Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
今年最後の更新です。もう今年もわずかですね。早いような長いような。

FGOのクリスマスイベントは頑張って走り切りました!!
そして、ついに恋姫革命の第3弾…ティザーサイトが!!
次回作が楽しみです。公式サイトの公開が来年の2月22日みたいですね。



まさかの役目

102

 

 

孫策に呉と思ったが実は揚洲の建業に案内されて藤丸立香たちは早速、城の謁見の間という場所に連れ出された。

謁見の間には武将やら軍師やら文官やらが勢揃いだ。きっとこの呉の中枢を担っている人物たちである。

 

「ほほう、そこの小僧が天の御遣いか」

(ん、あの人どこかで…?)

「見たところただの小僧だが…」

 

玉座に腰かけている女性。彼女があの中で一番凄い。玉座に座っているのだから一番偉いのは分かっているが、彼女は他の武将たちとは比べ物にならない。

覇気が違う。強さが違う。カリスマが違う。他の武将たちよりもずば抜けている。

これはこの外史でも曹操以来、凄いと感じたのだ。まさに傑物であると理解させられる。

 

「これが天の御遣いとやらか。それらしい神気など微塵も感じぬが」

 

今度はあの中で一番年下そうな女性が此方を見ながらちょいキツ目に判定。普通の人間なのだから神性属性は無いに決まっている。

 

「でも、ちょっと可愛いわね、私は好みよ」

「はい~仲良くできそうですね~」

 

青髪のお姉さん的な女性と眼鏡の緑髪でののほほんとした女性からは好印象。

彼女たちは全員が呉で活躍する有名な英雄たちだ。きっとあの呉の軍師である周瑜もいるはずである。

 

「ふふふ、天の御遣いか」

 

藤丸立香たちの本来の目的はこの地の何処かにいる于吉の捕縛だ。こんな事を孫堅の前では言えないが呉の滅亡を回避させるため。

貂蝉から頼まれた使命を果たすため。

 

「おい、小僧!!」

「はい、何ですか!!」

 

相手が大きい声で話しかけてきたので釣られて大きい声で返してしまった。

 

「お、威勢が良いな。名は何と申す?」

「藤丸立香です!!」

「オレは呉群太守の孫堅だ。なかなか元気のある小僧じゃねえか」

(この人があの孫堅…)

 

孫堅。孫呉の礎を築いた英雄で三国志でも主役級の1人だ。名前に恥じぬ覇気を感じる。

 

「見れば見るほどただの小僧だ」

 

この孫堅の言葉に他の臣下たちも頷く。

 

「で、そっちが護衛だったか?」

「荊軻に李書文、燕青。みんな頼れる俺の仲間だよ」

「頼れる仲間…なあ!!」

 

孫堅がいきなり殺気を藤丸立香に放つ。

 

「うっ!?」

 

足が強張り、震えるが崩れることはなく耐えきれる。この殺気は本当に殺しに来るようなモノではない。

矛盾かもしれないが殺気を向けられても大丈夫だと思える。怖いけど平気なのだ。

今の孫堅以上の殺気なんて今までいくらでも受けてきた。特に新宿で戦った魔神柱の殺気を超える存在はそうそういない。

あの魔神柱は藤丸立香を殺すためだけに三千年を費やし、憎悪を募らせ続け、たった一個人を殺すためだけに世界を滅ぼす程の計画を立てた。

三千年の憎悪、復讐、殺気を超えるものなんて本当にそうそう無い。だからこの殺気に藤丸立香は耐えられた。

 

(ほう、あの小僧なかなか……む!!)

 

そして今度は別の殺気が放たれる。今度は藤丸立香ではなくて孫堅に。

 

「あっはっはっは。悪ふざけはそこまでにしてくれよ。あんたが孫堅だろうが何だろうが俺らは主のために動くぜ」

 

目が笑っていない燕青の殺気だ。荊軻は匕首を手にかけているし、李書文は静かに拳を握って構える。

少し動いた瞬間に孫呉の武将たちが孫堅を守るように前に出る。だがそれだけで何かが起こるというわけではない。

 

「悪い悪い。天の御遣いの護衛ってのはどれくらいのものか気になってな。気分を悪くしたなら謝ろう。はっはっはっは!!」

 

謁見の間に漂う殺気が消える。

 

「ふうー」

「ちょっと母様いきなりすぎるのよ!!」

「そうですぞ。何をやっておられるのですか!?」

 

臣下と娘に怒られる孫堅であった。

 

「さっき言ったじゃねえか。天の御遣いの護衛がどれほどのもんか気になったって」

「だからって、こんな方法で試さなくてよかったでしょうが!!」

「実力を測るにはコレが一番だ」

 

