Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
ちょいとお久しぶりです。
FGOではまさかの新イベント『風雲からくりイリヤ城』が始まるとは思いませんでした。更に新サーヴァントである果心居士まで実装。絡繰り娘…これは良い。
ガチャりましたがまだお迎えできてません。
ともかくボックス頑張りましょう。
恋姫ではあらたな戦国†恋姫EX参の情報が徐々に公開されてます。
クライマックスらしいですがどうなるか気になりますね。
さて、では此方の物語もどうぞ。
南蛮編の後日談とか幕間みたいなもんです。
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南蛮との問題は解決した。しかしまだ残っている問題があるのだ。
残っているというより新たにもたらされた問題と、あまり触れようとしなかった問題である。
まず新たにもたらされた問題とは雪蓮と袁術、張勲の事だ。そしてあまり触れようとしなかった問題というのが炎蓮である。
「えー…っと」
蜀の王である桃香もこれには困り顔をしてしまうものだ。
何せ大陸の一角を担う呉の王と、その母親だ。そしてその孫呉を苦しめていた袁術。
「なんで蜀にいるんだろう…」
「それは桃香が迎え入れたからな」
「そうなんだけど…」
来た者を拒まずの彼女。
「まあ、そもそもが立香たちが連れてきたんだけどな」
「それを言われると否定できないな」
雪蓮たちだけでなく、張三姉妹や何姉妹も連れてきている前科持ちである。
「立香はある意味大物を連れて来る呪いでもかかってんのか?」
「呪いというか縁かな」
「縁はしょうがないな」
人の縁とは不思議なモノである。
「ご主人様そんなんで片付けていいのかなぁ」
本当に連れてきた人物が人物である。正直に言うと扱いが難しい。
「まさか炎蓮さんが孫策さんのお母さんだなんて…」
まず最初に驚いたのが炎蓮の正体である。
「驚いたと言うが感づいてただろ?」
「…まあ、それは」
藤丸立香たちが連れてきた炎蓮だが最初は彼らの仲間かと思っていた。しかし調べてみれば揚州の孫堅の可能性があるとすぐに出たのだ。
黄祖との戦いで戦死したという情報があったからこそ最初は違うと思っていたが紫苑や焔耶が顔を知っていたのだから確定した。
彼女は揚州に帰らない様子であったので訳ありと判断してあまり触れなかったのだ。
「でもこうなると流石に触れさせてもらいますよ」
「しゃあねえな」
こうなると、と言うのは雪蓮の存在である。
この場に孫呉の礎を創り上げた炎蓮とつい最近まで呉の王であった雪蓮がいるのだ。この状況で訳ありだからと言って触れないわけにはいかない。
「あ、私の事は雪蓮でいいわよ。だって私はもう死んでる事になってるし、母様が真名を呼ばせてるしね」
「じゃあ、わたしの事も桃香と呼んでください雪蓮さん」
あっさり真名交換成立。
「炎蓮さんは戦死したと言われてましたが実際は生きていた。雪蓮さんも戦死したと聞きましたが実際は生きていた。何故、国に戻らないのですか?」
「「……」」
黙る2人。理由は大見え切って死んだつもりが実は生きていて、家族や仲間たちに顔を合わせづらいという事だけだ。
まさかそんな理由で国に帰らないなんて思わない桃香たち一同。
「もしかして諜報目的じゃないですよね?」
「それは絶対に無いから安心して桃香」
大陸には死んだと流して、実際は諜報活動に勤しむなんて事はしていない。
「オレが厄介になっている間に変な事はなかっただろ?」
「そうですが…人を雇って色々と情報を集めてはいたでしょう炎蓮殿」
紫苑がピシャリと口を出す。
「バレてたか。だが何も無かったろ?」
大陸中の情報を独自に集めていただけで炎蓮が桃香たちに不利益な事はしていないのは確かだ。
「オレはもう隠居しているようなもんだ。ただ新しい話が聞きたかっただけさ」
そうは言うが本当は孫呉の安否が知りたいだけだった。その事を言うと面倒なので紫苑は口を閉じる。
