Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

265 / 297
こんにちは。

もうすぐでGWですね。なんかもうGWかぁ…なんて感想です。
ということでもうすぐFGO×ACのコラボ!! 気になるところですね。
まさかコラボ開始前からティアマトが実装されるとは予想外でした。
早速ガチャりました。コラボ当日は誰が実装されるのか戦々恐々です。

さて、こっちの物語『南蛮編』ももうすぐ終わりです。
何だかんだで南蛮編も長かったなあ…
では本編をどうぞ。


南蛮大乱戦-南蛮決戦⑤-

879

 

 

孟獲を裏から唆していた黒幕である影姫。

桃香と孟獲は停戦を結び、今だけは影姫を捕縛するために戦う。そして藤丸立香たちも合流し、戦力は上だと思われるが影姫の実力は予想外であった。

 

藤丸立香たちは影姫の実力が神霊並みと判断したのだ。彼らの緊張感から桃香たちは何も聞かずとも慢心は全て消し去っている。

桃香は怖くとも靖王伝家を握り、北郷一刀は次元刀の柄を握っていつでも抜刀できるように構える。

 

「その程度の戦力で私に勝てると?」

 

 

影姫の周囲から黒い瘴気が展開していく。

 

「完全ではないとはいえ、異物どもや愚かな人に私が負けるはずがありません」

 

黒い瘴気は広がり、既に藤丸立香たちの所まで到達している。身体に黒い瘴気が触れているが今のところ異常は無い。しかし良くないものだというのが嫌という程に理解できる。

 

「ぬうん!!」

 

李書文(殺)は気を発して黒い瘴気を吹き飛ばすがすぐにでもまた黒い瘴気が展開されて身体に纏わりつくように広がっていく。

 

「なんだコレは…?」

「解析してみよう」

 

司馬懿(ライネス)が術式を展開して解析する。

 

「この黒い瘴気を調べようとしても無駄です。その前に貴女たちは飲まれるのですから」

 

黒い瘴気はより濃く広がり、藤丸立香たちを飲み込んでいく。

 

「マズっ令呪を」

「ご主人様!?」

「桃香!!」

「うにゃにゃにゃにゃにゃ!?」

 

辺り一面は黒い瘴気に飲み込まれた。もはや黒いドームのように展開されたのだ。

 

「暗い。何も見えない…何も聞こえない?」

 

視界は真っ黒。声を出しても自分の声すら聞こえない。南蛮の森の匂いすら臭わない。暗すぎて身体を動かしているのかも分からなくなる。

影姫は此方側を見えているのか。それとも同じく見えていないのか。もしも見えているのであれば此方側はただの的である。

赤い珠を展開していたのを思い出すと、アレは放出する攻撃だ。この状況では何も見えない聞こえないでは回避できない。

 

「ぬう…何も気配が感じられん」

「なんだコレは解析ができない?」

 

自分は言葉を発しているつもりだが本当に自分の声が聞こえない。近くに誰か居たはずなのに手を伸ばしても触れた感覚がない。

解析は出来ないがどのような能力は大体分かる。現段階では五感を封じる能力というものだ。

 

「暗いよご主人様ー!!」

「何も見えない。桃香、立香どこにいるんだ」

「うにゃにゃにゃにゃにゃ。なんなんにゃーー!?」

 

何も見えない、聞こえない、匂わない、触れられないとは怖いものだ。最初は違和感を感じるが徐々に恐怖が滲み出てくるものだ。

 

「七乃ーーー、どこじゃ怖いのじゃーー!!」

「何も見えないんですけど…お嬢様何処?」

 

黒い瘴気内ではそれぞれが何かしら動きをしているが全員が何も感じられない。

無暗な行動は命取りだが何も行動を起こさないのも命取りだ。その矛盾さが焦りを滲み出させて精神を蝕んでいく。

何も出来ずに五感が失われた場所にいるというのは酷く精神を削らせていくものだ。

 

