Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

248 / 377
こんにちは。
妖精騎士杯が終わり、次のイベントまで待機ですね。
しかしここにきてガチャピックアップが…まさか1.5部組がいきなり来るなんて。
もう家賃までガチャじゃ足らないです(泣)


此方の物語ですが『魏と呉の戦編』は今回で終了です。
結局のところ雪蓮がどうなったかは今回で分かります。


魏と呉の戦-戦の終わりの更に後-

807

 

 

楽器がフヨフヨと浮いている。

 

「これはある事件でちぃたちが手に入れた楽器よ。妖魔化してるけど良い子たちなの」

「ほほう」

「ただの楽器にもこの札を張る事で人の手を使わなくても奏でる事が出来るわ」

「ほぉ~」

「更にこの石は妖術を込めた物で…この石に向かって声を出すと大きな声になるの」

「マイクみたいなもんじゃのう」

 

張角は張三姉妹たちと交流を深めていた。別世界とはいえ、自分自身同士であるから気になるのだ。

彼女たちの話を聞いてみるとなんとも数奇な人生を歩んでいるようだ。

 

(儂は天下泰平の為に戦った。しかし彼女たちはそうじゃないのじゃな…彼女たちもまた守るべき民)

 

天和たちは張角のように漢帝国を打倒するつもりは無かった。ただ大芸道で成功し、活躍したかった。それだけだったのだ。

運命が少しだけズレただけで彼女たちは黄巾党の首領になってしまったのだ。

 

(同じ張角であってもこうも全く異なるものじゃな)

 

同じ張角であるから同じような志があるかと思っていたが違った。彼女たちの夢は天下泰平でなく、歌で大陸を盛り上げたいという夢だ。

これに関して張角は文句も何も無い。張三姉妹には自由に歌を極めて欲しいと思うのであった。

 

「お爺ちゃんの名前も張角…何かわたし他人と思えないな~」

(まあ、別世界の本人同士だしね)

 

藤丸立香は張角と張三姉妹の交流を見つめていたがパチパチと音を立てる焚火に視線を移す。

焚火を無心に見つめているだけで心が落ち着く。今の彼にとって心を落ち着かせたかった。何故なら貂蝉より聞いた雪蓮の死。

この世界の時代にとって死は身近なものだ。彼の旅路でも死は近いものだった。近いものであっても慣れていいものではない。

深い縁のある人間が死んだとなれば心がかき乱されるのは当然である。

 

「立香ちゃん…」

「大丈夫だよ貂蝉」

 

心配してくれてるのか声をかけてくれる貂蝉。藤丸立香は「問題ない」と言うしかなかった。

誰かの死で心をかき乱されてはならない。心を透明にする訓練までした彼にとって『問題はない』のだ。それが彼自身にとって良い傾向かどうかは疑問である。

彼は普通だけどもう『普通』ではないのかもしれない。

 

「主。こういう時は寝ろ寝ろ」

「燕青」

「もしくは酒を飲め」

「飲めないよ荊軻。いつかは飲んでみたいけどね」

 

酒をいずれ飲んでみたいとは思っている。

 

「よし私が膝枕をしてやろう」

「うおおぅ」

 

無理やりグイグイと膝枕をさせられるのであった。

 

(…何だかんだでこの異世界で様々な人と絆を深めてたんだなあ)

 

 

808

 

 

何かの夢を見ていた。何の夢かは分からないが悲しい夢だったような気がする。

藤丸立香は目を覚ましてゆっくりと辺りを見回した。月明りだけが差し込む真っ暗な森の中。それは寝るまでの風景と何1つ変わらない。

 

「何の夢だったかな…」

 

夢の中で何を見たかは手の中から砂がこぼれ落ちる様に頭の中から消え去っていた。

何か良くない夢だった事は分かるが内容は分からない。気が付けば背中にびっしょりと寝汗をかいていた。

 

「何だか頭の中が靄がかかっている感じだ…」

 

彼は静かにゆっくりと立ち上がる。妙にぼうっとして頭の中がはっきりとしない。

 

「……ん?」

 

その時、誰かの声が聞こえた気がした。頭に靄がかかっている感覚のせいか聞いた事があるような声であるはずなのに誰か分からなかった。

近くに誰か居るのかと思ったが気配はない。華佗や貂蝉たちの寝言でもない。分からないはずなのに不思議と恐怖は感じなかった。

 