「私も何もする気は無いわ。私は死んでもうこの大陸の覇権争いは降りたのよ。孫呉がどうなるかは蓮…仲謀次第よ」
蜀が呉と戦いになろうとも2人は手を出す気は無い。
「それに今の私の所属は立香たちになるかしらね」
「それ初耳」
「ちょっと立香。ここで否定しないでよ」
カルデアは中立のつもりだ。異変以外に三国に力を貸す事は基本的にない。
「確かに立香たちが連れてきたからな。よし、最後まで面倒を見ろよ立香」
「任せてくれ。何が何でも呉に返すから」
「おい」
「ちょっと厄介者みたいに言わないでくれる?」
炎蓮と雪蓮のダブルツッコミが藤丸立香に叩きこまれる。
「何はともあれ2人を成都に滞在させてくれないかな?」
「それはもちろん」
何はともあれ問題を起こさないのと、蜀の不利益な事にならなければ大丈夫であると思う桃香であった。
ここで雪蓮たちを有効活用しないのが桃香のお人好しなところだ。呉にとって重要な2人が手中にあるのだから、いくらでも揺さぶりがかけられる。
本当は彼女も心の中で仲良くなれば呉の架け橋にならないかと思っているくらいだ。それ以上の非情な考え方は出来ない。
だからこそ朱里たちが警戒しながら2人を見張るのだ。
「お二人は一応…食客扱いという事でよろしいでしょうか桃香さま?」
「そうだね。そうするようにしておいて朱里ちゃん」
「わかりました」
炎蓮と雪蓮に関しては取り合えず食客扱いという事で解決。しかし警戒は怠ってはならない。
「で、次だけど」
次の問題は袁術と張勲の2人だ。
「ふふん。妾は袁術じゃ」
「張勲でーす」
2人は雪蓮たちに敗北後、消息不明になっていた。
「雪蓮たちに負けた後にどうしてたんだ?」
「あー、私たちが孫策さんに領地を奪われてからのことですねー」
「それは違うのじゃ。奪われたんじゃなくて孫策にノシをつけてくれてやったのじゃ」
「ですよねー。孫策さんに譲ってあげて、そのあと一文無しになった為に私たちは諸国を放浪して…」
「それも違うのじゃ。諸国に妾の威光を広めるために各地を巡行してたのじゃ」
「ですよねー」
2人というか袁術の言い分を聞いて北郷一刀たちは雪蓮に目線を向ける。
「との事だけど領地を貰ったのか?」
「雪蓮さんと袁術さんとの戦いってそういう内容だったの?」
「なんだよ雪蓮。奪い返したんじゃないのかよ」
炎蓮まで何故か聞いてくる。
「んなわけあるかーー!!」
「ぴぃ!?」
雪蓮の叫びに小さく悲鳴を上げる袁術。
「ふっつーに奪い返したわよ。完膚なきまでに潰してあげたわよ!!」
本当は于吉も絡んできて複雑であったが戦って奪い返したのは事実だ。
「よくもまあ本人の前で堂々と言えるわね」
「七乃ぉ…」
ビクビクとしながら張勲に抱き着く袁術であった。
「えーっと…それから傭兵団を組織して賞金稼ぎをしつつ、各地を放浪…巡行して~」
「放浪でしょうが」
「それも違うのじゃ。妾は太守として独立するためにも三流領主どもの領土を斬り取っておったのじゃ」
「そうそう。そうなんですよ。美羽さまったら勇ましかったんですから」
「ただの賊と変わらないじゃない」
また調子を取り戻した袁術に的確なツッコミを入れる雪蓮。
(なんか雪蓮と袁術って妙なコンビだな。実は案外相性が良かったりするのかも)
「ねえ、立香。いま私にとって不本意な事を思わなかった?」
「そんな事ないよ?」
心を読まれた。
「で、色々とあってアンタが途中で病に罹って倒れたって事でしょ。ただ罰が当たっただけじゃない」
張勲が病に罹って、その後に雪蓮と合流もとい再会したということだ。
「あはは…その節はどうも。いやいや、あんな怪しい薬を無理やり飲ませたのはどうかと思うんですけどね?」
「治ったからいいでしょうが」
「薬の効果が大変だったんですからね!?」
同意するように頷く藤丸立香。華佗特性の薬だが追加効能の方が凄かった。
「まあ、ここまでの経緯は分かった…それで2人はこれからどうするんだ?」
「どうするとはどういうことじゃ?」