「この空間では何も出来ない。暗闇に溶けてしまいなさい」

 

この黒い瘴気内で唯一、己を保てるのは発動者の影姫のみだ。残りは黒い瘴気に飲み込まれていくだけである。

 

「これは駄目だここにいるのは駄目だ」

「敵を感じられん…」

「これちょっとマズイどころじゃなくて相当マズイんじゃないか?」

「ご主人様、藤丸さんたち何処にいるのー!!」

「これはこの世界に来て一番ヤバイかもしれない」

「七乃ーー!?」

「これって本当に駄目なやつかも」

「くらいにゃーーーーー!?」

 

この瞬間、全員とも喋り出したのだが誰も聞こえていない。

 

「この黒い瘴気の空間内は五感を失わせるもの。それはきっと彼らも気付いているでしょう」

 

黒い瘴気内で影姫は藤丸立香たちの様子を悠々と見ている。それはとても余裕そうである。

 

「この空間内ではただ五感を失わせるものではありません。五感を失うとは一切何も感じないという事です。であれば時が経てば経つほど己を失うという事ですよ」

 

何も見えない、聞こえない、触れられない、匂わない、そして味もしない。それは人間として生きている事にならない。

影姫の出す黒い瘴気とは人間の精神を無に帰す力なのだ。

 

「誰が最初に無に帰るでしょうか?」

 

淡々と誰にも聞こえない言葉を呟く影姫。

 

「安心してください。無となり、土に還ればより良い人に創り直してあげます。しかし異物どもはそのまま消えなさい」

 

無に帰す空間。藤丸立香たちは黒い瘴気に、無に飲み込まれていく。

 

「暗い…何も感じない。そして精神が溶けていく感覚がする」

 

藤丸立香は何も感じられない空間で思考を続ける。恐らく思考を止めたら己が消えると分かってしまったのだ。

今だに影姫から次のアプローチがないのであれば完全にこの状況こそが精神攻撃なのだと理解できる。

 

「アフロディーテの精神攻撃や失意の庭とはまた違ったものだ」

 

どちらも己が壊れてしまう程のものだったが、今回に関しては壊れるというよりも無に帰される。どちらにしろ精神を強く保たねば耐えられない。

 

「いや、耐える耐えられないじゃない。ここから早く抜け出さないといけない」

 

今はまだ耐えている藤丸立香だが既に危険だ。考えるのを少しでも止めれば意識が止まりかけるのだから。

感覚がないので意識できないがきっと嫌な汗がダラダラな状態である。

 

「どうすればいい…どうすれば……どう…す…れば」

 

考えているだけではいけない。五感は奪われて意識だけが辛うじて残っている状態だ。

藤丸立香だけでなく、北郷一刀や桃香たちも危険な状態である。司馬懿(ライネス)や李書文(殺)も意識が消えかけている。

 

「これはいかん」

「クッ、流石にこれは」

「怖いよご主人様……」

「ヤバイ。もう意識が」

 

袁術と張勲、孟獲はもう危険な状態である。

 

「な、なな…ななの」

「お嬢様?」

「ねむいにゃ…ねむいってなんにゃ?」

 

今まで強大な敵と戦い、圧倒的な能力と立ち向かってきたが今回もまた異質な能力で恐ろしい。

 

「ど…う…する。こ、このままじゃ…」

 

もはや意識が消えかけている。思考を続ける事も出来なくなる。

心を透明にしても意味がない。透明したところで無の前では意味がないのだから。

 

「こ、こんなところで消えるわけには」

 

藤丸立香は心を強く保つ。まだ保つ。消えるわけにはいかないという精神で耐えているのだ。

 

「あの異物である人。普通はもう無に帰してもおかしくないのですが…何故まだ保てるでのしょうか?」

 

影姫は黒い瘴気内の中で未だに精神が無にならない藤丸立香に怪訝な顔をする。

 