「もしかしてこっちなのか…?」

 

藤丸立香は何故か導かれるように森の中へと歩き出してしまった。

一歩、また一歩と歩みを進める度に意識はぼんやりと深く霞の中へと飲み込まれていく。まるでレムレム睡眠のような感覚であった。

 

「主…何処に行くんだ?」

「待って燕青ちゃん」

「どうした貂蝉?」

 

フラフラと夢遊病のように歩くマスターに燕青たちが起きる。スヤスヤと寝ているのは張三姉妹たちくらいだ。

1人にさせるわけにはいかないと燕青は追いかけようとしたが貂蝉に止められる。

 

「ここは私と卑弥呼。そして華佗ちゃんに任せてくれないかしら?」

「何でだ?」

「ここからは私たちの役目なのよう」

「役目だと?」

 

李書文(殺)は黒眼鏡からチラリと眼を細める。

 

「ええ、悪い事は起きないわよん。安心して」

「何があるか分からないから安心も何もねえんだが」

「だ・い・じょ・う・ぶ。うっふん」

「………」

 

ジト目の燕青であった。

 

「卑弥呼。華佗ちゃんを起こしてから来て頂戴」

「分かった。だぁりんを優しく起こしてこよう」

 

卑弥呼は漢女らしく華佗を起こすらしい。

 

(燕青…一応、霊体化してついていけ)

(了解だ姐さん)

(何事もなかったら何気ない顔で戻ってこい)

 

 

809

 

 

「…ここは?」

 

藤丸立香は気が付けばどことも分からない場所に居た。

周囲を見ると何処かの天幕というのはすぐさま理解した。まさかレムレム睡眠をしながら勝手に何処かの天幕に入ってしまったのかと焦る。

ついに己のレムレム睡眠は徘徊するまで至ってしまったのかと少しだけショックを受けた。

 

「オレのレムレム睡眠はついに夢遊病を発症させてしまったのか。でも誰かに呼ば…れ…て」

 

誰かの声に導かれて森の中を歩いていたのは朧気に覚えていた。しかし天幕の中をよく見ると声を失ってしまう。

天幕の中央に置かれた台の上に誰かが寝ていたのだ。

 

「雪…蓮さん」

 

寝ていたのは雪蓮であった。しかしスヤスヤと寝息は立てておらず呼吸は止まっている。肌は青くなっており、血が通っていないように見える。

貂蝉が言っていた。呉は魏に戦で勝ったが雪蓮は戦死したと。彼の目の前で横になっているのは雪蓮の遺体である。その身体綺麗に清められており、周囲の装飾も寝ている台も手の込んだ物であった。

 

「立香ちゃん、こんな所にいたのねぇん。探したわよぉん」

「貂蝉」

「燕青ちゃんたちも心配してるわよ」

「ご、ごめん」

 

ぬるっといつの間にか貂蝉が天幕の中に現れていた。

 

「この子は…雪蓮ちゃん」

「うん」

 

何となくだが藤丸立香は雪蓮に呼ばれたのではないかと思った。しかし、それはただの何となくだ。

 

「立香、貂蝉。なんとまあ、とんでもない所に潜り込んだものだなお主ら」

「立香が急に消えたと聞いたから心配したぞ」

「卑弥呼に華佗まで…ごめん。気が付いたらここに居たんだ」

 

レムレム睡眠もここに極まる。本当にレムレム睡眠で勝手に夢遊病を起こしたかまでは分からない。

 

「ここは孫策軍の本陣だ。お主らを追いかけてここまで忍び込むのは骨が折れたぞ」

 

まさか呉軍の本陣までレムレム睡眠の夢遊病で侵入してきたと思うと「よく誰にも見つからずにここまで来たな…」と自分自身に驚きだ。そして呉の本陣の警備は大丈夫なのかとも思ってしまう。

 

「む、これは…」

 

華佗もまた雪蓮の遺体に気付く。

 

「ああ…雪蓮さんはもう」

「死んではいないぞ」

「え?」

 

華佗が予想していた言葉よりも正反対の言葉を発した。

 

「でも、こんなに顔色も悪いのに…死化粧もされているみたいだけど?」

 

