆頭に兵士を育成しているがまだ呉の戦争に出すのには早いと思っている。しかし曹操は実戦でこそ成長し、生き残った者こそが魏の兵士であると言ったのだ。

普段の曹操では言わない言葉であり、本来ならば兵士の練度を確実にしてから戦に挑むはずだ。この事から大陸の覇権を手に入れる為に早急になっているのではないかと危惧している。

 

「孫策は揚州を統一し、我々に対抗して呉という国を建国した。その勢いは凄まじく、今の内に叩いておきたいというのは分からなくはありません」

 

今の呉を倒すべきだと進言したのは荀彧だ。彼女の進言は間違いではないがまだ早いと反対したのが郭嘉である。

2人のうち荀彧の言葉を選んだのが曹操である。主の決定に否定しなかった郭嘉であるが、それでも一抹の不安があるのだ。

 

「天下を手に入れる為に早く行動する事の何が悪いと言うのだ」

「早めの行動が悪いと言っていません。ただ呉と戦うのに今の魏は練度が足りてないと思うのです」

 

早め早めの行動は先を見越しての事。しかし段取りがきちんとしている場合のみだ。今の魏は段取りを穴あけにして進んでいる。

 

「我ら魏が負けるというのか」

「いえ、そこまで言ってません。呉に負ける事は私がさせません」

 

郭嘉は眼鏡をクイっと動かす。

今回の戦に一抹の不安を感じるが呉に敗北するつもりは一切無い。既に呉と戦は始まっており、不安だからと言って撤退するつもりはないのだ。

 

「今回の戦は不安要素はあるのでより注意をしながら戦うしかないという事です」

「えーっと…どういうことだ?」

 

不安だなんだと言っておきながら呉には勝つという宣言に夏侯惇はちょっとだけ意味が分からなくなった。

 

「姉者。華琳様の為に必ず勝つという事だ」

「なるほど。なら、難しく考える事はない!!」

「そうね。春蘭さんの言う通りかも」

 

呉に勝てば良い。それだけだと話が終わり、呉の攻略のために持ち場に戻っていくが夏侯淵が郭嘉に「待て」と声をかけた。

 

「え、はい。何でしょうか?」

「この戦…危うい。華琳様の身の周りにはよくよく気を配るのだ。華琳様ご自身の御判断にもな」

「…はい。承知しております」

 

呉に勝てば良いとそれだけだと決まったが、やはり不安は消えない。

 

「今の華琳様は慢心と焦りが無意識に出ているのかもしれません」

「ああ…以前の華琳様なら、このような戦を仕掛けることはまずなかった。敵の調べどころか、我が軍の態勢すら万全とは程遠い」

 

無意識の慢心とは順調過ぎるくらいに覇道を突き進んでいるから。無意識の焦りとは己よりも上の存在を知ってしまったから。

 

(彼らが悪いわけではない…恐らく華琳様の無意識の焦りは始皇帝陛下と項羽の存在かもしれない)

 

夏侯淵ですら曹操よりも上だと感じてしまったカルデアの始皇帝と項羽の存在。彼らと出会って曹操は上の存在を認知したのだ。

今までは己と数名だけが大陸を回せる存在だと思っていた。複数の存在というのが孫策や劉備たちである。そして曹操自身が天下を獲れるのに一番近い存在であり、強者だと思っていた。しかし始皇帝と項羽の覇気を感じて『まだ勝てない』と思ってしまったのである。

始皇帝と項羽を早く超えたいが為に無意識に大陸の天下統一に向けて早急になっているのかもしれないのだ。

 

「申し訳ございません。軍師の私がもっと早くおとどめするべきでしたが」

「それは私とて同じだ」

「いえ、秋蘭様はたびたび諌言なさっていました」

「ああ…されど、今の華琳様は我らの言葉にもなかなか耳を貸してくださらん」

「はい…正直、何を言っても言い負かされてしまいますしね」

「孫策がそれだけ華琳様を高揚させる好敵手だということだろう。しかしその孫策とて覇業の前には倒すべき一勢力の長にすぎん。こんなところで何かを起こすわけにはいかん。我らは何があっても華琳様をお守りせねばならんのだ。決して気を抜くなよ」

「はっ!!」

 

曹操を守り、勝利を捧げる。主が慢心しているのであれば部下が支えていけば良い。夏侯淵はそう考えて、呉の攻略戦に戻る。

 