今の方法に関してヤレヤレと言った臣下もいれば怒る臣下もいるのであった。

何だか賑やかというか、そんな陣営だ。

 

「だが今のでこいつらがなかなかの実力だと分かったじゃねえか」

「まあ確かに…」

 

護衛の3人を、特に燕青を見る武将たち。孫堅に負けず劣らずの殺気をこの謁見の間に放出させた伊達男。

軍師や文官は見ても分からないが武将としての目ならば燕青たちを見ればどれだけの実力かは分かるというもの。

殺気の濃さや身体つき、目つきや目の中の光など。他にも構えや足運びなどを見ても熟練者だと分かる。

 

(護衛3人の腕は確かに一流そうだ)

 

天の御遣いの護衛を名乗るだけの事はあるということだ。

 

「貴様が天の御遣いだとして、貴様は何をしにこの地に参った?」

「孫策さんにも言ったけど…」

 

于吉という道士を追ってここまで来た事を怪しまれないように説明。流石に未来から来たなんて突拍子も無い事を言うわけにはいかないからだ。

というか気が付けば天の御遣いと認識させられているが、藤丸立香は天の御遣いではない。だが何故星の中にいたかと言われてしまえば説明ができない。

 

「大陸を混乱させる道士…于吉か。聞いたことねえな」

 

そう言って他の臣下を見るが臣下たちも首を振る。

 

「于吉か…やはり聞かぬ名前だ。そんな奴がいれば耳に残っていても不思議ではないのだがな」

「そっか」

 

流石にそこまで幸先が良いというわけではないらしい。孫呉の者たちに出会えただけでも運が良い方だ。

 

「これからどうするんだ?」

「于吉を探します」

「どこか宛があるのか小僧?」

「取り合えず、ここいらを調べてみようと思います」

「ふむ、ならオレんところに来ないか?」

「と、言うと?」

「ここを拠点にしてみないかということだ。無論ただじゃねえがな」

 

これも願ってもない提案だ。孫呉の中心にいることができればいずれ黄祖との戦いで于吉と接触できるかもしれない。

 

「お願いします」

「くく、面白そうだ。貴様らはオレが養ってやるよ。その代わり働いてもらうぜ」

 

藤丸立香たちは上手く孫呉に入ることができた。これは過去に来て十分な働きだ。

 

「ふむ、如何に利用なさいますか?」

 

そしてこの揚洲の建業にて住まわせてもらう代わりに何をすれば良いか。

 

「風評よ。管輅の予言も、流れ星がこの揚洲で知らん奴はおらんのだろう。それに太史慈だったか、そやつの口からも我が天の御遣いを虜としたことも劉耀に伝わっておろう」

「なるほど噂を広めますか」

「応。孫呉に天の血が入ったとなれば諸侯はもちろん漢室さえ影響を及ぼせる!!」

 

何かよく分からないことが進行している。もちろんとっても厄介と言う意味で。

とても後悔しそうな働きを命令されそうな気がする。

 

「はて、血とは?」

 

孫策と一緒に居た黄蓋はどうやらよく分かってないようだ。そもそも他の者たちもよく分かっていない。

 

「知れたこと。おい立香、貴様は今日より天の御遣いの種を我が家、我が臣どもにばら撒け!!」

「タネ?」

 

物凄く意味が分からない。というか分かりたくないと理性が警告している。

 

「んなもん貴様の子種に決まってるだろう。精だ精。我が家の女どもを孕ませろと命じている!!」

 

孫堅が何を言っているのか分からなかった。

 

「ああー…そういう」

 

この無茶苦茶な命令に孫策は何故か納得の表情をしている。どうしてそんな表情ができるのだろうか本気で思ってしまう。

 

「母様にしては名案ね。立香が何人か孕ませたら呉に天の血が入ったと宣伝できるものね」

「あは、案外良いかもね」

「でしょ」

 

これは庶民の心にも孫呉の人間に対して畏怖の感情が自然に起こるという狙いもある。

黄蓋も良い案だと笑いながら納得。男冥利の破格な案である。

だがこんなのはあり得ない。

 

「お考えは分かります。じゃが、如何にして諸侯に、それを信じさせるのじゃ?」

 

ここで否定的な感じの言葉を感じる。ここで味方が出来そうである。

 

「確かに衣服は見慣れるものではないが、それを除けばどうということのない普通の若者ではないか?」

「そうですか~。とっても素敵なお顔をしていると思いますけどね~」

「話の腰を折るな」

「まあ、でもそれはそうよね。本当に星が運んできたとしても…この藤丸立香くんは私たちと同じ人にしか見えないわ」

 

同じ人間であるから当たり前だ。

 

「うむ。間近で見る我らでもそう感じるのじゃ。天下の諸侯がその風評を鵜呑みにするとは思えん」

 