「そうだな。旧領を回復したいと思ってるのか、各地を放ろ…巡行を続けるのか。今後の身の振り方だよ」
「むろん江東を取り戻すべく…」
「なんですって?」
笑顔だけど笑っていない雪蓮の顔。
「何でもないのじゃ」
そっぽを向く袁術。
「身の振り方のぉ…どうするのじゃ七乃?」
「そうですねぇ~」
チラっと張勲は北郷一刀や桃香たちを見る。
「美羽様。そろそろ旅に飽きてきませんか?」
「そうじゃの。もう飽きたのじゃ」
「ですよね。そろそろどこかに落ち着きたいですよねぇ~」
「うむ。もう旅はコリゴリなのじゃ」
「私も同感です。それでね美羽様、私たちの目の前に偶然、悪評が立つととっても困る立場の人がいらっしゃるんですよ~」
「「「え」」」
張勲の言葉に嫌な予感を感じた桃香たち。今になって悪評が立っては困るものだ。
「ここは1つ、その人のご好意に甘えて衣食住を整えてもらうっていうのはどうでしょう?」
先ほど北郷一刀たちをチラっと見たのはそういう意味であった。
「桃香。こいつらうざかったら国から追い出していいわよ」
「良いんですか孫策さん。私たちを追い出したら孫権さんに貴女たちが蜀に居るって言っちゃいますよ~?」
「よし斬るわ。桃香、ちょっと床が汚れるけどゴメンね」
「いやいや、それは止めてください!?」
この場で首が斬り落とされるのは勘弁してもらいたい。
「大丈夫。こいつらが死んでも桃香たちには痛くも痒くもないから」
「雪蓮さんが本気っぽい!?」
「ちょっ孫策さん、本当に剣を抜いてません!?」
本当に剣を抜いたので焦る張勲。
「待って雪蓮さん。2人を保護するよ」
「え、こいつらただの疫病神よ」
「桃香さま本当に良いんですか?」
朱里も聞き返してしまう。普通に袁術たちは厄介ネタであると思っている証拠だ。
「大丈夫だよ。もう麗羽さんだって抱えているんだし」
「それもそうですね」
「なら麗羽たちに袁術たちを任せようか」
同じ袁家は既に抱え込んでおり、今更である。
「え、麗羽姉さまがおるのか…」
あからさまに嫌そうな顔をした袁術。
「あ、私が見たことない顔してる」
雪蓮は袁術が嫌だと感じた顔をあまり見たことがない。しかしここまで嫌そうに見るのは初めてである。
「もしかしなくても袁術って袁紹が苦手なんだ。なんか面白いわ」
もしかしなくても袁術は麗羽に苦手意識を持っている。逆に麗羽は袁術の事をそこまで嫌ってない。
なにせ袁術が麗羽を嫌がらせしようとしても何故か自分に返ってくるのだから。麗羽の強運に何故か敵わない。
「あとただ飯は食わせないからな。何かしら仕事をしてもらうからな」
「それは…まあ、しょうがないですね」
流石の張勲もタダで衣食住が貰えるとは思ってなかった。何かしら対価を払わなければならないというのは予想していた。
「ガッツリ仕事してもらうんで」
「嫌だなー…」
「雪蓮で脅してでも仕事させるから」
「あ、それなら任せて」
キラリと剣が光らせる。
「誠心誠意頑張りまーす」
仕事をサボれるとは思わない事である。
「じゃあ、麗羽さんをこのあと呼んでくる?」
「呼ばなくていいのじゃ!!」
そんな事を言っていると本人の方から来るのだが、それはこの後のお話である。
何はともあれ、桃香の所に新たな客人(居候)が増えたのであった。
「連れてきた立香にも世話してもらうからな」
「やっぱり?」
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南蛮の王である美以との繋がりは徐々に太くなってきている。
彼女は桃香と友達になった事でちょくちょく蜀に部下を連れて遊びに来ているのだ。
今回はそのちょっとした話である。
「こちらに見えますのが、名物のおまんじゅう屋さんになります~」
「おおー、すごいじょー」
「すごいにゃ すごいにゃ」
「こらこら、あまり暴れるんじゃないぞ。他の人に迷惑だからな~」
「はいにゃ。わかってるのにゃ~~」
「まったく、にぎやかだなあ」
今日は北郷一刀たちが美以たちを成都の街を案内している。本当は桃香も一緒に案内するはずであったのだが忙しくて朱里と雛里たちに任せたのだ。