 

785

 

 

辛そうな息が聞こえてくる。

苦悶の顔に歪めているのは雪蓮だ。思いの他、刺客に負わされた矢傷が酷いのである。

 

「孫策様のお戻りだ。医者を呼べ、すぐにだ!!」

 

城に戻ってすぐに蓮華は怒声の如く叫ぶ。それに反応して侍従らの狼狽える声や慌てて駆け回る足音が響く。

 

「参ったわね…怪我なんて慣れたものだけど、当たり所が悪かったのかしらね」

 

炎蓮の慰霊碑から戻ってくるまでの間に雪蓮の顔色は夜目にもはっきりと悪化していた。

止血したが血は止まらず、端正な顔も辛そうに強く歪んで脂汗を垂らしていた。

 

「曹操め、よくもやってくれたな!!」

「曹操じゃなくて許貢でしょ?」

「同じ事です!!」

 

刺客による暗殺。己の姉が傷つけられた。蓮華は曹操に対しての怒りで感情が爆発しそうであった。完全に爆発しないのは雪蓮が負傷しているからだ。

負傷している姉の前で怒りで我を忘れるわけにはいかないのだ。

 

「それよりも蓮華はみんなに報告してきて。少しでも落ち着かせるように。申し訳ないけど、私は先に手当をしてもらうわ」

「…分かりました姉様」

 

蓮華は息つく暇もなく走り去っていく。

 

「うぅ…」

 

走り去った蓮華を見届ける様にして雪蓮ががっくりと膝をついた。

 

「雪蓮!!」

「これって…本気でマズイかも」

 

慌てて冥琳は雪蓮を支えると汗に濡れていながらも燃える様に熱かった。どう考えてもただ事ではない。

彼女が受けた矢傷はたたの傷ではない。そう考えているうちに雪蓮の口から答えが出てきた。

 

「どうやらあの矢、毒が塗られていたみたい」

「…やはり」

 

暗殺には毒はつきものだ。予想出来ないものではない。

早く医者に診てもらい、治療しなければならない。

 

「医者はまだか!!」

 

急いで手配しているのは分かっているが、それでも冥琳は叫ぶしかなかった。

その後、血相を変えながら走って来た医者が雪蓮を治療していく。そして静かに診断結果を口にした。

 

「こ…これは相思豆にございます」

 

医者は雪蓮の症状と傷を診るなり断言した。

 

「そうしとう?」

「とある植物から取れる猛毒です。量や回り方によっては最悪の事も…」

「なんだとっ!?」

 

信じたくない診断結果に冥琳は声を大きく出してしまった。

 

「そりゃそうよね。どうせ毒を使うなら、そんなのになるだろうし」

 

逆に毒を受けた本人は冷静であった。自分の身体の事は自分が一番分かっているからこそかもしれない。

 

「そんな暢気な事を言っている場合か。猛毒だぞ」

「分かってるわよ。頭の中まで熱くって…でも痺れてくるみたいな感覚もあるの。毒ってこんな感じなのね。そりゃ嫌われるってもんだわ」

 

毒は人間・動物を死に追いやる危険なモノだ。

 

「治療方法は…解毒方法は?」

「申し訳ありません私では…名医と名高い華佗先生ならばもしかすると」

 

目の前の医者は解毒できない。心の中で「医者なのに何故だ!!」と思ってしまう。

医者は人を助ける存在だが何もかも治す事はできない。医者も万能ではないのだ。医者ではない者たちが勝手な悪態をついてはいけない。

 

「その華佗は今どこに?」

 

冥琳は華佗の噂は知っており、目の前の医者の言う通り名医と言われている。

噂では揚州に訪れていたという事や反董卓連合の戦後に各陣営の負傷者を治療していたと聞く。それだけで華佗は悪い医者でなく、患者に真摯に向き合う良い医者と予想出来た。

 

「華佗先生は大陸中を旅されております。居所が分かりません…もし分かったとしても到着まで何日かかるか…」

「く…」

 

大陸中の病人や負傷者を治すために旅をしているというのは凄い事であるが、今だけは良い事だと思えなかった。

こればかりは雪蓮を治したいがための冥琳の我儘だ。

 

「ねえ」

 

雪蓮はまっすぐに医者を見る。

 

「…死ぬの?」

「その…いや…」

 

患者であり、呉の王に向けて真実を医者ははっきりと言えなかった。しかしはっきりと言えないという事がもう答えである。

 