「あの者の精神は…なんでしょうアレ。普通そうに見えましたが普通じゃない。よくまだ保ってますね。いえ、もう壊れているの間違いですか?」

 

この黒い瘴気内は正常の精神の者にこそ効果的だ。しかし既に精神に異常を起こしている者に関して言えばより効果的か、逆の場合もありえる。

 

「効いてはいますけど…効果は少し薄いですね。これが無にするではなく、精神を壊す方面でしたら効いていなかったかもしれません」

 

異物の人でありながらも黒い瘴気に耐えている藤丸立香に対して影姫が思う事は1つ。

 

「あの異物である人はなんて異様なんでしょう」

 

異様。精神が壊れていてもおかしくないはずなのに普通そうにしているのが異様に見えたのである。

 

「しかし無に帰すこの瘴気内で無意味。壊れていようが無の前では精神は消えるのです」

「…………消えるわけにはいかない。今までの旅路の記憶が消えることは駄目なんだ」

「え?」

 

弱まっていた藤丸立香が無に帰すのは時間の問題かと思っていたが影姫にとってまさかの出来事が起きる。

 

「まだ答えを見つけていない。まだ足を止められないんだ」

 

藤丸立香の精神に強く結びつく記録が影姫の黒い瘴気を打ち払う。

 

『異端のヤガ』。『花園の少女』。『不死鳥は大地に』。

『家族の肖像』。『アルゴノーツ』。『共に明日を』。

『そして、大江山にて』。『2018年のグロスター』。

『燈る祈りを胸に掲げて』。『あの遠い夜の日に』。

 

藤丸立香は感覚の無い拳を胸に当てる。胸に拳を当てているのかも分からないのに。

 

「ここにはただ意志がある。負けないという強い意志があるんだ。だから最後まで諦めないと誓って走り抜けるんだ」

 

拳に力が入る。暗いが誰が何処に居るのかが分かる。自分の声が聞こえる。

 

「そんなありえない。この瘴気内で無に帰す事に耐えた…いえ、突破したのですか?」

 

令呪が紅く輝く。

 

「力を貸してくれエドモン・ダンテス。ここを突破するんだ。虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ!!」

 

藤丸立香の横に外套を纏った男が現れ、蒼き業火が黒い瘴気内で燃え上がる。

 

「なっ!?」

 

この空間に囚われているというのならば誰も脱出(脱獄)できなかった、生きて誰も出られなかった場所から抜け出したという概念が有効だ。

彼にはその力がある。エドモンとの絆礼装の力。エドモンの宝具の力。

地獄の如きシャトー・ディフで培われた鋼の精神力が宝具と化したもの。肉体はおろか、時間、空間という無形の牢獄さえも巌窟王は脱出するのだ。

その概念であればこの黒い瘴気内。否、黒き空間を突破する。

 

「そんな…異物とはいえただの人間がこの黒い瘴気を突破するなんて」

「駄目押しだ。一刀、その刀でこの空間を斬れ!!」

 

もはや影姫の展開した黒い空間は崩れた。なれば他の囚われた者たちも五感が戻ってくる。

北郷一刀はバチっと電気が走ったように覚醒し、瞬時に藤丸立香の声を聞いて瞬時に何をすれば良いか理解した。本能で意識し、腕が動いたのだ。

 

「うおるぅらああああ!!」

 

次元を切り裂く刀を抜刀し、真上に向けて振るうと黒い空間が真っ二つに切断された。

黒い空間は霧散していくように消えていく。

 

「完全体ではないとはいえ私の山河社稷図が破られるなんて予想外でした。次元を切り裂く剣があるなんて報告は聞いてませんね。そして異物…カルデアとやらの力を過小評価しすぎたようです」

 

影姫はほんの一瞬だけ驚いたがすぐに冷静に戻っていく。

 

「みんな無事!?」

 

すぐさま全員の安否確認。全員とも無事である事が確認された。

 

「これは我が弟子に救われたな。そして北郷にもね。それにしても空間支配の力とは厄介だ。宝具級じゃないか」

 