「あの時の戦いが嘘みたいですね」
「忘れたわけじゃないと思うけどね」
「あまり遺恨が残らなくて良かったと思う。まあ、2人が神様扱いなのは変わらないようだけどね」
「そこは変わって欲しかったですよマスター」
更に藤丸立香と徴姉妹も今回の成都案内に加わっている。
徴姉妹もカルデアの仲間なので蜀に滞在している。寧ろ桃香としては徵側の事を気に入っているので普通に二つ返事で許されたほどである。
カルデアの面々と仲良くしている桃香だが特に仲良くなっているのが玄奘三蔵と徵側の2人だ。何でも話がとても合うらしい。
「ふふ。美以ちゃんたちとても楽しそう」
「そうだね」
今日は美以たち南蛮兵とで成都の街に来ている。
南蛮で生まれ育ち、蜀は初めての美以たちにこの街の良さを知って貰おうと案内しているのだ。
密林深い南蛮を出たことのない彼女たちにとっては大都会。眼にするもの耳にするもの、すべてが珍しくて仕方ない様子で、もうとにかく落ち着きがない。
「にゃーにゃー、ひな。まんじゅうって何なのにゃ?」
「まんじゅうというのは、粉を練った皮で餡を包み、ふっくらと蒸しあげたお菓子のことです」
「…にゃ? むつかしくてよくわかんないにゃ」
「え、えっと、そうですね。甘くて美味しいふかふかのおやつ…って言ったらわかりますか?」
「おやつ!! みぃは甘いの大好きにゃ」
お饅頭は美味しくてお土産の定番である。
「大王しゃまー。ミケまんじゅうたべたいにょ」
「みぃもにゃ。それじゃ今からみんなで取りに行くとするじょ!!」
「おうにゃ。トラもいくにゃー!!」
「にゃん」
「こら、勝手に動くな」
がしっと美以を捕まえる。徴姉妹はミケたちを捕まえる。
「にゃ!?」
「取りに行くってなんだ。まんじゅうはその辺に生えちゃいないぞ」
「何をするにゃ。兄、はなすにゃー!!」
じたばたじたばた。
「こら、暴れるな。まんじゅうならあとでちゃんと買ってやるから」
「あとで?」
「そっ、あとで。だから今は雛里の話をちゃんと聞こうなー」
「あとで食べさせてくれるにゃ? ほんとにゃ?」
「ほんとほんと。美以が良い子にしてたらだけど」
「わかったにゃ。約束にゃ。ミケ、トラ、シャム、みぃたちはこれからいい子になるじょ」
「おうにゃー」
「まかせとくにょ」
「ふあぁぁ~…むにゃむにゃ」
彼女たちにとって珍しくて甘い食べ物は貴重な代物だ。テンションが上がるのは無理もない。
「ひな~~~。引き続き、案内をたのむにゃー」
「やれやれ」
「クスクス。ご主人様ってば、美以ちゃんたちのお父さんみたいです」
「せめてお兄ちゃんって言ってくれると嬉しいな」
「ごめんなさい。でも美以ちゃんたちがあんまり無邪気で可愛いからどうしても」
子供の無邪気さには微笑ましさを感じるものだ。子供たちの笑顔が平和の証拠だ。
「そうですね。ああやって楽しそうな笑顔は癒されます。ね、弐っちゃん、マスター」
「まあ、うん」
「徴側の言う通りだね」
徴側は目を細め、案内役の雛里にころころと絡まる美以たちを見つめる。大変そうな雛里には申し訳ないが、それは何とも微笑ましい光景であった。
「では続いてお洋服屋さんです。こちらは桃香さまや愛紗さんもご愛用のお店なんですよ」
「ほええぇ。すっごいぴかぴかできらきらしてるおうちにゃー」
美以は尻尾をふりふり、びとっと飾り窓に張り付いて店内を覗いている。
「とーかやあいしゃの服はここで作ってるにゃ?」
「お城の職人が作ったり、このお店で勝ったり、服によって様々でしょうか」
「おー、そうにゃのか。すごいにゃ」
「美以ちゃんもこのお店が気になりますか?」
「みぃなら服は自分で作るなら大丈夫にゃ。今着ているこれもミケやトラやシャムのもみぃが作ってあげたにゃ」
そう言って美以は腰に手を当てると自信満々に胸を張った。周りの部下たちも慌てて真似をする。
「大王しゃま、おてづくりにょ」
「かっこいいにゃ」
「かんぺきにゃん」
「へえ~、美以はそんな事も出来るのか。すごいなあ」