「死ぬのね」

「わ、私の勘違いということもありえますので…ひっ!?」

 

剣を抜いた雪蓮の圧力で医者はたじろいだ。今にも斬りかからんばかりの形相だ。

 

「このことは絶対に口外しないで。もし誰かに漏れていたら斬る」

「は、はい!!」

 

雪蓮はこの瞬間に全てを理解した。

 

「冥琳…貴女も誰にも言わないで」

「雪蓮…それは」

「お願い」

 

雪蓮の頼みに冥琳は黙った。何を言っても無駄だと分かってしまったからだ。

 

「この毒、どれくらいで命を奪うの?」

「量や体質にもよりますが、長くて数日…です」

「数日だと!?」

「…時間が無いのね。でも件の華佗は探させる。でも今できる事を今の内にしておかなくちゃならない」

 

分かりたくないと脳に突き刺さるが雪蓮自身には確信めいたものがある。

致死量の毒を受けたというのに双眸は爛々と輝いている。まさに野獣の如き威圧感と悲壮感を漂わせていた。

 

「蓮華たちの所へ行くわよ。あまり時間をかけると余計な事を考えさせてしまうわ」

 

雪蓮はもう一度医者に他言無用を念押ししてから部屋を出ていった。

そのピンと伸びた背筋や確かな足取りはつい先ほどまで朦朧として苦しんでいた姿からは想像も出来ない凛とした王者の風格であった。

 

 

786

 

 

謁見の間にて。

 

「遅くなったわね。今戻ったわ」

「姉様!!」

 

いつもの謁見の間には蓮華をはじめとした重臣の皆が勢ぞろいしていた。

曹操の侵攻への対応に集まっているのだ。誰もが緊迫した面持ちだったが、その場に驚きと怒りの感情が沸き上がっていった。

 

「雪蓮様~わわわ、血が出ていますぅ~!?」

「傷は…歩いていても大丈夫なのですか!?」

 

穏と蓮華が心配の声を上げた。2人だけでなく、他の面々も心配している。

 

「見ての通りよ。痛みは結構なものだけどね」

「ぬぅう、曹操が刺客を仕向けてきたとは真じゃったか」

「しかもそれを実行したのは許貢の手の者というではないか。義も礼も無いとはこのことじゃ!!」

「噂には聞いていたが、ここまで手段を選ばんとは…奸雄の名に恥じぬ手口だな」

「はい。絶対に許せません。仕返しです!!」

 

皆、蓮華から事のあらましを聞いていたのか口々に雪蓮を心配し、曹操への怒りを爆発させていた。

それほど呉の王である雪蓮を傷つけた事に対して怒りが大きすぎるのだ。

 

「静まれ。狼狽えるな!!」

 

謁見の間に雪蓮の大喝が響き渡る。

 

「武人が戦場で負傷するなど珍しい事ではない。将が浮足立つと兵にまで波及する。控えよ!!」

「は、ハハッ!!」

 

負傷しているというのに衰えていない覇気。寧ろいつもよりも大きいとも感じてしまう程であった。

 

「状況の確認をする。今曹操は?」

 

穏が雪蓮の傷を心配しながらも情報を伝えていく。

 

「…既に揚州に進軍し、淮南群を侵攻してます。建業へのほぼ最短距離を進んでいます。放置してしまえば数日のうちに長江に到達します」

「敵の数は?」

「七万です。対して我々が五万です」

「あと数日あれば豫章や会稽から三万は集まられそうだが…」

 

数日という言葉に冥琳は口を閉じた。先ほどの医者の言葉が脳に突き刺さる。

 

「長江での戦なら我々に負けはありません。確実な勝利を得るなら水上決戦に持ちこむのもひとつの手だと思います!!」

 

包は対抗策の案を出す。

 

「でもその間、曹操に好き放題されちゃうよ」

「もしそこで負けるような事になったら、もう後がないってのも怖いところだね」

「揚州を蹂躙されて黙ってなんていられない。じっとここで待っている必要はないわ。速やかに迎撃に出る!!」

「おおっ…」

 

ビシっと的確に指示していく姿に感嘆の声を出してしまう。

 

「相手は曹操よ。油断はならない。先陣は祭と粋怜、それに私が。蓮華や小蓮も後詰めで出陣しなさい」

「応。泣き寝入りなどせぬ孫呉の意地、見せつけてくれましょうぞ」

「……お待ちください雪蓮様」

 