司馬懿(ライネス)だけでなく影姫の恐ろしさはこの場にいる全員が痛感した。

 

「私の支配する空間を脱出できた事には驚嘆しました。賞賛します。しかしそれだけが私の力だと思わない事ですよ?」

 

切り札とも言える程の力を破られても影姫は余裕の佇まい。それは彼女はまだ力を隠し持っているという事である。

 

「まずはあの象をこっちに呼び戻しますか…おや?」

 

影姫が狂暴化させたパヤパヤを呼び戻そうとした時、大きな音が響き渡った。

 

 

880

 

 

黒い空間に藤丸立香たちが飲み込まれた頃、徴姉妹と赤兎馬は狂暴化したパヤパヤを相手取っていた。

 

「姉さんなんか向こうで黒いドームみたいのが見えるんだけど」

「うん。そして魔力が流れ込んできた。マスターが令呪を使用したんだと思う」

「私にも令呪の魔力が流れてきました。これは短期決戦のお望みのようです」

 

狂暴化したパヤパヤは命を削って暴れている。孟獲の為にも出来るだけ傷つけずに止めたいところである。

 

「すぐに策を考えます。5分ください」

 

徴側は周囲の状況を分析、思考する。

 

「桃香様は…って、なんだこの獣は!?」

「でっかいのだ。ほんとでっかいのだ!!」

「なんですかー!?」

「わんわん」

「これは…大きな象?」

「デカッ!?」

「斬り甲斐がありそうじゃねえか」

「いやいや…その剣で斬れるのか。私の鞭でも難しすぎるぞ」

「「大きーーい!!」」

「こんな大きな動物が南蛮にいるなんて…」

「見事な象だな」

「見事すぎんだろ」

「巨大な幻想種と大差ないな」

「しかしマシな大きさだろう」

「これをマシな大きさだと言う李書文に儂は少し気になるな」

「ちょっと兀突骨の時よりでかくない?」

「それよりも桃香様は何処に!?」

 

タイミングが良いのか悪いのか分からないが各所で戦っていた者たちが合流。

 

「うわっ。いっぱい来たよ姉さん」

「皆さん、少しでもいいのでその大きな象さんの動きを止めてください。であれば私たちが決めます!!」

 

徴側は大きな声で全員に聞こえる様に指示を出す。

 

「ちょ、こんな大きな動物を止めろって」

「任された」

「え」

 

荊軻を筆頭にカルデアの英霊達はすぐに動いた。

 

「ちょ、判断はやっ」

「まあ、やらないといけねぇんならヤルしかねえな。それにこんなデケェ獣を狩るのは初めて…いや、つい最近デケェ龍を相手したか」

「そうだったわね。ならこんなの可愛いものだったわ」

 

炎蓮と雪蓮も剣を抜刀して動く。

 

「おら、蒲公英いくぞ!!」

「もー…何で蒲公英がこんなのを相手に」

 

魏延は気合を入れて、蒲公英は文句を言いながらも動く。

 

「頑張りましょうか傾さん」

「うぐ…こんなのを相手するのか」

「倒せじゃなくて動きを一瞬止めればいいんだからマシだろう」

「こんなバカでかいのを一瞬止めろというのが無茶な話だ」

「「がんばろー!!」」

 

狂暴化したパヤパヤを一瞬だけ止めれば良い。徴姉妹と赤兎馬は魔力を開放。

 

「大きすぎる獣を一瞬止めるとは簡単そうで難しい。しかしやりようはある。けっこう単純に」

 

狂暴化した象とはいえ、相手は獣。獣と人間の知恵比べで人間は負けてはいられない。

 

「知恵比べと言っても一気に攻撃して動きを止めるだけだけどな」

「脳筋じゃん!!」

 

獣であっても「コレは危険だ」という本能は働く。ならばパヤパヤには動いたら危険だという状況を作れば良いのだ。

 