服のデザインは国ごとに特徴が出るものだ。
例えば徴姉妹が今着ている白い服はアオザイと言ってベトナムの伝統的な服である。
「とても綺麗な服ですよね徴側さん、徴弐さん」
「ありがとう朱里ちゃん」
「別に普通だよ」
アオザイは世界一美しい民族衣装と言われている。そして徴姉妹の美人さも合わさり、2人が街中を歩くと誰もが振り返る程である。
「アオザイを着る女性っていいな立香」
「神秘的だよね」
藤丸立香も彼女たちの美しさに目を奪われているものだ。
服とは人の美しさ、かっこよさを引き上げるものである。
「それにしてもこのお店には様々な服があるんですね」
「確かに…なんか現代風な服もあるな」
「それは俺がデザインした服もあるからな」
実はこの服屋は桃香たち愛用の店でなく、北郷一刀が噛んでいる店でもあるのだ。
「あれ、獣装束の服が置いてあるぞ」
「実は獣装束を店に出してみたんだ。あの服はどれも良いデザインだったからな」
実際に売れているらしく好評らしい。
「一番の売れ行きは愛紗の猫服」
「へえ~………傾のあの服も売ってるの?」
「売ってる」
「アレを買う人がいるのか?」
傾の獣装束は服と言って良いのか分からない衣装だ。
「実は売れてるらしいぞ」
「マジか」
「何でも勝負下着的な意味で買われているらしい」
納得の理由だった。確かにあの衣装で迫られたらドキドキものだ。
「はやく次にいくじょー!!」
「あ、美以ちゃん待ってくださ~~い」
勝手に走っていく美以たちを雛里は慌てて追いかける。
「まったく案内役を置いていってどうする気だ?」
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小腹が空き、空を見上げればいつの間にか太陽も真上に昇っていた。
息つけの酒家前に出たところでそう声をかけると朱里と雛里はほっとしたように足を止めた。
「…は、はい」
「そうですね…」
ウロチョロと走り回る美以たちに振り回され、2人ともぐったりとお疲れモードだ。
「朱里ちゃん、雛里ちゃん大丈夫?」
「運動不足じゃない?」
「うう…頭の方はとっても使ってるんですけど」
徴弐の言葉に言い返せない2人であった。
「にゃ? もうおわりにゃ?」
「終わりじゃなくて一旦昼休憩。美以たちもお腹空いたろ?」
「みぃはまだまだ元気にゃ。兄たちは少し気合が足りな…」
ぐ~きゅるるるっとお腹の虫が鳴く。
「……にゃ」
「お腹は正直みたいだね」
お腹が空いたらご飯を食べる。普通な事だが食べられるという事は幸せの1つだ。
食事の大切さは知っているが俵藤太からより大切だと教わった藤丸立香である。
「だいおー。トラもはらぺこなのにゃ」
「おいしーものたべたいにょ」
「ふあぁ~…むにゅむにゅ」
「決まりだな。んじゃ、行きつけの店が近くにあるからそこに…」
「おーっとまったにゃ」
ここで美以が待ったをかけた。
「まだ何かあるのか?」
「今日はめずらしいものをいっぱい見せてもらって、みぃはとっても満足してるにゃ。だから感謝の意を込めてごはんはみぃたちがご馳走してやるのにゃ!!」
「え、でも美以はお金持ってないだろ」
南蛮と蜀とでは当然通貨が違うだろうし、お小遣いもまた渡してなかったはずだ。
「そんなの必要ないにゃ。ミケ、トラ、シャム頼んだじょ」
「りょうかいにょ」
「まかせとけにゃ」
「いってくるにゃん」
「え、ちょ、待っ」
止める間もなくミケたちは四方八方へと散っていった。小さくてすばしっこいので姿はすぐに見えなくなる。
「ふぅ~、これで安心にゃ」
「美以ちゃん。3人は何処に行ったの?」
「食材あつめにゃ神さま」
「もしかして、ご馳走というのは」
「みぃたちが作るにゃ!!」
美以はエヘンと胸を張ってみせるが北郷一刀たちは顔を見合わせて真顔になる。
「美以ちゃんたちが手作り」
「あぅ…なんか心配ですぅ」
「大丈夫かな? まず食材集めって…ミケたち街のことよくわかってないのに」
まだ成都の街を案内途中だ。迷子になったら大変である。