貂蝉の言う通りで雪蓮の肉体は一目見るだけで生きているとは思わない。何処からどう見ても死んでいる。

 

「これは…毒だな。人を仮死状態にする強力な毒が回っているだけだ」

「仮死?」

「また珍しい毒を…」

 

華佗は小さく呟くと、そっと自分の懐に手を伸ばして長い鍼を取り出した。

 

「毒や病魔なら五斗米道で打ち払える。まずは仮死状態から元に戻す所からだな」

 

すぐさま解毒する準備を始める華佗。目の前に病魔や毒に侵されている患者を無視できるはずが無いのは彼だ。

 

「生き返させられるのか華佗?」

「完全に死んだわけじゃない。ならまだ助かるぞ」

 

大陸一の名医は確信を持って頷いた。これほど頼りになる医者はアスクレピオス並みである。

 

「華佗ちゃん…大声は駄目よん。ここは孫策軍の本陣だから見つかっちゃったら大騒ぎよ。ここは結構奥の方だったし…ここで人に見つかったら」

「むむむ。我らは罰と称されて屈強な兵士どもに囲まれ…いや、それはいかん。私の操はそのような連中にくれてやるために守ってきたのではないのだ」

(何の心配をしてるんだ…)

 

貂蝉や卑弥呼が思っている事は起きない。

 

「でも、オレって一応ここじゃ見ず知らずってわけじゃないけど」

 

藤丸立香はこれでも孫呉の一員として認められている。見つかったとしてもどうこうの話にはならないはずだ。

 

「立香ちゃんは大丈夫だけど私たちは違うでしょ?」

 

見た目が凄い貂蝉と卑弥呼。

悪い人ではないのだが誤解される可能性は否定できない。実は彼らも顔見知りなのである。貂蝉的には見つかりたくないようだ。

 

「………大丈夫…だと思うけど」

 

悩んだ。

 

「華佗ちゃん。五斗米道はいいけど、大声はダメよん?」

「任せておけ、行くぞっ。うおおおおお…」

「だから大声は駄目だってば華佗ちゃ…はっ!?」

 

貂蝉と卑弥呼は藤丸立香と華佗を抱えて真上へと跳んだ。

 

「誰だ!!」

 

急に天幕の中に入ってくるのは見張りの兵士2人。

 

「あれ…」

「どうした?」

「いや、天幕の中で声が聞こえたんだが…気のせいだったみたいだな」

「やめてくれよ。孫策様が蘇ったとか有難いけど洒落になってねえ」

 

見張りの兵士は遺体の雪蓮を確認するが蘇ったわけではない。そんな望んでいながらも怖く思っている2人の兵士は真上の異常事態に気付かない。

 

(ひ…卑弥呼)

(う、うむ…これはなんというか。た、たまらん)

 

2人の兵士たちを藤丸立香と華佗は貂蝉と卑弥呼にそれぞれ抱き抱えられて天幕の梁から見下ろしていた。

 

(うう…わたしのドキドキが立香ちゃんに伝わっちゃいそう。ううん、それどころか下の兵士たちにまでパックンバックンと心臓の音が伝わっちゃったら…)

(耐えろ、耐えるのだ貂蝉。イイオノコと密着が公然と許されるドキドキチャンス。最後の一瞬までずずずずいと味わい尽くすのだ)

 

何故か貂蝉と卑弥呼はラッキーチャンスを物凄く味わっていた。

 

「幽鬼になってでも蘇ってくれるなら嬉しいけど、そんな事はないか…」

「ああ…これからどうなるんだろうな俺たち」

 

見張りの兵士たちが出ていったのを見届け、藤丸立香たちは天幕の骨組みから音もなく降りる。

 

「うむむ…危ない所だった」

「ああ、ありがとう卑弥呼」

「立香ちゃんも見つからなくて良かったわぁん」

「貂蝉ありがとう」

 

もしも見つかっても詳細を話せば何とかなったのではないかと思うが貂蝉としては見つからない方がいいらしい。

理由は分からないがここは貂蝉の思惑通りに乗っていた方がいいと判断した。

 

「…けど、もし次に来られたら」

「うむ。今度こそ無事ではすまんかもしれん」

((理性的に))

 

何故か背中がゾクっとした。

 

「そ、そうなんだ…なら華佗、静かに頼んだ」

「分かった。また声を出しそうになったら頼む」

 