「単純でやりやすいだろ?」

「そこは否定しない」

 

燕青の言葉に頷く蒲公英。

 

「んじゃま、あのデケェ象の片側から一斉攻撃だ。倒れたらマズイって事を教えてやろうぜ」

 

真横から一気に攻撃すれば態勢を崩し、倒れる。それはパヤパヤも望んだものではない。

なればパヤパヤは倒れないように踏ん張り、動きを止める事になるのだ。一瞬だけ動きが止まればあとは徴姉妹たちの仕事だ。

 

「赤兎馬さん。象さんの足元に撃ってください!!」

「任せられた。離れるのです皆の者!!」」

 

赤兎馬は大きな弓を出現させ、己が使う大きな槍を矢の代わりとする。

 

「人中に呂布、馬中に赤兎、今や一つ。偽・軍神五兵(イミテーション・ゴッドフォース)!!」

 

放たれた大きな槍はパヤパヤの足元の地面へと着弾し、爆発を起こす。パヤパヤも流石に態勢を保てずに地面へと倒れるのであった。

 

「行くよ弐っちゃん」

「うん」

 

水を剣のように形成させて徴姉妹はパヤパヤの二股に分かれている尻尾に跳ぶ。

 

「姉さんあの青い尻尾だ。何で尻尾か分かんないけど、あの尻尾を斬れば元に戻る」

 

パヤパヤの二股に分かれているうちの青い尻尾。その部分に魔力を強く感じ、影姫から魔力を供給させられているアンテナのような役割をしていると徴弐は調べ出していたのだ。

 

「すぐ元に戻すからね象さん!!」

 

徴姉妹は交差するように青い尻尾を切断した。

 

「パオオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

パヤパヤは雄叫びを上げながら魔力を霧散させて元の桃色の小さな象へと戻った。

 

「パヤ…パヤ」

「よしよし。もう大丈夫ですからね」

 

徴側は優しくパヤパヤを抱き抱えて撫でるのであった。

 

「向こうの黒いドームみたいのが消えてる」

「行きましょう。マスターたちが心配です」

 

 

881

 

 

強化し、狂化させたパヤパヤに送っていた妖力が途切れた。それはパヤパヤが影姫の術式から逃れたという事。それは負けたという事である。

チラリとパヤパヤが暴れていた方向に視線を移すと複数人の気配を感じる。もしかしなくてもパヤパヤの相手をしていた徴姉妹たちだ。

 

「先ほどよりも人数が多いですね」

 

徴姉妹たちだけでなく、傀儡姫を相手していた愛紗や雪蓮たちも合流していた。

 

「傀儡姫は全滅。孟獲は私を裏切り、強化させた象は敗北。僵巴兵も徐々に減っている。これは潮時ですかね」

 

影姫は「もうお遊びは終わりか」と小さく呟く。

 

「愛紗ちゃんたちみんなも無事だったんだね」

「自分の偽物なぞに負けません」

「桃香様がご無事でワタシも安心しました!!」

「決着は着いたんだな焔耶」

「お館…ああ、このワタシが負けるはずないだろ」

「ああ。信じてた」

 

負傷はしているが集まった全員は無事だ。その事実に桃香と北郷一刀は胸を撫でおろす。

 

「立香は平気?」

「ああ。オレも大丈夫だよ雪蓮」

「マスターが無事でリャンも安心しました」

「ほんとです。変な黒いドームみたいのが見えた時は何が起こったのかと思いました」

「なんだったのアレ?」

「あはは…」

 

実は相当危険だったのだが作り笑いで誤魔化す。しかしバレて説教を受けるのは時間の問題である。

 

「パ、パヤパヤ!?」

「孟獲さん。この象さんは無事ですよ。ちょっと疲れているので寝ているだけです」

「パヤパヤァァァ!!」

 

孟獲は徴側からパヤパヤを受け取ってギュッと抱きしめるのであった。

子供の頃から一緒に育ったパヤパヤは孟獲にとって特別な象である。

 