「大丈夫にゃ。ミケもトラもシャムもみぃに仕込まれたすばらしい狩人たちにゃ。心配いらないにゃ」
「か、狩人ですか」
「美以、この街に狩りをするようなところは無いぞ。見物したからわかるだろ?」
「そんなことないじょ。みぃの目には獲物だらけに見えたにゃ。兄はまだまだにゃ」
「獲物…」
美以は一体なにを見て獲物と言っているのか。街中には豚も牛も歩いていないし、鳥だって飛んでいない。
そもそも例え居ても捕まえてはいけない。街に牛や豚がいたら間違いなく誰かが育てている家畜であるのだから。
「ご、ご主人様。止めに行った方がよくないですか?」
「ま、まあ、もう少し待ってみよう。どこに行っているのかわからないし、それに…」
「だーいじょーぶにゃ」
「美以もく言っていることだしな」
「はうぅ~…心配ですぅ」
実は北郷一刀も心配してたりする。
待つ事しばし。
「あ、ミケたちが帰ってきたじょ」
通りの向こうから「にゃーにゃー」という掛け声と共にミケたち3人が帰って来た。
「大王しゃまただいまにょ」
「ごくろうごくろうにゃ。首尾はどうだにゃ?」
「ばっちし、たいりょうにゃん~」
「た、大猟」
3人ともがそれぞれ腕の中に山のような食材を抱えている。
「山盛りだ。文字通りほんとに山だ」
「軽く二十人前くらいはありそうですね…」
「それよりも…中には山で採れる木の実なんかもあるみたいですが…他はその」
北郷一刀は顔を近づけて食材の山を睨みつけた。
雛里の言う通り自然の物も確かにあるが大部分は明らかに人の手で作られた加工品であった。
「これは間違いなく」
「待て立香。もしかしたら違うかもしれない」
「いや、間違いないでしょ」
認めたくない事実を徴弐がきっぱりと口にする。それでも違うと思いたいのだ。
「ミケ、トラ、シャムっ。お前たち一体これをどこでどうやって」
「どうやってって、狩ってきたにきまってるにゃ」
「嘘付け、こんなの狩れるわけ…」
「かりなにょ」
「かりにゃ」
「ふああ~」
キラキラお目々光線を喰らう北郷一刀。
「く!?」
純粋な目で見られて怒りづらいのであった。
「うう…どうしよ」
「今頃お店じゃ大騒ぎかもしれませんね…」
「だよな」
「…仕方ありません。お店の方にはあとで謝りに行きましょう」
もう謝罪しかない。そして買い取るしかないのだ。
「今から行かなくていいかな?」
「まだ…まだ、狩って来たものと確定したわけではありません。もしそうだったら、これだけ堂々としているのですし…すぐに怒鳴り込んでくると思うのです」
「ギリギリまで信じて、謝るのは乗り込まれてから、でも良い…かも」
「そっか…そうだな」
「いや、ダメでしょ」
徴弐が正論である。
「まだ望みはある」
「ないでしょ」
朱里も雛里も南蛮の子のハチャメチャぶりに驚いてはいるが出来れば美以たちの思うようにやらせてあげたいと思っているのだ。
それに感じては北郷一刀も同じで2人の思いやりが嬉しい。しかし後が怖いのも事実。
「兄もしゅりもひなも何をブツブツ言ってるにゃ。早くしないとみんなお腹ペコペコにゃ」
少し離れたところでこそこそ話すのを美以たちが痺れを切らした様子で急かしてきた。
「ごめんごめん。美以たちの作るご飯が楽しみだなって思ってさ」
「そうかにゃそうかにゃ。焦らなくてもおいしいのをすぐに作ってやるにゃ。突撃なのにゃ~!!」
「へ?」
そう言って美以たちが突撃していったのはなんと目の前の酒家だった。
「美以ちゃん何処に行くの?」
「はわ~っ!? 美以ちゃんどこに行くですかっ」
「きまってるにゃ。料理をするのにゃ」
「あわ~っ、料理するのはお城の調理場ですぅ~」
北郷一刀たちも慌てて店に入るのであった。
「何だこりゃあ~~!?」
「あちゃー」
店内に入ると美以たちが既に調理場を占領し、店主が悲鳴を上げていた。これはあとで責任を追及されるだろう。
「ちょっと狭いけどなかなか良い場所にゃ。ミケ、トラ、シャムそこに材料をおくにゃ」
「狭いたあ、どういうこった!? いきなり勝手に入ってきて人を追い出して…何なんでい!?」