もっと批判してほしいと心の中であの小さい女性にエールを送る。

 

「おい立香。言われぱっなしで良いのか?」

「良いです」

「この野郎。まあさような風評なぞ後から勝手について参る。立香が励んで種をばら撒いているうちにな」

「品の無い」

「それに立香はなかなか気骨のある男ではないか。なんせオレの殺気を耐えきった男だぞ」

「ああー、確かに。普通だったら失神してもおかしくないわよね」

「まあ、確かにそこは評価できるが…」

「まずは貴様らが信じることが肝要なのだ。オレは信じた。婆よ、立香が…オレが信じられぬか?」

「初めから疑ってなどおりませぬ。まあ、そういうことでござれば」

 

味方だと思ってたらすぐに孫堅に納得させられた。

いいのだろうかと頭がグルグルしてしまう。こういうのはもっとよく考えるべきだ。とてもデリケートな問題だし、これから孫呉の問題のはずだ。

 

「おう、分かったか」

「ただ、それではまるでお飾りじゃ、今の孫呉にかような者たちを養う余裕はありませぬぞ?」

「分かっておる。立香も種馬の役目だけじゃ、それはそれで身が持たんだろう」

 

他に何をさせられるのだろうか気になる。

 

「いずれは戦場にも立たせる。オレの殺気を耐えたんだから戦の気に巻き込まれんだろう」

 

それは天の御遣いとして兵の発揚に役立たせるためというのもあるものだ。

それにこの時代では戦なんて当たり前だ。その役目で戦えと言うのなら戦うしかない。

 

「それならもう出ているよ」

「ほう…?」

「何じゃお主…戦場に出たことがあるのか?」

「うん。まあ俺自身が戦っているわけじゃないけどね。俺が指揮して仲間たちに戦ってもらっているんだ」

「天の国では軍師だったのか」

 

軍師とは言い切れない。でも第五特異点では自ら手がけた編成により大規模な戦争の勝利に貢献した実績がある。

聖杯探索で培った戦いは彼にとって大きな経験値なのだ。この外史の戦とは勝手が違うが何も役に立たないということはない。

 

「似たような事はしてた。でも本物の軍師として期待されたら困るけどね」

「でも少しはできるのだろう?」

「うん。あと事務仕事もできます」

 

孫堅は一考して黒髪の眼鏡と緑髪の眼鏡の女性に顔を向けた。

 

「公瑾、伯言。立香をどんなものか見てやれ」

「はっ」

「は~い。分かりました~」

「あと、婆もたまに見てやれ」

「分かりました。ですがこんな奴に内政なんて…」

「手伝いくらいはできるだろ」

 

どうやら種馬云々はともかく、孫呉にいる間は軍師の補佐のような仕事をするかもしれない。

こんなことなら諸葛孔明からもっと勉強を教えてもらうべきだった。

 

「では立香の役目は種馬と軍師の補佐などだな」

 

そして李書文たちは藤丸立香の護衛という仕事がある。だが、それだけの仕事は孫堅はさせるつもりはないようだ。

 

「お前らは立香の護衛をしてもらうのは構わん。だがオレの元にいるってことは他の事もやってもらうからな」

「うちの主が良いって言うならいいぜ」

 

燕青の言葉に頷く残りの2人たちだが本来の役目はマスターの守護。それだけは譲れない。

 

「頼むね荊軻、李書文、燕青」

 

彼らの強さならばもう分かっている。李書文と燕青なら将として使えるかもしれない。荊軻に関しては暗殺とか斥候とかに仕えそうだ。

孫堅は瞬時に藤丸立香の護衛たちを分析し、役割を考える。

 

「よし、では立香。種の方は頑張れよ」

「辞退します」

「立香!!」

「何ですか!!」

「貴様はオレの元でタダ飯を食らう気か!!」

「いや、それならこっちには藤太が……いないんだった!!」

 

頼りになる兄貴の1人である俵藤太がいないのは寂しい。

 

「何が不満なのだ。貴様も男なら股に立派なタマがぶら下がっているだろう!!」

「ある」

「お、言ったな?」

「でも、こんなのって…考え直してください」

「ヤれ!!」

 

孫堅と恐れ多くも言い合い開始。

この言い合いに孫策たちは笑っている。そして孫堅と真正面から言い合うの気骨さに少し驚きで面白いと感じる。

 

「ううむ、何とも…これは」

「流石だな我が主」

「はっはっは…はぁ」

 

マスターが種馬になる事に関して李書文は言葉を無くす。

荊軻と燕青も呆れているというか、逆に驚けないという感じになっている。

 

「男だろ!!」

「男だけども!?」

「こんの…だから何が不満なのだ!!」

「不満とかそういうんじゃなくて!?」

 