ここで粋怜が意見を出す。

 

「粋怜、なに?」

「今回の出陣は我々に任せ、雪蓮様はこの建業でご養生ください」

「私には出るなと…どういうこと?」

「雪蓮様は手傷を負われています。万全の状態でない出陣が危険を増すだけだということは雪蓮さまもよくご存じのはずです。お怒りのほどはよくわかりますがここは何卒、お控えください」

 

呉の王である雪蓮は負傷している。そんな彼女を戦の前線に出すのは臣下として反対というのは当然だ。

 

「悪いけど、その進言は聞けないわ」

「雪蓮様…」

「孫家の長がなぜ孫呉の頂点に君臨していられるか…それは常に強い武人であり続けたからよ。前線に出て皆を鼓舞し、誰よりも勇敢に戦う。曹操の侵略を前に引き籠っているなんて、また信用を失ってしまうわ」

「兵や民の信用など知った事ではありません。私にとっては雪蓮様の御身の方が何倍も大切です!!」

 

粋怜は炎蓮が黄祖にやられたのを一番近くで見ていた。あの時も炎蓮の負った手傷が癒えきっていない状態であった。

今の彼女にはそれが今と重なって見えているのだ。また大切な主に不幸があってほしくないという気持ちが強く出ている。

 

「今、本当に怒りに燃えているのは誰?」

「え?」

「私が前に出るのは皆におかしなことをさせないためでもあるのよ」

 

雪蓮が前線に出るのは怒りに満ちて冷静さを失う可能性のある重臣たちを止めるためだ。

感情のままに暴れるのではなく、強い意志を持って戦う事が重要である。今の重臣たちは王である雪蓮の為に復讐に走る可能性があるのだ。

 

「おっしゃることは分かります。ですが、それでも私は…」

「大丈夫よ。前線には出るけど敵の中に突っ込んだりしないから。さすがに私は母様ほどの猪じゃないわよ」

「……わかりました」

 

分かったと言うが粋怜は幾分不服そうにしながらも引き下がった。

粋怜と同じ考えをしている者たちもいたが、ああまでも断言されては声も上げられない。強引というか詭弁に近い。しかし雪蓮にはもう時間がないのだ。

魏との戦で強い王の姿を、炎蓮から受け継いだ孫呉の棟梁としての姿を皆に見せようとしている。

 

「それじゃあ出陣よ。思春、船はすぐに出せるでしょうね?」

「はっ。曹操侵攻の報が入ってすぐに準備を進める様に伝令は出しております」

「ですが姉様、今夜一晩ぐらいはお休みになられた方がよいのではないでしょうか?」

「船でぐっすり寝るわよ。さあ、港へ急いで!!」

 

重臣たちは出向のために主殿を出て港へ向かった。謁見の間に残るのは雪蓮と冥琳だけだ。

 

「……もういいぞ」

「そっか。はあ…はぁっ」

 

緊張の糸が切れたように雪蓮は大きく息を切らした。途端に大量の汗が額に溢れた。

 

「雪蓮」

「はあ…明日まではどうにかもちそうよ。この戦が終わるまでは」

「……分かった」

 

これから支えていこうと炎蓮の慰霊碑の前で誓ったばかりだというのに雪蓮の残りの命の少なさに冥琳は唇を強く噛んだ。叫びたい気持ちを抑える為に。

 

「さ、行きましょう冥琳」

「ああ」

 

呉軍の船団が夜が明ける前に建業の港を出港した。

 

 

787

 

 

呉軍の船団内にて。

 

「いやあ、これから魏と戦だって言うのに僕たちをついでに船で運んでもらってすいませんね」

 

ニコニコ笑顔で道士は悪びれも無さそうにお礼を言う。

 

「いや…2人は私と我が王の命の恩人だ。まともな礼が出来ず、逆に此方が申し訳ない」

「気にするな。私たちが向かいたい場所が丁度、お主らの戦場近くだったからな」

 

冥琳は道士と管輅にまともな礼が出来ない事に謝罪する。

雪蓮の容体が悪くなければ、魏と戦争が起こってなければ酒でも用意して歓迎したかもしれない。

 

「しかし、戦場に何をしに行くんですか?」

 

包が至極真っ当な疑問を聞く。

占い師が魏と呉の戦場に何をしに行くのか気になるものだ。

 