「ほんとごめん!! 申し訳ないけど少しの間、調理場をかしてもらえないか? 終わったらすぐに出ていくからさ」
「駄目に決めってるだろうが!! 他のお客さんだって来るのによう」
店主が正論である。
「あのお詫びに今度みんなと一緒に貸し切りで宴会させていただきます。それでも無理でしょうか?」
「か、貸し切り? うーん」
「更に兵たちに今後一ヵ月、昼食はこちらのお店でとるように申し付けます。もちろんその代金はわたくし共からお支払いしましょう」
「い、一か月か。そこまで言うなら仕方ねえなあ」
「ありがとうございます!!」
「ご主人様、良かったです~」
「うん、ありがとう。朱里と雛里のおかげだ」
蜀の優秀な軍師様の力により場所の問題はクリア。
あとは美以たちの料理が出来上がりを待つのみである。
「待つだけなんだけど…」
「南蛮の力、今こそ見せ付けるのにゃ!!」
「おうにゃ!!」
どうやら大王である美以は高い所に立って命じる役で実際に作るのはミケたち3人組のようだ。
「それはとってもいいお肉にゃ、きっとカリっと焼いたら美味しいお肉にゃ」
「カリッとカリっと~~」
何とも豪快な調理である。
「かまどの中に肉をぶちこんだぞ」
「そうだな」
「にゃんにゃんにゃーん。これでもうちょっとしたらカリカリのお肉になるにゃ」
「だいおう、おつぎはなんにするにゃ?」
美以は北郷一刀たちの事を考えながら次の調理の指示を出す。
「ちょっとなやましいとこだけど兄たちは力をつけてしっかりと戦わないとだからお肉がいいとおもうにゃ」
「おーにくおーにく。きるにゃ、せつだんにゃ、こまぎれにゃ!!」
「おお~。すばらしい包丁さばきにゃ」
「うわあ」
大きいまな板の上でブロック肉がミンチへと姿を変えていく。
「完璧にゃ。そしたらそれにこのお城の外の木についていた実をつぶして混ぜてみるにゃ」
「大王しゃま、これはなんのみみょ?」
「みぃもしらんにゃ。でもいーにおいがするからきっとおいしいにゃ」
「くんくん。ほんとにょ。これはこしがへにょ~っとなるにおいにょ」
(それは大丈夫なのか?)
食べても大丈夫な木の実か疑問であるが美以が大丈夫と言っている以上、大丈夫なのかもしれない。
食べられる食材を見極めるのは彼女たちの方が物知りなはずなのだから。
「まぜまぜするにょ」
「ミケもっともっと混ぜるにゃ。混ぜれば混ぜるほどおいしくなるにゃ」
「まぜまぜ~」
「混ぜたら次はそれを他の材料といっしょににこむにゃ!!」
「つぎにおみずのかわりにおさけにゃ」
「他の具もどんどんいれるにゃ」
どんどんと食材が大きな鍋に入れられていく。
「ああ、それは夜の営業用の高級蟹っ」
「すみませんすみませんすみません」
店主の悲壮な叫びに謝るしかない雛里であった。
「さあ煮込むにゃ。火力をあげるにゃ」
「かまどのおにくがこんがりやけたにゃん。これもいっしょにいれるにゃん」
「よっしゃー、もっともっと腰を入れてぐるぐるまぜるにゃ」
調理場の外まで料理のにおいが流れて来た。反射的に口元を手で押さえてしまう。
「はう~…これは想像以上ですぅ」
「食べ物ですよね?」
雛里の言う通りだ。これはどう考えても食べ物の匂いとは思えない。
あれらの食材からどうやってこの臭いを発する物体を作ったのか聞きたいくらいである。
「南蛮でもあんな料理だったの徴側、徴弐?」
「いや、南蛮では私たちが料理してたから」
「彼女たちが作る料理を食べるのは実は初めてなんですマスター」
とても不安である。
「さー完成だじょ」
ほぼ貸し切り状態の酒家のテーブルにミケたちがドドンと料理を並べていく。
近くで見るとその凄惨さは半端なかった。
よく分からない物体が浸かる煮汁らしきものは何故紫色をしているのか。食べ物の色ではなく危険色だ。
鼻は既に麻痺しているのか臭いも感じなくなっている。
「「「………」」」
「どうしたにゃ、みんな黙って…料理はこれでかんせいにゃ」
「あ、ああ…うん」