何処か楽しそうな孫堅。藤丸立香は気付かないが案外、このやり取りを楽しんでいるかもしれない。

 

「まーまー」

「孫策さん…」

「それじゃあ、取り合えず決まりね。でも、嫌がる女の子に無理やりなんてダメよ?」

 

取り合えず決まっていない。

 

「いいや構わん、手当たり次第に突っ込め。オレが許可する。何ならこの場で伯符を孕ませたって構わねえぞ!!」

「何言ってんだアンタ」

「ちょっと、ダメに決まってるでしょ!!」

「ほれ見ろ」

 

やっぱり娘の孫策も母の孫堅の案に否定的なところはあるようだ。

 

「だけど…二人きりの時ならね?」

「おっと、まさかの味方じゃなかった件について」

 

すっと歩み寄んできて、耳元でそんな事を言わないほしい。嫌でも反応してしまう。

男の性とは悲しい。嫌ではないが。

 

「流石に手当たり次第は賛同できませんな。風紀が乱れます」

「そういう問題じゃないと思います」

「そうだな。藤丸、気に入った女子がおればちゃんと口説いてその気にさせるのじゃ」

「ええ、その気にさせて…相手が承知したらその先は何をしても構わないからね」

「うふふ、お姉さんがいろいろ教えてあげてもいいわよ」

「誰も味方はいないんですかー?」

 

味方は本当にいない。味方は絆を深めた荊軻たちだけのようだ。

荊軻たちの方を見るが顔を見て分かる。『頑張れ』と書いてあるのだ。

 

「儂はそういうのは疎いのでな」

「師匠…」

「なあに、頑張れよ主。主なら大丈夫だって。カルデアで何人の女性英霊をモノにしてきたんだよ」

「燕青…モノにした覚えはないんだけど」

「「ほお」」

「その顔は何さ荊軻、燕青」

 

絆を深めた仲間もどうやら良いアドバイスをくれなかった。

多くの特異点を巡ってきた彼にとって種馬になれなんて事はなかった。今回ばかりはとても難関である。

微小特異点を解決するより難しい案件である。

 

「チマチマしてるんじゃねえぞ。とっとと種をばら撒いて孫呉の女どもに貴様のガキを生ませろ!!」

「話を聞いてください」

「聞いてるじゃねえか」

「勝手に話が進んでます」

「良いじゃねえか」

「考え直してください」

「決定事項だ!!」

 

もう止められないようだ。だがどうにかしなければならない。

今回の目的は孫呉を滅ぼす原因を作った于吉を倒しに過去の孫呉に来たのに何で種馬なんかに任命させられたのか。

ハロウィンイベント並みに逃げ出したくなった藤丸立香であった。

 

「じゃあ、これで立香たちは孫呉の一員ね」

「もう一度、自己紹介をするわ。姓は孫、名は策、字は伯符、真名は雪蓮よ」

「オレは炎蓮だ。中々面白そうで気に入ったぞ立香!!」

 

一応、認めてくれたってことで自己紹介が始まる。それも真名まで預けてくれるとは予想外だ。党首である孫堅が真名を預けたのを皮切りに他の武将たちの真名も預けてもらえた。

まだまだお互い知らないことばかりだと言うのに真名を預けてくれる。相手は信頼をしようと歩み寄ってくれているのだ。

種馬云々は置いといて、此方も信頼してもらうように孫呉では頑張らないといけない。いきなり真名を多く教えてもらい過ぎて覚えるのに大変だが、大切な名前だ。

真名を覚えるために無理やり頭に叩き込むのであった。

 

「オレにはそこの雪蓮の他にも、二人娘がいるのだが、今は役目で建業を離れていてな。いずれ紹介する」

 

二人の娘と聞いて思い浮かんだ名前が孫権と孫尚香だ。それにしてもやはり全員女性のようだ。

彼女たちはいずれ紹介してくれるとのこと。残り2人の孫堅の娘たちはどんな人なのだろうかと気になる。

今日の孫呉の出会いは衝撃的であった。

 

 

103

 

 

重い重い溜息しか出ない。せっかく過去に遡って孫呉の陣営に入り込めたまではいい。だが、まさか孫呉で種馬を任命されるなんて誰が想像できるであろうか。

種馬になる気は一切ないが向こうはもうそれで確定している。孫呉の人間は話を聞いてくれない。

 

「どうすればいいんだ…」

「なっちまったもんは仕方ないな」

「他人事だと思って…」

「なあに、そのうち慣れるって」

 

種馬に慣れるのは良いことなのだろうか分からない。そもそも天の血を孫呉に入れると言うが藤丸立香は天の御遣いではないと言うのに。

管輅とか言う占い師の予言とはぴったり当てはまるようだが、それでも違うと思っている。

 