華佗が長い鍼を構えて静かに気合を溜める。

 

「はぁぁぁぁぁ…我が身、我が鍼と一つなり。全力全快、必察必治癒…展状転解、唯臥毒損。げ、ん、き、に、なれぇぇぇぇぇ」

 

華佗はテンション低そうにぽそぽそ呟きながら雪蓮の首筋にぷすっと鍼を刺した。するとすぐさま血の通っていない肌に赤みが増した。

 

「……んっ、ここ…は?」

 

雪蓮はゆっくりと目を開いた。

 

「よし、まずは成功だ。後は毒の入った患部を切除すれば問題ないぞ」

「貴方は…それに、私は…」

 

自分が何をされているのは分かっていない。

解毒されて目を覚ました雪蓮は不思議そうに辺りを見回して藤丸立香に視線が止まる。

 

「え?」

「雪蓮さん…大丈夫?」

「立香…あれ、ここ…は、ウチの…天幕?」

「たぶんそう」

 

どうやら彼女は色々と混乱しているようだ。

先ほどまで仮死状態であり、急に目覚めたら自分がどの状態なのかすぐに理解できるはずがない。

 

「孫策。俺は華佗…医者だ。今、君を解毒している」

「か、だ…かだ…華佗?」

 

そう言えば自分は毒に侵されていたと思い出す。そして死んだはずなのだ。しかしまだ生きている。

 

「私は…死んだはずじゃ」

「それを含めて説明するよ。だから大人しく施術を受けて欲しいんだが」

「え、あ、うん」

 

取り合えず雪蓮はジッとしながら華佗の施術を受けながら今の状況を説明されるのであった。

 

「ええっと…じゃあ何、私は死んだわけじゃなくてこの毒のせいで仮死状態になってただけだったってこと?」

 

傷口から毒を抜く処置を終え、傷口に包帯を巻く。

雪蓮は華佗から今の状況に至る経緯を一通り聞き終え、まさかの事実にどう反応すればよいか分からなかった。

猛毒で苦しみ、死んだかと思えば仮死状態だったというのだから。しかし仮死状態と言えど、死んだ事に変わりはない。

 

「そういうことだ。それに気付いた俺が我が五斗米道の力で毒を打ち破ったんだ」

「なるほどねえ。許貢もまた面倒な毒を都合してきたものね」

 

毒には様々な種類がある。専門家でなければどういう効果があるか分からないものだ。

許貢としてみれば相手を殺せる毒であれば何でもよかったのかもしれない。

 

「この毒は相思豆とよく間違えられる。似た性質だからな…腕のが良い医者でもたまに見間違うぞ」

「あー…そうなんだ」

 

相思豆と判断した医者を思い出す。彼は確かに腕の良い医者だ。そんな彼でも間違えてしまう程のある意味希少な毒であったのだ。

よくそんな毒を許貢が手に入れたものだ。しかし許貢もその毒がどのようなものか理解していなかった。

 

「よし、これで大丈夫だ。あとはしっかり食べてしっかり寝れば大丈夫だぞ」

「え、そうなの?」

「ああ」

 

あれだけ苦しんでいたのにこうも呆気なく治療が終わる。毒に侵されていた自分が馬鹿みたいに思えるがそれほどに華佗の腕が凄いのである。

 

「なら、これから君の臣下たちに説明しに行かないとな」

「華佗の言う通りだ。きっと冥琳たちは喜ぶよ」

 

死んだと思っていた大切な人が生きていた・生き返った。涙を流したくなるほどだ。

 

「あ、ちょっと待って」

「うん?」

 

ここで待ったをかける雪蓮。

 

「これでも私一度死んだのよ」

「生き返ったけど」

「そうなんだけどさー…今戻ったところで私は蘇った死者扱いよ?」

 

何故か雪蓮は自分が生き返った事を呉の面々に説明されたくないといった顔だ。寧ろ会いたくないといった感じである。

 

「その辺りは私たちでちゃぁんと説明するわよぉん」

「うむ。だぁりんとて、何一つ悪いことはしておらんのだ。何を恥じることがあろうか」

 

華佗は人助けのために雪蓮を助けた。卑弥呼の言う通り、何も悪い事はしていない。

 

「あんた達が説明すると余計ややこしくなりそうだから…いいわ」

 