「戦場のど真ん中に行くわけではない。私たちはもともとその目的地が魏と呉の決戦地になる前から向かおうと思っていたのじゃ」

 

管輅と道士は雪蓮たちを助けた礼として2人の目的地近くまで船に乗せてもらっているのだ。まさか目的地が丁度、魏と呉の決戦地付近だったとは冥琳は虚を突かれた。

 

「2人の目的地が我らと曹操の戦場になってしまったのは運が悪いとしか言えんが…何をしに?」

「私は占い師じゃ。占いの為に様々な地を巡る。占いで私がその目的地に向かえと出たのでな」

「なるほど~」

 

占いであればしょうがないといった感じの穏。亞莎もうんうんと頷いている。

管輅は大陸一の占い師と言われており、その彼女が占いで向かえと出たのであれば戦場だろうが向かいそうだと思ってしまう。

 

「向かって何をするんですか?」

「それを調べるために向かうのじゃ」

 

彼女曰く、占いで向かえと出たが何があるか分からない。だからこそ向かって調べるのだ。

 

「占いで何があるか分からないんですか。ふつー分かるでしょ」

 

包はガンガン、ツッコミを入れていく。

 

「占いは万能ではない」

「それ貴女が言っていいんですか?」

「いいんじゃよ」

 

占いは万能ではないが道しるべにはなる。

 

「私たちは其方らの戦に関わる気はない。船が目的地に着いたら離れる」

「そうしてくれ。命の恩人を戦に巻き込みたくないからな」

(ただの魏と呉の戦に関わる気はないが…異常な戦に関わるかもしれんがな)

 

管輅の目的は魏と呉の戦で異常が無いかを調べる事だ。戦の中心に割って入って動くつもりはない。

 

「ほんと、まさか貴女方の目的地が戦場になるなんて日が悪かったですねー」

「占いでは戦になるとは出なかったのじゃがな。まあ、未来というのは何かの拍子に変化する。私が占った後に魏と呉が戦をする何かがあったのじゃろう」

「占いってそんなものなんでしょうか?」

 

占いの内容に詳しくない亞莎は首を傾ける。

中には未来を占うものもあるが絶対的ではない。占い師ですら予想出来ない何かがあれば変化する事もあるのだ。

 

「大陸一の占い師がそんな事を言うとは~」

「私の未来を占う力が完璧で絶対であればどの国も無視できんし、お主ら軍師の仕事もなくなるぞ」

「むむむ…それもそうですね」

 

完全に未来を見通せれば大陸の制覇だって出来る。

 

「私の占いの力はよく当たる程度じゃよ。絶対という言葉は付かんさ」

「それでも『よく当たる』ですから人によっては貴女を信仰するくらいになるでしょうね」

 

道士がお茶を啜りながら管輅を評価する。

 

「そういうのが嫌じゃから大陸中を周ってる。それに誰彼構わず占っておらん」

 

良く当たる占い師はファンが多くなっていくは当然だ。占ってもらえれば人生が良くなる可能性が高い。

精神的に嬉しくなるし、これからの未来に向けてどう動けばよいか分かってくる。絶対とは言えないが「良く当たる」となれば信じてしまうものだ。

 

「なるほど。管輅殿が一か所に留まらないのはそういう理由か」

「私はあまり人付き合いが上手くないのでな」

 

月琴を鳴らす。

 

「それでもよく当たるなら占って欲しいものですねー。例えばパオは呉の筆頭軍師になれるのかとか。いや、パオが冥琳様を抜いて筆頭軍師になるのは確定なんですけどね」

 

キラリと目を光らす包に苦笑してしまう冥琳。

 

「まあ、占うならこれからの戦を占って欲しいですけどね」

 

戦争の結果を占いで決めるのもどうかと思うが、人によっては可能性の1つとして頭の片隅に入れて動くというのも有りだ。

良い結果であれば少し気持ちが安定する。悪い結果であれば所詮占いだと思って細心の注意を持って戦う。それだけだ。

 

「それもそうだな」

「あの…なんか占うような雰囲気ですけど管輅殿が占うとは言ってませんよ」

「亞莎ったらパオのタダで占いをさせようという空気作りを壊さないでくださいよー」

「構わんよ」

 

月琴をまた鳴らす。

 

「良いんですか?」

「逆に聞くがどんな結果であっても恨むなよ?」

「良い結果であれば頷くだけだ。悪い結果であれば所詮占いだと思おう」

 