「取り合えず種馬云々は置いといてだ。次はどうするか話そうぜ」

「そうだね」

 

拠点をこの揚洲の建業、孫呉の中に入り込めた。ならば次の段階に進める。

于吉は黄祖の陣営にいることになっている。ならば黄祖のいる荊州・江夏で調べるべきだ。

 

「んじゃ、そこに行ってみるか。隠密行動ってな」

 

そうなると荊軻と燕青たちアサシンクラスの仕事だ。

 

「俺らが離れている間はマスターを頼むぜ李書文」

「心得た」

 

李書文ならそこらの賊や刺客などに後れを取ることはない。

 

「それにしてもやっぱ種馬は…」

 

首をガクンと垂れてしまう。まだ続く種馬任命の話。

 

「あんま気にしてっと頭が痛くなるぜ。マスターも良い歳だしなんだからここいらで女を知っとけよ」

「ななななな」

「興味ない事ないだろ?」

「………はい」

「つーかマスターに好意を抱いている奴なんかたくさんいんだろ。カルデアでそういうのは無かったのか?」

 

藤丸立香が契約したサーヴァントたちの中には好意を持つ者たちがいる。絆を深めていくほどその気持ちは大きくなる。

それなら本当に「実は…」なんてことがないのだろうかと考える燕青。

 

「マシュの嬢ちゃんにあの愛が重い3人組。あのアルターエゴたちや竜の魔女、子供好きのアーチャー、2人組の海賊に二刀流の侍、天才剣士、勝利の女王、女神様…数えたらキリがないぜ」

 

数え出したら本当にキリがない。燕青が挙げた者たち以外にもまだまだいる。

 

「結構際どい事もあったと聞くぜ。つーか、マシュの嬢ちゃんとは何かあるだろぉ?」

「いや、そのマシュとはその…」

「俺らアサシンクラスの最古参で先輩のマタ・ハリの姐さんはどうなのよ。なんか酔った勢いで既成事実かどうとかあったらしいじゃねえか」

「それはクリスマスの…」

「溶岩水泳部の3人はベッドに忍び込んでくるんだろ。絶対何かあっただろ」

「だ、だから」

「嘘か本当か…バレンタインにある女英霊たちから部屋の鍵をもらったとか」

「何で知ってる」

 

ニマニマと面白そうにマスターをいじめる燕青。絶対にからかっている顔だ。

 

「夏の無人島なんて…絶対に何かあったろ!!」

「ないから!!」

「嘘だあ」

「師匠。燕青がいじめる!!」

「そこで儂に頼られてもな」

 

今が頼る時だ。

頼らないと藤丸立香の精神が削り取られそうだ。

 

「…儂はそういうのは分からん。だが男と女はいずれは結ばれる。そうなればそういう行為をするのはおかしくない」

「うん」

「だからマスターあまり気にするな。そして燕青はからかうな」

「へいへーい」

「うん…ん?」

 

今の李書文の言葉を聞くが、何か違う気がする。肯定のような言葉な気がしなくもない。

だが深く考えないことにする。

 

「ま、我が主に経験があるにしろ無いにしろ我らがやることは変わらんだろう?」

「うむ、荊軻の言う通りだ。目的は于吉の打倒」

 

種馬云々は本当に取り合えず置いておくべきだ。目的は荊軻の言う通り于吉を倒すことだ。

目的が達成されればこの過去の世界から元の時代に戻る事ができるはず。そうなれば種馬の役目なんて無くなる。

 

「まあ、その前にその役目が来るかもしれんがな」

「……」

「その日のために練習でもしとくか?」

「え?」

「前にも言った事があるだろう。私は殺す、君は魔力を与える。別の方法で魔力を貰うのも有りかなっ…とな」

 

ドキリとしてしまう。燕青はピュウと口笛を吹く。

カルデアでは電力を魔力に変換して供給しているが、荊軻の言う別の方法の魔力供給が気になる。

別の方法となるとまず一番に思いついてしまうのが粘膜接触による魔力供給である。これを最初教えてもらった時は「え?」と聞き返してしまったほどである。

 

「え、ちょっと、練習で魔力供給って…え?」

「ふふふ…」

 

荊軻がもう酔っているのか、どういう意味で言っているのだろうか分からない。

 

「きょ、今日のカルデア会議はここまでー!!」

 

この後、本当に練習したかどうかは謎である。

 

 

104

 

 

パチリと目が覚める。意識は覚醒しているがまだ眠いと言うのが本音だ。

孫尚香は目を擦りながら周囲を確認する。まず目の前にいるのが寝ずの番をしてくれた周泰だ。

 

「おはよう周泰」

「お目覚めになりましたか孫尚香様」

「ええ。目覚めは最悪だけど……寝ずの番ありがとうね」

「いえいえ。私なら一日くらい寝なくても大丈夫ですから」

 