貂蝉と卑弥呼の見た目的にきっと呉の面々は驚くはずだ。悪い人間ではないのに見た目のせいで損している。

 

「………雪蓮さんもしかして冥琳さんたちと会いたくない理由でもあるの?」

「ギクッ!?」

 

口で「ギクッ」と言う人間はたまにいる。

 

「なに今のギクって」

「あはは…」

 

渇いた笑い。会いたくない理由は簡単だ。

彼女は冥琳や蓮華にあれだけ大見得切って死んだのに実は生きてましたとか言えないからである。

 

「いや、ほんとにあとは頼む…とか言っておきながらさ実は生き返ってまだ私が呉の王よ、とか言えないじゃない?」

 

どんな顔して冥琳や蓮華たちに会えばいいか分からない。会ったとしても恥ずかしすぎて悶死しそうになるかもしれない。

 

「そんな事ないと思うけどな」

「いいえ、そんなことあるわ。立香は知らないけどあんな別れをしたのよ。顔なんて出せるはずないじゃない。もう死んだ事になってるんだし」

(……炎蓮さんと似たようなこと言ってる)

 

やはり親子は似る者だと思うのであった。

 

「じゃあどうするのさ雪蓮さん」

「そうねえ…」

 

一瞬だけ考え込んでパっと思いつく。

 

「立香たちについて行くわ」

 

妙案だと言わんばかりの笑顔だった。

 

「え、ついてくるの?」

「そこは喜ぶところでしょー」

 

一番は蓮華たちのところに戻る事だが雪蓮は戻る気はない。

 

「良いんじゃない立香ちゃん」

「ほら貂蝉もそう言ってるし」

 

これ以上は話の平行線。何を言っても雪蓮は呉に戻らずについてくる気だ。

ならばここは受け入れるしかない。既に過去事例があるのだから特に難しいものではない。

 

「そうだね…ならよろしく雪蓮さん」

「そろそろさん付けで呼ばないで雪蓮って呼んで」

「じゃあ…よろしく雪蓮」

「うん。立香」

 

雪蓮もカルデア一行組に加入。

 

「でもどうするの…雪蓮ちゃんがここから居なくなったらそれはそれで問題だけど?」

 

貂蝉の言う通りだ。生き返った雪蓮の情報はこの場にいる藤丸立香たちしか知らない。

冥琳たちからしてみれば雪蓮の遺体が消えたと大騒ぎになるはずだ。

 

「そこは立香の妖術でどうにかならない?」

「妖術(魔術)は万能じゃないから」

 

そう言いつつ、概念礼装『冠位人形師』を展開する。雪蓮そっくりの人形が完成する。

 

「わぁ凄ぉー」

「概念礼装がね」

 

これにて雪蓮がこの天幕から消えても良い段取り完了である。

 

「じゃ、この天幕から静かに出ましょ」

 

静かに藤丸立香と雪蓮たちは天幕から出ていくのであった。

 

「ただいま~」

「おう、おかえり」

 

その後、彼らが元々いた野営地まで戻る。

 

「お邪魔するわ~」

「誰じゃ?」

「え、誰だれ~?」

「なんか知らないお爺ちゃんと3人娘が増えてる」

 

自己紹介を始めるのであった。

 

 

810

 

 

翌日にて。

 

「撤収急げよ。作業の終わった部隊はそのまま隊列を組んで移動を開始せよ!!」

「全軍、粛々と進軍せよ。隊列を乱すな」

 

魏と戦が終わった呉軍は戦場から撤収作業を行っていた。冥琳と梨晏は淡々と指示を出していく。

2人は雪蓮の死を思い出さないように仕事に無理やり打ち込んでいるようなものだ。

 

「冥琳、梨晏…」

 

その様子を見る蓮華と小蓮。2人が一番心に傷を負ったかもしれない。

 

「蓮華様、小蓮様…こら、包!!」

「ひゃわわ、ぱ、包だって無理しないように言ったんですよぅ。なのにお二人とも包の言う事なんか全然お聞きにならないですし」

「大丈夫よ。それに…雪蓮姉さまから全て受け取ったのだもの。休んでなんかいられないわ」

「シャオだっていつまでも泣いてなんかいないんだから」

 