冥琳の許可も下りた事で管輅は机に様々な色の着いた石を並べた。そして黒曜石を削った玉を投げて当てていく。

これらの行為が占いにどのように繋がるのか全く分からない冥琳たち。占いの構造が分からない者が見ても何も理解できない。

 

「結果が出たぞ」

 

机には並べられていた色の着いた石が乱雑された配置になっていた。

 

(石の配置によって占い結果が出るのだろうが…全く分からんな)

「では答えるぞ…もう一度言うがどんな結果であっても恨むなよ」

「分かってますって」

 

神妙な顔つきなるのに全員も真剣な顔になった。

 

「この戦…勝者は呉じゃ」

 

欲しかった占い結果が出て心が少し軽くなった4人。大陸一でよく当たる占い師の結果であれば良い験担ぎようなものだと思えてしまう。

 

「ただし…」

「え、何ですか」

「大きな犠牲は出ると出たぞ」

 

戦争で大きな犠牲が出るのは当然であり、少ない犠牲の方が珍しい。

あとから「ただし…」なんて言葉が出たから何事かと思ったが当たり前すぎて一瞬不安になったのが馬鹿みたいであった。しかし冥琳だけ不安になってしまった。

 

(管輅殿は多くの犠牲でなく、大きな犠牲と言った…)

 

戦争が始まれば多くの者が命を落とす。ならば言い方としては「大きな」ではなく「多くの」だ。

 

(大きな犠牲とは…まさかっ)

 

すぐに浮かんだ人物は雪蓮だ。確かに彼女は呉の王であり、亡くなれば呉にとって大きな犠牲となる。

管輅は雪蓮が猛毒に侵されているのは知らない。なれば彼女の未来を見る占いは確かに良く当たると言える。

 

「……大きな犠牲とはどんな?」

「そこまでは分からぬ」

「そうか…」

 

このような「よく当たる」はいらなかった。雪蓮の残りの命に焦りを感じてしまう。

本人から戦までは持つと言っていた。医者の見立てだと数日だ。雪蓮は現在1人で部屋で休んでいるが猛毒に苦しんでいる。

傍に一緒に居てあげたいが雪蓮は1人で居たいと強く言ったため、この場にいるのだ。

 

「大きな犠牲にならないように頑張らないといけませんね~」

「はい。私も冥琳様たちの補佐を頑張ります」

「パオも!!」

「包は…雷火様の補佐では?」

「パオも軍師として働きたいんですー!!」

 

穏たちは雪蓮の現状を知らない。寧ろ知っているのは冥琳と診断した医者だけだ。

 

(雪蓮…)

 

 

788

 

 

船の甲板へと出て夜風に当たる冥琳は短く「ふう」とため息を吐いた。

大陸一で「良く当たる」占い師から呉は戦に勝つが大きな犠牲が出ると結果が出た。勝利するのであれば問題ないが問題は「大きな犠牲」の方だ。

 

解毒する事が出来る華佗は捜索しているが既に間に合わないと悪い事を思ってしまっているのだ。残り数日で大陸の何処かに居る華佗を発見し、連れて来るというのは雪蓮の残りの命に間に合わない。

医者の見立てで長くて数日だ。猛毒の回りが早ければ時間が無い。

 

「何だか顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」

 

声を掛けられてビクっとしてしまう。誰かと思って声を掛けられた方向を見ると管輅と一緒にいた道士が釣りをしていた。

いつの間にここで釣りをしていたのかと思って少し驚いてしまった。気配も何も感じなかったのだ。

 

(いや…今の私は周囲を警戒できない程に心を乱しているだけか)

 

細目の道士は「ん?」という感じに首を傾けていた。

 

「……夜の河で魚は釣れるのか?」

「釣れる時は釣れますよ」

 

そんな曖昧な事を言っていた傍から魚が釣れた。

 

「釣れたな」

「でしょう?」

 

ピチピチ川魚が籠の中で動いていた。

 

「む…釣り針が真っすぐ?」

 

普通であれば釣り針は返しが付いているはずだ。しかし道士の釣り針は真っすぐなものであった。

 

「よくその釣り針で釣れたな」

「コツがあるんですよ」

 

暗くて分かりにくいが真っすぐな釣り針は水面まで少しのところの空中で垂れている。

 