「さてと…あとは影姫だけですね」

 

徴姉妹だけでなく全員が影姫に視線を集中させる。

 

「勝てる戦かと思いましたがまさか負けるとは…どの時代であっても予想が付かない事が起きるものですね」

「投降をお勧めします」

「投降致しません。負けたのは南蛮ですから」

「え?」

「私は負けてませんよ。このまま相手をしてもよろしいですが帰ってやる事が出来たので」

 

十分に遊んだし、そろそろ帰るかという感じだ。とても敗北した感情ではない。

 

「この状況で逃げられると思ってるの?」

 

徴弐は水の剣を形成し、すぐにでも振るえるようにする。

彼女だけでなく、他の面々も影姫を討伐・捕縛する構えになっている。特に獣化している者たちの感覚は鋭くなっているのですぐにでも動ける。

 

「この数なら全然余裕ですが…」

 

影姫が少しだけ警戒しているのは山河社稷図を破った異物たちである。

 

「やはり相手取るのは面倒ですね。しかし全滅させようと思えば出来ますね」

 

大きな威圧感が場を支配する。

その威圧感に全員が警戒心を強めた。感覚が鋭くなっているからこそ影姫が只者でないと理解出来る。

 

「南蛮は緑豊かで良いですね」

「ええ。ですが何の話ですか?」

 

影姫が急な世間話に徴側は警戒しながらも返す。

 

「いえ、燃えたら南蛮は火の海になりそうだなと」

「まさかっ!?」

 

徴姉妹が素早く動くが影姫の方が早かった。

 

「火鴉壺」

 

大きな火で形成された鴉が展開されて大きく弾けた。弾けた火の塊は南蛮の森へと広がった。

 

「火が!?」

「うふふ。早いですが此方が早かったようですね」

 

水の剣を影姫は蛇の装飾が付いた黄金の杖で受けとめていた。そして弾き返す。

 

「火の回りが早いですよ?」

 

南蛮の森に火が燃え上がり、より広まっていく。

 

「本当に火の海になりそうですね。この火の中であなた方は生きていられますか?」

 

山火事ではなく森火事と言うべきか。火事のど真ん中での生存率は絶望的だ。

 

「生きていられるかと言うが貴様はどうなのだ!!」

 

傾は至極真っ当な疑問をぶつける。火事のど真ん中にいるのは影姫も同じである。

 

「うふふ、私が火で焼け死ぬ事はありませんよ。そうだ次は火にも強いように人を創り直さないといけませんね」

「つ、創り直す?」

 

傾もまた桃香と同じように影姫の言っている事が分からなかった。

 

「では、ごきげんよう。あなた方が燃え尽き、灰となったならば材料としてこねて創り直してあげます」

 

燃え上がる火の中へと影姫は悠々と入り、消えていった。第三者からしてみれば自ら自殺する為に火の中に入って行ったようにしか見えなかった。

 

「な、自ら火の中に!?」

 

本来あらば追いかけるべきであるが火の海状態では不可能だ。

 

「火が、火が…南蛮がもえてるにゃあああ!?」

「お、おおお、おちつて孟獲ちゃん!?」

「と、桃香も落ち着け」

 

火事のど真ん中にいて人は冷静になるのは難しいものだ。

燃え上がる火の回りが早く既に南蛮の森は広く焼かれている。

 

「落ち着いてください」

「大丈夫だから」

 

燃え上がる状況で冷静なのは徴姉妹。

 

「徴側さん、徴弐さん?」

「マスター。さっきもらった令呪の魔力を使わせてもらうね」

「さっきは宝具を撃たなかったからね。火消しに専念できる」

 

徴姉妹は魔力を開放し、霊気再臨。

 

「え」

「その姿は…」

「か、みさまにゃ?」

 