蓮華と小蓮も冥琳たちのように仕事に打ち込んで心の傷を紛らわそうとしているのだ。何もしないで休んでいるのは逆に落ち着かない。

 

「無理しなくてもいいからねシャオ」

「大丈夫。シャオも指揮に行ってくるね」

「……ほんと、無理しちゃって」

 

空元気で走っていく小蓮だが蓮華も似たようなものだ。

 

「そのお言葉…そのまま蓮華様にお返ししてよろしいか?」

「分かっているわよ…分かってる。なら、私も指揮を取ってくるわ」

 

空元気の蓮華に冥琳はため息を吐く。人の事は言えないが心配なのだ。

 

「やれやれ…蓮華様も無理してるのはまる分かりだけどいいの?」

「塞ぎ込むよりマシだと思うが気にかけておいてくれ梨晏」

「うん」

 

今の呉軍は弱っている。これからどうなっていくのかは誰も分からない。

 

「蓮華…小蓮…冥琳…梨晏」

 

小高い丘の上から雪蓮が眺めているのが撤収している呉軍の様子だ。

 

「随分粛々と動いておるな。動揺も特にないようだが」

「いえ、見た目はそうだけど心はそうでもないはずよん」

「…そうだな」

 

分かる者には分かるのだ。

 

「本当に戻らなくていいのか雪蓮」

「ええ」

 

雪蓮はもう蓮華に孫呉を託したのだ。

 

「なら何処へ行く?」

「そうねぇ…行きたい所があるわけじゃないわ、この辺りは顔が知られているし、北だと曹操の領土だし…とりあえずは西かしらね」

 

西だと蜀にあたる。

 

「劉備ちゃんのところに行ってみるかな~。あの夢見がちなお嬢ちゃんがどうしてるか気になるし」

(一応、桃香さんのところに厄介になってるんだけどね)

 

何なら炎蓮も居る。もしかしなくても雪蓮と炎蓮の再会は近い。

ただどう説明すればよいか悩みどころである。絶対に雪蓮から何か言われそうというか怒られる未来が見えた。

 

「なら、さっさと出発しちゃいましょぉん」

 

藤丸立香たちも魏と呉の戦場から離れるのであった。雪蓮はもう一度振り返る。

 

「……頑張りなさいよ。蓮華、シャオ」

 

 

811

 

 

ある鬱蒼と生い茂る森の中にて。

 

「大王しゃま、おひるだにょー!!」

「今日のごはんは何なのにゃ?」

 

可愛くて幼い雰囲気の声が聞こえてくる。会話内容としては昼食についてだ。

 

「もちろん、おにくだにゃ!!」

「何の肉にゃ?」

「イノシシのおにくとおさかなにゃん」

「むー、毎日おなじお肉ばかりでみぃはもう食べあきたにゃ!!」

 

毎日同じものを食べていたら飽きるものだ。中には毎日食べていても飽きないという人もいるが大王と呼ばれている者は毎日同じ食べ物は飽きるようである。

 

「おにくはなんでもおいしいのにゃ」

 

お肉は美味しい。文化に人の好みにもよるかもしれないがお肉料理は基本的に皆が好きかもしれない。しかし食べ続けると飽きがくるというのも否定できない。

 

「大王しゃまはワガママにょ」

「みぃは王様だからワガママでもゆるされるにゃ。もっともっとめずらしい、みたことがないようなごはんが食べたいにゃー!!」

 

王族であれば我儘も許されるが結果的にどうなっていくかは歴史を見れば分かる。そして王族ならば様々な料理に舌を楽しませたいというのもある。

尤も王族でなくとも様々な美味しい料理を食べたいと思うのは人間の性だ。

人間の三大欲求の1つである食欲。これはきっても切り離せない。そんな欲求全開の事を言い出した人物は南中の王である孟獲だ。

漢民族からは南蛮の王とも言われている。

 

「見たことがないようなりょうり?」

 

美食家であれば美味しくて見たことがない料理を食べたいと思うものだ。だからこそ現代では様々な国に赴くのも躊躇いはない。

 

「ならば大王様。この南蛮を出て北の土地を目指してはいかかでしょう?」

 

まるで子供たちの遊び会話に割って入ってきた綺麗な大人の女性声。

 

「にゃん!?」

「び、びっくりしたにょ」

 

更に気配もなく現れたのであればビクっと驚くのは無理がない。

 