「…まるで何処かの大軍師であり仙人のようだな」

「であれば、釣れたのは貴女ですね周瑜殿」

「釣れたのは先ほどの魚だろう」

 

籠の中の魚を見ると既に4匹釣っていた。

 

「もしも道士殿が過去の大軍師であれば……私が望む者であるか?」

「さあ?」

「だろうな………一つ聞きたいが道士殿は傷を癒すような術は使えるのだろうか?」

「いえ、出来ません」

「そうか」

 

やはり冥琳が望んだ者ではなかった。今の状況はたまたまであっただけにすぎない。

もしも彼が解毒の出来る術があるのであればと思ったが都合が良いわけもない。

 

(前に妖術関連を雪蓮に頼まれて独学で調べていた時に…解毒方法の術もあれば調べておくべきだった)

 

今さらの事であるため心の中で不満を言ってもどうしようもない。今から解毒の術を会得しようとも出来ない。

 

「出来ないですけどこの川魚はお渡ししますよ。孫策殿は血を多く流してましからね。食べて療養してください」

「そうか…ではありがたく頂こう」

 

川魚が入った籠を受け取って船内へと戻っていった。船の外に居るのは道士の1人だけ。

 

「………本当に解毒しなくて良いんですか?」

 

道士は手に取った符に声をかけた。

 

『解毒しなくてよい』

 

符から聞こえてきたのは管輅であった。

 

「この外史は蜀ルートでしたっけ…であれば孫策は生存していた方が良いのでは?」

『そうだが既に呉ルートの流れが完全に入ってしまった。もう戻せぬ』

「解毒させて無理やり結果的に蜀ルートに戻せば良いのでは?」

『もう流れは変えられぬ。ならばこのまま進むしかない。私の占いもそう出た』

「そうですか」

 

この外史世界は蜀ルートであり、他のルートが介入する事は本来絶対あり得ない。

別のルートが介入してしまっているのは全て于吉の策略である。

 

『全く…あの馬鹿眼鏡め』

「管輅殿?」

『何でもない。しかしこの符は便利だな。離れた場所からこうやって会話が出来るのだから…これが電話というものか』

「電話ではないですよ」

『しかし電話が無いこの大陸ではこれは重宝ものだ。なにせ伝令がスムーズにいくのだから』

 

もしも道士の持つ符がこの外史世界に流れたら戦の概念が変化する。それこそ三国のうち一国でも渡したらより強化されるだろう。

 

「ははは。この名刺(符)を渡す気はないですよ」

『それで良い。この世界にはまだ早い技術だ…では切るぞ』

 

管輅からの連絡を切って符を懐にしまう。

 

「魏と呉の戦か…どうなることやら」

 

ニ国の戦は本来の流れと同じようにはいかない。異常な何かが起こる。




読んでくださってありがとうございました。
次回の更新は未定です。


784
この物語の曹操は自分は気づいていないだけで慢心と焦りが出てます。
本編にも書きましたが全て順調に行き過ぎているのです。慢心は言い過ぎかな…。
順調に行き過ぎて少し良い気になってるって感じですかね。

焦りに関しては己より圧倒的に上の存在と出会ってしまったからでもあります。
早く始皇帝を超えたいと無意識に思っているのです。


785~786
原作とほぼ同じ流れですね。
呉ルートでも冥琳は雪蓮が毒に侵されている事を隠されていても気付きますが最初から知ってます。より気が気でない状態です。

前話からいた道士たちは空気です。


787
やっと道士たちが登場です。
一緒に船に乗せてもらってます。魏と呉の決戦地で何かが起こるかもしれないと予想して動いております。

管輅の謎の占い方法。
実際にある占い方法か知りません。私はものの〇姫のオババ様がアシタカと会話してるシーンを参考にして書きました。

魏と呉の戦ですけど外史の管理者である彼女にとって知ってるので占いも何も無いんですけどね。
でもそんな事を知らない冥琳たちは本物と思ってしまうでしょうね。


788
道士は冥琳の望む者ではなかった…本当は望んだ者ですけどね。
彼なら普通に雪蓮を解毒できると思います。

解毒しないのは管輅の指示です。
外史には外史の流れというものがありますから。

道士が持ってる遠隔で会話出来る符。
つい最近のハロウィンイベントでもありましたね。あれって便利。
恋姫世界の時代であったら凄いモノですよ。


管輅と道士はまだ物語の端っこにいますがこれから徐々に中心へと入って行く予定です。










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