そう言っているが疲れが溜まっているのが分かってしまう。間違いなく彼女は無理をしているのだ。

孫尚香としては無理せずに周泰に休憩させてあげたいが今の状況では無理である。例え、敵ではなくとも素性の知れない者がいるのだから。

 

「起きたか孫尚香。周泰よ」

 

極限まで鍛えた筋肉の漢女である卑弥呼が朝餉に用意したスープを2人に差し出す。

 

「食べると良い。ワシ特製の朝餉だ」

 

2人は一瞬だけ躊躇ったがスープには毒なんて入っていない。毒殺しなくとも昨日にならその機会がいくらでもあったのだからだ。

もしも彼らが敵だったら毒なんてものは使わないはずだ。

まず周泰が毒見するが別に何ともない。このことから孫尚香も口にする。

 

「美味しい」

「それは良かった。ワシはこれでも良いオノコの胃袋をガッチガチに掴むために料理を勉強しているからな」

「それはきっと無駄な勉強じゃな」

 

そんな事を言う武則天だがスープが美味しいのは確かである。

 

「ワシは料理が出来る漢女なのだ!!」

「うん 美味」

 

まだ安心は出来ないが久しぶりに身体の芯から温まる食事が出来ただけでも良かったと思う孫尚香であった。

そのおかげか少しだけ心に余裕が出来る2人。

 

「ねえ、あんた達は于吉とか言う奴を捕まえる為に旅してるんだっけ?」

「そうだが?」

「なるほどね」

 

孫尚香はスープを啜りながら考える。

 

「于吉とかいう奴が黄祖と手を組んでいるなら…黄祖もあなた達にとって敵になるわよね?」

「そうだな。于吉の奴めが黄祖と手を組んでいればいずれは戦うはめになるだろうな」

 

そこの部分が卑弥呼にとって一番考えたくない所である。もし戦いになれば最悪なケースだと黄祖との軍と全面対決となってしまう。

そうなると卑弥呼でもカルデアでも戦力的に敵わない。だがそれでも戦わないといけなくなる可能性は高い。どうやって最悪なケースとして黄祖軍と戦うかが卑弥呼にとっての難題である。

 

「難題だな。流石に我らでも統率の取れた大軍相手は敵わない。如何に英霊と言えどな」

 

于吉が黄祖と手を組んでいるなら間違いなく妖馬兵もいる。そこに黄祖軍の鍛えられた兵士たちも加わればより強固な軍である。

結局のところ戦争とは数で決まる。質が良くても数には敵わない時があるのだ。

 

「なら私たちと手を組まない?」

「手を組むだと?」

「ええ」

 

孫尚香のまさかの提案。

 

「孫尚香様それは…」

「私に任せて周泰。考えがあるの」

 

彼女の考えこそが卑弥呼たちにとってこれからどう動いていくかが決まるものであるのだ。

 

「私たちは黄祖に負けた。でもまだ終わりじゃないの」

 

彼女の話を聞くと孫呉は黄祖軍に負けた。だが全滅というわけではないのだ。

戦争に負けたあとだが孫呉の軍はバラバラに散らばったのだ。負けたのは確かだが全滅したわけではなく、生き残るために敗走したのである。

 

「今はバラバラだけどいずれは孫呉の生き残りを集めて再起を計るつもりなの」

 

まだ孫呉は負けていない。今ここに孫家の娘である孫尚香が生きているのだから。

 

「バラバラになったということはまだ呉の武将は生きていると言う事か?」

「それは…生きていることを願っているわ」

 

暗くなる2人の顔。

バラバラになって敗走したというが黄祖軍が追撃をしないわけがない。他を助ける為に殿をした孫呉の軍もいれば、追撃によって倒された兵士たちもいる。

だから孫呉の軍はどれほど生き残っているかまでは分からないのだ。それでも孫尚香は大事な人が、信頼する呉の兵士たちが多く生き残っていることを願う。

 

「生き残っているのがどれだけいるか分からない。でも再起は必ず起こすつもり。そのためには新たな仲間が必要なのよ」

 

生き残った呉の兵士たちを集めても戦力的に黄祖軍には敵わないかもしれない。だからこそ新たな力が欲しい。

目の前には4人も強そうな奴らがいる。数の足しにはならないが質は良い人材だと分かる。

 

「一応聞くけど強いわよね?」

「お主らより強いわ」

「えー…あんたってば私より年下っぽいじゃん。それに前線で戦うって感じじゃなさそう」

「いや、お主の方が年下じゃろうが」

 

諸葛孔明は武則天と孫尚香を見て背丈はどっこいどっこいではないかと言う言葉を静かに飲み込んだ。

 