「ほれ、遠慮せずにたべていいんだじょ」
美以はちょこんと首を傾け、無邪気に顔を覗き込んでくる。
その満面の笑みが今は心が痛い。背筋に冷や汗が伝うのを感じながらもどうしても食べたくないとは言えなかった。
結果はどうあれ、美以たちが頑張って作ってくれた事は事実。そんな彼女たちを悲しませたくはないのだ。
「よし、美以。いただくよ」
「おー。思う存分いただくにゃ」
「ご、ご主人様」
「決めた、俺たべるよ。立香も道づ…一緒に食べてくれると勇気が貰えるんだが」
「道連れって言ったでしょ」
尤も藤丸立香も食べる。サバイバー生活をこなしてきた彼にとってこの程度の料理は想像を超えはしない。
「ですが、万が一ご主人様の身になにか」
「大丈夫だって。毒が入ってるワケじゃないし。でもまあ2人は無理しなくていいから」
「そんな、ご主人様だけを危険な目にあわせるわけにはいきません」
「お供いたします」
「ありがとう」
「私たちも食べよう徴側ちゃん」
「…分かった」
北郷一刀たちはお互いの想いに励まされながらテーブルの上の箸に手を取った。
みんな一緒なら怖くない。赤信号、みんなで渡れば怖くないと言うが実際はアウトである。
「「よし、いただきます!!」」
「「「ぱくり」」」
「どうにゃどうにゃ」
何と言うか、それは形容しがたい味だった。
辛いと言えば辛く、甘いと言えば甘い。しょっぱいと言えばしょっぱい。まろやかと言えばまろやか。
それらを一言で言えば「不味い」であった。しかしそんな事が言えるわけがなかった。
「う…ぐん、ごくん。はぁ…そうだなとても個性的な味だな」
「そ、そうですね。あまり食べた事のない味です…」
「な、南蛮の味付けなのでしょうか…すごく珍しいですね」
一生懸命作った美以たちを悲しませる事が出来ないのであった。
(…普通に言ってあげるのも優しさだと思うんだけどなあ)
姉である徴側が我慢しているで徴弐も我慢するのであった。
「そーかにゃ、そーかにゃ。まだまだあるから安心してお腹いっぱいだべるにゃ」
(これ以上は食べられないんだけど…)
もう食べられないのだが凄い速さでテーブルの上に次々と料理が追加されていく。
「さ、どうじょー」
「「はぁわ……」」
「な、なあ、美以たちもお腹空いてるんじゃないか?」
「みぃたちのことは気にするななのにゃ」
お腹の虫がぐーきゅるきゅると聞こえて北郷一刀は「占めた」と思った。
「ほらみろ。ミケたちもお腹空いたような?」
「にゃあ」
「にょ」
「むみゃむにゃ」
「この量は俺たちだけじゃ食べきれないからさ。美以たちも一緒に食べよう」
「いいにゃ?」
「もちろん」
「うぅぅ~~やったにゃああ!!」
余程お腹を空かしていたのか「いっただきますに~~~」と言ってバクバクと食べだす美以たち。
美以たちはほっぺたをぱんぱんに膨らませて美味しい美味しいと料理を食べていく。その満足そうな顔に彼女たちが作った料理は失敗ではない事が分かる。
彼女たちにとって美味しいが、北郷一刀たちの口に合わなかっただけである。
味覚の違い、食文化の違いというものだ。現代であっても食文化違いがあり、それによって口に合う合わないがあるのだから。
「なんだか口に合わなくて申し訳ないな…」
それでも美以たちが美味しそうに食べている姿を見ていると北郷一刀たちも満足であった。
これはこれで良いと思っているが、忘れている事がある。それはミケたちが今食べている食材を何処で狩ってきたか問題だ。それについてはこの後すぐに分からされるのであった。
読んでくださってありがとうございました。
次回はこの後すぐ。
893
南蛮編の後日談というか残りの問題について。
まあ、簡単に片づけると雪蓮と袁術たちが蜀でお世話になる事になりました。
原作と違ってどんどんと蜀に重要人物たちが集まってるなぁ。
全部、立香たちが連れてきてるんですけどね。
894~895
美以たちの幕間を元に書いた物語です。
大体の流れが同じですが、そこに立香や徴姉妹を組み込みました。
徴姉妹や美以たちの活躍はこれからも!!