「むむむ。お前は何者にゃ?」

 

孟獲はすぐに武器を持って仲間たちの前に出る。現れた者は真紅の羽織を纏っており、顔にはベールを掛けていた。

顔がよく見えないが美女であることが直感で分かる。羽織の下は豊満な身体であり、男性であろうが女性であろうが目を向けてしまう。

 

「ご安心を。敵ではございません…名乗るほどの者ではございませんが世間からは影姫と呼ばれております」

「「「かげひめ?」」」

 

なんだか偽名っぽいと思った孟獲であったが重要なのはそこではない。

 

「ふむ。その影姫がこの大王、孟獲に何のようかにょ?」

 

謎の美女である影姫が孟獲の前に現れた理由だ。

迷ったから道を尋ねに来たわけでもないことは既に分かっている。

 

「はい。孟獲さんは南蛮でのお暮しに退屈の御様子でしたので北の土地である蜀の国へ行かれてみてはどうかと。ふふふふ、蜀の国には珍しい食べ物がたくさんあるそうですよ?」

「それは本当かにょ!?」

 

美味しい食べ物があるという言葉に目をキラキラさせてしまう孟獲。

 

「おにくおにく!!」

「おいしいごはん!!」

「たべたいにゃ~」

 

仲間たちも涎を垂らしそうになっている。しかしここで理性がストップをかける。

 

「でも蜀はほかの人の国にゃん。確か蜀はりゅーびとかいう女が治めているのにゃ」

 

幼く見えるが孟獲も王であるのだから外国の事くらいは知っている。

 

「うふふ、そんなものは攻め込んで奪ってしまえば良いのですよ」

 

欲しい物があるならば奪えの精神であった。

 

「にゃに?」

「おー、なるほどにょ」

「だいおーだったらぜったいに負けないにょ」

 

孟獲の仲間たちも影姫の言葉に賛同した。

 

「待つにゃ!!」

 

ここで孟獲はストップをかける。

 

「影姫とやら、蜀の軍勢はつよいと聞いているにゃ」

「それが何か?」

「攻めても勝てるとはかぎらないにゃん」

 

見た目も言動も子供っぽいが、これでもちゃんと考えている。何度も言うが彼女は王なのだ。そしていきなり侵攻しても国1つが簡単に手に入れられるとは限らない。

 

「偉大な大王である貴女が負けると?」

「みぃなら負けないと思うが、もしものことがあるにゃ。それにいまはちょっとほかにもややこしいことがあってにゃ…」

「ややこしいことですか。ですが心配ご無用です。この私が孟獲さんに兵を貸して差し上げますから」

「にゃにゃ。兵士なんてどこにも連れてないではにゃいか」

「しばしお待ちを…」

 

影姫は縄を取り出し、泥を跳ね上げると兵士が生まれた。生気の無い虚ろな目をしているが間違いなく人間の兵士であった。

 

「にゃにゃっ。こ、これは…!?」

「どろが」

「にんげんになったにゃ!?」

 

孟獲たちはまさかの出来事に驚愕した。泥から人間が生まれるなど神の奇跡でしかない。

 

「すごいにゃん!!」

「孟獲さんがご所望でしたら、このようにいくらでも兵士をお貸ししましょう」

「信じられないにゃ。泥から人間をつくったにゃ……も、もしかしてお前は神さまにゃ!?」

 

孟獲たちのとって影姫は偉大な神のような存在にしか認識できなくなる。

 

「滅相も無い」

 

ベールで顔は隠れているが影姫は「当然」と言わんばかりの声質であった。

 

「みぃたちに影姫さまの力があわさればむほんをおこしたやつらをおしおきできるにゃ。影姫さまこそほんものの神さまであっちの神様がにせものにゃ!!」

「え…あっちの神様?」

 

ピクリと反応する影姫。

 

「うんにゃ。さいきん、みぃたちの国に2人の神さまがあらわれてみぃの部下がむほんをおこしたのにゃ」

「いまここは大王さまと、あらわれた謎の神さま2人に分かれてるにょ」

 

先ほど孟獲が話していた「ややこしい事」である。

 

「孟獲さん詳しくお聞かせください」

 

影姫は蜀に攻撃を仕掛けるよりも謎の神二柱が気になるのであった。

 

 

812

 

 