「私と武則天は確かに戦闘向きではない。だがそこにいる卑弥呼や哪吒は戦闘向きだ。私はどちらかというと軍師だからな」

「いや、ワシとしてはそうでも…漢女だし」

「「「嘘を付くな」」」

 

全員の本音が1つになった瞬間である。

 

「それに私たちには仲間がいる。今離れている他の仲間の方がより戦上手の奴がいるさ」

「そうなの?」

「ああ。その他の仲間には武将経験…兵を率いた経験もある奴もいる」

「それなら合格だね」

 

新たに仲間に加えたいと思っていた人にはまだ仲間がいることが分かった。これは嬉しい情報だ。

それでも数人程度だろうが今は少しでも仲間が必要な孫尚香。

 

「で、私たちの仲間になってくれるのかしら。あなたたちは于吉とかいう道士を捕まえたい。私たちは黄祖を倒したい。その2人は手を組んでいる。敵は同じでしょ」

「ああ。それは願っても無い提案だ。よろしく頼む」

 

今ここで卑弥呼たちと孫尚香たちは手を組んだ。敵が同じならばどちらも断ることはない。

 

「やったわ周泰!!」

「はい孫尚香様!!」

 

イエーイとハイタッチしそうな勢いである。

 

「で、これからどうするか宛があるのか。さっき言っていたように撤退した呉の兵士たちと合流するということか?」

「その通りよ。えーっと、孔明だっけ?」

「そうだ。呉の姫」

 

黄祖軍ともう一度戦うには散らばった呉の兵士たちを集めなければならない。そして兵士たちだけではダメだ。

兵士をまとめる武将も必要なのだ。如何に兵士たちを多く集めても先導してくれる将がいなければ宝の持ち腐れになってしまう。

 

「合流するのも大事だけどやっぱり将たる存在も必要よ。やっぱり将と言うなら粋…程普や黄蓋が無事だと良いんだけど」

(程普に黄蓋か。どちらも呉の両翼にあたる武将だな)

 

どちらも呉で活躍する武将だ。もし無事ならば必ず力になる人物たちだ。

 

「どこで合流するかというのも分かっているのか?」

「うん。いくつか合流する箇所は撤退する前に決めてあるの。ここから近い場所だと…北の方に町があると思う」

 

地面に地図を書いて合流場所を書く周泰と説明する孫尚香。

 

「その町なら私たちの仲間もいるな。丁度良い」

「本当に丁度良いですね。貴方たちの仲間と私たちの仲間も合流できて!!」

 

ニパっと笑顔になる周泰。

 

「ならもう出発?」

 

哪吒がスープを飲み干してごちそうさまをする。

 

「そうだな。ところで孫尚香お前たちは2人だけか。他に仲間が離れていたりして待機してないか?」

「してないわよ。私たちはたった2人だけ。勇敢な呉の兵士たちが黄祖軍から逃がしてくれたのよ」

「そうか」

 

彼女の顔から分かる。おそらく彼女たちを逃がした勇敢な呉の兵士たちはもうこの世にはいない。

その勇敢な呉の兵士たちに卑弥呼は称賛と冥福を祈る。

 

「そうだ孫尚香よ。お前の姉にあたる孫権や孫策もどうか分からないのか?」

「……分からないわ」

「孫権様は無事な可能性は高いですけど、孫策様は周瑜様と最後まで黄祖軍と戦っていました」

(どういう考えをしたか分からないが孫策は孫権と孫尚香を生かすために黄祖軍を食い止めることを決めたかもしれんな)

 

この外史では分からないが正史では孫堅の血を継ぐ者が呉をより繁栄させていく。その中でも孫権が呉の地を安定させて繁栄させる。

孫策はそれを直感か何かで分かっていたのかもしれない。孫策の方が覇権を争う戦いが上だが孫権の方は人材の心を掴んでよりよく活躍させて呉を守り安定させるのは上ということだ。

 

「無事だと良いな」

「うん。それと…彼らも帰ってくるといいな」

「彼ら?」

「天の御遣いよ」

 

この言葉を聞いて即座に反応する卑弥呼と諸葛孔明。

 

(おい、確か昨日の段階だと天の御遣いについて彼女は知らないと言っていたんだよな?)