神々しい白と蒼の衣に、蓮の花弁と葉が浮かんでおり、雨の雫のような装飾が飾られていた。

今まで感じていた徴姉妹とは雰囲気が一変し、神々しく、神聖な風格を表していた。

 

「徴側さん、徴弐さん?」

「ふふ。びっくりしましたか桃香さん」

 

返事が返って来た事に桃香はホッとした。姿、雰囲気は変わっても徴姉妹は徴姉妹なのだ。

 

「孟獲さん大丈夫ですよ。貴女の国を故郷を燃やせはしません」

「にゃ…かみさま」

 

徴姉妹は燃え上がる火の中で手を繋ぎ合わせる。

 

「「繋いだ手。川のせせらぎ。見上げる空。天より恵みあれ」」

 

2人の言の葉と両手を空に掲げると雨雲が広く発生し、鎮火させる恵みの雨が降り注いだ。

 

「雨にゃーーー!?」

「うそ、なんでいきなり雨が」

「南蛮反乱勢の子たちが2人を神と言っていたのはあながち間違いではなかったかもしれないわね」

 

徴姉妹は本来、神ではない。しかし神性持ちである。

それは彼女たちの持つある逸話から雨乞いの神へと祀られた事に由来しているのだ。

 

「自分が神として祀られるなんて思わなかったけど…こうやってみんなを助けられるのなら」

「神様になれて良かったとは言わないけどね」

 

恵みの雨により南蛮の森に燃え上がった火は瞬く間に消え去った。

 

 

882

 

 

ポツポツと雨が降り注ぎ、燃え上がる火の中を悠々と歩く影姫は歩みを止めた。

火は瞬く間に鎮火され、今や雨に打たれるだけだった。水の滴る良い女とはまさに今の彼女だ。

 

「雨ですか。偶然というわけではありませんね」

 

歩いてきた道を振り返って対峙していた双子を思い出す。そして遠くにいる双子の神性を感じ取る。

 

「南蛮の者たちが言っていた神とはあながち嘘じゃなかったみたいですね」

 

蛇の装飾が付いた黄金の杖を強く握る。

 

「異物どもの神め。この大陸に私の許可なく脚をつけおって……まあ、いいでしょう。これから生まれ変わる大陸に異物は消え去る運命なのですから」

 

スルリと影姫は懐から赤い髪の毛を取り出した。

 

「しかし良い収穫もありました。やはり触媒がある方が出来が良いのですよね。あの子たちの他に新たな姉妹が出来そうです」

 

赤い髪の毛を大事そうに懐に仕舞う。

 

「雨に濡れるのも悪くないですが早く帰って湯に浸かりたいですね」

「湯ではなく毒でどうじゃ?」

「おや」

 

影姫の足元に毒沼が展開され、ズブリと両足が嵌る。

 

「そのまま毒に沈んでいくがよいぞ?」

 

気配なく茂みから現れるは武則天であった。

 

「隠れるのが巧いですね。気付きませんでした」

「う~む。もう少し顔を歪めてほしいものじゃな」

 

毒沼に嵌っても影姫は余裕そうであった。そもそもベールで顔が隠れているので感情は見えないのだが。

 

「逃走経路を予測してくれた朱里に感謝じゃ。彼女も諸葛孔明…くふふ、妾の国に欲しい人材よな」

 

パチンと指を鳴らすと酷吏が召喚される。

 

「これより妾の拷問タイムじゃ。色々と教えてもらうぞ?」

「うふふ。まさか私を拷問しようとしているのですかね。それは無理というものです。貴女1人程度なんてどうにでもなりますから」

「不敬。妾を甘く見た罪じゃな。しかし残念ながら妾1人じゃないぞ?」

「ごきげんよう影姫殿」

 

また茂みから出てきたのは陳宮であった。何故か脇に天和を抱えて。

 

「ご苦労様でした張角殿」

「あの~…もう帰っていいかな?」

 