南中の何処か。孟獲が言う謎の神二柱の拠点とも言う。

 

「うう~…わたしがこの地の争いの火種になるなんてぇぇ」

 

ある女性は南中という国を分断させてしまった事に負い目を感じていた。

 

「かみさまー」

「あまいくだものにゃー」

「おいしいお肉だにゃ」

 

彼女たちの元に南中の者たちが食べ物を献上しに来る。

 

「わたしは大丈夫だからみんなが分けて食べてね」

 

南中の者たちは可愛らしい姿で見ているとつい顔が綻んでしまうが現実は己自身が国を分断させてしまったのが事実だ。

可愛い子たちを見て癒され、己が原因で国を分断させてしまった事で落ち込むという何度も浮き沈みをしてしまっている。

 

「姉さんが悪いわけじゃないよ。だって私たちは何も悪い事はしてないんだよ?」

 

落ち込んでいる姉を励ます妹。

彼女たちこそが孟獲が言う謎の神様2人である。

 

「わたしたちは神様なんて大それた存在じゃないのに」

「一応神様ではあるけどね」

「まさかわたしたちの死後に神として祀られるなんて思わないよ~」

 

南中の者たちが彼女たちを神として崇めているのには理由がある。

 

「この特異点に来た時の姿が第三再臨だったのがまずかったかもね」

「困ってたから力を使って助けたのがいけなかったの…」

 

色々と相まって彼女たちは南中の者たちから神として誤解されたのだ。善意でやったつもりが国を分断させてしまうという事が起きたのである。

神様と言われているうちの姉は複雑な気分であった。

 

「善意でやった事がまさか国を分かつ事になるなんて…」

「私もまさか国が分かれるなんて思わなかったよ。早く孟獲と話し合いをして元に戻そう」

「そうだよね。弐っちゃんの言う通りだね」

 

悲観していても何も解決しない。まずは南中の王である孟獲と話し合いをし、国を元に戻さねばならない。

 

「悲観するのは終わりましたか。ではこれより南蛮の統一戦争ですな」

「ヒヒン。ではこれより戦ですか?」

 

彼女たちの元に軍師と馬が顔を出す。

 

「戦はしません!!」

「おや。せっかく彼女たちを戦士として鍛えていたんですが」

「戦士として鍛えたのではなく弾の補充では?」

「何てことを言うんですか馬。私も流石に彼女たちを弾にはできませんよ」

(本当ですかね?)

 

軍師と馬が現れた事で急にカオスな空間になる。それは軍師の言動と馬の見た目によって。

 

「戦はしません。話し合いで解決します」

「出来ると良いですね」

 

彼女たちは南中を支配するつもりはない。戦いが起こるはずが無いと思っていた。

この時は。

 




読んでくださってありがとうございました。次回の更新は未定です。

次回でやっと『南蛮編』に入ります。色々とキャラが一気に出て来て活躍する予定です。様々な視点で展開される予定ですね。



807
張角と張三姉妹の交流。
今回はちょっとでしたがいずれ深く話を展開させていきたいです。

天和たちはFGOの張角のように黄巾党を立ち上げたのではないんですよね。
彼女たちを利用して黄巾党が結成されたというのが恋姫世界でした。

808~810
レムレム睡眠はついに夢遊病まで…(オリジナルですけども)
この時点で呉の革命のあのルートの話だと分かりますね。

はい。雪蓮は存命です。
このルートをプレイした時はまさか…!!
と思いながら物語を読みました。こういう展開も嫌いじゃないですね。
それを言うなら魏のエピローグのその後もありましたからね。

それにしてもやっぱ華佗先生は凄いです。

そして雪蓮も炎蓮と同じくカルデア一行に加わりました。
いずれ彼女は母親と再会します。けっこう近いうちに。


811~812
南蛮編に入る前の前日談みたいなもの。

孟獲の前に現れた影姫とは…!?
まあ、天下統一伝をプレイしていた読者様にはお分かりですね。

孟獲たちの台詞はたしかほぼひらがなだった気がしますが読みにくいと思うので漢字もちょくちょく入れます。

南中(南蛮)を分断させてしまった神様とはいったい…
そして謎の軍師と謎の馬とはいったい…
上記でも書きましたが南蛮編では色々と様々な展開が起こる予定です。
新キャラが登場しますからね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。