(うむ。昨日の様子からだと嘘を言っているようには見えなかった。ならば…もう既に未来は変わっているということだな)

(それだとどういう風に変わったんだか…)

 

天の御遣いがいる。まさかの情報であるが、彼女の帰ったという発言も気になる。

 

「何て奴なんだ天の御遣いとは。まさか北郷一刀という名前だったりしないか?」

「誰それ?」

「む、違うのか」

 

卑弥呼の中では天の御遣いイコール北郷一刀なのだが彼女はそれを否定した。

この外史ではカルデア以外に異世界者や転生者はいない。そうなると誰になるのか分からなくなる。

 

「名前は何と言うのだ?」

「藤丸立香」

「「「「………」」」」

 

真顔になる諸葛孔明たち。

 

「彼には天の護衛もついていて荊軻って人に燕青に李書文って人たちもいたわ」

「「「「………」」」」

 

物凄く知り合いであった。

 

「そ、そうか」

 

取り合えず仲間だということは一応黙っておく諸葛孔明たち。ここで仲間と言ったらややこしくなりそうだからだ。

 

「まさか びっくり」

「じゃのう。何をやっているんじゃマスターは…」

 

哪吒と武則天は己のマスターが過去で何をしているのか気になるのであった。

 

「…その藤丸立香というのは一体?」

 

白々しいまでに自分のマスターの事を聞く諸葛孔明。

 

「呉の地に降り立った天の御遣い…役目を果たしたとかで帰っちゃったけどね。何よ役目ならまだ果たしてないじゃないのよ」

「役目?」

「うん。姉様から聞いただけだからどんな役目を果たしたわからないけど…立香たちは役目を果たしたから天に帰っちゃったの」

 

孫尚香は天の御遣いの役目について全てを知っているわけではない。それはカルデアや卑弥呼たち側の目的を詳しくまでは知らないからだ。

 

「天の御遣いの役目はこの大陸の戦乱を終わらせる事です。でもそれは1人目の役目だったのかもしれません。立香さんは2人目らしいですから別の役目があったのかもしれません」

(1人目と2人目…2人目がマスターか)

(ならば1人目がやはり北郷一刀だな)

 

過去の呉で藤丸立香たちがどのように関わったのか気になる。

彼らの役目とはおそらく呉の過去を修正するということだ。だがどのように何を修正したかまでは現在の諸葛孔明たちは分からない。

 

「マス…藤丸立香の役目か。どんな内容か本当に分からないのか?」

「分かんないわよ。私が知っている立香の役目は1つだけだし」

「ん、他にも役目があるのか?」

「ええ」

「何だそれは?」

「それは~ウフフ」

「ん?」

 

孫尚香は小悪魔スマイルで頬を染める。

 

「立香の、天の血を呉に入れることよ」

「あははー、まあそれはですね」

 

周泰も何故か頬を赤くしている。

 

「天の血を呉に入れるだと?」

「立香と子を作るってこと」

(マスターは過去の呉で何やっているんだ!?)

 

これを清姫や源頼光たちが聞いたらどうなるか想像したくない。そもそもマスターに好意を抱いている英霊に聞かせるわけにはいかない。

諸葛孔明は顔を手で抑えてしまいながらため息が出る。

 

「おい小娘。子を作るとか言ったのか?」

 

武則天が据わった目で孫尚香を見る。

 

「ええ、そうよ。私が一番に立香との子を作るつもりだったのよ」

「ほぉー……マスターめ帰ってきたら拷問じゃな」

 

ボソリと怖い事を言う武則天。

 

「でも立香はその役目を果たさずに帰っちゃったけどね。何で勝手に帰っちゃうのよ…」

「…その帰ったというのが藤丸立香が本来の役目を果たしたからなんだな」

(恐らくというか絶対に立香は過去の呉で何かをしたからこそ役目を果たして帰ったのだろうな)

(ということはもう現在に戻ってきているということか。そして既に過去改変によって現在も変化が起きている)

(そうだな。貂蝉はもう何か知っているかもしれん)

 

そうなるとやはり一旦町に戻って貂蝉たちと合流するのが一番だ。

 

「その本来の役目とやらは姉様たちなら知ってるかも。私はただ姉様から立香が役目を果たして帰ったとしか聞いてないから」

「なるほどな」

 

取り合えず今の段階だと町に戻り貂蝉たちと合流。そして孫尚香たちの仲間と合流することが今の彼らのすべきことである。

現在のこの地でもやることはまだまだある。だが泣き言は言っていられない。過去で藤丸立香たちが頑張ったというのならば今は現在に残っている卑弥呼たちも頑張るしかないのだ。

 

 




読んでくれてありがとうございました。
次回は来年の1月中に更新予定です。

はい。この物語では一刀が呉にいないので立香が種馬の役割を任命されました。
溶岩水泳部たちを筆頭に立香に好意を寄せる英霊が本気で時空を超えてきそうです。

まあ、立香はその役目は果たしませんがね。彼女たちを幸せにするのはやはり一刀で立香が果たす役目は種馬ではなくて間違った運命を修正することですから。
でも、まさかの役目に立香は一刀よりもアワアワします。

次回は過去の呉の日常編や、現在での貂蝉たちサイドの話を考えております。
では。また。




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