何故、天和まで連れてこられたかと言えば多くの僵巴兵から掻い潜るためだ。

羊の目に近い視力になっており、横に広く視えるのだ。僵巴兵の配置箇所を確認してもらい陳宮が見つからずに掻い潜る通り道を見つけ出しながらここまで到達したのである。

 

(なんかまずい場所なのは分かるんだけど)

 

取り合えず遠くに離れる天和。

 

「軍師が1人増えたところで戦力は変わらないと思いますが?」

「武則天殿。酷吏をたくさん召喚してください。この時の為に魔力を溜めておきましたので」

「貴様、妾の酷吏を宝具の弾丸として平気で消費する気じゃろ!!」

「はい」

「即答で不敬すぎる!!」

 

陳宮は指でチョイチョイと動かして「はよ弾丸くれ」というニュアンスだ。

 

「あなた方のふざけ合いを聞いている暇ないので帰りますよ」

 

影姫は平気そうに毒沼から脚をあげる。

 

「本当に効いてなさそうじゃな。やはり宝具を展開するか」

 

武則天は魔力を開放する。

 

「武則天殿。早く弾を」

「黙っとれ外道軍師!!」

 

影姫は無視してそのまま帰ろうかとしたが脚を止めた。

 

「其方の企みはここまでである。今ここで終わらせよう」

「楽にしてあげるわ」

 

影姫の目の前にいるのは項羽と虞美人であった。

 

「流石の貴女もこの2人であれば余裕はないでしょう?」

 

陳宮は眼鏡の位置をクイっと戻す。

 

「…私も甘く見られたものですね」




読んでくださってありがとうございました。
次回の更新はGW内を予定しております。



879
黒い瘴気内(黒き空間内)
はい。封神演義(フジリュー版)の山河社稷図が元ネタです。
天下統一伝の彼女も攻撃モーションで黒い瘴気みたいなもので敵を包み込むようなものがあると聞いたので、もしかして意識してたのかなっていう個人的解釈でこの物語で似たような能力になりました。

そして赤い珠の攻撃モーションもありました。あれは紅珠だったりするのかなって思ってます。

藤丸立香はアフロディーテの精神攻撃や失意の庭を突破しているので精神攻撃の類には耐性はあると思ってます。
てかそもそも彼の精神は……うん。
なので影姫も立香の精神状態はおかしいと思ってます。


影姫の山河社稷図の突破。
失意の庭を突破した立香の精神。彼の心に結び付いた異聞帯での概念礼装。そしてエドモンの宝具と絆礼装なら突破できるという展開にしてみました。


880
パヤパヤを止める総力戦でした。
もっと深く書けたらと思いましたがこれが限界でした。
流石に赤兎馬の宝具を直撃はマズイので足元に撃って体制を崩し、アニメ版と同じように二股の尻尾を斬って元に戻しました。
なんか集まった皆が本当に必要だったか微妙なところだったな…。


881
南蛮の森が燃える。
実は英雄譚5の話から思いついたネタでした。

火鴉壺
これは影姫のモーションにありませんでしたが火の力の宝貝を調べていたらコレが出ましたので使わせていただきました。

徴姉妹の雨乞いの力。
これで燃え盛る南蛮の森を救いました。
彼女たちの第三再臨の姿と神性があればそりゃ神様だと南蛮の子たちは思っちゃいますよ。てか神様ですもん。


882
影姫が持っていた赤い髪の毛。誰のかバレバレですよね。
ソレを触媒にあの3人に新たな姉妹が生まれます。
……李書文や赤兎馬の毛じゃありませんよ?

武則天はここにいました。
朱里を活躍できなかったのが惜しい…。
そして陳宮は武則天の酷吏を宝具の弾丸として使いたがる。公式なんですよね。

そしてそして前にチラっと項羽と虞美人が南蛮に向かったと書きましたがココです。
チョイ役ですけど実は大事な部分になったりする予定です。
次回で影姫との戦いに………まあ、あっさりです。どういう事は次回をゆっくりとお待ちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。